(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シリコン基板にボロンを熱拡散させる第1のステップと、前記第1のステップにおいてシリコン基板に形成されたボロンシリサイド層を酸化させる第2のステップとから成るボロン拡散工程を有する太陽電池セルの製造方法であって、
前記第2のステップにおいて、900℃以上、かつ、前記第1のステップの処理温度以下の温度となる状態を15分以上有し、該第2のステップは降温工程を有する、太陽電池セルの製造方法。
前記レジスト膜を除去する工程の終了後、前記シリコン基板の裏面にリンを拡散させるリン拡散工程と、前記シリコン基板の両面に反射防止膜を形成する工程と、前記シリコン基板の両面にAgグリッド電極を形成する工程とを順に行う請求項10に記載の太陽電池セルの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、太陽電池セルの製造工程に基づいて説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0015】
図1(a)〜(h)及び
図2(a)〜(d)は、太陽電池セルの製造工程の説明図である。
図1(a)〜(h)は、テクスチャ構造形成〜シリケートガラス層のエッチングまで、
図2(a)〜(d)は、反射防止膜形成〜PN接合分離までの製造工程を示す。
【0016】
まず、
図1(a)に示すように、例えばCZ法により作製された結晶性方位(100)、15.6cm角、厚さが100〜300μm、比抵抗が1〜14.0Ω・cmのn型のシリコン単結晶基板Wが用意される。
【0017】
次に、高濃度(例えば10wt%)の水酸化ナトリウム水溶液に基板Wを浸漬させ、ダメージ層を取り除く。その後、低濃度(例えば2wt%)の水酸化ナトリウム水溶液にイソプロピルアルコールを加えた溶液に基板Wを浸漬させて、ウェットエッチングを行う。これにより、基板Wの表面全体にテクスチャ構造が形成される。その後、基板Wを洗浄する。なお、テクスチャ構造の各々の山のサイズは0.3〜20μm程度である。また、テクスチャ構造を形成するためには、上述した方法の他に、例えば酸エッチングやリアクティブ・イオン・エッチング等を行っても良い。
【0018】
次に、テクスチャ構造が形成された基板Wにボロン拡散を行うボロン拡散工程について説明する。ボロン拡散工程は、基板Wの表面Sにボロンを拡散させる第1のステップと、基板Wに形成されたボロンシリサイド層を酸化させる第2のステップから成る。
【0019】
(ボロン拡散工程−第1のステップ)
図3に示すように、2枚の基板Wの裏面BS同士を当接させた状態を1組の基板群WGとして、複数組の基板群WGをウェハボート1の所定の位置に載せる。そして、ウェハボート1を拡散炉に搬入し、拡散炉を密閉する。その後、拡散炉内の温度を950℃まで加熱する。そして、窒素及び酸素の混合ガスをキャリアガスとして、三臭化ボロン(BBr
3)を拡散炉内に導入する。このとき、拡散炉内の雰囲気中の窒素と酸素の流量比が99.5:0.5〜95:5の範囲内となるようにキャリアガスを調節する。このような状態を5〜120分間維持することにより、ボロン拡散が行われる(ボロン拡散工程−第1のステップ)。
【0020】
こうして、
図1(b)に示すように、基板Wの表面Sにボロン拡散層2が形成される。このとき、基板Wのボロン拡散層上には、ボロンシリサイド層3とボロンシリケートガラス層4も形成される。上記のようなボロン拡散工程では、2枚の基板Wの裏面BS同士が互いに当接した状態で拡散処理がなされるものの、2枚の基板Wの裏面BS同士の間には、わずかな隙間が存在する。このため、基板Wの裏面BS同士の隙間に三臭化ボロン(BBr
3)ガスが入り込み、
図1(b)に示すように、基板Wの表面Sのみならず、裏面BSにまでボロン拡散層2及びボロンシリサイド層3とボロンシリケートガラス層4が形成される。
【0021】
なお、ボロン拡散中の温度は、920〜1050℃であることが好ましい。なぜなら、ボロン拡散中の温度が920℃を下回る場合には、基板Wへのボロン拡散が不足し、1050℃を超える場合には、基板Wへのボロン拡散が過剰となるためである。このような場合には、所望のシート抵抗を有するボロン拡散層が得られない。なお、太陽電池の変換効率を更に向上させるという観点では、シート抵抗値は30〜150Ω/□であることが好ましい。
