特許第6247072号(P6247072)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6247072
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】メカニカルシール
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20171204BHJP
【FI】
   F16J15/34 H
   F16J15/34 K
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-223425(P2013-223425)
(22)【出願日】2013年10月28日
(65)【公開番号】特開2015-86889(P2015-86889A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福本 崇人
(72)【発明者】
【氏名】木久山 貴規
【審査官】 杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭62−028968(JP,U)
【文献】 特開2002−147617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸とケーシングとの間に形成される環状空間に存在する流体が外部へ漏れるのを防止するためのメカニカルシールであって、
環状の第一シール面を軸方向の一方側に有する第一密封環と、
前記第一シール面に摺接する環状の第二シール面を有する第二密封環と、
前記第一密封環に沿って周方向に複数設けられ当該第一密封環に軸方向力を与えて前記第一シール面を前記第二シール面に対して押し付ける複数の弾性部材と、
を備え、
前記複数の弾性部材は、周方向に連続して並ぶ所定数の前記弾性部材により構成されるグループに複数区分され、前記第一密封環には、前記グループに属する前記弾性部材の軸方向力によって生じるひずみが大きくなる第一領域と、前記第一領域よりもひずみが小さくなる第二領域とが、周方向に沿って交互に存在し
周方向で隣り合う前記グループの間には、前記弾性部材が存在しない不存在区間が介在することにより、前記第一領域と前記第二領域とが、前記第一密封環において周方向に沿って交互に存在し、
前記各グループに属する前記弾性部材の周方向ピッチは、前記複数の弾性部材を周方向に沿って等間隔で配置したと仮定した場合における当該弾性部材の周方向ピッチよりも小さく設定されていることを特徴とするメカニカルシール。
【請求項2】
前記各グループに含まれる前記弾性部材の数は同じである請求項に記載のメカニカルシール。
【請求項3】
前記複数の弾性部材は、2以上4以下のグループに区分されている請求項1又は2に記載のメカニカルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカニカルシールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
軸とケーシングとの間に形成される環状空間に存在する流体が外部へ漏れるのを防止するためのメカニカルシールとして、例えば図10に示すものがある。このメカニカルシール90は、ケーシング91に対して軸92が回転する機器に適用されており、軸92と一体回転する回転密封環93と、ケーシング91側に取り付けられた静止密封環95と、静止密封環95に対して回転密封環93を押し付けるためのコイルスプリング(ばね)97とを備えている。回転密封環93は、軸方向の一方側にシール面94を有しており、静止密封環95は、このシール面94に対面するシール面96を有している。
【0003】
軸92の外周側には環状の取付部材98が外嵌し固定されており、コイルスプリング97はこの取付部材98と回転密封環93との間に圧縮された状態で設けられている。
図11は、コイルスプリング97の配置を説明する説明図であり、メカニカルシールを軸方向から見た場合の図である。この図11に示すように、従来のメカニカルシールでは、コイルスプリング97は周方向に沿って等間隔で配置されており、これら全てのばね97の特性(ばね定数)は同じとされている。
これにより、複数のコイルスプリング97が協働して、周方向に均等な力で回転密封環93(図10参照)を静止密封環95に向かって押し付けることができ、回転密封環93のシール面94と静止密封環95のシール面96との間に生じる面圧は、周方向に変化せず均等となる。
【0004】
そして、軸92とケーシング91との間の機内領域Aに存在する密封対象となる流体の一部が、これらシール面94,96間に浸入することができ、この流体によってシール面94,96間に潤滑膜が形成され、メカニカルシール90の潤滑性能を確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−147617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記のとおり、従来のメカニカルシール90では、コイルスプリング97を周方向に沿って等間隔に配置することで、静止密封環95に対して回転密封環93を軸方向に向かって直線的に押すことができ、また、軸92の振動(振れ)やケーシング91と軸92との直角度(平行度)のずれ等によって発生する回転密封環93と静止密封環95との相対的な位置変動を吸収することができる。また、周方向に沿って等間隔に配置した複数のコイルスプリング97が、周方向に均等となる力で回転密封環93を静止密封環95に対して押し付けることで、これら密封環93,95に偏った変形が発生しにくくなり、シール面94,96間の精度を維持してシール性能を確保するようにしている。
