(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に開示の誘導加熱コイルを用いた歪み取り加熱装置では、当該誘導加熱コイルを加熱対象となる鋼板に近接して配置するため、鋼板の加熱が局所的となってしまう。例えば、
図2(A)に示すような略U字状の誘導加熱コイル110の加熱コイル部111,112を、
図2(B)に示すように鋼板の表面側に近接配置して、誘導加熱コイル110に高周波電流を供給した場合には、当該高周波電流によって加熱コイル部111,112の周りに生じた磁界により鋼板P1が誘導加熱される。ところが、かかる場合には、
図2(B)の符号Aに示すように、鋼板P1の表面側のみが局所的に加熱されることとなる。すると、誘導加熱コイル110を近接させている鋼板P1の表面側とは反対側に位置する裏面側の溶接材料W1,W2に隣接する部位に伝熱する間に、その周辺に熱が拡散してしまうため、効率的に歪みを取り除くことができない、という問題が生じる。そして、鋼板の歪みを取り除く目的で加熱する場合に限らず、別の目的で板材を高周波電流にて誘導加熱する作業においても、効率的に板材を加熱することができない、という問題が生じる。
【0006】
ここで、誘導加熱コイルに関する技術が、特許文献2,3に開示されている。特許文献2に開示の誘導加熱コイルは、被加熱物に対向する第5導電部(22)及び第9導電部(30)を配置し、これら導電部(22,30)よりも被加熱物から離れた位置に、平行に、第3導電部(18)を配置して構成されている。ところが、かかる構成では、第9導電部(30)側に位置する第7導電部(26)が、上記第5導電部(22)及び第9導電部(30)と同じ高さ方向に位置しており、被加熱物に近接して配置されている。このため、このコイルは、誘導加熱の被加熱物の一面全体を同時に加熱することには有益であるが、加熱対象となる裏面側の一部が溶接された鋼板において、当該溶接による鋼板の歪みを取り除くために表面側からの加熱に用いる場合には問題が生じる。具体的に、特許文献2のコイルでは、第5導電部(22)及び第9導電部(30)付近が目的の加熱箇所である場合であっても、第7導電部(26)付近も局所的に加熱してしまい、目的の加熱箇所以外の箇所を過度に加熱してしまう、という問題が生じる。
【0007】
また、特許文献3に開示の誘導加熱コイルは、大径の高周波磁界発生コイル(1)及び小径の第2の高周波磁界発生コイル(2)を備え、発熱部材(7)に対して小径の第2の高周波磁界発生コイル(2)を近い位置に配置して構成されている。ところが、かかる構成では、第1の高周波磁界発生コイル(1)と第2の高周波磁界発生コイル(2)とが中心付近で重なって配置されているため、発熱部材(7)を過度に加熱してしまう、という問題が生じる。
【0008】
このため、本発明の目的は、上述した課題である、板材を過度に加熱することなく、適度に誘導加熱することができる加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一形態である歪み取り用加熱装置は、
加熱対象となる裏面側の一部が溶接された鋼板を表面側から加熱して、溶接による前記鋼板の歪みを取り除く歪み取り用加熱装置であって、
前記鋼板の表面に対向して配置され、供給された高周波電流が流れることにより前記鋼板を誘導加熱する第一のコイル部と第二のコイル部とを備え、
前記第一のコイル部は、前記鋼板の表面に接触あるいは近接して配置され、
前記第二のコイル部は、前記鋼板の表面に対して、当該鋼板の表面に対する前記第一のコイル部の距離よりも離れて配置されると共に、前記第一のコイル部から所定の距離だけ離れた当該第一のコイル部の周囲に配置され、さらに、前記第一のコイル部を挟むよう当該第一のコイル部の両側方に位置して配置される、
という構成を取る。
【0010】
上記発明によると、まず、第一のコイル部及び第二のコイル部は、加熱対象となる鋼板の表面に対向して配置されているため、各コイル部に流れる高周波電流により鋼板の対向箇所を表面側から誘導加熱することができる。このとき、第一のコイル部は、鋼板の表面に接触あるいは近接して配置されているため、当該鋼板に対する対向箇所を局所的に加熱する。これに加え、第二のコイル部は、第一のコイル部よりも鋼板の表面から離れて配置されているため、第一の加熱コイルにて局所的に加熱される鋼板の対向箇所の周囲を、加熱強度は弱いものの広範囲に誘導加熱することができる。このため、加熱対象の鋼板を、第一のコイル部の対向箇所を中心として広範囲で、周囲側から中心に向かって徐々に加熱強度が強くなるよう加熱することができる。その結果、第一のコイル部の対向箇所の周囲において過度の加熱を抑制しつつ、当該対向箇所付近を効率的に加熱することができる。すると、第一のコイル部の対向箇所付近の裏面側も効率よく加熱することができ、当該裏面側で行われた溶接による歪みの除去を効率よく行うことができる。
