【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記従来の柱状改良工法は、次のような問題がある。
・現場の土と固化材を現場で混合撹拌するため、現場の土質、攪拌方法等により、築造された柱状改良杭の品質にばらつきが生じる。
・固化不良や撹拌不良による強度不足を回避するために、多量の固化材スラリーを注入する必要がある場合があり、環境への負荷が大きい。
・土質によっては、六価クロム等の有害な物質が溶出する可能性がある。事前に六価クロム等が溶出するか否かを試験して、溶出が無いことを確認することは可能であるが、それには費用と期間を要する。
【0007】
小口径鋼管杭を埋設する工法は、次のような問題がある。
・小口径鋼管杭の先端を比較的硬い地盤(一般的にN値>10)に支持させる必要があるため、地盤によっては適用できない場合がある。
・小口径鋼管杭の腐食による劣化が懸念される。そのため、予め腐食しろを見込んで設計している。
【0008】
特許文献1の工法は、現場の土を固化材と混合させないので、従来の柱状改良工法の各問題が生じない。しかし、特許文献1の方法は、掘削オーガを地盤から引き上げるときに杭孔の内周面の一部が崩落して、水硬性固化材液に土が混じり込み、良好な置換コラムが形成されない可能性がある。
【0009】
特許文献2の工法は、筒状のケーシング内にセメントミルク等を充填した後、ケーシングを地中から引き抜くため、杭孔の内周面が崩落する心配がない。この工法では、ケーシングに対して先端ヘッドが着脱可能に装着され、ケーシングを地中から引き抜く際にケーシングから先端ヘッドが切り離されて、先端ヘッドは杭孔の底に残される。そのため、ケーシングへの先端ヘッドの装着が容易で、かつケーシングから先端ヘッドが確実に分離されることが求められる。
【0010】
特許文献2には、ケーシングに対する先端ヘッドの着脱構造の具体例が、同文献の段落0032〜0036、および
図1〜
図3に示されている。すなわち、ケーシングの下端内周面に形成された切欠部に、先端ヘッドの本体周壁部に設けられた凸部を挿入・脱出させることで、ケーシングに対して先端ヘッドを着脱する。切欠部に凸部が挿入された状態でケーシングを所定方向に回転させると、切欠部に凸部が係止して、ケーシングに先端ヘッドがつれ回りする。ケーシングの回転を停止しても、切欠部のフック部により凸部が下から受けられるため、ケーシングから先端ヘッドが分離しない。ケーシングを逆方向に回転させると、上記切欠部のフック部から凸部が外れるため、ケーシングから先端ヘッドを分離することが可能となる。
【0011】
上記例の着脱構造は、ケーシングに先端ヘッドを装着する際、ケーシングと先端ヘッドの軸心を揃え、かつ切欠部と凸部の円周方向位相を揃えた状態で、ケーシングに対して先端ヘッドを軸方向に相対移動させなければならないため、先端ヘッドの装着が面倒である。また、ケーシング内への土の侵入を防ぐために、ケーシングに先端ヘッドを装着した状態において、ケーシングの内周に先端ヘッドの本体周壁部の外周全体が嵌る構成であるので、ケーシングを前記逆方向に回転させても、ケーシングの内周面と先端ヘッドの本体周壁部の外周面との摩擦抵抗によりケーシングに対して先端ヘッドがつれ回りして、切欠部のフック部から凸部が外れなかったり、外れてもケーシングの内周面から先端ヘッドの本体周壁部が抜けなかったりして、先端ヘッドが分離しない可能性がある。先端ヘッドが分離しないと、ケーシング内に充填されたセメントミルク等がケーシングと共に持ち上がってしまう。
【0012】
この発明の目的は、現場の土の状態に影響されることなく品質の安定した地盤補強用のコンクリート系杭を築造することができ、かつ先端掘削刃の取付時における位相合わせ等が不要であり、現場での施工が容易で確実にコンクリート系杭を築造することができる現場打ちコンクリート系杭築造用の掘削刃取付け鋼管を提供することである。
この発明の他の目的は、現場の土の状態に影響されることなく品質の安定した地盤補強用のコンクリート系杭を築造することができ、かつ先端掘削刃の取付時における位相合わせ等が不要であり、現場での施工が容易で確実にコンクリート系杭を築造することができる現場打ちコンクリート系杭の築造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明の現場打ちコンクリート系杭築造用の掘削刃取付け鋼管は、鋼管と、この鋼管の先端に着脱可能に取り付けられて先端面に掘削用刃体を有する先端掘削刃とでなり、前記鋼管の先端の内周面に内径側へ突出する突起