【0007】
しかし、このようなメカニカルシール90を、例えば、高温、高圧、高周速等の高負荷条件で使用する場合、シール面94,96間に介在すべき前記潤滑膜が気化しやすく潤滑不足となる場合がある。この場合、このメカニカルシール90を長時間使用しているとシール面94,96に異常摩耗や面荒れ等が発生し、機内領域Aの流体が機外領域Bへ漏れやすくなってしまうという問題点がある。特にメカニカルシール90に対する冷却性能が低い場合、前記潤滑膜の気化がより一層生じやすく、多くの流体が漏れるおそれがある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、シール面間の潤滑膜不良によって流体が漏れるのを抑制することが可能となるメカニカルシールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明は、軸とケーシングとの間に形成される環状空間に存在する流体が外部へ漏れるのを防止するためのメカニカルシールであって、環状の第一シール面を軸方向の一方側に有する第一密封環と、前記第一シール面に摺接する環状の第二シール面を有する第二密封環と、前記第一密封環に沿って周方向に複数設けられ当該第一密封環に軸方向力を与えて前記第一シール面を前記第二シール面に対して押し付ける複数の弾性部材と、を備え、前記複数の弾性部材は、周方向に連続して並ぶ所定数の前記弾性部材により構成されるグループに複数区分され、前記第一密封環には、当該グループに属する前記弾性部材の軸方向力によって生じるひずみが大きくなる第一領域と、前記第一領域よりもひずみが小さくなる第二領域とが、周方向に沿って交互に存在していることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、使用状態の第一密封環において、周方向に連続して並ぶ所定数の弾性部材の軸方向力によって生じるひずみが大きくなる第一領域と、この第一領域よりもひずみが小さくなる第二領域とが、周方向に沿って交互に存在していることから、第一密封環の第一シール面に微小な凹凸が形成され(第一シール面が適度に波打ち)、第一密封環の第一シール面と第二密封環の第二シール面との間に僅かな隙間が部分的に生じ、その隙間に流体が浸入することで潤滑膜が形成されやすくなり、潤滑性能が向上する。このため、シール面に異常摩耗や面荒れ等が発生しにくくなり、シール面間における流体の漏れの発生を抑制することが可能となる。
【0011】
(2)また、前記(1)のメカニカルシールにおいて、周方向で隣り合う前記グループの間には、前記弾性部材が存在しない不存在区間が介在することにより、前記第一領域と前記第二領域とが、前記第一密封環において周方向に沿って交互に存在しているのが好ましい。
この場合、各グループに属する弾性部材の軸方向力によって第一密封環の第一領域でひずみを大きくさせ、弾性部材が存在していない不存在区間によって第一密封環の第二領域でひずみを小さくさせる(ひずみをほとんど生じさせないようにする)ことができる。
(3)更に、前記(2)のメカニカルシールにおいて、前記各グループに属する前記弾性部材の周方向ピッチは、前記複数の弾性部材を周方向に沿って等間隔で配置したと仮定した場合における当該弾性部材の周方向ピッチよりも小さく設定されているのが好ましい。
この場合、各グループにおいて弾性部材を集中して配置することができ、弾性部材が存在するグループの区間と、弾性部材が存在しない不存在区間とを明確に区分けすることができる。つまり、第一領域と第二領域とを明確にして前記潤滑膜が形成されやすい構成をより一層効果的に得ることが可能となる。
【0012】
(4)また、前記(1)のメカニカルシールにおいて、前記複数の弾性部材は周方向に沿って等間隔で配置されており、前記所定数の弾性部材による総軸方向力が強い前記グループと、前記所定数の弾性部材による総軸方向力が弱い前記グループと、が周方向に沿って交互に配置されていることにより、前記第一領域と前記第二領域とが、前記第一密封環において周方向に沿って交互に存在しているのが好ましい。
この場合、総軸方向力が強いグループに属する弾性部材によって第一密封環の第一領域でひずみを大きくさせ、総軸方向力が弱いグループに属する弾性部材によって第一密封環の第二領域でひずみを小さくさせることができる。
【0013】
(5)また、前記の各メカニカルシールによれば、複数の弾性部材によって生じる第二密封環(第二シール面)に対する第一密封環(第一シール面)の押し付け力は周方向に不均一となる。しかし、前記第一領域と前記第二領域とが、第一密封環において周方向に沿って交互に存在していると共に、前記各グループに含まれる前記弾性部材の数は同じであることから、全体として力のバランスがとれたメカニカルシールが得られる。
【0014】
