【実施例】
【0092】
実施例1:アルブミンの安定性に対するn−アセチルトリプトファン、ホスフェート濃度、及びナトリウム濃度の影響
【0093】
目的:以前の研究は、65℃での350nmの吸光度の上昇による不溶性凝集物の生成の追跡は、アルブミンの安定性に対する異なる製剤(組成物)パラメータの影響のスクリーニングのための有効な方法であることを示した。オクタノエート及びポリソルベート80は幹細胞増殖に対して有害なようであるため、アルブミン製剤はこれらの成分を実質的に含まないことが好ましい。本実施例は、アルブミンの安定性に対するpH、ナトリウムイオン、及び緩衝液濃度の影響を分析する。アルブミンの一般的な安定剤はn−アセチルトリプトファンであり、従って本実施例にはこれが試験成分として含まれる。
【0094】
方法:145mMのNaCl中の100mg/mLのアルブミン(アルブミンバッチ1401)を、表3に従って10mg/mLに希釈した。希釈に使用された緩衝液は表1と2に示される。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【0098】
いったん希釈後、試料は、1M HCl(その容量はわずかであり、アルブミン又は成分濃度を変化させない)を用いて、その目的pHに調整された。次に、得られる溶液のアリコート(1mmL)をポリスチレンキュベット(Sarstedt 10×4×45mm)に入れた。次に、キュベットを65℃であらかじめ平衡化させ制御しておいた温度制御分光光度計に入れた。次に、350nmでの吸光度を、空のキュベットを対照として、2時間にわたって18秒毎に読むことにより追跡した。最初の7つのデータ点を取り、これらを平均し(平均を計算し)、次にすべてのデータ点からこれを引いて処理することにより、約0の基礎吸光度値を得た。特定の製剤試料について、この吸光度値をこのベースラインより0.1AU(吸光度単位)だけ上昇させるのにかかる時間を記録した。各製剤試料を二重で測定し、吸光度値を0.1AUだけ上昇させるのにかかる時間を、各多重測定値について平均した。
【0099】
結果:各試料が0.1AU上昇するための時間の処理されたデータを、試験した各製剤成分(n−アセチルトリプトファン、ホスフェート濃度、及びナトリウム濃度)について、pHに対する吸光度上昇の時間をプロットした。7200秒を超える値は外挿された。データは、
図1(pHとn−アセチルトリプトファン)、
図2(pHとホスフェート)、及び
図3(pHとナトリウム)に提示される。
【0100】
結論:
・50mMナトリウム以外のすべてのデータについて、最適pHはpH6〜7の間であった。50mMナトリウムについては、不溶性凝集物は生成していなかったが、高レベルの可溶性オリゴマーが生成されており、これらは、合体して不溶性凝集物を形成するということはない可能性がある。可溶性凝集物は、GP−HPLCにより同定することができる。
・ホスフェート緩衝液濃度について、50mMと100mMの間に有意差はなかった。しかし、0mMのホスフェートは、pH6〜8の間でわずかにより安定のように見えた。安定性の点ではホスフェートを使用しないことが最適であるが、例えば、緩衝液は製剤化の前にアルブミンのpHを調整する必要性を低減又は排除するため、緩衝液の使用はpH制御を助ける。
・ナトリウムレベルを上昇させることは安定性に大きな効果を与え、145〜300mMのナトリウムの間で安定性が大きく上昇する。
【0101】
実施例2:アルブミンの安定性に対するナトリウム濃度上昇の影響
目的:実施例1は、上昇したナトリウムレベルがアルブミン安定性に有益な影響を与えることを示した。これをさらに調べるために、最適pH範囲で実施例1より広い範囲にわたって上昇させたナトリウム濃度を調べた。
【0102】
方法:145mMのNaCl中の100mg/mLのアルブミン(アルブミンバッチ1401)を、表6に従って10mg/mLに希釈した。希釈に使用された緩衝液は表4と5に示される。
【0103】
【表4】
【0104】
【表5】
【0105】
【表6】
【0106】
まずアルブミンと緩衝液とをバルクとして混合して希釈を行い、次にこれを1M HClの添加により正しいpHに調整した。次に、これを分割し、水と5M NaClを適宜加えた。これにより、すべての試料が確実にちょうど同じpHになった。得られた溶液のアリコート(1mL)をポリスチレンキュベット(Sarstedt 10×4×45mm)に入れた。次に、キュベットを65℃であらかじめ平衡化させ温度制御しておいた温度制御分光光度計に入れた。次に、350nmでの吸光度を、空のキュベットを対照として、2時間にわたって18秒毎に読むことにより追跡した。最初の7つのデータ点を取り、これらを平均し(平均を計算し)、次にすべてのデータ点からこれを引いて処理することにより、約0の基礎吸光度値を得た。特定の製剤試料について、この吸光度値をこのベースラインより0.1AU(吸光度単位)だけ上昇させるのにかかる時間を記録した。各製剤試料を二重測定で測定し、吸光度値を0.1AUだけ上昇させるのにかかる時間を、各多重測定値について平均した。