【0011】
このとき、特に、第二のコイル部は、第一のコイル部から所定の距離だけ離れた当該第一のコイル部の周囲に、当該第一のコイル部自体を挟むよう当該第一のコイル部の両側方に位置して配置されている。これにより、第一のコイル部の周囲、特に、第一のコイル部を挟んで配置された第二のコイル部によって、第一のコイル部の対向箇所を中心として広範囲に、かつ、均等に、鋼板を過度に加熱することなく、より適切に加熱することができる。
【0012】
また、上記歪み取り用加熱装置では、
前記第二のコイル部は、前記鋼板の表面から前記第一のコイル部の前記鋼板の表面に対向する部位と当該鋼板の表面に対して最も離れた部位との中間点までの距離よりも、前記鋼板の表面から離れた位置に配置される、
という構成を取る。
【0013】
これにより、鋼板の表面に対して第二のコイル部を適切な距離に配置することができ、第一のコイル部の対向箇所を中心として広範囲に、鋼板をより効率的に加熱することができる。
【0014】
また、上記歪み取り用加熱装置では、
前記第一のコイル部と前記第二のコイル部とは、それぞれ前記鋼板の表面に沿って延びる直線状に形成されると共に、相互にほぼ平行に配置される、
という構成を取る。
【0015】
これにより、直線状に位置する鋼板の溶接箇所に沿って直線状の第一のコイル部を配置して加熱することで、上述したように溶接箇所付近を効率よく加熱することができ、歪み取り作業を効率よく行うことができる。
【0016】
また、上記歪み取り用加熱装置では、
隣り合って配置される前記第一のコイル部と前記第二のコイル部とに、それぞれに反対方向に電流が流れるよう形成されている、
【0017】
これにより、第一のコイル部と第二のコイル部とに生じた磁界が打ち消し合うことを抑制でき、鋼板を効率よく誘導加熱により加熱することができる。
【0018】
また、上記歪み取り用加熱装置では、
前記第一のコイル部と前記第二のコイル部とは、相互に接続された1つのコイルにて形成される、
という構成を取る。
【0019】
また、上記歪み取り用加熱装置では、
前記第一のコイル部と前記第二のコイル部とは、相互に接続された1つのコイルにて形成される共に、当該コイルは渦巻状に巻回されて形成されており、
前記第一のコイル部が、渦巻状の前記コイルの内部側に位置し、前記第二のコイル部が、渦巻状の前記コイルの外周側に位置する、
という構成を取る。
【0020】
これにより、高周波電流を1つのコイルに供給するだけで上述した効率的な誘導加熱を実現できる加熱装置を提供できる。そして、簡易な構造で構成することができるため、低コスト化も図ることができる。
【0021】
また、上記歪み取り用加熱装置では、
前記鋼板の表面に対向して配置され、当該鋼板を冷却する冷却部をさらに備え、
前記冷却部は、前記第一のコイル部の周囲に、少なくとも当該第一のコイル部を挟むよう当該第一のコイル部の両側方に位置して配置される、
という構成を取る。
【0022】
そして、上記歪み取り用加熱装置では、
前記冷却部は、前記第二のコイル部から所定の距離だけ離れて、前記第一のコイル部側とは反対側の側方に位置し、前記第一のコイル部を挟むよう配置されている前記第二のコイル部をさらに挟むよう配置されている、
という構成を取る。
【0023】
さらに、上記歪み取り用加熱装置では、
前記冷却部は、前記鋼板の表面に対して、少なくとも当該鋼板の表面に対する前記第一のコイル部の距離よりも離れて配置されており、前記鋼板の表面と対向する部位から当該鋼板の表面に向かって冷却物質を排出することにより当該鋼板を冷却するよう構成されている、
という構成を取る。
【0024】
上記構成により、第一のコイル部にて局所的に加熱されている鋼板の周囲を冷却することができる。特に、冷却部を第二のコイル部を挟んで配置することにより、当該第二のコイル部の外側に位置する箇所の鋼板を冷却するため、鋼板を、第一のコイル部の対向箇所を中心として広範囲で加熱できると共に、外側が過度に加熱されることを抑制することができる。
