特許第6246843号(P6246843)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6246843
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】医療システム及び表示方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 34/10 20160101AFI20171204BHJP
   A61B 18/12 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   A61B34/10
   A61B18/12
【請求項の数】14
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-14588(P2016-14588)
(22)【出願日】2016年1月28日
(65)【公開番号】特開2017-131434(P2017-131434A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2017年1月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒井 修
【審査官】 大屋 静男
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0196385(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0058387(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0317351(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/12
A61B 34/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内から取得されたデータに基づいて前記生体内の組織を表した組織画像を形成する組織画像形成手段と、
前記組織を焼灼治療するための電極群を模擬した電気的なモデルである電荷モデルに基づいて、前記電極群による焼灼治療が及ぶ範囲の目安となる焼灼像を生成する焼灼像生成手段と、
前記組織画像と前記焼灼像とからなる合成画像を表示する表示手段と、
を含む、ことを特徴とする医療システム。
【請求項2】
請求項1記載のシステムにおいて、
前記データは、超音波診断装置、X線CT装置又はMRI装置により得られたデータである、
ことを特徴とする医療システム。
【請求項3】
請求項記載のシステムにおいて、
前記電荷モデルは、前記各電極を1又は複数の点電荷によって表現した点電荷モデルである、
ことを特徴とする医療システム。
【請求項4】
請求項3記載のシステムにおいて、
前記電極群は複数の第1電極と複数の第2電極とで構成され、
前記各第1電極が複数の正電荷によって模擬され、前記各第2電極が複数の負電荷によって模擬される、
ことを特徴とする医療システム。
【請求項5】
請求項記載のシステムにおいて、
前記焼灼像生成手段は、
前記電荷モデルに基づいて、前記電極群の中から選択される複数の電極ペアに対応する複数の電位分布を演算する電位分布演算手段と、
前記複数の電位分布に基づいて、複数の電場分布を演算する電場分布演算手段と、
前記複数の電場分布に基づいて、合成電場分布を演算する合成電場分布演算手段と、
前記合成電場分布に基づいて、前記焼灼像を生成する手段と、
を含むことを特徴とする医療システム。
【請求項6】
請求項記載のシステムにおいて、
前記焼灼像生成手段は、
前記電荷モデルに基づいて、前記電極群の中から選択される複数の電極ペアに対応する複数の電位分布を演算する電位分布演算手段と、
前記複数の電位分布に基づいて、複数の電場分布を演算する電場分布演算手段と、
前記複数の電場分布に基づいて、複数の焼灼像を生成する手段を含む、
ことを特徴とする医療システム。
【請求項7】
請求項1記載のシステムにおいて、
前記電極群は複数の穿刺針に設けられた複数の電極により構成され、
前記複数の穿刺針についての位置情報と前記各穿刺針上における複数の電極についての位置情報とに基づいて、前記電気的なモデルを定義する定義手段が設けられた、
ことを特徴とする医療システム。
【請求項8】
請求項1記載のシステムにおいて、
前記組織画像は、超音波ビーム走査面に対応する断層画像又は超音波ビーム走査面に直交する断面に対応する断層画像である、
ことを特徴とする医療システム。
【請求項9】
請求項1記載のシステムにおいて、
前記組織画像は、超音波ビーム走査面を含む三次元空間を表した三次元画像である、
ことを特徴とする医療システム。
【請求項10】
請求項1記載のシステムにおいて、
前記焼灼像生成手段は、前記電極群を有する複数の穿刺針を生体内へ挿入する前の治療計画段階で前記焼灼像を生成する、
ことを特徴とする医療システム。
【請求項11】
請求項1記載のシステムにおいて、
前記焼灼像生成手段は、前記電極群を有する複数の穿刺針の一部又は全部を生体内に挿入した後であって焼灼治療を行う前の確認段階で前記焼灼像を生成する、
ことを特徴とする医療システム。
【請求項12】
請求項1記載のシステムにおいて、
前記焼灼像生成手段は、前記電気的なモデルから計算される電場分布に対して色付け処理を施すことにより前記焼灼像としてカラー焼灼像を生成し、
前記色付け処理の条件をユーザーにより変更する手段が設けられた、
ことを特徴とする医療システム。
【請求項13】
医療システムにおける表示方法において、
生体内から取得されたデータに基づいて、前記生体内の組織を表した組織画像を形成する工程と、
前記生体内の組織を焼灼治療するための電極群を模擬した電気的なモデルである電荷モデルに基づいて、前記電極群による焼灼治療が及ぶ範囲の目安となる焼灼像を生成する工程と、
前記組織画像と前記焼灼像とからなる合成画像を表示する工程と、
を含む、ことを特徴とする表示方法。
【請求項14】
情報処理装置において表示方法を実行するプログラムであって、
前記表示方法が、
生体内から取得されたデータに基づいて、前記生体内の組織を表した組織画像を形成する工程と、
前記生体内の組織を焼灼治療するための電極群を模擬した電気的なモデルである電荷モデルに基づいて、前記電極群による焼灼治療が及ぶ範囲の目安となる焼灼像を生成する工程と、
前記組織画像と前記焼灼像とからなる合成画像を表示する工程と、
を含む、ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療システムに関し、特に、体内に挿入される複数の治療器具により組織の治療を行うシステムにおける表示技術に関する。
【背景技術】
【0002】
医療の分野において、超音波診断システム、X線診断システム、MRIシステム等が広く利用されている。治療機器と共にそれらの医療システムが利用されることもある。治療機器として、高周波電流(ラジオ波)により組織(例えば悪性腫瘍)を焼灼する焼灼治療用穿刺針が知られている。これは焼灼によって組織を凝固、壊死させるものである。これに関しては、バイポーラ型焼灼治療装置及びモノポーラ型焼灼治療装置が知られている。
