【文献】
山内章裕,作田敦,林晃敏,北村尚斗,井手本康,辰巳砂昌弘,"高リチウムイオン伝導性Li2S-P2S5-LiBH4系ガラスセラミックスの作製と評価",固体イオニクス討論会講演予稿集,2012年,38th,p.190-191
【文献】
山内 章裕 Akihiro Yamauchi Akihiro Yamauchi,ガラス電解質(100−X)(0.75L12S ・0.25P2S5)・xLiBH4の作製とそのイオン伝導度 Preparation of (100-x)(0.75Li2S .0.25P2S5).xLiBH4 and theirs ionic conductivities,電気化学会講演要旨集 第79回大会,公益社団法人電気化学会
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、携帯情報端末、携帯電子機器、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、更には定置型蓄電システムなどの用途において、リチウムイオン二次電池の需要が増加している。しかしながら、現状のリチウムイオン二次電池は、電解液として可燃性の有機溶媒を使用しており、有機溶媒が漏れないように強固な外装を必要とする。また、携帯型のパソコン等においては、万が一電解液が漏れ出した時のリスクに備えた構造を取る必要があるなど、機器の構造に対する制約も出ている。
【0003】
更には、自動車や飛行機等の移動体にまでその用途が広がり、定置型のリチウムイオン二次電池においては大きな容量が求められている。このような状況の下、安全性が従来よりも重視される傾向にあり、有機溶媒等の有害な物質を使用しない全固体リチウムイオン二次電池の開発に力が注がれている。
【0004】
また、近年急速に普及しているスマートフォンに関しては、高いエネルギー密度であることだけではなく、高速処理を求められている。そのような要求に応えるため、電池としては少しでも高い電圧の確保が望まれている。従って、小型デバイス向けの二次電池にとっては、電圧の確保も極めて重要である。
【0005】
全固体リチウムイオン二次電池における固体電解質として、酸化物、リン酸化合物、有機高分子、硫化物等を使用することが検討されている。しかしながら、酸化物およびリン酸化合物は酸化還元に対する耐性が弱く、リチウムイオン二次電池において安定に存在することが難しい。また負極として金属リチウムや低結晶性カーボン、黒鉛等の材料を用いた場合に、固体電解質と負極とが反応してしまうという欠点も有する(特許文献1)。
【0006】
さらに、酸化物やリン酸化合物は、その粒子が堅いという特性を有する。従って、これらの材料を使用して固体電解質層を形成するには、一般的に600℃以上の高い温度での焼結を必要とし、手間がかかる。更には、固体電解質層の材料として酸化物やリン酸化合物を使用した場合、電極活物質との間の界面抵抗が大きくなってしまうという欠点も有する。有機高分子については、室温におけるリチウムイオン伝導性が低く、温度が下がると急激に伝導性が低くなるという欠点を有する。
【0007】
一方、硫化物は、室温で1.0×10
−3S/cm以上(特許文献2)および0.2×10
−3S/cm以上(特許文献3)という高いリチウムイオン伝導性を有することが知られている。さらに、粒子がやわらかいことから、コールドプレスにて固体電解質層を作製することが可能であり、且つ接触界面を容易に良好な状態とすることができる。しかしながら、硫化物固体電解質材料としてGeやSiを含む材料を使用した場合(特許文献2および特許文献4)、これらの材料は還元されやすいという問題を有する。また、単セルにおいて高電圧を確保できるリチウム金属やカーボン系活物質に代表される電極電位が0V付近(Li電極基準)の負極活物質を用いて電池を構成すると(特許文献4)、硫化物固体電解質の還元反応が生じてしまうという問題もある。
【0008】
上記のような問題を防ぐために、負極活物質の表面に皮膜を設ける方法(特許文献5)、固体電解質の組成を工夫する方法(特許文献6〜10)等が提案されている。特に、特許文献10ではP
2S
5を含む固体電解質が使用されているが、このような硫化物固体電解質を使用した場合であっても、負極活物質との反応に対する懸念は残る(非特許文献1)。また、負極の安定性は、固体電解質層中の微量不純物によって変わりやすく、その制御は容易ではない。このようなことから、リチウムイオン伝導性が高く、電極活物質の安定性に悪影響を及ぼさず、且つ隣接する物質との間に良好な界面を形成することができる固体電解質が切望されている。
【0009】
新しいリチウムイオン伝導性固体電解質に関しては、2007年にLiBH
4の高温相が高いリチウムイオン伝導性を有することが報告され(非特許文献2)、2009年にはLiBH
4にLiIを加えることによってできる固溶体が、室温においても高温相を保つことができることが報告された(非特許文献3および特許文献11;以下、例えばLiBH
4等の錯体水素化物を含むイオン伝導体を錯体水素化物固体電解質とも称する)。この錯体水素化物固体電解質を用いて電池を構成することが検討されており、特に負極に金属リチウムを使用する場合において効果を発揮することが開示されている(特許文献12および特許文献13)。
【0010】
しかし、LiBH
4を含む固体電解質は、一般的に使用される正極活物質である酸化物、例えばLiCoO
2を還元してしまうという欠点を有している。これを防ぐ手法としては、パルスレーザー堆積法(PLD;Pulse Laser Deposition)にて製膜した100nmのLiCoO
