特許第6246790号(P6246790)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ツェットエフ、フリードリッヒスハーフェン、アクチエンゲゼルシャフトの特許一覧

<>
  • 特許6246790-内向き力発生型の長方形断面リング 図000002
  • 特許6246790-内向き力発生型の長方形断面リング 図000003
  • 特許6246790-内向き力発生型の長方形断面リング 図000004
  • 特許6246790-内向き力発生型の長方形断面リング 図000005
  • 特許6246790-内向き力発生型の長方形断面リング 図000006
  • 特許6246790-内向き力発生型の長方形断面リング 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6246790
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】内向き力発生型の長方形断面リング
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/16 20060101AFI20171204BHJP
   F16J 15/54 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   F16J15/16 B
   F16J15/54
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-507422(P2015-507422)
(86)(22)【出願日】2013年3月12日
(65)【公表番号】特表2015-518554(P2015-518554A)
(43)【公表日】2015年7月2日
(86)【国際出願番号】EP2013054945
(87)【国際公開番号】WO2013159984
(87)【国際公開日】20131031
【審査請求日】2016年1月21日
(31)【優先権主張番号】102012206676.4
(32)【優先日】2012年4月24日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】500045121
【氏名又は名称】ツェットエフ、フリードリッヒスハーフェン、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】ZF FRIEDRICHSHAFEN AG
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 欣浩
(74)【代理人】
【識別番号】100186716
【弁理士】
【氏名又は名称】真能 清志
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン マイヤー
【審査官】 竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−338538(JP,A)
【文献】 実開平02−107868(JP,U)
【文献】 特開2010−236649(JP,A)
【文献】 特開平09−089111(JP,A)
【文献】 特開2007−078041(JP,A)
【文献】 特開2009−085415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 1/00 − 1/24
F16J 7/00 −10/04
F16J15/16 −15/32
F16J15/324−15/3296
