(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6246898
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】属性を周期的に変化させたピストンリング
(51)【国際特許分類】
F16J 9/20 20060101AFI20171204BHJP
F02F 5/00 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
F16J9/20
F02F5/00 R
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-506956(P2016-506956)
(86)(22)【出願日】2014年4月9日
(65)【公表番号】特表2016-516166(P2016-516166A)
(43)【公表日】2016年6月2日
(86)【国際出願番号】EP2014057154
(87)【国際公開番号】WO2014166997
(87)【国際公開日】20141016
【審査請求日】2016年12月9日
(31)【優先権主張番号】102013206399.7
(32)【優先日】2013年4月11日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501081166
【氏名又は名称】フェデラル−モーグル・フリートベルク・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【弁理士】
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】マルクス マール
(72)【発明者】
【氏名】ラインハルト ラウマイヤー
(72)【発明者】
【氏名】ヨハン リーデル
(72)【発明者】
【氏名】フランク ナセム
【審査官】
長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第06289872(US,B1)
【文献】
米国特許第03851889(US,A)
【文献】
実開平07−028202(JP,U)
【文献】
米国特許第01626749(US,A)
【文献】
特開昭59−028050(JP,A)
【文献】
特開昭62−200044(JP,A)
【文献】
実開昭51−026214(JP,U)
【文献】
特開2003−328852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 1/00−1/24
7/00−10/04
F02F 5/00
F02F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面、内周面及び両側面を備えるピストンリングであって、前記外周面は球面プロファイルを有し、
該球面プロファイルは、ピストンリング(1)の摺動面(2)を規定するほぼ平坦な頂点領域を有し、前記摺動面(2)の軸線方向幅(b1,b2)は、前記ピストンリング(1)の周方向に沿って周期的に変化し、前記軸線方向幅(b1,b2)の変化パターンは、前記ピストンリング(1)の周方向の一方に向かう場合と他方に向かう場合とで異なり、及び/又は、
前記球面プロファイルは、ピストンリング(1)の前記摺動面(2)を規定するほぼ平坦な頂点領域を有し、前記摺動面(2)に対する少なくとも一方の側面の角度(α1,α2)は、前記ピストンリング(1)の周方向に沿って周期的に変化し、前記側面の角度(α1,α2)の変化パターンは、前記ピストンリング(1)の周方向の一方に向かう場合と他方に向かう場合とで異なり、及び/又は、
and/or
前記球状プロファイルの半径(r1,r2)は、前記ピストンリング(1)の周方向に沿って周期的に変化し、前記球状プロファイルの半径(r1,r2)の変化パターンは、前記ピストンリング(1)の周方向の一方に向かう場合と他方に向かう場合とで異なるピストンリング。
【請求項2】
請求項1に記載のピストンリング(1)であって、前記摺動面又は前記球状プロファイルの中心点は、軸線方向位置において周期的に変化し、前記摺動面(2)の中心点位置の変化パターンは、前記ピストンリング(1)の周方向の一方に向かう場合と他方に向かう場合とで異なるピストンリング。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のピストンリング(1)であって、前記摺動面の軸線方向幅(b1,b2)、及び/又は、前記摺動面(2)の中心点位置、及び/又は、前記角度(α1,α2)、及び/又は、前記球面プロファイルの半径(r1,r2)は、少なくとも1周期に亘って変化するピストンリング。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載のピストンリング(1)であって、