2層上にLi
3PO
4を約10nmコートすることによって、120℃での充放電サイクルが可能なことが報告されている(非特許文献4)。しかしながら、これは、バルク型ではなく気相成膜を用いて製造された薄膜電池であるため、一つのセル当たりの容量をバルク型ほど確保できず、生産性も良くないという欠点を有する。
【0011】
特定の正極活物質を用いることによって、錯体水素化物による還元を回避する方法も見出されているが、使用可能な正極活物質が極めて限定される(例えば、ポリアセン系骨格構造を有する多環芳香族炭化水素、ペロブスカイト型フッ化物等)(特許文献12)。また、これらの正極活物質は、現在市販されているリチウムイオン二次電池に一般的に使用されている酸化物型正極活物質ではない。特許文献12には、酸化物型正極活物質に特定のイオン伝導体や炭素をコートしたものが還元されにくいことも述べられているが、実施例で示しているデータは充電時の還元作用を示しているのに留まり、必ずしも充放電を繰り返した時の効果を述べてはいない。
【0012】
なお、非特許文献4においては、LiBH
4によるLiCoO
2の還元は充電中に生じることが示されおり、非特許文献4のFig.1には充放電サイクルを重ねることで、電池抵抗が増大していくことが明確に示されている。このことから、錯体水素化物による正極活物質の還元を短期的に抑えるだけではなく、充放電を繰り返した後においても電池抵抗の増大を抑制できる有効な手段が求められていると言える。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、各図において、同様または類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。また、以下に説明する材料、構成等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
【0020】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る全固体電池の断面図である。
全固体電池10は、例えば、全固体リチウムイオン二次電池であり、携帯電話、パソコン、自動車等をはじめとする各種機器において使用することができる。全固体電池10は、正極層1と負極層3との間に固体電解質層2が配置された構造を有する。第1実施形態において、固体電解質層2は、硫化物固体電解質を含む正極層1側の第1固体電解質層2aと錯体水素化物固体電解質を含む負極層3側の第2固体電解質層2bとを含み、これらは相互に接している。
【0021】
以下、各部材について詳細に説明する。
1.固体電解質層
固体電解質層2は、正極層1と負極層3との間に配置されるリチウムイオン伝導性を有する層である。第1実施形態においては、第1固体電解質層2aと第2固体電解質層2bとが接しているため、各々の層に含まれる硫化物固体電解質の少なくとも一部と錯体水素化物固体電解質の少なくとも一部とが接する構造となる。また、正極層1における正極活物質と第1固体電解質層2aにおける硫化物固体電解質とが隣接する層に位置し、負極層3における負極活物質と第2固体電解質層2bにおける錯体水素化物固体電解質とが隣接する層に位置する。
【0022】
上記構成によれば、全固体電池10を構成する各層の間で大きな界面抵抗を生じることがないため、電池全体のリチウムイオン伝導性を向上させることができる。さらに、上記構成によれば、錯体水素化物と正極活物質とが直接接触しないため、錯体水素化物による正極活物質の還元を懸念することなく、リチウムイオン伝導性の高い錯体水素化物を固体電解質として使用することができる。活物質および固体電解質の還元による電池抵抗の増加を防ぐこともできるため、充放電サイクルを繰り返しても長期間にわたって安定に動作する全固体電池を提供することができる。
【0023】
第1固体電解質層2aに含まれる硫化物固体電解質は、リチウムイオン伝導性を有し、硫黄原子を含む材料であれば、特に限定されない。硫化物固体電解質は、一般的にリチウムイオン伝導性が高く、また、錯体水素化物固体電解質と同様にやわらかいことから、プレスによる成型が可能である。硫化物固体電解質としては、例えば、Li
2S−P
2S
5系、Li
2S−SiS
2系およびLi
2S−GeS
2系の材料を使用することができる。より具体的には、Li
2S−P
2S
5、Li
2S−SiS
2、Li
2S−GeS
2、LiGe
0.25P
0.75S
4、Li
10GeP
2S
12、Li
2S−GeS
2−Ga
2S
3等を挙げることができる。なお、Li
2S−P
2S
5の表記は、Li
2SおよびP
2S
5を原料として調製される固体電解質を意味する。その組成は特に限定されないが、Li
2S−P
2S
5の場合、例えばモル比でLi
2S:P
2S
5=70:30〜80:20の範囲であることが好ましい。Li
2S−SiS
2、Li
2S−GeS
2、Li
2S−GeS
2−Ga
2S
3についても同様であり、特定の組成比に限定されることはない。
【0024】
硫化物固体電解質は、非晶質であっても良く、結晶質であっても良い。結晶質の硫化物固体電解質は、例えば非晶質の硫化物固体電解質を加熱処理することにより得ることができる。また、上記のような硫化物固体電解質を1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
第2固体電解質層2bに含まれる錯体水素化物固体電解質は、リチウムイオン伝導性を有する錯体水素化物を含む材料であれば、特に限定されない。例えば、錯体水素化物固体電解質は、LiBH