【0003】
バイポーラ型焼灼治療装置は、一般に、焼灼治療用穿刺針が第1電極及び第2電極を備えている。生体内に複数のバイポーラ型焼灼治療用穿刺針を同時に差し込み、その状態で、それらが有する電極群(空間的に配置された複数の電極)を利用して、組織を焼灼することも行われている(複数本穿刺方式)。その場合、典型的には、電極群の中から電極ペアが順次、選択及び駆動される。そのような複数本穿刺方式においては、最終的に得られる治療範囲は、複数の電極ペアによる焼灼治療の結果として生じる複数の個別治療範囲の総和となる。なお、モノポーラ型焼灼治療装置は、一般に、単一の電極を有する焼灼治療用穿刺針と、体表面(例えば背中の表面)上に接合される対極板と、を有する。
【0004】
特許文献1には、超音波画像上に焼灼治療範囲の目安を表す像が合成表示される医療システムが開示されている。その像の生成に際しては穿刺針に設けられた温度センサでの検出温度が利用されている。特許文献2には、複数の焼灼治療用穿刺針が生体内に同時に差し込まれる場合において、超音波画像上又は他の画像上に、焼灼治療範囲を表示することが記載されている。しかし、その文献には焼灼治療範囲の具体的な計算方法までは明記されていない。特許文献1,2のいずれにも、電気的なモデル及びその利用については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3875841号公報
【特許文献2】特開2001−123181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
穿刺針を利用して組織の焼灼治療を行う場合、それに先立って、対象となる組織(ターゲット)との関係で、焼灼範囲(あるいは治療範囲)の形態等を予想する必要がある。特に、複数の穿刺針を利用して組織の焼灼治療を行う場合、複数の穿刺針の空間的な関係は区々となるから、焼灼範囲の形態を事前に想定し難い。これは複数の穿刺針の位置決めの困難性を生じさせるものである。また、焼灼治療前に焼灼範囲に関する情報が得られれば、電極ペアの選択を適切に行えるが、現状において、そのような情報は得られていない。電極群の構成や位置関係が変化しても、焼灼範囲の目安を容易に求めることが可能な技術の実現が要望されている。
【0007】
本発明の目的は、組織の焼灼治療において、安全性を高め、あるいは、治療効果を高められるようにすることにある。あるいは、本発明の目的は、複数の焼灼治療用穿刺針による焼灼治療に先立って、焼灼範囲についての目安が得られるようにすることにある。あるいは、本発明の目的は、生体内における複数の電極についての空間的な関係が様々であっても、焼灼範囲の形態を示す視覚的な情報を簡単に演算することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る医療システムは、生体内から取得されたデータに基づいて前記生体内の組織を表した組織画像を形成する組織画像形成手段と、前記組織を焼灼治療するための電極群を模擬した電気的なモデルに基づいて、前記電極群による焼灼治療が及ぶ範囲の目安となる焼灼像を生成する焼灼像生成手段と、前記組織画像と前記焼灼像とからなる合成画像を表示する表示手段と、を含む、ことを特徴とするものである。
【0009】
生体内において焼灼治療が及ぶ範囲(焼灼範囲)を厳密に予測することは難しいけれども、上記構成によれば、電極群を電気的なモデルで模擬し、そのモデルに基づいて焼灼範囲の目安となる焼灼像を簡便に生成することが可能である。組織画像上に焼灼像が合成されるので、組織との関係で焼灼像を評価することが可能である。
【0010】
電気的なモデルは、望ましくは、電荷モデル又はそれに相当する(場を定義可能な)モデルである。電荷モデルによれば、空間内における電位分布を求めることが可能であり、電位分布から電場分布を求めることが可能である。電荷モデルから一度の演算で電場分布を演算してもよい。電場分布は電流密度分布に関係するので、電場分布と焼灼範囲には一定の相関があると言える。これに基づいて、電場分布を焼灼像として表示するのが望ましい。生体内においては電気的抵抗は一様ではなく、熱を輸送する血管等も存在している。しかも、治療時間(印加時間)等も焼灼範囲を決める要因をなす。焼灼像は焼灼範囲を正確に表すものではないが、焼灼範囲の目安として機能するものであり、特に、焼灼像の形態から焼灼範囲のおよその形態を認識することが可能である。焼灼像の形態から電極群の配列の適否を判断することが可能である。
【0011】
上記のデータは、例えば、超音波診断装置、X線CT装置、MRI装置等によって得られたデータであり、望ましくは、ボリュームデータである。そのデータが超音波診断によってリアルタイムで取得されたデータであってもよい。組織画像は二次元画像又は三次元画像(組織を三次元表現した画像)である。
【0012】
望ましくは、前記電荷モデルは、前記各電極を1又は複数の点電荷によって表現した点電荷モデルである。望ましくは、前記電極群は複数の第1電極と複数の第2電極とで構成れ、前記各第1電極が複数の正電荷によって模擬され、前記各第2電極が複数の負電荷によって模擬される。このようにバイポーラ型の電極群を模擬する場合、仮想的な正電荷及び負電荷が利用される。点電荷モデルを利用すれば計算が簡易となる。もっとも、線電荷、面電荷等によって各電極を模擬するようにしてもよい。いずれの場合も電荷モデルの利用と言い得る。
【0013】
望ましくは、前記焼灼像生成手段は、前記電荷モデルに基づいて、前記電極群の中から選択される複数の電極ペアに対応する複数の電位分布を演算する電位分布演算手段と、前記複数の電位分布に基づいて、複数の電場分布を演算する電場分布演算手段と、前記複数の電場分布に基づいて、合成電場分布を演算する合成電場分布演算手段と、前記合成電場分布に基づいて、前記焼灼像を生成する手段と、を含む。この構成によれば、実際に使用する複数の電極ペアに応じた焼灼像を生成することが可能である。
【0014】
望ましくは、前記焼灼像生成手段は、前記電荷モデルに基づいて、前記電極群の中から選択される複数の電極ペアに対応する複数の電位分布を演算する電位分布演算手段と、前記複数の電位分布に基づいて、複数の電場分布を演算する電場分布演算手段と、前記複数の電場分布に基づいて、複数の焼灼像を生成する手段を含む。この構成によれば、個々の電極ペアに対応する焼灼範囲の目安を得られる。複数の焼灼像が切り換え表示されてもよいし、合成表示されてもよい。
【0015】
望ましくは、前記電極群は複数の穿刺針に設けられた複数の電極により構成され、前記複数の穿刺針についての位置情報と前記各穿刺針上における複数の電極についての位置情報とに基づいて、前記電気的なモデルを定義する定義手段が設けられる。前者の位置情報は、例えば、穿刺針を保持する超音波プローブに設けられたセンサにより取得される。穿刺針自身にセンサを設けるようにしてもよい。後者の位置情報は、穿刺針のタイプから自動的に特定してもよいし、ユーザーによって入力するようにしてもよい。いずれにしても、電極群を構成する個々の電極の位置が特定される。望ましくは、個々の電極の長さも特定される。更に、個々の電極の太さ等が特定されてもよい。それらの特定が電荷モデルを定義する前提となる。