【0107】
結果:各試料が0.1AU上昇するための時間の処理されたデータを、各pHについて、Na濃度に対して吸光度上昇の時間をプロットした。7200秒を超える値は外挿された。データは、
図4に示される。
【0108】
結論:
・実施例1に一致して、ナトリウムレベルの上昇はアルブミンの安定性を上昇させた。これは、特に約200mMで顕著であり、ここで安定性が急に上昇した。これはすべてのpHについて同じであったが、pH6では、<200mMでも、上昇する塩はまだ有効な影響を与えたため、これはあまり明らかではなかった。この上昇が約200mMであったという事実は、ほとんどの他のアルブミン製剤がほぼ生理学的に維持するために150mM以下であるため、以前は観察されなかったことが理由かも知れない。細胞培養培地で使用されるアルブミンについては、アルブミンは培地の中へ希釈され、培地の全体の塩濃度が細胞培養に適したものとなるため、これは問題ではないはずである。
・pH6はpH6.5よりわずかに良好であり、何れもpH7よりは顕著に良好であった。
【0109】
実施例3:異なる濃度のアルブミンの安定性に対するナトリウム濃度の影響
【0110】
目的:実施例2は、ナトリウム濃度がアルブミンの安定性にとって重要であることを示す。実施例2は、アルブミン濃度10mg/mLで行われた。この作用がより高濃度でも同じであることを確認するために、より高濃度のアルブミンでナトリウムの影響を調べた。
【0111】
方法:145mMのNaCl中の100mg/mLのアルブミン(アルブミンバッチ1401)を、表9に従って50又は90mg/mLに希釈した。希釈に使用された緩衝液は表7と8に示される。
【0112】
【表7】
【0113】
【表8】
【0114】
【表9】
【0115】
まずアルブミンと緩衝液とをバルクとして混合し、次にこれを1M HClの添加により正しいpHに調整した。次に、これを分割し、水と5M NaClを適宜加えた。これにより、すべての試料が確実にちょうど同じpHになった。
【0116】
次に、得られた溶液のアリコート(1mL)をポリスチレンキュベット(Sarstedt 10×4×45mm)に入れた。次に、キュベットを65℃であらかじめ平衡化させ制御しておいた温度制御分光光度計に入れた。次に、350nmでの吸光度を、空のキュベットを対照として、2時間にわたって18秒毎に読むことにより追跡した。最初の7つのデータ点を取り、これらを平均し(平均を計算し)、次にすべてのデータ点からこれを引いて処理することにより、約0の基礎吸光度値を得た。特定の製剤試料について、この吸光度値をこのベースラインより0.1AU(吸光度単位)だけ上昇させるのにかかる時間を記録した。各製剤試料を二重で測定し、吸光度値を0.1AUだけ上昇させるのにかかる時間を、各多重測定値について平均した。
【0117】
結果:各試料が0.1AU上昇するための時間の処理されたデータを、各pH(6.0、6.5、及び7.0)で50mg/mLのアルブミンについて、Na濃度に対する吸光度上昇の時間をプロットし、次に3つの異なるアルブミン濃度(10、50、及び990mg/mL)についてpH6.5でプロットした。データは、
図5と6に示される。
【0118】
結論:
・50mg/mLのアルブミンで、ナトリウム濃度の上昇がアルブミン安定性を改善する傾向が、すべての3つのpHで確認された。この例では、pH6.5が最適であった。
・pH6.5では、増加したナトリウムが安定性を改善する傾向が、再度すべてのアルブミン濃度で確認された。この傾向は90g/Lではそれほど顕著ではなかったが、200mMを超えるナトリウム濃度は、やはりアルブミン安定性を顕著に改善させた。
【0119】
実施例4:アルブミン中の可溶性凝集物の産生に対するナトリウム濃度の影響
【0120】
目的:不溶性凝集物を測定する製剤スクリーニングアッセイを使用すると、実施例1〜3は、ナトリウム濃度の上昇がアルブミン安定性を改善させることを示す。可溶性凝集物(アルブミンポリマー)を調べるために、40℃で2週間の加速安定性試験でポリマー生成を追跡するための測定手段として、GP−HPLCを使用する必要がある。実施例1〜3によりpH6.5が好適なpHであることが証明されたため、この試験はpH6.5で行われた。前記の製剤化条件(pH8.6、150mMのNa)中のアルブミンの対照をまた、新しい製剤が有意に有益であることを確認するために使用した。実際のアルブミン濃度は、予測された100mg/mLではなく90mg/mLであった(これは、種々の製剤への希釈を可能にする最も高い濃度であったため)。しかし、このわずかに低い濃度で観察された傾向は、より高いアルブミン濃度でも同じであろうと考えられた。
