(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
香気成分としてアルデヒド及びケトンの発散に優れたラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)SPC−SNU 70−2(KCTC 12777BP)。
香気成分としてアルデヒド及びケトンの発散に優れたラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)SPC−SNU 70−2(KCTC 12777BP)を小麦粉に添加して発酵させることを特徴とする製パン生地の製造方法。
香気成分としてアルデヒド及びケトンの発散に優れたラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)SPC−SNU 70−2(KCTC 12777BP)を小麦粉に添加して発酵させた後、ベーク(baking)することを特徴とするパンの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の構成を、下記の実施例に基づいて具体的に説明する。ただし、本発明の権利範囲は、下記の実施例に限定されるものではなく、それと均等な技術的思想の変形をも含む。
【0018】
一方、本発明では、下記の実験によって分離されたサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)01435を「Saccharomyces cerevisiae SPC−SNU 70−1」と命名して寄託し、寄託番号「KCTC 12776BP」を付与された。また、ラクトバチルス・カルバタス(L.curvatus)104菌株を「Lactobacillus curvatus SPC−SNU 70−3」と命名して寄託し、寄託番号「KCTC 12778BP」を付与された。また、ラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)149菌株を「Lactobacillus brevis SPC−SNU 70−2」と命名して寄託し、寄託番号「KCTC 12777BP」を付与された。また、ラクトバチルス・サンフランシスエンシス(L.sanfranciscensis)142菌株を「Lactobacillus sanfranciscensis SPC−SNU 70−4」と命名して寄託し、寄託番号「KCTC 12779BP」を付与された。
【0019】
[製造例1:麹が添加された天然サワー種(麹を添加した韓国型サワードウ)の製造]
麹から微生物を抽出するために、麹50gに給水450gを加えた後、温度22℃、湿度83%の培養器で4時間培養し、100メッシュ篩にかけて麹のふすま成分を除去してスターター抽出ろ液を得た。
【0020】
天然サワー種を製造するための第1工程として、室温の加熱冷却水650gにスターター抽出ろ液400g、小麦粉950g、ライ麦粉100gを均一に混ぜ、温度25℃、湿度85%で48時間発酵させてスターターを培養し、スターター培養液を製造した。
【0021】
天然サワー種を製造するための第2工程(天然サワー種の製造及び継代培養)として、加熱冷却水1050gに、上記製造されたスターター培養液700g、小麦粉950g、ライ麦粉100gを均一に混ぜて捏上温度を26℃に合わせ、温度12℃の培養器で15時間発酵させて天然サワー種を製造した。保管は2〜4℃の冷蔵庫で行った。継代培養のためには、加熱冷却水1050gに、上記冷蔵保管中の天然サワー種700g、小麦粉950g、ライ麦粉100gを均一に混ぜて捏上温度を26℃に合わせ、温度12℃の培養器で15時間発酵させて天然サワー種を製造し、この工程を繰り返し行って継代培養した。
【0022】
[実施例1:微生物の分離及び同定]
麹、ライ麦、小麦粉、天然サワー種(製造例1)から微生物を分離した。それぞれの原料10g、0.85% NaCl 90mlをろ過袋(filter bag)に入れ、ストマッカー(stomacher)を用いて3分間均質化した。これをさらに、0.85% NaClで段階的に希釈をして適度な濃度にした後、乳酸菌は、0.01%シクロヘキシミド(cycloheximide)が添加されたMRS(de Man Rogosa and Sharpe,Difco)、SDB(2% Maltose、0.3% Yeast extract、1.5% Fresh yeast extract、0.03% Tween80、0.6% Casein peptone、pH5.6)固体培地に塗抹して分離し、酵母は、0.35%プロピオン酸ナトリウム(Sodim Propionate)が添加されたYM(Yeast Malt extract)、PDA(Potato Dextrose Agar)固体培地に塗抹して分離した。
【0023】
上記MRSは37℃で静置培養し、SDB、YM及びPDA培地はいずれも30℃で静置培養した。その後、単一コロニーを得るために各コロニーを3〜4回継代培養し、細胞形態の観察、グラム染色を行って、バクテリア(乳酸菌)は16s rRNA、酵母はITS配列分析によって同定した。
【0024】
実施の結果、麹からは、乳酸菌として、ラクトバチルス・カルバタス(L.curvatus)、ペディオコッカス・ペントサセウス(P.pentosaceus)、ラクトバチルス・サケイ(L.sakei)、ラクトバチルス・プランタラム(L.plantarum)、ペディオコッカス・アシディラクティシ(P.acidilactici)が分離され、酵母としては、トルラスポラ・デルブルッキー(T.delbrueckii)、ピキア・アノマラ(P.anomala)、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)、カンジダ・クルセイ(C.krusei)、カンジダ・ペリクロサ(C.pelliculosa)が分離された。
【0025】
また、天然サワー種からは、乳酸菌として、ペディオコッカス・ペントサセウス(P.pentosaceus)、ラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)、ラクトバチルス・プランタラム(L.plantarum)、ラクトバチルス・カルバタス(L.curvatus)、ラクトバチルス・サケイ(L.sakei)、ラクトバチルス・クラストラム(L.crustorum)、ラクトバチルス・サンフランシスエンシス(L.sanfranciscensis)が分離され、酵母としては、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)、カンジダ・クルセイ(C.krusei)、カンジダ・ペリクロサ(C.pelliculosa)が分離された。
【0026】
また、小麦粉からはペディオコッカス・ペントサセウス(P.pentosaceus)が、ライ麦からはペディオコッカス・ペントサセウス(P.pentosaceus)及びラクトバチルス・カルバタス(L.curvatus)が分離された。
【0027】
図1に、麹、小麦粉、天然サワー種及びライ麦から分離した微生物の同定結果を示す。
【0028】
[実施例2:天然サワー種からラクトバチルス・サンフランシスエンシス(L.sanfranciscensis)の分離]
本実施例では、天然サワー種(麹を添加した韓国型サワードウ)からラクトバチルス・サンフランシスエンシス(L.sanfranciscensis)を分離した。そのために、ラクトバチルス・サンフランシスエンシス特異的PCRをデザインした。
【0029】
ラクトバチルス・サンフランシスエンシスは2011年に全ての遺伝体配列が明らかにされ(Rudi F Vogel,Melanie Pavlovic,Matthias A Ehrmann1,Arnim Wiezer,Heiko Liesegang,Stefanie Offschanka,Sonja Voget,Angel Angelov,Georg BoWolfgang Liebl(2011) Genomic analysis reveals Lactobacillus sanfranciscensis as stable element in traditional sourdoughs.Microbial Cell Factories.10(Suppl1):S6)、これを用いてラクトバチルス・サンフランシスエンシスTMW1.1304のゲノム地図及び遺伝子データベースの中で他の菌株と重ならない遺伝子を探索し、それらの中からLSA_02510ハイポセティカルタンパク質(hypothetical protein)を選別した。
【0030】
他の菌株の遺伝子では増幅がなされないようにPCRプライマーをデザインし、プライマーsanhyp1:5’GGAGGAAA ACTCATGAGTGTTAAG3’(24mer)及びsanhyp2:5’CAAAGTCA−AGAAGTTATCCATAAACAC(27mer)を用いて、「94℃5分プレ変性(pre−denaturation)、94℃30秒、63℃30秒、72℃1分で30サイクル、72℃7分ファイナルエクステンション(final extention)」の条件でPCRを行った。
【0031】
天然サワー種から分離した68個の単一コロニーからゲノムDNA(genomic DNA)を分離し、これらをそれぞれ鋳型にして、ラクトバチルス・サンフランシスエンシス特異的PCRを行った後、電気泳動した。
【0032】
実施の結果、68個のうち39個のサンプルで957bpのバンドが形成されたことが知られ、残りのサンプルではバンドが観察されなかった。バンドが形成された39個のサンプルの全てについて16s rRNA配列分析を行い、その結果、ラクトバチルス・サンフランシスエンシスであると同定された。
【0033】
図2は、天然サワー種から分離した菌株をラクトバチルス・サンフランシスエンシスに特異的なプライマーを用いてPCRを行った後、電気泳動した結果である。
【0034】
[実施例3:天然サワー種からラクトバチルス・カルバタス(L.curvatus)を分離−L.curvatus−specific PCR]