F16J15/40 −15/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転構成部品(2)を固定構成部品(1)に対して封止する内向き力発生型の長方形断面リング(4, 4’)であって、前記長方形断面リング(4, 4’)は過圧領域(3)を低圧領域(16)から分離し、周方向に相対する2つのリング端(9, 10)を備え、前記2つのリング端(9, 10)は連結部又はロック部(5)として構成され、かつ互いに接続可能であり、径方向の内側周面(11)又は前記長方形断面リング(4, 4’)の少なくとも1つの軸方向周面(12,12’)において、前記過圧領域(3)から供給可能である潤滑媒体を受ける少なくとも1つのリング状の潤滑溝(7; 8, 8’)を構成する長方形断面リング(4,4')において、前記少なくとも1つのリング状の潤滑溝(7; 8, 8’)を、完全には円形に構成せず、閉鎖端(13, 13’)並びに開放端(14, 14’)を備え、前記潤滑溝(7; 8, 8’)の前記開放端(14, 14’)は溢流領域(6, 6’)へと至り、該溢流領域(6, 6’)は前記連結部又はロック部(5)の漏出領域(15, 15’)とフロー接続することを特徴とする内向き力発生型の長方形断面リング(4, 4’)。
【請求項2】
請求項1に記載の内向き力発生型の長方形断面リングであって、リング端(9, 10)はT型のロック部(5)として構成され、第1リング端(9)はT型の断面を備え、前記第1リング端(9)の短脚部(17)は径方向外側に、長脚部(18)は径方向内側に配置され、かつ両脚部(17, 18)は周方向で前記リング端(9)の延長部を構成し、第2リング端(10)は前記延長部の支承部(19)として構成され、前記長脚部(18)は前記支承部(19)内に組合い、前記短脚部(17)は径方向外側で前記支承部(19)と重なり合い、前記潤滑溝(7, 8)の開放端(14, 14’)が第2リング端(10)に配置される内向き力発生型の長方形断面リングにおいて、前記長方形断面リング(4, 4')の径方向外側周面(24)において、前記T型のロック部(5)の開放したままの端部に漏出領域(15, 15')が構成され、該漏出領域(15, 15')へは、前記過圧領域(3)から潤滑媒体が供給され、前記潤滑溝(7, 8)の溢流領域(6, 6')に潤滑媒体を供給することを特徴とする内向き力発生型の長方形断面リング。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の内向き力発生型の長方形断面リングであって、リング端(9, 10)の両方は、周方向に丸みを帯びる角部又は面取りした角部を備えることを特徴とする内向き力発生型の長方形断面リング。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の内向き力発生型の長方形断面リングであって、リング端(9, 10)の両方は、周方向に面取りした角部を備えることを特徴とする内向き力発生型の長方形断面リング。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の内向き力発生型の長方形断面リングであって、少なくとも1つのリング状の潤滑溝(7)が、前記長方形断面リング(4)の径方向の内側周面(11)に構成される内向き力発生型の長方形断面リングにおいて、前記溢流領域(6)を間隙状のチャンバとして構成し、該溢流領域(6)は、前記長方形断面リング(4)の内側周面(11)で、前記潤滑溝(7)の開放端(14)とT型の前記ロック部(5)のより長い脚部(18)の自由端との間に伸長し、前記リング端(9, 10)の両方、並びに互いに封止される両方の前記構成部品(1, 2)の一方の構成部品の、前記径方向の内側周面(11)に隣接する面(22)により限定されることを特徴とする内向き力発生型の長方形断面リング。
【請求項6】
請求項1〜4の何れか一項に記載の内向き力発生型の長方形断面リングであって、少なくとも1つのリング状の潤滑溝(8)を、前記長方形断面リング(4’)の、前記過圧領域(3)とは反対側の軸方向周面(12)に構成する内向き力発生型の長方形断面リングにおいて、前記溢流領域(6’)を間隙状のチャンバとして構成し、該溢流領域(6’)は、前記長方形断面リング(4’)の軸方向周面(12)で、前記潤滑溝(8)の開放端(14’)とT型の前記ロック部(5)のより短い脚部(17)の端部との間に伸長し、前記リング端(9, 10)の両方、並びに互いに封止される両方の前記構成部品(1, 2)の一方の構成部品の、前記軸方向周面(12)に隣接する面(23)により限定されることを特徴とする内向き力発生型の長方形断面リング。
【請求項7】