前記摺動面(2)の軸線方向幅(b1,b2)及び/又は前記摺動面(2)の中心点位置は、前記ピストンリング(1)の合口(3)に対して非対称的に変化し、及び/又は、
前記摺動面(2)に対する少なくとも一方の側面の角度(α1,α2)は、前記ピストンリング(1)の合口(3)に対して非対称的に変化し、及び/又は、
前記球面プロファイルの半径(r1,r2)は、前記ピストンリング(1)の合口(3)に対して非対称的に変化するピストンリング。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載のピストンリング(1)であって、前記摺動面(2)の一方のエッジは、隣接する側面に対して平行に延在するピストンリング。
【請求項6】
請求項1〜4の何れか一項に記載のピストンリング(1)であって、前記摺動面(2)の両エッジは、隣接する側面に対して軸線方向距離が最小になる頂点(4)を有し、該頂点(4)は、周方向において、前記摺動面(2)にて互いに対向する両エッジの各々に交互に配置されているピストンリング。
【請求項7】
請求項6に記載のピストンリング(1)であって、前記摺動面(2)の軸線方向幅(b1,b2)は、前記頂点(4)において最大であるピストンリング。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載のピストンリング(1)であって、前記摺動面(2)の軸線方向幅の最小値は、最大値の20%であるピストンリング。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一項に記載のピストンリング(1)であって、前記摺動面(2)の軸線方向幅(b1,b2)は0.1 mm〜3 cm、好適には0.2 mm〜1.5 cmであるピストンリング。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか一項に記載のピストンリング(1)であって、前記摺動面(2)の軸線方向幅(b1,b2)は、前記ピストンリング(1)の軸線方向幅の5%〜50%であるピストンリング。
【請求項11】
請求項1に記載のピストンリングであって、前記摺動面(2)の軸線方向幅(b1,b2)、又は前記側面の角度(α1,α2)、又は前記球面プロファイルの半径(r1,r2)は、その変化の増減が、周方向の一方に向かう場合と対比して他方に向かう場合により顕著であるピストンリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、属性を周期的に変化させたピストンリングに関し、特に、摺動面幅若しくは当たり確認線幅、又は摺動面と側面との間の角度、又は摺動面プロファイルの半径を周期的に変化させた内燃機関用又はコンプレッサ用のピストンリングに関する。
【背景技術】
【0002】
最新の大排気量舶用エンジンには、通常、2ストロークディーゼルエンジンが使用されている。この形式のエンジンは、回転速度が通常は約50 rpm〜250 rpmの範囲(基本的には100 rpm未満)であり、またシリンダ数に応じて約100 MWまでの出力が得られるからである。このような低速動作の大排気量2ストロークエンジンは、好適には、プロペラシャフトを直結駆動する。この場合、エンジンの回転速度が低いので、回転速度を減速させるための減速ギアが不要である。
【0003】
このような大排気量の2ストロークエンジンは、基本的に二系統の油圧回路を有する。その一方はエンジン潤滑用であり、他方はシリンダ潤滑用である。シリンダの潤滑手段により、十分な潤滑油が適切なタイミングで供給され、シリンダ表面及びピストンリングに必要な潤滑が保証される。
【0004】
シリンダ潤滑油は、機械負荷に応じて、ライナを介してピストンチャンバ内に噴射される。ピストンリング又はピストンリングの摺動面は、この潤滑油膜上を摺動する。エンジン動作時には、「当たり確認線」と称される細長の油膜が摺動面及びライナの間に形成される。この場合、噴射される潤滑油を可及的に減少させることにより、コストを抑えると共に過度の潤滑を回避することが特に重要である。シリンダを潤滑するため、上行1/3行程において潤滑油ポンプを作動させ、例えばシリンダ壁の平面に設けられる潤滑油入口を介して潤滑油を供給する。これにより、ピストン及びピストンリングの潤滑が可及的に最適化される。シリンダへの潤滑油の供給は、通常、ガス・カウンタープレッシャー法を利用して行われる。
【0005】