(6)また、前記複数の弾性部材は、2以上4以下のグループに区分されているのが好ましい。グループの数が4を超えると、ひずみが大きくなる第一領域の影響が、ひずみが小さくなるべき第二領域へ及んで第二領域でのひずみが大きくなる傾向にあり、第一密封環の第一シール面に微小な凹凸が形成されにくく(第一シール面が波打ち形状となりにくく)、第一密封環の第一シール面と第二密封環の第二シール面との間に、効果的な隙間(部分隙間)が生じ難くなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、第一密封環の第一シール面と第二密封環の第二シール面との間に僅かな隙間が部分的に生じ、その隙間に流体が浸入することで潤滑膜が形成されやすくなり、潤滑性能が向上する。このため、シール面に異常摩耗や面荒れ等が発生しにくくなり、シール面間における流体の漏れの発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のメカニカルシールを備えている軸封装置を示す縦断面図である。
図2】コイルスプリングの配置(その1)を説明する説明図であり、メカニカルシールを軸方向から見た場合の図である。
図3】第一密封環を軸方向から見た概略図である。
図4】コイルスプリングの配置(その1の変形例)を説明する説明図であり、メカニカルシールを軸方向から見た場合の図である。
図5図4の場合の第一密封環を軸方向から見た概略図である。
図6】コイルスプリングの配置(その1の別の変形例)を説明する説明図であり、メカニカルシールを軸方向から見た場合の図である。
図7図6の場合の第一密封環を軸方向から見た概略図である。
図8】コイルスプリングの配置(その2)を説明する説明図であり、メカニカルシールを軸方向から見た場合の図である。
図9図8の場合の第一密封環を軸方向から見た概略図である。
図10】従来のメカニカルシールを説明するための縦断面図である。
図11】従来のメカニカルシールが有するコイルスプリングの配置を説明する説明図であり、メカニカルシールを軸方向から見た場合の図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
〔全体構成について〕
図1は、本発明のメカニカルシール7を備えている軸封装置1を示す縦断面図である。本実施形態では、軸封装置1は、ケーシング3に対して軸2が回転する機器に適用されている。このような機器としては、例えば、ポンプ、撹拌機、コンプレッサ、ブロワ、ロータリジョイント等がある。
そして、この軸封装置1が備えているメカニカルシール7は、ケーシング3と、このケーシング3に対して回転可能に支持されている軸2との間に形成されている環状空間(以下、機内領域Aという。)に存在する流体が外部(機外領域B)へ漏れるのを防止するためのものである。
なお、本発明において、軸方向とは、軸封装置1の中心線に沿った方向(この中心線に平行な方向も含む)であり、ケーシング3、軸2、及びメカニカルシール7それぞれの中心線は、軸封装置1の中心線と一致するようにして構成されている。
【0018】
図1に示す軸封装置1は、更に、フランジ4、スリーブ5、及び取付部材6を備えている。フランジ4は、環状の部材であり、ケーシング3に図外のボルトによって固定されている。フランジ4は、ケーシング3に固定される円筒部42と、この円筒部42から径方向内側へ向かって突出している外円環部43とを有している。
円筒部42の軸方向側面には円周溝40が形成されており、この円周溝40にOリング(シール部材)41が設けられている。このOリング41によって、機内領域Aの流体が、ケーシング3とフランジ4との間から漏れるのを防いでいる。
外円環部43の内周面には円周溝44が形成されており、この円周溝44にOリング(シール部材)45が設けられている。このOリング45によって、機内領域Aの流体が、フランジ4と後述する第一密封環11との間から漏れるのを防いでいる。
【0019】
また、円環部43には凹孔46が形成されている。凹孔46は、軸方向を孔の深さ方向とした有底孔であり、周方向に沿って複数形成されている。凹孔46はメカニカルシール7が有するコイルスプリング13の一部を挿入させるための孔である。したがって、凹孔46の数とコイルスプリング13の数とは同一であり、また、コイルスプリング13の配置に併せて凹孔46が形成されている。なお、コイルスプリング13の配置については後に説明する。
【0020】
スリーブ5は、軸2に外嵌する円筒部51と、この円筒部51から径方向外側に向かって突出している内円環部52とを有している。円筒部51の内周面には円周溝53が形成されており、この円周溝53にOリング(シール部材)54が設けられている。このOリング54によって、機内領域Aの流体が、スリーブ5と軸2との間から漏れるのを防いでいる。また、円筒部51には径方向に貫通したねじ穴57が形成されている。
また、内円環部52には円周溝55が形成されており、この円周溝55にOリング(シール部材)56が設けられている。このOリング56によって、機内領域Aの流体が、スリーブ5と後述する第二密封環12との間から漏れるのを防いでいる。
【0021】
取付部材6は、スリーブ5の円筒部51に外嵌する環状の部材からなる。取付部材6の一部には径方向に貫通するねじ穴61が形成されている。このねじ穴61とスリーブ5のねじ穴57とに共通する止めねじ62を螺合させ、更に、この止めねじ62を締め付けることによって、軸2に対するスリーブ5の位置決め及び固定が行われる。
【0022】
〔メカニカルシール7について〕