請求項6に記載の内向き力発生型の長方形断面リングであって、前記過圧領域(3)とは反対側の前記軸方向周面(12)、及び前記過圧領域(3)側にあり相対する軸方向周面(12')の各面にリング状の潤滑溝(8, 8')を構成し、該潤滑溝(8, 8')の両方を漏出領域(15')により互いにフロー接続することを特徴とする内向き力発生型の長方形断面リング。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載の内向き力発生型の長方形断面リングであって、回転軸(2)を固定フランジ(1)に対して封止するために配置される内向き力発生型の長方形断面リングにおいて、軸方向及び径方向に遊びを備え、前記固定フランジ(1)に設けられた溝(21)に着座し、過圧領域(3)とは反対側の軸方向周面(12)に加圧することにより、前記溝(21)の側面(23)に静止又は摺動して接触し、加圧及び/又は自発力により、径方向の内側周面(11)で前記回転軸(2)の外側面(22)に力を作用しつつ、静止又は摺動して接触することを特徴とする内向き力発生型の長方形断面リング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部に記載の、回転構成部品を固定構成部品に対して封止するための内向き力発生型の長方形断面リングに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の長方形断面リングは、例えば変速機分野の技術において、油圧駆動クラッチへの圧油及び潤滑油供給系で、固定されたフランジを回転軸に対して封止するための封止素子として使用される。この場合、長方形断面リングは通常フランジ又は軸に配置された周方向溝に着座する。長方形断面リングは、軸方向及び径方向に遊びを備えてこの溝に取り付けられるため、圧油及び潤滑油は、圧力チャンバ又は過圧領域を介して環状溝へと浸透可能である。多くの場合、そうした長方形断面リングはスリットが入れられるか又は分割され、弾性を発生するよう構成されるため、径方向内側面又は周面を備えた内向き力発生型のリングの場合、長方形断面リングは、両構成部品のうちの1つの部品の径方向外側面に対して張力を有しつつ接触する。径方向外側面又は周面を備えた外方張力発生型リングの場合、長方形断面リングは、割り当てられた両構成部品のうちの一つの部品の径方向内側面に対して張力を有しつつ接触する。軸方向において、長方形断面リングは過圧領域から供給された圧力流体の作用により、軸方向周面で溝の側面に接触する。
【0003】
所望の配置に従い、長方形断面リングの径方向に接する周面又は軸方向に接する周面が両構成部品の一つに対して静止する。従って、径方向周面及び軸方向周面の各他方の面が、両構成部品が相対回転する際に、封止摺動面として作用する。発生する摩擦に起因して各摺動面に対して生じる温度的負荷を制限するために、摺動面に潤滑油を供給して熱を除去することが可能である。
【0004】
長方形断面リングの摺動面において、長方形断面リングの周囲に、潤滑媒体を受ける個々のポケット形状の窪みを分布配置し、窪みを潤滑媒体用の圧力チャンバと接続させる配置が既知である。
【0005】
ドイツ特許第39 04 978C2号明細書は、そうしたシールリングを開示する。このシールリングは、異なる圧力レベルの2つのチャンバを軸方向で互いに分割しており、その際両チャンバは、軸及びこれらチャンバを支承するハブにより径方向に限定される。シールリングは環状溝に着座し、環状溝は軸に配置される。シールリングは開放型でかつ外方張力発生型リングとして構成され、シールリングの径方向外側面によりハブ孔の側面を封止し、静止してハブ孔に接触する。軸方向に、シールリングはより高い圧力レベルにある領域を介して、溝の側壁に摺動して接触する。リングの摺動封止面には、周囲に分布させたポケット形状のリセスが施される。リセスは、より高い圧力下にある領域に対して開放する。
【0006】
更に、長方形断面リングの周囲に貫通型リング状の潤滑溝又は窪みを構成し、これら潤滑溝又は窪みを圧力チャンバと接続する配置も既知である。このようにして、潤滑ポケットの場合のように分割化された潤滑と比較し、より効果的である周方向の貫通型の潤滑油フィルムが摺動面に対して生成される。潤滑溝を加圧することにより、更に摺動面に対する圧接力を周囲で均等に低減することが可能であり、それにより摩擦損失が一層低減される。
