特許第6247170号(P6247170)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6247170
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】二酸化炭素貯留用地中構造体
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20171204BHJP
   C04B 7/345 20060101ALI20171204BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20171204BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20171204BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   B01J19/00 A
   C04B7/345
   C04B28/02
   C04B18/14 F
   C04B22/08 A
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-139728(P2014-139728)
(22)【出願日】2014年7月7日
(65)【公開番号】特開2016-16348(P2016-16348A)
(43)【公開日】2016年2月1日
【審査請求日】2017年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】横関 康祐
(72)【発明者】
【氏名】取違 剛
(72)【発明者】
【氏名】向原 敦史
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 一郎
(72)【発明者】
【氏名】及川 隆仁
(72)【発明者】
【氏名】岡川 一義
【審査官】 関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−029737(JP,A)
【文献】 特開2007−204941(JP,A)
【文献】 特開2011−168436(JP,A)
【文献】 特開2004−050167(JP,A)
【文献】 特表2010−502860(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/075071(WO,A1)
【文献】 特開2004−113924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00
C01B 32/55
C04B 7/345
C04B 18/14
C04B 22/08
C04B 28/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不透水層と、
二酸化炭素固定層と、
二酸化炭素漏出防止栓と、からなり、
前記二酸化炭素漏出防止栓は、γC2Sを含有するセメント系硬化体であって、前記不透水層を貫通する空隙を充塞する態様で配置されていて
前記二酸化炭素固定層が地表から50m以上300m未満の深さにある、二酸化炭素貯留用地中構造体。
【請求項2】
前記セメント系硬化体は、セメントと、γC2Sと、を含有してなり、前記セメント100質量部に対して前記γC2Sを10〜85質量部含有する請求項1記載の二酸化炭素貯留用地中構造体。
【請求項3】
前記セメント系硬化体は、更に、製鋼スラグを含有する請求項1又は2に記載の二酸化炭素貯留用地中構造体。
【請求項4】
不透水層と、
二酸化炭素固定層と、
二酸化炭素漏出防止栓と、からなり、
前記二酸化炭素漏出防止栓は、γC2Sを含有するセメント系硬化体であって、前記不透水層を貫通する空隙を充塞する態様で配置されていて、
前記二酸化炭素漏出防止栓は、前記不透水層の表面に沿って水平方向に前記二酸化炭素漏出防止栓の全体を覆うように広がる二酸化炭素漏出防止補助部を更に備える二酸化炭素貯留用地中構造体。
【請求項5】
二酸化炭素の地下貯留方法であって、
地中において、不透水層の直下に存在する二酸化炭素固定層に、不透水層を貫通する貫通井を通じて、二酸化炭素を注入する二酸化炭素注入工程と、