【0016】
望ましくは、前記組織画像は、超音波ビーム走査面に対応する断層画像又は超音波ビーム走査面に直交する断面に対応する断層画像である。望ましくは、前記組織画像は、超音波ビーム走査面を含む三次元空間を表した三次元画像である。
【0017】
望ましくは、前記焼灼像生成手段は、前記電極群を有する複数の穿刺針を生体内へ挿入する前の治療計画段階で前記焼灼像を生成する。望ましくは、前記焼灼像生成手段は、前記電極群を有する複数の穿刺針の一部又は全部を生体内に挿入した後であって焼灼治療を行う前の確認段階で前記焼灼像を生成する。
【0018】
望ましくは、前記焼灼像生成手段は、前記電気的なモデルから計算される電場分布に対して色付け処理を施すことにより前記焼灼像としてカラー焼灼像を生成し、前記色付け処理の条件をユーザーにより変更する手段が設けられる。閾値以上の電場を有する部分だけを着色するようにしてもよい。閾値以上の電場の大きさを有する部分を囲むラインを表示するようにしてもよい。
【0019】
本発明に係る表示方法は、生体内から取得されたデータに基づいて、前記生体内の組織を表した組織画像を形成する工程と、前記生体内の組織を焼灼治療するための電極群を模擬した電気的なモデルに基づいて、前記電極群による焼灼治療が及ぶ範囲の目安となる焼灼像を生成する工程と、前記組織画像と前記焼灼像とからなる合成画像を表示する工程と、を含む、ことを特徴とするものである。この表示方法を実行するプログラムは記憶媒体上に格納され、あるいは、ネットワークを介して配信される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、組織の焼灼治療において、安全性を高められ、あるいは、治療効果を高められる。あるいは、本発明によれば、複数の焼灼治療用穿刺針による焼灼治療に先立って、焼灼範囲の目安が得られる。あるいは、本発明によれば、生体内における複数の電極についての空間的な関係が様々であっても、焼灼範囲の形態を示す視覚的な情報を簡単に演算できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る医療システムの好適な実施形態を示すブロック図である。
図2】焼灼治療用穿刺針の一例を示す図である。
図3】複数の焼灼治療用穿刺針の配置例を示す図である。
図4】複数の磁気センサ付き焼灼治療用穿刺針の配置例を示す図である。
図5】焼灼像生成処理の第1例を示すフローチャートである。
図6】色付け関数の一例を示す図である。
図7】焼灼像生成処理の第2例を示すフローチャートである。
図8】ナビゲーション画像の一例を示す図である。
図9】焼灼像が合成されたナビゲーション画像の一例を示す図である。
図10】バイポーラ方式に従う2個の電極を示す図である。
図11図10に示した2個の電極を模擬した点電荷モデルを示す図である。
図12図11に示した点電荷モデルに基づく電位分布を示す図である。
図13図12に示した電位分布から求められる電場分布を示す図である。
図14】バイポーラ方式に従う4個の電極を模擬した点電荷モデルを示す図である。
図15】6種類の電極ペアを示す図である。
図16】6種類の電極ペアに対応する6種類の電位分布を示す図である。
図17】6種類の電位分布から求められる6種類の電場分布を示す図である。
図18】6種類の電場分布に基づく合成電場分布を示す図である。
図19】モノポーラ方式に従う単一の電極を示す図である。
図20図19に示した電極を模擬した点電荷モデルを示す図である。
図21図20に示した点電荷モデルに基づく電位分布を示す図である。
図22図21に示した電位分布から求められる電場分布を示す図である。
図23】モノポーラ方式に従う2個の電極を模擬した点電荷モデルを示す図である。
図24】2個の電極に対応する2個の電位分布を示す図である。
図25】2個の電位分布から求められる2個の電場分布を示す図である。
図26】2個の電極を順次用いて2回の焼灼治療を行う場合における合成電場分布を示す図である。
図27】2個の電極を同時に用いて焼灼治療を行う場合における合成電場分布を示す図である。
図28】二次元合成電場分布に基づく二次元カラー焼灼像の生成を示す図である。
図29】三次元合成電場分布に基づく二次元カラー焼灼像の生成を示す図である。
図30】三次元合成電場分布に基づく三次元カラー焼灼像の生成を示す図である。
図31】焼灼像生成処理の第3例を示すフローチャートである。
図32】情報処理装置の要部構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
図1には、本発明に係る超音波診断システムがブロック図として示されている。この超音波診断システムは医療システムであり、それは複数の穿刺針の穿刺を支援する機能を備えている。個々の穿刺針は焼灼治療用の穿刺器具である。この超音波診断システムは、穿刺後且つ治療前の確認段階において、あるいは、穿刺前の治療計画段階において、焼灼範囲(特に焼灼範囲の形態)を予測する上で参考になる焼灼像を生成する機能を有している。
【0024】
図1において、プローブ10は、本実施形態において、生体の表面上に当接して用いられる超音波送受波器である。プローブ10は、図示されていないプローブケーブルを介して超音波診断システム本体に接続されている。プローブ10は、複数の振動素子からなる1Dアレイ振動子を有している。もちろん、1Dアレイ振動子に代えて2Dアレイ振動子を設けることも可能である。アレイ振動子により超音波ビームが形成され、その超音波ビームを電子走査することにより、走査面12が形成される。走査面12は、二次元データ取込領域である。
【0025】
図1において、rは深さ方向すなわちビーム方向を表しており、θは電子走査方向を表している。電子走査方式として、電子リニア走査方式、電子セクタ走査方式、等が知られている。
【0026】
走査面12上にはターゲット(治療対象組織)の断面14が現れている。プローブ10は、ユーザー(通常、検査者及び治療者としての医師)によって保持されるプローブ本体10Aを有し、それには穿刺アダプタ16が着脱自在に取り付けられている。穿刺アダプタ16は、プローブ本体10Aに対して、一定の距離且つ一定の角度をもって、穿刺針18を保持、案内する金具である。図1においては、穿刺方向すなわち穿刺経路が符号20で特定されている。図1においては、ターゲットの断面14を穿刺経路20が通過している。実際の穿刺経路が走査面12内に含まれるように、つまり、穿刺針が走査面内を前進運動するように、穿刺アダプタ16によって穿刺針18が保持される。穿刺アダプタ16に挿入量を検出するセンサを設けるようにしてもよい。穿刺アダプタ16に、穿刺角度及び穿刺針保持位置を可変できる機構を設けてもよい。そのような場合には、穿刺角度や穿刺位置がセンサ等によって検出される。このように、プローブ10を基準として穿刺経路20が特定される。もっとも、後に説明するように、穿刺針18自体にその位置情報を検出するためのセンサを設けるようにしてもよい。