【0121】
方法:145mMのNaCl中の100mg/mLのアルブミン(アルブミンバッチ1401)を、表12に従って90mg/mLに希釈した。希釈に使用された緩衝液は表10と11に示される。
【0122】
【表10】
【0123】
【表11】
【0124】
【表12】
【0125】
まずアルブミンと緩衝液とをバルクとして混合して希釈を行い、次にこれを1M HClの添加により正しいpHに調整した。次に、これを適切なサイズのアリコートに分割し、必要に応じて水と5M NaClを加えた。これにより、すべての試料が確実にちょうど同じpHになった。
【0126】
各試料10mLを、ベーキングした10mLのガラスバイアル中に無菌濾過し、無菌のブチルゴムシールをし、次にオーバーシールした。約200μlのT0試料を取り、バイアルを40℃に設定した水浴中に入れた。次に試料(約200μl)を、14日後に各バイアルから取り、2倍希釈し、GP−HPLCシステムに三重で注入した。
【0127】
GP−HPLCシステムは、6.0mm内径×40mm長のTSK SWガードカラム(Tosoh Bioscience)を有する7.8mm内径×300mm長のTSK G3000SWXLカラム(Tosoh Bioscience)に注入(25μl)して行なった。試料を、25mMのリン酸ナトリウム、100mMの硫酸ナトリウム、0.05%(w/v)のアジ化ナトリウム、pH7.0中で、1mL/分でクロマトグラフィーを行い、280nmでのUV検出により追跡した。さらに、モノマー、ダイマー、トリマー、及びポリマー含量を、総ピーク面積に対する各ピーク面積を%(w/w)として定量した。三重注入からの結果を平均して、各試料の平均値を得た。
【0128】
結果:モノマー(
図7)とポリマー(
図8)についての14日時点のデータを、ナトリウム濃度に対してプロットした。
【0129】
結論:
・pH6.5の製剤は、アルブミンバッチ1401について使用したpH8.6の製剤より、顕著に良好であった。pH8.6ではポリマーのレベルは顕著に上昇して、pH6.5での同じ濃度の約2%と比較すると、40℃で2週間後に約20%まで上昇した。
・スクリーニングアッセイで観察されたナトリウムの上昇がアルブミン安定性を上昇させるという提唱された傾向は、ここで可溶性凝集物についても確認され、ナトリウム濃度の上昇によりポリマー生成が低下する顕著な傾向がある。生理学的条件に近いために標準的アルブミン濃度である150mMから200mMナトリウムまで行くと、ポリマーのレベルは>2倍低下し、200から250mMに行くとさらに約2倍低下する。塩濃度がさらに350mM(及びそれ以上の可能性有り)まで上昇すると、ポリマーはさらに低下するが、その低下速度は遅くなる。これらの結果は、ナトリウムの上昇により残存するモノマーが増加することと一致する。全体で、150から250mMナトリウムまで行くと、ポリマー生成が>4倍低下する。従って、好適なアルブミン製剤は、20mMのリン酸緩衝液、pH6.5、250mM ナトリウムである。ホスフェートは、pH制御を助けるために存在する。注意すべきことは、ナトリウムは塩化ナトリウムとリン酸ナトリウムの両方から得られ(ホスフェートのpHを確保するために使用されるNaOHを含むことは正しい)、従って緩衝液は、250mMのNaClではないことである。
・この研究はナトリウムを用いて行われているが、同様の1価又は2価金属イオンは、同様の効果を有すると予測される。しかしナトリウムは幹細胞培養と適合性があるため、好適な金属イオンである。
【0130】
実施例5:アルブミンの安定性に対するアルブミン濃度とナトリウムイオン濃度の影響
【0131】
方法:低オクタノエート(約0.2mMのオクタノエート、100g/Lのアルブミン)を含有する精製アルブミンの試料を、25mMのホスフェート、50mMのナトリウム、pH6.5の少なくとも10の連続容量に対してダイアフィルターで濾過し、次に10KDaのPall OmegaクロスフローUFを使用して濃縮し、50mMのナトリウム出発物質を得た。次に試料を水、5MのNaCl、及び0.5Mのリン酸ナトリウム、pH6.5で、表13に示すように希釈した。
【0132】
【表13】
【0133】
次に、試料を無菌の5mLガラスバイアル中に無菌濾過(0.22μmフィルター)し、バイアルを40℃のインキュベーター中に4週間入れた。各試料のアリコートを間隔をおいて取り出し、水で40g/Lに希釈し、可溶性凝集物について実施例4に示したようにGP−HPLCにより測定した。