が設けられると共に、前記先端掘削刃に、前記鋼管が地盤に貫入する回転方向に回転するとき前記突起に当接して前記先端掘削刃を前記鋼管と一体に回転させる回転受け部
が、前記鋼管側へ軸方向に突出させて設
けられている。
【0014】
この構成の現場打ちコンクリート系杭築造用の掘削刃取付け鋼管を使用した現場打ちコンクリート系杭の築造は、以下のように行う。
まず、鋼管の先端に先端掘削刃を着脱可能に取り付けて、掘削刃取付け鋼管を準備する。鋼管への先端掘削刃の取付けは、鋼管と先端掘削刃の軸心を揃えた状態で、鋼管内に先端掘削刃を進入させることで行う。鋼管と先端掘削刃の円周方向位置を合わせる必要はない。このため、従来のように、ケーシングと先端ヘッドの軸心を揃え、かつ切欠部と凸部の円周方向位相を揃えた状態で、ケーシングに対して先端ヘッドを軸方向に相対移動させるのに比べて、位相合わせの必要がなく、取付けが容易である。
【0015】
このようにして準備された掘削刃取付け鋼管を、先端掘削刃が下側となるように支持する。そして、掘削刃取付け鋼管を、突起に対して回転受け部が当接する方向に回転させつつ押し下げることによって、先端掘削刃により下方に掘削しながら地盤に貫入する。次いで、地盤に貫入された掘削刃取付け鋼管の鋼管内にモルタルまたは生コンクリートまたはセメントミルクを充填する。
【0016】
その後、突起から回転受け部が離れる方向に鋼管を回転させつつ引き上げて、鋼管から先端掘削刃を分離させる。杭孔の掘削が完了した時点では鋼管と、後で説明する固定手段または分離規制部による先端掘削刃の固定が解除されているため、鋼管から先端掘削刃が確実に分離可能である。そして、鋼管のみを地盤から引き抜くことによって、鋼管の抜き跡となる杭孔に鋼管内のモルタルまたは生コンクリートまたはセメントミルクを流し込む。モルタルまたは生コンクリートまたはセメントミルクが硬化することで、コンクリート系杭が現場打ちで築造される。
【0017】
この掘削刃取付け鋼管を使用して現場打ちコンクリート系杭を築造すると、従来の柱状改良工法のように、現場の土と固化材を混合撹拌することがないので、現場の土の状態に影響されることなく、常に品質の安定した地盤補強用のコンクリート系杭を築造することができる。また、土質によって六価クロム等の有害な物質が溶出する心配がない。さらに、杭孔の周囲の土が鋼管によって周囲に押しやられて地盤が締め固められる。このため、コンクリート系杭の杭周面抵抗力が大きくとれる。
なお、先端掘削刃が地盤に接するまでは、鋼管から先端掘削刃が外れることがあるため、鋼管と先端掘削刃を仮の固定手段により固定しておくか、または次のよう分離規制部で先端掘削刃が外れることを規制する。
【0018】
この発明は前記構成において、前記先端掘削刃に、前記回転受け部が前記突起と当接した状態にあるとき、前記突起の鋼管反先端側の面に係止して前記鋼管と前記先端掘削刃とが軸方向に分離することを規制する分離規制部
が設けられていることを基本構成とする。 この構成であると、先端掘削刃の回転受け部が鋼管の突起と当接した状態にあるときは、突起の鋼管反先端側の面に先端掘削刃の分離規制部が係止して、鋼管と先端掘削刃とが軸方向に分離することを規制する。突起から回転受け部が離れると、突起に対する分離規制部の係止が解除され、鋼管から先端掘削刃が分離可能となる。よって、先端掘削刃が分離規制部を有していると、鋼管と先端掘削刃とを固定する固定手段を別途設けなくてもよく、構成が簡単になると共に、鋼管から先端掘削刃を取り外す手間が不要となる。
【0019】
この発明における第1のコンクリート系杭築造用の掘削刃取付け鋼管は、前記基本構成において、前記回転受け部の前記突起に対向する面は、前記鋼管に前記先端掘削刃が取り付けられた状態における前記先端掘削刃の回転軸心と平行であり、かつ前記分離規制部の前記突起に対向する面は、前記回転受け部の前記突起に対向する面に対して鈍角を成している。
回転受け部の突起に対向する面が先端掘削刃の回転軸心と平行であると、鋼管の回転が先端掘削刃に円滑に伝達される。また、分離規制部の突起に対向する面が回転受け部の突起に対向する面に対して鈍角を成していると、鋼管の突起から先端掘削刃の回転受け部が離れる方向に鋼管を回転させることによって、突起の鋼管反先端側の面に対する分離規制部の係止が簡単に外れる。そのため、鋼管に対する先端掘削刃の分離が確実に行われる。
この発明における第2のコンクリート系杭築造用の掘削刃取付け鋼管は、前記基本構成において、前記分離規制部の前記突起に対向する面は、前記回転受け部の前記突起に対向する面に対して鈍角を成している。
【0020】