【0027】
プローブ10は磁気センサ22を備えている。この磁気センサ22は、三次元空間内におけるプローブ10の位置及び姿勢を検出するものである。三次元空間内に配置された磁場発生器24は、位置検出用の磁場を発生する機能を有し、磁気センサ22はその磁場を検出する。これにより、各軸方向の位置及び各軸回りの角度が特定される。具体的には、位置演算部26が、磁気センサ22の出力信号に基づいて、プローブ10の位置及び姿勢を示す位置情報を演算している。位置演算部26は磁場発生器24のコントローラとしても機能している。磁気センサ22、磁場発生器24及び位置演算部26によって、側位システム28が構成されている。測位方式として、磁気方式の他、光学的方式、電磁波方式、その他があげられる。
【0028】
送信部30は送信回路としての送信ビームフォーマーである。送信部30からアレイ振動子に対して複数の送信信号が並列的に供給される。これによりアレイ振動子上において送信ビームが形成される。受信時において、生体内からの反射波がアレイ振動子にて受波される。これにより、複数の振動素子からの複数の受信信号が受信部32へ送られる。受信部32は受信回路としての受信ビームフォーマーである。それは、複数の受信信号に対する整相加算処理により、受信ビームに相当するビームデータを生成する。そのビームデータは、図示されていない信号処理モジュールを経由して、断層画像形成部34へ送られている。
【0029】
具体的には、断層画像形成部34には、複数の受信フレームデータが順次入力される。1つの受信フレームデータは電子走査方向に並ぶ複数のビームデータにより構成される。各ビームデータは深さ方向に並ぶ複数のエコーデータにより構成される。
【0030】
断層画像形成部34は、受信フレームデータに基づいて、Bモード画像としてのリアルタイム断層画像を形成するモジュール又は電子回路である。断層画像形成部34はデジタルスキャンコンバータを備えている。また、本実施形態においては、断層画像形成部34はグラフィック画像を断層画像に合成する機能も備えている。そのような断層画像の画像データが表示処理部36へ送られている。グラフィック画像の生成及び合成が、表示処理部36において実行されてもよいし、また制御部48において実行されてもよい。
【0031】
メモリ38にはボリュームデータが格納されている。ボリュームデータは、例えばX線CT装置、MRI装置、超音波診断装置等により、ターゲットを含む生体内三次元空間から取得されたものである。本実施形態においては、内部のメモリ38上にボリュームデータが格納されている。これに代えて、ボリュームデータが外部の記憶媒体上に格納されていてもよく、またボリュームデータがネットワーク上におけるファイルサーバー等に格納されていてもよい。
【0032】
走査面12は、ボリュームデータに対応する三次元空間内の1つの断面に相当する。換言すれば、走査面12の運動範囲をカバーする三次元空間から取得されたボリュームデータがメモリ38上に格納されている。
【0033】
三次元参照画像形成部40は、ボリュームデータに基づいて、生体内を表す三次元参照画像を形成するモジュールである。三次元参照画像として、ボリュームレンダリング画像、サーフェイスレンダリング画像、等があげられる。本実施形態の三次元参照画像には、三次元グラフィックイメージも含まれる。グラフィックの合成が表示処理部36等において実行されてもよい。三次元参照画像が含んでいるグラフィックは、プローブ10の位置情報に基づいてリアルタイムで更新される。例えば、三次元参照画像形成部40は、予定穿刺経路を表すシンボルを含んでおり、そのシンボルの位置及び姿勢がプローブ10の動きに伴ってリアルタイムで更新される。三次元参照画像の画像データは表示処理部36へ送られている。
【0034】
二次元参照画像形成部42は、ボリュームデータに基づいて第1の二次元参照画像としての同一断面画像を形成するモジュールである。すなわち、ボリュームデータから、走査面12に対応する断面データが取り出され、それに基づいて断層画像が形成される。その断層画像が同一断面画像である。二次元参照画像形成部42は同一断面画像に対してグラフィック画像を合成する機能も有している。その機能が表示処理部36等で実行されてもよい。
【0035】
二次元参照画像形成部44は、第2の二次元参照画像としての直交断面画像を形成するモジュールである。すなわち、ボリュームデータ38から、穿刺経路における所定の深さ地点を横切る断面に相当する断面データが取り出され、それに基づいて断層画像としての直交断面画像が生成される。二次元参照画像形成部44は、その直交断面画像に対してグラフィック画像を合成する機能を有している。その機能が表示処理部36等によって実行されてもよい。直交断面画像の画像データが表示処理部36へ送られている。更に他の参照画像形成部が設けられてもよい。プローブ10が3Dプローブであり、それによってボリュームデータが取得される場合、そのボリュームデータに基づいて各参照画像が形成されてもよい。
【0036】
表示処理部36は、入力される複数の画像データを合成し、これにより表示画面データを生成する機能を有している。表示画面データは表示器46に送られる。表示器46の画面上には、本実施形態において、リアルタイム断層画像、三次元参照画像、同一断面画像、及び、直交断面画像が表示される。リアルタイム断層画像以外は参照画像であり、それらもリアルタイムでその内容が更新される。但し、ボリュームデータは同一被検者についての過去のデータであるため、現在のターゲットをそのまま表示しているのはリアルタイム断層画像だけである。実際の穿刺針像が現れるのもリアルタイム断層画像だけである。
【0037】
高周波治療装置本体58は、本実施形態において、複数の穿刺針(穿刺針型治療器)に対して高周波信号を供給する装置である。高周波治療装置本体58は、複数の穿刺針が有する複数の電極(電極群)の中から、使用する電極セット(一度に動作させる電極ペア)を選択する機能、複数の穿刺針の先端部を冷却する機能、等を備えている。
【0038】
なお、図1に示される各構成(各ブロック)は、プローブや穿刺針等の一部を除いて、基本的に、1又は複数のプロセッサ、チップ、電気回路等により、構成されている。1つのチップ、プロセッサ、電気回路等が図示された複数の構成に相当してもよい。それぞれの構成がソフトウエアの機能により実現されてもよい。そのようなソフトウエアはCPUにおいて実行されてもよい。1つのプロセッサにより全てのソフトウエア機能が実現されてもよいし、複数のプロセッサにより全てのソフトウエア機能が実現されてもよい。
【0039】