【0134】
結果:
図11は、4週間インキュベーション後のモノマーレベルを示す。より高いモノマー含量は、良好な安定性を示す。
【0135】
結論:
・すべての点は、150g/Lのアルブミン、100mMのナトリウム試料とは異なる傾向に従う。この試料がなぜ傾向をはずれたかは不明であるが、外れ値の可能性があり、実験の全体的結論を変えることは無い。
・試験したすべてのアルブミン濃度について、モノマー含量、すなわち安定性の上昇とナトリウム含量の上昇の明らかな相関がある。
・改善された安定性の大部分は、最大約200mMのナトリウムイオン濃度の上昇からくる。この濃度を超えると、安定性がわずかにさらに上昇するが、ほとんど横ばい状態になった。従って最適ナトリウムイオン濃度は200mM以上である。
【0136】
実施例6:アルブミンの安定性に対する異なるカチオンの影響
【0137】
方法:低オクタノエート(100g/Lのアルブミンについて約0.2mM)を含有する精製アルブミンの試料を、まず水で50mg/mLに希釈して、50mg/mLのアルブミン、75mMのNaClを含み、pH緩衝液成分は0になるようにした。pHは、0.5MのHClを用いてpH6.43に調整した。加えたHClの量はわずかであり、アルブミン又は他の成分の濃度を変化させることは無いであろう。次に、表14に示すように、1Mカチオンストック(KCl,NH
4Cl、CaCl
2、MgCl
2、NaCl)を使用して、UV透過性マイクロタイタープレートのウェル中で、試料をさらに10mg/mLに希釈した。
【0138】
【表14】
【0139】
各KCl,NH
4Cl、CaCl
2、MgCl
2、NaClの試料を、表14に従って調製した。すなわち、全部で40の異なる試料を調製した。各試料を、マイクロタイタープレート上で二重で試験した。
【0140】
マイクロタイタープレートを静かに揺らして各ウェルの内容物を混合し、遠心して気泡を除去し、65℃であらかじめ平衡化させ制御しておいたBiotek Synergy Mx((Potton, UK)プレートリーダーに入れた。次にプレートを350nmで、総インキュベーション時間8時間にわたって毎分読んだ。Gen5ソフトウェア(プレートリーダー用のBiotekソフトウェア、バージョン2.00.18)を使用して、A350nmの吸光度がベースラインより0.2吸光度単位だけ上昇するのにかかる時間を計算した。ベースラインは、最初の5つのデータ点の平均から計算した。
【0141】
結果:
図12は、試料の吸光度がベースラインより0.2単位上昇するのにかかる時間を示す。より長い時間は、良好な安定性を示す。
【0142】
結論:
・NaClを使用する対照は、他の例と同じ傾向を示し、すなわちナトリウムレベルの上昇は安定性を改善する。これは、このマイクロタイタープレート法が、安定性効果を試験するのに適していることを確認する。
・すべての異なるカチオン[1価と2価(それぞれ1族金属と2族金属)の両方]について、カチオン濃度が最大500mMまで(及びおそらくはそれ以上も)上昇された、アルブミン安定性が明らかに上昇した。
・これらのデータは、すべてのカチオンがアルブミンの安定性を改善することを示すが、MgCl
2が非常に優れている。
【0143】
実施例7:アルブミンの安定性に対する異なるアニオンの影響
方法:低濃度のオクタノエートを含有する精製アルブミンの試料(約0.2mM、100g/Lのアルブミン)を、まず水で50mg/mLに希釈して、50mg/mLのアルブミン、75mMのNaClを含み、pH緩衝液成分は0になるようにした。試料を0.5MのHClを用いてpH6.43に調整した。加えたHClの量はわずかであり、アルブミン又は他の成分の濃度を変化させることは無かったであろう。表15に従って、1Mのアニオンストック溶液を調製した。
【0144】
【表15】
【0145】
アルブミンとアニオンストックを後述のように使用して、ポリスチレンキュベット(Sarstedt 10×4×45mm)に最終容量1mLで作成した。試料を静かに混合した後、キュベットを65℃であらかじめ平衡化させ制御しておいた温度制御分光光度計に入れた。次に、350nmでの吸光度を、空のキュベットに対して30秒毎に読むことにより、2時間にわたって追跡した。最初の9つのデータ点(ほぼ最初の4分)を取り、平均値を計算し(平均し)、次にすべてのデータ点からこれを引いて処理することにより、ベースライン吸光度を得た。特定の製剤試料について、この吸光度をこのベースラインより0.1AUだけ上昇させるのにかかる時間を記録した。吸光度が2時間(7200秒)で0.1AUを超えなかった場合は、データを外挿して近似時間を得た。吸光度が2時間で0.1AUを超えない試料は、より低いカチオン濃度を有する試料と比較して、安定性が顕著に改善されている。