【0025】
また、上記歪み取り用加熱装置では、
前記第一のコイル部と前記第二のコイル部と前記冷却部とは、それぞれ前記鋼板の表面に沿って延びる直線状に形成されると共に、それぞれがほぼ平行に配置される、
という構成としてもよい。
【0026】
また、上記歪み取り用加熱装置では、
前記第一のコイル部と前記第二のコイル部とは、相互に接続された1つのコイルにて形成される共に、当該コイルは渦巻状に巻回されて形成されており、
前記第一のコイル部が、渦巻状の前記コイルの内部側に位置し、前記第二のコイル部が、渦巻状の前記コイルの外周側に位置し、
前記冷却部が、前記第二のコイル部から所定の距離だけ離れて当該第二のコイル部のさらに外側に位置し、当該第二のコイル部を取り囲んで配置されている、
という構成としてもよい。
【0027】
また、本発明の他の形態である加熱装置は、
加熱対象となる板材の表面に対向して配置され、供給された高周波電流が流れることにより前記板材を誘導加熱する第一のコイル部と第二のコイル部とを備え、
前記第一のコイル部は、前記板材の表面に接触あるいは近接して配置され、
前記第二のコイル部は、前記板材の表面に対して、当該板材の表面に対する前記第一のコイル部の距離よりも離れて配置されると共に、前記第一のコイル部から所定の距離だけ離れた当該第一のコイル部の周囲に配置され、さらに、前記第一のコイル部を挟むよう当該第一のコイル部の両側方に位置して配置される、
という構成を取る。
【0028】
そして、上記加熱装置では、
前記板材の表面に対向して配置され、当該板材を冷却する冷却部を備え、
前記冷却部は、前記第一のコイル部の周囲に、少なくとも当該第一のコイル部を挟むよう当該第一のコイル部の両側方に位置して配置される、
という構成を取る。
【0029】
このように、本発明は、溶接により生じた鋼板の歪みを取る目的だけでなく、他の目的で板材を誘導加熱することにも利用可能であり、第一のコイル部の対向箇所を中心として広範囲に、かつ、均等に、鋼板を過度に加熱することなく、より適切に加熱することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、以上のように構成されることにより、板材を効率よく誘導加熱することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
<実施形態1>
本発明の第1の実施形態を、
図3乃至
図6を参照して説明する。
図3乃至
図4は、本発明である歪み取り用加熱装置の構成を示す図であり、
図5乃至
図6は、歪み取り用加熱装置を構成するコイルの構成及び加熱時の様子を示す図である。
【0033】
まず、歪み取り用加熱装置1の構成について、
図3乃至
図4を参照して説明する。
図3は、歪み取り用加熱装置1の正面図を示し、
図4は、その底面図を示す。なお、
図3及び
図4では、歪み取り用加熱装置1の構成を簡略化して図示する。
【0034】
歪み取り用加熱装置1は、本体2に車輪3が装備されており、また、本体2から上方に延びる手押し部4が設けられている。これにより、作業者が手押し部4を押すことで、加熱対象となる鋼板P1の表面を走行可能なよう構成されている。なお、加熱対象となる鋼板P1は、
図1を参照して説明したように、例えば、船舶の甲板を形成する所定の厚みを有する平板状の鋼板P1であり、裏面側で、当該鋼板P1を支持する他の鋼板P2の端部が垂直に当接して組み付けられ、当接箇所が溶接されたものである。そして、歪み取り用加熱装置1は、鋼板P1の裏面側の溶接箇所を当該鋼板P1の表面側から加熱することにより、溶接によって生じた鋼板P1の歪みを取り除くよう使用される。
【0035】
なお、鋼板P1の溶接箇所は、裏面側で当接する他の鋼板P2の端部に沿って直線状に連続的あるいは断続的に位置する。そして、かかる直線状に位置する溶接箇所に沿って歪み取り用加熱装置1を走行させて、溶接によって生じた鋼板P1の歪みを取り除く作業を行う。なお、本実施形態では、歪み取り用加熱装置1が走行可能な構成としているが、必ずしも走行可能であることに限定されない。
【0036】
そして、歪み取り用加熱装置1は、鋼板1を加熱するための構造として、装置1自体の下面側に、鋼板1の表面に対向して配置される加熱コイル10を備えている。特に、本実施形態における加熱コイル10は、