本実施例では天然サワー種(麹を添加した韓国型サワードウ)からラクトバチルス・カルバタス(L.curvatus)を分離するためにラクトバチルス・カルバタス特異的PCRをデザインした。
【0035】
NCBI Blastサーチを行って他の乳酸菌との相同性が殆どない遺伝子を探索し、「CRL 705 contig 00107」を選別した。他の菌株の遺伝子では増幅されないようにしてPCRプライマーをデザインし、プライマーF’−CUR5’−GACCCATGCCTTT AATACGCATAG−3’とR’−CUR5’−CTGAAATAACCACTATAGCCACCCC−3’を用いて、「94℃5分プレ変性,94℃30秒、61.5℃30秒、72℃1分で40サイクル、72℃7分ファイナルエクステンション」の条件でPCRを行った。
【0036】
一方、天然サワー種から分離した68個の単一コロニーからゲノムDNAを分離し、それらをそれぞれ鋳型にしてラクトバチルス・カルバタス特異的PCRを行った後、電気泳動した。
【0037】
実施の結果、35個のサンプルで129bpのバンドが形成されたことが分かり、残りのサンプルではバンドが観察されなかった。バンドが形成された35個のサンプルの全てに16s rRNA配列分析を行い、その結果、ラクトバチルス・カルバタスと同定された。
【0038】
[実施例4:天然サワー種からラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)を分離−L.brevis−specific PCR]
本実施例では、天然サワー種(麹を添加した韓国型サワードウ)からラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)を分離するためにラクトバチルス・ブレビス特異的PCRをデザインした。
【0039】
(1)選択培地の製造及び培養条件
天然サワー種(麹を添加した韓国型サワードウ)からラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)を分離するためにmMRS−BPB選択培地を使用した。mMRS−BPBは、既存のMRS培地にシステインヒドロクロリド(Cysteine−HCl)0.2g/400ml、ブロモフェノールブルー(Bromophenol−blue)8mg/400mlを添加した後、121℃の温度で15分間オートクレーブ(autoclave)し、シクロヘキシミド(cycloheximide)20mg/ml D.Wをろ過して2ml/400ml基準で添加した。ブロモフェノールブルー(Bromophenol−blue)は、乳酸菌が生成する酸によってコロニーの色が変わる特性を用いて菌株を選択的に選抜するために添加し、シクロヘキシミド(cycloheximide)は、真菌類の抑制のために使用した。培養条件は37℃で24時間嫌気培養とした。
【0040】
(2)乳酸菌の分離
天然サワー種5gと0.85% NaCl 45mlを混ぜてストマッカーで均質化した後、0.85% NaClを用いて1×10
−6まで希釈し、mMRS−BPB培地に100μlを塗抹した。これを37℃で24時間嫌気培養し、薄い空色の無模様のコロニーをラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)候補菌株と見なして純粋培養した。
【0041】
(3)ラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)の分離−L.brevis特異的PCR
ラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)に特異的なプライマーとしては、ベク・ヒョヌックの論文(Hyun−wook Baek,2014,Thesis,SNU,Investigation of microbial diversity in Korean sourdough and its monitoring by real−time quantitative PCR))を参照してデザインしたBRE−F(5’−CAGTTAACTTTTGCGAGTCAGCAG−3’)及びBRE−R(5’−CGTCAGGTTCCCCACATAACTC−3’)を使用し、増幅サイズは162bpであり、「95℃10分プレ変性、95℃30秒、61.5℃30秒、72℃20秒で30サイクル、72℃20秒ファイナルエクステンション」の条件でコロニーPCRを行った後、電気泳動した。
【0042】
実施の結果、7個のサンプルで162bpのバンドが形成されたことが確認でき、バンドが形成されたサンプルはいずれもラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)と同定された。
【0043】
図3は、天然サワー種から分離した菌株をラクトバチルス・ブレビスに特異的なプライマーを用いてPCRを行った後、電気泳動した結果である。
【0044】
[実施例5:天然サワー種からサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)を分離及び同定]
本実施例では、天然サワー種からサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)を分離するために、サッカロミセス・セレビシエ特異的PCRをデザインした。
【0045】
(1)酵母の分離及び培養条件
初期天然サワー種、後期天然サワー種(安定化した状態)、パネトーネ種、サンフランシスコサワー種から酵母を分離するために、上記の各原料10gと90mlの0.85% NaClをろ過袋(filter bag)に入れた後、ストマッカー(stomacher)を用いて3分間均質化した。これをさらに0.85% NaClで段階的希釈によって適度な濃度に希釈した後、酵母を特異的に分離するために、0.35%プロピオン酸ナトリウム(Sodium Propionate)が添加されたYPM(1% Yeast Extract、2% Peptone、2% Maltose)固体培地に塗抹した。これを30℃で静置培養した。その後、単一コロニーを得るためにそれぞれのコロニーを3〜4回継代培養をし、分離された単一コロニーから、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)に特異的なプライマー(primer)を用いて、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)の候補菌株を選別した。
【0046】
(2)サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)の選別−S.cerevisiae特異的PCR
サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)に特異的なプライマーとしては、ジャン・ホウォンらの論文(Ho−Won Chang,Young−Do Nam,Youlboong Sung,Kyoung−Ho Kim,Seong Woon Roh,Jung−Hoon Yoon,Kwang−Guk An,Jin−Woo Bae,2007,Quantiative real time PCR assays for the enumeration of Saccharomyces cerevisiae and the Saccharomyces sensu stricto complex in human feces,Journal of Microbiological Methods,Vol.71,Issue 3)を参照してデザインしたSCDF(5’−AGG AGT GCG GTT CTT TG−3’)及びSCDR(5’−TAC TTA CCG AGG CAA GCT ACA−3’)を使用した。このプライマーは、サッカロミセス・セレビシエのD1/D2領域(region)を310bpの大きさで定量し、他の酵母の遺伝子は増幅させない特異的なプライマーとして報告されている。
【0047】
上記(1)で分離したサッカロミセス・セレビシエ候補菌株をSCDF、SCDRプライマーを用いて「94℃5分プレ変性、94℃1分、60℃1分、72℃1分で30サイクル、72℃7分ファイナルエクステンション」の条件でコロニーPCRを行った後、電気泳動した。
【0048】
実験の結果、
図4に示すように、初期天然サワー種、後期天然サワー種(安定化した状態)、パネトーネ種、サンフランシスコサワー種から分離された微生物45個のうち36個のサンプルにおいて310bpでバンドが形成されたことが確認できる。
図4は、分離した酵母をサッカロミセス・セレビシエに特異的なプライマーを用いてPCRを行った後、電気泳動した結果である。このとき、パネトーネ種及びサンフランシスコサワー種サンプルではバンドが増幅されないサンプルもあることが確認できた。
【0049】
[実施例6:天然サワー種から分離したラクトバチルス・サンフランシスエンシス(L.sanfranciscensis)の中からスターターとして優れた菌株を選別−酸生成の程度及びマルトース利用性を確認]
本実施例では、天然サワー種から分離したラクトバチルス・サンフランシスエンシス(L.sanfranciscensis)の中からスターターとして優れた菌株を選別するために、ラクトバチルス・サンフランシスエンシス菌株の酸生成能及びマルトース(maltose)利用能を比較した。
【0050】
−80℃で保管した菌株を10ml mMRS(1L基準、ポリペプトン10g、肉エキス 10g、酵母エキス5g、Tween80 1ml、K
2HPO
4 2g、酢酸ナトリウム5g、クエン酸アンモニウム2g,MgSO
4 0.2g、MnSO
4 0.05g、マルトース又はグルコース20g、pH 5.4、糖は別にオートクレーブする。)ブロス(broth)に30℃の温度で24時間前培養した。培養された細胞は遠心分離(4℃、10,000rpm)して回収した後、これを100ml mMRSブロス(broth)に初期O.D.(at 600nm)0.1で接種して30℃,90rpmで培養し、3〜4時間の間隔で試料を採取した。
【0051】
