(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記工程2は、前記重合開始点Aを起点にして非機能性モノマーをラジカル重合させて非機能性ポリマー鎖を成長させ、次いで該非機能性ポリマー鎖の表面に重合開始点Bを形成し、更に該重合開始点Bを起点としてフッ素含有機能性モノマーをラジカル重合させてフッ素含有機能性ポリマー鎖を成長させるものである請求項1記載の表面改質方法。
前記工程1は、前記改質対象物の表面に光重合開始剤を吸着させ、又は更に300〜400nmのLED光を照射し、前記表面上の光重合開始剤から重合開始点を形成させるものである請求項1又は2記載の表面改質方法。
前記工程2は、前記重合開始点Aを起点にして非機能性モノマーを300〜450nmのLED光の照射によりラジカル重合させて非機能性ポリマー鎖を成長させ、更にフッ素含有機能性モノマーを300〜450nmのLED光の照射によりラジカル重合させてフッ素含有機能性ポリマー鎖を成長させるものである請求項1〜3のいずれかに記載の表面改質方法。
前記工程Iは、改質対象物の表面で光重合開始剤Aから形成される重合開始点Aを起点として非機能性モノマーをラジカル重合させて非機能性ポリマー鎖を成長させ、次いで該非機能性ポリマー鎖の表面で光重合開始剤Bから形成される重合開始点Bを起点としてフッ素含有機能性モノマーをラジカル重合させてフッ素含有機能性ポリマー鎖を成長させるものである請求項5記載の表面改質方法。
前記非機能性モノマーは、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリル酸アルカリ金属塩、アクリル酸アミン塩、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、メトキシメチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、メタクリル酸アルカリ金属塩、メタクリル酸アミン塩、メタクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、ジエチルメタクリルアミド、イソプロピルメタクリルアミド、ヒドロキシエチルメタクリルアミド、メタクリロイルモルホリン、メトキシメチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、及びアクリロニトリルからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜9のいずれかに記載の表面改質方法。
前記非機能性、フッ素含有機能性モノマー(液体)又はそれらの溶液が重合禁止剤を含むもので、該重合禁止剤の存在下で重合させる請求項1〜21のいずれかに記載の表面改質方法。
前記非機能性ポリマー鎖及び前記フッ素含有機能性ポリマー鎖を合わせた全ポリマー鎖の長さは、10〜50000nmである請求項1〜23のいずれかに記載の表面改質方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記課題を解決し、用途に応じて、摺動性、生体適合性などの様々な機能性を経済的に有利に付与できる加硫ゴム又は熱可塑性エラストマーの表面改質方法を提供することを目的とする。また、該表面改質方法により得られる改質された表面を少なくとも一部に有する注射器用ガスケット、タイヤの溝表面やサイドウォール表面を少なくとも一部に有するタイヤなどの表面改質弾性体を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、加硫ゴム又は熱可塑性エラストマーを改質対象物とする表面改質方法であって、前記改質対象物の表面に重合開始点Aを形成する工程1と、前記重合開始点Aを起点にして非機能性モノマーをラジカル重合させて非機能性ポリマー鎖を成長させ、更にフッ素含有機能性モノマーをラジカル重合させてフッ素含有機能性ポリマー鎖を成長させる工程2とを含む表面改質方法に関する。
【0009】
前記工程2は、前記重合開始点Aを起点にして非機能性モノマーをラジカル重合させて非機能性ポリマー鎖を成長させ、次いで該非機能性ポリマー鎖の表面に重合開始点Bを形成し、更に該重合開始点Bを起点としてフッ素含有機能性モノマーをラジカル重合させてフッ素含有機能性ポリマー鎖を成長させるものであることが好ましい。
【0010】
前記工程1は、前記改質対象物の表面に光重合開始剤を吸着させ、又は更に300〜400nmのLED光を照射し、前記表面上の光重合開始剤から重合開始点を形成させるものであることが好ましい。
【0011】
前記工程2は、前記重合開始点Aを起点にして非機能性モノマーを300〜450nmのLED光の照射によりラジカル重合させて非機能性ポリマー鎖を成長させ、更にフッ素含有機能性モノマーを300〜450nmのLED光の照射によりラジカル重合させてフッ素含有機能性ポリマー鎖を成長させるものであることが好ましい。
【0012】
本発明はまた、加硫ゴム又は熱可塑性エラストマーを改質対象物とする表面改質方法であって、前記改質対象物の表面に光重合開始剤Aの存在下で非機能性モノマーをラジカル重合させて非機能性ポリマー鎖を成長させ、更に光重合開始剤Bの存在下でフッ素含有機能性モノマーをラジカル重合させてフッ素含有機能性ポリマー鎖を成長させる工程Iを含む表面改質方法に関する。