メカニカルシール7は、第一密封環11と、第二密封環12と、弾性部材としてコイルスプリング13とを有している。
第一密封環11は、環状の部材からなる。第一密封環11はケーシング3及びフランジ4と共に静止状態にある静止側部材である。フランジ4に対して第一密封環11は、図外の止め部材によって周方向の移動が拘束されているが、軸方向の移動は許容された状態として設けられている。ただし、軸方向の移動は第二密封環12によって制限される。
第一密封環11は、円筒部51に隙間を有して外嵌状となる短筒部15と、この短筒部15から径方向外側へ突出している環状部16とを有している。この環状部16の軸方向に向く一側面に第一シール面21が形成されている。
【0023】
第二密封環12は、環状の部材からなる。第二密封環12は軸2及びスリーブ5と共に回転する回転側部材である。スリーブ5に対して第二密封環12は、図外の止め部材によって周方向の移動が拘束されているが、軸方向の移動は許容された状態として設けられている。ただし、軸方向の移動はOリング56を介して内円環部52によって制限される。第二密封環12の外周側には凹溝17が形成されており、この凹溝17にOリング56が接触する。そして、第二密封環12の軸方向に向く一側面に第二シール面22が形成されている。第二シール面22と前記第一シール面21とは対面し、これらの間において機内領域Aの流体が漏れるのを防止する。
【0024】
コイルスプリング13は、第一密封環11(環状部16)とフランジ4(外円環部43)との間に、圧縮された状態で介在している。このため、コイルスプリング13の弾性復元力によって、第一密封環11は第二密封環12側へ向かって軸方向に押され、第一シール面21と第二シール面22との間に軸方向の押し付け力が作用する。つまり、コイルスプリング13は、第一シール面21と第二シール面22との間を狭めることができる。コイルスプリング13は周方向に沿って複数設けられており、例えばその数を12個とすることができる。なお、コイルスプリング13の数は、メカニカルシール7の径寸法等に応じて変更自在である。
【0025】
以上より、本実施形態のメカニカルシール7は、環状の第一シール面21を軸方向の一方側に有する第一密封環11と、この第一シール面21に摺接する環状の第二シール面22を有する第二密封環12と、複数のコイルスプリング13とを備えている。コイルスプリング13は、第一密封環11に沿って周方向に複数(12個)設けられており、これらコイルスプリング13によって、第一密封環11に軸方向力を与えて第一シール面21を第二シール面22に対して押し付けることができる。
これにより、軸2が回転すると、回転方向について静止状態にある第一密封環11に対して、当該軸2と共に第二密封環12は回転し、第一シール面21と第二シール面22とが摺接し、これらシール面21,22の間から機内領域Aの流体が機外領域Bへ漏れるのを防ぐことができる。なお、この際、第一シール面21と第二シール面22との間には、前記流体が浸入することができ、この流体による潤滑膜が形成される。この潤滑膜によってシール面21,22間の摺接状態を良好とし、シール面21,22の異常摩耗や面荒れ等の不具合の発生を抑制することができる。
【0026】
〔コイルスプリング13の配置(その1)について〕
図2は、コイルスプリング13の配置を説明する説明図であり、メカニカルシール7を軸方向から見た場合の図である。図2に示す実施形態では、12個のコイルスプリング13が設けられており、これらコイルスプリング13は同一円上に配置されている。また、これらコイルスプリング13は、全て同じ構成であり、全て同じ素材からなり、全て同じ弾性特性(ばね定数)を有している。
【0027】
12個のコイルスプリング13は、複数のグループに分けられている。本実施形態では、3つのグループG1,G2,G3に分けられており、各グループには4個のコイルスプリング13が含まれる。これらグループG1,G2,G3は、メカニカルシール7の中心線(密封環11,12の中心線)上の一点Cを中心として、周方向に等間隔で配置されている。つまり、グループG1,G2,G3は、120度毎に配置されている。この120度毎の区間は、グループG1,G2,G3それぞれに含まれる4個のコイルスプリング13が存在している存在区間Mであるのに対して、周方向で隣り合うグループ(存在区間M)の間には、コイルスプリング13が存在していない不存在区間Nが介在している。つまり、グループG1とグループG2との間に不存在区間Nが介在していて、グループG2とグループG3との間に不存在区間Nが介在していて、グループG3とグループG1との間に不存在区間Nが介在している。
【0028】
図2の場合、不存在区間Nの周方向範囲は、一つのグループ(G1)に属する端のコイルスプリング13から、このコイルスプリング13に最も近い他のグループ(G2)に属するコイルスプリング13との間の範囲であり、この周方向範囲は、各グループに含まれる4個のコイルスプリング13が設けられている存在区間Mの周方向範囲よりも広くなっている。つまり、前記一点Cを中心とした場合に、不存在区間Nに対応する角度θnは、グループG1,G2,G3それぞれの存在区間Mに対応する角度θmよりも大きくなっている(θn>θm)。なお、グループG1,G2,G3それぞれにおけるコイルスプリング13の配置は、同じであり、角度θmは全て同じ値である。
【0029】
