【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は、点火トーチが、実質的に噴出管の出口で酸素が注入され得るように構成される酸素再注入ダクトをさらに備えるという事実によって達成される。
【0015】
ロケットエンジンにおいて、「プリバーナーの燃焼室」という用語は、ロケットエンジンの主燃焼室内に実質的に再注入される前にエンジンのターボポンプを駆動させることができる高温ガスを発生させるために燃料が燃やされる燃焼室を指すために使用される:プリバーナーの燃焼室は、段階的な燃焼サイクルを有するロケットエンジンの特徴である。
【0016】
具体的には噴出管の出口で行われる酸化剤の第2の注入(または酸化剤の「再注入」)により、点火トーチが2段階で燃料の燃焼を引き起こすことが可能となる。
【0017】
まず、その注入によって、供給流路によって燃料及び酸化剤が供給される燃焼室内で第1の燃焼または主燃焼が起こることが可能となる。
【0018】
しかしながら、酸化剤再注入ダクトを用いて噴出管の出口で酸化剤を注入することにより、点火トーチは、噴出管の出口で第2の燃焼が起こることも可能にし、この第2の燃焼が、トーチの噴出管によって噴出されたガスの温度を大幅に上昇させる役割を果たす。
【0019】
例として、第1の燃焼終了時に燃焼室内の温度が約500K〜600Kになるように燃焼室に燃料及び酸化剤を供給すること、及びその後、第2の燃焼終了時に出口ガスの温度を3600Kまで上昇させることができるように、噴出管の出口で一定量の酸化剤を注入することが可能である。
【0020】
したがって、また有利には、点火トーチの構造は、熱的または機械的に過剰な応力を受けないようにトーチの本体を比較的低い温度に維持できるようにし、反対に、噴出管の出口で起こる第2の燃焼は、トーチによって噴出されるガスの温度を大幅に上昇させることができ、それによってトーチが燃焼室内で推進剤に点火してロケットエンジンを始動させる能力を大きく高める。したがって、有利には、本発明の点火トーチは、噴出管の端部のみが非常に高い温度まで上昇されるため、高い混合比で作動することができ、またトーチが損傷を受けることなくそのようにすることができる。
【0021】
好ましくは、特に、高過ぎて損傷を与える可能性がある温度に点火トーチの本体を曝露するのを避けるために、点火トーチの供給流路内の燃料及び酸化剤の流量は、第1の燃焼が比較的低い温度で起こるように選択される。
【0022】
本発明のロケットエンジンは、ロケットエンジン燃焼室が比較的大規模である場合に特に有利である。
【0023】
具体的には、好ましい実施形態において、ロケットエンジン燃焼室の各壁と噴出管の第2の端部との間の最小距離は、kDよりも大きく、この場合、Dは、噴出管の出口での内径であり、
kは、3に等しいか、または実際には6に等しいか、またはさらには10に等しい係数である。
【0024】
そのような条件下では、噴出管の第2の端部とロケットエンジン燃焼室の壁との間の距離が極めて大きい(すなわち、この距離がkDより大きい)ため、たとえ噴出管の第2の端部近傍の温度が非常に高くなっても、損傷を与え得るような様式ではロケットエンジン燃焼室の壁の温度を上昇させない。
【0025】
その結果、ロケットエンジンは、点火トーチのために、高い混合比で使用することができる。
【0026】
また、「噴出管の端部と燃焼室の壁との間の距離」は、噴出管の端部と同じ高さの側に位置する燃焼室の壁、すなわち、噴出管の軸に垂直であり、かつ管の端部を包含する平面の付近に位置する燃焼室の壁と本質的に関連しており、反対に、噴出管の端部と燃焼室の壁との間の距離は、噴出管の後側、すなわち、トーチの本体の隣に位置する燃焼室の後壁とは関連していないということを理解されたい。実際、トーチの炎はその方向には誘導されず、したがって炎は、直接的にこれらの後壁の温度を上昇させることには至らない。
【0027】
混合比は、消費される2つの推進剤の化学量論的割合に関連して定義される。トーチ燃焼室内で起こる2つの推進剤間の反応が以下の形態を有する状況を考慮する:
aA+bB−−>cC+dD+...