例えば、潤滑油噴射システムを使用し、噴射ノズルから正確な量の潤滑油をシリンダ内に噴射することができる。この場合、コンピュータ制御システムによりピストンの位置を記録した後、潤滑油をピンポイントで供給する。この場合の供給は高圧で行われ、潤滑油が極めて微細に噴射されるから、シリンダライナを可及的に均一に濡らし、特にピストンリングが配置された箇所及び摩擦が実際に生じる箇所をピンポイントで濡らすことができる。
【0006】
最新の大排気量舶用2ストロークエンジンが2500 mmまでの行程と、約50 rpm〜250 rpmの速度で動作することを考慮すれば、潤滑油の供給及びその分布に利用できる時間は限られており、これが潤滑の質を保証する上で大きな問題である。例えば、シリンダ径(内径)が900 mmであり、給油用の入口がシリンダ壁の周方向に亘って均一に8個設けられている場合、供給された油は、それぞれの入口を起点として、所定の時間内においてピストンリングの周方向で約350 mmの範囲に分布させる必要がある。
【0007】
これまでの知見によれば、従来構造のピストンリングでは、周方向又は接線方向への潤滑油の分布は、圧力勾配が不十分であるために、全く得られないか又は極めて僅かしか得られない(最大で約3%)。この場合に潤滑油の大部分(約97%)は、ピストンリングの摺動方向又は軸線方向に分布する。
【0008】
本発明に係るピストンリングは、一般的に、舶用以外の内燃機関やピストン型コンプレッサにも適用することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、潤滑油の分布を改善させることにより周方向にも十分な潤滑を可能にし、潤滑油の消費量およびブローバイを低減し、しかも安価に製造可能なピストンリングを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、外周面、内周面及び両側面を備えるピストンリングが提供される。その外周面は球面プロファイルを有し、
球面プロファイルは、ピストンリングの摺動面を規定するほぼ平坦な頂点領域を有し、摺動面の軸線方向幅は、ピストンリングの周方向に沿って周期的に変化し、及び/又は、
球面プロファイルは、ピストンリングの摺動面を規定するほぼ平坦な頂点領域を有し、摺動面に対する少なくとも一方の側面の角度は、ピストンリングの周方向に沿って周期的に変化し、及び/又は、
球面プロファイルの半径は、ピストンリングの周方向に沿って周期的に変化する。
【0011】
本発明によれば、ピストンリングにおける新規な摺動面プロファイルが提供される。ピストンリングの摺動面は、頂点領域を含むほぼ凸球面に形成されたプロファイルを有する。ピストンリングの頂点領域は、エンジン動作時にライナに当接する。即ち、この頂点領域により、ピストンリングの摺動面が規定される。本発明によれば、1つ以上の属性、即ち「摺動面の軸線方向幅」、「摺動面に対する少なくとも一方の側面の角度」及び「球面プロファイルの半径」が変化する。
【0012】
本発明の第1実施形態において、上記摺動面の軸線方向幅は、周方向に沿って変化する。換言すれば、摺動面の軸線方向幅は、周方向における角度位置に応じて変化する。同様に、エンジン動作時に摺動面とライナとの間で形成される潤滑油による当たり確認線は、摺動面における可変幅に応じて変化する。
【0013】
本発明の第2実施形態において、摺動面に対する少なくとも一方の側面の角度は、ピストンリングの周方向に沿って変化する。換言すれば、摺動面及び側面間の領域は、側面に対する傾きに応じて減少する。
【0014】
本発明の第3実施形態において、球面プロファイルの半径は、ピストンリングの周方向に沿って変化する。この実施形態において、摺動面は必ずしもほぼ平坦でなくてもよい。この場合、より広い又は狭い当たり確認線は、球面プロファイルの角度をより大きく又は小さくするだけで得ることができる。ほぼ平坦な頂点領域を有する実施可能な変形において、上記半径は、頂点領域を考慮しない仮想プロファイルとの関連で求められる。
【0015】
上述した実施形態は、互いに任意に組み合わせることができる。
【0016】
上述した構成のピストンリングにおける摺動面は、その当たり確認線幅、又は側面に対する角度、又は半径を変化させることにより、エンジン動作時に流体力学的圧力が周方向に生じる。この流体力学的圧力により圧力勾配が生じることで潤滑油が流動し、周方向又は接線方向において潤滑油の再分布が生じる。潤滑油が流体力学的に再分布されることにより、供給又噴射される潤滑油は、その必要量が減少するだけでなく、周方向においてより均一かつ迅速に分布される。
【0017】