グループG1,G2,G3それぞれに含まれる4個のコイルスプリング13は、図3に示す第一密封環11の一部となる第一領域K1に接触して軸方向に向かって直接押すことができる。これに対して、不存在区間Nに対応する第一密封環11の他部となる第二領域K2は、コイルスプリング13が接触しておらず軸方向に向かって直接押されることがない。なお、図3は、第一密封環11を軸方向から見た概略図であり、この図3において、第一領域K1はハッチングが付されている領域であり、それ以外の領域が第二領域K2である。
そして、第一領域K1では、4個のコイルスプリング13の軸方向力を合わせた総軸方向力を受けることによって、比較的大きなひずみが発生する。すなわち、第一シール面21が徐々に凸形状に移行する。これに対して、第二領域K2では、コイルスプリング13の軸方向力を直接受けないため、ひずみは(ほとんど)発生しない。すなわち、第一シール面21の形状変化が(ほとんど)生じない。ただし、第一領域K1の第一シール面21が凸形状に移行することに伴って、相対的に、第二領域K2の第一シール面21は徐々に凹形状に移行する。
【0030】
コイルスプリング13の周方向ピッチについて説明する。
従来のメカニカルシールでは、図11に示すようにコイルスプリング97は周方向に沿って等間隔で配置されている。この従来例の場合のコイルスプリング97の周方向ピッチをP0としている。
これに対して、本実施形態のメカニカルシール7では、図2に示すように、各グループに属する4個のコイルスプリング13は周方向に沿って等間隔で配置されており、各グループに属する4個のコイルスプリング13の周方向ピッチP1は一定であるが、12個のコイルスプリング13全体で見ると不等間隔となっている。
そして、本実施形態では、各グループに属するコイルスプリング13の周方向ピッチP1(図2参照)は、コイルスプリング97(図11参照)を全て周方向に沿って等間隔で配置したと仮定した場合における当該コイルスプリング97の周方向ピッチP0よりも小さく設定されている。つまり、P1<P0となっている。
【0031】
以上のように、本実施形態では、周方向に連続して並ぶ4個のコイルスプリング13により一つのグループが構成されており、全体で12個のコイルスプリング13は3つのグループG1,G2,G3に区分されている。そして、図3に示すように、第一密封環11において、第一領域K1と第二領域K2とが周方向に沿って交互に存在している。このうち、第一領域K1は、各グループに属するコイルスプリング13の軸方向力(総軸方向力)によって第一密封環11に生じるひずみが大きくなる領域である。これに対して、第二領域K2は、第一領域K1よりもひずみが小さくなる領域(ひずみがほとんと発生しない領域)である。
【0032】
特に本実施形態では、周方向で隣り合うグループの間には、コイルスプリング13が存在しない不存在区間Nが介在していることによって、第一領域K1と第二領域K2とが周方向に沿って交互に存在する。このように、各グループに属するコイルスプリング13の軸方向力(総軸方向力)によって第一密封環11の第一領域K1でひずみを大きくさせ、コイルスプリング13が存在していない不存在区間Nによって第一密封環11の第二領域K2でひずみを小さくさせる(ひずみをほとんど生じさせないようにする)ことができる。
【0033】
このメカニカルシール7によれば、前記第一領域K1と前記第二領域K2とが、第一密封環11において周方向に沿って交互に存在していることから、使用状態において、第一密封環11の第一シール面21に微小な凹凸が形成され(第一シール面21が適度に波打ち)、第一密封環11の第一シール面21と第二密封環12の第二シール面22との間に僅かな隙間が部分的に生じることとなる。なお、この僅かな隙間は、第二領域K2に対応する部分において生じる。
そして、この隙間に、機内領域Aに存在している流体の極一部が浸入することができ、この流体によってシール面21,22間に潤滑膜が形成されやすくなって、潤滑性能が向上する。このため、シール面21,22に異常摩耗や面荒れ等が発生しにくくなり、シール面21,22間における流体の漏れの発生を抑制することが可能となる。
【0034】
特に、このようなメカニカルシール7を、高温、高圧、高周速等の高負荷条件で使用する場合、従来では、シール面間に介在すべき潤滑膜が気化しやすく潤滑不足となり、これが原因となって、長時間使用しているとシール面に異常摩耗や面荒れ等が発生し、機内領域Aの流体が機外領域Bへ漏れやすくなってしまうという不具合がある。特にメカニカルシール7に対する冷却性能が低い場合、前記潤滑膜の気化がより一層生じやすく、多くの流体が漏れるおそれがある。しかし、本実施形態に係るメカニカルシール7によれば、流体によってシール面21,22に潤滑膜が形成されやすく、このような不具合の発生を抑制することができる。
【0035】
更に、本実施形態では、各グループに属するコイルスプリング13の周方向ピッチP1(図2参照)は、コイルスプリング97(図11参照)を全て周方向に沿って等間隔で配置したと仮定した場合における当該コイルスプリング97の周方向ピッチP0よりも小さく設定されている(P1<P0)。このため、本実施形態では、各グループにおいてコイルスプリング13を集中して配置することができ、コイルスプリング13が存在するグループ(存在区間M)と、コイルスプリング13が存在しない不存在区間Nとを明確に区分けすることができる。このため、第一領域K1と第二領域K2とを明確にすることができ、前記潤滑膜が形成されやすい構成をより一層効果的に得ることが可能となる。
