特許第6247070号(P6247070)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ソシエテ・アノニム・ドゥ・ラ・マニュファクチュア・ドーロジュリー・オードゥマール・ピゲ・エ・シの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6247070
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】時計の打撃ワークのためのゴング
(51)【国際特許分類】
   G04B 21/08 20060101AFI20171204BHJP
【FI】
   G04B21/08 D
【請求項の数】13
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-213606(P2013-213606)
(22)【出願日】2013年10月11日
(65)【公開番号】特開2014-81374(P2014-81374A)
(43)【公開日】2014年5月8日
【審査請求日】2016年8月18日
(31)【優先権主張番号】02002/12
(32)【優先日】2012年10月15日
(33)【優先権主張国】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】510283546
【氏名又は名称】ソシエテ・アノニム・ドゥ・ラ・マニュファクチュア・ドーロジュリー・オードゥマール・ピゲ・エ・シ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ルカ・ラジ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン−ダニエル・リューティ
【審査官】 櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−127955(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0155227(US,A1)
【文献】 特開2012−058232(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0063275(US,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第02498144(EP,A2)
【文献】 スイス国特許出願公開第00703776(CH,A3)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 21/08
21/06
23/12
45/00
G10K 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計の打撃ワークデバイスのためのゴング(1)であって、前記ゴング(1)は、ばねブレード(1.1)であって、前記ゴングの本体を形成し、かつ作動に従って音を発生するために振動部材として機能するよう構成された、ばねブレード(1.1)を具備してなり、前記ゴング(1)の前記ばねブレード(1.1)は、少なくとも部分的に円弧の形状を有する巻線状のワイヤから構成されるとともに、その本体に形成された少なくとも1つの開口(1.2)を具備し、前記ゴング(1)の前記ばねブレード(1.1)の前記本体に形成された少なくとも1つの開口(1.2)は、充填されないか、または前記ばねブレード(1.1)の前記本体の材料以外の材料(1.3)の追加によって少なくとも部分的に充填され、前記開口(1.2)の充填のために使用される前記他の材料は、金、銀、プラチナまたは金属合金から群から選択されることを特徴とするゴング。
【請求項2】
前記ゴング(1)の前記ばねブレード(1.1)の前記本体に形成された少なくとも1つの開口(1.2)は、貫通開口であることを特徴とする請求項1に記載のゴング。
【請求項3】
前記ゴング(1)の前記ばねブレード(1.1)の前記本体に形成された少なくとも1つの開口(1.2)は、止り穴であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のゴング。
【請求項4】
前記ゴング(1)の前記ばねブレード(1.1)の前記本体に形成された少なくとも1つの開口(1.2)は、変更可能な長さの長方形形状を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のゴング。
【請求項5】