4またはLiBH
4と下記式(1)で表されるアルカリ金属化合物との混合物である:
MX (1)
[式(1)中、Mは、リチウム原子、ルビジウム原子およびセシウム原子からなる群より選択されるアルカリ金属原子を表し、Xは、ハロゲン原子またはNH
2基を表す。]。
上記式(1)におけるXとしてのハロゲン原子は、ヨウ素原子、臭素原子、フッ素原子、塩素原子等であってよい。Xは、ヨウ素原子、臭素原子またはNH
2基であることが好ましく、ヨウ素原子またはNH
2基であることがより好ましい。
【0026】
具体的には、アルカリ金属化合物は、ハロゲン化リチウム(例えば、LiI、LiBr、LiFまたはLiCl)、ハロゲン化ルビジウム(例えば、RbI、RbBr、RbFまたはRbCl)、ハロゲン化セシウム(例えば、CsI、CsBr、CsFまたはCsCl)、あるいはリチウムアミド(LiNH
2)であることが好ましく、LiI、RbI、CsIまたはLiNH
2であることがより好ましい。アルカリ金属化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。好ましい組合せとしては、LiIとRbIとの組合せが挙げられる。
【0027】
LiBH
4およびアルカリ金属化合物としては、各々公知の化合物を使用することができる。また、これら化合物の純度は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。純度が上記範囲である化合物は、固体電解質としての性能が高いためである。
【0028】
LiBH
4とアルカリ金属化合物とのモル比は、1:1〜20:1であることが好ましく、2:1〜7:1であることがより好ましい。モル比を上記範囲とすることにより、固体電解質中のLiBH
4の量を十分に確保することができ、高いイオン伝導性を得ることができる。一方、LiBH
4の量が多すぎると、高温相(高イオン伝導相)の転移温度が低下しにくく、LiBH
4の高温相の転移温度(115℃)未満において十分なイオン伝導性を得られない傾向にある。
【0029】
2種以上のアルカリ金属化合物を併用する場合、その混合比は特に限定されない。例えば、LiIと他のアルカリ金属化合物(好ましくはRbIまたはCsI)とを併用する場合においては、LiIと他のアルカリ金属化合物とのモル比=1:1〜20:1であることが好ましく、5:1〜20:1であることがより好ましい。モル比を上記範囲とすることにより、固体電解質中のLiIの量を十分に確保することができ、熱安定性が良好な固体電解質層を得ることができる。一方、LiIの量が多すぎると、他のアルカリ金属化合物の添加効果が十分に得られず、その結果として十分なイオン伝導性を得られない傾向にある。
【0030】
錯体水素化物固体電解質は、115℃未満でのX線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、少なくとも、2θ=24.0±1.0deg、25.6±1.2deg、27.3±1.2deg、35.4±1.5degおよび42.2±2.0degに回折ピークを有し得る。少なくとも2θ=23.7±0.7deg、25.2±0.8deg、26.9±0.8deg、35.0±1.0degおよび41.3±1.0degに回折ピークを有することが好ましく、少なくとも2θ=23.6±0.5deg、24.9±0.5deg、26.7±0.5deg、34.6±0.5degおよび40.9±0.5degに回折ピークを有することがより好ましい。また、少なくとも2θ=23.6±0.3deg、24.9±0.3deg、26.7±0.3deg、34.6±0.3degおよび40.9±0.3degに回折ピークを有することがより好ましい。これら5領域の回折ピークは、LiBH
4の高温相の回折ピークに相当するものである。LiBH
4の高温相の転移温度未満においてもこのように5領域に回折ピークを有する固体電解質は、上記転移温度未満においても高いイオン伝導性を示す傾向にある。
【0031】
第1固体電解質層2aおよび第2固体電解質層2bに含まれる固体電解質の製造方法は特に限定されないが、メカニカルミリングや特許第5187703号公報に記載の溶融混合等によって製造することが好ましい。第1固体電解質層2aおよび第2固体電解質層2bは、必要に応じて、上記以外の材料を含んでいてもよい。例えば、結着材を用いてシート状とした固体電解質層を使用することも可能である。
【0032】
第1固体電解質層2aの厚みは薄い方が好ましい。具体的には、0.01〜1000μmの範囲であることが好ましく、0.1〜500μmの範囲であることがより好ましい。また、第2固体電解質層2bの厚みも薄い方が好ましい。具体的には、0.05〜1000μmの範囲であることが好ましく、0.1μm〜200μmの範囲であることがより好ましい。
【0033】
2.正極層
正極層1は、少なくとも正極活物質を含有する層である。正極層1は、必要に応じて、固体電解質、導電助剤、結着材等を含有していてもよい。
【0034】
正極活物質としては、充電時にリチウムイオンを放出し、放電時にリチウムイオンを吸蔵することができる物質であれば使用することができる。例えば、遷移金属を有する金属酸化物、硫黄系正極活物質、有機系正極活物質、コンバージョン反応を利用したFeF
3やVF
3をあげることができる。
【0035】
遷移金属を有する金属酸化物としては、遷移金属であるMn、Co、Ni、Fe、Cr、Vのうちいずれか1つ以上とリチウムとを含む金属酸化物の粒子や薄膜を用いることができる。具体的には、α−Fe
2O
3、LiCoO
2、LiCo
2O