図4に示すように、走行方向に沿って長手方向が位置し、相互に平行に配置された3本の直線状のコイル部11,12a,12bを有する形状に形成されている。以下、本実施形態における加熱コイル10の具体的な構成について、
図5及び
図6を参照して説明する。なお、高周波電流を供給するために、電源や増幅トランスなども装備しているが、かかる構成の説明は省略する。
【0037】
図5は、加熱コイル10の構成を示す斜視図である。この図に示すように、加熱コイル10は、一端側に位置し高周波電流が供給される2つの入力端13,14と、3本の直線状のコイル部11,12a,12bと、を有して構成されている。これら3本の直線状のコイル部11,12a,12bは、全て接続されて1つのコイルとして形成されており、入力端13,14から供給される高周波電流が流れるよう構成されている。なお、加熱コイル10は、銅で形成され内部が空洞な管状の部材で構成されており、内部には冷却用の水が流れるよう構成されている(
図6(A)参照)。
【0038】
そして、3本のコイル部11,12a,12bのうち、中央に位置する主加熱コイル部11(第一のコイル部)は、一端側が符号13に示す入力端に接続されており、他端側が他の2本のコイル部12a,12bに接続されている。そして、主加熱コイル部11は、
図6(A)に示すように、鋼板P1の表面に近接するよう配置される。なお、歪み取り用加熱装置1の底面には所定の厚さの耐熱シートが装備されているため、主加熱コイル部11は、耐熱シートの厚み分だけ鋼板P1の表面から離れて近接する位置に配置される。但し、主加熱コイル部11は、鋼板1に接触する位置に配置されてもよい。
【0039】
また、他の2本のコイル部12a,12bである補助加熱コイル部12a,12b(第二のコイル部)は、主加熱コイル部11と平行に、かつ、主加熱コイル部11から所定の距離だけ離れた周囲に配置されている。具体的に、2本の補助加熱コイル部12a,12bは、主加熱コイル部11を両側方から挟むよう配置されている。そして、2本の補助加熱コイル部12a,12bは、それぞれの一端側が他方の入力端14に接続されており、それぞれの他端側が補助加熱コイル部12a,12b同士及び主加熱コイル部1と接続されている。つまり、加熱コイル10の他端側は、3本のコイル部11,12a,12bが接続されて構成されている。
【0040】
さらに、2本の補助加熱コイル部12a,12bは、
図6(A)に示すように、鋼板P1の表面に対して上記主加熱コイル部11よりも離れて配置されている。つまり、鋼板P1の表面から当該表面に対向する補助加熱コイル部12a,12bの対向面までの距離が、鋼板P1の表面から当該表面に対向する主加熱コイル部11の対向面までの距離よりも長くなるよう、補助加熱コイル部12a,12bは配置されている。
【0041】
具体的に、本実施形態における補助加熱コイル部12a,12bは、鋼板P1の表面に対して、主加熱コイル部11の上端よりも上方に位置するよう配置されている。換言すると、鋼板P1の表面から当該表面に対向する補助加熱コイル部12a,12bの対向面までの距離が、鋼板P1の表面から当該表面に対して最も離れた主加熱コイル部11の上端(鋼板P1の表面に対する対向面とは反対側の面)までの距離よりも長くなるよう、補助加熱コイル部12a,12bは配置されている。
【0042】
但し、補助加熱コイル部12a,12bは、
図6(A)に示すように鋼板P1の表面に対して主加熱コイル部11の上端よりも上方に位置することに限定されず、少なくとも主加熱コイル部11よりも鋼板P1の表面から離れて位置していればよい。例えば、鋼板P1の表面から補助加熱コイル部12a,12bまでの距離D1(
図6(A)参照)を、少なくとも、鋼板P1の表面から、主加熱コイル部11の鋼板P1の表面に対向する部位と当該鋼板P1の表面に対して最も離れた部位(上端)との中間点までの距離D2(
図6(A)参照)よりも長く設定するとよい。このようにすることで、後述するように鋼板P1の主加熱コイル部11の対向箇所を中心として広範囲で、より効率的に加熱することができる。
【0043】
なお、
図6(A)の符号15に示すように、3本のコイル部11,12a,12bは、コア部材15に周囲を囲まれた状態で、歪み取り用加熱装置1に搭載されている。このコア部材15は、コイル部11,12a,12bに高周波電流を流すことによって生じる磁束を加熱部分に集中させるためのものである。
【0044】
そして、以上のように構成される加熱コイル10に高周波電流が供給されると、