前記二酸化炭素注入工程後に、前記貫通井にγC2Sを含有するセメント系硬化性物質を注入して前記貫通井を埋め戻す貫通井埋め戻し工程と、を備え、
前記セメント系硬化性物質は、前記不透水層内において、前記貫通井を充塞する態様で硬化して二酸化炭素漏出防止栓を形成し、
前記二酸化炭素固定層が地表から50m以上300m未満の深さにある、二酸化炭素の地下貯留方法。
【請求項6】
前記セメント系硬化性物質は、セメントと、γC2Sと、を含有してなり、前記セメント100質量部に対して前記γC2Sを10〜85質量部含有する請求項に記載の二酸化炭素の地下貯留方法。
【請求項7】
前記セメント系硬化性物質は、更に、製鋼スラグを含有する請求項5又は6に記載の二酸化炭素の地下貯留方法。
【請求項8】
前記二酸化炭素注入工程において、前記二酸化炭素をマイクロバブル化して前記二酸化炭素固定層に注入する請求項からのいずれかに記載の二酸化炭素の地下貯留方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に貯留した二酸化炭素の漏出を抑止する二酸化炭素貯留用地中構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、地球温暖化抑止に向けて、二酸化炭素排出量の削減が強く求められるようになっている。大気中への二酸化炭素排出量を削減策の一つとして、排出された二酸化炭素を大気中へ放出せずに、地中へ貯留する各種の方法が検討されている。
【0003】
二酸化炭素を地中へ貯留した場合、注入後に二酸化炭素が地上へ漏出してこないことが望まれる。そのために、二酸化炭素が貯留される地層は、その上層に粘土質等の二酸化炭素の通過しにくい地層からなる不透水層が存在する地層であることが望ましい。
【0004】
二酸化炭素の漏出をより確実に抑止する地下貯留方法として、深度800m以深の帯水層中に、超臨界状態にある二酸化炭素を注入し、更に当該帯水層中の二酸化炭素分圧を注入点の水圧により低く保つことにより二酸化炭素の漏洩抑止を図る二酸化炭素の貯留方法(特許文献1参照)が提案されている。この方法は、貯留効率に優れ大量の二酸化炭素の貯留が可能である。
【0005】
同じく特許文献1においては、二酸化炭素をマイクロバブルとして帯水層に注入し、マイクロバブルの表面張力による自己加圧性、高溶解性、高分散性、低浮上性を利用して、地中の帯水層に貯留する方法も提案されている。この方法によれば深度300〜500m程度の比較的浅い位置にある帯水層に二酸化炭素を貯留することができ、超臨界状態にある二酸化炭素を地中の帯水層に注入する方法よりも、帯水層の深度に関する制約が緩やかとなる。又、上記方法よりも、小規模な設備で実施可能であり低コスト化が期待できる。
【0006】
尚、特許文献2には、地下の岩層内に形成された二酸化炭素貯留層に二酸化炭素注入井を通じて二酸化炭素を注入後に、二酸化炭素注入井にセメント柱で栓をする二酸化炭素の貯留方法も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−119962号公報
【特許文献2】特表2010−502860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、二酸化炭素は、一般に約31℃、7.4MPa以上の高温高圧下で高密度・高流動性の超臨界状態となる。この二酸化炭素の超臨界状態を保持し、安定的に上記方法で地中に貯留するためには、上記の通り、深度800m以深の帯水層に二酸化炭素を貯留する必要がある。又、この方法は、二酸化炭素の圧送ポンプや巨大な溶解槽等、大規模な設備投資が必要であり、コスト高がネックとなり現実の実施が経済面で大きく制限されざるを得ない。
【0009】
一方、二酸化炭素をマイクロバブルとして帯水層に注入する上記方法は、貯留効率に劣り、貯留施設1箇所当たりの貯留可能量は少なくなる。しかも、マイクロバブルの上記物性を生かしたとしても、貯留地層の深度は依然300m以深に限定される。このような深度の限定は、実施コストの大幅な上昇を不可避とするため、より浅い位置での実施が可能な二酸化炭素の地下貯留手段が求められていた。