有機酸の測定は、HPLC(Agilent 1100 series,USA)を用いて行った。HPLC条件としては、移動相は0.001Nの硫酸溶液を流速0.6ml/minで流し、60℃に加熱された有機酸分析用カラム(Rezex ROA−organic acid,Phenomenex,USA)及びRI 検出器(detector)を利用した。
【0052】
測定の結果、乳酸(Lactic acid)の生成が少ない上位6個の菌株は、ss 131、ss 136、ss 135、ss 142、ss 161(group 1)であり、その次の上位5個の菌株はss 204、ss 194、ss 121、ss 205、ss 223(group 2)であることが確認できた(
図5)。
図5は、天然サワー種から分離したラクトバチルス・サンフランシスエンシス菌株の最大乳酸生成量を比較したグラフである。
【0053】
上記グループ1の菌株の特徴を比較し、乳酸を少なく生成しながらもマルトースの代謝能力に最も優れた菌株を選定した。
【0054】
選定の結果、ss 142菌株が、マルトースの代謝も完全になされ、乳酸の生成量が少ないことが確認できた(
図6)。このような結果から、ss 142菌株がスターターとして最も適した特徴を有することが確認できた。
図6は、天然サワー種から分離したラクトバチルス・サンフランシスエンシス菌株のうちグループ1菌株の発酵プロファイルである。
【0055】
一方、ラクトバチルス・サンフランシスエンシス(L.sanfranciscensis)ss 142菌株を「Lactobacillus sanfranciscensis SPC−SNU 70−4」と命名して寄託し、寄託番号「KCTC 12779BP」を付与された。
【0056】
[実施例7:天然サワー種から分離したラクトバチルス・カルバタス(L.curvatus)の中からスターターとして優秀な菌株を選別−pH別耐酸性及びマルトース利用性を確認]
本実施例では、天然サワー種から分離したラクトバチルス・カルバタス(L.curvatus)の中からスターターとして優秀な菌株を選別するために、ラクトバチルス・カルバタス菌株のpH別耐酸性及びマルトース(maltose)利用能を確認した。
【0057】
(1)天然サワー種から分離したラクトバチルス・カルバタスのpH別耐酸性の確認
天然サワー種から分離したラクトバチルス・カルバタス35種の菌株(100,104,106,109,112,114C,114SS,116,120,122,127,130,132,134,138,140N,140SS,144,146,156N,156SS,159,171N,172,183N,206N,206SS,216N,238,241N,241SS,249N,250N,253SS,253N)の耐酸性を確認するために、それぞれpHを6.8、4.6、4.4、4.2に調節したMRSブロスに上記の各菌株を1%ずつ接種し、24時間後に600nmで吸光度を測定して生長曲線(growth curve)を作成した。
【0058】
その結果、pH4.2で高い吸光度値を有する菌株は249N、250N、206SS、104であり、それぞれ、1.540、1.501、1.446、1.403の値を示すことが確認できた。また、公知菌株(L.curvatus KCCM 40715)との吸光度差は、それぞれ、0.207、0.168、0.113、0.070だった。
【0059】
(2)天然サワー種から分離したラクトバチルス・カルバタスのマルトース利用能の確認
天然サワー種から分離したラクトバチルス・カルバタス35種(100,104,106,109,112,114C,114SS,116,120,122,127,130,132,134,138,140N,140SS,144,146,156N,156SS,159,171N,172,183N,206N,206SS,216N,238,241N,241SS,249N,250N,253SS,253N)のマルトース(maltose)利用性を確認するために、MRSブロス培地組成からデキストロース(dextrose)を除いて2%マルトース(maltose)を添加した培地を作った後、これに上記の各菌株を1%ずつ接種し、24時間培養後に600nmで吸光度を測定して生長曲線(growth curve)を作成した。
【0060】
その結果、天然サワー種から分離したラクトバチルス・カルバタスはいずれも、公知菌株(L.curvatus KCCM 40715)に比べてマルトース(maltose)をより良好に利用することが確認できた。特に、104、114C、156SS、183Nが他の菌株に比べて優れたマルトース(maltose)利用能を示したが、吸光度値はそれぞれ、1.498、1.501、1.523、1.528であった。これらの値は公知菌株に比べて0.253、0.256、0.278、0.283高い値である。
【0061】
上記の実験で耐酸性及びマルトース利用能が共に高く現れたラクトバチルス・カルバタス(L.curvatus)104菌株を「Lactobacillus curvatus SPC−SNU 70−3」と命名して寄託し、寄託番号「KCTC 12778BP」を付与された。
【0062】
[実施例8:天然サワー種から分離したラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)の中からスターターとして優秀な菌株を選別−pH別耐酸性及びマルトース利用性を確認]
本実施例では、天然サワー種から分離したラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)の中から、スターターとして優れた菌株を選別するために、ラクトバチルス・ブレビスのpH別耐酸性及びマルトース利用能を確認した。
【0063】
(1)天然サワー種から分離したラクトバチルス・ブレビスのpH別耐酸性の確認
天然サワー種から分離したラクトバチルス・ブレビス菌株に対して1次的にマイクロプレート(microplate)培養によってpH4及びpH3.5における細胞成長速度を測定して比較した。これらのうち最も高い生育度を示す菌株として111、149、T30の菌株を選抜した。
【0064】
その後、pH4及びpH3.5に調節したMRSブロスに上記の各菌株を1%ずつ接種し、24時間培養後に、600nmで吸光度を測定して生長曲線(growth curve)を作成した。
【0065】
その結果、111、149、T30の菌株は、いずれも、公知菌株(L.brevis KCCM11433)と類似の生育速度を示し、特に、111、149菌株は、公知菌株よりも高い生育速度を示すことを確認できた。特に、生育速度の最も高い149菌株がスターターとして最も適することが確認できた(
図7)。
図7は、天然サワー種から分離したラクトバチルス・ブレビスの耐酸性を確認した結果である。
【0066】
(2)天然サワー種から分離したラクトバチルス・ブレビスのマルトース利用能の確認
下記の表1のような組成を有する2%マルトース含有MRSブロス培地(medium)を作った後、111、149、T30の菌株をそれぞれ1%ずつ接種し、24時間培養した後に、600nmで吸光度を測定して生長曲線(growth curve)を作成した。
【0068】
実施の結果、149菌株とT30菌株が公知菌株に比べてマルトース(maltose)培地における生育速度が速く、特に、149菌株が最も高い生育速度を示すことが確認できた。この結果から、149菌株がスターターとして最も適することが確認できた(
図8)。
図8は、天然サワー種から分離したラクトバチルス・ブレビスのマルトース利用能を確認した結果である。
【0069】
一方、ラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)149菌株を「Lactobacillus brevis SPC−SNU 70−2」と命名して寄託し、寄託番号「KCTC 12777BP」を付与された。
【0070】
[実施例9:天然サワー種から分離したサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)の中からスターターとして優れた菌株を選別−pH別耐酸性を確認]
本実施例では、天然サワー種から分離したサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)の中からスターターとして優れた菌株を選別した。
【0071】
まず、初期天然サワー種(early sourdough、初期サワー種)から分離されたサッカロミセス・セレビシエ01434、後期天然サワー種(mature sourdough、後期サワー種)から分離されたサッカロミセス・セレビシエ01435に対して実験を行った。実験は、96マイクロウェルプレート(micro well plate)で行い、ウェル(well)当たり全容積(total volume)を250μlとしてYP培地に20g/Lマルトースを入れ、初期OD
600 0.2で接種した。耐性テストに用いられた酸の種類は、サワードウで最も多く生成される乳酸と酢酸を用いてpH5.5、5.0、4.5、4.0、3.5で行った。
【0072】
実施の結果、サッカロミセス・セレビシエ01434は、酢酸pH 3.5ではほとんど成長できず、pH 4.0では遅く生長し、pH 4.5からpH 5.5では、ほぼ同一の速度で生長した。これとは異なり、乳酸では、酸度に関係なく、殆どについて、よく成長することが確認でき、特に、pH5.5でよく生長した。このような結果から、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)01434は、乳酸よりは酢酸に対する耐性が低く、酢酸pH4.5以下では生長が阻害されることが確認できた。
【0073】
また、初期天然サワー種から分離した酵母と後期天然サワー種から分離した酵母の酸耐性は略同様のレベルであることが分かり、後期天然サワー種から分離したサッカロミセス・セレビシエ01435の方が僅かではあるが耐性に優れていることが確認できた(
図9)。
図9は、天然サワー種から分離したサッカロミセス・セレビシエ01435の耐酸性を確認した結果である。
【0074】
一方、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)01435を「Saccharomyces cerevisiae SPC−SNU 70−1」と命名して寄託し、寄託番号「KCTC 12776BP」を付与された。