【0146】
分光光度計中の6キュベットホルダーを使用して、最初の試料はいつも対照とし、他の5つの試料は、上昇する賦形剤(すなわち、NaCl、Na
2SO
4などの試験物質)濃度を使用した。対照はいつも、250mMのNaClを含有するpH6.5試料であったが、これは、試験が有効であると見なされる完全な2時間の65℃でのインキュベーションにわたって、不溶性凝集物が溶液中に残存しないようにするため必要であった。
【0147】
【表16】
【0148】
A350nm吸光度の上昇により検出される不溶性凝集物を測定する時、クエン酸試料について、ナトリウムの安定化作用は決定的ではなかった。従って、分光光度計中で2時間の65℃インキュベーション後、試料を取り出し,遠心分離して大きな粒子を除去し、試料をGP−HPLCにより可溶性凝集物について分析した(実施例4のように)。データは、残存する%モノマーアルブミンとして表した(この値が高いほど、製剤が安定である)。これはまた、ホスフェート試料についても行われた。
【0149】
結果:すべての対照は有効であった。
図13は、A350吸光度がベースラインより0.1AU上まで上昇するのにかかる時間に対する、ナトリウムイオン濃度とアニオン分子種の影響を示す。
図14は、65℃で2時間インキュベーション後の、アルブミンの安定性に対するクエン酸塩、ホスフェート、及びナトリウムの影響を示す。より高いモノマーレベルは、より高い安定性を示す。同時に行なったpH6.5の対照(250mMのナトリウム)の結果は、81%のモノマー含量の平均結果を与えた。
【0150】
結論:
・塩化ナトリウム(無機酸のナトリウム塩)、硫酸ナトリウム(2価酸のナトリウム塩)、及び酢酸ナトリウム(有機酸のナトリウム塩)はすべて、ナトリウム濃度の上昇によるアルブミン安定性の強い上昇を与えた。
・リン酸二水素ナトリウムについては、その傾向は、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、及び酢酸ナトリウムほど強くなかった。しかし150mM及びそれ以上では、ナトリウム含量の上昇により安定性が上昇する傾向がある。この傾向は、ナトリウム濃度の上昇による残存モノマーの上昇の強い傾向で示されるように、可溶性凝集物を測定した時確認された。
・リン酸ナトリウム試料について、ナトリウム濃度の上昇とともに安定性が上昇する傾向は、600mMのナトリウムまで続き、おそらくより高いナトリウム濃度でも続くであろう。
・クエン酸ナトリウムについては、不溶性凝集物の存在をA350吸光度により測定すると、ナトリウム濃度の上昇によるアルブミン安定性の明らかな傾向はなかった。しかし、試料(65℃で2時間インキュベーション後)を、GP−HPLCにより残存する%モノマー含量を測定して可溶性凝集物について評価すると、傾向があった。200mMのナトリウム及びそれ以下では、モノマー含量はほぼ一定であったが、ナトリウム含量が200mMを超えて上昇すると、モノマー含量が上昇し、従ってアルブミン安定性が上昇する明確な傾向があった。クエン酸はキレート剤であり、従って存在するナトリウムはクエン酸塩によりキレート結合され、例えばNaClによりナトリウムが提供された時、アルブミンを安定化するのに利用できる可能性は低い。
・従って、本発明者らは、ナトリウム塩(又は、前の例に基づいて他の1価又は2価アニオン)はアルブミンに安定性を与え、アニオン濃度の上昇により安定性が上昇する傾向があると考える。
【0151】
実施例8:アルブミン安定性に対する異なる緩衝液の影響
【0152】
方法:低濃度のオクタノエートを含有する精製アルブミンの試料(約0.2mM、100g/Lのアルブミン)を、まず水で50mg/mLに希釈して、50mg/mLのアルブミン、75mMのNaClを含み、緩衝液成分は0になるようにした。試料を0.5MのHClを用いてpH6.43に調整した。加えたHClの量はわずかであり、アルブミン又は他の成分の濃度を変化させることは無かったであろう。
【0153】
1MのNaClの緩衝化していないストックを、アルブミンストックと同様にpH6.43に調整した(従ってアルブミンに添加されても、pHは変化しないであろう)以下の緩衝液(表17)を調製した。ホスフェートについては、pHを27%のNaOHで調整し、クエン酸塩については、クエン酸(クエン酸粉末)で調整し、酢酸塩については酢酸(氷酢酸)で調整した。
【0154】
【表17】
添加した酸の量はわずかであり、アルブミン又は成分濃度を変化させることは無かったであろう。
【0155】