【0010】
そこで、例えば、二酸化炭素を更に浅い地層内に安定的に貯留するためには、特許文献2に記載のように、二酸化炭素の漏出を遮蔽可能な層の下に二酸化炭素を注入した後に栓をする方法とすることが考えられる。
【0011】
しかし、特許文献2に記載のように単にコンクリート柱等で栓をするというのみでは、十分、且つ、安定的に二酸化炭素の漏出を防止することは、尚、困難である。
【0012】
本発明は上記状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来方法の実施可能範囲よりも浅い場所にある地層において実施可能であり、十分、且つ、安定的に二酸化炭素の地表への漏出を防止することができる二酸化炭素の地中への貯留手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、二酸化炭素を貯留する地層上の不透水層に形成される貫通井を、γCSを含有するセメント硬化体で充塞した二酸化炭素貯留用地中構造体によれば、従来方法よりも、浅い場所にある地層において、十分、且つ、安定的に二酸化炭素の漏出を防止しつつ、二酸化炭素の地中への貯留が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0014】
(1) 不透水層と、二酸化炭素固定層と、二酸化炭素漏出防止栓と、からなり、前記二酸化炭素漏出防止栓は、γCSを含有するセメント系硬化体であって、前記不透水層内を貫通する空隙を充塞する態様で配置されている二酸化炭素貯留用地中構造体。
【0015】
(1)の発明によれば、二酸化炭素漏出防止栓が、不透水層内を貫通する空隙を充塞することによる物理的遮蔽硬化に加えて、γCSの有する二酸化炭素吸着機能が併せて発揮されることにより、二酸化炭素の地表面上への漏出を十分に、且つ、安定的に防止することができる。
【0016】
(2) 前記二酸化炭素固定層が地表から50m以上300m未満の深さにある(1)に記載の二酸化炭素貯留用地中構造体。
【0017】
(2)の発明によれば、従来、二酸化炭素の貯留場所としては不適とされていた深度300m未満の浅い位置にある地層においても、二酸化炭素の貯留を好ましい態様で行なうことができるため、貯留場所の深さの制約からの解放に伴う大幅なコスト削減が可能となる。
【0018】
(3) 前記セメント系硬化体は、セメントと、γCSと、を含有してなり、前記セメント100質量部に対して前記γCSを10〜85質量部含有する(1)又は(2)に記載の二酸化炭素貯留用地中構造体。
【0019】
(3)の発明によれば、二酸化炭素貯留用地中構造体の二酸化炭素の漏出抑止作用をより安定的且つ高度に発現させることができる。
【0020】
(4) 前記セメント系硬化体は、更に、製鋼スラグを含有する(1)から(3)のいずれかに記載の二酸化炭素貯留用地中構造体。
【0021】
(4)の発明によれば、二酸化炭素貯留用地中構造体の設置に係る環境への負荷を低減させることができる。又、コスト面における本発明の優位性を更に高めることもできる。
【0022】
(5) 前記二酸化炭素漏出防止栓は、前記不透水層の表面に沿って水平方向に前記二酸化炭素漏出防止栓の全体を覆うように広がる二酸化炭素漏出防止補助部を更に備える(1)から(4)のいずれかに記載の二酸化炭素貯留用地中構造体。
【0023】
(5)の発明によれば、γCSの有する二酸化炭素吸着機能により二酸化炭素貯留用地中構造体の二酸化炭素の漏出抑止作用をより安定的且つ高度に発現させることができる。
【0024】
(6) 二酸化炭素の地下貯留方法であって、地中において、不透水層の直下に存在する二酸化炭素固定層に、不透水層を貫通する貫通井を通じて、二酸化炭素を注入する二酸化炭素注入工程と、前記二酸化炭素注入工程後に、前記貫通井にγCSを含有するセメント系硬化性物質を注入して前記貫通井を埋め戻す貫通井埋め戻し工程と、を備え、前記セメント系硬化性物質は、前記不透水層内において、前記貫通井を充塞する態様で硬化して二酸化炭素漏出防止栓を形成する二酸化炭素の地下貯留方法。
【0025】