【0075】
[実施例10:天然サワー種から分離したサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)を製パンに適用]
本実施例では、天然サワー種(麹が添加された韓国型サワードウ)から分離したサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)菌株の中から、製パン用スターターとして最も優れた菌株として選抜されたサッカロミセス・セレビシエ01435(S.cerevisiae 01435)と、市販酵母(ReusyaPro(フランス)、水分28%)を、それぞれ製パンに適用し、その特性を比較した。
【0076】
(1)パンの製造
下記の表2に記載した中種の組成成分をミキサー(製品名:SK101S MIXER、日本)に投入し、2段で2分、3段で1分間捏ねた後、生地の最終温度が25℃になるようにさらに混合した。その後、室温で30分間放置した後、6℃の発酵器に入れ、16時間1次発酵させて中種を製造した。
【0077】
その後、下記の表2に記載する本捏ねの組成成分(強力粉、精製塩、精白糖、全脂粉乳、酵母、精製水)をミキサー(製品名:SK101S MIXER、日本)に投入し、1段で1分間捏ねた後、上記の中種を添加して2段で3分、3段で2分間混合した。その後、バターを添加し、2段で3分、3段で3分間捏ねて生地の最終温度を27℃にして本捏ね生地を製造した。
【0078】
この本捏ね生地を、27℃、相対湿度85%の発酵器に入れて30分間中間発酵させた後、この生地を一定の大きさに分割して丸めた後、27℃、相対湿度85%の発酵器に入れて15分間熟成した。熟成ののち成形して食パンケースに入れた。その後、食パンケースに入れた生地を37℃、相対湿度85%の雰囲気で50分間発酵させて食パン生地を製造した。この食パン生地をオーブンに入れ、上火170℃、下火210℃で35分間焼き上げた。その後、室温で、内部温度が32℃になるまで冷却した。
【0079】
上記の手順で製造された、サッカロミセス・セレビシエ01435と市販酵母が添加された食パンは、
図10の写真のとおりであった。
図10は、対照群(市販酵母が適用されたパン)及び分離酵母サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)01435が適用されたパンの写真である。
【0081】
(2)パンの物性の測定
サッカロミセス・セレビシエ01435と市販酵母がそれぞれ適用されたパンの物性を測定した。
【0082】
pH測定は、250mlビーカーに蒸留水100ml、試料15gを入れて均質化した後、pHメーター(pH meter)で測定した。
【0083】
総滴定酸度(total titrable acidity;TTA)は、0.1N NaOH溶液で滴定してpH 6.6及びpH 8.5に達するまでのNaOH溶液消費量(ml)と定義した。
【0084】
色度測定は、パンを約20mmの厚さに切った試料を色度計(CR−400,KONIKA MINOLTA社製)を用いて測定した。色度測定は、明度はL値、色度はa(赤〜緑)値、b(黄〜青)値で示した。
【0085】
パンのpH、総滴定酸度、色度測定の結果を、下記の表3に示す。
【0087】
測定の結果、サッカロミセス・セレビシエ01435が適用されたパンは、市販酵母が適用されたパンに比べて、pHが低く、水分含量が高く、比容積が大きいことが確認できた。
【0088】
(3)生地のガス発生力の確認
サッカロミセス・セレビシエ01435が適用された本捏ね生地と市販酵母が適用された本捏ね生地のガス発生力を比較確認した。
【0089】
ガス発生力の測定は、生地25gを取り、ガス発生力測定器(Fermometer)にて30℃で10時間行った。
【0090】
測定の結果、両本捏ね生地のガス発生力は全般的に類似していた。ただし、初期には、サッカロミセス・セレビシエ01435が適用された本捏ね生地のガス発生力が多少高いことが確認できた(
図11)。
図11は、天然サワー種から分離したサッカロミセス・セレビシエが適用された本捏ね生地のガス発生力を確認したグラフである。
【0091】
(4)パンの老化度の測定
サッカロミセス・セレビシエ01435が適用されたパンと市販酵母が適用されたパンの硬度及び時間による老化速度を比較した。
【0092】
パンを常温で約3時間置いた後、約20mm厚に切って試料を準備した後、物性測定器(Taxture analyser,Stable Micro Systems社製)を用いて硬度を測定し、時間の経過による硬度を比較することで老化速度を測定した。硬度測定結果は下記の表4に示し、老化速度は
図12に示す。
【0094】
測定の結果、サッカロミセス・セレビシエ01435が適用されたパンは、市販酵母が適用されたパンに比べて全般的に硬度が低くて軟らかさに優れていることが確認できた。
【0095】
しかし、時間による硬度を比較して老化速度を測定した結果、全般的な老化速度は類似していることが確認できた(
図12)。
図12は、天然サワー種から分離したサッカロミセス・セレビシエ01435が適用されたパンの老化速度を確認した結果である。
【0096】
(5)パンの香気成分の分析
サッカロミセス・セレビシエ01435が適用されたパンと市販酵母が適用されたパンの風味成分を比較するために、GC/MSシステムを用いて香気成分を分析した。
【0097】
試料1gに対して分析を行い、また、GC/MS分析条件は下記の表5のようにした。GC/MS分析後、アルコール(alcohol)、アルデヒド(aldehyde)、ケトン(ketone)、エステル(ester)、酸(acid)類に対する全体的な定量的数値を比較した(
図13)、下記の表6に、22種の代表的な香気成分に対して各成分の相対的比率を百分率で示す。
【0100】
揮発性香気成分(アルコール、アルデヒド、ケトン、エステル、酸(acid)類)の全体的な定量的数値を比較した結果、サッカロミセス・セレビシエ01435が適用されたパンでケトン類が多量検出されることが確認できた。ケトン類は軟らかくてマイルドな匂いがする香気成分であり、本発明の分離酵母が適用されたパンは、風味が軟らかくてマイルドであることが確認できた。特に、バターの香りの軟らかい風味を示すケトン類のうち、アセトインの含量が高いことが確認できた。また、サッカロミセス・セレビシエ01435が適用されたパンは、対照群に比べて、青臭い匂いを起こすエチルアルコール(ethyl alcohol)の含量が少ないことが確認できた。
【0101】
一方、市販酵母が適用されたパンは、アルコール類、エステル類が多量に検出されることが確認できた。アルコール類及びエステル類は、香りが軽く、強い匂いがする香気成分であり、市販酵母が適用されたパンは、本発明の分離酵母に比べて風味スペクトラムがよくないことが分かった(
図13)。
図13は、天然サワー種から分離されたサッカロミセス・セレビシエ01435が適用されたパンの香気成分を定量的数値で比較した結果である。
【0102】
[実施例11:天然サワー種から分離したラクトバチルス・カルバタス(L.curvatus)を製パンに適用]
本実施例では、天然サワー種(麹が添加された韓国型サワードウ)から分離したラクトバチルス・カルバタス(L.curvatus)104菌株と公知菌株であるラクトバチルス・カルバタス KCCM 40715菌株をそれぞれ製パンに適用し、その特性を確認した。
【0103】
(1)乳酸菌発酵生地の製造及び分析
強力粉100g、乳酸菌数2×10
10cfu/g、加熱冷却水100gを混合した後、30℃の発酵器で発酵させて乳酸菌発酵生地を製造するが、生地のpHがpH4.2±0.2に達すると、冷却してから、乳酸菌発酵生地のpH、TTA及び菌数を測定した。
【0104】
一方、本実施例で乳酸菌は、MRSブロスで30℃の温度で22±2時間培養した後、遠心分離して収得した菌体を生理食塩水で洗浄したものを使用し、最初の菌接種量は生地1g当たり1×10
8cfuにした。
【0107】
測定の結果、分離菌株(L.curvatus104)適用の生地及び公知菌株(L.curvatus KCCM 40715)適用の生地の発酵時間は3時間程度であり、上記の表7に示すように、分離菌株適用生地は公知菌株適用生地と類似の菌数を有することが確認できた。
【0108】
(2)パンの製造
下記の表8のように中種組成成分をミキサー(製品名:SK101S MIXER、日本)に投入し、2段で2分、3段で1分間捏ねた後、生地の最終温度が25℃となるようにさらに混合した。その後、室温で30分間放置した後、6℃の発酵器に入れて16時間1次発酵させて中種を製造した。
【0109】
その後、下記の表8に記載された本捏ね組成成分(強力粉、精製塩、精白糖、全脂粉乳、酵母、精製水及び乳酸菌発酵生地)をミキサー(製品名:SK101S MIXER、日本)に投入して1段で1分間捏ねた後、上記の中種を添加して2段で3分、3段で2分間混合した。その後、バターを添加して2段で3分、3段で3分間捏ね、生地の最終温度が27℃になるようにして本捏ね生地を製造した。
【0110】
この本捏ね生地を、27℃、相対湿度85%の発酵器に入れて30分間中間発酵をさせた後、この生地を一定の大きさに分割して丸め、27℃、相対湿度85%の発酵器に入れて15分間熟成した。熟成ののち成形して食パンケースに入れた。その後、この食パンケースに入れた生地を、37℃、相対湿度85%の雰囲気で50分間発酵させて食パン生地を製造した。この食パン生地をオーブンに入れ、上火170℃、下火210℃で35分間焼き上げた。その後、室温で内部温度が32℃になるまで冷却させた。
【0111】
製造された対照群(市販酵母のみ適用されたパン)、公知菌株(L.curvatus KCCM 40715)が適用されたパン、分離菌株(L.curvatus 104)が適用されたパンは、
図14の写真のとおりだった。
図14は、対照群(市販酵母のみ適用されたパン)、公知菌株(L.curvatus KCCM 40715)が適用されたパン、分離菌株(L.curvatus 104)が適用されたパンの写真である。
【0113】
(3)パンの物性の測定