前記ゴング(1)の前記ばねブレード(1.1)の前記本体に形成された少なくとも1つの開口(1.2)は、前記ばねブレード(1.1)の作動平面上に形成されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のゴング。
【請求項6】
前記ゴング(1)の前記ばねブレード(1.1)の前記本体に形成された少なくとも1つの開口(1.2)は、前記ばねブレード(1.1)の作動平面に交差する平面上に形成されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のゴング。
【請求項7】
前記ゴング(1)の前記ばねブレード(1.1)の前記本体に形成された少なくとも1つの開口(1.2)は、切断またはアブレーションレーザ(6)を用いて、放電加工によって、マイクロマシニングによって、またはウォータージェットによって加工されることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載のゴング。
【請求項8】
少なくとも1つの慣性ブロック(1.4)が、前記ゴング(1)の前記ばねブレード(1.1)に取り付けられることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載のゴング。
【請求項9】
前記ゴング(1)の前記ばねブレード(1.1)の前記本体の断面は、実質的に円形、長円形、矩形または多角形であることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載のゴング。
【請求項10】
前記ゴング(1)の前記ばねブレード(1.1)の前記本体の前記断面の直径は、0.2mmから1.2mmの範囲にあり、好ましくは0.4mmから0.8mmの範囲にあることを特徴とする請求項に記載のゴング。
【請求項11】
前記ゴング(1)の前記ばねブレード(1.1)の前記本体は、金属材料、例えばスチールから製造されることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載のゴング。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれか一項に記載のゴングを備えることを特徴とする時計。
【請求項13】
前記時計は、メカニカル時計であって、特に打撃ワーク、アラーム、警報、および/または繰り返し機構を備える腕時計であることを特徴とする請求項12に記載の時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計の打撃ワークデバイスのためのゴングに関するものであり、このゴングはばねブレードを備え、ばねブレードは、ゴングの本体を形成し、かつ作動に従って音を発生させるために振動要素として機能するよう構成されている。
【背景技術】
【0002】
このタイプのデバイスはその原理が昔から知られており、打撃ワーク時計は、夜中にまたは暗闇で現在の時刻に関する聴覚性の情報を提供することができるため、昔から一般的である。暗闇の中でさえも時刻を十分読むことを可能にするラジウムや蛍光性ダイアルおよびダイアルを照らすための他の手段の到来により、時計の構造、製造および使用が容易となり、打撃ワーク機構の組み込みは、その製造に必要な時計学的技術と同様に対応するムーブメントの複雑化が原因となり、最高級の時計のための課題となった。打撃ワーク機構の製造、特にゴングの製造は、わずかにだが依然として最近まで発展させられており、かつ製造される打撃ワークウォッチの音の変化をもたらす主に経験的なノウハウに基づいている。
【0003】
概して時計の打撃ワーク機構は、少なくとも1つのゴングとハンマーとから形成される。ハンマーは、その作動に従ってゴングを振動させるためにゴングを打撃する。多くの場合ゴングは、時計のダイアルに平行な面上への配置によって時計のムーブメントを包囲するのに有利なように、円弧の形態を有する。ゴングは一般的に巻線状のワイヤによって形成される。ワイヤの一端は、それ自体が時計のプレートに強固に取り付けられるブロム止め金具(blom stud)に固定され、その一方でワイヤの他端はおおむね自由なままにされる。いくつかの実施形態において、ブロム止め金具は、音の伝達を促進させるために中間部に連結されている。そのためゴングは、共振器として作動し、かつブロム止め金具は、ゴングの振動を時計の面に伝達し、それにより音波を発散できる。音波は、発生された音の形態で使用者に聞き取られる。
【0004】