この発明において、前記先端掘削刃に、前記鋼管に前記先端掘削刃が取り付けられた状態において前記鋼管の内部に挿入されて前記鋼管と前記先端掘削刃との隙間を塞ぐ立ち上がり部を設けても良い。
立ち上がり部が設けられていると、鋼管内に土が侵入することを防止でき、良好な現場打ちコンクリート系杭を築造することができる。
【0021】
この発明において、前記鋼管の下端に、この鋼管の外周面よりも外周側に突出した螺旋状溝形成用刃体を設けても良い。
螺旋状溝形成用刃体が設けられていると、掘削刃取付け鋼管を用いて杭孔を掘削することにより、杭孔の外周に螺旋状の溝が形成される。鋼管内にモルタルまたは生コンクリートまたはセメントミルクを充填して鋼管のみを地盤から引き抜くことによって、杭孔だけでなく螺旋状の溝にもモルタルまたは生コンクリートまたはセメントミルクが流し込まれて、螺旋状の節付きコンクリート系杭が築造される。コンクリート系杭が螺旋状の節付きであると、杭周面のせん断抵抗が大きい。そのため、コンクリート系杭の杭周面抵抗力がより一層大きくとれる。杭周面抵抗力が大きいと、以下の利点がある。
・杭径を小さくすることが可能となり、材料費の削減を図ることができる。
・コンクリート系杭の材料が少なくて済み、環境負荷を低減することができる。
・杭先端をN値が比較的小さな地盤に支持させることができるため、杭長を短くすることができる。
【0022】
この発明の現場打ちコンクリート系杭の築造方法は、前記掘削刃取付け鋼管を、前記先端掘削刃が下側となるように支持した状態で、前記突起に対して前記回転受け部が当接する方向に回転させつつ押し下げることによって、前記先端掘削刃により下方に掘削しながら地盤に挿入する過程と、前記鋼管内にモルタルまたは生コンクリートまたはセメントミルクを充填する過程と、前記突起から前記回転受け部が離れる方向に前記鋼管を回転させつつ引き上げて、前記鋼管から前記先端掘削刃を分離させた後、前記鋼管のみを地盤から引き抜くことによって、前記鋼管の抜き跡となる杭孔に前記鋼管内のモルタルまたは生コンクリートまたはセメントミルクを流し込む過程とを含む。
このように、地盤に挿入された掘削刃取付け鋼管の鋼管内にモルタルまたは生コンクリートまたはセメントミルクを充填した後、鋼管のみを地盤から引き抜くことによって、鋼管の抜き跡となる杭孔に鋼管内のモルタルまたは生コンクリートまたはセメントミルクを流し込む。モルタルまたは生コンクリートまたはセメントミルクが硬化することで、コンクリート系杭が現場打ちで築造される。
【発明の効果】
【0023】
この発明の節付き現場打ちコンクリート系杭築造用の掘削刃取付け鋼管は、鋼管と、この鋼管の先端に着脱可能に取り付けられて先端面に掘削用刃体を有する先端掘削刃とでなり、前記鋼管の先端の内周面に内径側へ突出する突起
が設け
られると共に、前記先端掘削刃に、前記鋼管が地盤に貫入する回転方向に回転するとき前記突起に当接して前記先端掘削刃を前記鋼管と一体に回転させる回転受け部
が、前記鋼管側へ軸方向に突出
して設け
られ、
前記回転受け部の先端に、この回転受け部が前記突起と当接した状態にあるとき、前記突起の鋼管反先端側の面に係止して前記鋼管と前記先端掘削刃とが軸方向に分離することを規制する分離規制部が設けられ、前記分離規制部の前記突起に対向する面は、前記回転受け部の前記突起に対向する面に対して鈍角を成すため、現場の土の状態に影響されることなく品質の安定した地盤補強用のコンクリート系杭を築造することができ、かつ先端掘削刃の取付時における位相合わせ等が不要であり、現場での施工が容易で確実にコンクリート系杭を築造することができる。
【0024】
この発明の現場打ちコンクリート系杭の築造方法は、前記掘削刃取付け鋼管を、前記先端掘削刃が下側となるように支持した状態で、前記突起に対して前記回転受け部が当接する方向に回転させつつ押し下げることによって、前記先端掘削刃により下方に掘削しながら地盤に挿入する過程と、前記鋼管内にモルタルまたは生コンクリートまたはセメントミルクを充填する過程と、前記突起から前記回転受け部が離れる方向に前記鋼管を回転させつつ引き上げて、前記鋼管から前記先端掘削刃を分離させた後、前記鋼管のみを地盤から引き抜くことによって、前記鋼管の抜き跡となる杭孔に前記鋼管内のモルタルまたは生コンクリートまたはセメントミルクを流し込む過程とを含むため、現場の土の状態に影響されることなく品質の安定した地盤補強用のコンクリート系杭を築造することができ、かつ先端掘削刃の取付時における位相合わせ等が不要であり、現場での施工が容易で確実にコンクリート系杭を築造することができる