特許第6247028号(P6247028)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6247028
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】医療用ナイフ
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/3211 20060101AFI20171204BHJP
【FI】
   A61B17/3211
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-129525(P2013-129525)
(22)【出願日】2013年6月20日
(65)【公開番号】特開2015-2835(P2015-2835A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2016年6月9日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505425878
【氏名又は名称】中村 正一
(73)【特許権者】
【識別番号】592248835
【氏名又は名称】日本エー・シー・ピー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098589
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 善章
(72)【発明者】
【氏名】中村 正一
【審査官】 沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭61−002208(JP,U)
【文献】 特公昭39−007315(JP,B1)
【文献】 実開昭51−073132(JP,U)
【文献】 特公昭39−007316(JP,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0053875(US,A1)
【文献】 米国特許第06503262(US,B1)
【文献】 米国特許第05201748(US,A)
【文献】 米国特許第06022364(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/3211
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のカバーと、前記カバー部内に軸方向から挿入されて挿入側の先端部に刃体を具備するナイフ部と、前記ナイフ部を前記カバー内への挿入方向とは反対の方向へ付勢するバネ部材と、を備え医療用ナイフであって、
前記ナイフ部は、
前記カバーに設けられた複数のロック孔に選択的に係止されることにより前記ナイフ部を前記カバーに固定するロック爪と、
前記ロック爪を軸方向とは直交する方向での前記カバーの外に向けて付勢するよう弾性支持するロック爪支持部と、を有し、
前記カバーは、
前記刃体前記カバー内での所定の収納位置で固定するよう前記ロック爪と係合して前記ナイフ部を前記バネ部材に抗して保持する第一のロック孔と、
記第一のロック孔とは前記軸方向に沿って設けられ、前記刃体を前記カバー内から露出した位置で固定するよう前記ロック爪と係合して、前記ナイフ部を前記バネ部材に抗して保持する第二のロック孔と、
前記第一のロック孔及び前記第二のロック孔とは前記軸方向と直交する方向に間隔を置いて設けられ、当該医療用ナイフを組み立てるのに前記カバー内に挿入された前記ナイフ部を、前記バネ部材に抗して前記カバー内の所定の操作ロック位置で保持するよう前記ロック爪と係合する第三のロック孔と、
カバー本体の端部の内周面に形成されており、前記カバー内に前記ナイフ部が前記バネ部材に抗して挿入されたとき、前記ロック爪支持部の弾性により前記内周面に当接している前記ロック爪を前記第三のロック孔へ案内するガイド部と、
前記ロック爪が前記第一のロック孔と前記第二のロック孔との間の移動をガイドするロック爪ガイド溝と、
前記第二のロック孔と対向する位置に配置され前記第二のロック孔と前記ロック爪の係止状態を解除可能なロック解除部と、を有し、
前記ロック爪が第三のロック孔と係合している状態から前記ロック爪ガイド溝と嵌合するよう移動したとき、前記ロック爪が前記第一のロック孔及び前記第二のロック孔の何れと係合しているかに応じて、前記刃部を前記カバー内に収納又は前記カバー内から露出させることを特徴とする医療用ナイフ。