アルブミンと緩衝液ストックを後述するように使用し、ポリスチレンキュベット(Sarstedt 10×4×45mm)に最終容量1mLで作成した。試料を静かに混合した後、キュベットを65℃であらかじめ平衡化させ制御しておいた温度制御分光光度計に入れた。次に、350nmでの吸光度を、空のキュベットに対して30秒毎に読むことにより、2時間にわたって追跡した。最初の9つのデータ点(ほぼ最初の4分)を取り、平均値を計算し、次にすべてのデータ点からこれを引いて処理することにより、ベースライン吸光度を得た。特定の製剤試料について、この吸光度をこのベースラインより0.1AUだけ上昇させるのにかかる時間を記録した。吸光度が2時間(7200秒)で0.1AUを超えなかった場合は、データを外挿して近似時間を得た。
【0156】
分光光度計中の6キュベットホルダーを使用して、最初の試料はいつも対照とし、他の5つの試料は、上昇する賦形剤濃度を使用した。対照はいつも、250mMのNaClを含有するpH6.5試料であったが、これは、試験が有効であると見なされる完全な2時間の65℃でのインキュベーションにわたって、不溶性凝集物が溶液中に残存しないようにするため必要であった。
【0157】
【表18】
【0158】
結果:すべての対照は有効であった。試料について、A350吸光度がベースラインより0.1AU上まで上昇するのにかかる時間をナトリウム濃度に対してプロットした。
図15は、すべての緩衝液について、ナトリウムイオン濃度が上昇するとアルブミン安定性が上昇することを示す。
【0159】
クエン酸塩試料について、傾向は他の試料に比較して弱いようである。従って、緩衝液が無い場合(ナトリウムはNaClによってのみ提供される)のデータを、クエン酸ナトリウムで緩衝化した試料とともにプロットしたが、クエン酸ナトリウムからくるナトリウム濃度は無視された(
図16)。
【0160】
・すべての緩衝液について、及び緩衝液が無い場合について、ナトリウム濃度の上昇によりアルブミン安定性が上昇する明らかな傾向がある。
・NaClのようなアルブミン安定性用の良好なナトリウム供与体とは見えなかったクエン酸塩でさえ、ナトリウム濃度の上昇で安定性が上昇する傾向があったが、これは少し弱かった。この弱い理由は、すべての緩衝液についてと同様に、総ナトリウム含量の計算に、緩衝液からのナトリウムが使用されたためであった。従って、このナトリウムが塩化ナトリウムからのナトリウムのように有効(例えば利用可能)ではない場合(前の実施例で示されるように)、弱くなるであろう。これは、
図16により確認された。
・リン酸ナトリウムは、良好なpH緩衝液であるが、安定化のためのナトリウムの供与体としては、より良好な供与体があり、従ってリン酸ナトリウムを他のカチオン供与体(ナトリウム又は他のカチオン)と組合せて、アルブミンを安定化することが有利かも知れない。
・従って、本発明者らは、製剤中の緩衝液は特に重要ではなく、任意の緩衝液、又は緩衝液無しでも使用できると考えている。しかし、緩衝液がキレート性である場合、緩衝液からの存在するアニオンは、アニオンの必要濃度の計算に含めるべきではない。
【0161】
実施例9:緩和変異体の安定性に対する高塩濃度の影響
【0162】
方法:種々のアルブミン及び変異体(表19)を0.5Mのリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)で希釈した。変異体は、点突然変異(K573P、K500A、K573Y、K573W)を有する成熟HSA(配列番号2)と、マウス血清アルブミン(MSA、配列番号19)であった。アルブミン変異体のストック溶液のrHSA濃度とナトリウムイオン濃度は、表20に示される。
【0163】
【表19】
【0164】
【表20】
【0165】
【表20b】
【0166】
すべての変異体は、野生型ヒトアルブミンとはわずかに異なって精製されており、存在するオクタノエートのレベルは各変異体についてわずかに異なっていたであろう。前記結果から、変異体中に存在するオクタノエートは、100g/Lアルブミンで約4mMに等しかったであろうと推定された。野生型ストックは存在するオクタノエートが無視できるレベルであるため、次にこのストックに2Mのオクタノエート5μlを最終容量まで加えて、変異体アルブミンに対してほぼ同等のオクタノエート濃度を与えた。
【0167】
アルブミンストックと1MのNaClストックを表21に従って使用し、各試料はポリスチレンキュベット(Sarstedt 10×4×45mm)に最終容量1mLで作成した。試料を静かに混合した後、キュベットを65℃であらかじめ平衡化させ制御しておいた温度制御分光光度計に入れた。次に、350nmでの吸光度を、空のキュベットに対して30秒毎に読むことにより、2時間にわたって追跡した。最初の9つのデータ点(ほぼ最初の4分)を取り、平均値を計算(平均)し、次にすべてのデータ点からこれを引いて処理することにより、ベースライン吸光度を得た。特定の製剤試料について、この吸光度をこのベースラインより0.1AUだけ上昇させるのにかかる時間を記録した。吸光度が2時間(7200秒)で0.1AUを超えなかった場合は、データを外挿して近似時間を得た。