4、LiMnO
2、LiMn
2O
4、Li
2Mn
2O
4、LiMnCoO
4、Li
2MnCoO
4、LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2、LiNi
0.5Mn
0.5O
2、Li
2NiMn
3O
8、LiVO
2、V
2O
3、LiV
3O
3、LiC rO
2、LiFePO
4、LiCoPO
4、LiMnPO
4、LiVOPO
4、LiNiO
2、LiNi
2O
4、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2、Li
2FeSiO
4、Li
2MnSiO
4、LiFeBO
3等を挙げることができる。その中でも、LiCoO
2、LiMnO
2、LiMn
2O
4、Li
2Mn
2O
4、LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2、LiNi
0.5Mn
0.5O
2、Li
2NiMn
3O
8、LiFePO
4、LiCoPO
4、LiMnPO
4、LiVOPO
4、LiNiO
2およびLiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2が好ましい。
【0036】
硫黄系正極活物質としては、S、TiS
2、TiS
3、TiS
4、NiS、NiS
2、CuS、FeS
2、Li
2S、MoS
3、硫黄変性ポリアクリトニトリル、ルベアン酸(ジチオオキサミド)、ジスルフィド化合物等を挙げることができる。その中でも、TiS
2、TiS
3、TiS
4、NiS、NiS
2、FeS
2、Li
2S、MoS
3、硫黄変性ポリアクリトニトリル、ルベアン酸(ジチオオキサミド)が好ましい。
【0037】
有機系正極活物質としては、2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシル−4−イルメタクリレートやポリテトラメチルピペリジノキシビニルエーテルに代表されるラジカル化合物、キノン化合物、ラジアレン化合物、テトラシアキノジメタン、フェナンジオキシド等をあげることができる。その中でも、ラジカル化合物、キノン化合物は大きな理論容量を有し、放電容量を比較的良好に維持できることから好ましい。
【0038】
正極層1に用いられる固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有し、且つ正極活物質との間で安定なものであれば特に限定されないが、例えば、酸化物固体電解質、リン酸化合物固体電解質、硫化物固体電解質、およびこれらの混合系である酸硫化物系固体電解質等を挙げることができ、硫化物固体電解質であることが好ましい。特に、正極層1と第1固体電解質層2aに、同一の硫化物固体電解質が含まれることが好ましい。異なる組成の固体電解質を含む層が接すると、各層の間で固体電解質の構成元素の拡散が生じる可能性が高く、それによってリチウムイオン伝導度が低下することがあるためである。硫化物固体電解質は比較的柔らかいため、固い遷移金属酸化物正極活物質との間であっても良好な界面を形成できる。正極層1は、正極活物質と固体電解質とを共に含むバルク型であることが好ましい。
【0039】
酸化物固体電解質やリン酸化合物固体電解質としては、La
0.51Li
0.34TiO
2.94、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3、Li
7La
3Zr
2O
12、Li
2.9PO
3.3N
0.46、Li
3.6Si
0.6P
0.4O
4、Li
1.5A
l0.5Ge
1.5(PO
4)
3を挙げることができ、La
0.51Li
0.34TiO
2.94、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3、Li
7La
3Zr
2O
12であることが好ましい。硫化物固体電解質としては、上記第1固体電解質層2aで説明したものを使用することができる。特に、正極層1と第1固体電解質層2aに、同一の硫化物固体電解質が含まれることが好ましい。異なる組成の固体電解質を含む層が接すると、各層の間で固体電解質の構成元素の拡散が生じる可能性が高く、それによってリチウムイオン伝導度が低下することがあるためである。
【0040】
正極層1における正極活物質と固体電解質との割合は、正極の形状が維持でき、かつ、必要なイオン伝導性が確保できる範囲内であれば正極活物質の割合が高い方がよい。例えば、重量比で正極活物質:固体電解質=9:1〜2:8の範囲内であることが好ましく、8:2〜4:6であることがより好ましい。
【0041】
正極層1に用いられる導電助剤としては、所望の導電性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば炭素材料からなる導電助剤を挙げることができる。具体的には、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックおよびカーボンファイバー等を挙げることができる。
【0042】
正極層1における導電助剤の含有量は、所望の電子伝導性を確保できる範囲であれば、より少ないことが好ましい。正極層形成材料に対する導電助剤の割合は、例えば0.1質量%〜40質量%であり、3質量%〜30質量%であることが好ましい。
【0043】
