(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6247189
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】直流リンク残留エネルギーの放電機能を有するモータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/12 20060101AFI20171204BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20171204BHJP
H02M 7/797 20060101ALI20171204BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
H02M7/12 H
H02M7/12 G
H02M7/12 B
H02M7/48 M
H02M7/48 L
H02M7/48 R
H02M7/797
H02P27/06
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-204204(P2014-204204)
(22)【出願日】2014年10月2日
(65)【公開番号】特開2016-77031(P2016-77031A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2016年4月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100151459
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 健一
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 正一
【審査官】
東 昌秋
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−287137(JP,A)
【文献】
特開2013−199099(JP,A)
【文献】
特開2006−340466(JP,A)
【文献】
特開2001−352765(JP,A)
【文献】
特開2012−235588(JP,A)
【文献】
特開2007−159234(JP,A)
【文献】
特開平7−241084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/00− 7/98
H02P 27/06−27/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流入力電源側の交流電力を直流電力に変換し、または直流出力側の直流電力を交流電力に変換するPWM整流器と、
前記PWM整流器の直流出力側である直流リンクに設けられた平滑コンデンサと、
前記平滑コンデンサの直流電圧を検出する直流電圧検出部と、
前記PWM整流器の交流電源側に接続されるLCLフィルタと、
前記LCLフィルタの交流電源側に接続される動力遮断部と、
前記動力遮断部により動力が遮断された場合に、前記PWM整流器を制御することにより前記LCLフィルタに電流を流し、前記平滑コンデンサに蓄積されたエネルギーを放電して、前記直流電圧を所望の値まで低下させる制御部と、
を有し、
前記制御部は、前記動力遮断部により動力が遮断される前に、前記PWM整流器を制御することにより、前記直流電圧を三相交流入力電源の波高値まで下げておく、
ことを特徴とするモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置に関し、特に、直流リンクに設けられた平滑コンデンサに蓄積されたエネルギーの放電機能を有するモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械、鍛圧機械、射出成形機、産業機械、ロボット等のモータを駆動するモータ制御装置では、三相交流入力電源の交流電力を直流電力に変換する整流器、及び整流器の出力した直流電力をモータ駆動用の交流電力に変換する逆変換器が用いられる。
【0003】
近年、電源高調波および無効電力の低減への要求からパルス幅変調(PWM)を用いた整流器(PWM整流器)の適用が広がっている。
【0004】
図1に一般的なモータ制御装置のブロック図を示す。モータ制御装置1000は、三相交流入力電源である交流電源20から供給される交流電力をPWM整流器101で直流電力に変換し、変換された直流電力を逆変換器107で交流電力に変換してモータ30を駆動している。
【0005】
PWM整流器101の直流出力側である直流リンクには、直流電圧を平滑化するための平滑コンデンサ102が設けられる。
【0006】