【請求項2】
前記第三のロック孔は、前記軸方向に沿って設けられる第一の貫通孔と、前記軸方向と直交する方向に前記第一の貫通孔に連通して設けられる第二の貫通孔とを備えて
前記ロック爪が前記第二の貫通孔と係合しているとき、前記ナイフ部は前記操作ロック位置に保持されることを特徴とする請求項に記載の医療用ナイフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外科手術用のメス等、医療現場で用いられるナイフに係り、特に、刃体をワンタッチで露出及び収納することが可能な医療用ナイフに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、外科手術等に用いられるメス等の医療用ナイフは、衛生面での配慮から、全体を使い捨てにするタイプのものや、刃体のみを使い捨てにして残りの部分は洗浄、殺菌消毒の処理を施して再使用する替刃タイプのものが用いられている。
【0003】
ところで、医療現場で手術等の外科的処置を行う際には、執刀者の他に、執刀者の補助を行う補助者が付き添っている。この補助者と執刀者との間では、通常、医療器具の受け渡しが行われており、医療用ナイフの刃体が露出して剥き出しの状態であると、その受け渡しの際に誤って手指等を傷付ける虞れがある。これは怪我のみならず院内感染等の重大な事態を引き起こしかねない問題となっている。
【0004】
しかしながら、上記した全体を使い捨てにするタイプや刃体のみを使い捨てにするタイプの従来の医療用ナイフは刃体が常時露出しているために、医療手術時の医療ナイフの受け渡しで発生するこのような問題は解決されていない。
【0005】
そのため、刃体の露出と収納とを簡単に行えるようにした医療用ナイフが知られている(例えば、特許文献1参照)。この医療用ナイフは、刃体を保持する刃体ホルダを先端に備えたナイフ部(ナイフ本体)と、このナイフ部と係合する円筒状の部材で、刃体を露出した状態又は内部に収納した状態でナイフ部に対して係止することが可能なカバー(刃体カバー)とから構成されており、カバーに収納された刃体を露出させる際は、まずナイフ部を捻るように回動させてカバーとナイフ部のロックを解除し、次いでナイフ部をカバーに対して軸方向にスライドさせる。次に、カバーの先端から刃体を露出させた特定の位置までナイフ部をスライドさせると、ナイフ部はカバーにロックされて、刃体が露出した状態で固定される。
【0006】
また、カバーに刃体を収納する際にも同様に、ナイフ部を捻るように回動させてカバーとナイフ部のロックを解除し、次いでナイフ部をカバーに対して軸方向にスライドさせる。カバーに刃体を収納した特定の位置までナイフ部をスライドさせると、ナイフ部はカバーにロックされて、刃体が収納された状態で固定される。したがって、刃体の露出や収納を行うにも、〔1〕ロック解除のための回動操作、〔2〕スライド操作、の二通りのステップの操作を行わなければならず手間が煩雑となる。特に、〔1〕の操作では、片手でカバーを押さえた状態で、もう一方の手でナイフ部を持って回動させる必要があるため、片手では行えず両手での操作が必要となる。しかし、上記〔1〕から〔2〕は一連の操作であり、執刀者と補助者で分担して行うことはできない。
【0007】
そのため、軸を押し込むことで切刃が筒管から露出し、クリップの端部を押すと切刃が内部に収納される手術刃も知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4730920号公報
【特許文献2】実開昭61−2208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2のようにワンタッチ式で切刃の露出や収納が行える医療用ナイフは、簡単な操作で切刃を収納状態にして受け渡しを行うことができるために、受け渡し時における上記したような事故は防止可能である。
【0010】
このようなワンタッチ式の医療用ナイフは、ナイフ部とこれを収納するカバーとを相対的に直線方向に移動させることで、ナイフ部の刃体を露出または収納するよう構成している。このとき、ナイフ部は、カバーから飛び出す方向に常にバネ部材によって付勢されているのを、ナイフ部に設けたロック爪がカバー内の第1の位置に係止することでカバー内に保持されて、バネ部材のバネ力に抗してナイフ部を押し出すことで、ロック爪がカバー内の第2の位置に係止して、刃体がカバーから露出する位置に保持される。
【0011】
