特許第6247052号(P6247052)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6247052
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】耐震補強枠の取付構造
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20171204BHJP
【FI】
   E04G23/02 D
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-181217(P2013-181217)
(22)【出願日】2013年9月2日
(65)【公開番号】特開2015-48645(P2015-48645A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】390005267
【氏名又は名称】YKK AP株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】荒川 哲也
(72)【発明者】
【氏名】丸山 剛
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友彦
(72)【発明者】
【氏名】岩田 奈穂
【審査官】 五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−013872(JP,A)
【文献】 アルミニウム合金製耐震補強枠の開発,日本建築学会技術報告集,日本建築学会,2011年 2月,第17巻第35号,p.145-150
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04F 13/00−13/30
E04B 1/64
E04B 2/56
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の構造体に対応した部分の外壁部材を除去して連結用開口を形成し、室外に設置した耐震補強枠を、前記連結用開口を介して前記構造体に連結するようにした耐震補強枠の取付構造であって、
前記連結用開口は、建築物の構造体となる横架材に沿って外壁部材を切除することにより構成されたものであり、
前記耐震補強枠は、左右の縦枠部材と、前記左右の縦枠部材の間において前記横架材に沿って左右方向に配置される上枠部材とを備え、前記上枠部材に設けた連結ヒレ部を介して前記横架材に連結されるものであり、
前記連結ヒレ部は、前記上枠部材から前記横架材に向けて突出する板状のヒレ基部と、前記ヒレ基部の突出端縁から上方に向けて延在する連結面部とを有し、前記連結面部を介して前記横架材にネジ部材を締結することによって前記耐震補強枠を前記横架材に連結するものであり、少なくとも前記連結面部の上縁部及び両側縁部にそれぞれ前記連結用開口の端面に対向する対向面を有し、
前記対向面と前記連結用開口の端面との間に防水部材を設けたことを特徴とする耐震補強枠の取付構造。
【請求項2】
前記連結面部の上縁部に対向面部を一体に成形し、この対向面部に前記対向面を構成する一方、前記連結面部の両側縁部には枠用端部キャップと装着し、枠用端部キャップの外表面に前記対向面を構成したことを特徴とする請求項1に記載の耐震補強枠の取付構造。
【請求項3】
前記連結ヒレ部の対向面と外壁部材に形成した前記連結用開口の端面との間にシール材を塗布することによって前記防水部材を構成することを特徴とする請求項1に記載の耐震補強枠の取付構造。
【請求項4】
外壁部材に形成した前記連結用開口の縁部と横架材との間には、前記連結用開口の下縁を構成する外壁部材の端面を覆い、かつ内端部分を介して横架材の外表面に取り付けられるとともに、外端部分が外壁部材の外表面よりも室外側に突出する水切部材を配設し、
前記水切部材の上面と前記連結ヒレ部の下面との間にヒレ部防水部材を設けるとともに、前記連結用開口の下縁を構成する外壁部材の縁部と前記水切部材の下面との間に壁防水部材を設けたことを特徴とする請求項1に記載の耐震補強枠の取付構造。
【請求項5】