分光光度計中の6キュベットホルダーを使用して、最初の試料はいつも対照とし、他の5つの試料は、上昇する賦形剤濃度を使用した。対照はいつも、250mMのNaClを含有するpH6.5試料であったが、これは、試験が有効であると見なされる完全な2時間の65℃でのインキュベーションにわたって、不溶性凝集物が溶液中に残存しないようにするため必要であった。
【0168】
【表21】
【0169】
結果:すべての対照は有効であった。
図17と18は、A350吸光度がベースラインより0.1AU上まで上昇するのにかかる時間に対する、ナトリウムイオン濃度の影響を示す。
【0170】
結論:すべての点は、野生型アルブミン、150mMのナトリウム試料とは異なる傾向に従う。この点が傾向をはずれる理由は不明であるが、外れ値である可能性があり、全体の結論を変えることは無い。
・すべてのアルブミン変異体について、ナトリウム濃度の上昇によりアルブミン安定性が上昇する明らかな傾向がある。
・成熟マウス血清アルブミン(配列番号19)は、成熟野生型ヒト血清アルブミン(配列番号2)と72.1%同一であり、全体の安定性はHSA又はHSA変異体ほど高くはないが、200mM以上でナトリウム濃度の上昇により安定性が上昇する明らかな傾向がある。
・存在するオクタノエートのレベルについて基礎製剤は、各変異体間で同じであるように完全には制御されていないため、変異体の安定性を野生型アルブミンの安定性と比較することは困難なため、異なる変異体間の安定性の有意差があるかどうかを言うのは難しい。しかし、各変異体についてのデータセット内で、オクタノエートのレベルは同じであり、従って安定性の上昇は、ナトリウムレベルの上昇にのみ由来する可能性が高い。
・オクタノエートが既知である1つの試料(野生型ヒト血清アルブミン、100g/Lアルブミンで4mMに等しい)は、ナトリウムによる観察された安定性の上昇がまた、このレベルのオクタノエートでも有効であることを示す。
【0171】
実施例10:アルブミン安定性に対するpHの影響
【0172】
方法:低濃度のオクタノエートを含有する精製アルブミンの試料(約0.2mM、100g/Lのアルブミン)を、まず表23のホスフェートストックを使用して、表22に従って50mg/mLに希釈した。
【0173】
【表22】
【0174】
【表23】
【0175】
試料は0.5MのHCl(すなわち、ナトリウムの添加無し)でpHを調整し、pH5ストックを使用して最終pH5.02と5.55を得て、pH6.5ストックを使用して最終pH6.00と6.49を得て、pH7ストックを使用して最終pH7.04を得て、そしてpH8ストックを使用して最終pH7.55と7.98を得た。添加したHClの量はわずかであり、アルブミン又は成分濃度は変化させなかったであろう。
【0176】
ストックは後述(表24)のように使用し、ポリスチレンキュベット(Sarstedt 10×4×45mm)に最終容量1mLで作成した。試料を静かに混合した後、キュベットを65℃であらかじめ平衡化させ制御しておいた温度制御分光光度計に入れた。次に、350nmでの吸光度を、空のキュベットに対して30秒毎に読むことにより、2時間にわたって追跡した。最初の9つのデータ点(ほぼ最初の4分)を取り、平均値を計算(平均)し、次にすべてのデータ点からこれを引いて処理することにより、ベースライン吸光度を得た。特定の製剤試料について、この吸光度をこのベースラインより0.1AUだけ上昇させるのにかかる時間を記録した。吸光度が2時間(7200秒)で0.1AUを超えなかった場合は、データを外挿して近似時間を得た。
【0177】
分光光度計中の6キュベットホルダーを使用して、最初の試料はいつも対照とし、他の5つの試料は、上昇する賦形剤濃度を使用した。対照はいつも、250mMのNaClを含有するpH6.5試料であったが、これは、試験が有効であると見なされる完全な2時間の65℃でのインキュベーションにわたって、不溶性凝集物が溶液中に残存しないようにするため必要であった。
【0178】
【表24】
【0179】
A350nm吸光度の上昇により検出される不溶性凝集物を測定する時、pH7(pH7.04と測定された)試料、pH7.5(pH7.55と測定された)試料、及びpH8(pH7.98と測定された)試料について、ナトリウムの安定化作用は決定的ではなかった。従って、分光光度計中で2時間の65℃インキュベーション後、試料を取り出し,遠心分離して大きな粒子を除去し、試料をGP−HPLCにより可溶性凝集物について分析した(実施例4のように)。データは、残存する%モノマーアルブミンとして表した(この値が高いほど、製剤が安定である)。