したがって、こうした医療用ナイフを組み立ての際にナイフ部をカバーに挿入するには、このようなロック爪をカバーの挿入側の端部周縁に引っ掛からずにカバー内に押し込む必要があり、そのため、カバーの挿入側にはロック爪を差し込むことができるガイド部を設けている。これにより、ナイフ部は、ロック爪をガイド部に通すことでバネ部材に抗して挿入することができ、ガイド部を通過したロック爪は、カバー内の前記第1の位置に設けたロック孔までガイドされて係止し、ナイフ部は刃体がカバー内に収納された状態に保持される。そして、刃体の露出時には、さらに、バネ部材のバネ力に抗してナイフ部を移動させることで、ロック爪は前記第2の位置に設けたロック孔に係止してナイフ部は刃体がカバーから露出する状態に保持される。
【0012】
したがって、ロック爪によるこれらロック孔での係止が何かの拍子で外れると、ナイフ部はバネ部材により挿入端側の方向に付勢されているために、ロック爪はガイド部を通って勢いよくカバーから飛び出して予期せぬ事故が起きる。そのため、カバー内でナイフ部を確実に保持する飛出し防止部材を設けたり、或いは組み立て時に利用したガイド部を確実に塞ぐなどの対策を採ることが考えられるが、これらの対策はコストアップを招来し、衛生面での配慮から1回の使用ごとにナイフ部や又はナイフ部を含めた全体を廃棄するディスポーザブルタイプの医療用ナイフとしてはコスト面で好ましいものではない。
【0013】
本発明は、上記点に鑑みて、ロック爪がロック孔との係止が外れたとき、ナイフ部がカバーから飛び出すのを簡単な構成で防止できる医療用ナイフを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決するために、円筒状のカバーと、前記カバー部内に軸方向から挿入されて挿入側の先端部に刃体を具備するナイフ部と、前記ナイフ部を前記カバー内への挿入方向とは反対の方向へ付勢するバネ部材と、を備え医療用ナイフであって、前記ナイフ部は、前記カバーに設けられた複数のロック孔に選択的に係止されることにより前記ナイフ部を前記カバーに固定するロック爪と、前記ロック爪を軸方向とは直交する方向での前記カバーの外に向けて付勢するよう弾性支持するロック爪支持部と、を有し、前記カバーは、前記刃体前記カバー内での所定の収納位置で固定するよう前記ロック爪と係合して前記ナイフ部を前記バネ部材に抗して保持する第一のロック孔と、前記第一のロック孔とは前記軸方向に沿って設けられ、前記刃体前記カバー内から露出した位置で固定するよう前記ロック爪と係合して、前記ナイフ部を前記バネ部材に抗して保持する第二のロック孔と、前記第一のロック孔及び前記第二のロック孔とは前記軸方向と直交する方向に間隔を置いて設けられ、当該医療用ナイフを組み立てるのに前記カバー内に挿入された前記ナイフ部を、前記バネ部材に抗して前記カバー内の所定の操作ロック位置で保持するよう前記ロック爪と係合する第三のロック孔と、カバー本体の端部の内周面に形成されており、前記カバー内に前記ナイフ部が前記バネ部材に抗して挿入されたとき、前記ロック爪支持部の弾性により前記内周面に当接している前記ロック爪を前記第三のロック孔へ案内するガイド部と、前記ロック爪が前記第一のロック孔と前記第二のロック孔との間の移動をガイドするロック爪ガイド溝と、前記第二のロック孔と対向する位置に配置され前記第二のロック孔と前記ロック爪の係止状態を解除可能なロック解除部と、を有し、前記ロック爪が第三のロック孔と係合している状態から前記ロック爪ガイド溝と嵌合するよう移動したとき、前記第一のロック孔及び前記第二のロック孔の何れと係合しているかに応じて、前記刃部を前記カバー内に収納又は前記カバー内から露出させることを特徴とする医療用ナイフを提供する。
【0015】
このとき、前記第三のロック孔は、前記軸方向に沿って設けられる第一の貫通孔と、前記軸方向と直交する方向に前記第一の貫通孔に連通して設けられる第二の貫通孔とを備えて、前記ロック爪が前記第二の貫通孔と係合しているとき、前記ナイフ部は前記操作ロック位置に保持する構成にすることで、医療用ナイフの安全性の確保がより確実となる
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、バネ部材のバネ力に抗してカバー内を移動するナイフ部を備えた医療用ナイフにおいて、カバー内のロック孔に係止してナイフ部を保持するロック爪の係止位置と、組み立て時にナイフ部がカバー内に差し込まれるようこのロック爪をガイドするガイド部の位置とを、バネ部材による付勢方向に沿った直線上に配置しないために、ロック爪による係止が不意に外れてもロック爪ガイド部を通過してナイフ部がカバーから飛び出すことが防止される。