【0022】
また、拡散炉内の雰囲気中の窒素と酸素の流量比が99.5:0.5〜95:5の範囲外となる場合、すなわち、窒素と酸素の流量比が99.5:0.5となるときに比べて窒素の流量がさらに多くなる場合、及び窒素と酸素の流量比が95:5となるときに比べて窒素の流量がさらに少なくなる場合には、所望のシート抵抗を有するボロン拡散層が得られない。同様に、拡散処理時間が5分を下回る場合及び120分を超える場合にも所望のシート抵抗を有するボロン拡散層は得られない。
【0023】
(ボロン拡散工程‐第2のステップ)
ボロン拡散処理(第1のステップ)の終了後、拡散炉内の雰囲気を排気すると共に、拡散炉内に酸化性ガス(例えば酸素、オゾン、二酸化窒素等)を導入する。このとき、拡散炉内の温度を調節し、ボロン拡散処理(第1のステップ)の温度(本実施の形態では950℃)を維持する。拡散炉内を酸化雰囲気にした後、例えば15分間保持し、その後降温して拡散炉から取り出す。この保持時間および降温時において、基板Wに形成されたボロンシリサイド層3が酸化される(ボロン拡散工程‐第2のステップ)。
【0024】
ただし、酸化処理の温度が900℃を下回ると、ボロンシリサイド層3の酸化速度が低下してしまい、酸化処理を長時間行ってもボロンシリサイド層3を十分に酸化させることができない。このため、酸化処理の温度の下限は、900℃であることが好ましい。
【0025】
また、酸化処理の温度をボロン拡散処理(第1のステップ)の処理温度より高くすれば、より確実にボロンシリサイド層3を酸化させることができ、これにより緻密なボロンシリケートガラス層4を得ることができる。しかしながら、酸化処理の温度がボロン拡散処理(第1のステップ)の処理温度よりも高くなると、酸化処理中であっても基板Wへのボロン拡散が進行し、ボロン拡散層が厚くなり、所望のシート抵抗が得られなくなってしまう。
【0026】
このため、本発明では、太陽電池セルの性能向上の観点から、酸化処理の温度の上限を、ボロン拡散処理(第1のステップ)の処理温度とする。
【0027】
しかしながら、酸化処理の温度が900℃以上、かつ、ボロン拡散処理(第1のステップ)の温度以下であっても、酸化処理時間が短い場合には、ボロンシリサイド層3を十分に酸化させることはできない。この課題を解決するため、本願発明者らは、酸化処理工程(第2のステップ)において、処理温度が上記温度範囲内となっている時間を15分以上確保すれば、ボロンシリサイド層3を十分に酸化できることを見出した。
【0028】
すなわち、基板Wを上記温度範囲内の一定温度で15分以上保持する場合はもちろんのこと、降温中であっても、酸化雰囲気下において炉内温度が上記温度範囲内にある時間を15分以上確保すれば、その後に炉内温度が上記温度範囲外となった場合あるいは炉内雰囲気が非酸化雰囲気となった場合においても、ボロンシリサイド層3を十分に酸化させることができる。
【0029】
なお、酸化処理時間は20分以上であることがより好ましい。一方、酸化処理時間が120分を超える場合、ボロン拡散工程が長時間になり生産性が悪く実用的ではない。このため、酸化処理時間の上限は、120分であることが好ましい。
【0030】
上記酸化処理の結果、
図1(c)に示すように、基板Wに形成されたボロンシリサイド層3はボロンシリケートガラス層4に変質する。このとき形成されるボロンシリケートガラス層4の膜厚は、100〜200nmであることが好ましい。膜厚がこの範囲内にあれば、ボロンシリケートガラス層4は、後述するリン拡散工程においてバリア層としての機能を十分に発揮することができる。
【0031】
なお、ボロンシリサイド層3は、後述するフッ酸あるいはフッ酸と硝酸等の混合液によるウェットエッチングでは除去することができないため、本酸化工程においてボロンシリサイド層3を十分に酸化させておく必要がある。これにより、ボロンシリサイド層3を確実に除去することができると共に、基板表面Sのボロン拡散層上に良質なボロンシリケートガラス層4を形成することができる。一方、酸化が不十分な場合には、基板Wにボロンシリサイド層3が残存し、太陽電池セルの性能(変換効率等)を低下させることになる。
【0032】
次に、
図1(d)に示すように、基板Wの表面Sにレジスト膜5を形成する。なお、レジスト膜5の厚さは、例えば10〜30μm程度である。このレジスト膜5は、耐フッ酸性及び耐硝酸性を有し、アルカリ性水溶液によって剥離可能であるような材料を用いることが好ましい。