(6)の発明によれば、(1)の発明である二酸化炭素貯留用地中構造体の作用により、二酸化炭素の地表面上への漏出を十分に、且つ、安定的に防止することができる。
【0026】
(7) 前記二酸化炭素固定層が地表から50m以上300m未満の深さにある(6)に記載の二酸化炭素の地下貯留方法。
【0027】
(7) の発明によれば、従来、二酸化炭素の貯留場所としては不適とされていた深度300m未満の浅い位置にある地層においても、二酸化炭素の貯留を好ましい態様で行なうことができるため、貯留場所の深さの制約からの解放に伴う大幅なコスト削減が可能となる。
【0028】
(8) 前記セメント系硬化性物質は、セメントと、γCSと、を含有してなり、前記セメント100質量部に対して前記γCSを10〜85質量部含有する(6)又は(7)に記載の二酸化炭素の地下貯留方法。
【0029】
(8)の発明によれば、二酸化炭素貯留用地中構造体の製造に係る環境への負荷を低減させることができる。又、コスト面における本発明の優位性を更に高めることもできる。
【0030】
(9) 前記セメント系硬化性物質は、更に、製鋼スラグを含有する(6)から(8)に記載の二酸化炭素の地下貯留方法。
【0031】
(9)の発明によれば、二酸化炭素の地下貯留に係る環境への負荷を低減させることができる。又、コスト面における本発明の優位性を更に高めることもできる。
【0032】
(10) 前記二酸化炭素注入工程において、前記二酸化炭素をマイクロバブル化して前記二酸化炭素固定層内に注入する(6)から(9)のいずれかに記載の二酸化炭素の地下貯留方法。
【0033】
(10)の発明によれば、従来深度300〜500m程度の位置にある帯水層への二酸化炭素の貯留を前提としていた二酸化炭素のマイクロバブル化による地下貯留方法を、更に浅い帯水層において実施することができる。これにより、小規模な設備で実施可能な上記従来方法の更なる低コスト化が実現できる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、従来方法の実施可能範囲よりも浅い場所にある地層において実施可能であり、十分、且つ、安定的に二酸化炭素の漏出を防止することができる二酸化炭素の地中への貯留手段を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の二酸化炭素貯留用地中構造体の形成方法の説明に供する図である。
図2】本発明の二酸化炭素貯留用地中構造体の形成方法の説明に供する図である。
図3】本発明の二酸化炭素貯留用地中構造体の形成方法の説明に供する図である。
図4】本発明の二酸化炭素貯留用地中構造体に係る好ましい他の実施形態の説明に供する図である。
図5】本発明の二酸化炭素貯留用地中構造体に係る好ましい他の実施形態の説明に供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態について説明する。尚、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0037】
<二酸化炭素の地下貯留方法>
[全体工程概要]
本発明の二酸化炭素の地下貯留方法について、図1図3を参照しながら、その全体工程の概要を説明する。本発明の二酸化炭素の地下貯留方法は、地中において不透水層20の下方範囲にある地層を二酸化炭素固定層30とし、地表から透水層10と不透水層20を貫通して二酸化炭素固定層30に至る貫通井である二酸化炭素注入井3を掘削形成した上で(図1)、二酸化炭素注入井3から二酸化炭素102を二酸化炭素固定層30に注入する二酸化炭素注入工程(図2)と、二酸化炭素102の注入後に、二酸化炭素注入井3にγCSを含有するセメント系硬化性物質103を注入して二酸化炭素注入井3を埋め戻す貫通井埋め戻し工程を備える二酸化炭素の地下貯留方法である。
【0038】
そして、本発明の二酸化炭素の地下貯留方法においては、二酸化炭素注入井3から注入されたセメント系硬化性物質103が、不透水層20内において、二酸化炭素注入井3を充塞する態様で硬化して二酸化炭素漏出防止栓104を形成する。この二酸化炭素漏出防止栓104の配置により、二酸化炭素102Aの地表への漏出を防止可能な二酸化炭素貯留用地中構造体1が形成される点に本発明の二酸化炭素の地下貯留方法の特徴がある。