一実施形態において、摺動面の中心点の軸線方向位置は周期的に変化する。これにより、圧力勾配を増強することが可能である。
【0018】
一実施形態において、摺動面における幅変化及び/又は中心点の位置変化は、少なくとも1周期に亘るものとする。好適な周期数は、4〜34である。周期数は、例えば潤滑油をガス・カウンタープレッシャー法によりシリンダ内に噴射するための供給入口の数に対応させることができる。即ち、周期数は、供給入口若しくはノズルの数に等しくするか、又はその整数倍とすることができる。
【0019】
一実施形態において、当たり確認線幅、及び/又は、摺動面における中心点位置、及び/又は、摺動面に対する少なくとも一方の側面の角度、及び/又は、球面プロファイルの半径は、ピストンリングの合口に対して対称的に変化させる。
【0020】
代替的な実施形態において、
摺動面の幅及び/又は摺動面の中心点位置は、ピストンリングの合口に対して非対称的に変化し、及び/又は、
摺動面に対する少なくとも一方の側面の角度は、ピストンリングの合口に対して非対称的に変化し、及び/又は、
球面プロファイルの半径は、ピストンリングの合口に対して非対称的に変化し、及び/又は、
摺動面の軸線方向幅の及び/又は中心点位置の変化パターンは、ピストンリングの周方向の一方に向かう場合と他方に向かう場合とで異なり、及び/又は、
摺動面に対する少なくとも一方の側面の角度の変化パターンは、ピストンリングの周方向の一方に向かう場合と他方に向かう場合とで異なり、及び/又は、
球面プロファイルの半径の変化パターンは、ピストンリングの周方向の一方に向かう場合と他方に向かう場合とで異なる。
【0021】
特に、変化のパターンを周方向ごとに異ならせることにより、圧力勾配は、「摺動方向に影響される」ものとすることができる。即ち、流体力学的圧力及び圧力差によって生じる潤滑油の流動は、周方向の一方においては他方に比べて、より多くかつ迅速に流動するようものとすることができる。この場合、周方向の一方においては他方に比べて、鋸歯状摺動面における側面の拡大又は縮小がより大きいか又は小さい。例えばこのことは、鋸歯状に構成した摺動面により実現することができる。
【0022】
これにより、摺動面幅及び中心点位置によって規定されるピストンリング周方向の摺動面上では、逆の力が作用する。従って、必要に応じて、ピストンリングを回転させて焼き付きを回避すると共に摩耗をより均一化することができる。
【0023】
一実施形態において、摺動面における一方のエッジは、隣接する側面と平行に延在する。このため、摺動面幅の変化により、流体力学的圧力又は圧力勾配が摺動面における他方のエッジにのみ生じる。これにより、潤滑油の流動は、例えば燃焼室から離れたピストンリング側にのみ生じる。
【0024】
一実施形態において、摺動面における両方のエッジは、隣接する側面に対して軸線方向距離が最小になる頂点を有し、この頂点は、周方向において、摺動面にて互いに対向する両方のエッジの各々に交互に配置される。これら頂点は丸み形状としてもよいが、好適には比較的鋭い形状とすることにより、局所的に圧力勾配を高めることができる。頂点を鋭い形状とするのが特に望ましいケースとは、潤滑油の供給箇所又は噴射箇所が潤滑油を可及的に迅速に分布させるために配置される場合である。
【0025】
一実施形態において、摺動面の軸線方向幅は、頂点において最大である。
【0026】
一実施形態において、摺動面の軸線方向幅の最小値は、最大値の20%である。
【0027】
一実施形態において、摺動面の軸線方向幅は、0.1〜3 cm、好適には0.2〜1.5 cm
である。
【0028】
一実施形態において、摺動面の軸線方向幅は、ピストンリングの軸線方向幅の5%〜50%である。
【0029】
一実施形態では、摺動面の軸線方向幅、又は角度、又は半径はその変化における増減が、ピストンリング合口との関連で、周方向の一方に向かう場合に対比して他方に向かう場合により顕著である。この場合、例えば鋸歯状の実施形態が想定可能である。
【0030】
周方向における潤滑油の搬送は、周方向ごとの変化が異なることにより惹起されるものである。幅変化の場合には、幅が増加する方向に潤滑油が搬送される。角度変化の場合には、角度が大きくなる方向に潤滑油が搬送される。
【0031】
以下、本発明を例示的な実施形態を示す図面に基づき詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明に係るピストンリングの第1実施形態における外周面の一部を周方向に示す平面図である。
【
図2】
図1に係るピストンリングにおける3つの異なる断面図である。
【
図3】
図1及び
図2に係るピストンリングを軸線方向に示す平面図である。