制御部48は、CPU及びプログラムによって構成される。制御部48は、図1に示される各構成(各ブロック)を制御している。制御部48は、穿刺履歴登録部50、穿刺履歴記憶部52、及び、予定穿刺経路演算部54を有している。穿刺履歴登録部50は、複数本の穿刺を行う過程において、個々の穿刺が完了した時点において、その時点での穿刺針の穿刺経路あるいは位置情報を穿刺履歴(穿刺実績)としてメモリ上に登録するユニットである。例えば、ある穿刺針について穿刺完了が判定された場合、その時点における予定穿刺経路が既存穿刺経路(実績穿刺経路)として登録される。個々の穿刺針ごとに既存穿刺経路が登録される。穿刺履歴記憶部52は、穿刺履歴登録部50によって登録される情報を格納する記憶領域である。登録タイミングはマニュアルで指定することができ、あるいは、自動的に指定することが可能である。すべての治療が完了した後において、穿刺履歴記憶部52の記憶内容が消去される。そのような情報が別途保存されてもよい。穿刺履歴記憶部52上に、既存穿刺経路の座標情報が登録されてもよいし、それを表すプローブの位置情報が登録されてもよい。
【0040】
本実施形態では、穿刺履歴記憶部52上に、更に、挿入量すなわち穿刺深さが登録される。ユーザー入力された情報に基づいて挿入量が登録さてれてもよいし、センサによって検出された情報に基づいて挿入量が登録されてもよい。挿入量に代えて、穿刺針の先端位置又は先端基準位置の座標が登録されてもよい。いずれにしても、各電極の位置(穿刺針に対する相対的位置)を特定するための情報が登録される。三次元空間内における個々の電極の絶対的位置は、穿刺針の絶対的位置とその穿刺針上の電極の相対的位置とから特定される。
【0041】
予定穿刺経路演算部54は、位置演算部26から出力される位置情報に基づいて、穿刺アダプタ16によって案内される穿刺針18の穿刺経路20すなわち予定穿刺経路を演算するモジュールである。例えば、走査面上の予定穿刺経路の座標情報及び三次元空間内の予定穿刺経路の座標情報の両方又は一方が演算される。いずれにしても、三次元空間において予定穿刺経路を特定するための情報が直接的に又は間接的に演算される。後述する焼灼像を生成するために、予定穿刺経路上における予定挿入量が別途、入力されてもよい。予定挿入量に代えて、予定穿刺経路上において予定される先端位置又は先端部基準位置が別途、入力されてもよい。
【0042】
本実施形態の超音波診断システムは、制御部48が電荷モデル定義部70及び焼灼像生成部72を備えている。
【0043】
電荷モデル定義部70は、後に詳述するように、生体内に配置される電極群を模擬する電荷モデルを定義するモジュールである。電極群は、生体内に挿入された複数の穿刺針が有する複数の電極によって構成される。典型的には、複数の電極は、例えば、ターゲットを取り囲むようにターゲットの周囲に配置される。電荷モデルとして、本実施形態では、点電荷モデルが利用されている。所定形態を有する個々の電極が例えば5つの電荷で模擬される。これに関しては後に詳述する。
【0044】
以上のような点電荷モデルを定義するために、電荷モデル定義部70には、三次元空間内における各穿刺針の位置(絶対的位置)を特定する情報と、各穿刺針上における各電極の位置(相対的位置)を特定する情報と、が与えられる。なお、点電荷を用いたモデルに代えて、線電荷を用いたモデル、面電荷を用いたモデル、等を利用することが可能である。点電荷モデルによれば、モデル生成が簡易となり、また、後述する電位分布及び電場分布の計算も簡易となる。
【0045】
焼灼像生成部72は、点電荷モデルに基づいて、電極群による焼灼治療の及ぶ範囲の目安となる焼灼像を生成するモジュールである。焼灼像生成部72は、本実施形態において、電極群の中から順次選択される電極ペアごとに、点電荷モデルに基づいて電位分布を生成し、続いて、電位分布に基づいて電場分布を生成する。更に、焼灼像生成部72は、複数の電極ペアに対応する複数の電場分布を合成することにより合成電場分布が生成し、その合成電場分布に対して色付け関数に従う色付け処理を施すことによりカラーイメージとしての焼灼像を生成する。本実施形態では、同一断面画像に合成(重畳)される第1の二次元焼灼像、直交断面画像に合成(重畳)される第2の二次元焼灼像、及び、三次元参照画像に合成される三次元焼灼像、が生成されている。
【0046】
制御部48で演算された既存穿刺経路及び予定穿刺経路を特定する情報が、三次元参照画像形成部40、二次元参照画像形成部42及び二次元参照画像形成部44へ送られ、必要に応じて、その情報が表示処理部36へ送られる。三次元焼灼像が三次元参照画像形成部40へ送られ、第1の二次元焼灼像が二次元参照画像形成部42へ送られ、及び、第2の二次元焼灼像が二次元参照画像形成部44へ送られる。三次元参照画像形成部40、二次元参照画像形成部42及び二次元参照画像形成部44は、それぞれ、参照画像上に焼灼像を合成(重畳)して合成画像を生成する機能を有する。その合成(重畳)を表示処理部36で行うようにしてもよい。
【0047】
入力部56は、例えば、操作パネルにより構成される。それはスイッチ、トラックボール等の入力デバイスを有している。なお、本実施形態においては、磁場方式によって位置情報が計測されていたが、上記のとおり、光学的な計測、電波を利用した計測等の手法が用いられてもよい。また、加速度センサ等のデバイスを利用することも可能である。
【0048】
図2には、穿刺針の一例が示されている。図示されている穿刺針18は、高周波治療を行う器具である。図2にはその先端部が拡大図として示されている。穿刺針18はバイポーラ型の高周波治療器具である。すなわち、絶縁体66を間において2つの電極62,64を有している。符号60は軸体を示している。符号68は尖塔形を有する先端チップを示している。もちろん、他の構成をもった治療器具を利用することも可能である。本実施形態では、以下に説明するように、二本又は三本の穿刺針が同時に使用され、それらによってターゲット(治療対象組織)に対する高周波焼灼治療が実行される。
【0049】
図3には、穿刺針配列の一例が示されている。具体的には、三本の穿刺針18A,18B,18Cを用いてターゲット71の治療を行う場合の様子が示されている。図示の例においては、ターゲット71が三本の穿刺針18A,18B,18Cの先端部によって囲まれるように、すなわち、ターゲット71の外側にそれらが配置されるように、三本の穿刺針が配列されている。そのような状態において、全電極中の全部又は一部が選択され、それらに高周波信号が供給される。これによってターゲット71に対する焼灼治療が実行される。
【0050】
図4には、穿刺針配列の他の例が示されている。それは3つの穿刺針80,82,84により構成される。体表面73上にはプローブ74が当接されている。超音波ビームの電子的な走査により走査面78が形成される。図示の例では、プローブ74には穿刺アダプタが設けられていないが、3つの穿刺針80,82,84には、それぞれ磁気センサ80a,80b,80cが設けられている。それらは磁場発生器86で生成された磁場を感知するものである。このような構成により、穿刺針80,82,84の個々の位置及び姿勢を特定する情報を直接的に取得することが可能である。つまり、図4に示す構成によれば、個々の電極の位置を正確かつ容易に特定することが可能である。
【0051】