また、PWM整流器101の交流電源側には、半導体スイッチのON/OFFにより発生する高周波が交流電源20側に流出しないようにするためにPWM整流器101と交流電源20との間にLCLフィルタ104が接続される。
【0007】
LCLフィルタ104は、直列接続されたダンピング抵抗R
u,R
v,R
w及びコンデンサC
u,C
v,C
wと、ダンピング抵抗R
u,R
v,R
wの一端に設けられた第1インダクタンスL
au,L
av,L
aw及び第2インダクタンスL
bu,L
bv,L
bwと、を備えている。
【0008】
さらに、交流電源20とLCLフィルタ104との間には、動力遮断部105が設けられている。動力遮断部105は、交流電源20及びLCLフィルタ104の接続及び遮断を行う。
【0009】
このようなモータ制御装置1000では、電源電圧、電源電流、直流電圧からPWM整流器制御信号を生成し、それに従いPWM整流器101の半導体スイッチを適宜ON/OFFすることで力率1の電力を発生するとともに、PWM整流器101の出力である直流電圧を所望の値に保つことが可能となる。ただし、PWM整流器101の直流電圧は原理的に交流電源20の波高値以上にする必要があり、昇圧されている。
【0010】
その結果、モータ制御装置1000を停止し、動力遮断部105をオープンにしてモータ制御装置1000と交流電源20とを切り離した場合であっても、平滑コンデンサ102にはエネルギーが放電されずに残ったままになり、PWM整流器101の直流出力側である直流リンクは高電圧となる。このため、モータ制御装置1000の点検・部品交換等の保守を行う場合には、自然放電により平滑コンデンサ102に残留したエネルギーが放電されるまで待たなければならず作業の効率が悪いという問題がある。
【0011】
そこで、PWM整流器の直流出力側である直流リンクに放電抵抗及びスイッチを設けて残留したエネルギーを放電させる方法が報告されている(例えば、特許文献1)。特許文献1に係るモータ制御装置のブロック図を
図2に示す。特許文献1に係るモータ制御装置2000は、PWM整流器101の直流出力側である直流リンクに放電抵抗RとスイッチSWを備える。モータ制御装置2000の通常運転を停止し、動力遮断部105により、交流電源20とモータ制御装置2000とを切り離した後、直流リンクのスイッチSWをONすることにより放電抵抗Rに電流iが流れ、平滑コンデンサ102に蓄積されたエネルギーを放電する。この従来技術によれば、平滑コンデンサ102に残留したエネルギーを短時間で放電することができるため保守性は向上するが、放電抵抗とスイッチを備える必要があるため、モータ制御装置のサイズが大きくなり、コストも増加してしまうという問題がある。
【0012】
また、逆変換器に接続されるモータに電流を流すことにより、平滑コンデンサに残留したエネルギーを放電させる方法も知られている(例えば、特許文献2)。特許文献2に係るモータ制御装置のブロック図を
図3に示す。特許文献2に係るモータ制御装置3000は、モータ制御装置3000の通常運転を停止し、動力遮断部105により、交流電源20とモータ制御装置3000とを切り離した後、逆変換器107を制御することによりモータ30に電流を流し、モータ巻線の抵抗分により平滑コンデンサ102に蓄積されたエネルギーを放電する。この従来のモータ制御装置3000は、コストを増加させることなく平滑コンデンサ102に残留したエネルギーを放電することが可能であるが、モータ30に電流を流すことによりモータ30が意図せずして回転してしまう可能性があり、危険な状態が生じうるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第5340476号公報
【特許文献2】特開平8−182400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来のモータ制御装置において、平滑コンデンサに残留したエネルギーを放電するため、直流リンクに放電抵抗とスイッチを設ける方式では、モータ制御装置のサイズが大きくなり、コストも増加してしまうという問題があった。また、モータに電流を流す方式では、モータが意図せず回転してしまう可能性があり、危険な状態が生じうるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一実施例に係るモータ制御装置は、三相交流入力電源側の交流電力を直流電力に変換し、または直流出力側の直流電力を交流電力に変換するPWM整流器と、PWM整流器の直流出力側である直流リンクに設けられた平滑コンデンサと、平滑コンデンサの直流電圧を検出する直流電圧検出部と、PWM整流器の交流電源側に接続されるLCLフィルタと、LCLフィルタの交流電源側に接続される動力遮断部と、動力遮断部により動力が遮断された場合に、PWM整流器を制御することによりLCLフィルタに電流を流し、平滑コンデンサに蓄積されたエネルギーを放電して、直流電圧を所望の値まで低下させる制御部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一実施例に係るモータ制御装置によれば、モータ制御装置のサイズアップ及びコストアップを生じることなく、かつ安全に直流リンクに残留したエネルギーを放電させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一般的なモータ制御装置のブロック図である。