【0036】
なお、図2に示す実施形態では、一つのグループに含まれるコイルスプリング13の数を4個としたが、一つのグループに含まれるコイルスプリング13の数は、2個以上の所定数であればよく、この所定数は、コイルスプリング13の全数の1/Y(ただし、Yは2以上の整数である)とすればよい。図2の場合、全数が12個であるのに対して、Y=3である。つまり、Yはグループ数となる。
また、グループの数は変更自在であり、一つのグループに含まれるコイルスプリング13の数もグループ数に応じて変更される。コイルスプリング13の全数をX個とし、区分するグループの数をYとすると、各グループに含まれるコイルスプリング13の数はX/Yとなる。
【0037】
例えば、メカニカルシール7の変形例として、図4に示すように、コイルスプリング13の全数は、図2の場合と同じ12個であるが、グループの数を2つとしている。この場合、各グループに含まれるコイルスプリング13の数は6個となる。そして、2つのグループG1,G2は、メカニカルシール7の中心線(密封環11,12の中心線)上の一点Cを中心として、周方向に等間隔で配置されている。
【0038】
そして、この図4に示す形態においても、図5に示すように、第一密封環11において、各グループに属するコイルスプリング13の軸方向力(総軸方向力)によって生じるひずみが大きくなる第一領域K1と、この第一領域K1よりもひずみが小さくなる(ひずみがほとんど発生しない)第二領域K2とが、周方向に沿って交互に存在する構成となる。
【0039】
更に、別の変形例として、図6に示すように、コイルスプリング13の全数は、図2の場合と同じ12個であるが、グループの数を4つとしている。この場合、各グループに含まれるコイルスプリング13の数は3個となる。そして、4つのグループG1,G2,G3,G4は、前記一点Cを中心として、周方向に等間隔で配置されている。
【0040】
そして、この図6に示す形態においても、図7に示すように、第一密封環11において、各グループに属するコイルスプリング13の軸方向力(総軸方向力)によって生じるひずみが大きくなる第一領域K1と、この第一領域K1よりもひずみが小さくなる(ひずみがほとんど発生しない)第二領域K2とが、周方向に沿って交互に存在する構成となる。
【0041】
また、図4に示す形態、及び図6に示す形態それぞれにおいても、周方向で隣り合うグループの間には、コイルスプリング13が存在しない不存在区間Nが介在していることにより、第一領域K1と第二領域K2とが、第一密封環11において周方向に沿って交互に存在する。
また、各グループに属するコイルスプリング13の周方向ピッチP1は、図11に示すようにコイルスプリング97を全て周方向に沿って等間隔で配置したと仮定した場合における当該コイルスプリング97の周方向ピッチP0よりも小さく設定されている(P1<P0)。
【0042】
更に、図2図4、及び図6に示す実施形態それぞれにおいて、12個のコイルスプリング13によって生じる第二密封環12に対する第一密封環11の押し付け力は、周方向に不均一となる。このため、全体として、第一密封環11を第二密封環12に対して押す力のバランスが偏って、第一密封環11を第二密封環12に対して軸方向に沿って直線的に押すことができなくなるようにも考えられる。
しかし、前記各実施形態では、第一領域K1と第二領域K2とが、第一密封環11において周方向に沿って交互に存在しておりかつ複数の第一領域K1及び複数の第二領域K2の周方向範囲が各々同一であると共に、各グループに属するコイルスプリング13による軸方向力の合計(総軸方向力)を、全てのグループで同じとなるように構成されていることから、全体として前記力のバランスがとれたメカニカルシール7が得られる。つまり、第一領域K1と第二領域K2とが交互に存在していると共に、各グループに含まれるコイルスプリング13の数は同じとされ、コイルスプリング13は全て同じ弾性特性(ばね定数)を有している。例えば、図2の場合、一つのグループに含まれるコイルスプリング13の数は、4個で統一されている。
【0043】
このため、一つのグループに属するコイルスプリング13による総軸方向力が、他のグループに属するコイルスプリング13による総軸方向力と比べて、極端に大きくなったり小さくなったりするのを防ぐことができ、全体として力のバランスがとれたメカニカルシール7が得られる。この結果、12個のコイルスプリング13による第二密封環12に対する第一密封環11の押し付け力が周方向に不均一となっていても、これらコイルスプリング13は、第二密封環12に対して第一密封環11を軸方向に沿って直線的に押すことが可能となる。さらに、軸2の振動(振れ)やケーシング3と軸2との直角度(平行度)のずれ等によって発生する第一密封環11と第二密封環12との相対的な位置変動を吸収することができる。
【0044】