図5には、焼灼像生成方法の第1例がフローチャートとして示されている。S10においては、焼灼像生成条件が指定される。例えば、穿刺針の本数、個々の穿刺針における各電極の座標及び長さ、が指定される。それらの情報がユーザーにより指定されてもよいし、それらの情報が事前に設定されていてもよい。S12においては、複数の穿刺針が生体に差し込まれる。つまり、電極群が実際に配置される。なお、後に図7に示す第2例では、電極群が仮想的に配置される。図5におけるS12において、後から挿入される一部の穿刺針が仮想的に配置されてもよい。実配置及び仮想配置のいずれであっても、電極群を構成する個々の電極の座標が直接的に又は間接的に特定される。
【0052】
S14においては、電極群が点電荷モデルで模擬される。個々の穿刺針が第1電極及び第2電極を有する場合、例えば、各第1電極が直線状に並ぶ5つの正電荷(単位電荷量+1をもった5個の電荷)で模擬され、各第2電極が直線状に並ぶ5つの負電荷(単位電荷量−1をもった5個の電荷)で模擬される。そのような点電荷モデルを基礎として、三次元空間内の各点の電位(ポテンシャル)が計算される。つまり、空間的に広がる電位分布が計算される。そして、電位分布に対する空間微分処理により電場分布(電界分布)が計算される。実際には、同時に使用される電極ペアごとに、電位分布が計算され、その電位分布に基づいて電場分布が計算される。複数の電極ペアについて求められた複数の電場分布を合成することにより、合成電場分布が求められる。合成電場分布は、空間内の座標ごとの電場の大きさ(絶対値)を表すものである。なお、1つの電極ペアしか利用されない場合、それに対応する電場分布だけが演算される。S14で実行される具体的な計算については後に詳述する。上記の点電荷モデルは一例であり、上記以外の電荷モデルを利用してもよい。
【0053】
S16においては、合成電場分布に基づいて、焼灼範囲の目安となるカラー焼灼像が生成される。具体的には、同一断面画像に合成される第1の二次元焼灼像、直交断面画像に合成される第2の二次元焼灼像、及び、三次元参照画像に合成される三次元焼灼像、が生成される。個々の焼灼像の生成に際しては、電場の大きさを色相に変換する色付け関数が利用される。色付け関数はユーザーにより変更することが可能である。
【0054】
S18においては、同一断面画像上に第1の二次元焼灼像が重畳表示され、直交断面画像上に第2の二次元焼灼像が重畳表示され、三次元参照画像に対して三次元焼灼像が合成表示される。三次元焼灼像の生成に際しては、ボリュームレンダリング法、サーフェイスレンダリング法、が利用される。
【0055】
本発明者の実験によれば、合成電場分布に基づく焼灼像は、実際の焼灼範囲それ自体を示すものではないが、実際の焼灼範囲の目安となり得るものであり、特に実際の焼灼範囲の形態を表現するものであることが確認されている。よって、そのような焼灼像によれば、ターゲットとの関係で電極群の配置が適正であることを治療に先立って確認できるという利点を得られる。また、穿刺前にそのような焼灼像が得られるならば、穿刺計画(治療計画)を立てる上で、非常に参考となる。特に、生体内に複数の電極が配置された上で、電極ペアごとに順次駆動されて焼灼治療が段階的に遂行される場合、最終的な焼灼範囲の形態が複雑になるが、本実施形態によれば、その形態に近いものを二次元焼灼像として又は三次元焼灼像として事前に確認できるという利点を得られる。なお、閾値を超える電場の大きさを有する座標だけをカラー表示するようにしてもよい。そのような構成によれば、焼灼範囲の形態を明瞭に表示できる。焼灼範囲の輪郭を強調表示するようにしてもよい。
【0056】
図6には、上述した色付け関数の一例が示されている。横軸は、電場の大きさAを示しており、縦軸は表示値(色相)Bを示している。縦軸の最大値はこの例では255である。色付け関数88においては、横軸方向の大きさWWを有する区間が線形増加区間であり、その前後の区間において平坦である。WLは横軸方向に大きさWWを有する区間における中央値を示している。色付け関数88は、具体的には、B=(A−WL)*255/WW+128、という式である。この色付け関数88に従って、電場の大きさAに応じて、表示値Bが決まる。WL及びWWをユーザーによって任意に可変することが可能であり、そのようなパラメータ調整により、所望のカラー表現を実現可能である。WL及びWWをプリセットしておいてもよい。図6に示した計算式は色付け関数の一例に過ぎないものである。色付け関数ではなく、色付けテーブルを利用してもよい。
【0057】
図7には、焼灼像生成方向の第2例がフローチャートとして示されている。図5において説明した工程と同様の工程には同一のステップ番号を付し、その説明を省略する。
【0058】
図7におけるS20では、複数の穿刺針が仮想的に配置される。個々の穿刺針についての位置情報を電荷モデル定義部へ与えることにより、その仮想的な配置を容易に実現できる。その上で、電極群に対して電荷モデルが定義される。S22では、S10〜S18を繰り返し実行するか否かが判断さる。所望の形態をもった焼灼範囲が生じるように、電極群の仮想配置を変更するのが望ましい。つまり、ターゲットとの関係で良好な焼灼範囲が得られた後に、実際に電極群を配置する(つまり、複数の穿刺を実行する)のが望ましい。
【0059】
図8には、図1に示した超音波診断システムで表示されるナビゲーション画像の一例が示されている。表示画像90には、超音波画像(リアルタイム断層画像)92、第1の二次元参照画像としての同一断面画像94、第2の二次元参照画像としての直交断面画像96、及び、三次元参照画像98が含まれる。図8には、3本の穿刺針の穿刺が完了している状態が示されている。但し、その状態は焼灼治療前の状態である。
【0060】
断層画像92上には、3つのグラフィック要素として、3つの既存穿刺経路を表す3つのシンボル102,106,108が表示されている。その内で、シンボル102は、走査面上の既存穿刺経路を表すものであり、シンボル106,108は、他の2つの既存穿刺経路を表す2つの投影像(走査面上へ既存穿刺経路を投影した像)を示すものである。シンボル102,106,108の内で、シンボル102だけを表示するようにしてもよい。ライン104は、シンボル102における基準位置(例えば2つの電極の中間位置としての基準位置)を横切る直交ラインであり、それは直交断面画像の断面を表している。符号100は、ターゲット又はターゲットを囲む円形のマーカーを示している。
【0061】
同一断面画像94上には、3つの既存穿刺経路を表す3つのシンボル114,118,120が表示されている。その内で、シンボル114は、走査面上の既存穿刺経路を表すものであり、シンボル118,120は、他の2つの既存穿刺経路を表す2つの投影像である。シンボル114,118,120の内で、シンボル114だけを表示するようにしてもよい。ライン116は、直交断面画像の断面を表すものである。符号112は、ターゲット又はターゲットを囲む円形のマーカーを示している。
【0062】