【0007】
ドイツ特許出願公開第10 56 440A号明細書はそうした長方形断面リングを開示する。長方形断面リングは、機械部分に対して溝に着座し、溝は軸に構成される。シールリングは、摺動面を構成する双方の軸方向周面の一方の面に対して、貫通型リング状の潤滑溝を備える。潤滑溝は、リングの該当する正面に構成された径方向供給管を介して、圧力流体及び潤滑流体により附勢可能である。
【0008】
ドイツ特許第21 46 026C2号明細書は、開放型の外方張力発生型長方形断面リングを開示する。外方張力発生型長方形断面リングは、2つの互いに対して回転する構成部品の間に配置される。長方形断面リングは、両構成部品の一方に構成された溝に着座し、その際、1つの軸方向側に相対する側よりも高い圧力が作用する。シールリングの軸方向の低圧力側には、周方向溝が装備される。周方向溝は、シールリングを貫通する管を介してより高い圧力で附勢可能である。更にシールリングは、径方向外側周面に環状溝を装備可能である。環状溝は、管を介してより高い圧力で附勢可能である。上記と比較可能な長方形断面リングは、米国特許出願公開第3 315 968 A号明細書により開示される。
【0009】
スリットが施された長方形断面リングにおいては、長方形断面リングの周方向で、相対する両端部が遊間を備えた単純な開放型リングを構成する。例えば、ピストンリングのような長方形断面リングが既知である。こうしたピストンリングでは、周方向に相対する両端部がロック部として構成される。この種のリングのリング端部は、リングの自発張力の存在下で自発張力を凌ぐことにより一体化されるか又は互いに分割可能である。
【0010】
ドイツ特許出願公開第10 2009 012 462 A1号明細書は、そうした長方形断面リングを備えた回転フィードスルーを開示する。長方形断面リングは、回転構成部品であるロータと固定構成部品であるスタータとの間に配置され、その際、スタータはロータを包囲する。実施形態により、長方形断面リングはロータの周方向溝に着座する。油供給管を介する圧力の作用により、長方形断面リングは軸方向に、油供給管とは反対側の軸方向周面で溝の壁面に対して押し付けられ、径方向外側周面でスタータの内側面に接触する。リング断面の高さ及び幅のサイズが異なるため、発生する面の力がリングに作用し、この面の力が軸方向及び径方向で異なる。幅が高さを下回る場合、ロータに対して軸方向で静的封止領域が、並びにスタータに対して径方向外側の動的封止領域が生じる。静的封止領域は、長方形断面リングを構成部品に対して固定し、動的封止領域は、長方形断面リングを長方形断面リングの構成部品に対して摺動させる。少なくとも動的封止領域は、冷却及び潤滑のために目標とする漏出を発生させるべく、少なくとも1つのリセスを備える。長方形断面リングは、取り付ける際の補助として機能する連結部又はロック部を備える。リセスはポケット状に構成され、局所的な変形形態によれば、長方形断面リングの外側周辺に、連結部又はロック部の構成と一体化された構成部品として存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】ドイツ特許第39 04 978C2号明細書
【特許文献2】ドイツ特許出願公開第10 56 440A号明細書
【特許文献3】ドイツ特許第21 46 026C2号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第3 315 968 A号明細書
【特許文献5】ドイツ特許出願公開第10 2009 012 462 A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
こうした背景技術を鑑み、本発明の課題は、回転構成部品を固定構成部品に対して封止するための、低摩耗性で取付けが容易な内向き力発生型の長方形断面リングを、省コストで製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本課題は主請求項に記載の特徴により解決され、一方本発明の好適な実施形態及び発展形態は従属請求項より明らかである。
【0014】