【0013】
前記工程Iは、改質対象物の表面で光重合開始剤Aから形成される重合開始点Aを起点として非機能性モノマーをラジカル重合させて非機能性ポリマー鎖を成長させ、次いで該非機能性ポリマー鎖の表面で光重合開始剤Bから形成される重合開始点Bを起点としてフッ素含有機能性モノマーをラジカル重合させてフッ素含有機能性ポリマー鎖を成長させるものであることが好ましい。
【0014】
前記加硫ゴム又は熱可塑性エラストマーは、二重結合に隣接する炭素原子であるアリル位の炭素原子を有するものであることが好ましい。
前記光重合開始剤は、ベンゾフェノン系化合物及び/又はチオキサントン系化合物が好ましい。
【0015】
前記工程2は、前記非機能性モノマー及び/又は前記フッ素含有機能性モノマーのラジカル重合時に、還元剤又は抗酸化物質が添加されることが好ましい。ここで、前記還元剤又は抗酸化物質は、リボフラビン、アスコルビン酸、α−トコフェロール、β−カロテン及び尿酸からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0016】
前記表面改質方法は、前記光照射時又は照射前に反応容器及び反応液に不活性ガスを導入し、不活性ガス雰囲気に置換して重合させることが好ましい。
【0017】
前記非機能性モノマーは、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリル酸アルカリ金属塩、アクリル酸アミン塩、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、メトキシメチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、メタクリル酸アルカリ金属塩、メタクリル酸アミン塩、メタクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、ジエチルメタクリルアミド、イソプロピルメタクリルアミド、ヒドロキシエチルメタクリルアミド、メタクリロイルモルホリン、メトキシメチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、及びアクリロニトリルからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0018】
前記フッ素含有機能性モノマーは、(A)下記式(1)で表される含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物に、(B)(メタ)アクリル基を有する不飽和モノカルボン酸を付加反応させることにより得られる含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物であることが好ましい。
【化1】
(Rf
11はフルオロアルキル構造又はフルオロポリエーテル構造を含む分子量100〜40,000の一価又は二価の基である。Q
11は少なくとも(a+b)個のSi原子を有する(a+b)価の、シロキサン構造、非置換又はハロゲン置換のシルアルキレン構造、シルアリーレン構造又はこれらの2種以上の組み合せからなる連結基であり、環状構造をなしていてもよく、Q
12は炭素数1〜20の二価の炭化水素基であり、環状構造をなしていてもよく、途中エーテル結合又はエステル結合を含んでいてもよい。R
11〜R
13はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜10の一価炭化水素基であり、これらの基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換されていても良く、R
11とR
12が結合してこれらが結合している炭素原子と共に一つの環をなしていても良い。Rf
11が一価のときにはa’は1であり、かつaは1〜6の整数であり、Rf
11が二価のときにはaは1であり、かつa’は2である。bは1〜20の整数である。)
【0019】
前記式(1)において、Rf
11は、下記式;
−C
iF
2iO−
(iは、単位毎に独立に、1〜6の整数である。)
で表される繰り返し単位を1〜500個含むことが好ましい。
【0020】
前記式(1)において、Q
11は、下記式(2)で表されることが好ましい。
【化2】
(a、bは式(1)におけるa、bと同一であり、破線は結合手を示し、aの繰り返し単位を有するユニットはRf
11と結合し、bの繰り返し単位を有するユニットは下記式;
【化3】
(Q
12、R
11〜R
13は式(1)で定義した通りである。)
で示される基と結合する。また、2種類の繰り返し単位の並びはランダムである。Rf
11は式(1)で定義した通りである。)
【0021】
前記式(1)において、Rf
11は、下記式(3)で表されるものであることが好ましい。
【化4】
(Rf’
11は二価の分子量300〜30,000のパーフルオロポリエーテル基であり、途中分岐を含んでいても良い。Q