直交断面画像96上には、走査面の位置を表すライン130が表示されており、また、ターゲット又はそれを囲む円形のマーカー122が表示されている。マーカー122に隣接して3つのマーカー124,126,128が表示されている。それらは3つの既存穿刺経路(の断面)を示すものである。マーカー124は、断層画像92上に表示されたシンボル102、及び、同一断面画像110上に表示されたシンボル114に対応するものである。他の2つのマーカー126,128は、断層画像92上に表示された他の2つのシンボル106,108、及び、同一断面画像110上に表示された他の2つのシンボル118,120に対応するものである。
【0063】
三次元参照画像98には、3つの既存穿刺経路を表す3つのシンボル138,140,142が含まれている。その内で、シンボル138は、走査面上の既存穿刺経路を表すものである。走査面シンボル134は走査面を表現したものである。シンボル140,142は、他の2つの既存穿刺経路を表すものである。符号136は、ターゲット又はターゲットを囲む球形のマーカーを示している。
【0064】
図9には、焼灼像が合成されたナビゲーション画像の一例が示されている。図示の例では、同一断面画像94上に、二次元のカラー焼灼像144が重合表示されている。その焼灼像144は、走査面上における合成電場分布を表したものである。直交断面画像96上にも、二次元のカラー焼灼像146が重合表示されている。その焼灼像146は、直交断面上における合成電場分布を表したものである。三次元参照画像98には、三次元のカラー焼灼像148が合成されている。カラーバー149は、電場の大きさと色相との対応関係を示すものである。
【0065】
焼灼像生成条件がウインドウ150,152内において指定されている。ウインドウ150に示された条件には、焼灼像の表示ON/OFF、穿刺針本数(その配列)、穿刺針種別、電極情報(長さ、位置)等が含まれる。更に、選択されるペアの番号列、電力、焼灼時間、組織係数等の条件が含まれてもよい。ウインドウ152に示された条件には、カラー関数、閾値、表示タイプ、に関する条件が含まれている。
【0066】
図9に示したように、ターゲットを表す画像上に、電場分布を表す焼灼像を合成表示することにより、ターゲットとの関係で、焼灼範囲を大まかに確認することが可能である。特に、ターゲットの形態に対して、焼灼範囲の形態が適切か否か、つまり、電極群のレイアウト(あるいは、1又は複数のペアの選択)が適切か否かを確認することが可能である。その上で実際に焼灼治療を行えば、治療効果を高められ、同時に、安全性を高められる。リアルタイム断層画像(超音波画像)上に焼灼像が合成表示されてもよい。
【0067】
次に、図10乃至図27を用いて、点電荷モデルに基づく電場分布の計算について説明する。
【0068】
図10には、1つの穿刺針(バイポーラ型穿刺針)が有する2つの電極154,156が模式的に示されている。図示の例では、電極154がその中心軸上に並んだ5つの正の点電荷(+1)によって模擬されており、電極156がその中心軸上に並んだ5つの負の点電荷(−1)によって模擬されている。それらは点電荷モデルを構成するものである。5つの正の点電荷の座標をA,A,A,A,Aとし、5つの負の点電荷の座標をB,B,B,B,Bとした場合、任意の点P(x,y,z)における電位φ(x,y,z)は、次の(1)式によって定まる。なお、括弧内の第1項及び第2項の分母はベクトルのノルムを表している。
【数1】
【0069】
上記(1)式で計算される電位φ(x,y,z)を以下の(2)式に従って空間微分すると、点P(x,y,z)での電場E(x,y,z)が求まる。
【数2】
【0070】
本実施形態では、点P(x,y,z)での電場E(x,y,z)の大きさOut(x,y,z)が以下のように計算される。
【数3】
【0071】
実際には、電場E(x,y,z)の大きさOut(x,y,z)に対して上記のように色付け処理を施すことにより、焼灼像が生成される。複数の電極ペアを順次駆動する場合、複数の電極ペアに対応する複数の電場の大きさ分布(電場分布)が合成され、合成電場分布が生成された上で、その合成電場分布が色付け処理される。このように点電荷モデルを基礎として電場分布(又は合成電場分布)を容易に求めることが可能であり、それから焼灼像が生成される。
【0072】
以上の点電荷モデルにおいては、1つの電極が均等配置された5個の点電荷で模擬されていたが、より少ない又はより多い点電荷で模擬するようにしてもよい。電極の長手方向のサイズや表示画面サイズに応じて点電荷の個数を変化させてもよい。焼灼時のパワーや焼灼時間に応じて、個々の電荷の電荷量を増減してもよい。
【0073】
図11には、特定の平面上に配置された点電荷モデルが示されている。特定の平面はZ=0の平面である。その平面はx軸及びy軸を有する。個々の電極の長さは8であり、2つの電極の中心座標として、(0,−6,0)及び(0、6,0)が指定されている。電極の傾き(方向ベクトル)として(0,1,0)が指定されている。
【0074】
図11に示した点電荷モデルに基づいて計算された電位分布が図12に示されている。グレースケール158は電位と輝度の関係を示している。図12に示された電位分布の空間勾配を計算することにより、図13に示す電場の大きさの分布(電場分布)が求められる。実際には、電位分布の空間勾配により電場ベクトル分布が得られ、電場ベクトル分布に対してノルム計算処理を施すことにより図13に示された電場分布が求められる。電場分布の計算に際しては、三次元の電場分布を計算するのが望ましいが、図13に示された電場分布を計算するだけであれば、図12に示したZ=0の平面上における電位分布と、Z=1の平面上における電位分布と、を計算すればよい。符号160はグレースケールを示している。
【0075】
図14には、2本のバイポーラ型穿刺針が有する4つの電極A,B,C,Dを模擬した点電荷モデルが示されている。2本のバイポーラ型穿刺針は平行に配置されており、それらのy方向の先端位置は揃っている。もっとも、点電荷モデルによれば、複雑な電極配列の場合であっても電位分布及び電場分布を極めて簡易に計算できる。図15には、4つの電極の中から選択可能な6種類の電極ペア(組合せ)が示されている。符号162は電極A,Bの組合せ、符号164は電極C,Dの組合せ、符号166は電極A,Cの組合せ、符号168は電極B,Dの組合せ、符号170は電極A,Dの組合せ、及び、符号172は電極B,Cの組合せ、を示している。6種類の組合せの中から、任意の組合せを順次選択して、段階的に焼灼治療を行うことが可能である。
【0076】
図16には、6種類の組合せに対応する6種類の電位分布174,176,178,180,182,184が示されている。図17には、6種類の組合せに対応する6種類の電場分布(電場の大きさの分布)186,188,190,192,194,196が示されている。それらを加算したものが図18に示す合成電場分布である。そこに表された合成電場分布の形態は実際の焼灼範囲の形態を程良く表しているものであることが確認されている。例えば、ターゲットの形態に適合した電場分布(焼灼像の形態)となるように、選択する組合せを適宜変更することが可能である。