本発明は、一体化された潤滑手段並びに連結部又はロック部を備えた長方形断面リングにおいて、潤滑媒体を供給する潤滑手段を、連結部又はロック部の漏出領域を備えた特別の構成を介して接続可能であるという認識に基づいている。
【0015】
従って本発明は、回転構成部品を固定構成部品に対して封止するための内向き力発生型の長方形断面リングを考慮しており、その際長方形断面リングは、過圧領域を低圧領域から分離し、周方向に相対する2つの端部を備え、2つの端部は連結部又はロック部として構成され、並びに互いに接続可能であり、径方向の内側周面又は長方形断面リングの少なくとも1つの軸方向周面において、過圧領域から供給可能である潤滑媒体を受ける少なくとも1つのリング状の潤滑溝を構成する。
【0016】
前述の課題を解決するために、本発明により少なくとも1つのリング状の潤滑溝を、完全には円形に構成せず、閉鎖端並びに開放端を備えて構成する。その際、リング状の潤滑溝の開放端は溢流領域へと至る。溢流領域は、連結部又はロック部の漏出領域とフロー接続する。
【0017】
この長方形断面リングにおいて、摺動面での摩擦が潤滑手段により低減される。潤滑手段は広範な潤滑フィルムを生成し、それにより継続的かつ効果的な潤滑を達成する。しかもそのために、潤滑媒体を供給する追加的な孔、管等が不要であるため、リングの製造コストが低減される。更に、取付け、製造又は品質上の理由から、多くの場合既に存在する連結部又はロック部により漏出領域を作成し、潤滑溝に潤滑媒体を供給する溢流領域に接続させる。
【0018】
リング溝又は潤滑溝を、過圧領域から供給される潤滑媒体により潤滑し、及び同時に加圧することにより、更に該当する摺動面への長方形断面リングの圧接力が低減され、これにより追加的に摩損を低減する効果が得られる。
【0019】
両リング端は、連結部又はロック部を介して互いに接続可能である。その際、漏出領域として効力を発する遊びの部分が連結部又はロック部に存在する。従って、連結部又はロック部のこの漏出領域は、長方形断面リングの過圧側を低圧側と流体的に接続し、長方形断面リングのリング状の周方向溝の溢流領域を介して、常に十分かつ確実に潤滑媒体を供給可能である。
【0020】
本発明の好適な実施形態により、長方形断面リングの両リング端はT型のロック部として構成される。その際、第1リング端はT型の断面を備え、その短脚部は径方向外側に、長脚部は径方向内側に配置される。T型の断面において、両脚部は周方向でリング端の延長部を構成する。更に、第2リング端は延長部の支承部として構成される。その際、長脚部は支承部内に組合い、短脚部は径方向外側で支承部と重なり合う。更に、潤滑溝の開放端が第2リング端に配置され、長方形断面リングの径方向外側周面において、T型のロック部の開放したままの端部に漏出領域が構成される。漏出領域へは、過圧領域から潤滑媒体が供給され、潤滑溝の溢流領域に潤滑媒体を供給する。
【0021】
リング端の両方は、周方向に丸みを帯びる角部又は面取りした角部を備えることが可能であり、これによりリング端が特に容易に互いに組合うことになる。
【0022】
T型のロック部の外形により、リング端の接続が導かれる。従って、リング端は取付け時又は取り付けられた状態で、軸方向に互いに移動せず、未制御の漏出損失又は不所望な締付力を誘発しないことが保証される。同時に両リング端は、リング端が完全に入れ子となった状態でも、潤滑溝の溢流領域に供給するための漏出領域が存在するよう設計される。
【0023】
T型のロック部の幾何学的形状により、追加の労力を必要とせず、限定された漏出領域、及び漏出領域に接続し限定された溢流領域を単純な構成で実現する。しかし、基本的に他種の連結部又はロック部、例えばいわゆる二重ステップロックも、潤滑溝に潤滑媒体を供給するために適している。
【0024】
限定された漏出領域、及びそれに接続し限定された溢流領域の構造設計は、長方形断面リングの径方向の内側周面に構成された潤滑溝において、溢流領域を間隙状のチャンバとして構成することで実現可能である。溢流領域は、長方形断面リングの内側周面で、潤滑溝の開放端とT型のロック部のより長い脚部の自由端との間に伸長し、リング端の両方、並びに互いに封止される両構成部品の一方の構成部品の、長方形断面リングの径方向の内側周面に隣接する面により限定される。
【0025】