通常、打撃ワーク時計は、アワーゴングとミニッツゴングとの2つのゴングを備えるが、チャイムという名前で知られる3つまたは4つのゴングを備えてもよく、また、さらに多くのゴングを備えてもよい。対応する従来のゴングは、発生する音に差をつけるために、主にその直径および長さにおいて異なっており、例えばアワーゴングの深さおよびミニッツゴングの高さにおいて異なっている。
【0005】
所望の音を発生させるために、特にその音調、その振動数成分、および時計内に存在する他のゴングによって発生する音と比較した場合のその差異に関して、振幅、振動期間およびゴングの長さを注意深く調節しなければならない。実際に、ゴングの剛性が大きすぎる場合、ゴングは十分に振動せず、一方でゴングがやわらかすぎる場合、その発生した音は満足できるものにはならない。
【0006】
こうした問題はごく最近になって時計学的産業においてより詳細に研究されており、振動数成分があらかじめ決定された音を発生するゴングを発展させるために、実際にあまり多くはない経験的な取り組みが明らかとなっている。
【0007】
実際に、音楽的な音のスペクトラムはおおむね基本周波数と、第1の調波(first harmonic)と、基本周波数の整数の倍数であるいくつかの調波とからなる。楽器によって発生する音は、基本周波数の整数倍ではない複数の振動数(いわゆる部分周波数)も含み得る。時計学的分野および打撃ワーク機構のゴングに関して、ゴングの振動、ひいては発生する音の振動数成分は、一般的に多数の部分周波数を含む。特に、打撃ワークの作動中に知覚される基本振動数は、ゴング自体の第1の特定の振動数に対応しない。以下では、基本周波数との語は知覚される音調(音の高さ)を意味する。このように音調は、ゴングの振動挙動に含まれるスペクトルの成分と、音の発生源における波動伝搬の連鎖において当該成分と関連する要素と、の組み合わせに起因する。
【0008】
音における部分周波数の存在は、部分周波数の数とスペクトラムにおける部分周波数のさまざまな位置とに基づいて心地よく感じられたりあるいは不快に感じられたりするために、人間によって知覚可能である。さまざまな調波および部分周波数によって形成されるスペクトラム全体は、人間によって知覚されるように音の音調を規定する。加えて、音に対する人間の知覚は、部分周波数の数およびその位置だけでなくその振幅にも左右される。これは、発生する音に対する人間の知覚に関して、不協和音を生じる可能性がある一方でハーモニーをもたらすこともある。全体的には、3つの第1の部分周波数が音調を決定するのに寄与し、かつ後続の部分周波数が、一般的に豊かさや美しさあるいは音色と呼ばれる音質を決定すると考えられる。
【0009】
特に、ゴングによって発生する音の振動数成分と、そして調波の周波数位置と部分周波数とは、ゴングの選択される材料(つまり物理的特性)によってかつゴングの選択される形状によって影響され得る。ゴングの所定の形状に関して、材料の選択は、知覚される基本周波数の位置および音色の変化させることができる。調波の位置はゴングの振動を変化させる。結果的に1つ以上の振動形態の減衰に影響を与えることができる。この場合において部分周波数の周波数分布は常に同じ法則に従う。その部分に関するゴングの幾何学的形状の選択は、例えばゴングの剛性を変化させることによって、部分周波数同士の比率を変更できる。
【0010】
こうした事実に基づき、上記取り組みは、特にその音調および周波数成分に関して、あらかじめ決定された良好な音を発生するゴングの製造を可能にするために時計学産業によってここ数年にわたって理解されており、ゴングの材料の選択およびその幾何学的形状の選択のいずれかに関連する。
【0011】
例えば特許文献1は、ゴングの製造のために金または銀などの高価な材料を使用することを提案している。これは、その質量密度に対する弾性係数に関するこれら材料の物理的特性に基づいており、そのため部分周波数の数が増大された音の発生が可能である。なお上述のように、材料の選択は、互いに対する複数の部分周波数の周波数を分布できず、そのため、それだけですべてのゴングの所望の特性を達成する可能性の低いパラメータが残される。
【0012】
その結果として、さらなる取り組みは、例えば特許文献2に開示されるように、ゴングの形状の変更へと方向付けられた。そうしたゴングは、例えば連続的にあるいはその断面において増減する連続部によって、ゴングの長手方向軸線に沿って少なくとも部分的に変更可能な断面を有する。これにより音の質は向上できるが、そうしたゴングの製造はより複雑化されたままであり、工業規模での製造に関して適していない。