【0039】
本発明の二酸化炭素の地下貯留方法における不透水層20は、二酸化炭素固定層30内に貯留された二酸化炭素102Aの地表への浮上を、現実的に各地下貯留設備等に求められる水準で物理的に遮蔽可能な層であればよく、特定の土質、性状等を有する地層に限定されない。好ましい一例として、厚さが5m〜10m程度の粘度層、シルト層等をあげることができる。尚、本明細書における不透水層とは、厳密に透水性が全くない層に限られるものではない。一定の透水性を有する層であっても、上記のような二酸化炭素を遮蔽することができる層であればよく、そのような二酸化炭素を遮断可能な地層を全て含む概念である。
【0040】
本発明の二酸化炭素の地下貯留方法における二酸化炭素固定層30は、帯水層であることが好ましいが、不透水層20の直下にある層であればよく、特定の土質、性状等を有する地層に限定されない。又、この直下にある層とは、必ずしも厳密に不透水層20とは別途の地層であることが必須ではなく、実質的に不透水層20内の下方の一部分を形成する不透水層20の一部であってもよい。
【0041】
一例として、二酸化炭素をマイクロバブル化して地中に貯留する場合においては、従来の方法によれば、マイクロバブル化した二酸化炭素を貯留する地層は、図1に示す地表からの深さdが300m以上であることが必須であった。しかし、本発明の二酸化炭素の地下貯留方法によれば、例えば、二酸化炭素をマイクロバブル化して地中に貯留する場合、地表から不透水層20の表面までの距離dが50m以上である場所であれば、十分に好ましい態様で実施可能であり、従来よりも大幅に浅い位置にある層を二酸化炭素固定層30とすることができる。
【0042】
但し、本発明の二酸化炭素の地下貯留方法は、地表からの深さが300mより浅い地層内での使用に限られるものではない。300m以深の地層中への二酸化炭素の貯留においても、300m以浅の地層と同等の漏出リスクが想定される場合等、適宜、本発明の方法を採用することができる。例えば、300mよりも十分に深い位置にある帯水層であっても、何らかの理由で亀裂が発生するリスクが相当に高い場所がある場合に、その場所の上部に本発明の二酸化炭素漏出防止栓を設置することにより、二酸化炭素の漏出リスクを十分に低減させることができる。
【0043】
本発明の二酸化炭素の地下貯留方法においては、予め、透水層10と不透水層20を貫通して二酸化炭素固定層30に至る二酸化炭素注入井3を掘削形成する。掘削は一般的な細径ボーリングによって行なうことができる。又、二酸化炭素注入井3に加えて、二酸化炭素102の注入により地層内で過剰となった湧水101を汲み上げるための揚水井2を、二酸化炭素注入井3と同様に掘削して併設することが好ましい。
【0044】
[二酸化炭素注入工程]
図2に示す通り、二酸化炭素注入工程は、二酸化炭素注入井3から二酸化炭素固定層30に二酸化炭素102を注入する工程である。又、二酸化炭素102の注入と並行して二酸化炭素固定層30内で過剰となった湧水101を揚水井2を通じて汲み上げることによってよりスムーズに二酸化炭素102を二酸化炭素固定層30内に注入することができる。
【0045】
本発明の二酸化炭素の地下貯留方法において、二酸化炭素注入井3によって二酸化炭素固定層30に注入される際の二酸化炭素102の状態は特に限定されない。以下に例示する様々な状態の二酸化炭素の注入を行なうことができる。例えば、特許文献1に記載のように、加圧ガス、液化又は超臨界状態にある二酸化炭素、マイクロバブル化された二酸化炭素等、様々な状態にある二酸化炭素を、適宜注入若しくは圧入する際に、本方法を好ましく用いることができる。
【0046】
尚、二酸化炭素をマイクロバブル化して注入する場合には、二酸化炭素注入井3に4.5μm以下程度の孔径を有する多孔質部材を設ければよい。これにより、二酸化炭素のマイクロバブルを発生させることができる。
【0047】
[二酸化炭素注入井埋め戻し工程]
図3に示す通り、二酸化炭素注入井埋め戻し工程は、二酸化炭素注入工程における二酸化炭素102の二酸化炭素固定層30への注入後に、二酸化炭素注入井3に、γCSを含有するセメント系硬化性物質103を注入して二酸化炭素注入井3を埋め戻す工程である。揚水井2が併設されている場合には、揚水井2も、二酸化炭素注入井3同様にセメント系硬化性物質103を注入して同様に埋め戻す。