図5の矢印に示すように入力端13,14に電流が流れる状態においては、3本のコイル部11,12a,12bに対してそれぞれ
図5の矢印の方向に電流が流れる。このとき、隣り合って配置される主加熱コイル部11と補助加熱コイル部12a、あるいは、主加熱コイル部11と補助加熱コイル部12b、に着目すると、それぞれに反対方向に電流が流れることとなる。
【0045】
上記のように加熱コイル10に高周波電流を供給することで、当該電流によって生じた磁界により、
図6(B)に示すように、鋼板P1を表面側から誘導加熱により加熱することができる。このとき、符号A1に示すように、主加熱コイル部11は鋼板P1の表面に接触あるいは近接して配置されているため、当該鋼板P1に対する対向箇所を局所的に共強度で加熱することができる。これに加え、補助加熱コイル部12a,12bは、主加熱コイル部11よりも鋼板P1の表面から離れて配置されているため、当該主加熱コイル部11にて局所的に加熱される鋼板P1の対向箇所の周囲を、符号A2に示すように、加熱強度は弱いものの広範囲に誘導加熱することができる。このため、鋼板P1を、主加熱コイル部11の対向箇所を中心として広範囲で、外側から中心に向かって徐々に加熱強度が強くなるよう加熱することができる。
【0046】
その結果、鋼板P1の主加熱コイル部11の対向箇所の周囲において、過度の加熱を抑制しつつ、当該対向箇所付近を効率的に加熱することができる。すると、主加熱コイル部11の対向箇所付近の裏面側も効率よく加熱することができ、当該裏面側で行われた溶接(符号W1,W2)による歪みの除去を効率よく行うことができる。
【0047】
なお、主加熱コイル11と補助加熱コイル12a,12bとに流れる電流が逆方向となるため、当該主加熱コイル11と補助加熱コイル12a,12bとの周りに生じる磁界が打ち消し合うことを抑制できる。従って、より鋼板P1を効率よく誘導加熱することができる。
【0048】
<実施形態2>
次に、本発明の第2の実施形態を、
図7乃至
図8を参照して説明する。
図7乃至
図8は、本実施形態における歪み取り用加熱装置を構成する加熱コイルの構成及び加熱時の様子を示す図である。
【0049】
本実施形態における歪み取り用加熱装置1は、上述した実施形態1の構成とほぼ同様であるが、鋼板1を加熱するために装置1自体の下面側に設けられる加熱コイル20の構成が異なる。特に、本実施形態における加熱コイル20は、走行方向に沿って延び、相互に平行に配置された4本の直線状のコイル部21a,21b,22a,22bを有する形状に形成されている。以下、本実施形態における加熱コイル20の具体的な構成について、
図7及び
図8を参照して説明する。
【0050】
図7は、加熱コイル20の構成を示す斜視図である。この図に示すように、加熱コイル20は、一端側に位置し高周波電流が入力される2つの入力端23,24と、4本の直線状のコイル部21a,21b,22a,22bと、を有して構成されている。これら4本の直線状のコイル部21a,21b,22a,22bは、全て接続されて1つのコイルとして形成されており、入力端23,24から供給される高周波電流が流れるよう構成されている。なお、加熱コイル20は、銅で形成され、内部が空洞の管状の部材で構成されており、内部には冷却用の水が流れるよう構成されている(
図8(A)参照)。
【0051】
そして、4本のコイル部21a,21b,22a,22bは、内側に位置する2本の主加熱コイル部21a,21b(第一のコイル部)と、それらの両外側にそれぞれ位置する2本の補助加熱コイル部22a,22b(第二のコイル部)と、により構成されている。そして、2本の主加熱コイル部21a,21bは、
図8(A)に示すように、鋼板P1の表面に近接(あるいは接触)するよう配置される。また、他の2本の補助加熱コイル部22a,22bは、主加熱コイル部21a,21bと平行に、かつ、主加熱コイル部21a,21bから所定の距離だけ離れた周囲に配置されている。具体的に、2本の補助加熱コイル部22a,22bは、2本の主加熱コイル部21a,22aを両側方から挟むよう配置されている。
【0052】
さらに、2本の補助加熱コイル部22a,22bは、
図8(A)に示すように、鋼板P1の表面に対して上記主加熱コイル部21a,21bよりも離れて配置されている。つまり、鋼板P1の表面から当該表面に対向する補助加熱コイル部22a,22bの対向面までの距離が、鋼板P1の表面から当該表面に対向する主加熱コイル部21a,21bの対向面までの距離よりも長くなるよう、補助加熱コイル部22a,22bは配置されている。