対照群(市販酵母のみ適用されたパン)、公知菌株(L.curvatus KCCM 40715)が適用されたパン、分離菌株(L.curvatus 104)が適用されたパンの物性(pH、総滴定酸度、色度)を測定した。pH、総滴定酸度、色度の測定方法は、上記の実施例10に記載された方法と同様にした。その結果を下記の表9に示す。
【0115】
測定の結果、分離菌株が適用されたパンは、公知菌株が適用されたパンに比べてpHが低く、比容積が大きいことが確認できた。
【0116】
(4)生地のガス発生力の確認
対照群(市販酵母のみ適用された本捏ね生地)、公知菌株(L.curvatus KCCM 40715)が適用された本捏ね生地、分離菌株(L.curvatus 104)が適用された本捏ね生地のガス発生力を比較確認した。ガス発生力の測定は、生地25gを取ってガス発生力測定器(Fermometer)を用いて30℃で10時間行った。
【0117】
測定の結果、対照群(市販酵母のみ適用された生地)に比べて乳酸菌株(公知菌株、分離菌株)を適用した生地の方がガス発生力に優れていることが確認できた。ただし、分離菌株と公知菌株とのガス発生力の差は殆どないことが確認できた(
図15)。
図15は、天然サワー種から分離したラクトバチルス・カルバタス104(L.curvatus 104)が適用された本捏ね生地のガス発生力を確認した結果である。
【0118】
(5)パンの老化度の測定
対照群(市販酵母のみ適用されたパン)、公知菌株(L.curvatus KCCM 40715)が適用されたパン、分離菌株(L.curvatus 104)が適用されたパンの硬度及び時間による老化速度を比較した。
【0119】
硬度及び時間による老化速度の測定方法は、上記の実施例10に記載の方法と同一にした。硬度についての値は下記の表10に示し、時間による老化速度の結果は
図16に示す。
【0121】
測定の結果、乳酸菌株(公知菌株、分離菌株)を適用したパンは、硬度が低くて軟らかいことが確認できた。特に、本発明の分離菌株(L.curvatus 104)が適用されたパンは、最も低い硬度値を示し、最も軟らかいことが確認できた。また、時間による老化速度も、硬度と類似の結果を示すことが確認できた(
図16)。
図16は、天然サワー種から分離したラクトバチルス・カルバタス104(L.curvatus 104)が適用されたパンの老化速度を測定した結果である。
【0122】
(6)パンの香気成分の分析
対照群(市販酵母のみ適用されたパン)、公知菌株(L.curvatus KCCM 40715)が適用されたパン、分離菌株(L.curvatus 104)が添加されたパンの風味成分の発現を比較するために、GC/MSシステムを用いて香気成分を分析した。
【0123】
試料1gに対して分析を行い、また、GC/MS分析条件は上記の表5と同様にした。GC/MS分析の後、アルコール(alcohol)、アルデヒド(aldehyde)、ケトン(ketone)、エステル(ester)、酸(acid)類に対する全体的な定量的数値を比較し(
図17)、下記の表11に、22種の代表的な香気成分に対して各成分の相対的比率を百分率で示した。
【0125】
揮発性香気成分(アルコール、アルデヒド、ケトン、エステル、酸(acid)類)の全体的な定量的数値を比較した結果、分離菌株(L.curvatus 104)が適用されたパンからケトン類が多量検出されることが確認できた。ケトン類は、軟らかくてマイルドな香りがする香気成分であり、本発明の分離菌株を含有するパンは、風味が柔らかくてマイルドであることが確認できた。
【0126】
また、乳酸菌(分離菌株、公知菌株)が適用されたパンは、酸(acid)類が多量検出されることが確認できた。
【0127】
これに対し、市販酵母のみ適用されたパンは、アルコール類、エステル類が多量検出されることが確認できた。アルコール類及びエステル類は、香りが軽く、強い匂いがする香気成分であり、市販酵母のみ適用されたパンは風味スペクトルが良くないことが確認できた。
【0128】
図17は、天然サワー種から分離したラクトバチルス・カルバタス(L.curvatus 104)が適用されたパンの香気成分を定量的数値で比較した結果である。
【0129】
一方、代表的香気成分の分析結果、上記の表11から確認されるように、対照群(市販酵母のみ適用されたパン)に比べて、乳酸菌(分離菌株、公知菌株)が適用されたパンの方が、青臭い匂いを起こすエチルアルコール(ethyl alcohol)の含量が少ないことが確認できた。また、シトラス(citrus)、ファッティー(fatty)な香り(pleasant flavor)を出すノナナール(nonanal)と、キャラメル、キャンディ、アーモンドの香りを出すフルフラール(furfural)は、乳酸菌(分離菌株、公知菌株)が適用されたパンで高く現れた。特に、キャンディの香りのような甘ったるい風味を出すベンズアルデヒド(benzaldehyde)と、バターの香りの軟らかい風味を出すケトン類のうちアセトインは、分離菌株(L.curvatus 104)で高く現れることが確認できた。また、公知菌株(L.curvatus kccm 40715)が適用されたパンは、甘い香臭がする1−プロパノール(1−propanol)及びオレンジ香を出すアルファ−リモネン(alpha−limonene)が検出されないことが確認できた。
【0130】
[実施例12:天然サワー種から分離したラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)を製パンに適用]
本実施例では、天然サワー種(麹が添加された韓国型サワードウ)から分離したラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)149菌株と公知菌株(L.brevis KACC 11433)をそれぞれ製パンに適用し、その特性を確認した。
【0131】
(1)乳酸菌発酵生地の製造及び分析
強力粉100g、乳酸菌数2×10
10cfu/g、加熱冷却水100gを混合した後、30℃の発酵器で発酵させて乳酸菌発酵生地を製造するが、生地のpHがpH4.2±0.2に到達すると冷却させ、乳酸菌発酵生地のpH、TTA及び菌数を測定した。
【0132】
一方、乳酸菌株は、MRSブロスで30℃の温度で22±2時間培養した後、遠心分離して得た菌体を生理食塩水で洗浄したものを使用し、最初の菌接種量は、生地1g当たりに1×10
8cfuにした。
【0135】
測定の結果、分離菌株(L.brevis 149)適用の生地の発酵時間は6時間、公知菌株(L.brevis KACC 11433)適用の生地の発酵時間は8時間だった。
【0136】
また、上記の表12に示すように、分離菌株が適用された生地は、公知菌株が適用された生地に比べて約1.8倍の、高い菌数を示すことが確認できた。
【0137】
(2)パンの製造
下記の表13のように中種の組成成分をミキサー(製品名:SK101S MIXER、日本)に投入し、2段で2分、3段で1分間捏ねた後、生地の最終温度が25℃となるようにさらに混合した。その後、室温で30分間放置した後、6℃発酵器に入れて16時間1次発酵させて中種を製造した。
【0138】
その後、下記の表13に記載された本捏ねの組成成分(強力粉、精製塩、精白糖、全脂粉乳、酵母、精製水及び乳酸菌発酵生地)をミキサー(製品名:SK101S MIXER、日本)に投入して1段で1分間捏ねた後、上記の中種を添加して2段で3分、3段で2分間混合した。その後、バターを添加して2段で3分、3段で3分間捏ね、生地の最終温度が27℃になるようにして本捏ね生地を製造した。
【0139】
この本捏ね生地を27℃、相対湿度85%の発酵器に入れて30分間中間発酵をさせた後、この生地を一定の大きさに分割して丸め、27℃、相対湿度85%の発酵器に入れて15分間熟成した。熟成ののち成形して食パンケースに入れた。その後、食パンケースに入れた生地を37℃、相対湿度85%の雰囲気で50分間発酵させて食パン生地を製造した。この食パン生地をオーブンに入れ、上火170℃、下火210℃で35分間焼き上げた。その後、室温で内部温度が32℃になるまで冷却した。
製造された対照群(市販酵母のみ適用されたパン)、公知菌株(L.brevis KACC 11433)が適用されたパン、分離菌株(L.brevis149)が適用されたパンは、
図18の写真のとおりだった。
図18は、対照群(市販酵母のみ適用されたパン)、公知菌株(L.brevis KACC 11433)が適用されたパン、分離菌株(L.brevis 149)が適用されたパンの写真である。
【0141】
(3)パンの物性の測定
対照群(市販酵母のみ適用されたパン)、公知菌株(L.brevis KACC 11433)が適用されたパン、分離菌株(L.brevis 149)が適用されたパンの物性(pH、総滴定酸度、色度)を測定した。pH、総滴定酸度、色度測定方法は、上記の実施例10に記載された方法と同様にした。その結果を下記の表14に示す。
【0143】
測定の結果、分離菌株が適用されたパンは、公知菌株が適用されたパンに比べてpHが高く、比容積が大きいことが確認できた。
【0144】
(4)生地のガス発生力の確認
対照群(市販酵母のみ適用された本捏ね生地)、公知菌株(L.brevis KACC 11433)が適用された本捏ね生地、分離菌株(L.brevis 149)が適用された本捏ね生地のガス発生力を比較確認した。ガス発生力の測定は、生地25gを取ってガス発生力測定器(Fermometer)を用いて30℃で10時間行った。
【0145】
測定の結果、対照群(市販酵母のみ適用された本捏ね生地)よりも乳酸菌株(公知菌株、分離菌株)が適用された本捏ね生地の方がガス発生力に優れていることが確認できた。ただし、分離菌株と公知菌株ではガス発生力の差が殆どないことが確認できた(
図19)。
図19は、天然サワー種から分離したラクトバチルス・ブレビス(L.brevis 149)が適用された本捏ね生地のガス発生力を確認した結果である。
【0146】
(5)パンの老化度の測定
対照群(市販酵母のみ適用されたパン)、公知菌株(L.brevis KACC 11433)が適用されたパン、分離菌株(L.brevis 149)が適用されたパンの硬度及び時間による老化速度を比較した。