【0019】
したがって、カバー内でナイフ部を確実に保持する飛出し防止部材を設けたり、或いは組み立て時に利用したガイド部を確実に塞ぐなどの対策を採る必要がなく、組み立ても容易となるため、ディスポーザブルタイプに見合ったコストの医療用ナイフが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る医療用ナイフの全体概略図。
図2図1に示す医療用ナイフのナイフ部の斜視図。
図3図2に示す医療用ナイフのナイフ部の構成を横方向から示す説明図。
図4図1に示す医療用ナイフのカバーの斜視図。
図5図4に示す医療用ナイフのカバーの構成を横方向から示す説明図。
図6図5に示す医療用ナイフのカバーの構成を側面から示す説明図。
図7図1に示す医療用ナイフの収納ロック状態から露出ロック状態へ至る各状態を横方向から示す説明図。
図8】本発明に係わる医療用ナイフの他の実施態様の要部を横方向から示す説明図。
図9】本発明の医療用ナイフに適用される刃体形状の例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明に係る医療用ナイフ1の全体概略図である。医療用ナイフ1は、先端に刃体23を備えるナイフ部2と、このナイフ部2の一部を被覆可能な円筒状のカバー3と、ナイフ部2とカバー3間で係合するバネ部材16(図2に図示)と、から構成されている。
【0023】
そして、この医療用ナイフ1は、図1に示す4通りの状態でカバー3に対してナイフ部2を固定することができる。即ち、カバー3内にナイフ部2を挿入して医療用ナイフ1を組み立てた状態〔図1(a)〕、ナイフ部2が収納された状態で、ナイフ部2を押込操作することができない操作ロック状態〔図1(b)〕、ナイフ部2が収納された状態で、ナイフ部2を押込操作すれば刃体を露出することができる収納ロック状態〔図1(c)〕、ナイフ部2をカバー3から露出した露出ロック状態〔図1(d)〕である。これら各状態の詳細については後述する。
【0024】
次に、医療用ナイフ1の各部の構成について説明する。
【0025】
(ナイフ部2)
図2はナイフ部2の外観を斜視図にて示しており、図3(a)はナイフ部2の平面図、図3(b)はその正面図、図3(c)は図3(a)におけるF−F線断面図である。
【0026】
これらの図に示すように、ナイフ部2は、棒状に形成された軸体21と、刃体23を保持する刃体保持部22と、刃体23と、軸体21と刃体保持部22とを連結する接続部24と、接続部24に設けられるロック部(ロック爪支持部25、ロック爪26)と、から構成されている。このナイフ部2は、刃体23を除いて樹脂により一体成形され、先端に刃体23が埋め込まれている。尚、以下では便宜上、刃体23が位置する側を露出側、軸体21が位置する側を収納側と称する。
【0027】
ロック部は、ナイフ部2の軸に対して斜め外側に向かって突出する形状のロック爪支持部25と、ロック爪支持部25の先端に設けられた突起であるロック爪26とから構成される。弾性を有する樹脂により形成されているロック爪支持部25は、図3(b)で矢印aによって示す方向に変位可能であり、軸21に向けて内側に押圧すると、外側に向かって戻ろうとする弾性力でロック爪26を後述するカバー本体4の各ロック孔に係止する。
【0028】
接続部24は、軸体21と刃体保持部22とを連結する部分であり、接続部24と刃体保持部22の境界には、バネ部材16を係止するバネ係止部27が形成されている。
【0029】
(カバー3)
図4はカバー3の外観を斜視図にて示している。そして、図5(a)はカバー3の平面図、図5(b)はその正面図、図5(c)は図5(a)のG−G線断面図である。また、図6(a)は図5(b)の左側面図、図6(b)は図5(b)のI−I線断面図、図6(c)は図5(b)のJ−J線断面図である。
【0030】
カバー3は、略円筒状のカバー本体4と、カバー本体4の収納側に設けたロック解除部41とから成り、樹脂成形品によって構成される。
【0031】