前記連結ヒレ部の連結面部は、横架材に対向する取付面が、長手方向に沿って互いに並設した複数の薄板状を成すフィン部によって構成してあり、これらフィン部の先端を介して横架材に当接することを特徴とする請求項1に記載の耐震補強枠の取付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存建築物を対象とした耐震補強枠の取付構造に関するもので、特に、既存木造住宅を耐震補強する際に好適な耐震補強枠の取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
既存建築物を対象とした補強構造としては、建築物に隣設して室外に耐震補強枠を構築し、この耐震補強枠と建築物の構造体との間を連結するようにしたものが提供されている。耐震補強枠には、例えば、アルミニウム合金の押し出し型材から成る上枠部材、下枠部材及び左右の縦枠部材を剛接合して構成したものが適用される。この耐震補強枠は、基礎の外側に設けた掘削孔に落とし込み、その位置を調整した後、上枠部材が建築物の構造体、例えば胴差しや梁等の横架材に連結される。横架材に連結される上枠部材には、連結ヒレ部が設けられている。連結ヒレ部は、上枠部材の上縁から建築物に向けて突出した平板状を成すヒレ基部と、ヒレ基部の突出端縁から鉛直上方に向けて延在した平板状を成す連結面部とを有している。
【0003】
上枠部材を横架材に連結するには、外壁部材を部分的に切除することによって連結用開口を形成し、横架材を室外に露出させる。この状態から連結ヒレ部の連結面部を介して横架材にネジ部材を螺合させることにより、上枠部材と横架材とが連結される。その後、掘削孔にコンクリートが打設され、耐震補強枠が地盤に固定される。
【0004】
上記のようにして耐震補強枠を取り付けた建築物によれば、地盤に固定された耐震補強枠によって地震発生時の地震力に抗することができるため、耐震性能を向上させることができる。しかも、この補強構造においては、耐震補強枠が室外に設置されるため、施工が容易であり、室内空間が犠牲にならない等の効果も奏する(例えば、非特許文献1もしくは非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“アルミニウム合金製耐震補強枠”、[online]、社団法人 カーテンウォール・防火開口部協会、[平成25年7月30日検索]、インターネット、<URL:http://www.cw-fw.or.jp/Portals/0/cwfw/pdf/taishin.pdf>
【非特許文献2】“住宅等防災技術評価概要”、[online]、平成23年3月25日、財団法人 日本建築防災協会、[平成25年7月30日検索]、インターネット、<http://www.kenchiku-bosai.or.jp/evaluation/file/43.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、外壁部材の連結用開口を介して耐震補強枠と構造体とを連結するようにした建築物にあっては、連結用開口から外壁部材よりも室内側に雨水等の水が浸入する恐れがある。このため、耐震補強を施す場合には、新たな防水処理を施すことにより、連結用開口からの水の浸入を防止する必要がある。
【0007】
例えば、非特許文献1においては、連結ヒレ部の連結面部から横架材の外表面に渡る部位に防水シートが貼り付けられている。また、連結用開口において連結ヒレ部のヒレ基部よりも上方となる部分には、連結用開口を覆うように水切部材が配設されている。水切部材の下縁部とヒレ基部の上面との隙間にはシール材が塗布されている。
【0008】
上枠部材に設けられた連結ヒレ部は、連結用開口の下縁を構成する外壁部材の端面を覆うように配置されるものである。このため、連結ヒレ部の連結面部外表面から横架材の外表面に渡る部位に防水シートを貼り付ければ、連結ヒレ部によって覆われた部分から室内側への水の浸入を防止することができるようになる。
【0009】