【0077】
3本のバイポーラ型穿刺針が挿入される場合においても上記同様に焼灼像を生成することが可能である。ちなみに、その場合には15種類の電極ペアが生じる。より多くのバイポーラ型穿刺針が挿入される場合においても上記同様に焼灼像を生成することが可能である。
【0078】
図19には、モノポーラ型穿刺針が有する単一の電極198が示されている。電極198が、図示の例では、その中心軸上に並んだ11個の正の点電荷(+1)によって模擬されている。実際には対極板が存在しているが、それは無限遠にあるものとして、無視することが可能である。
【0079】
11個の点電荷の座標をA,・・・,A11とする。任意の点P(x,y,z)における電位φ(x,y,z)は、次の(4)式によって定まる。なお、括弧内の分母はベクトルのノルムを表している。
【数4】
【0080】
上記(4)式で計算される電位φ(x,y,z)を以下の(5)式に従って空間微分すると、点P(x,y,z)での電場E(x,y,z)が求まる。
【数5】
【0081】
この例では、点P(x,y,z)での電場E(x,y,z)の大きさOut(x,y,z)が以下のように計算される。
【数6】
【0082】
電場E(x,y,z)の大きさOut(x,y,z)に対して上記のように色付け処理を施すことにより、焼灼像を生成することが可能である。
【0083】
図20には、Z=0の平面上に配置された点電荷モデルが示されている。電極の長さとして11が指定されており、電極の座標(中心座標)として、(0,0,0)が指定されている。電極の傾き(方向ベクトル)として(0,1,0)が指定されている。この点電荷モデルに基づいて図21に示す電位分布が計算される。更にその電位分布に基づいて図22に示す電場分布(電場の大きさ分布)が計算される。その電場分布をそのまま焼灼像として利用することも可能であるが、他の白黒組織画像上に合成表示する場合には、電場分布に対して色付け処理を施し、カラー焼灼像を生成するのが望ましい。
【0084】
図23には、2本のモノポーラ型穿刺針が有する2つの電極A,Bを模擬した点電荷モデルが示されている。それはZ=0の平面上に表現されている。ここでは各電極が11個の点電荷によって模擬されている。個々の電極ごとに点電荷モデルに従って電位分布を計算すると、図24に示すものとなる。更に、個々の電極ごとに電位分布から電場分布(電場の大きさの分布)を計算すると、図25に示すものとなる。
【0085】
個々のモノポーラ電極を順次駆動して複数回焼灼治療を行う場合における合成電場分布は、図25に示した2つの電場分布の合成に際し、ピクセルごとに最大輝度を選択することにより求められる。具体的には図26に示す合成電場分布が求められる。一方、2つのモノポーラ電極を同時駆動して焼灼治療を行う場合における合成電場分布は、図25に示した2つの電場分布の和を求めることによって得られ、具体的には、図27に示す合成電場分布が求められる。
【0086】
条件次第ではあるが、一般に、モノポーラ方式における複数本同時焼灼の場合、バイポーラ方式における複数本同時焼灼やモノポーラ方式における複数回焼灼の場合よりも、焼灼範囲が大きくなる。上記においては、それを考慮して、最大値選択及び和演算を切り替えている。諸条件に応じて合成処理条件を切り替えるのが望ましい。
【0087】
図28乃至図30を用いてカラー焼灼像の生成方法について更に説明する。図28に示す第1例では、三次元合成電場分布は生成されず、走査面位置に対応する二次元合成電場分布200が生成され、その二次元合成電場分布200に対して色付け処理を施すことにより二次元カラー焼灼像202が生成されている。図29に示す第2例では、まず三次元合成電場分布204が生成され、そこから走査面位置に対応する面データを切り出すことにより(符号206)、二次元合成電場分布208が生成され、それに対して色付け処理を施すことにより、二次元カラー焼灼像210が生成されている。図30に示す第3例では、三次元合成電場分布212が生成された上で、それに基づいて三次元カラー焼灼像214が生成されている。その場合、例えば、ボリュームレンダリングの実行と共に色付け処理を施してもよいし、ボリュームレンダリング結果に対して色付け処理を施してもよい。
【0088】
図31には、図1に示したシステムの他の動作例が示されている。図31において、図5に示した工程と同様の工程には同一符号を付す。S20では、S10で指定された諸条件に従って、生体内の空間に対して電極群が仮想的に配置される。S14では、一度に動作させる電極ペアごとに電場分布(個別電場分布)が生成され、また、それらに基づいて合成電場分布が生成される。S24では、電極ペアごとに、電場分布に基づいて個別焼灼像が生成される。S26では、複数の個別電場分布に基づいて、具体的には例えばそれらの加算により、カラーの総合(合成)焼灼像が生成される。S30では、複数の個別焼灼像がローテーション表示される。すなわち、複数の個別焼灼像が1つずつ切り換え表示される。また、必要に応じて、総合(合成)焼灼像が表示される。S32では、以上の処理を繰り返すか否かが判断される。この表示方法によれば、電極ペアごとに大凡の焼灼範囲の形態等を認識し、実際に動作させる電極ペアを適切に選択できる。
【0089】
図32には、複数の穿刺針の仮想的な配置によりカラー焼灼像を生成する情報処理装置の構成例が示されている。この装置も医療システムの一態様である。図32において、図1に示した構成と同様の構成には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0090】
図32において、制御部216は、穿刺針設定部218を有する。これは、ユーザー入力された条件に従って、生体内の空間に1又は複数の穿刺針を仮想的に配置するものである。つまり、ターゲットとの関係で、電極群を仮想的に配置するものである。このような仮想的な配置を前提として、電荷モデル定義部220が仮想的に配置された電極群を模擬する電荷モデルを定義する。焼灼像生成部222は、その電荷モデルに基づいて複数のカラー焼灼像を生成する。複数のカラー焼灼像が上述したように同一断面画像、直交断面画像、及び、三次元参照画像に合成される。この技術によれば、例えば、穿刺を行う前の治療計画段階において、カラー焼灼像を確認しながら、ターゲットに対する電極群の最適な配置を特定することが可能である。
【0091】
なお、上記実施形態においては、複数の電極が同じ長さを有していたが、各電極の長さが異なっていても、電荷モデルを基礎として焼灼像を生成することが可能である。複数の穿刺針が非並行に配置される場合でも同様である。
【符号の説明】
【0092】
10 プローブ、18 穿刺針、34 断層画像形成部、40 三次元参照画像形成部、42 二次元参照画像(同一断面画像)形成部、44 二次元参照画像(直交断面画像)形成部、48 制御部、70 電荷モデル定義部、72 焼灼像生成部。
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