【0180】
結果:すべての対照は有効であった。
図19、20、及び21は、ナトリウムイオン濃度に対するアルブミンの安定性を示す。pH7、7.5、及び8試料と同時に流したpH6.5対照の結果は、82%のモノマー含量の平均結果を与えた。
【0181】
結論:
・pH5からpH6.5までのすべてのpHについて、A350吸光度上昇(不溶性凝集物)により測定すると、アルブミン濃度の上昇によりアルブミン安定性が上昇することが明らかであった。
・pH7、7.5、及び8では、この傾向は明瞭ではなく(
図19)、150mMのNaあたりに安定性の低下の可能性があった。しかし、これらの試料を、可溶性凝集物と残存する%モノマー(
図21)についてGP−HPLCにより分析すると、ナトリウムの上昇により安定性が上昇する明らかな傾向があった。不溶性凝集物についてこの傾向が観察されなかった理由は、これらのpHがアルブミンのpI(アルブミンについて5.2)から最も遠く、従って、これらが溶液から出てくる凝集物とともに参加する可能性が低かったためである。
・pH6.5対照は、より高いpHのものより、同じナトリウムイオン濃度(250mM)で残存するモノマーのレベルが高く、pH6.5がアルブミンについてより安定なpHであることを示していた。
・不溶性凝集物と可溶性凝集物の両方のデータを組合せると、ナトリウム濃度の上昇は、pH5からpH8まで、アルブミン安定性を上昇させることを示す。
【0182】
実施例11:幹細胞培養物に対するオクタノエートの影響
【0183】
方法:幹細胞培養物に対するオクタノエートの影響は、委託研究機関であるCellartis AB(Gothernburg, Sweden)により行われた。簡単に説明すると、異なるレベルのオクタノエート(0.2、0.5、1.0、及び8.0mM)を有する100g/Lのアルブミンを、標準的幹細胞培地のアルブミン補助物質として使用した。ヒト胚幹細胞(細胞株SA121とSA181(Cellartis AB、European Human Embryonic Stem Cell Registryに寄託された細胞株))を、その標準培地から移し、6ウェルプレート中で、種々のレベルのオクタノエートを含有するアルブミンを補足した培地中で、5継代にわたって増殖させた。5継代にわたる細胞増殖を、細胞産生中の連続継代中の細胞倍加時間を追跡することにより評価した。培養物の倍加時間は、28〜40時間の範囲内のはずであり、傾向の指標として見られる。アルブミン補足培地中での5継代後の細胞の未分化状態を調べるために、未文化状態の4つの異なる認められたマーカー(すなわち、Oct−4、SSEA−3、Tra−1 60、及びhES−Cellect)に対する抗体を免疫染色で使用した。
【0184】
結果:表25は、倍加時間のデータを示す。初期の倍加時間は極めて大きいが、おそらく細胞が新しい培地組成物に適応する必要があるためであろう。しかし、継代2と継代4の間の倍加時間は、8mMのオクタノエートを含有する試料(これは、許容される細胞付着を維持できず、改変培地及び被覆条件を用いても継代2を超えて継続できなかった)以外は、すべて予測された範囲内である。継代5の倍加時間は極めて変動が大きく、一部の試料については、標準範囲のかなり外にあった。しかし、培養物はさらに拡張できなかったため、結論を導くのは困難である。
【0185】
【表25】
【0186】
表26は、分化マーカーについての免疫細胞化学染色のデータを示し、すべての試料(第5継代に到達できなかったため、8mMのオクタノエートを含有する試料は除く)は、培養物が、試験した5継代について未分化状態を維持することを支持した。
【0187】
【表26】
【0188】
結論:
・アルブミン中に存在するオクタノエートレベルは、幹細胞の付着、未分化細胞増殖の維持に重要である。100g/Lのアルブミン中の8mMオクタノエートでは、オクタノエートは幹細胞に対して毒性であり、表面へのこれらの結合又は細胞増殖を可能にしない。
【0189】
本明細書に記載され、添付の特許請求の範囲に規定された発明の範囲は、本明細書に挙げる具体的な態様によって限定されるべきではない。斯かる具体的態様はあくまでも本発明の一部態様の例示を目的とするものだからである。任意の均等な態様が本発明の範囲に含まれるものとする。事実、本明細書に提示及び記載された変形の他にも、本発明に対して種々の変形が可能であることは、本明細書の上記記載に接した当業者には明らかであろう。斯かる変形例も添付の特許請求の範囲に規定された発明の範囲に含まれるものとする。不整合がある場合には、定義を含む本明細書の記載が優先するものとする。