しかしながら、連結用開口に挿入される連結ヒレ部は、連結用開口よりも外形寸法を小さく構成しなければならない。すなわち、連結ヒレ部を横架材に連結させた状態にあっても、連結ヒレ部と連結用開口の両側縁を構成する外壁部材の端面との間には、隙間が生じることになる。しかも、連結ヒレ部において外壁部材の端面に対向するのは、ヒレ基部の側縁となるため、外壁部材の端面とヒレ基部の側面との間にシール材を塗布する等の防水処理を施すことも困難である。このため、連結ヒレ部から横架材の外表面に渡る部位に防水シートを貼り付けた場合にも、連結用開口の両側部については開放されたままの状態となり、室内側への水の浸入を防止することが困難である。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みて、既存建築物に対して十分な防水性を確保した状態で耐震補強することのできる耐震補強枠の取付構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係る耐震補強枠の取付構造は、建築物の構造体に対応した部分の外壁部材を除去して連結用開口を形成し、室外に設置した耐震補強枠を、前記連結用開口を介して前記構造体に連結するようにした耐震補強枠の取付構造であって、前記連結用開口は、建築物の構造体となる横架材に沿って外壁部材を切除することにより構成されたものであり、前記耐震補強枠は、左右の縦枠部材と、前記左右の縦枠部材の間において前記横架材に沿って左右方向に配置される上枠部材とを備え、前記上枠部材に設けた連結ヒレ部を介して前記横架材に連結されるものであり、前記連結ヒレ部は、前記上枠部材から前記横架材に向けて突出する板状のヒレ基部と、前記ヒレ基部の突出端縁から上方に向けて延在する連結面部とを有し、前記連結面部を介して前記横架材にネジ部材を締結することによって前記耐震補強枠を前記横架材に連結するものであり、少なくとも前記連結面部の上縁部及び両側縁部にそれぞれ前記連結用開口の端面に対向する対向面を有し、前記対向面と前記連結用開口の端面との間に防水部材を設けたことを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、外壁部材に形成した連結用開口の端面に対向するように連結ヒレ部に対向面を設けるようにしているため、連結用開口の端面と対向面との間に防水部材を容易に設けることができる。
【0014】
この発明によれば、連結ヒレ部の連結面部に設けた対向面と連結用開口の端面との間に防水部材を容易に設けることができる。
【0015】
また、本発明は、上述した耐震補強枠の取付構造において、前記連結面部の上縁部に対向面部を一体に成形し、この対向面部に前記対向面を構成する一方、前記連結面部の両側縁部には枠用端部キャップと装着し、枠用端部キャップの外表面に前記対向面を構成したことを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、連結面部の両側縁部に枠用端部キャップを取り付けるようにしているため、防水部材を容易に、かつ確実に設けることができる。
【0017】
また、本発明は、上述した耐震補強枠の取付構造において、前記連結ヒレ部の対向面と外壁部材に形成した前記連結用開口の端面との間にシール材を塗布することによって前記防水部材を構成することを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、連結用開口の端面と対向面との間にシール材を塗布することによって防水性を確保することができる。
【0019】
また、本発明は、上述した耐震補強枠の取付構造において、外壁部材に形成した前記連結用開口の縁部と横架材との間には、前記連結用開口の下縁を構成する外壁部材の端面を覆い、かつ内端部分を介して横架材の外表面に取り付けられるとともに、外端部分が外壁部材の外表面よりも室外側に突出する水切部材を配設し、前記水切部材の上面と前記連結ヒレ部の下面との間にヒレ部防水部材を設けるとともに、前記連結用開口の下縁を構成する外壁部材の縁部と前記水切部材の下面との間に壁防水部材を設けたことを特徴とする。
【0020】
この発明によれば、連結用開口の下縁を構成する外壁部材については、外壁部材の端面を覆うように設けた水切部材によって水の浸入が防止される。
【0021】