【0013】
特定のゴングの形状を目標とした取り組みの他の例が特許文献3に開示される。特許文献3で提案されるようなゴングは、少なくとも2つの異なる断面部分を有する中間部を備える。このゴングは、特許文献2と同様の原理に基づいており、このゴングの断面の変形例は、一見したところ対応するゴングの実施形態の単純化によるものである。なお、異なる断面部分は、異なる直径を有する金属ワイヤによって形成されて、ろう接またははんだ付けによって取り付けられるため、この提案が、製造工程の単純化と同時に発生する音の向上を実現するかどうかは明らかではない。実際に、この提案は、ろう接またははんだ付け方法に関してより複雑な製造工程をもたらすか、あるいは得られるゴングの質を低減させるだろう。
【0014】
そのため、現在公知の従来の解決法は、対応するゴングの製品を許容できなくするほど複雑な構造を有するか、あるいは発生する音の質に関して要求される特性すべてを有するゴングは実現できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】欧州特許第2 107 437号明細書
【特許文献2】米国特許第7,746,732.号明細書
【特許文献3】中国特許第702 145号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そのため、依然として、上記タイプの打撃ワークデバイスのためのゴングであって、その構造が相対的に単純であり、かつ所定の状況下で作動に従って発生するゴングの振動の振幅および振動期間がゴングの製造中に注意深く調整されることにより、特にその音調およびその周波数成分に関してあらかじめ決定される音を良好に発生できるゴングを提供する必要性が存在する。加えて、そうしたゴングは、発生する音の音調および振動数成分に関して所定の性質を有することができるだけでなく、時計内に存在する既存の他のゴングによって発生される音と比較した場合に発生する音の差を調節できる、つまり所定の打撃ワーク機構に設けられたさまざまなゴング間のハーモニーを調節でき、あるいはさらに一般的に対応する時計の購入者である使用者個人の希望を考慮して調節できることが望まれている。これらの目的は、製造コストをリーズナブルにすることを確実にしかつ公知の打撃ワーク機構への組み込みを簡単にしつつ、実施されるべきである。
【0017】
したがって本発明の目的は、公知のゴングの欠点を解消し、かつ上記利点を提供することであり、特にデザインが単純でありかつその製造中にあらかじめ決定される振幅および振動期間を有する打撃ワークの製造を可能にし、それによってあらかじめ調節された、音調、振動数成分、他のゴングと比較した場合の差異とを有する音を発生可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このため、本発明は、上記タイプのゴング、特にメカニカル時計の打撃ワーク機構への組み込みのための、特許請求の範囲の請求項1で特定される特徴部によって特徴づけられるゴングと、そうしたゴングを備える対応する時計とを提案する。特に、本発明に基づくゴングのばねブレードは、その本体内部に形成された少なくとも1つの開口を備える。これら開口は、貫通開口あるいは止り穴とすることができる。これら開口の形状およびサイズは、開口が配置される平面において、要求に応じて適応可能である。これら開口は、好ましくは、切断レーザまたはアブレーションレーザによって、放電加工によって、マイクロマシニングによって、もしくはウォータージェットによって、あるいは他の適切な工程によって加工される。
【0019】
本発明に基づくゴングの好ましい実施形態において、これら開口の少なくとも1つが、ばねブレードの本体を形成する材料以外の材料を追加することによって少なくとも部分的に充填可能である。充填材料は例えば金、銀、プラチナまたは金属合金から構成されてもよい。
【0020】
ゴングのばねブレードの本体の断面の形状およびゴング自体の形状、さらにはばねブレードの本体の材料は要求に応じて選択可能である。
【0021】
こうした方法により、ゴングの幾何学的形状および材料組成は局所的に変更され、それにより、作動に従ってゴングの振動挙動に影響を与え得るゴングの剛性が変化させられる。このように本発明に基づくゴングは、ゴングの形状変更によって、必要な場合にはゴングを形成する材料の変更との両方によって要求に適応できるため、高められた精度レベルでゴングによって発生される音に影響を与えることができる。
【0022】