カバー本体4には、ナイフ部2のロック爪26を係止するためのロック孔24が設けられている。ロック孔24は、ナイフ部2を操作ロック状態で固定するための操作ロック孔(第三のロック孔)24A、ナイフ部2を収納ロック状態で固定するための収納ロック孔(第一のロック孔)24B、ナイフ部2を露出ロック状態で固定するための露出ロック孔(第二のロック孔)24Cとから成る。収納ロック孔24Bと露出ロック孔24Cとは、バネ部材16の付勢方向、すなわち軸体21の軸方向、に沿った直線上に順次穿設されている。以下、この付勢方向と軸方向とを適宜、使い分けて説明していく。
【0032】
操作ロック孔24Aは、図5(b)に示すように、バネ部材16の付勢方向に沿って貫通孔Xと、カバー本体4の円周方向に沿って穿たれた貫通孔Yとが組み合わされてL字状に形成されている。貫通孔Xは、収納ロック孔24Bや露出ロック孔24Cが配置されている直線とは円周方向に所定の角度(例えば、90度)にてずれた位置に穿設されていて、貫通孔Yは、ロック爪ガイド溝15へ向けて近づけて位置するよう穿設されている。
【0033】
カバー3の内周面に形成されるロック爪ガイド溝15は収納ロック孔24Bと露出ロック孔24Cとを接続しており、ロック爪26が収納ロック孔24Bと露出ロック孔24Cとの間を移動するのを案内する。また、ロック爪ガイド溝15は、ロック爪26が操作ロック孔24Aの貫通孔Yとも連通している。
【0034】
そして、カバー本体4の収納側端部の内周面には、バネ部材16の付勢方向に沿って操作ロック孔24の貫通孔Xに連通している溝であるガイド部28が形成されている。
【0035】
ロック解除部41は、カバー本体4の円筒部の外側に片持ち梁状に形成された操作部42と、操作部42の先端内側に設けられる突起43から構成される。操作部42は、手動で図5(b)の矢印b方向に押圧操作することで、収納ロック孔24Cに係止されたロック爪26を離脱させてロック解除を行うものである。尚、図6(b)及び図6(c)の各図においては、ロック解除部41は省略されている。
【0036】
さらに、カバー本体4の内周面には、バネ部材16を係止するためのバネ係止部46が設けられている。そして、カバー本体4の露出側端部には、刃体23の露出時にナイフ部2を挟んで押さえ、刃体23を安定させるホールド部47が設けられている。ホールド部47は、ナイフ部2の先端近傍を押さえることにより、使用時の刃体23のブレやガタつき等を防止する。
【0037】
(バネ部材16)
バネ部材16は、図2及び図7に示すようにコイルバネで構成され、ナイフ部2のバネ係止部27と、カバー本体4のバネ係止部46との間に配置される。図1(d)で示す刃体23の露出時には、バネ係止部27とバネ係止部46との間で圧縮された状態にあり、ナイフ部2を刃体23の収納側に付勢している。
【0038】
(医療用ナイフ1の組み立て)
医療用ナイフ1は、ナイフ部2をカバー3の収納側端部から挿入することで組み立てるが、このときナイフ部2のロック爪26とガイド部28とが相対するように位置合わせをしながらナイフ部2をカバー部2の内部へ差し込む。ロック爪26は、露出側の端面には傾斜部26A(図2及び図3))が形成されており、この傾斜部26Aでガイド部28の表面を摺動しながらロック爪支持部25の弾性に抗してカバー本体4内に入り込む。そして、ロック爪26が操作ロック孔24Aまで達すると、ロック爪支持部25の弾性力によって操作ロック孔24Aからカバー本体4の外方へ突出して、図1(a)に示す第一の操作ロック状態となって組み立てが終了する。
【0039】
このような組み立て作業は医療用ナイフ1の製造段階で行われる。しかし、ナイフ部2をカバー本体4内に挿入するだけの簡単な作業であるから完成品で供給し、医療現場で組み立ててもよい。医療現場で組み立てれば、そのときの手術の内容に最適な様々な形状の図9で示すような種々の刃体23を有するナイフ部2を選択することができる。
【0040】
(医療用ナイフ1の操作状態)
図1により各操作での医療用ナイフ1の動作状態について説明する。
(1)第一の操作ロック状態
医療用ナイフ1が組み立てられたときの状態である図1(a)に示す第一の操作ロック状態では、ロック爪26は、バネ部材16に付勢されて操作ロック孔24Aの貫通孔Xにおける収納側端部に係止されている。そして、ロック爪26が貫通孔Xの収納側端部に係止されている状態で、ナイフ部2の軸体21を貫通孔Xの露出側端部に向けて押込操作してもバネ部材16の弾性によって押し戻される。したがって、組み立て後に医療用ナイフ1を運搬や持ち運びする際に、衝撃等で軸体21が押圧されても刃体23が露出することはない。
【0041】
(2)第一の操作ロック状態から第二の操作ロック状態へ