【
図2】特許文献1に係るモータ制御装置のブロック図である。
【
図3】特許文献2に係るモータ制御装置のブロック図である。
【
図4】本発明の実施例1及び2に係るモータ制御装置のブロック図である。
【
図5】本発明の実施例1に係るモータ制御装置の動作手順を説明するためのフローチャートである。
【
図6】本発明の実施例2に係るモータ制御装置の動作手順を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明に係るモータ制御装置について説明する。ただし、本発明の技術的範囲はそれらの実施の形態には限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0019】
[実施例1]
まず、本発明の実施例1に係るモータ制御装置について図面を用いて説明する。
図4は、本発明の実施例1に係るモータ制御装置のブロック図である。本発明の実施例1に係るモータ制御装置101は、PWM整流器1と、平滑コンデンサ2と、直流電圧検出部3と、LCLフィルタ4と、動力遮断部5と、制御部6と、を有する。
【0020】
PWM整流器1は、三相交流入力電源である交流電源20側の交流電力を直流電力に変換し、または直流出力側の直流電力を交流電力に変換する。PWM整流器1は、例えば6個のスイッチング素子及びこれらと並列に接続されたダイオードにより構成することができる。また、PWM整流器1は制御部6からのPWM整流器制御信号により制御される。
【0021】
平滑コンデンサ2は、PWM整流器1の直流出力側である直流リンクに設けられ、直流リンクの電圧を平滑化する。
【0022】
直流電圧検出部3は、直流リンクに設けられた平滑コンデンサ2の直流電圧を検出する。直流電圧検出部3が検出した直流電圧値は制御部6に通知される。
【0023】
LCLフィルタ4は、PWM整流器1の交流電源20側に接続される。LCLフィルタ4は、直列接続されたダンピング抵抗R
u,R
v,R
w及びコンデンサC
u,C
v,C
wと、ダンピング抵抗R
u,R
v,R
wの一端に設けられた第1インダクタンスL
au,L
av,L
aw及び第2インダクタンスL
bu,L
bv,L
bwと、を備えている。
【0024】
動力遮断部5は、LCLフィルタ4の交流電源20側に接続され、制御部6からの制御信号に従って、交流電源20とLCLフィルタ4との接続または遮断を行う。
【0025】
制御部6は、動力遮断部5により動力(交流電力)が遮断された場合に、PWM整流器1を制御することによりLCLフィルタ4に電流i
u,i
v,i
wを流し、ダンピング抵抗R
u,R
v,R
wを流れる際に熱エネルギーに変換させる。その結果、平滑コンデンサ2に蓄積されたエネルギーを放電し、直流電圧を所望の値まで低下させることができる。
図4に示した例では、三相の電流のうち、u相電流i
u及びv相電流i
vがPWM整流器1に流入し、w相電流i
wがPWM整流器1から流出する例を示したが、これは一例であって、このような例には限られない。
【0026】
このように、本発明の実施例1に係るモータ制御装置101によれば、モータ制御装置101の通常運転を停止し、動力遮断部5により、交流電源20とモータ制御装置101とを切り離した後、PWM整流器1を制御することによりLCLフィルタ4に電流を流し、LCLフィルタ4のダンピング抵抗により平滑コンデンサ2に蓄積されたエネルギーを放電することができる。その結果、平滑コンデンサ2の端子間電圧である直流電圧を所望の値、例えば、感電の危険性のない安全に保守作業ができる電圧まで下げることができる。
【0027】
次に、本発明の実施例1に係るモータ制御装置の動作手順について、
図5に示したフローチャート用いて説明する。まず、ステップS101において、モータ制御装置101の通常運転を停止する。
【0028】
次に、ステップS102において、制御部6からの制御信号により、動力遮断部5により、交流電源20とモータ制御装置101を切り離す。次に、ステップS103において、PWM整流器1を制御することによりLCLフィルタ4に電流i
u,i
v,i
wを流し、LCLフィルタ4のダンピング抵抗R
u,R
v,R
wにより平滑コンデンサ2に蓄積されたエネルギーを放電する。PWM整流器1の動作は制御部6からのPWM整流器制御信号により制御される。