【0033】
次に、基板Wをフッ酸あるいはフッ酸と硝酸等の混合液に浸漬させてウェットエッチングを行う。これにより、
図1(e)に示すように、基板Wの裏面BSに形成されたボロン拡散層2及びボロンシリケートガラス層4が除去される。このとき、基板Wの表面Sに形成されたボロン拡散層2及びボロンシリケートガラス層4は、レジスト膜5により保護されるため、エッチング除去されることはない。その後、
図1(f)に示すように、例えば水酸化ナトリウム水溶液を用いて、レジスト膜5を除去する。レジスト膜5の除去が終了したら、基板Wの洗浄、乾燥を行う。なお、この洗浄は塩酸(HCl)と過酸化水素水(H
2O
2)との混合液で行うことが望ましい。
【0034】
次に、基板Wを1枚ずつウェハボート1に載せて、再び拡散炉に搬入する。その後、拡散炉内の温度を例えば870℃まで加熱する。そして、拡散炉内にオキシ塩化リン(POCl
3)ガスと酸素ガスを導入し、拡散炉内をオキシ塩化リン(POCl
3)ガスと酸素ガス雰囲気にする。このような状態を所定の時間維持することにより、
図1(g)に示すように、基板Wの裏面BSにリン拡散層6が形成される。このとき、リン拡散層上にはリンシリケートガラス層7も形成される。なお、リン拡散工程においてウェハボート1に載せる基板Wは、2枚の基板Wの表面S同士を互いに当接させるように配置しても良い。
【0035】
また、リン拡散工程において、基板表面Sのボロン拡散層上に形成されたボロンシリケートガラス層4は、ボロン拡散層2へのリン拡散を防ぐバリア層として機能する。このため、基板Wの表面Sに形成されたボロン拡散層2には、リンが拡散することはない。これにより、良質なボロン拡散層2を得ることができる。
【0036】
その後、
図1(h)に示すように、基板Wの表面Sに形成されたボロンシリケートガラス層4と、基板Wの裏面BSに形成されたリンシリケートガラス層7をフッ酸あるいはフッ酸と硝酸等の混合液に浸漬させて除去する。
【0037】
次に、
図2(a)に示すように、プラズマCVD装置により、基板Wに窒化膜(SiNx膜)である反射防止膜8を形成する。なお、反射防止膜8としては、例えば二酸化チタン膜、酸化亜鉛膜、酸化スズ膜等を形成しても良い。また、反射防止膜8は、例えばリモートプラズマCVD法、塗布法、真空蒸着法等を用いて形成してもよい。ただし、品質的かつ経済的な観点からは、窒化膜をプラズマCVD法により形成するのが最適である。さらには、反射防止膜上にトータルの反射率が最も小さくなるように、例えば二フッ化マグネシウム膜といった屈折率が1〜2の間である膜を形成することが好ましい。これにより、反射率の低減が促進され、生成電流密度が高くすることができる。また、基板Wと反射防止膜8との間にパッシベーション用絶縁膜を形成してもよい。
【0038】
続いて、
図2(b)に示すように、スクリーン印刷機を用いて、基板Wの裏面BS側の反射防止膜上に例えばAgを含む導電性ペースト9を所定のパターンに印刷し、その後、乾燥を行う。同様に、基板Wの表面S側の反射防止膜上にも導電性ペースト9を印刷し、乾燥を行う。
【0039】
次に、焼成炉において700℃以上の温度で導電性ペースト9を焼成する。これにより、
図3(c)に示すように、導電性ペースト9が基板Wと電気的に導通し、Agグリッド電極10が形成される。
【0040】
次に、レーザーを用いて、
図2(d)に示すように、基板Wの周縁部11のPN接合分離を行う。これにより、基板Wの表面側及び裏面側が電気的に分離される。その後、検査工程を経て、太陽電池セルの製造工程は終了する。
【0041】
以上、本発明によれば、所定の処理条件でボロン拡散工程を行うことにより、シリコン基板に形成されたボロンシリサイド層を完全に酸化させることができる。これにより、ボロンシリサイド層を確実に除去することができると共に、シリコン基板表面に膜厚が厚く、且つ、緻密なボロンシリケートガラス層を形成することができる。
【0042】
また、上記のようなボロン拡散層が形成されたシリコン基板を用いて太陽電池セルを製造する場合、ボロンシリサイド層が十分に除去されていることにより、シリコン基板の裏面に良質なリン拡散層を形成することができる。これに加え、リン拡散工程においては、シリコン基板表面のボロン拡散層上に形成されたボロンシリケートガラス層が、ボロン拡散層へのリン拡散を防ぐバリア層として機能する。これにより、良質なボロン拡散層を得ることができる。結果として、太陽電池の変換効率を向上させることができる。