【0053】
なお、
図8(B)の符号25に示すように、4本のコイル部21a,21b,22a,22bは、コア部材に周囲を囲まれた状態で、歪み取り用加熱装置1に搭載されている。
【0054】
そして、以上のように構成される加熱コイル20に高周波電流が供給されると、
図7の矢印に示すように入力端23,24に電流が流れる状態においては、4本のコイル部21a,21b,22a,22bに対してそれぞれ
図7の矢印の方向に電流が流れる。このとき、隣り合って配置される主加熱コイル部21aと補助加熱コイル部22a、あるいは、主加熱コイル部21bと補助加熱コイル部22b、に着目すると、それぞれに反対方向に電流が流れることとなる。
【0055】
上記のように加熱コイル20に高周波電流を供給することで、当該電流によって生じた磁界により、
図8(B)に示すように、鋼板P1を表面側から誘導加熱により加熱することができる。このとき、符号A1に示すように、主加熱コイル部21a,21bは鋼板P1の表面に接触あるいは近接して配置されているため、当該鋼板P1に対する対向箇所を局所的に加熱することができる。これに加え、補助加熱コイル部22a,22bは、主加熱コイル部21a,21bよりも鋼板P1の表面から離れて配置されているため、当該主加熱コイル部21a,21bにて局所的に加熱される鋼板P1の対向箇所の周囲を、符号A2に示すように、加熱強度は弱いものの広範囲に誘導加熱することができる。このため、鋼板P1を、主加熱コイル部21a,21bの対向箇所を中心として広範囲で、外側から中心に向かって徐々に加熱強度が強くなるよう加熱することができる。
【0056】
その結果、鋼板P1の主加熱コイル部21a,21bの対向箇所の周囲において、過度の加熱を抑制しつつ、当該対向箇所付近を効率的に加熱することができる。すると、主加熱コイル部11の対向箇所付近の裏面側も効率よく加熱することができ、当該裏面側で行われた溶接(符号W1,W2)による歪みの除去を効率よく行うことができる。
【0057】
<実施形態3>
次に、本発明の第3の実施形態を、
図9を参照して説明する。
図9は、本実施形態における歪み取り用加熱装置を構成する加熱コイルの構成を示す図であり、
図9(A)は平面図を示し、
図9(B)は中央付近における断面図である。
【0058】
本実施形態における歪み取り用加熱装置1は、上述した実施形態1の構成とほぼ同様であるが、鋼板1を加熱するために装置1自体の下面側に設けられる加熱コイル30の構成が異なる。特に、本実施形態における加熱コイル30は、銅で形成された管状の部材で構成されている点では同様であるが、
図9(A)に示すように、1本のコイル部材が渦巻状に巻回されて形成されている。
【0059】
さらに、渦巻状の加熱コイル30の中心付近(内部側)に位置する主加熱コイル部31は、
図9(B)に示すように、加熱対象となる鋼板P1の表面に近接(あるいは接触)するよう配置される。また、加熱コイル30の外周付近(外周側)つまり上記主加熱コイル部31の周囲に位置する補助加熱コイル部32は、
図9(B)に示すように、鋼板P1の表面に対して上記主加熱コイル部31よりも離れて配置されている。
【0060】
本実施形態における加熱コイル30は、以上のように構成されることにより、上述した他の実施形態同様に、鋼板P1を、主加熱コイル部31の対向箇所を中心として広範囲で、外側から中心に向かって徐々に加熱強度が強くなるよう加熱することができる。その結果、鋼板P1の主加熱コイル部31の対向箇所の周囲において、過度の加熱を抑制しつつ、当該対向箇所付近を効率的に加熱することができる。
【0061】
<実施形態4>
次に、本発明の第4の実施形態を、
図10乃至
図12を参照して説明する。
図10乃至
図12は、本実施形態における歪み取り用加熱装置を構成する加熱コイルの構成及び加熱時の様子を示す図である。
【0062】
本実施形態における歪み取り用加熱装置1は、上述した実施形態1の構成に加えて、さらに2本の冷却部26a,26bを備えている。
図10に示すように、冷却部26a,26bは、直線形状に形成されており、上述したように走行方向に沿って延びる4本の直線状のコイル部21a,21b,22a,22bと平行に配置されている。
【0063】