また、本発明は、上述した耐震補強枠の取付構造において、前記連結ヒレ部の連結面部は、横架材に対向する取付面が、長手方向に沿って互いに並設した複数の薄板状を成すフィン部によって構成してあり、これらフィン部の先端を介して横架材に当接することを特徴とする。
【0022】
この発明によれば、横架材の外表面が平坦でない場合にも、フィン部を介して連結ヒレ部を当接させることが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、外壁部材に形成した連結用開口の端面に対向するように連結ヒレ部に対向面を設けるようにしているため、連結用開口の端面と対向面との間に容易に防水部材を設けることができ、既存建築物に対して十分な防水性を容易に確保した状態で耐震補強することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の実施の形態1である取付構造を適用して耐震補強枠を取り付けた建築物の要部を示す縦断面図である。
図2図2は、図1に示した建築物を一部破断して示す要部斜視図である。
図3図3は、図1に示した建築物に適用する取付構造の要部を拡大した縦断面図である。
図4図4は、図1に示した建築物に適用する取付構造で必要となる水切部材の斜視図である。
図5図5は、図1に示した建築物の外壁部材に連結用開口を形成した状態を破断して示す要部斜視図である。
図6図6は、外壁部材に形成した連結用開口に水切部材を配設した状態を破断して示す要部斜視図である。
図7図7は、水切部材を配設した連結用開口に両面防水テープ及びシート材を設けた状態を破断して示す要部斜視図である。
図8図8は、シート材の上縁部及び側縁部にシール材を設けるための防水テープを貼り付けた状態を破断して示す要部斜視図である。
図9図9は、シール材を設けた連結用開口に耐震補強枠を取り付ける状態を破断して示す要部斜視図である。
図10図10は、連結用開口を介して耐震補強枠の上枠部材を建築物の横架材に連結させた状態を破断して示す要部斜視図である。
図11図11は、連結ヒレ部に設けた対向面と外壁部材に形成した連結用開口の端面との間に防水部材を設けた状態を破断して示す要部斜視図である。
図12図12は、本発明の実施の形態2である耐震補強枠の取付構造を示す要部拡大縦断面図である。
図13図13は、図12に示した取付構造において建築物の横架材に異物が存在した場合の要部拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照しながら本発明に係る耐震補強枠の取付構造の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0026】
(実施の形態1)
図1及び図2は、本発明の実施の形態1である取付構造を適用して耐震補強枠を取り付けた建築物を示したものである。本実施の形態1において耐震補強の対象となる既存建築物Hは、図には明示していないが、柱、胴差し、梁等の構造体が木材によって構成された木造住宅である。建築物Hの壁は、その全面が外壁部材SYによって覆われている。耐震補強枠10が取り付けられる壁(以下、「取付壁W」という)の1階部分には、引き違い窓SDと、雨戸を収納するための戸袋PDとが互いに並設された状態で設けられている。戸袋PDは、2枚の雨戸を重ねた状態で収納するもので、取付壁Wから最も突出した部分となる。
【0027】
耐震補強枠10としては、上枠部材11の両端部に左右の縦枠部材12を剛接合してコの字形状に構成したラーメンフレームを適用している。これら上枠部材11及び縦枠部材12は、アルミニウム合金製の押し出し型材であり、それぞれ角筒状に構成してある。図1からも明らかなように、本実施の形態1で適用する耐震補強枠10では、縦枠部材12の見込み方向に沿った寸法d1が上枠部材11の見込み方向に沿った寸法d2よりも大きく構成してあり、上枠部材11の両端部がそれぞれ縦枠部材12の上端部に連結してある。上枠部材11の上面から縦枠部材12の下面までの間には、戸袋PDの全高よりも大きな寸法が確保してある。縦枠部材12の相互間には、引き違い窓SD及び戸袋PDを並設した場合の左右方向に沿った幅とほぼ同等の寸法が確保してある。
【0028】