【
図4】本発明に係るピストンリングの第2実施形態における外周面の一部を周方向に示す平面図である。
【
図5】
図4に係るピストンリングにおける2つの異なる断面図である。
【
図6】
図4及び
図5に係るピストンリングを軸線方向に示す平面図である。
【
図7】本発明に係るピストンリングの第3実施形態における外周面の一部を周方向に示す平面図である。
【
図8】
図7に係るピストンリングにおける2つの異なる断面図である。
【
図9】
図7及び
図8に係るピストンリングを軸線方向に示す平面図である。
【
図10】第4実施形態に係るピストンリングにおける2つの異なる断面図である。
【
図11】
図10に係るピストンリングを周方向に示す平面図である。
【
図12】第5実施形態に係るピストンリングにおける2つの異なる断面図である。
【
図13】
図12に係るピストンリングを周方向に示す平面図である。
【
図14】第6実施形態に係るピストンリングを周方向に示す平面図である。
【
図15】第7実施形態に係るピストンリングを周方向に示す平面図である。
【
図16】第8実施形態に係るピストンリングを周方向に示す平面図である。
【
図17】第9実施形態に係るピストンリングを周方向に示す平面図である。
【
図18】第10実施形態に係るピストンリングにおける2つの異なる断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、本発明に係るピストンリング1の第1実施形態における摺動面の平面図を示す。ピストンリング1は、ほぼ平坦な頂点領域を含むプロファイルを有し、この頂点領域により、ピストンリング1における実質的な摺動面2が規定されている。摺動面2は、エンジン動作時に、シリンダライナ又はシリンダ内側との接触面として機能するものである。エンジン動作時の潤滑状態では、いわゆる当たり確認線と称する油膜が摺動面2上に形成される。
【0034】
潤滑油は、ピストンの往復運動に起因し、基本的には軸線方向にしか、即ち図面では上下方向にしか移動・分布することがない。従来のピストンリングにおいては、極めて僅かな量の潤滑油(最大3%)だけがピストンリングの接線方向、即ち周方向に分布する。この事実にも関わらず、従来のピストンリング、例えば船舶用に使用される大型のピストンリングにおいては、十分な潤滑を得るために、一方では比較的大量の潤滑油が噴射又は供給されなければならず、他方ではピストンリングの周方向における複数個所に潤滑油が分布するように供給されなければならない。
【0035】
本発明においては、潤滑油の分布をより広範囲かつ迅速に実現し、これにより所要の供給量を減少させるために、実質的な摺動面幅をピストンリングの周方向に沿って可変に構成することが提案される。
図1に示すように、摺動面(又は摺動面を構成するほぼ平坦な領域)の軸線方向幅(又は高さ)の最大部は、周期的に分布する箇所、例えばB‐B断面箇所の左隣でA‐A断面箇所に位置している。周期的に分布する最大幅を有する箇所の間、例えばC‐C断面箇所には、最小幅を有する摺動面2領域が位置している。
【0036】
摺動面2の可変幅により、流体力学的圧力及び圧力勾配が油膜に影響し、ピストンリング1の周方向において、潤滑油がより大量かつ迅速に搬送される。図示の例示的な実施形態において、最大幅を有する箇所は、ほぼ点状にテーパ付けされた頂点4を有し、これにより上記作用を特に頂点4箇所で高めている。図示の実施形態においては更に、摺動面2の軸線方向における中心点も、幅と共に周期的に変化している。このことによっても、周方向への潤滑油の搬送が促される。代替的には、幅だけが変化する構成とし、摺動面の中心点は、ピストンリングの周方向に沿って、(上下)側面に対して一定の位置(中心位置又は偏心位置)に配置してもよい(図示せず)。
【0037】
図2は、
図1のピストンリングにおける対応箇所の断面図を示す。この場合、一方では摺動面の中心点が側面に対して可変であることが容易に確認できる。即ち、A‐A断面ではより上部に、B‐B断面ではより下部に、そしてC‐C断面では中央に位置している。他方では可変幅が確認でき、摺動面のA‐A断面における幅aが最大であり、B‐B断面における幅bは最大幅aに比べて僅かに小さく、そしてC‐C断面における幅cが最小である。
【0038】
図3は、
図1及び
図2の実施形態を軸線方向における平面図として示す。この場合、断面
図A及びBとの関連で、摺動面における幅変化が周期的に分布しているのが確認できる。更に、この周期的な変化は、ピストンリングの合口3に対して対称性を有する。代替的には、周期的な変化は、合口3に対して非対称性を有するようにしてもよい(図示せず)。図示の実施形態において、完全な周期数は5である。