13は二価の有機基であり、酸素原子、窒素原子、フッ素原子又はケイ素原子を含んでいてもよく、また、環状構造又は不飽和結合を有する基であってもよい。Q
f11はQ
13又はフッ素原子である。Tは、下記式(4)
【化5】
(R
11〜R
13、Q
12、a、bは式(1)で定義した通りであり、Q
14は少なくとも(a+b)個のSi原子を有する(a+b)価のシロキサン構造、非置換又はハロゲン置換のシルアルキレン構造、シルアリーレン構造又はこれらの2種以上の組み合せからなる連結基である。)
で表される連結基であり、vは0〜5の整数であり、なおかつQ
f11がフッ素原子のときv=0である。)
【0022】
前記フッ素含有機能性モノマーは、下記式で示される含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物及び下記式で示される含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物の混合物であることが好ましい。
【化6】
(式中、b’
1+b’
2は2〜6.5であり、Rf’
12は下記の基である。)
【化7】
(式中、n
1は2〜100である。)
【0023】
前記フッ素含有機能性モノマーは、下記式;
(Rf
21R
21SiO)(R
AR
21SiO)
h
(式中、R
21は水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基又はフェニル基であり、Rf
21はフッ素原子を含有する有機基であり、R
Aは(メタ)アクリル基を含有する有機基であり、hはh≧2である。)
で表される環状シロキサンからなり、1分子中にF原子を3個以上及びSi原子を3個以上含有する多官能(メタ)アクリレート化合物であることが好ましい。
【0024】
前記R
AのSi原子への結合部位は、Si−O−C結合であることが好ましい。
前記Rf
21は、C
tF
2t+1(CH
2)
u−(tは1〜8の整数、uは2〜10の整数である。)で示される基又はパーフルオロポリエーテル置換アルキル基であることが好ましい。
【0025】
前記フッ素含有機能性モノマーは、赤外線吸収スペクトルの1045cm
−1付近と1180cm
−1付近に強い吸収ピークを持ち、806cm
−1付近と1720cm
−1付近に吸収ピークを持ち、1532cm
−1付近に弱い吸収ピークを持ち、3350cm
−1付近にブロードな弱い吸収ピークを持つものであることが好ましい。
【0026】
前記フッ素含有機能性モノマーは、Chloroform−d溶液での
13C NMRスペクトルにおいて、化学シフトが13.01、14.63、23.04、40.13、50.65、63.54、68.97、73.76、76.74、77.06、77.38、113.21、114.11、116.96、117.72、118.47、128.06、131.38、156.46、166.02ppm付近にシグナルを持つものであることが好ましい。
【0027】
前記フッ素含有機能性モノマーは、Chloroform−d溶液での
1H NMRスペクトルにおいて、化学シフトが3.40、3.41、3.49、3.60、5.26、5.58、6.12、6.14、6.40、6.42、6.46ppm付近にシグナルを持つものであることが好ましい。
【0028】
前記表面改質方法は、前記非機能性、フッ素含有機能性モノマー(液体)又はそれらの溶液が重合禁止剤を含むもので、該重合禁止剤の存在下で重合させることが好ましい。ここで、前記重合禁止剤は、4−メチルフェノールであることが好ましい。
【0029】
前記非機能性ポリマー鎖及び前記フッ素含有機能性ポリマー鎖を合わせた全ポリマー鎖の長さは、10〜50000nmであることが好ましい。
前記非機能性ポリマー鎖及び前記フッ素含有機能性ポリマー鎖の長さの比は、50:50〜99.9:0.1であることが好ましい。
【0030】
本発明は、前記表面改質方法により得られる表面改質弾性体に関する。
本発明は、前記表面改質方法により得られる水存在下又は乾燥状態での摺動性、低摩擦又は水の低抵抗が要求される表面改質弾性体に関する。
【0031】
本発明は、前記表面改質方法により三次元形状の固体表面の少なくとも一部が改質された表面改質弾性体に関する。
前記表面改質弾性体はポリマーブラシであることが好ましい。
【0032】
本発明は、前記表面改質方法により改質された表面を少なくとも一部に有する注射器用ガスケットに関する。
本発明は、前記表面改質方法により改質されたタイヤの溝表面及び/又はサイドウォール表面を少なくとも一部に有するタイヤに関する。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、加硫ゴム又は熱可塑性エラストマーを改質対象物とする表面改質方法であって、前記改質対象物の表面に重合開始点Aを形成する工程1と、前記重合開始点Aを起点にして非機能性モノマーをラジカル重合させて非機能性ポリマー鎖を成長させ、更にフッ素含有機能性モノマーをラジカル重合させてフッ素含有機能性ポリマー鎖を成長させる工程2とを含む表面改質方法であるので、ポリマー鎖の最表面にフッ素含有機能性ポリマー鎖からなるポリマー層が形成され、これにより、所望の機能を付与できる。また、ポリマー鎖の他の部分が非機能性ポリマー鎖からなるポリマー層で形成されているので、経済的にも有利である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、加硫ゴム又は熱可塑性エラストマーを改質対象物とする表面改質方法であって、前記改質対象物の表面に重合開始点Aを形成する工程1と、前記重合開始点Aを起点にして非機能性モノマーをラジカル重合させて非機能性ポリマー鎖を成長させ、更にフッ素含有機能性モノマーをラジカル重合させてフッ素含有機能性ポリマー鎖を成長させる工程2とを含む。