正極層1に用いられる結着剤としては、一般的にリチウム二次電池の正極に用いられているものであれば使用することが可能である。例えば、ポリシロキサン、ポリアルキレングリコール、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)等を使用することができる。必要に応じて、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の増粘剤も使用することができる。
【0044】
正極活物質と固体電解質、導電助剤または集電体との界面状態を改善するために、正極活物質の粒子や薄膜に対して被覆層を設けることも可能である。具体的な方法としては、以下の特許文献に記載の方法が挙げられる。例えば硫化物固体電解質を用いた場合に効果的な被覆層として、特開2012−054151号公報では異種イオン伝導体界面で発生する空乏層の制御のためにLiNbO
3を用いている。また、特開2011−159639号公報には、正極活物質に対してLiNbO
3やLi
4Ti
5O
12の被覆層を設けることにより、界面抵抗が低減されることが開示されている。さらに、特開2008−103280号公報には、正極を被覆することによりレート特性が改善されることが開示されている。その被覆材としては、チタン酸スピネル、タンタル系酸化物、ニオブ系酸化物等が挙げられており、具体的には、Li
4Ti
5O
12、LiTaO
3、LiNbO
3、LiAlO
2、Li
2ZrO
3、Li
2WO
4、Li
2TiO
3、Li
2B
4O
7、Li
3PO
4、Li
2MoO
4およびLiBO
2が挙げられている。
【0045】
また、電子伝導性の低いLiFePO
4やLiCoPO
4に代表されるオリビン型の構造を有する活物質を使用する場合、電荷移動反応を円滑に行わせるために活物質を炭素で被覆することが行われ得るが、この手法は本発明においても有効である。
【0046】
正極層1の厚さは、正極層として機能する限り特に限定されないが、0.05μm〜1000μmであることが好ましく、0.1μm〜200μmであることがより好ましい。
【0047】
3.負極層
負極層3は、少なくとも負極活物質を含有する層であり、必要に応じて、固体電解質、導電助剤、結着材等を含有していてもよい。
【0048】
負極活物質としては、例えば、金属活物質、カーボン活物質等を使用することができる。上記金属活物質としては、例えばLi、In、Al、Si、Sn等を挙げることができる。一方、上記カーボン活物質としては、例えばメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等を挙げることができる。
【0049】
負極活物質としては、電極電位がより低くなるものを使用することが好ましい。そのような活物質を用いることによって電池のエネルギー密度が向上し、電池の動作電圧が高まるためである。例えば、電極電位がLi−In合金の電極電位(約0.62V;Li電極基準)以下となる負極活物質を使用することが好ましい。負極活物質の電極電位(Li電極基準)は、0〜0.6Vであることがより好ましく、0〜0.5Vであることがさらにより好ましく、0〜0.3Vであることが特に好ましい。そのような負極活物質としては、Li、カーボン活物質、Si等が挙げられる。通常、リチウム金属やカーボン活物質のように電極電位が0V付近(Li電極基準)の負極活物質を用いて電池を構成すると、硫化物固体電解質の還元反応が生じることが懸念される。しかしながら、本実施形態によると、負極活物質と硫化物固体電解質が接していないため、負極活物質による硫化物固体電解質の還元反応が生じない。従って、電極電位が0V付近の負極活物質を問題なく使用でき、また、長期間にわたって安定に電池を動作させることができる。
【0050】
負極層3に用いられる固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有し、且つ負極活物質との間で安定なものであれば特に限定されないが、例えば、錯体水素化物固体電解質を使用することができる。錯体水素化物固体電解質は比較的柔らかいため、グラファイト等の負極活物質との間で良好な界面を形成できる。負極層3は、負極活物質と固体電解質とを共に含むバルク型であることが好ましい。負極層3に含まれる錯体水素化物固体電解質としては、上記第2固体電解質層2bで説明したものを使用することができる。特に、負極層3と第2固体電解質層2bに、同一の錯体水素化物固体電解質が含まれることが好ましい。異なる組成の固体電解質を含む層が接すると、各層の間で固体電解質の構成元素の拡散が生じる可能性が高く、それによってリチウムイオン伝導度が低下することがあるためである。
【0051】
負極活物質と固体電解質との割合は、負極の形状が維持でき、かつ、必要なイオン伝導性が確保できる範囲内であれば負極活物質の割合が高い方がよい。例えば、重量比で負極活物質:固体電解質=9:1〜2:8の範囲内であることが好ましく、8:2〜4:6であることがより好ましい。
【0052】
負極層3に用いられる導電助剤としては、正極層1における導電助剤と同様のものを使用することができる。負極層形成材料に対する導電助剤の割合は、例えば0.1質量%〜20質量%であり、3質量%〜15質量%であることが好ましい。
【0053】
負極層3に用いられる結着剤としては、一般的にリチウム二次電池の負極に用いられているものであれば使用することが可能である。例えば、ポリシロキサン、ポリアルキレングリコール、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸等が挙げられる。必要に応じて、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の増粘剤も使用することができる。