具体的に、2本の冷却部26a,26bは、2本の補助加熱コイル部22a,22bからそれぞれ所定の距離だけ離れた周囲に、主加熱コイル部21a,21bの配置側とは反対側に配置されている。そして、2本の冷却部26a,26bは、2本の補助加熱コイル部22a,22bを両側方から挟むよう配置されている。
【0064】
さらに、2本の冷却部26a,26bは、
図11(A)に示すように、鋼板P1の表面に対して上記主加熱コイル部21a,21bよりも離れており、また、鋼板P1の表面に対する補助加熱コイル部22a,22bとほぼ同じ距離だけ離れて配置されている。但し、鋼板P1の表面に対する冷却部26a,26bの距離は、いかなる距離であってもよい。
【0065】
また、冷却部26a,26bは、例えば銅で形成され、
図11(A)に示すように、内部が空洞の管状の部材で構成されている。そして、冷却部26a,26bの内部には、鋼板P1を冷却するための水が流れるよう構成されている。かかる水は、各冷却部26a,26bに連結された支持管27a,27bを通じて供給される。
【0066】
さらに、
図11(A)に示すように、各冷却部26a,26bには、鋼板P1の表面との対向面となる箇所に、内部から外部に通ずる貫通孔26aa,26baが形成されている。かかる貫通孔26aa,26baからは、後述するよう
図12(A)の符号28a,28bに示すように、冷却部26a,26bの内部を流れる水が鋼板P1の表面に向かって排出される。なお、冷却部26a,26bから排出される物質(冷却物質)は水であることに限定されず、圧縮空気や水蒸気などの冷却可能な物質であればよい。これに応じて、支持管27a,27bから冷却部26a,26bに冷却物質が供給される。また、冷却管26a,26bを上述した各コイル部21a,21b,22a,22bと連結し、当該コイル部内を流れる水を冷却部26a,26bに供給してもよい。
【0067】
上述した構成において、加熱コイル20に高周波電流を供給するときの動作を、
図11乃至
図12を参照して説明する。まず、加熱コイル20に高周波電流を供給することで、当該電流によって生じた磁界により、
図11(A)に示すように、鋼板P1を表面側から誘導加熱により加熱することができる。このとき、符号A1に示すように、主加熱コイル部21a,21bは鋼板P1の表面に接触あるいは近接して配置されているため、当該鋼板P1に対する対向箇所を局所的に加熱することができる。これに加え、補助加熱コイル部22a,22bは、主加熱コイル部21a,21bよりも鋼板P1の表面から離れて配置されているため、当該主加熱コイル部21a,21bにて局所的に加熱される鋼板P1の対向箇所の周囲を、符号A2に示すように、加熱強度は弱いものの広範囲に誘導加熱することができる。
【0068】
ここで、上述した加熱コイル20による鋼板P1の加熱箇所A3は、
図11(B)の斜線で示すように広範囲となるが、かかる範囲に熱膨張が生じる。すると、主加熱コイル部21a,21bの対向箇所付近の裏面側のみならず、その周囲、例えば、補助加熱コイル部22a,22bや冷却部26a,26bとの対向箇所も加熱による熱膨張が生じ、鋼板P1が後に冷却されると不要な変形が生じうる。
【0069】
そこで、本実施形態では、加熱コイル20による加熱時に、
図12(A)に示すように、冷却部26a,26bから水(冷却物質)28a,28bを鋼板P1に対して排出する。すると、冷却部26a,26bの貫通孔26aa,26baに対向する鋼板P1部分は、排出された水によって冷却される。このため、
図12(B)の斜線で示すように、加熱コイル20による鋼板P1の加熱箇所A4は、主加熱コイル部21a,21bの対向箇所付近の裏面側とその周囲のわずかな範囲のみとなり、点線で示す冷却しない場合における加熱箇所A3よりも狭い範囲となる。
【0070】
このようにすることで、上述同様に、鋼板P1を、主加熱コイル部21a,21bの対向箇所を中心として広範囲で、外側から中心に向かって徐々に加熱強度が強くなるよう加熱することができると共に、さらに外側の過度の加熱を抑制することができる。その結果、鋼板P1の裏面側で行われた溶接(符号W1,W2)による歪みの除去を効率よく行うことができると共に、鋼板P1に対する過度の加熱を抑制し不要な変形を防ぐことができる。
【0071】
また、上述した冷却部26a,26bの機能を、上記補助加熱コイル部22a,22bに搭載して構成してもよい。つまり、
図13(A)に示すように、補助加熱コイル部22a,22bの鋼板P1との対向面に貫通孔22aa,22baを形成し、補助加熱コイル22a,22bの内部に流れる水を、