【0048】
尚、従来の一般的な二酸化炭素の地下貯留方法においては、二酸化炭素の地下層への注入後には、掘削した通水井及び揚水井を土質系材料によって埋め戻していた。本発明の二酸化炭素の地下貯留方法は、この埋め戻しを、従来の土質系材料に代えて、γCSを必須成分として含有するセメント系硬化性物質103で行なうものである。セメント系硬化性物質103は、例えば、普通ポルトランドセメント等に代表されるセメントと、γCSと、を必須の成分とし、好ましくは、更に増粘剤を含有するセメント材料である。又、セメント系硬化性物質103は、更に、製鋼スラグを含有するものであることが好ましい。尚、セメント系硬化性物質103の更なる詳細については後述する。
【0049】
[二酸化炭素貯留用地中構造体]
本発明の二酸化炭素の地下貯留方法は、二酸化炭素漏出防止栓104を含んで構成される二酸化炭素貯留用地中構造体1の作用効果によって、二酸化炭素102Aの地表への漏出を防止できる点に特徴がある。二酸化炭素貯留用地中構造体1は、不透水層20と、二酸化炭素固定層30と、二酸化炭素漏出防止栓104とからなり、地中に形成される構造体である。
【0050】
二酸化炭素漏出防止栓104は、上記の二酸化炭素注入井埋め戻し工程において、二酸化炭素注入井3等に注入されたγCSを含有するセメント系硬化性物質103が、不透水層20内において硬化することにより形成されているセメント硬化体である。セメント系硬化性物質103は、図3に示す通り、不透水層20内を貫通する空隙、即ち、二酸化炭素注入井3等を充塞する態様で硬化している。
【0051】
(セメント系硬化性物質)
二酸化炭素漏出防止栓104を形成するセメント系硬化性物質103は、セメントと、γCSの他、増粘剤を含有するものであることが好ましく、更に、その他の土質系材料を混入したものであってもよい。
【0052】
又、セメント系硬化性物質103は、所定量割合の水分を含むものであることが好ましい。セメント系硬化性物質103の水分は、含有される水分と、上記のセメント、γCS、増粘剤、及びその他の固形分との質量比である水セメント比が30〜80%となるようにすることが好ましい。
【0053】
セメント系硬化性物質103に用いるセメントとしては、普通ポルトランドセメント等の一般的セメントを特に制限なく用いることができる。尚、ポルトランドセメントには、普通ポルトランドセメントの他、早強、超早強、中庸熱、低熱等の種類があるが、これら種々のポルトランドセメントの1種又は2種以上を配合するものを用いることができる。なかでも、普通ポルトランドセメント及び低熱ポルトランドセメントの1種又は2種を使用したものを特に好ましく用いることができる。尚、ポルトランドセメントをはじめとする通常のセメントには、γCSは基本的に含まれていない。
【0054】
本発明において、セメント系硬化性物質103に必須成分として含有されるγCSとは、CaOとSiOを主成分とするダイカルシウムシリケートの1種であるビーライトのうち、特にγ型と呼ばれるもののことを言う。α型やβ型等、他の型のビーライトと異なり、γ型のビーライトは、水硬性を示さず、且つ、二酸化炭素と反応するという特性を有する。より詳しくは、セメント系硬化性物質103からなる二酸化炭素漏出防止栓104中に所定量以上のγCSが存在すると、γCSは、水和反応せずに直接周辺の二酸化炭素と反応し、多量のCaCOとSiOを生成する。
【0055】
尚、γCSには2CaO・SiOの他、Al、Fe、MgO、Na2O、KO、TiO、MnO、ZnO、CuO等の酸化物が不純物として固溶している場合があるが、このような鉱物を固溶したγCSも本発明でいうγCSに含まれる。
【0056】
セメント系硬化性物質103中の上記のγCSの含有量は、セメント100質量部に対してγCSが10〜85質量部であることが好ましい。γCSの含有量を上記範囲とすることにより、セメント系硬化性物質103の硬化を十分に促進させ、且つ、その硬化によって形成された二酸化炭素漏出防止栓104を十分に高い二酸化炭素吸着能力を発揮するものとすることができる。