【0054】
負極層3の厚さは、負極層として機能する限り限定されないが、0.05μm〜1000μmであることが好ましく、0.1μm〜200μmであることがより好ましい。
【0055】
(第2実施形態)
図2は、本発明の第2実施形態に係る全固体電池の断面図である。
第2実施形態に係る全固体電池10は、正極層1と負極層3との間に、錯体水素化物固体電解質を含む第2固体電解質層2bが配置された構造を有する。すなわち、第2実施形態に係る全固体電池10は、第1実施形態における第1固体電解質層2aを含まない。第2実施形態において、正極層1は、正極活物質および硫化物固体電解質を少なくとも含む。正極層1に含まれる正極活物質および硫化物固体電解質については第1実施形態で述べた通りである。第2固体電解質層2bおよび負極層3についても、第1実施形態で述べた通りである。
【0056】
第2実施形態においても、正極層1に含まれる硫化物固体電解質の少なくとも一部と第2固体電解質層2bに含まれる錯体水素化物固体電解質の少なくとも一部とが接する構造となる。さらに、正極層1において正極活物質と硫化物固体電解質とが接しており、負極層3における負極活物質と第2固体電解質層2bにおける錯体水素化物固体電解質とが隣接する層に位置する。従って、第1実施形態と同様、第2実施形態の全固体電池においても、各層の間で大きな界面抵抗を生じることがないため、電池全体のリチウムイオン伝導性を向上させることができる。また、負極活物質と硫化物固体電解質が接していないため、負極活物質による硫化物固体電解質の還元を防ぐことができ、それによる効果も第1実施形態と同様である。
【0057】
上述したように、錯体水素化物と正極活物質とが直接接触する場合、錯体水素化物による正極活物質の還元が懸念される。本実施形態においては、第2固体電解質層2bに含まれる錯体水素化物固体電解質と正極層1に含まれる正極活物質の一部とが接する構造をとるが、正極活物質の還元による電池抵抗の増加が生じにくい。その理由は定かではないが、錯体水素化物固体電解質と正極活物質とが反応するよりも先に、錯体水素化物固体電解質と正極層1に含まれる硫化物固体電解質とが反応し、その反応した部分は正極活物質との反応性が低下すると考えられる。あるいは、正極活物質と錯体水素化物固体電解質とが反応したとしても、電池抵抗の増加や電池容量の低下につながりにくい状態にあると考えられる。その結果、錯体水素化物固体電解質と正極活物質とが接触していても、錯体水素化物による正極活物質の還元を懸念することなく、リチウムイオン伝導性の高い錯体水素化物を固体電解質として使用することができる。そして、上記のように電池抵抗の増加が抑制される結果、充放電サイクルを繰り返しても長期間にわたって安定に動作する全固体電池を提供することができると推定される。
【0058】
(第3実施形態)
図3は、本発明の第3実施形態に係る全固体電池の断面図である。
第3実施形態に係る全固体電池10は、正極層1と負極層3との間に、硫化物固体電解質を含む第1固体電解質層2aが配置された構造を有する。すなわち、第3実施形態に係る全固体電池10は、第1実施形態における第2固体電解質層2bを含まない。第3実施形態において、負極層3は、負極活物質および錯体水素化物固体電解質を少なくとも含む。負極層3に含まれる負極活物質および錯体水素化物固体電解質については、第1実施形態で述べた通りである。第1固体電解質層2aおよび正極層1についても、第1実施形態で述べた通りである。
【0059】
第3実施形態においても、負極層3に含まれる錯体水素化物固体電解質の少なくとも一部と第1固体電解質層2aに含まれる硫化物固体電解質の少なくとも一部とが接する構造となる。さらに、負極層3において負極活物質と錯体水素化物固体電解質とが接しており、正極層1における正極活物質と第1固体電解質層2aにおける硫化物固体電解質とが隣接する層に位置する。従って、第1実施形態と同様、第3実施形態の全固体電池においても、各層の間で大きな界面抵抗を生じることがないため、電池全体のリチウムイオン伝導性を向上させることができる。また、錯体水素化物固体電解質と正極活物質とが直接接触しないため、錯体水素化物による正極活物質の還元を防ぐことができ、それによる効果も第1実施形態と同様である。
【0060】
上述したように、電極電位が0V付近(Li電極基準)の負極活物質と硫化物固体電解質とが直接接触する場合、負極活物質による硫化物固体電解質の還元が懸念される。本実施形態においては、第1固体電解質層2aに含まれる硫化物固体電解質と負極層3に含まれる負極活物質の一部とが接する構造をとるが、負極活物質の還元による電池抵抗の増加が生じにくい。その理由は定かではないが、硫化物固体電解質と負極活物質とが反応するよりも先に、硫化物固体電解質と負極層3に含まれる錯体水素化物固体電解質とが反応し、その反応した部分は負極活物質との反応性が低下すると考えられる。あるいは、硫化物固体電解質と負極活物質とが反応したとしても、電池抵抗の増加や電池容量の低下につながりにくい状態にあると考えられる。その結果、負極活物質による硫化物固体電解質の還元を懸念することなく、電極電位が0V付近(リチウム電極基準)の負極活物質を使用することができ、このような負極活物質を使用することにより、動作電圧の高い電池を得ることができる。また、上記のように電池抵抗の増加が抑制される結果、充放電サイクルを繰り返しても長期間にわたって安定に動作する全固体電池を提供することができると推定される。
【0061】
以上、第1〜第3実施形態によると、