さらなる特徴部および対応する利点については従属請求項と以下の発明の詳細な説明においてより詳しく述べる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
添付の図面は本発明に基づくゴングのいくつかの実施形態を概略的にかつ例示的に図示する。
図1a図1aは、時計のフレームに取り付けられたゴングとハンマーとを備える打撃ワーク機構の従来の構造の概略平面図である。
図1b】ブロム止め金具に固定された状態のゴングが2つ重なっている実施形態の斜視図である。
図2a】本発明に基づく打撃ワーク機構のためのゴングであって、ゴングがその本体内部に開口を備える実施形態を上方から見た概略的かつ例示的な斜視図である。
図2b】本発明に基づく打撃ワーク機構のためのゴングであって、ゴングがその本体内部に開口を備える実施形態を上方から見た概略的かつ例示的な斜視図である。
図3a】本発明に基づく打撃ワーク機構のためのゴングであって、ゴングがその本体内部に開口を備え、その少なくとも1つがゴング本体の材料とは異なる材料で充填された実施形態を図2aおよび図2bと同様に上方から見た概略的かつ例示的な斜視図である。
図3b】本発明に基づく打撃ワーク機構のためのゴングであって、ゴングがその本体内部に開口を備え、その少なくとも1つがゴング本体の材料とは異なる材料で充填された実施形態を図2aおよび図2bと同様に上方から見た概略的かつ例示的な斜視図である。
図4a】本発明に基づく打撃ワーク機構のためのゴングであって、ゴングが、その本体内部に開口とゴングのばねブレードに取り付けられた少なくとも1つの慣性ブロックとを備えた実施形態を上方から見た概略的かつ例示的な斜視図である。
図4b】本発明に基づく打撃ワーク機構のためのゴングであって、ゴングが、その本体内部に開口とゴングのばねブレードに取り付けられた少なくとも1つの慣性ブロックとを備えた実施形態を上方から見た概略的かつ例示的な斜視図である。
図4c】本発明に基づく打撃ワーク機構のためのゴングであって、ゴングが、その本体内部に開口とゴングのばねブレードに取り付けられた少なくとも1つの慣性ブロックとを備え、開口の少なくとも1つがゴング本体の材料とは異なる材料で充填された実施形態を上方から見た概略的かつ例示的な斜視図である。
図5】切断レーザを用いて本発明に基づく打撃ワーク機構のためのゴングの製造中の一ステップを示す基本的な図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
一例としてのいくつかの本発明の実施形態を図示する図面を参照して本発明について以下に説明する。
【0025】
本発明の打撃ワークゴングは、時計、特にメカニカル腕時計に組み込まれる。図1aの概略平面図は、従来の打撃ワーク機構の構造を図示する。この打撃ワーク機構は、時計のフレームに取り付けられた、2つのゴング1a,1bと、2つの対応するハンマー2a,2bと、を備える。ゴング1a,1bのそれぞれが、その一端において、ゴング支持体として機能しかつ時計のプレート4にそれ自体が取り付けられるブロム止め金具3に固定される。時計は、図1aでは例示的に腕時計として図示される。各ゴング1a,1bの他端は自由となっている。各ゴング1a,1bは、時計のダイアルに平行な面上に配置され、プレート4の上方に配置され、かつ時計のムーブメント回り(簡略化のために図1aには図示せず)の円弧に沿って延在する。各ゴング1a,1bは、好ましくは、前記円弧を形成する巻線状の金属ワイヤによって形成される。一度打撃ワーク機構がプッシュピース5を用いて巻かれると、打撃ワークが解放される。このため、例えばアワーハンマー2aおよびミニッツハンマー2bとして機能しかつ場合によっては異なる質量を有するハンマー2a,2bは、打撃ワーク機構によって交互に作動させられる。この機構は本発明の対象物を形成しないため本明細書では説明しない。その作動中に、各ハンマー2a,2bは典型的には、対応するゴング1a,1bの平面上で部分的な回転をしてゴングを打撃し、それによりゴング1a,1bを振動させる。続いて、プレート4へのブロム止め金具3を介したゴング1a,1bの振動の伝播が音波を発生し、そのうちのある程度は人間が聞き取れる範囲にある。
【0026】