【0043】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0044】
例えば、本発明の実施の形態では、
図4に示す拡散レシピパターンAのように、第2のステップ(酸化処理)において、拡散炉内の温度を維持した後、降温させながら第2のステップ(酸化処理)を行うこととしたが、この方法に限定されることはなく、
図5に示す拡散レシピパターンBのように、拡散炉内の温度を降温させながら第2のステップ(酸化処理)を行っても良い。また、
図6に示す拡散レシピパターンCのように、第2のステップ(酸化処理)において、第1のステップ(ボロン拡散処理)の処理温度から900℃を下回らない程度にまで降温させた後に、拡散炉内を一定の温度に維持し、その後、再び降温させながら第2のステップ(酸化処理)を行っても良い。また、
図7に示す拡散レシピパターンDのように、拡散炉内の温度を維持した後、降温させながら第2のステップ(酸化処理)を行い、その後、炉内雰囲気を非酸化雰囲気に切り換えて降温させても良い。この場合であっても、第2のステップ(酸化処理)において、ボロンシリサイド層を酸化させることができる。
【0045】
拡散レシピパターンは上記のA〜Dに限られるものではないが、どのようなレシピパターンであったとしても、第2のステップにおいて、900℃以上、かつ、第1のステップの処理温度以下となる状態を15分以上有することとすれば、ボロンシリサイド層を完全に酸化することができる。
【0046】
また、本発明の実施の形態では、拡散工程において三臭化ボロン(BBr
3)ガスを導入することとしたが、これに限定されることはなく、三塩化ボロン(BCl
3)等を用いることも可能である。また、ボロンの拡散方式は、ガス拡散方式に限定されるものではなく、BN(ボロンナイトライド)をソースとした固相拡散方式、もしくは、スクリーン印刷、インクジェット、スプレー、スピンコート等を用いた塗布拡散方式でも良い。
【実施例1】
【0047】
本発明によりボロン拡散層を形成したシリコン基板を用いて製造された両面受光型太陽電池セル(本発明例)と従来の両面受光型太陽電池セル(比較例1〜3)の性能を比較した。結果を表1に示す。なお、処理条件の詳細は下記の通りである。また、
図8は、本発明例を具体化した一実施形態において、ボロン拡散工程における温度、雰囲気を説明するための説明図である。
図9〜
図11は、比較例1〜比較例3のボロン拡散工程における温度、雰囲気を説明するための説明図である。
【0048】
本発明例及び比較例1〜3のボロン拡散工程における第1のステップ(拡散処理)の「処理雰囲気、処理温度、処理時間」は、それぞれ「窒素と酸素の流量比が98:2、950℃、30分」とした。また、本発明例及び比較例1及び比較例3の第2のステップ(酸化処理)の処理条件は、本発明例においては「950℃で15分保持し、その後5℃/分で950℃から800℃まで降温(
図8)」させ、比較例1においては「5℃/分で950℃から800℃まで降温(
図9)」させ、比較例3においては「非酸化雰囲気(窒素100%)で、5℃/分で870℃まで降温させた後、酸化雰囲気(酸素100%)で10分保持し、その後5℃/分で870℃から800℃まで降温(
図11)」させた。なお、比較例2においては、第2のステップを行っておらず、第1のステップ終了後は「非酸化雰囲気(窒素100%)で、5℃/分で950℃から800℃まで降温(
図10)」させた。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示す通り、第2のステップ(酸化処理)を行った本発明例及び比較例1及び比較例3は、第2のステップ(酸化処理)を行っていない比較例2よりも太陽電池セルの変換効率(Eff.)が向上している。この理由は、本発明例では、第2のステップ(酸化処理)を行うことにより、シリコン基板に形成されたボロンシリサイド層を完全に除去することができたためであり、比較例2では完全に除去できていないためと考えられる。
【0051】