【0147】
硬度及び時間による老化速度の測定方法は、上記の実施例10に記載された方法と同様にした。硬度に対する値は下記の表15に示し、時間による老化速度の結果は
図20に示す。
【0149】
測定の結果、乳酸菌株(公知菌株、分離菌株)を適用したパンは、硬度が低くて軟らかいことが確認できた。特に、分離菌株(L.brevis 149)が適用されたパンは、最も低い硬度値を示すことが確認できた。
【0150】
一方、時間による老化速度を分析した結果、対照群に比べて乳酸菌適用のパンの老化速度が遅く、特に、分離菌株が適用されたパンの老化速度が最も遅いことが確認できた(
図20)。
図20は、天然サワー種から分離したラクトバチルス・ブレビス(L.brevis 149)が適用されたパンの老化速度を確認した結果である。
【0151】
(6)パンの香気成分の分析
対照群(市販酵母のみ適用されたパン)、公知菌株(L.brevis KACC 11433)が適用されたパン、分離菌株(L.brevis 149)が適用されたパンの風味成分を比較するためにGC/MSシステムを用いて香気成分を分析した。
【0152】
試料1gに対して分析を行い、また、GC/MS分析条件は上記の表5と同様にした。GC/MS分析の後、アルコール(alcohol)、アルデヒド(aldehyde)、ケトン(ketone)、エステル(ester)、酸(acid)類に対する全体的な定量的数値を比較し(
図21)、下記の表16に、22種の代表的香気成分に対して各成分の相対的比率を百分率で示した。
【0154】
揮発性香気成分(アルコール、アルデヒド、ケトン、エステル、酸類)の全体的な定量的数値を比較した結果、乳酸菌(分離菌株、公知菌株)が適用されたパンでケトン類、アルデヒド類、エステル類が多量検出されることが確認できた。ケトン類、アルデヒド類、エステル類は軟らかくてマイルドな匂いがする香気成分であって、本発明の分離菌株(L.brevis 149)が適用されたパンは、風味が軟らかくてマイルドであることが確認できた。また、乳酸菌(分離菌株、公知菌株)が適用されたパンは酸(acid)類が多量検出されることが確認できた。
【0155】
しかしながら、市販酵母のみ添加されたパンは、アルコール類が多量検出されることが確認できた。アルコール類は、香りが軽く、強い匂いがする香気成分であって、市販酵母のみ適用されたパンは風味が良くないことが確認できた。
【0156】
図21は、天然サワー種から分離したラクトバチルス・ブレビス(L.brevis 149)が適用されたパンの香気成分を定量的数値で比較した結果である。
【0157】
一方、代表的香気成分の分析結果、上記の表16から確認されるように、対照群(市販酵母のみ適用されたパン)よりも乳酸菌(分離菌株、公知菌株)が適用されたパンの方が、青臭い匂いを起こすエチルアルコール(ethyl alcohol)の含量が少ないことが確認できた。また、バナナ、西洋梨の甘ったるい香臭がするイソアミルアルコール(isoamyl alcohol)、とうもろこしの甘い香臭がする2−フェニルエチルアルコール(2−phenyl ethyl alcohol)及びバター香の軟らかい風味がするケトン類のうちアセトインは、乳酸菌添加のパンで高く現れることが確認できた。また、シトラス(citrus)、ファッティー(fatty)香(pleasant flavor)を示すノナナール(nonanal)、キャラメル、キャンディ、アーモンド香を示すフルフラール(furfural)、甘ったるい香りがするエステル類の物質は全体的に、分離菌株(L.brevis 149)が適用されたパンで高く現れることが確認できた。
【0158】
[実施例13:天然サワー種から分離したラクトバチルス・サンフランシスエンシス(L.sanfranciscensis142)を製パンに適用]
本実施例では、天然サワー種(麹が添加された韓国型サワードウ)から分離したラクトバチルス・サンフランシスエンシス(L.sanfranciscensis)142菌株と公知菌株(L.sanfranciscensis KACC12431)をそれぞれ製パンに適用し、その特性を確認した。
【0159】
(1)乳酸菌発酵生地の製造及び分析
強力粉100g、乳酸菌数2×10
10cfu/g、加熱冷却水100gを混合した後、30℃の発酵器で発酵させて乳酸菌発酵生地を製造するが、生地のpHがpH4.2±0.2に到達すると冷却させ、乳酸菌発酵生地のpH、TTA及び菌数を測定した。この時、pH、TTAは、上記の実施例10に記載の方法と同一の方法で測定した。
【0160】
一方、乳酸菌株は、MRSブロスで30℃の温度で22±2時間培養した後、遠心分離して収得した菌体を生理食塩水で洗浄したものを使用し、最初の菌接種量は、生地1g当たり1×10
8cfuにした。
【0163】
測定の結果、分離菌株(L.sanfranciscensis 142)適用の生地の発酵時間は6時間であり、公知菌株(L.sanfranciscensis KACC 12431)添加生地の発酵時間は8時間であって、分離菌株が公知菌株よりも2時間早いことが確認できた。
【0164】
また、上記の表17に示すように、分離菌株が適用された生地の菌数は、公知菌株が適用された生地に比べて多いことが確認できた。
【0165】
(2)パンの製造
下記の表18のように、中種の組成成分をミキサー(製品名:SK101S MIXER、日本)に投入し、2段で2分、3段で1分間捏ねた後、生地の最終温度が25℃となるようにさらに混合した。その後、室温で30分間放置した後、6℃発酵器に入れて16時間1次発酵させて中種を製造した。
【0166】
その後、下記の表18に記載された本捏ねの組成成分(強力粉、精製塩、精白糖、全脂粉乳、酵母、精製水及び乳酸菌発酵生地)をミキサー(製品名:SK101S MIXER、日本)に投入して1段で1分間捏ねた後、上記の中種を添加して2段で3分、3段で2分間混合した。その後、バターを添加して2段で3分、3段で3分間捏ね、生地の最終温度が27℃になるようにして本捏ね生地を製造した。
【0167】
この本捏ね生地を27℃、相対湿度85〜90%の発酵器に入れて30分間中間発酵をさせた後、この生地を一定の大きさに分割して丸め、27℃、相対湿度85〜90%の発酵器に入れて15分間熟成した。熟成ののち成形して食パンケースに入れた。その後、食パンケースに入れた生地を37℃、相対湿度85〜90%の雰囲気で50〜60分間発酵させて食パン生地を製造した。この食パン生地をオーブンに入れ、上火170℃、下火210℃で35分間焼き上げた。その後、室温で内部温度が32℃になるまで冷却した。
【0168】
製造された対照群(市販酵母のみ適用されたパン)、公知菌株(L.sanfranciscensis KACC 12431)が適用されたパン、分離菌株(L.sanfranciscensis 142)が適用されたパンは、
図22のの写真のとおりであった。
図22は、対照群(市販酵母)のみ適用されたパン、公知菌株(L.sanfranciscensis KACC 12431)が適用されたパン、分離菌株(L.sanfranciscensis 142)が適用されたパンの写真である。
【0170】
(3)パンの物性の測定
対照群(市販酵母のみ適用されたパン)、公知菌株(L.sanfranciscensis KACC 12431)が適用されたパン、分離菌株(L.sanfranciscensis 142)が適用されたパンの物性(pH、総滴定酸度、色度)を測定した。
【0171】
pH、総滴定酸度、色度測定方法は、上記の実施例10に記載された方法と同一にした。その結果を下記の表19に示す。
【0173】
測定の結果、分離菌株が適用されたパンは、公知菌株が適用されたパンに比べてpHが低く、比容積が大きいことが確認できた。
【0174】
(4)生地のガス発生力の確認
対照群(市販酵母のみ適用された本捏ね生地)、公知菌株(L.sanfranciscensis KACC 12431)が適用された本捏ね生地、分離菌株(L.sanfranciscensis 142)が適用された本捏ね生地のガス発生力を比較確認した。ガス発生力の測定は、生地25gを取り、ガス発生力測定器(Fermometer)を用いて30℃で10時間行った。
【0175】
測定の結果、対照群(市販酵母のみ適用された本捏ね生地)よりも乳酸菌株(公知菌株、分離菌株)が適用された本捏ね生地の方がガス発生力に優れていることが確認できた。ただし、分離菌株と公知菌株のガス発生力差は殆どないことが確認できた(
図23)。
図23は、天然サワー種から分離したラクトバチルス・サンフランシスエンシス(L.sanfranciscensis)142が適用された本捏ね生地のガス発生力を確認した結果である。
【0176】
(5)パンの老化度の測定
対照群(市販酵母のみ適用されたパン)、公知菌株(L.sanfranciscensis KACC 12431)が適用されたパン、分離菌株(L.sanfranciscensis 142)が適用されたパンの硬度及び時間による老化速度を比較した。
【0177】
硬度及び時間による老化速度の測定方法は、上記の実施例10に記載された方法と同一にした。硬度に対する値は下記の表20に示し、時間による老化速度の結果は
図24に示す。
【0179】
測定の結果、乳酸菌株(公知菌株、分離菌株)が適用されたパンは、硬度が低くて軟らかいことが確認できた。特に、分離菌株(L.sanfranciscensis 142)が添加されたパンは、最も低い硬度値を示すことが確認できた。
【0180】
一方、時間による老化速度を分析した結果、対照群に比べて乳酸菌適用のパンの老化速度が遅いことが確認できた(
図24)。
図24は、天然サワー種から分離したラクトバチルス・サンフランシスエンシス(L.sanfranciscensis)142が適用されたパンの老化速度を確認した結果である。
【0181】
(6)パンの香気成分の分析
対照群(市販酵母のみ適用されたパン)、公知菌株(L.sanfranciscensis KACC 12431)が適用されたパン、分離菌株(L.sanfranciscensis 142)が適用されたパンの風味成分を比較するためにGC/MSシステムを用いて香気成分を分析した。
【0182】