図1bには、ブロム止め金具3に固定された状態の2つの重ね合わされたゴングを備える実施形態の斜視図を示す。図1bから明らかなように、ゴング1a,1bは、例えばその円弧において同一の直径を有してもよく、かつゴングの振動中にこれらゴングが接触しないことを確実にする安全距離をおいて2つの重なった平面上に配置されてもよい。あるいは、対応する円弧によって形成されるこれらゴングの直径は、図1aに示されるように2つのゴングを同一平面上に配置できるように、異なっていてもよい。概して図1aおよび図1bに示されるような打撃ワーク機構の従来の構造および対応するゴング1aの従来の構造から続いて、本発明のゴング1は、部分的な円弧または線形発振器に沿った直線形態あるいはさらに別の特定の幾何学的形状であるような形状を有してもよい。
【0027】
実際に、上方からの斜視図である図2aおよび図2bが本発明に基づく打撃ワーク機構のためのゴングの2つの実施形態を概略的にかつ例示的に示すように、本発明に基づくゴング1は、ばねブレード1.1を備える。ばねブレード1.1は、ゴング1の本体を形成し、かつ例えばハンマー2によって作動に従って音を発生させる振動部材として機能するよう構成されている。特に、そうしたゴング1は、ばねブレード1.1が、その本体内部に形成される少なくとも1つの開口1.2を備えるという事実により特徴付けられる。
【0028】
図2aに示される第1の実施形態において、ゴング1は2つの長方形の貫通開口1.2を有する。貫通開口1.2は、その略中央に、かつゴング1のばねブレード1.1を形成する円弧に沿ってその4分の1の端部において、配置されている。2つの開口1.2は、ゴング1のばねブレード1.1の長手方向軸線に沿ってほぼ同一の長さを有するが、これは必ずしもなくてはならないものではなく、これら開口のそれぞれの長さは必要に応じて選択される。同様に、これら開口1.2の幅は図示された例では同一であるが、これも必ずしもなくてはならないものではない。概して、ばねブレード1.1の本体に形成された開口1.2の幅は、ばねブレード1.1の直径の約10%から85%、好ましくは10%から40%の範囲内で、また必要に応じて選択されてもよい。図2bに示される第2の実施形態において、ゴング1は、3つの長方形の貫通開口1.2を有し、3つの開口のうち2つは、ゴング1の第1の実施形態において形成された開口に実質的に対応し、かつ3つ目の開口は、とても短い長さを有しており、ゴング1のうちのブロム止め金具3に結合される端部の付近に配置される。この領域は、ゴング1をブロム止め金具3に取り付けた結果として生じるものであり、慣習的にゴングのヒール(heel)として称される。少なくとも1つのそうした開口1.2を備えるゴング1は、あらかじめゴング1の振動挙動を決定するために、その幾何学的形状を局所的にかつ局所的に変更可能である点において利点を有する。加えて、開口1.2は、ゴング1の振動中に発振表面を増大させる。それはまた、所望の音調を有する音の生成および所望のゴングの製造に好適なものであってもよい。このように開口1.2を形成することによってゴング1のばねブレード1.1の目標とする変更が、振動の振幅およびその期間に影響を与えることが可能となり、ひいては製造段階中(いわゆるゴング1のチューニング中)に、音調を有する音の生成と、周波数成分と、他のゴングとの比較した場合の差異とを決定可能となる。
【0029】
上記2つの実施形態において、ゴング1における少なくとも1つの開口1.2は貫通開口であるが、図示されないゴング1の他の変形例における少なくとも1つの開口1.2を止り穴とすることができる。同様に、止り穴1.2が、特にばねブレード1.1の長手方向軸線に沿って、様々な深さを有するようにすることもできる。さらに、必須ではないため特にすべての可能な組み合わせについての図示および説明は省略するが、ばねブレードは、開口1.2の数に応じて1つ以上の開口1.2および/または1つ以上の止り穴1.2を備えてもよい。
【0030】
上記説明から明らかなように、それぞれの開口1.2の長さおよび深さは要求応じて選択できるため、これら開口1.2は、与えられるゴングを考慮して特定の要求に応じて大まかに選択され得るさまざまな形状を有してもよい。なお、図2aおよび図2bに図示されるような変更可能な長さを含む長方形形状は、開口1.2の好ましい形状のうちの1つである。ゴング1のばねブレード1.1の長手方向軸線に沿った各開口1.2の位置についても、この位置が任意のゴング1に関する要求に基づいて所望されるように選択されるという意味において、同様の所見が適用される。
【0031】