この第一の操作ロック状態から医療用ナイフ1を使用するには、まず、軸体21を押込んで操作ロック孔24Aの貫通孔Xの収納側端部にあるロック爪26を露出側端部に移動させる。そして、軸体21をカバー3に対し相対的に回転させると、ロック爪26は、貫通孔Xの露出側端部から貫通孔Yに移動して係止される。この状態が図1(b)に示す第二の操作ロック状態であり、ロック爪26が操作ロック孔24Aの貫通孔Yに係止されてナイフ部2によるバネ部材16の付勢による移動が規制されている。そのため、ナイフ部2の軸体21を押圧してもナイフ部2は動かない。このとき、バネ部材16はナイフ部2のバネ係止部27とカバー3のバネ係止部46との間に係止されて圧縮されているため、ナイフ部2をカバー3内に収納する方向に付勢している。
【0042】
(3)第二の操作ロック状態から収納ロック状態へ
次いで、操作ロック孔24Aの貫通孔Yに係止しているロック爪26がロック爪ガイド溝15へ向かうように、ナイフ部2の軸体21をカバー3に対して相対的に回転させる。これにより、ロック爪26は操作ロック孔24Aから離脱してカバー本体4内に入り込みロック爪ガイド溝15に係合する。そして、バネ部材16の付勢によってナイフ部2は収納方向に押し戻され、ロック爪26はロック爪ガイド溝15に案内されて収納ロック孔24Bに達して、図1(c)に示すように収納ロック孔24Bに係止される収納ロック状態となる。図7(a)は、この状態を側断面図で示している。
【0043】
収納ロック状態は、次で説明するように軸体21を押圧すれば刃体23が露出可能な状態であるが、第一の操作ロック状態から収納ロック状態までに至るには第二の操作ロック状態を経なければならず、これにより、予期せず刃体23がカバー1からの露出することが防止される。
【0044】
(4)収納ロック状態から露出ロック状態へ
医療用ナイフ1の刃体23を露出するには、バネ部材16の弾性に抗してナイフ部2の軸体21を露出方向にカバー3内へ押し込む。このときも医療ナイフ1の組み立て時と同様、収納ロック孔24Bに係止されていたロック爪26は、その傾斜部26Aに沿ってロック爪支持部25の弾性に抗してロック爪ガイド溝15に入り込み、図7(b)で示すように摺動する。これにより、ロック爪26が露出ロック孔24Cに至ると、図1(d)及び図7(c)で示すように露出ロック孔24Cに係止される。このとき刃体23はカバー3から露出した状態の露出ロック状態に保持されて、ナイフ部2の刃体保持部22がカバー3のホールド部47によって挟持されて刃体23を安定させる。医療用ナイフ1は、この露出ロック状態で外科手術等に用いられる。このとき、バネ部材16はナイフ部2のバネ係止部27とカバー3のバネ係止部46との間に係止されて圧縮されているため、ナイフ部2を収納する方向に付勢している。
【0045】
(5)露出ロック状態から収納ロック状態へ
刃体23を露出した露出ロック状態からロックを解除して収納ロック状態に戻すには、ロック解除部41を操作して、突起43でロック爪支持部25の弾性に抗してロック爪26を露出ロック孔24Cから押し込みロック爪26を離脱させる。これにより、収納ロック孔24Bにロック爪26が係止されるまでバネ部材16がナイフ部2を収納側へと押し戻し、医療用ナイフ1は収納ロック状態に復帰する。
【0046】
このように、本実施形態の医療用ナイフ1は、操作ロック状態を解除する際、押し込んでから回転させるという偶発的には起こりにくい操作を必要とする。そのため、不用意に操作ロックが解除されることなく安全性が確保されている。従って、補助者が操作ロック状態を解除して執刀者に医療用ナイフ1を手渡すことで、執刀者と補助者は刃体23を収納した状態で受け渡しを行うことができ、医療用ナイフ1を用いた外科手術を安全に行うことが可能となる。
【0047】
そして、医療用ナイフ1を渡された執刀者は、ナイフ部2の軸体21をカバー3に押し込むだけの操作で刃体23を露出させ、ロック解除部41を押圧する操作だけで刃体23を収納することができ、何れも片手だけのワンアクションで済むため操作性が良い。
【0048】
そして、ロック爪ガイド溝15は、ガイド部28とはバネ部材16による付勢方向の直線上では連通していないために、ロック爪26の係止が不完全であったり、またはロック爪支持部25が刃体23の収納及び露出の繰り返しによる疲労によって弾性力が低下してロック爪26と収納ロック孔24Bとの係止力が弱まったりしたとき、それによりバネ部材16の反発力によってナイフ部2がカバー3から飛び出す不意の事故が防止できる。
【0049】