【0036】
一般に凹凸の大きい加硫ゴムや熱可塑性エラストマーの表面にポリマー鎖を形成して機能性を付与するためには、その表面からある程度の高さ(長さ)のポリマー鎖を形成し、機能性ポリマー鎖を表面に出すことが必要になるが、機能性モノマーは通常非常に高価なので、それによるポリマー鎖の量を機能性が発揮される必要最小限にとどめないと経済的に不利になってしまう。これに対して本発明は、先ず改質対象物表面に安価な非機能性モノマーによるポリマー鎖を形成してある程度の足場を築き、その上にフッ素含有機能性モノマーを重合して必要最小限の機能性ポリマー鎖を築くことで、最表面に機能性ポリマー層を形成する表面改質方法である。従って、非常に経済的に、摺動性、生体適合性、抗菌性などの所望の機能性を付与した表面改質弾性体を提供できる。
【0037】
更に本発明で使用されるフッ素含有機能性モノマーは、表面自由エネルギーが低いので、これを用いて最表面に機能性ポリマー鎖を形成することにより、摺動性が高い表面を作製できる。
【0038】
工程1では、加硫成形後のゴム又は成形後の熱可塑性エラストマー(改質対象物)の表面に重合開始点Aを形成する。
上記加硫ゴム、上記熱可塑性エラストマーとしては、二重結合に隣接する炭素原子(アリル位の炭素原子)を有するものが好適に使用される。
【0039】
改質対象物としてのゴムとしては、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、天然ゴム、脱タンパク天然ゴムなどのジエン系ゴム、及びイソプレンユニットを不飽和度として数パーセント含むブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムなどが挙げられる。ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムの場合、加硫ゴムからの抽出物が少なくなる点から、トリアジンによる架橋ゴムが好ましい。この場合、受酸剤を含んでもよく、好適な受酸剤としては、ハイドロタルサイト、炭酸マグネシウムが挙げられる。
【0040】
他のゴムの場合は、硫黄加硫が好ましい。その場合、硫黄加硫で一般に使用されている加硫促進剤、酸化亜鉛、フィラー、シランカップリング剤などの配合剤を添加してもよい。フィラーとしては、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウムなどを好適に使用できる。
【0041】
なお、ゴムの加硫条件は適宜設定すれば良く、ゴムの加硫温度は、好ましくは150℃以上、より好ましくは170℃以上、更に好ましくは175℃以上である。
【0042】
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、可塑性成分(ハードセグメント)の集まりが架橋点の役割を果たすことにより常温でゴム弾性を有する高分子化合物(スチレン−ブタジエンスチレン共重合体などの熱可塑性エラストマー(TPE)など);熱可塑性成分及びゴム成分が混合され架橋剤によって動的架橋が行われたゴム弾性を有する高分子化合物(スチレン系ブロック共重合体又はオレフィン系樹脂と、架橋されたゴム成分とを含むポリマーアロイなどの熱可塑性エラストマー(TPV)など)が挙げられる。
【0043】
また、他の好適な熱可塑性エラストマーとして、ナイロン、ポリエステル、ウレタン、ポリプロピレン、及びそれらの動的架橋熱可塑性エラストマーが挙げられる。動的架橋熱可塑性エラストマーの場合、ハロゲン化ブチルゴムを熱可塑性エラストマー中で動的架橋したものが好ましい。この場合の熱可塑性エラストマーは、ナイロン、ウレタン、ポリプロピレン、SIBS(スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体)などが好ましい。
【0044】
重合開始点Aは、例えば、改質対象物の表面に光重合開始剤Aを吸着させることで形成される。光重合開始剤Aとしては、例えば、カルボニル化合物、テトラエチルチウラムジスルフィドなどの有機硫黄化合物、過硫化物、レドックス系化合物、アゾ化合物、ジアゾ化合物、ハロゲン化合物、光還元性色素などが挙げられ、なかでも、カルボニル化合物が好ましい。
【0045】
光重合開始剤Aとしてのカルボニル化合物としては、ベンゾフェノン及びその誘導体が好ましく、例えば、下記式で表されるベンゾフェノン系化合物を好適に使用できる。
【化8】
【0046】
(式において、R
1〜R
5及びR
1’〜R