試料1gに対して分析を行い、また、GC/MS分析条件は上記の表5と同様にした。GC/MS分析の後、アルコール(alcohol)、アルデヒド(aldehyde)、ケトン(ketone)、エステル(ester)、酸(acid)類に対する全体的な定量的数値を比較し(
図25)、下記の表21に、22種の代表的香気成分に対して各成分の相対的比率を百分率で示した。
【0184】
揮発性香気成分(アルコール、アルデヒド、ケトン、エステル、酸類)の全体的な定量的数値を比較した結果、乳酸菌(分離菌株、公知菌株)が適用されたパンでエステル類が多量検出されることが確認できた。エステル類は軟らかくてマイルドな匂いがする香気成分であって、本発明の分離菌株(L.sanfranciscensis 142)が適用されたパンは、風味が軟らかくてマイルドであることが確認できた。また、乳酸菌(分離菌株、公知菌株)が適用されたパンは、酸(acid)類が多量検出されることが確認できた。
【0185】
しかし、市販酵母のみ適用されたパンは、アルコール類が多量検出されることが確認できた。アルコール類は、香りが軽く、強い匂いがする香気成分であって、市販酵母のみ添加されたパンは、風味スペクトルが良くないことが確認できた。
【0186】
図25は、天然サワー種から分離したラクトバチルス・サンフランシスエンシス(L.sanfranciscensis)142が適用されたパンの香気成分を定量的数値で比較した結果である。
【0187】
一方、代表的香気成分の分析結果、上記の表21から確認されるように、対照群(市販酵母のみ適用されたパン)よりも乳酸菌(分離菌株、公知菌株)が適用されたパンの方が、青臭い匂いを起こすエチルアルコール(ethyl alcohol)の含量が少ないことが確認できた。また、バナナ、西洋梨の甘ったるい香臭がするイソアミルアルコール(isoamyl alcohol)、とうもろこしの甘い香臭がする2−フェニルエチルアルコール(2−phenyl ethyl alcohol)、キャラメル、キャンディ、アーモンド香を示すフルフラール(furfural)、バター香の軟らかい風味を示すケトン類のうちアセトイン、甘ったるい香りがするエステル類の物質は、乳酸菌が適用されたパンで高く現れることが確認できた。また、公知菌株が適用されたパンは、対照群及び分離菌株が適用されたパンとは異なる酸(acid)類組成を示すことが確認できた。
【0188】
[実施例14:天然サワー種から分離したサッカロミセス・セレビシエ(Sac.serevisiae)、ラクトバチルス・カルバタス(L.curvatus)、ラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)、ラクトバチルス・サンフランシスエンシス(L.sanfranciscensis)が適用されたパンの官能評価及び特性確認]
【0189】
本実施例では、天然サワー種(麹が添加された韓国型サワードウ)から分離したサッカロミセス・セレビシエ(Sac.serevisiae)、ラクトバチルス・カルバタス(L.curvatus)、ラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)、ラクトバチルス・サンフランシスエンシス(L.sanfranciscensis)が添加されたパンの官能評価及び特性を確認した。
【0190】
上記の実施例で製造された各パンを試食させ、食感及び風味に対して官能評価を行った。官能評価の結果は、食感及び風味に対して9点尺度法を利用した(9−極めて良い、1−極めて悪い)。
【0191】
また、各パンに対する比容積、pH、TTA、水分含量の測定方法は、上記の実施例10に記載の方法と同様にした。
【0192】
官能評価及び特性に対する結果を下記の表22に示す。
【0194】
評価の結果、分離酵母(Sac.serevisiae01435)が適用されたパンは、対照群(市販酵母)が適用されたパンに比べて軟らかいため食感がよく、ガス臭が少ないため風味がマイルドであり、優れた食感及び風味の点数を受けることが確認できた。
【0195】
ラクトバチルス・カルバタス分離菌株(L.curvatus 104)が適用されたパンは、対照群(市販酵母)が適用されたパンに比べて食感及び風味点数に優れていることが確認できた。分離菌株と公知菌株(L.curvatus KCCM 40715)では大きな差はなかった。
【0196】
ラクトバチルス・ブレビス分離菌株(L.brevis 149)が適用されたパンは、対照群(市販酵母)及び公知菌株(L.brevis KACC 11433)に比べて食感及び風味点数に優れていることが確認できた。分離菌株が適用されたパンは食感が柔らかかったが、公知菌株が適用されたパンは多少水っぽい食感がし、良い評価を受けなかった。
【0197】
ラクトバチルス・サンフランシスエンシス分離菌株(L.sanfranciscensis 142)が適用されたパンは、対照群(市販酵母)及び公知菌株(L.sanfranciscensis KACC 12431)に比べて食感に優れていることが確認できた。分離菌株が適用されたパンは食感が軟らかかったが、公知菌株が適用されたパンは多少水っぽい食感がし、良い評価を受けなかった。
【0198】
[実施例15:天然サワー種から分離したサッカロミセス・セレビシエ(S.serevisiae)、ラクトバチルス・カルバタス(L.curvatus)、ラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)、ラクトバチルス・サンフランシスエンシス(L.sanfranciscensis)及び混合菌株を製パンに適用]
【0199】
本実施例では、天然サワー種(麹が添加された韓国型サワードウ)から分離したサッカロミセス・セレビシエ(S.serevisiae)01435、ラクトバチルス・カルバタス(L.curvatus)104菌株、ラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)149菌株、ラクトバチルス・サンフランシスエンシス(L.sanfranciscensis)142菌株及び混合菌株(S.serevisiae01435,L.curvatus 104,L.brevis 149,L.sanfranciscensis 142)をそれぞれ製パンに適用し、その特性を確認した。
【0200】
(1)乳酸菌発酵生地の製造及び分析
ラクトバチルス・カルバタス(L.curvatus)104、ラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)149、ラクトバチルス・サンフランシスエンシス(L.sanfranciscensis)142、混合乳酸菌(L.curvatus 104,L.brevis 149,L.sanfranciscensis 142)が適用された乳酸菌発酵生地を製造し、特性を分析した。
【0201】
強力粉100g、乳酸菌数2×10
10cfu/g、加熱冷却水100gを混合した後、30℃の発酵器で発酵させて乳酸菌発酵生地を製造するが、生地のpHがpH4.2±0.2に到達すると冷却させ、乳酸菌発酵生地のpH、TTA及び菌数を測定した。この時、pH、TTAは、上記の実施例10に記載された方法を用いて測定した。
【0202】
このとき、乳酸菌株は、MRSブロスで30℃の温度で22±2時間培養した後、遠心分離して収得した菌体を生理食塩水で洗浄したものを使用し、最初の菌接種量は、生地1g当たり1×10
8cfuにした。
【0203】
また、混合分離菌株が適用された乳酸菌発酵生地は、ラクトバチルス・カルバタス(L.curvatus)104、ラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)149、ラクトバチルス・サンフランシスエンシス(L.sanfranciscensis)142がそれぞれ適用された乳酸菌発酵生地を同量で混合して製造した。
【0206】
表23に示すように、各生地のpHに大差はなく、ラクトバチルス・カルバタス(L.curvatus)104が適用された生地の菌数は、2.1×10
9cfu/g、ラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)149が適用された生地の菌数は、1.4×10
9cfu/g、ラクトバチルス・サンフランシスエンシス(L.sanfranciscensis)142が適用された生地の菌数は、2.3×10
9cfu/g、混合分離菌株(L.curvatus 104,L.brevis 149,L.sanfranciscensis 142)が適用された生地の菌数は、1.7×10
9cfu/gであることが確認できた。
【0207】
(2)パンの製造
下記の表24のように分離酵母と分離菌株を組成し、それぞれEセット〜Hセットと名付けた。その後、それぞれをパンに適用して組成による特性を確認した。
【0208】
パンの製造は、下記の表25のように、中種の組成成分(強力粉、酵母、リマルソフト、精製水)をミキサー(製品名:SK101S MIXER、日本)に投入し、2段で2分、3段で1分間捏ねた後、生地の最終温度が25℃となるようにさらに混合した。その後、室温で30分間放置した後、6℃発酵器に入れて16時間1次発酵させて中種を製造した。
【0209】
その後、下記の表25に記載された本捏ねの組成成分(強力粉、精製塩、精白糖、全脂粉乳、酵母、精製水及び乳酸菌発酵生地)をミキサー(製品名:SK101S MIXER、日本)に投入して1段で1分間捏ねた後、上記の中種を添加して2段で3分、3段で2分間混合した。その後、バターを添加して2段で3分、3段で3分間捏ね、生地の最終温度が27℃になるようにして本捏ね生地を製造した。
【0210】
この本捏ね生地を27℃、相対湿度85%の発酵器に入れて30分間中間発酵をさせた後、この生地を一定の大きさに分割して丸め、27℃、相対湿度85%の発酵器に入れて15分間熟成した。熟成ののち成形して食パンケースに入れた。その後、食パンケースに入れた生地を37℃、相対湿度85%の雰囲気で50分間発酵させて食パン生地を製造した。この食パン生地をオーブンに入れ、上火170℃、下火210℃で35分間焼き上げた。その後、室温で内部温度が32℃になるまで冷却した。
【0211】