ナイフ部2の飛出し防止についてさらに説明する。ロック爪26が収納ロック孔24B(又は収納ロック孔24C)の縁部と当接することで係止しているとき、ロック爪26には軸体21の方向への力が加えられている。この力に対しては、ロック爪支持部25の弾性力が打ち勝っているために、ロック爪26は、沈み込まずにカバー本体4の外方へ突出して係止状態を維持している。しかし、ロック爪支持部25の弾性力の低下でロック爪26の係止する力が弱まったり、或いは不完全な係止状態であると、ロック爪26は収納ロック孔24B(又は収納ロック孔24C)との係止が外れて本体カバー4内に沈み込む。そして、このとき、収納ロック孔24Bと収納ロック孔24Cが位置している直線の延長上にガイド部28が形成されていると、バネ部材16のバネ力でロック爪26はガイド部28をすり抜けてカバー本体4の外へ飛び出すことになる。しかし、ガイド部28は、ロック爪ガイド溝15とはバネ部材16による付勢方向の直線上では連通しておらず、収納ロック孔24Bや収納ロック孔24Cとの係止が外れても、バネ部材16のバネ力でロック爪26がガイド部28をすり抜けて、ナイフ部2がカバー本体4の外へ飛び出すことが防止されている。
【0050】
同様に、ロック爪26が操作ロック孔24Aの貫通孔Yに係止された第二の操作ロック状態にあっても、貫通孔Yはガイド部28とは軸方向での直線上では連通していないために、この状態でもロック爪26は貫通孔Yの内側の壁に当接するためナイフ部2がカバー本体4から不意に飛び出すことが防止される。
【0051】
(ガイド部28の配置の変形例)
そして、ガイド部28は操作ロック孔24Aの貫通孔Xにも連通しないように構成すればより安全である。この場合の構成を要部のみ示す図8を用いて説明する。
【0052】
ガイド部28は、ロック爪ガイド溝15とは180度、操作ロック孔24Aとは90度ずれた位置に形成している。そして、ガイド部28における操作ロック孔24Aと正面で対向する位置には連通溝28Aが設けられる。
【0053】
したがって、ロック爪26をガイド部28と相対するように位置合わせをしながらナイフ部2をカバー本体4の内部へ差し込み、ロック爪26が操作ロック孔24Aと円周方向で正対する位置にまで達したとき、ナイフ部2をカバー3の円周方向に90度相対的に回動させることで、ロック爪26は、連通溝28Aから操作ロック孔24Aにまで導かれる。そして、ロック爪26は、ロック爪支持部25の弾性力によって操作ロック孔24Aから外方へ突出して、図1(a)に示す第一の操作ロック状態となって組み立てが終了する。そして、第一の操作ロック状態から第二の操作ロック状態へ、さらに第二の操作ロック状態から収納ロック状態への上述したのと同様の操作で行われる。
【0054】
上記したように本発明に係わる医療用ナイフ1は、組み立て時に使用するガイド部28を少なくとも収納ロック孔(第一のロック孔)24B及び露出ロック孔(第二のロック孔)24Cとを結ぶバネ部材16による付勢方向の直線の延長上には配置しておらず、ロック爪26は収納ロック孔24Bとの係止が外れてもガイド部28を通過してナイフ部2がカバー本体4から飛び出す事故が確実に防止される。より好ましくは、ガイド部28を操作ロック孔24Aともバネ部材16による付勢方向の直線上には配置しない構成にするとよい。
【0055】
これにより、ロック爪26の係止が外れたときにナイフ部2をカバー本体4内に保持する機構、或いは組み立て終了後にガイド部24を塞ぐ部材や工程が不要で、ディスポーザブルタイプに見合ったコストの医療用ナイフが提供される。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、外科手術用のメス等、医療現場で用いられるナイフに係り、特に、刃体をワンタッチで露出及び収納することが可能な医療用ナイフに関し、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0058】
1 医療用ナイフ
2 ナイフ部
3 カバー
4 カバー本体
15 ロック爪ガイド溝
16 バネ部材
21 軸体
25 ロック爪支持部
26 ロック爪
41 ロック解除部
24 ロック孔
24A 操作ロック孔(第三のロック孔)
24B 収納ロック孔(第一のロック孔)
24C 露出ロック孔(第二のロック孔)
28 ガイド部
X 第1の貫通孔
Y 第2の貫通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9