また、本発明例と比較例1を比較すると、太陽電池セルの変換効率が大幅に向上している。比較例1の変換効率が低い理由は、比較例1における第2のステップの温度が本発明で規定される温度の下限値である900℃以上となっていた時間が短く、ボロンシリサイド層を十分に酸化することができなかったものと考えられる。すなわち、降温時の温度降下率を5℃/分であることを考慮すると、比較例1では、900℃以上であった時間が10分程度であり、酸化時間としては不十分であると見込まれる。
【0052】
一方、本発明例では、950℃において15分保持し、その後、温度降下率を5℃/分で降温させていることから、900℃以上であった時間が25分程度である。本発明例では、900℃以上となる時間を十分に確保したことにより、ボロンシリサイド層を完全に酸化することができ、結果として、本発明例と比較例1の太陽電池セルに性能差が生じたものと推認される。
【0053】
また、比較例3では、第2のステップにおいて、基板を870℃で10分保持し、その後5℃/分で870℃から800℃まで降温させてアンロードしていることから、第2のステップの処理時間(酸化処理時間)は24分程度である。このため、比較例3においては、十分に長い酸化処理時間を確保している。それにも関わらず、比較例3の変換効率は、本発明例の変換効率に比べて低いものとなっている。
【0054】
比較例3の変換効率が低い理由は、比較例3における第2のステップの温度が本発明で規定される温度の下限値である900℃を下回っており、ボロンシリサイド層を十分に酸化することができなかったものと考えられる。すなわち、比較例3のように、酸化処理を十分に長い時間行った場合であっても、酸化処理温度が900℃を下回っている場合には、変換効率を向上させることはできない。
【実施例2】
【0055】
次に、第2のステップにおいて900℃以上の状態にある時間と、太陽電池セルの変換効率との関係について検討した。結果を
図12に示す。なお、第2のステップの処理時間以外の処理条件については概ね等しい条件となっている。
図12に示す通り、第2のステップで900℃以上の状態にある時間を少なくとも15分とすれば、10分程度の処理時間の場合の結果と比べて、変換効率を向上させることができる。このため、第2のステップの処理時間は、15分以上確保する必要がある。また、20分以上確保すれば、更に変換効率を向上させることができる。
【0056】
即ち、実施例1及び実施例2の結果によれば、第2のステップにおいて、900℃以上、かつ、第1のステップの処理温度以下の温度となる状態を15分以上維持すれば、太陽電池セルの変換効率を向上させられることがわかる。
【実施例3】
【0057】
次に、第1のステップの処理温度と太陽電池セルのシート抵抗値との関係について検討した。結果を
図13に示す。なお、第1のステップの処理温度以外の処理条件については概ね等しい条件となっている。
図3に示す通り、第1のステップの処理温度が920℃〜1050℃の範囲内にあれば、シート抵抗値が太陽電池セルの変換効率を更に向上させるための好ましい範囲(30〜150Ω/□)に収まることがわかる。したがって、第1のステップの処理温度は、920℃〜1050℃の範囲内にあることが好ましい。
【実施例4】
【0058】
次に、第1のステップの窒素と酸素の分圧比(流量比)と太陽電池セルのシート抵抗値との関係について検討した。結果を
図14に示す。なお、分圧比以外の処理条件については概ね等しい条件となっている。
図14に示す通り、第1のステップの窒素と酸素の分圧比が95.5:0.5〜95:5の範囲内にあれば、シート抵抗値が太陽電池セルの変換効率を更に向上させるための好ましい範囲(30〜150Ω/□)に収まることがわかる。
【0059】
なお、第1のステップの窒素と酸素の分圧比が90:10となる場合であっても、シート抵抗値が好ましい範囲(30〜150Ω/□)に収まってはいるが、
図15に示す通り、その場合にはシート抵抗の面内バラつきが大きくなってしまう。したがって、第1のステップにおける窒素と酸素の分圧比は、95.5:0.5〜95:5の範囲内にあることが好ましい。
【実施例5】
【0060】
次に、第1のステップの処理時間と太陽電池セルのシート抵抗値との関係について検討した。結果を
図16に示す。なお、第1のステップの処理時間以外の処理条件については概ね等しい条件となっている。
図16に示す通り、第1のステップの処理時間が5〜120分の範囲内にあれば、太陽電池セルの変換効率を更に向上させるための好ましい範囲(30〜150Ω/□)に収まることがわかる。したがって、第1のステップの処理時間は、5〜120分の範囲内にあることが好ましい。