また、図2図4、及び図6の実施形態に示すように、12個のコイルスプリング13は、2以上4以下のグループに区分されているが好ましい。これは、グループの数が4を超えると、ひずみが大きくなる第一領域K1の影響が、ひずみが小さくなるべき第二領域K2へ及んで、第二領域K2におけるひずみが大きくなる傾向にあるためである。この場合、第一密封環11の第一シール面21に微小な凹凸が形成されにくく(第一シール面21が波打ち形状となりにくく)、第一密封環11の第一シール面21と第二密封環12の第二シール面22との間に、効果的な隙間(部分隙間)が生じ難くなる。これに対して、前記各実施形態のように、2以上4以下のグループに区分されていることで、第一領域K1と第二領域K2とが明確になり、シール面21,22間に部分隙間を形成しやすくなる。
【0045】
〔コイルスプリング13の配置(その2)について〕
図8は、コイルスプリング13の他の配置を説明する説明図であり、メカニカルシール7を軸方向から見た場合の図である。図8に示す実施形態では、12個のコイルスプリング13が設けられており、これらコイルスプリング13は同一円上に配置されており、さらに、周方向に沿って等間隔で配置されている。つまりコイルスプリング13の周方向ピッチPは一定である。しかし、これらコイルスプリング13には、弾性特性(ばね特性)が異なる二種類のコイルスプリング13が含まれている。なお、コイルスプリング13の軸方向長さについては全て同じとしている。
【0046】
12個のコイルスプリング13は、複数のグループ(複数でかつ偶数のグループ)に分けられている。本実施形態では、4つのグループG1,G2,G3,G4に分けられており、各グループには3個のコイルスプリング13が含まれる。第一のグループG1に属する3個のコイルスプリング13と、第三のグループG3に属する3個のコイルスプリング13とは、すべて同じ弾性特性(ばね特性)を有している。また、第二のグループG2に属する3個のコイルスプリング13と、第四のグループG3に属する3個のコイルスプリング13とは、すべて同じ弾性特性(ばね特性)を有している。
【0047】
しかし、第一のグループG1に属するコイルスプリング13と、第二のグループG2に属するコイルスプリング13とは、異なる弾性特性(ばね定数)を有しており、第一のグループG1に属する各コイルスプリング13の弾性特性(ばね定数)は、第二のグループG2に属する各コイルスプリング13の弾性特性(ばね定数)よりも大きい。例えば、第一のグループG1に属する各コイルスプリング13の線径は、第二のグループG2に属する各コイルスプリング13の線径よりも大きくなっている。
【0048】
このため、12個全てのコイルスプリング13を、図1に示すように同じ長さに圧縮させた状態で第一密封環11とフランジ4との間に設置した場合、第一のグループG1(第三のグループG3)に属する3個のコイルスプリング13が第一密封環11を押す軸方向力(及びその合計である総軸方向力)は、第二のグループG2(第四のグループG4)に属する3個のコイルスプリング13が第一密封環11を押す軸方向力(及びその合計である総軸方向力)よりも強くなる。
【0049】
このように、本実施形態では、所定数(3個)のコイルスプリング13による総軸方向力が強いグループG1,G3と、所定数(同数である3個)のコイルスプリング13による総軸方向力が弱いグループG2,G4と、が周方向に沿って交互に配置されている。
このため、グループG1,G3それぞれに含まれる3個のコイルスプリング13は、図9に示す第一密封環11の一部となる第一領域K1を、軸方向に向かって強く押す。これに対して、グループG2,G4それぞれに含まれる3個のコイルスプリング13は、図9に示す第一密封環11の他部となる第二領域K2を、第一領域K1の場合よりも、軸方向に向かって弱く押す。
なお、図9は、第一密封環11を軸方向から見た図であり、この図9において、第一領域K1はハッチングが付されている領域であり、それ以外の領域が第二領域K2である。
そして、第一領域K1では、3個のコイルスプリング13による強い軸方向力を合わせた総軸方向力を受けることによって、比較的大きなひずみが発生するのに対して、第二領域K2では、3個のコイルスプリング13による弱い軸方向力を合わせた総軸方向力を受けることによって、第一領域K2の場合よりも、小さなひずみが発生する。すなわち、第一領域K1の第一シール面21の方が第二領域K2の第一シール面21よりも形状変化の度合いが大きく、相対的に、前者が凸形状に移行し、後者が凹形状に移行する。
【0050】
このように、総軸方向力が強いグループG1,G3に属するコイルスプリング13によって第一密封環11の第一領域K1でひずみを大きくさせ、総軸方向力が弱いグループG2,G4に属するコイルスプリング13によって第一密封環11の第二領域K2でひずみを小さくさせることができる。
【0051】
以上のように、本実施形態では、周方向に連続して並ぶ3個のコイルスプリング13により一つのグループが構成されており、全体で12個のコイルスプリング13は4つのグループG1,G2,G3,G4に区分されている。そして、図9に示すように、第一密封環11において、第一領域K1と第二領域K2とが周方向に沿って交互に存在している。このうち、第一領域K1は、グループG1,G3それぞれに属するコイルスプリング13の軸方向力(総軸方向力)によって第一密封環11に生じるひずみが大きくなる領域である。これに対して、第二領域K2は、グループG2,G4それぞれに属するコイルスプリング13の軸方向力(総軸方向力)によって、第一領域K1よりもひずみが小さくなる領域である。つまり、3個のコイルスプリング13による総軸方向力が強いグループG1,G3と、3個のコイルスプリング13による総軸方向力が弱いグループG2,G4とが周方向に沿って交互に配置されていることにより、第一領域K1と第二領域K2とが、第一密封環11において周方向に沿って交互に存在する。