式A及びBは、それぞれ酸化剤及び燃料を表し、
a及び
bは、それらのそれぞれの割合を表し、C、D等は、燃焼によって発生する成分、例えば、水、二酸化炭素ガス等を表し、
c、
d等は、それらの成分のそれぞれの割合である。
【0028】
化学量論的混合比RMSは、以下の比に等しいものとして定義される:
RMS=a/b
次に、推進剤が相対量
x及び
yで反応させられる任意の反応条件を考慮し、以下の反応が起こるようにする:
xA+yB
そのような条件下では、正規化された混合比RMNは以下のように定義される:
RMN=(x/y)/RMS
有利には、本発明のロケットエンジンの構成は、点火トーチが高い正規化混合比RMNで作動することを可能にする。よって、ある実施形態において、ロケットエンジンは、点火トーチが、5より高いか、または場合によっては10より高い正規化混合比(RMN)で作動することができるように構成される。
【0029】
したがって、特に有利な実施形態において、ロケットエンジンは、点火トーチが低い正規化混合比(すなわち、RMN<0.5、またはさらにはRMN<0.25、または実際にはRMN<0.1)で作動できるだけでなく、点火トーチが高い正規化混合比(すなわち、RMN>5、またはさらにはRMN>10)でも作動できるように構成され得る。
【0030】
ある実施形態において、ロケットエンジンは、低い正規化混合比と高い正規化混合比との間にある任意の正規化混合比RMNで、例えば、0.5〜5、または実際には0.1〜10の範囲にある任意の混合比RMNで、点火トーチを作動させることができるように構成され得る。
【0031】
点火トーチが高い混合比で作動できるようにするために、ある実施形態において、ロケットエンジンは、推進剤を点火トーチ内に送達するための弁を制御するように構成される電子制御装置を有し、電子制御装置は、高い正規化混合比RMN、すなわち、5より高いか、またはさらには10より高い比で点火トーチを作動させることができるように構成される。
【0032】
点火トーチは、種々の方式で作製され得る。
【0033】
一実施形態において、燃料供給ダクト及び酸化剤供給ダクトは、それぞれ燃料及び酸化剤を予混合室に運搬し、次に燃焼室に燃料及び酸化剤を供給する。
【0034】
別の実施形態において、燃料及び酸化剤は、それぞれ燃料供給ダクト及び酸化剤供給ダクトによって、燃焼室までずっと別々に運搬される。
【0035】
ある実施形態において、本体は、一体形成された単一部品として作製される。噴出管もまた、任意選択的に、一体形成された本体と同じ部品内に製造されてもよい。例として、点火トーチは、3Dプリント式のアディテイブ法によって製造されてもよい。
【0036】
点火トーチは、任意選択的に、複数の作動点(複数の混合比)で使用され得るように設計されてもよい。
【0037】
混合比を変化させるために、例えば、トーチが燃料及び/または酸化剤及び/または酸化剤の再注入流量(複数可)を継続的に調整することができるように対応することが可能である。
【0038】
この目的のために、ある実施形態において、点火トーチは、燃焼室に供給するための燃料供給調整弁及び/もしくは酸化剤供給調整弁、ならびに/または酸化剤再注入調整弁を備え、弁(複数可)は、燃焼室への燃料供給、燃焼室への酸化剤供給、及び/または酸化剤再注入ダクト内への酸化剤注入流をそれぞれ調整するように適合される。
【0039】
上記弁は、場合によっては飛行中にリアルタイムで混合比を変化させ、ひいては、点火トーチによって噴出されるガスの流量及び温度を変化させることを可能にする。弁は、適切な制御手段、例えば、電子制御装置(ECU)によって自然に制御される。
【0040】
燃料もしくは酸化剤の流量、及び/または酸化剤の再注入速度に影響を与えるために、1つ以上の調整弁を使用する代わりに、較正流量部を有する1つ以上のプレートを使用することが可能である。そのようなプレートは、通常、実質的に平坦であり、1つ以上の通路が貫通している部品である:これらの通路の流量部は、流体がプレートを通る速度がプレートの上流及び下流の圧力条件に応じて事前に分かるように正確に決定される。
【0041】
有利には、燃料もしくは酸化剤の供給量及び/または酸化剤の再注入を制御する1つ以上のプレートの使用は、同時に混合比を調節し、噴出管の冷却を制御するように作用することができる。
【0042】