【0039】
図4は、本発明に係るピストンリング1の第2実施形態における摺動面の平面図を示す。この実施形態におけるピストンリング1の摺動面2も、ほぼ点状にテーパ付けされた頂点4を有する。摺動面2幅の相対変化は、
図1〜
図3の実施形態におけるよりも小さいが、図示の実施形態でも、最小幅は、摺動面2上の複数のエッジにおいて隣接する2つの頂点4間に位置している。上側又は下側エッジの頂点4は、互いに対して約1/4周期ずらせてある。他の位相オフセット値も実現可能である(図示せず)。位相オフセット値が0であれば、中心点は一定としつつ、幅は周方向に沿って可変とすることができる。
【0040】
図5は、
図4の断面図を示す。図示の実施形態において、A‐A断面における幅aは、B‐B断面における幅bと等しいが、異ならせることも可能である。この場合の断面図にも明らかなように、摺動面2における中心点位置は、側面に対して、ピストンリングの周方向に沿って可変である。
【0041】
図6は、
図4及び
図5の実施形態を軸線方向における平面図として示す。この場合、断面
図A及びBとの関連で、摺動面における幅変化が周期的に分布しているのが確認できる。更に、この周期的な変化は、ピストンリングの合口3に対して対称性を有する。代替的には、周期的な変化は、合口3に対して非対称性を有するよう例えば半周期だけ位相をずらせてもよい(図示せず)。図示の実施形態において、完全な周期数は33である。
【0042】
図7は、本発明に係るピストンリング1の第3実施形態における摺動面の平面図を示す。この実施形態におけるピストンリング1の摺動面2は、丸みを持たせた正弦波状の頂点4を有する。この場合の頂点4は、摺動面2の一方の側(ここでは下側エッジ)にのみ設けられるのに対して、他方の側(ここでは上側エッジ)はピストンリング1の側面と平行に延在している。これにより、流体力学的圧力及び圧力勾配は一方の側にのみ生じ、従って周方向における潤滑油の搬送は、一方の側で選択的に制御可能である。好適には、燃焼室とは離れたピストンリング側に頂点4が設けられるため、摺動面における平行なエッジは燃焼室側に向けられる。代替的には、これとは逆の構成、即ち頂点4がピストンリングの燃焼室側に向けられ、平行なエッジが燃焼室とは反対側に設けられる構成としてもよい(図示せず)。
【0043】
図8は、
図7の断面図を示す。この場合、A‐A断面における幅aは、B‐B断面における幅bに比べて大きい。更にこの場合の断面図にも明らかなように、摺動面における中心点位置は、側面に対して、ピストンリングの周方向に沿って可変である。代替的には、幅だけを周方向に沿って可変とし、中心点は側面に対して一定に配置してもよい(図示せず)。
【0044】
図9は、
図7及び
図8の実施形態を軸線方向における平面図として示す。この場合、断面
図A及びBとの関連で、摺動面における幅変化が周期的に分布しているのが確認できる。更に、この周期的な変化は、ピストンリングの合口3に対して対称性を有する。代替的には、周期的な変化は、合口3に対して非対称性を有するよう例えば半周期だけ位相をずらせてもよい(図示せず)。図示の実施形態において、完全な周期数は5である。この周期数は、偶数及び奇数を問わず異ならせることもできる。
【0045】
図10は、摺動面又は当たり確認線幅が変化する実施形態に係るピストンリングにおける2つの断面を示す。この場合、A‐A断面における幅b
1は、B‐B断面における幅b
2に比べて小さい。ピストンリング1の摺動方向は、それぞれ、(ライナ又はシリンダ壁5の固定状態で)矢印によって表されている。移動方向への摺動面前部には、より大きな厚さを有する油膜6が形成されている。
【0046】
図11は、
図10に係る実施形態の周方向における平面図を示す。この場合、摺動面又は当たり確認線のほぼ線形なプロファイルが例示されているが、上述した実施形態におけると同様の非線形なプロファイルとしてもよい。図示の実施形態の構成において、矢印によって示唆される潤滑油の搬送は、より小さな幅b
1部分からより大きな幅b
2部分に向けて生じる。ピストンリングの周方向において、この鋸歯状の幅変化が非対称的である限り、より大きな幅部分に潤滑油全体の搬送が生じる。
【0047】
図12は、本発明の実施形態に係るピストンリングにおける2つの断面図を示す。この場合、摺動面又は当たり確認線と、移動方向へのピストンリング前側面との間における角度が変化している。断面
図A‐Aに示す角度α
1は、断面
図B‐Bに示す角度α
2に比べて小さい。ピストンリング1の摺動方向は、それぞれ、(ライナ又はシリンダ壁5の固定状態で)矢印によって表されている。移動方向への摺動面前部には、より大きな厚さを有する油膜6が形成されている。