最終的に、ゴング1のばねブレード1.1によって形成される本体に形成される開口1.2の配向に関して、この開口は、ゴング1の振動中にゴング1の作動平面において(例えば図1aおよび図1bに図示される実施例ではダイアルまたはプレート4の平面に平行な面において)加工できる。ゴングに形成された各開口は、図2aおよび図2bに図示される本発明に基づくゴング1の実施形態におけるように、ゴング1の作動平面に交差する平面上に形成することもできる。こうした2つの変形例は、開口1.2の配向に関して、開口の幅が長手方向軸線回りで対称的に構成されかつ開口が貫通開口である場合に、ゴング1の振動中にゴング1のばねブレード1.1の長手方向軸線に対して中立となるという利点を有する。したがって、これら開口は、ゴングの振動中にゴングの長手方向軸線のコースを最小となるように変化させるだけである。これら開口1.2を、ゴング1の振動中のゴング1の作動平面に対してまた0°または90°以外の角度で形成することが考えられるが、例えば30°または45°の角度でも、所望の振動挙動を得ることが可能ならば、開口1.2を30°または45°の角度で形成することも考えられる。
【0032】
図3aおよび図3bには、図2aおよび図2bと同様に上方からの斜視図によって本発明に基づく打撃ワーク機構のためのゴングの2つの他の実施形態が概略的にかつ例示的に図示される。図3aに図示されるゴング1は、ばねブレード1.1の本体において開口1.2を備える。この開口は、ゴング1のばねブレード1.1を形成する材料以外の材料1.3で充填される。図3bに一例として示されるゴング1は、複数の開口1.2を備えており、そのうちの1つが、ゴング1のばねブレード1.1を形成する材料とは異なる材料1.3で充填される。開口の充填材1.3は、2つの他のパラメータによって、つまり充填材料の剛性およびその質量密度によって、ゴング1の剛性および重量に対して局所的にかつ正確にさらに影響与えることができる。したがって本発明に基づくゴング1の振動挙動は、その幾何学的形状およびその物理的特性の両方によって、つまり本体の材料と充填材料1.3とによって、パラメータ化できる。
【0033】
加えて、ゴング1のばねブレード1.1の本体に形成される開口1.2のそれぞれは、図3aおよび図3bに図示されるようにゴング1の外面に対して完全にかつ均質となるように充填される代わりに、ゴング1の本体の材料以外の材料1.3の追加によって部分的にのみ充填することも可能である。また材料1.3の追加は、開口1.2によって形成されるキャビティの容積をわずかに超えてはみ出してもよい。開口を充填するために使用される前記他の材料1.3は、好ましくは金、銀、プラチナまたはそのヤング率および密度が調整可能な金属合金である。開口1.2への充填材料1.3の追加は、例えば従来のアセンブリによって、あるいは材料膨張法または他の同等の材料配置法によって実施可能である。概して本明細書において、充填材料の配置およびその性質に関し、必ずしもその組み合わせについて図示または開示をしなくても実施可能であることを留意されたい。
【0034】
図4aから図4cには、図2a、図2b、図3aおよび図3bと同様に上方からの斜視図によって、本発明に基づく打撃ワーク機構のためのゴングの複数のさらなる実施形態が概略的にかつ例示的に図示される。図4aに基づく実施形態のゴング1は、ゴング1のばねブレード1.1の本体における開口1.2と、ゴング1のばねブレード1.1に取り付けられた慣性ブロック1.4とを備える。図4bに図示される実施形態のゴング1は、開口と、ゴング1に取り付けられた異なる質量を有する2つの慣性ブロック1.4とを備える。図4cに基づく実施形態のゴング1は、そのうちの1つが本体の材料以外の材料1.3で充填された複数の開口1.2と、ゴング1のばねブレード1.1に取り付けられた慣性ブロック1.4とを備える。また、慣性ブロック1.4の位置およびサイズは必要に応じて選択される。概して、本発明に基づくゴング1がゴング1のばねブレード1.1の本体に形成された少なくとも1つの開口1.2を備え、開口1.2が本体の材料以外の材料1.3で充填されてもよく、また本発明に基づくゴング1がゴング1のばねブレード1.1に取り付けられた少なくとも1つの慣性ブロック1.4も備え得ることを当業者は理解するだろう。
【0035】
開口1.2は、図5に概略的に示されるように切断レーザ6を用いて、ゴング1のばねブレード1.1の外面から加工されることが好ましい。なお開口1.2は、放電加工、マイクロマシニング、ウォータージェット、あるいは他の同等の材料除去処理によって形成されてもよい。ゴング1のばねブレード1.1の表面上に位置する材料からなる特別な構造物を形成するために、アブレーションレーザまた他の適切な方法を使用することも考えられる。概して、開口1.2は、キャビティを形成することによってゴング1のばねブレード1.1の外面から加工される。キャビティの深さは、ゴング1のばねブレード1.1の長手方向軸線に実質的に直交するよう方向付けられ、かつキャビティは当該長手方向軸線に沿って延在する。