したがって、ある実施形態において、点火トーチは、燃料供給ダクト内に配置された較正流量部の燃料供給プレート、及び/または酸化剤供給ダクト内に配置された較正流量部の酸化剤供給プレート、及び/または酸化剤再注入ダクト内に配置された較正流量部の酸化剤再注入プレートをさらに備える。
【0043】
ある実施形態において、プレートのうちの少なくとも1つは取り外し可能である。これにより、該当するプレート(複数可)を、異なる流量部を有する別のプレートと交換するだけで、点火トーチの動作及び性能を改良することができる。
【0044】
ある実施形態において、酸化剤供給プレート及び酸化剤再注入プレートは、単一プレートを形成する。これにより、点火トーチの構造を単純化することが可能となる。
【0045】
本発明の点火トーチの重要な利点は、その構造により、前述の二重燃焼に起因して点火トーチの本体が達する温度を低下させることができることである。
【0046】
そうは言うものの、点火トーチの本体及び噴出管が達する温度をさらに低下させるために、さらなる対応が採用されてもよい。
【0047】
したがって、ある実施形態において、酸化剤再注入ダクトは、噴出管の壁の厚さの中に少なくとも一部配置される。
【0048】
酸化剤再注入ダクトは、したがって噴出管の冷却用ダクトとしての役割を果たす。特に、酸化剤再注入ダクトの一部が、噴出管に沿って、すなわち、そこから一定の距離を置いて、配置されてもよい。例として、それは、一定の厚さの壁によって噴出管の内部ダクトから離れていてもよい。
【0049】
好ましくは、酸化剤再注入ダクトは、広い範囲に噴出管の壁厚内に作製され、例えば、ダクトは、1回以上巻回して管の周囲にらせん状に延在してもよい。
【0050】
トーチの本体は、トーチ本体の壁の中を流れる燃料及び酸化剤によって冷却され得る。
【0051】
また、燃料供給ダクト及び/または酸化剤供給ダクトが点火トーチの本体内に形成されたそれぞれのバッフルを有するように対応されてもよい。本明細書において、ダクトが燃焼室の中心を包含する平面内に少なくとも1つの屈曲部を有する場合は必ずダクトがバッフルを有すると仮定され、屈曲部(または流体流方向に対する方向転換)は、90度より大きい角度、及び好ましくは120度より大きい角度を通過する。
【0052】
代替として、また加えて、燃料供給ダクト及び/または酸化剤供給ダクト及び/または酸化剤拒絶ダクトが熱衝撃吸収部分を含むように対応されてもよい。「熱衝撃吸収部分」という用語は、トーチの本体の壁の中で、燃焼室の中心を基準にして半径方向に対して45度より大きい角度の方向に延在するダクトの一部分を意味するために本明細書で使用される。よって、流体は、半径方向に対して45度より大きい角度の方向に熱衝撃吸収部分内を流れる:したがって、流体は、燃焼室に直接接近することなく流れる。この流れにより、流体はトーチの本体と熱交換することができ、ひいてはそれを冷却する。
【0053】
ある実施形態において、燃料供給ダクト及び/または酸化剤供給ダクトは、燃焼室の中心に対して大きい立体角(例えば、2ステラジアン以上)を占める。
【0054】
具体的には、熱交換を促進するために、トーチの本体は熱交換領域が最大になるように設計されるが、一方では、それにもかかわらず、金属の厚さがトーチにその機械的強度を提供するのに十分であることに注意が払われる。
【0055】
締結
また、点火トーチのかなりの高温がロケットエンジンの他の部分に伝わるのを避けることも一般的に好ましい。
【0056】
よって、ある実施形態において、本体は、噴出管の周囲に配置された締結フランジを有する。点火トーチの温度は、場合によっては本体の温度よりも低い可能性がある。
【0057】
フランジの温度が上昇するのを避けるために、点火トーチは、噴出管の内部ダクトとフランジとの間に放射状に配置され、酸化剤再注入ダクトからの流体流から隔離された(すなわち、それと流体を交換する可能性が全くない)断熱通路をさらに含んでもよい。燃焼室は、好ましくは、点火トーチの外側の大気と連通している。それは本体自体の一部もしくは噴出管の一部を形成し得るか、またはそれらの間に少なくとも一部配置されてもよい。
【0058】
非限定的な例として提供される以下の実施形態の詳細な説明を読むと、本発明が十分に理解され得、またその利点がよりよく分かる。説明は、添付の図面を参照している。