図13(B)の符号28a,28bに示すように鋼板P1に対して冷却物質として排出してもよい。このように、冷却部としても機能する補助加熱コイル部22a,22bを、少なくとも主加熱コイル部21a,21bを挟むよう配置することで、上述同様に主加熱コイル部21a,21bの対向箇所を中心として広範囲で、外側から中心に向かって徐々に加熱強度が強くなるよう補助加熱コイル部22a,22bにて加熱することができると共に、さらに冷却機能にて外側の過度の加熱を抑制することができる。
【0072】
<実施形態5>
次に、本発明の第5の実施形態を、
図14を参照して説明する。
図14は、本実施形態における歪み取り用加熱装置を構成する加熱コイルの構成を示す図であり、
図14(A)は平面図を示し、
図14(B)は中央付近における断面図である。
【0073】
本実施形態における歪み取り用加熱装置1は、上述した実施形態3の構成に加えて、さらに最外周に、実施形態4で説明したものと同様の機能を有する冷却部33を備えている。具体的には、まず、本実施形態における加熱コイル30は、
図14(A)に示すように、1本のコイル部材が渦巻状に巻回されて形成されている。そして、渦巻状の加熱コイル30の中心付近(内部側)に位置する主加熱コイル部31は、
図14(B)に示すように、加熱対象となる鋼板P1の表面に近接(あるいは接触)するよう配置される。また、加熱コイル30の外周付近(外周側)つまり上記主加熱コイル部31の周囲に位置する補助加熱コイル部32は、
図14(B)に示すように、鋼板P1の表面に対して上記主加熱コイル部31よりも離れて配置されている。
【0074】
そして、さらに本実施形態では、補助加熱コイル部32から所定の距離だけ離れてさらに外側に位置し、補助加熱コイル部32を取り囲んで、鋼板P1との対向面に貫通孔(図示せず)を有する環状の冷却部33を備えている。この冷却部33の内部には水が流れており、貫通孔から水が鋼板P1に向かって排出される。
【0075】
これにより、上述同様に、主加熱コイル部31及び補助加熱コイル部32にて、鋼板P1を、主加熱コイル部31の対向箇所を中心として広範囲で外側から中心に向かって徐々に加熱強度が強くなるよう加熱することができる。これと同時に、最外周側は、冷却部33から排出された水などの冷却物質で冷却されるため、外側の過度の加熱を抑制することができ、熱膨張による鋼板P1の不要な変形を防止することができる。
【0076】
なお、冷却部33は、主加熱コイル部31及び補助加熱コイル部32と連結して一本のコイル部材が渦巻状に巻回されて形成されていてもよい。この場合には、冷却部33から排出される水は、主加熱コイル部31及び補助加熱コイル部32を流れるものと同様となる。また、補助加熱コイル部32に貫通孔を形成して、当該補助加熱コイル部32に冷却部33の機能を設けてもよい。
【0077】
なお、上述した各実施形態において、加熱コイルは直線状の部位を有する構成であるものとして説明したが、加熱コイルを構成する主加熱コイル部や補助加熱コイル部は、直線形状でなくてもよく、曲線形状であってもよい。例えば、実施形態3で説明した加熱コイル部30は、略四角形の渦巻き状であることに限定されず、円形の渦巻き状であってもよい。また、加熱コイルの形状はいかなる形状であってもよい。そして、これに伴い、冷却部も直線形状でなくてもよく、曲線形状であってもよい。
【0078】
また、上記実施形態では、船舶用の鋼板といった溶接により生じた歪みを取り除くために用いる加熱装置としての構成を説明したが、当該加熱装置は必ずしも歪みを取り除くためだけに使用されることに限定されない。上述したような加熱コイルを備えた加熱装置は、曲げ加工のために金属部材を加熱するなど、いかなる目的のために加熱対象となる部材を加熱するために用いてもよい。
【0079】
以上、上記実施形態等を参照して本願発明を説明したが、本願発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明の範囲内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【0080】
なお、本発明は、2012年9月25日に国際特許出願されたPCT/JP2012/006068に基づく優先権主張の利益を享受するものであり、当該国際特許出願に記載された内容は、全て本明細書に含まれるものとする。