【0029】
次に、ステップS104において、制御部6が直流リンクの直流電圧の検出結果を直流電圧検出部3から受信し、検出した直流電圧は所望の値まで低下しているか否かを判断する。ここで、所望の値は、安全に保守作業ができる電圧である。例えば、感電の危険性のない電圧である。
【0030】
検出した直流電圧が所望の値まで低下していなかった場合は、ステップS103に戻って平滑コンデンサ2の放電を継続して行う。一方、検出した直流電圧が所望の値まで低下している場合は、一連の処理を終了する。
【0031】
以上のように、本発明の実施例1に係るモータ制御装置によれば、モータ制御装置に放電抵抗やスイッチを設ける必要がないため、モータ制御装置のサイズアップ及びコストアップなしに保守性を向上させることができる。また、モータに電流を流さないため、モータが意図せず動作してしまうことがなく、安全に保守性を向上させることもできる。
【0032】
[実施例2]
次に、本発明の実施例2に係るモータ制御装置について説明する。実施例2に係るモータ制御装置102の構成は、
図4に示した実施例1に係るモータ制御装置101と同様であって、PWM整流器1と、平滑コンデンサ2と、直流電圧検出部3と、LCLフィルタ4と、動力遮断部5と、制御部6と、を有する。実施例2に係るモータ制御装置102が実施例1に係るモータ制御装置101と異なっている点は、制御部6が、動力遮断部5により動力が遮断される前に、PWM整流器1を制御することにより、直流リンクの直流電圧を交流電源20の波高値まで下げておく点である。実施例2に係るモータ制御装置のその他の構成は、実施例1に係るモータ制御装置における構成と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0033】
一般的なモータ制御装置の説明でも述べた通り、直流リンクの直流電圧は昇圧されている。そこで、本発明の実施例2に係るモータ制御装置においては、動力遮断部5によりモータ制御装置102が交流電源20と切り離される前に、直流電圧を予め交流電源20の波高値まで下げておくことにより、LCLフィルタ4で消費するエネルギーを最小限に抑えることができるため、ダンピング抵抗R
u,R
v,R
wの発熱を最小限に抑えることができる。
【0034】
次に、本発明の実施例2に係るモータ制御装置102の動作手順について、
図6に示したフローチャート用いて説明する。まず、ステップS201において、モータ制御装置102の通常運転を停止する。
【0035】
次に、ステップS202において、制御部6が、直流電圧検出部3が検出した直流電圧と交流電源20の波高値とを比較しながらPWM整流器1を制御する。次に、ステップ203において、直流電圧が交流電源20の波高値まで低下しているか否かを判断する。検出した直流電圧が交流電源20の波高値まで低下していなかった場合は、ステップS202に戻って、PWM整流器1を制御することにより、直流電圧を交流電源20の波高値になるように下げる。
【0036】
次に、ステップS204において、制御部6からの制御信号に基づいて、動力遮断部5により、交流電源20とモータ制御装置102とを切り離す。次に、ステップS205において、PWM整流器1を制御することによりLCLフィルタ4に電流i
u,i
v,i
wを流し、LCLフィルタ4のダンピング抵抗R
u,R
v,R
wにより平滑コンデンサ2に蓄積されたエネルギーを放電する。PWM整流器1の動作は制御部6からのPWM整流器制御信号により制御される。
【0037】
次に、ステップS206において、制御部6が直流リンクの直流電圧の検出結果を直流電圧検出部3から受信し、検出した直流電圧は所望の値まで低下しているか否かを判断する。
【0038】
検出した直流電圧が所望の値まで低下していなかった場合は、ステップS205に戻って平滑コンデンサ2の放電を継続して行う。一方、検出した直流電圧が所望の値まで低下している場合は、一連の処理を終了する。
【0039】
以上のように、本発明の実施例2に係るモータ制御装置においては、動力遮断部によりモータ制御装置が交流電源から切り離される前に、PWM整流器を制御することにより、昇圧されている直流リンクの直流電圧を予め交流電源の波高値まで下げておくことにより、LCLフィルタで消費するエネルギーを最小限に抑えることができるため、LCLフィルタ内の抵抗の発熱を最小限に抑えることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 PWM整流器
2 平滑コンデンサ
3 直流電圧検出部
4 LCLフィルタ
5 動力遮断部
6 制御部
7 逆変換器
20 交流電源
30 モータ
101 実施例1に係るモータ制御装置
102 実施例2に係るモータ制御装置