【0057】
セメント系硬化性物質103は、更に、製鋼スラグを含有する硬化性物質であることが好ましい。ここで、製鋼スラグとは、電気炉、転炉等の製鋼工程から発生するスラグである。製鋼スラグ中には通常35〜55質量%のCaOが含有されているが、シリカ等と結合していない未反応のCaO(フリーライム)を数%程度含んでいることに特徴がある。このフリーライムが二酸化炭素と反応し、CaCOを生成することが知られている。又、製鋼スラグ粉末にはγCSや炭酸ガスと反応するメリライトを含むものもあり、これらも二酸化炭素と反応してCaCOを生成する。二酸化炭素の吸着能力を高めるための添加物として、純粋なγCSのみならず、製鋼スラグ粉末を多量に使用した場合には、産業副産物の有効利用という意味でも環境負荷低減に大きく寄与することができる。
【0058】
セメント系硬化性物質103に添加する増粘剤の種類は、特に限定されないが、セルロース系、又は、高分子系の増粘剤を、具体例としてあげることができる。これらの添加により、注入時の材料分離を防ぐことができる。
【0059】
以上説明した通りのセメント系硬化性物質103が硬化してなるセメント硬化体である二酸化炭素漏出防止栓104を、不透水層20内の空隙を物理的に充塞する態様で形成することにより、二酸化炭素102Aの地表への浮上を物理的に遮断するのみならず、二酸化炭素漏出防止栓104の周辺に浮遊してきた二酸化炭素を化学的に吸着することにより、二酸化炭素102Aが揚水井2及び二酸化炭素注入井3を通じて地表へ漏出することを十分に防止できる。尚、γCSを含有するセメント硬化体は、二酸化炭素を化学的に吸着することにより、物質遮断性や耐久性が更に向上することも知られている。
【0060】
尚、このセメント系硬化性物質103は、二酸化炭素注入井3等の貫通井の掘削時、及び二酸化炭素注入時における貫通井の孔壁の安定性を高めるためのセメンチング材料としても好ましく用いることもできる。
【0061】
又、図4に示す通り、二酸化炭素漏出防止栓104は、二酸化炭素漏出防止補助部104Aを更に備えるものであることが好ましい。二酸化炭素漏出防止補助部104Aは、二酸化炭素漏出防止栓104と同様にセメント系硬化性物質103が硬化してなるセメント硬化体である。二酸化炭素漏出防止補助部104Aは、二酸化炭素漏出防止栓104の上部に接続し、不透水層20の表面に沿って水平方向に広がる態様で形成される。
【0062】
二酸化炭素漏出防止補助部104Aが形成されることにより、二酸化炭素漏出防止栓104の周辺に浮上してくる微量の二酸化炭素に対する二酸化炭素漏出防止栓104の化学的吸着力が更に高まり、より確実に二酸化炭素102Aの漏出を防止することができる。
【0063】
二酸化炭素漏出防止補助部104Aは、例えば、ケーシングを引き抜きながらセメント系硬化性物質103を注入する際に、不透水層(二酸化炭素遮蔽層)20の上部で二酸化炭素漏出防止栓104の断面全体が覆われるように、追加的に、セメント系硬化性物質103を圧入することによって形成することができる。
【0064】
尚、上記いずれの実施態様においても、必ずしも、全ての貫通井2、3の内部全体を、セメント系硬化性物質103で埋め尽くす必要はない。例えば、図5に示すように、二酸化炭素漏出防止栓104の上部から地表面に至る最上部までの空間について、適当な土砂によって埋め戻せばよい。
【0065】
又、その他の応用的な実施例として、セメント系硬化性物質103を揚水井2及び二酸化炭素注入井3の内径形状に合わせて形成した蓋状の構造物を予め製造し、当該蓋状の構造物によって、揚水井2及び二酸化炭素注入井3に蓋をすることによっても、同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0066】
1 二酸化炭素貯留用地中構造体
2 貫通井(揚水井)
3 貫通井(二酸化炭素注入井)
10 透水層
20 不透水層
30 二酸化炭素貯留層
101 湧水
102、102A 二酸化炭素
103 セメント系硬化性物質
104 二酸化炭素漏出防止栓
104A 二酸化炭素漏出防止補助部
図1
図2
図3
図4
図5