正極層と、負極層と、前記正極層と前記負極層との間に配置されたリチウムイオン伝導性を有する固体電解質層とを具備し、
前記正極層および前記固体電解質層のいずれか一方または両方は、硫化物固体電解質を含み、前記負極層および前記固体電解質層のいずれか一方または両方は、錯体水素化物固体電解質を含み、
前記硫化物固体電解質の少なくとも一部と前記錯体水素化物固体電解質の少なくとも一部とが接している
全固体電池が提供される。
【0062】
(全固体電池の製造方法)
続いて、上述した全固体電池の製造方法について説明する。
上述した各層を形成して積層し、全固体電池を製造するが、各層の形成方法および積層方法については、特に限定されるものではない。例えば、固体電解質や電極活物質を溶媒に分散させてスラリー状としたものをドクターブレード、スピンコート等により塗布し、それを圧延することにより製膜する方法;真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、レーザーアブレーション法等を用いて成膜および積層を行う気相法;ホットプレスまたは温度をかけないコールドプレスによって粉末を成形し、それを積層していくプレス法等がある。硫化物固体電解質および錯体水素化物固体電解質はどちらもやわらかいことから、プレスによって成形および積層して電池を作製することが特に好ましい。また、正極層は、ゾルゲル法を用いて成膜することもできる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明の内容がこれにより限定されるものではない。
<実施例1>
(錯体水素化物固体電解質の調製)
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、LiBH
4(アルドリッチ社製、純度90%)とLiI(アルドリッチ社製、純度99.999%)とを、LiBH
4:LiI=3:1のモル比になるようにメノウ乳鉢にて混合した。次に、混合した出発原料を45mLのSUJ−2製ポットに投入し、さらにSUJ−2製ボール(φ7mm、20個)を投入して、ポットを完全に密閉した。このポットを遊星型ボールミル機(フリッチェ製P7)に取り付け、回転数400rpmで5時間メカニカルミリングを行い、錯体水素化物固体電解質(3LiBH
4−LiI)を得た。
【0064】
(硫化物固体電解質の調製)
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、Li
2S(アルドリッチ社製、純度99%)とP
2S
5(アルドリッチ社製、純度99%)とを、Li
2S:P
2S
5=8:2のモル比になるようにメノウ乳鉢にて混合した。次に、混合した出発原料を45mLのジルコニアポットに投入し、さらにジルコニアボール(φ5mm、160個)を投入して、ポットを完全に密閉した。このポットを遊星型ボールミル機(フリッチェ製P7)に取り付け、回転数510rpmで12時間メカニカルミリングを行い、硫化物固体電解質(80Li
2S−20P
2S
5)を得た。
【0065】
(正極層粉末の調製)
リチウムエトキシド(LiOC
2H
5)とニオブペンタエトキシド[Nb(OC
2H
5)
5]を脱水したエタノールに溶かし、溶質濃度5重量%の溶液とした。この溶液を、転動流動装置(株式会社パウレック社製MP−01)にてLiCoO
2(日本化学工業製セルシードC−5H)へスプレーコートした。それを空気存在下、350℃で3時間焼成して、LiCoO
2の表面にLiNbO
3膜を約10nm形成させ、正極活物質とした。次に、重量比で、正極活物質:硫化物固体電解質(80Li
2S−20P
2S
5):ケッチェンブラック(導電助剤)=40:60:9とした粉末をグローブボックス内で計り取り、乳鉢にて混合して正極層粉末とした。
【0066】
(全固体電池の作製)
上記で調製した錯体水素化物固体電解質の粉末を直径10mmの粉末錠剤成形機に入れ、圧力28MPaにて円盤状にプレス成形した(第2固体電解質層の形成;以下、錯体水素化物固体電解質層とも称する)。成形物を取り出すことなく、続けて上記で調製した硫化物固体電解質の粉末を錠剤成形機に入れ、再び圧力28MPaにてプレス成形した(第1固体電解質層の形成;以下、硫化物固体電解質層とも称する)。更に、上記で調製した正極層粉末を入れ、圧力240MPaにて一体成型した。このようにして、正極層(75μm)、硫化物固体電解質層(400μm)および錯体水素化物固体電解質層(400μm)が順次積層された円盤状のペレットを得た。このペレットの正極層と反対の面に、厚さ200μm、φ10mmの金属リチウム箔を貼り付け、SUS304製の電池試験セルに入れて全固体二次電池とした。
(充放電試験)
上記のように作製した全固体電池について、ポテンショスタット/ガルバノスタット(Bio−Logic製VMP3)を用い、測定温度25℃、カットオフ電圧3.2〜4.2V、電流密度0.064mA/cm
2(50.3μA)の条件の下で定電流にて充放電を行った。なお、充電後と放電後にはそれぞれ3分間の休止を設けた。
【0067】
<実施例2>
硫化物固体電解質層を設けずに錯体水素化物固体電解質層の厚みを800μmとした以外は、実施例1と同様に全固体電池を作製した。充放電試験についても、実施例1と同様に行った。
【0068】
<実施例3>
錯体水素化物固体電解質層、硫化物固体電解質層および正極層については、実施例1と同様の材料を使用した。
(全固体電池の作製)