耐震補強枠10の上枠部材11には、連結ヒレ部110が設けてある。連結ヒレ部110は、図1及び図3に示すように、引き違い窓SDよりも上方において水平方向に配置される建築物Hの構造体、例えば胴差しもしくは梁(以下、「横架材BM」という)に対して連結される部分であり、ヒレ基部111、連結面部112及び対向面部113を有している。
【0029】
ヒレ基部111は、上枠部材11において建築物Hの取付壁Wに対向する面の上縁から取付壁Wに向けて突出した平板状部分である。このヒレ基部111は、上枠部材11において縦枠部材12の間に位置する部分の全長に渡る部位に設けてある。
【0030】
連結面部112は、ヒレ基部111の突出端縁から鉛直上方に向けて延在した平板状部分である。この連結面部112には、ネジ部材120を螺合させるためのネジ用下孔112aが複数箇所に形成してある。
【0031】
対向面部113は、連結面部112の上縁部から突出した薄肉の平板状部分であり、その上面に上方対向面113aを構成している。この対向面部113は、連結面部112から上枠部材11に近接する方向に向けて突出しており、横架材BMの外表面から外壁部材SYの外表面SY1までの距離よりも大きな突出寸法を有するように構成してある。これらヒレ基部111、連結面部112及び対向面部113は、押し出し型材として上枠部材11と一体に成形してある。
【0032】
また、連結ヒレ部110の両端部には、それぞれ枠用端部キャップ114が装着してある。枠用端部キャップ114は、ヒレ基部111の突出端部側面、連結面部112の側面及び対向面部113の側面を覆う状態で設けた平板状部材であり、個々の外表面が側方対向面114aを構成している。図3に示すように、枠用端部キャップ114の下端部は、それぞれヒレ基部111の下面から下方に向けて突出し、互いに対向する内方側が水切用当接面114bを構成している。
【0033】
尚、本実施の形態1では、取付壁Wに戸袋PDが設けられた建築物Hを耐震補強の対象としているため、連結面部112を横架材BMの外表面に当接させた場合に、耐震補強枠10の縦枠部材12が戸袋PDと干渉しないように、上枠部材11からの連結ヒレ部110の突出寸法が設定してある。
【0034】
以下、上記のように構成した耐震補強壁を耐震補強の対象となる建築物Hに取り付ける場合の手順について順次説明し、併せて本発明の特徴部分について詳述する。
【0035】
まず、図2及び図5に示すように、耐震補強の対象となる建築物Hの横架材BMが室外に露出するように、外壁部材SYにおいて横架材BMに対応する部位を部分的に切除することにより、左右方向に沿って長手となる矩形状の連結用開口30を外壁部材SYに形成する。連結用開口30の大きさは、上枠部材11に設けた連結ヒレ部110の連結面部112を容易に挿通させることができるように、連結面部112の外形寸法よりも大きく設定する。
【0036】
連結用開口30を形成した後の外壁部材SYに対しては、図6図9に示すように、耐震補強枠10を取り付ける以前に横架材BMとの間に防水処理を施し、予め横架材BMの外表面との隙間を塞いでおく。具体的には、まず、図6に示すように、連結用開口30の下縁を構成する外壁部材SYの端面(以下、「外壁部材SYの開口下端面31」という)を覆うように水切部材40を配設する。
【0037】
水切部材40は、図3及び図4に示すように、上枠部材11の連結ヒレ部110に比較して板厚の薄い矩形平板状の水切基部41を有したものである。水切基部41は、長手方向に沿った寸法が、連結用開口30よりもわずかに小さく、かつ短手方向に沿った寸法が、横架材BMの外表面から外壁部材SYの外表面SY1までの距離よりも大きくなるように形成してある。
【0038】
この水切基部41には、長手方向に沿った一方の縁部に内端部分42が設けてあり、長手方向に沿った他方の縁部に外端部分43が設けてある。これら内端部分42及び外端部分43は、水切基部41と一体に成形したものである。内端部分42は、水切基部41から上方に向けて延在し、一方、外端部分43は、水切基部41から下方に向けて延在している。
【0039】
水切部材40の両端部には、それぞれ水切用端部キャップ44が装着してある。水切用端部キャップ44は、水切基部41から下方に向けて突出する部分と、外端部分43から内端部分42に近接する方向に向けて突出する部分とを有した平板状部材である。