【0052】
このメカニカルシール7によれば、前記第一領域K1と前記第二領域K2とが、第一密封環11において周方向に沿って交互に存在していることから、使用状態において、第一密封環11の第一シール面21に微小な凹凸が形成され(第一シール面21が適度に波打ち)、第一密封環11の第一シール面21と第二密封環12の第二シール面22との間に僅かな隙間が部分的に生じることとなる。なお、この僅かな隙間は、第二領域K2に対応する部分において生じる。
そして、この隙間に、機内領域Aに存在している流体が浸入することができ、この流体によってシール面21,22間に潤滑膜が形成されやすくなって、潤滑性能が向上する。このため、シール面21,22に異常摩耗や面荒れ等が発生しにくくなり、シール面21,22間における流体の漏れの発生を抑制することが可能となる。
【0053】
また、本実施形態では、12個のコイルスプリング13によって生じる第二密封環12に対する第一密封環11の押し付け力は周方向に不均一となる。このため、前記実施形態の場合と同様に、全体として、第一密封環11を第二密封環12に対して押す力のバランスが偏って、第一密封環11を第二密封環12に対して軸方向に沿って直線的に押すことができなくなるようにも考えられる。
しかし、第一領域K1と第二領域K2とが、第一密封環11において周方向に沿って交互に存在しており、かつ、複数の第一領域K1及び複数の第二領域K2の周方向範囲が各々同一であると共に、各グループに含まれるコイルスプリング13の数は同じ(3個)とされている。このため、全体として力のバランスがとれたメカニカルシール7が得られる。この結果、12個のコイルスプリング13による第二密封環12に対する第一密封環11の押し付け力が周方向に不均一となっていても、これらコイルスプリング13は、第二密封環12に対して第一密封環11を軸方向に沿って直線的に押すことが可能となる。さらに、軸2の振動(振れ)やケーシング3と軸2との直角度(平行度)のずれ等によって発生する第一密封環11と第二密封環12との相対的な位置変動を吸収することができる。
【0054】
また、本実施形態においても、12個のコイルスプリング13は、2以上4以下のグループに区分されているが好ましい。これは、グループの数が4を超えると、ひずみが大きくなる第一領域K1の影響が、ひずみが小さくなるべき第二領域K2へ及んで、第二領域K2におけるひずみが大きくなる傾向にあるためである。この場合、第一密封環11の第一シール面21に微小な凹凸が形成されにくく(第一シール面21が波打ち形状となりにくく)、第一密封環11の第一シール面21と第二密封環12の第二シール面22との間に、効果的な隙間(部分隙間)が生じ難くなる。これに対して、前記各実施形態のように、2以上4以下のグループに区分されていることで、第一領域K1と第二領域K2とが明確になり、シール面21,22間に部分隙間を形成しやすくなる。
【0055】
〔各実施形態について〕
前記各実施形態において、第一密封環11、第二密封環12の材質については特に限定されず、従来から用いられている材質を採用可能であるが、少なくとも第一密封環11に関しては、ひずみが比較的生じ易いように、金属材と比べて剛性が低い材料とするのが好ましく、例えば、カーボンや、炭化ケイ素(SC)とするのが好ましい。
【0056】
また、図1に示すように、コイルスプリング13が第一密封環11に接触する接触部8から、シール面21までの軸方向の寸法は小さく設定されているのが好ましい。つまり、環状部16を薄く構成するのが好ましい。これにより、第一密封環11のひずみを効果的に生じさせることができる。
また、複数のコイルスプリング13それぞれの前記接触部8は、同一円上に位置するが、この同一円の直径D2と、環状のシール面21の直径(シール面21の径方向中央点を結ぶ円の直径)D1とを比較すると、直径D2が直径D1よりも大きくなっている(D2>D1)。このため、シール面21が支点となり、コイルスプリング13から第一密封環11が受ける力によって、第一密封環11に曲げモーメントが作用し、これに応じたひずみが発生する。
【0057】
また、メカニカルシール7は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。また、このメカニカルシール7を備えている軸封装置1も他の形態のものであってもよい。
前記各実施形態では、メカニカルシール7が有するコイルスプリング13の数を12個としたが、これに限定されず、例えば12個よりも大きな数であってもよく、12個よりも小さな数であってもよい。
また、軸封装置1が備えているスリーブ5やフランジ4についても、図示した形態に限らず他の構成であってもよい。
【符号の説明】
【0058】
2:軸 3:ケーシング 7:メカニカルシール
11:第一密封環 12:第二密封環 13:コイルスプリング(弾性部材)
21:第一シール面 22:第二シール面 A:環状空間(機内領域)
B:外部(機外領域) G1,G2,G3,G4:グループ
K1:第一領域 K2:第二領域 N:不存在区間
P1:周方向ピッチ P0:周方向ピッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11