【0048】
図13は、
図12に係る実施形態の周方向における平面図を示す。この場合、摺動面又は当たり確認線と、ピストンリング前側面との間におけるほぼ線形な角度プロファイルが例示されているが、上述した実施形態におけると同様の非線形なプロファイルとしてもよい。図示の実施形態の構成において、矢印によって示唆される潤滑油の搬送は、より小さな角度α1部分からより大きな角度α2部分に向けて生じる。ピストンリングの周方向において、この鋸歯状の幅変化が非対称的である限り、より大きな角度部分に潤滑油全体の搬送が生じる。いずれにせよ、より大きな角度部分への潤滑油の搬送は、角度差によってのみ惹起されるものである。
【0049】
図14は、例えば
図10に対応する実施形態との関連で、摺動面又は当たり確認線の幅変化に関する非対称的なプロファイルが、本発明の実施形態に係るピストンリングの周方向の一方又は他方においてどのように構成されるかを示す平面図である。この場合のプロファイルは、例えば鋸歯状の曲線に対応しているが、周方向においては他の対称的なプロファイルとしてもよい。摺動面幅又は当たり確認線幅は、より短い領域c
1において、最大幅から最小幅に向けて(
図14の左側から右側に向けて)比較的大きく減少している。これに対して、より長い領域c
2における摺動面幅又は当たり確認線幅は、最小幅から最大幅に向けて(やはり
図14の左側から右側に向けて)比較的小さく増加している。反対側の観察方向、即ち右側から左側に向けて見た場合、上記プロファイルは逆の変化を呈する。このように、図示の実施形態において、周方向の一方に見れば対称的な構成であるが、周方向の両方に見れば非対称的な構成が実現されている。この場合、ピストンリング摺動に際しては、潤滑油が左側から右側に向けて搬送される。
【0050】
図15は、例えば
図12に対応する実施形態との関連で、摺動面又は当たり確認線と、ピストンリングの側面との間における角度変化に関する非対称的なプロファイルが、本発明の実施形態に係るピストンリングの周方向の一方又は他方においてどのように構成されるかを示す平面図である。この場合のプロファイルは、例えば鋸歯状の曲線に対応しているが、周方向においては他の対称的なプロファイルとしてもよい。側面に対する摺動面又は当たり確認線の角度は、より長い領域d
1において、最大角から最小角に向けて(
図14の左側から右側に向けて)比較的小さく減少している。これに対して、より短い領域d
2における摺動面又は当たり確認線の角度は、最小角から最大角に向けて(やはり
図14の左側から右側に向けて)比較的大きく増加している。反対側の観察方向、即ち右側から左側に向けて見た場合、上記プロファイルは逆の変化を呈する。このように、図示の実施形態において、周方向の一方に見れば対称的な構成であるが、周方向の両方に見れば非対称的な構成が実現されている。この場合、ピストンリング摺動に際しては、潤滑油が左側から右側に向けて搬送される。
【0051】
図16及び
図17は、周方向における摺動面に関して、異なるプロファイルを有する他の代替的な実施形態を示す。
【0052】
図18は、本発明に係るピストンリングの更なる実施形態に関して、2つの異なる断面図を示す。この場合、左側のA‐A断面は比較的大きな半径R
1を有する球面プロファイルを示し、右側のB‐B断面は比較的小さな半径R
2を有する球面プロファイルを示す。半径が小さければ、シリンダライナに対する接触面が小さくなり、従って当たり確認線幅が比較的小さくなるのに対して、半径が大きければ、当たり確認線幅が比較的大きい。
【0053】
図19は、
図18のピストンリングの平面図を示す。切断線A領域における球面プロファイルの半径はより大きいのに対して、切断線B領域における球面プロファイルの半径はより小さい。この場合、頂点ラインは中央部に沿って延びている。
図19に示唆されている垂線により、摺動面プロファイルにおける半径の周期的な変化が示唆されている。これら垂線間の距離が大きい場合には半径が比較的大きく、距離が小さい場合には半径が比較的小さい。半径の変化は、切断線B領域においては最小であるのに対して、切断線A領域においては最大である。
【0054】
本発明に係るピストンリングは、好適には、大容積の2ストローク内燃機関などの内燃機関又はコンプレッサのピストン溝に嵌め込むことができる。これまで判明したところによれば、本発明のピストンリングにより、従来技術のピストンリングに比べて、一方では潤滑油の消費量が低減され、他方ではブローバイが大幅に低減される。従って、本発明により、内燃機関用又はコンプレッサ用に改善されたピストンリングが提供される。