製造された対照群(市販酵母のみ適用されたパン)、サッカロミセス・セレビシエ01435及びラクトバチルス・カルバタス104菌株が適用されたパン、サッカロミセス・セレビシエ01435及びラクトバチルス・ブレビス149菌株が適用されたパン、サッカロミセス・セレビシエ01435及びラクトバチルス・サンフランシスエンシス142菌株が適用されたパン、サッカロミセス・セレビシエ01435、ラクトバチルス・カルバタス104菌株、ラクトバチルス・ブレビス149菌株及びラクトバチルス・サンフランシスエンシス142菌株が適用されたパンの写真は、
図26のとおりだった。
図26は、対照群(市販酵母のみ適用されたパン)、サッカロミセス・セレビシエ01435及びラクトバチルス・カルバタス104菌株が適用されたパン、サッカロミセス・セレビシエ01435及びラクトバチルス・ブレビス149菌株が適用されたパン、サッカロミセス・セレビシエ01435及びラクトバチルス・サンフランシスエンシス142菌株が適用されたパン、サッカロミセス・セレビシエ01435、ラクトバチルス・カルバタス104菌株、ラクトバチルス・ブレビス149菌株及びラクトバチルス・サンフランシスエンシス142菌株が適用されたパンの写真である。
【0214】
(3)パンの物性の測定
対照群(市販酵母のみ適用されたパン)、Eセットが適用されたパン、Fセットが適用されたパン、Gセットが適用されたパン、Hセットが適用されたパンの物性(pH、総滴定酸度、色度)を測定した。pH、総滴定酸度、色度測定方法は、上記の実施例10に記載された方法と同一にした。その結果を下記の表26に示す。
【0216】
測定の結果、分離菌株(Eセット、Fセット、Gセット、Hセット)が適用されたパンは、対照群に比べてpHが低いことが確認できた。また、Hセット(S.cerevisiae 01435+L.curvatus 104+L.brevis 149+L.sanfranciscensis 142)が適用されたパンは、他のパンに比べて比容積が多少大きいことが確認できた。
【0217】
(4)生地のガス発生力の確認
対照群(市販酵母のみ適用された本捏ね生地)、Eセット、Fセット、Gセット、Hセットがそれぞれ適用された本捏ね生地のガス発生力を比較確認した。ガス発生力の測定は、生地25gを取ってガス発生力測定器(Fermometer)を用いて30℃で10時間行った。
【0218】
測定の結果、Eセット、Fセット、 Gセット、Hセットが適用された本捏ね生地の場合、対照群と全般的に類似するが、初期にはEセット、Fセット、 Gセット、Hセットが適用された本捏ね生地でガス発生力が多少高く現れることが確認できた(
図27)。
図27は、市販酵母のみ適用された本捏ね生地(control)、サッカロミセス・セレビシエ01435及びラクトバチルス・カルバタス104菌株が適用された本捏ね生地(Eセット適用の本捏ね生地)、サッカロミセス・セレビシエ01435及びラクトバチルス・ブレビス149菌株が適用された本捏ね生地( H セット適用の本捏ね生地)、サッカロミセス・セレビシエ01435及びラクトバチルス・サンフランシスエンシス142菌株が適用された本捏ね生地(Gセット適用の本捏ね生地)、サッカロミセス・セレビシエ01435、ラクトバチルス・カルバタス104菌株、ラクトバチルス・ブレビス149菌株及びラクトバチルス・サンフランシスエンシス142菌株が適用された本捏ね生地(Hセット適用の本捏ね生地)のガス発生力を確認した結果である。
【0219】
(5)パンの老化度の測定
対照群(市販酵母のみ適用されたパン)、Eセット、Fセット、Gセット、Hセットがそれぞれ適用されたパンの硬度及び時間による老化速度を比較した。
【0220】
硬度及び時間による老化速度の測定方法は、上記の実施例10に記載された方法と同一にした。硬度に対する値は下記の表27に示し、時間による老化速度の結果は
図28に示す。
【0222】
測定の結果、Eセット、Fセット、Gセット、Hセットが適用されたパンは、対照群(市販酵母のみ適用されたパン)に比べて硬度が低いため軟らかいことが確認できた。
【0223】
一方、時間による老化速度を分析した結果、いずれのパンも類似の老化速度を示すことが確認できた(
図28)。
図28は、市販酵母のみ適用されたパン(control)、サッカロミセス・セレビシエ01435及びラクトバチルス・カルバタス104菌株が適用されたパン(Eセット適用のパン)、サッカロミセス・セレビシエ01435及びラクトバチルス・ブレビス149菌株が適用されたパン(Fセット適用のパン)、サッカロミセス・セレビシエ01435及びラクトバチルス・サンフランシスエンシス142菌株が適用されたパン(Gセット適用のパン)、サッカロミセス・セレビシエ01435、ラクトバチルス・カルバタス104菌株、ラクトバチルス・ブレビス149菌株及びラクトバチルス・サンフランシスエンシス142菌株が適用されたパン(Hセット適用のパン)の老化速度を確認した結果である。
【0224】
(6)パンの香気成分の分析
対照群(市販酵母のみ適用されたパン)、Eセット、Fセット、Gセット、Hセットがそれぞれ適用されたパンの風味成分の発現を比較するためにGC/MSシステムを用いて香気成分を分析した。
【0225】
試料1gに対して分析を行い、また、GC/MS分析条件は上記の表5と同様にした。GC/MS分析の後、アルコール(alcohol)、アルデヒド(aldehyde)、ケトン(ketone)、エステル(ester)、酸(acid)類に対する全体的な定量的数値を比較し(
図29)、下記の表28に、22種の代表的香気成分に対して各成分の相対的比率を百分率で示した。
【0227】
揮発性香気成分(アルコール、アルデヒド、ケトン、エステル、酸類)の全体的な定量的数値を比較した結果、Eセット、Fセット、Gセット、Hセットが適用されたパンから、軟らかくてマイルドな匂いがするケトン類が、対照群(市販酵母のみ適用されたパン)に比べて多量検出され、特に、Hセットが適用されたパンから最も多いケトン類が検出されることが確認できた。また、軟らかくてマイルドな匂いがするアルデヒド類は、Eセットが適用されたパンから多量検出された。また、Eセット、Fセット、Gセット、Hセットが適用されたパンの方が、対照群が適用されたパンに比べて酸(acid)類が多量検出されることが確認できた。
【0228】
しかし、対照群は、香りが軽く、強い匂いがするエステル類が多量検出され、風味スペクトルが良くないことが確認できた。
【0229】
図29は、市販酵母のみ適用されたパン(control)、サッカロミセス・セレビシエ01435及びラクトバチルス・カルバタス104菌株が適用されたパン(Eセット適用のパン)、サッカロミセス・セレビシエ01435及びラクトバチルス・ブレビス149菌株が適用されたパン(Fセット適用のパン)、サッカロミセス・セレビシエ01435及びラクトバチルス・サンフランシスエンシス142菌株が適用されたパン(Gセット適用のパン)、サッカロミセス・セレビシエ01435、ラクトバチルス・カルバタス104菌株、ラクトバチルス・ブレビス149菌株及びラクトバチルス・サンフランシスエンシス142菌株が適用されたパン(Hセット適用のパン)の香気成分を定量的数値で比較した結果である。
【0230】
一方、代表的香気成分の分析結果、上記の表28から確認されるように、Eセット、Fセット、Gセット、Hセットを適用したパンは、対照群(市販酵母のみ適用されたパン)に比べて、青臭い匂いを起こすエチルアルコール(ethyl alcohol)の含量が少ないことが確認できた。また、バナナ、西洋梨の甘ったるい香臭がするイソアミルアルコール(isoamyl alcohol)、とうもろこしの甘い香臭がする2−フェニルエチルアルコール(2−phenyl ethyl alcohol)は、Eセット、Fセット、Gセット、Hセットを適用したパンから多量検出され、シトラス(citrus)、ファッティー(fatty)香(pleasant flavor)を示すノナナール(nonanal)は、Fセット及びGセットを適用したパンで高く検出された。また、バター香の軟らかい風味を示すケトン類のうちアセトインは、対照群に比べて、Eセット、Fセット、Gセット、Hセットを適用したパンで全般的に高い含量を示した。また、酸(acid)類は、対照群に比べて、Eセット、Fセット、Gセット、Hセットを適用したパンで全般的に高い含量を示し、特に、Fセット及びGセットを適用したパンから多量検出されることが確認できた。
【0231】
[実施例16:天然サワー種から分離したサッカロミセス・セレビシエ(S.serevisiae)、ラクトバチルス・カルバタス(L.curvatus)、ラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)、ラクトバチルス・サンフランシスエンシス(L.sanfranciscensis)及び混合菌株が適用されたパンの官能評価及び特性確認]
【0232】
本実施例では、対照群(市販酵母のみ適用されたパン)、及びEセット(S.cerevisiae 01435+L.curvatus 104)、Fセット(S.cerevisiae 01435+L.brevis 149)、Gセット(S.cerevisiae 01435+L.sanfranciscensis 142)、Hセット(S.cerevisiae 01435+L.curvatus 104+L.brevis 149+L.sanfranciscensis 142)がそれぞれ適用されたパンの官能評価及び特性確認を行った。
【0233】
上記の実施例で製造された各パンを試食させた後、食感及び風味に対して官能評価を行った。官能評価の結果は、食感及び風味に対して9点尺度法を利用した(9−極めて良い、1−極めて悪い)。
【0234】
また、各パンに対する比容積、pH、TTA、水分含量の測定方法は、上記の実施例10に記載された方法と同様にした。
【0235】
官能評価及び特性に対する結果を下記の表29に示す。
【0237】
評価の結果、分離酵母と分離菌株(Eセット、Fセット、Gセット、Hセット)が適用されたパンは、対照群(市販酵母)が適用されたパンよりも軟らかくて食感がよく、ガス臭が少ないため風味がマイルドであり、優れた食感及び風味点数を受けることが確認できた。