上記の実施形態において、長方形断面リングの径方向の内側周面は摺動面として使用可能である。摺動面においては、潤滑媒体で満たされた潤滑溝により摩擦が低減される。径方向潤滑溝を備えた長方形断面リングは対称に構成されるため、据付は方向には関連しておらず、取付けが容易となる。
【0026】
長方形断面リングの、過圧領域とは反対側の軸方向周面に構成された潤滑溝においては、限定された漏出領域及びそれに接続する溢流領域は、軸方向周面において潤滑溝の開放端とT型のロック部のより短い脚部の端部との間に伸長する、間隙状のチャンバとして構成することで実現可能である。溢流領域は、リング端の両方、並びに両方の構成部品の一方の構成部品の、軸方向周面に隣接する面により限定される。上記の実施形態において、軸方向周面は摺動面として使用可能である。摺動面においては、潤滑媒体で満たされた潤滑溝により摩擦が低減される。
【0027】
長方形断面リングの軸方向摺動面において、方向に関係無く据付可能とするために、長方形断面リングの、過圧領域とは反対側の軸方向周面、及び過圧領域側にあり相対する軸方向周面の各面にリング状の潤滑溝を構成可能である。その際、潤滑溝の両方を漏出領域により互いにフロー接続する。第2潤滑溝を構成することにより、更に長方形断面リングの重量が低減される。
【0028】
長方形断面リングが、径方向潤滑溝及び1つ又は2つの軸方向潤滑溝を備えることも基本的に可能である。
【0029】
本発明による長方形断面リングは、多様な封止システムに取り付け可能である。長方形断面リングが特に必要とされ、集中的に潤滑することが要求される適用としては、車両の変速機に関する技術分野がある。例えば、本発明による長方形断面リングは油圧駆動クラッチの圧油供給系用に、回転軸を固定フランジに対して封止するために使用可能である。この場合、長方形断面リングは軸方向及び径方向に遊びを備え、フランジに施された溝に着座する。その際、長方形断面リングは、過圧領域とは反対側の軸方向周面に加圧することにより、溝の側面に静止又は摺動して接触し、加圧及び/又は自発力により、径方向の内側周面で回転軸の外側面に力を作用しつつ、静止又は摺動して接触する。
【0030】
そうした配置においては、2つ又は複数の長方形断面リングをも取付け可能である。その際、過圧領域は軸方向で長方形断面リングと低圧領域との間に、軸方向で長方形断面リングの外側に存在する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
更に本発明を詳説するために、2つの実施形態を示す図面を添付する。
図1】本発明による、2つの内向き力発生型の長方形断面リングを備えた第1実施形態を取付けた状態の断面図である。
図2】T型のロック部を備えた図1の長方形断面リングの部分的側面図である。
図3図2の長方形断面リングの、T型のロック部の領域の拡大斜視図である。
図4】本発明による、2つの内向き力発生型の長方形断面リングを備えた第2実施形態を取付けた状態の断面図である。
図5】T型のロック部を備えた図4の長方形断面リング、の部分的側面図である。
図6図5の長方形断面リングの、T型のロック部の領域の拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
従って、図1に概略的に示された圧油供給系においては、2つの内向き力発生型の長方形断面リング4が、回転軸2を固定フランジ1に対して封止するために取り付けられる。両長方形断面リング4は、長方形断面リング4の間に伸長する過圧領域又は圧力チャンバ3を、軸方向に両長方形断面リング4の外側に伸長する低圧領域16から分離する。圧力チャンバ3は、圧力のかけられた潤滑媒体で満たされている。圧力チャンバ3からは、軸2とフランジ1との間の径方向の周方向溝20を介して、潤滑媒体が両長方形断面リング4へと導かれる。両長方形断面リング4の各々は、軸方向及び径方向に遊びを備え、フランジ1に施された溝21に着座し、軸2の径方向の外側面22に対して、長方形断面リング4の自発力により附勢される。潤滑媒体による加圧により、両長方形断面リング4の各々は圧力チャンバ3とは反対側で、軸方向に溝21の側壁23に接触する。従って、長方形断面リング4は軸方向外側かつ径方向内側にシールリングとして作用する。
【0033】