【0040】
上記のように構成した水切部材40は、水切基部41が外壁部材SYの開口下端面31を覆い、かつ内端部分42が横架材BMの外表面に当接する一方、外端部分43が外壁部材SYの外表面SY1よりも室外側に突出した状態で、内端部分42を介して横架材BMに取付ネジ45を螺合させることにより、連結用開口30部の下縁部に取り付けられる。
【0041】
図7に示すように、横架材BMに取り付けられた水切部材40の内端部分42に対しては、その外表面から横架材BMの外表面に渡る部位に防水性を有した両面防水テープ51を貼り付けることにより、横架材BMの外表面との間の隙間から室内側に水が浸入するのを防止する。水切部材40の内端部分42は、水切基部41から上方に向けて延在した部分であるため、水切基部41が外壁部材SYの開口下端面31を覆うように水切部材40を配置した場合にも外部に現れることになる。従って、内端部分42に対して両面防水テープ51を貼り付ける作業は、容易に、かつ確実に実施することが可能である。
【0042】
水切部材40の水切基部41及び外端部分43に対しては、外壁部材SYの外表面SY1との間にシール材(壁防水部材)52を塗布することにより、外壁部材SYの開口下端面31との隙間から室内側に水が浸入するのを防止する。上述したように水切部材40の両端部には、水切基部41から下方に向けて突出し、かつ外端部分43から内端部分42に近接する方向に向けて突出するように水切用端部キャップ44が装着してある。従って、水切部材40の水切基部41及び外端部分43と外壁部材SYの開口下端面31との間にシール材52を塗布する場合には、シール材52の端部を水切用端部キャップ44に接触させれば十分な防水性を確保することが可能となり、シール材52の塗布作業を容易化することができる。また、水切用端部キャップ44の外側面と外壁部材SYの縁部との間についても、シール材58を塗布することによって隙間を埋める。
【0043】
水切部材40よりも上方に位置する連結用開口30に対しては、室外に露出する横架材BMの外表面全域に透湿性及び防水性を有した透湿防水シート(シート材)53を貼り付ける。透湿防水シート53を貼り付ける場合には、横架材BMの外表面のみならず、水切部材40の内端部分42及び内端部分42に貼り付けた両面防水テープ51を含むように行う。透湿防水シート53の上縁部及び左右の側縁部には、図8に示すように、それぞれ横架材BMの外表面との隙間を塞ぐようにアルミ箔で構成された防水テープ54を貼り付ける。さらに、図9に示すように、それぞれの防水テープ54と外壁部材SYの縁部との間にシール材55を塗布することによって横架材BMの外表面と外壁部材SYとの隙間を埋め、室内側に水が浸入するのを防止する。
【0044】
以上のように、連結用開口30を形成した後の外壁部材SYと横架材BMとの間に防水処理を施して外壁部材SYと横架材BMとの隙間を塞ぐようにすれば、連結用開口30を介しては、室内側に雨水等の水が浸入する恐れがなくなる。しかも、横架材BMと外壁部材SYとの間に施す防水処理は、連結用開口30を開放した状態で作業を行うことができるため、作業の容易化を図ることができ、水の浸入をより確実に防止することが可能となる。
【0045】
連結用開口30に対する防水処理作業が終了した後においては、図1及び図2に示すように、縦枠部材12をアンカーボルトGBによりそれぞれ新設基礎NBに固定する。新設基礎NBは、建築物Hの既設基礎ABに連結するように新たに設けたもので、その上面が地面GLよりも上方に突出した状態にある。この新設基礎NBに固定した左右の縦枠部材12の上端部間に上枠部材11を連結すれば、新設基礎NB及び既設基礎ABを介して地盤EBに固定された耐震補強枠10が構成されることになる。
【0046】
耐震補強枠10の上枠部材11については、外壁部材SYの連結用開口30を介して連結ヒレ部110の連結面部112を横架材BMの外表面に当接させ、この状態からネジ用下孔112aを介して横架材BMにネジ部材120を螺合させれば、横架材BMに連結されることになる。
【0047】