【0036】
ゴング1のばねブレード1.1に関し、その断面は実質的に円形、楕円形、矩形あるいは多角形であってもよい。一般的に、製造を簡単にするために、ゴング1のばねブレード1.1としてワイヤが選択される。このワイヤの直径は通常は0.2mmから1.2mmの範囲にあり、好ましくは0.4mmから0.8mmの範囲にある。また上記のように、時計の打撃ワーク機構の従来の構造体において、ゴング1は慣習的に少なくとも部分的に円弧の形態を有しかつ巻線状のワイヤから構成される。ゴング1のばねブレード1.1は、不完全な円形を形成するだけでもよいが、360°以上の円弧を形成してもよい。また上記のように、ゴング1のばねブレード1.1は、直線あるいは他の特定の形状を有することも可能であり、さらに、ばねブレードに形成される開口1.2は、ばねブレードの形状に関わらずばねブレード1.1の外面から加工できる。ゴング1のばねブレード1.1の本体の材料についても同様の所見が言える。なお、ゴング1は例えば焼戻しされたスチールなどの金属材料から製造されることが好ましい。
【0037】
最後に、本発明が、本発明に基づくゴング1を備えるいかなる時計にも関連することを留意すべきである。特にメカニカル時計であり、具体的には打撃ワーク、アラーム、警報、および/または繰り返し機構あるいは他のゴングに必要な機構を備える腕時計であってもよい。
【0038】
上述の本発明に基づくゴングの構造の詳細な説明を考慮すると、本発明に基づくゴングが、従来のものに比べてより簡単でありかつ単純であり、さらに多数の変形例において提供できかつさまざまな用途において使用できることは当業者には明確であろう。上記特徴部を有する打撃ワーク機構のためのゴングが顕著な次の利点、すなわち、振動時間と音量との比率を最良にするために、つまり人間の知覚に基づいて音を豊かに美しくするために、そうしたゴングの形状および材料組成を局所的にかつ正確に変更でき、それによりゴングの剛性に影響を与え、ゴングのチューニング中に、作動に従うゴングの振動挙動を決定することを可能にするという利点を有することは明らかだ。本発明に基づくゴングは、ゴングの形状の変更と(必要な場合には)ゴングを形成する材料の変更との両方によって要求に適応できるため、ゴングによって発生される音の精度のレベルが増大するよう影響を与えることができ、特に音色、振動数成分、さらに音の発生期間とに影響を与えることができる。そうしたゴングは、その中にゴングが組み込まれる時計の他の部品とともに、特に打撃ワーク機構およびムーブメントの載置部とともに、従来の様式で協働でき、そのため上記機構は、特別な調整を必要とせずに、既存の時計に容易に組み込むことができる。特に本発明に基づくゴングは、対応する従来のゴングと同じサイズのものからなるため、従来の打撃ワーク機構の構造の場合、ゴングの断面における直径またはゴングの円弧の直径において、材料の追加が開口に形成されたキャビティの容積を超えずかつ慣性ブロックが使用されないならば、ゴングの外側寸法の変更を要求しない。この利点は、ゴングの物理的なサイズの増加が、ゴングの振動中の動作に起因してウォッチケース内に占める容積をさらに大きな増加を結果的にもたらし得る点において非常に関心をひくものである。加えて、ゴングの相対的に単純な構造により、これら利点は、従来の同様のゴングと比較してその占める容積が低減されることによって得られ、かつゴングによって発生する音に関する所望の品質と製造工程の本来の産業的な実現可能性との両方を提供できるゴングを製造するための利用可能な方法を含むことによっても得られる。本発明に基づくゴングのさらなる利点が、打撃ワーク、繰り返しウォッチ、アラーム、警報、振り子、計時機構などを有するすべてのタイプの時計に適用可能であるという事実により成ることに留意されたい。同様に本発明は、打撃によって、特にハンマーの打撃によって作動するよう構成されたゴングに限定されず、例えばメカニカルミュージックボックスに使用されるばねブレードのための、摩擦によって作動するばねブレードのためにも使用できる。
【符号の説明】
【0039】
1 ゴング
1.1 ばねブレード
1.2 開口
1.3 材料
1.4 慣性ブロック
3 ブロム止め金具
4 プレート
5 プッシュピース
6 切断レーザ
図1a
図1b
図2a
図2b
図3a
図3b
図4a
図4b
図4c
図5