長方形断面リング4の径方向の内側周面11(図3参照)には、各長方形断面リング4がリング状の潤滑溝7を備え、この潤滑溝7を介して潤滑媒体を導くことが可能である。従って、径方向の内側周面11と軸2の外側面22との間の接触面が摺動面を構成し、一方長方形断面リング4は軸方向でフランジ1に接して静止する。
【0034】
長方形断面リング4の構成は、図2及び図3からより明確となる。従って、長方形断面リング4は径方向にスリットを施して構成され、そのために周方向に相対する2つのリング端9, 10が備わり、これらリング端9, 10は、T型のロック部5として構成される。第1リング端9はT型断面を備える。その際、より短い軸方向の短脚部17は径方向外側に配置され、より長い長脚部18は径方向内側を示す。両脚部17, 18は、周方向に第1リング端9の延長部を構成する。相対する第2リング端10は、延長部に適合する2脚部型の支承部19を備える。その際、両脚部17, 18の間のT型のロック部5の長脚部18は支承部19と組合い、T型のロック部5の短脚部17は、径方向外側で支承部19と重なり合う。従って長脚部18は、T型のロック部5のリード部として作用する。
【0035】
長方形断面リング4の径方向の内側周面11に構成された潤滑溝7は、周方向に開放端14及び閉鎖端13を備える。その際、閉鎖端13はT型の第1リング端9に対して、及び開放端14は支承形状の第2リング端10に対して隣接する。
【0036】
長方形断面リング4が閉鎖された状態又は部分的に閉鎖された状態では、外周、又は長方形断面リング4の外側周面24において、T型のロック部5の領域で、支承形状の第2リング端10の側に漏出領域15が構成される。漏出領域15へは、圧力チャンバ3を介して潤滑媒体が供給される。漏出領域15は溢流領域6とフロー接続される。溢流領域6は間隙状のチャンバとして構成される。溢流領域6は、実質的に長方形断面リング4の内側周面11で、潤滑溝7の開放端14とT型のロック部5のより長い長脚部18の自由端との間に伸長する。溢流領域6は、両リング端9, 10、並びに径方向の内側周面11に隣接する軸2の外側面22により限定され、潤滑溝7の開放端14に移行する。従って作動時に、潤滑溝7に対して圧力チャンバ3及びT型のロック部5を介して恒久的に潤滑媒体が供給され、長方形断面リング4の径方向の内側周面11に潤滑フィルムが形成される。
【0037】
図4図1とほぼ構造的に同一の圧油供給系を示しているが、軸方向の摺動面を備えている。摺動面には、2つの長方形断面リング4’が取り付けられており、長方形断面リング4’の構成は、図5及び図6に詳細に示される。
【0038】
従って、長方形断面リング4'は軸方向周面12にリング状の潤滑溝8を備える。この軸方向周面12は、長方形断面リング4’が着座する固定構成部品1の溝21の側壁23により、軸方向の摺動面を構成する。T型のロック部5は、図2及び図3の実施形態に対応する。更に潤滑溝8は、閉鎖端13'をT型の第1リング端9の側に、開放端14'を支承部19として構成された第2リング端10の側に備える。
【0039】
長方形断面リング4'の相対する軸方向周面12'では、対応する第2潤滑溝8'が構成される。第2潤滑溝8'は、漏出領域15'を介して第1潤滑溝8とフロー接続される(図4参照)。両潤滑溝8, 8'は、同一の機能を果たすことが可能であるため、長方形断面リング4'は方向に依存せずに構成可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 固定構成部品、フランジ
2 回転構成部品、軸
3 過圧領域、圧力チャンバ
4, 4' 長方形断面リング
5 連結部、ロック部
6, 6' 溢流領域
7 径方向潤滑溝
8, 8' 軸方向潤滑溝
9 第1リング端
10 第2リング端
11 径方向の内側周面
12, 12' 軸方向周面
13, 13' 閉鎖溝端部
14, 14' 開放溝端部
15, 15' 漏出領域
16 低圧領域
17 T型のロック部5の短脚部
18 T型のロック部5の長脚部
19 支承部
20 間隙
21 固定構成部品1の溝
22 外側面
23, 23' 固定構成部品1の溝21の側壁
24 長方形断面リングの外側周面
図1
図2
図3
図4
図5
図6