ここで、連結ヒレ部110の連結面部112を横架材BMの外表面に連結させた状態においては、図10に示すように、連結用開口30の上縁を構成する外壁部材SYの端面(以下、「外壁部材SYの開口上端面32」という)に対して上方対向面113aが近接して対向し、かつ連結用開口30の側縁を構成する外壁部材SYの端面(以下、「外壁部材SYの開口側端面33」という)に対して2つの側方対向面114aがそれぞれ近接して対向する。従って、外壁部材SYの開口上端面32と上方対向面113a及び外壁部材SYの開口側端面33と側方対向面114aとの間については、シール材(防水部材)56を塗布することによってそれぞれの隙間を塞ぎ、室内側への水の浸入を防止する。
【0048】
連結用開口30において連結ヒレ部110よりも下方となる部分については、図3に示すように、水切部材40によって室内側に至る水の浸入路が閉塞されているが、本実施の形態1では、さらにスポンジ状の止水材57を圧縮した状態で介在させてある。図には明示していないが、このスポンジ状の止水材57は、それぞれの端部が連結ヒレ部110の両端部に装着した枠用端部キャップ114の水切用当接面114bに当接するだけの寸法、もしくはわずかに短い程度の寸法を有している。
【0049】
最後に、連結用開口30において連結ヒレ部110よりも上方に位置する部分については、連結用開口30よりも上方に位置する外壁部材SYにカバー部材60を取り付けて覆い隠すようにしている。カバー部材60の両端部には、端部キャップ61が装着してある。カバー部材60の上縁部と外壁部材SYの外表面SY1との間及び端部キャップ61の外側面と外壁部材SYの外表面SY1との間のそれぞれには、互いの間の隙間を塞ぐためにシール材62が塗布してある。
【0050】
上記のようにして耐震補強枠10を取り付けた建築物Hによれば、新設基礎NB及び既設基礎ABを介して地盤EBに固定された耐震補強枠10によって地震発生時の地震力に抗することができるため、耐震性能を向上させることができる。しかも、この耐震補強構造においては、耐震補強枠10が室外に設置されるため、施工が容易であり、室内空間が犠牲にならない等の効果も奏する。
【0051】
さらに、連結用開口30を形成した後の外壁部材SYに対して、耐震補強枠10を取り付ける以前に横架材BMとの間に防水処理を施し、横架材BMの外表面との隙間を塞ぐようにしているため、連結用開口30を介しては、室内側に雨水等の水が浸入する恐れがなくなる。加えて、耐震補強枠10を取り付けた状態においては、上方対向面113aと外壁部材SYの開口上端面32との間、2つの側方対向面114aと外壁部材SYの開口側端面33との間にそれぞれシール材56を塗布するようにしているため、連結ヒレ部110と連結用開口30との隙間から室内側に雨水等の水が浸入する事態を確実に防止することが可能となる。
【0052】
(実施の形態2)
図12は、本発明の実施の形態2である取付構造を適用して耐震補強枠を取り付けた建築物の要部を示したものである。本実施の形態2において耐震補強の対象となる建築物Hは、実施の形態1と同様、柱、胴差し、梁等の構造体が木材によって構成された木造住宅であり、建築物Hの壁全面が外壁部材SYによって覆われている。
【0053】
耐震補強枠10については、アルミニウム合金製の押し出し型材から成る上枠部材11及び左右の縦枠部材12を剛接合してコの字形状に構成したラーメンフレームを適用する点、上枠部材11に設けた連結ヒレ部210を介して建築物Hの横架材BMに連結する点でそれぞれ実施の形態1と共通し、連結ヒレ部210の詳細構成のみが実施の形態1と異なっている。以下においては、実施の形態1と異なる点について主に説明し、実施の形態1と同様の構成については同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0054】
実施の形態2で適用する耐震補強枠10の上枠部材11には、ヒレ基部211、連結面部212及び対向面部213を有した連結ヒレ部210が設けてある。
【0055】
ヒレ基部211は、上枠部材11において耐震補強枠10が取り付けられる取付壁Wに対向する面の上縁から取付壁Wに向けて突出した平板状部分である。このヒレ基部211は、上枠部材11において縦枠部材12の間に位置する部分の全長に渡る部位に設けてある。