錯体水素化物固体電解質の粉末を直径10mmの粉末錠剤成形機に入れ、圧力28MPaにて円盤状にプレス成形した(錯体水素化物固体電解質層の形成)。成形物を取り出すことなく、続けて硫化物固体電解質の粉末を錠剤成形機に入れ、再び圧力28MPaにてプレス成形した(硫化物固体電解質層の形成)。このペレットの錯体水素化物固体電解質層側に、厚さ100μm、φ8mmのインジウム箔を貼り付け、その反対面には正極層粉末を入れ、圧力240MPaにて一体成型した。このようにして、正極層(75μm)、硫化物固体電解質層400μm、錯体水素化物固体電解質層400μmおよび負極層70μm(インジウム箔はφ9mmに広がっていた)が順次積層された円盤状のペレットを得た。これをSUS304製の電池試験セルに入れて、全固体二次電池とした。なお、電池の充電を開始すると、インジウム箔からLi−In合金が瞬時に形成される。
【0069】
(充放電試験)
充放電試験は、カットオフ電圧を2.0〜3.6V(Li電極基準で2.62〜4.22V)とした以外は実施例1と同様に行った。
【0070】
<実施例4>
硫化物固体電解質層を設けずに錯体水素化物固体電解質層の厚みを800μmとした以外は、実施例3と同様に全固体電池を作製した。充放電試験については、実施例1と同様に行った。
【0071】
<実施例5>
錯体水素化物固体電解質層、硫化物固体電解質層および正極層については、実施例1と同様の材料を使用した。
(負極層粉末の調製)
重量比で、グラファイト(日本黒鉛製CGB−10):錯体水素化物固体電解質(3LiBH
4−LiI):ケッチェンブラック(導電助剤)=27:64:9とした粉末をグローブボックス内で計り取り、乳鉢にて混合して負極層粉末とした。
【0072】
(全固体電池の作製)
上記で調製した負極層粉末を直径10mmの粉末錠剤成形機に入れ、圧力28MPaにて円盤状にプレス成形した(負極層の形成)。成形物を取り出すことなく、続けて錯体水素化物固体電解質を錠剤成形機に入れ、再び圧力28MPaにてプレス成形した(錯体水素化物固体電解質層の形成)。次に、硫化物固体電解質を錠剤成形機に入れ、圧力28MPaにてプレス成形した(硫化物固体電解質層の形成)。更に、正極層粉末を入れ、圧力240MPaにて一体成型した。このようにして、正極層(75μm)、硫化物固体電解質層(400μm)、錯体水素化物固体電解質層(400μm)および負極層(75μm)が順次積層された円盤状のペレットを得た。これをSUS304製の電池試験セルに入れて、全固体二次電池とした。
【0073】
(充放電試験)
充放電試験については、カットオフ電圧を3.1〜4.1V(Li基準で3.2〜4.2V)とした以外は実施例1と同様に行った。
【0074】
<実施例6>
錯体水素化物固体電解質層を設けずに硫化物固体電解質層の厚みを800μmとした以外は、実施例5と同様に全固体電池を作製した。充放電試験については、実施例1と同様に行った。
【0075】
<比較例1>
錯体水素化物固体電解質層を設けずに硫化物固体電解質層の厚みを800μmとした以外は、実施例1と同様に全固体電池を作製した。充放電試験についても、実施例1と同様に行った。
【0076】
<比較例2>
正極活物質をLiCoO
2(日本化学工業製日本化学工業製セルシードC−5H、LiNbO
3コート無し)とし、「正極層粉末」に用いる固体電解質を錯体水素化物(3LiBH
4−LiI)とした以外は、実施例2と同様に全固体電池を作製した。充放電試験については、実施例1と同様に行った。
【0077】
<比較例3>
正極層に含まれる固体電解質および固体電解質層に含まれる錯体水素化物固体電解質をLiBH
4とした以外は、実施例2と同様に全固体電池を作製した。充放電試験については、試験温度を120℃とした以外は実施例1と同様に行った。
【0078】
<比較例4>
正極活物質をカーボンコートされたLiFePO
4(SLFP−ES01)とし、正極層に含まれる固体電解質を錯体水素化物(3LiBH
4−LiI)とした以外は、実施例2と同様に全固体電池を作製した。充放電試験については、カットオフ電圧を2.5〜3.8Vとした以外は実施例1と同様に行った。
【0079】
上記実施例1〜6および比較例1〜4の電池構成を、以下の表1にまとめる。また、1サイクル目から20サイクル目までの放電容量の推移を
図4に示す。さらに、1サイクル目および20サイクル目における放電容量、電池抵抗およびクーロン効率を、以下の表2に示す。なお、放電容量は、試験した電池で得られた放電容量を正極活物質1g当たりの値として表記した。電池抵抗は、充電休止10秒後のIRドロップより算出した。クーロン効率は、放電容量/充電容量より算出した。
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
比較例2〜4は、放電容量を得られず、電池として機能しなかった。上記試験結果より、本発明の実施形態に係る全固体電池は、充放電サイクルを繰り返しても抵抗が増大しにくく、それに伴い放電容量も低下しにくいことが分かる。従って、本発明の実施形態に係る全固体電池は、長期にわたって安定に動作可能であると言える。また、本発明の実施形態に係る全固体電池は、充放電サイクルを繰り返した後であってもクーロン効率が低下しにくいという利点も有することが分かった。
さらに、上述したように、本発明の実施形態に係る全固体電池は、錯体水素化物による正極活物質の還元を懸念することなくリチウムイオン伝導性の高い錯体水素化物を固体電解質として使用することができる。また、全固体電池を構成する各層の間で大きな界面抵抗を生じることがないため、電池全体のリチウムイオン伝導性を向上させることもできる。
【0082】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。