【0056】
連結面部212は、ヒレ基部211の突出端縁から鉛直上方に向けて延在した部分であり、平板状を成す基部212aの室内側に位置する面に複数(実施の形態2では3枚)のフィン部212bを有している。フィン部212bは、上枠部材11の長手方向に沿って互いに並設した薄板状部分であり、基部212aからの突出寸法が互いに同一となるように設けてある。連結面部212の最も上方となる位置に設けたフィン部212bは、その上面の位置が連結面部212の基部212aの上面と一致するように形成してある。
【0057】
対向面部213は、連結面部212の上縁部から突出した薄肉の平板状部分である。この対向面部213は、上枠部材11に近接する方向に向けて突出している。対向面部213の上面は、最も上方となる位置に設けたフィン部212bの上面と同一平面上に位置し、上方対向面213aを構成している。対向面部213の突出寸法は、それぞれのフィン部212bの突出端面を横架材BMの外表面に当接させた場合に、対向面部213の突出端部が外壁部材SYの外表面SY1から突出するように設定してある。これらヒレ基部211、連結面部212、フィン部212b及び対向面部213は、押し出し型材として上枠部材11と一体に成形してある。また、連結ヒレ部210の両端部には、それぞれ枠用端部キャップ114が装着してある。
【0058】
この実施の形態2においても、上枠部材11の連結ヒレ部210を介して耐震補強枠10を建築物Hの横架材BMに取り付ける手順は実施の形態1と同様であり、実施の形態1で記載したものと同様の作用効果を奏する。
【0059】
さらに、本実施の形態2では、連結ヒレ部210の連結面部212において横架材BMの外表面に対向する部位に複数のフィン部212bを設け、横架材BMの外表面に対してはこれらフィン部212bの突出端面を介して当接するようにしている。従って、図13に示すように、横架材BMの外表面に異物TAが存在している場合であっても、異物TAに対応するフィン部(図示の例では中央のフィン部212b)を適宜切除することにより、連結ヒレ部210を介して耐震補強枠10の上枠部材11を建築物Hの横架材BMに対して安定した姿勢で確実に連結させることが可能となる。
【0060】
尚、上述した実施の形態1及び実施の形態2では、建築物Hの横架材BMに対して上枠部材11を連結させるようにしたものを例示しているが、耐震補強枠は、必ずしも横架材に対して上枠部材を介して連結するものに限らない。例えば上下方向に沿って配設された建築物の構造体に対して縦枠部材を介して連結するものにも適用することが可能である。耐震補強枠としては、上枠部材及び左右の縦枠部材を備えたコの字形状を成すものを例示しているが、下枠部材を備えた矩形枠状を成すものを適用することも可能である。
【0061】
また、上述した実施の形態1及び実施の形態2では、連結用開口30を形成した後の外壁部材SYに対して、耐震補強枠10を取り付ける以前に横架材BMとの間に防水処理を施し、予め横架材BMの外表面との隙間を塞ぐようにしているため、室内側への水の浸入をより確実に防止することが可能となる。しかしながら、本発明では、必ずしも連結用開口を形成した後の外壁部材に対して耐震補強枠を取り付ける以前に横架材との間に防水処理を施す必要はない。
【符号の説明】
【0062】
10 耐震補強枠、11 上枠部材、13 縦枠部材、30 連結用開口、31 開口下端面、32 開口上端面、33 開口側端面、40 水切部材、52 シール材、56 シール材、57 止水材、60 カバー部材、61 端部キャップ、62 シール材、110 連結ヒレ部、111 ヒレ基部、112 連結面部、113 対向面部、113a 上方対向面、114 枠用端部キャップ、114a 側方対向面、120 ネジ部材、210 連結ヒレ部、211 ヒレ基部、212 連結面部、212b フィン部、213 対向面部、213a 上方対向面、BM 横架材、H 建築物、SY 外壁部材、SY1 外表面
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