5’は、同一若しくは異なって、水素原子、アルキル基、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、水酸基、1〜3級アミノ基、メルカプト基、又は酸素原子、窒素原子、硫黄原子を含んでもよい炭化水素基を表し、隣り合う任意の2つが互いに連結し、それらが結合している炭素原子と共に環構造を形成してもよい。)
【0047】
ベンゾフェノン系化合物の具体例としては、ベンゾフェノン、キサントン、9−フルオレノン、2,4−ジクロロベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンなどが挙げられる。なかでも、良好にポリマーブラシが得られるという点から、ベンゾフェノン、キサントン、9−フルオレノンが特に好ましい。
【0048】
ベンゾフェノン系化合物として、フルオロベンゾフェノン系化合物も好適に使用でき、例えば、下記式で示される2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾフェノン、デカフルオロベンゾフェノンなどが挙げられる。
【化9】
【0049】
光重合開始剤Aとしては、重合速度が速い点、及びゴムなどに吸着及び/又は反応し易い点から、チオキサントン系化合物も好適に使用可能である。例えば、下記式で表される化合物を好適に使用できる。
【化10】
(式中、R
11〜R
14及びR
11’〜R
14’は、同一若しくは異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、環状アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、又はアリールオキシ基を表す。)
【0050】
上記式で示されるチオキサントン系化合物としては、チオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2,3−ジエチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、2−メトキシチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、2−シクロヘキシルチオキサントン、4−シクロヘキシルチオキサントン、2−ビニルチオキサントン、2,4−ジビニルチオキサントン、2,4−ジフェニルチオキサントン、2−ブテニル−4−フェニルチオキサントン、2−メトキシチオキサントン、2−p−オクチルオキシフェニル−4−エチルチオキサントンなどが挙げられる。なかでも、R
11〜R
14及びR
11’〜R
14’のうちの1〜2個、特に2個がアルキル基により置換されているものが好ましく、2,4−Diethylthioxanthone(2,4−ジエチルチオキサントン)がより好ましい。
【0051】
ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物などの光重合開始剤Aの改質対象物表面への吸着方法は、公知の方法を用いれば良い。例えば、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物については、対象物の改質する表面部位を、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物を有機溶媒に溶解させて得られた溶液で処理することで表面に吸着させ、必要に応じて有機溶媒を乾燥により蒸発させることにより、重合開始点が形成される。表面処理方法としては、該ベンゾフェノン系化合物溶液、該チオキサントン系化合物溶液を改質対象物の表面に接触させることが可能であれば特に限定されず、例えば、該ベンゾフェノン系化合物溶液、該チオキサントン系化合物溶液の塗布、吹き付け、該溶液中への浸漬などが好適である。更に、一部の表面にのみ表面改質が必要なときには、必要な一部の表面にのみ光重合開始剤Aを吸着させればよく、この場合には、例えば、該溶液の塗布、該溶液の吹き付けなどが好適である。上記溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトン、ベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、THFなどを使用できるが、改質対象物を膨潤させない点、乾燥・蒸発が早い点でアセトンが好ましい。
【0052】
また、改質対象部位にベンゾフェノン系化合物溶液、該チオキサントン系化合物溶液による表面処理を施して光重合開始剤Aを吸着させた後、更に光を照射して改質対象物の表面に化学結合させることが好ましい。例えば、波長300〜450nm(好ましくは300〜400nm、より好ましくは350〜400nm)の紫外線を照射して、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物を表面に固定化できる。前記工程1及び該固定化においては、ゴム表面の水素が引き抜かれ、ベンゾフェノンのC=Oの炭素とゴム表面の炭素に共有結合が形成されると同時に、引き抜かれた水素がC=Oの酸素に結合し、C−O−Hが形成される。また、この水素引き抜き反応は改質対象物のアリル位の水素で選択的に行われるため、ゴムはアリル水素を持つブタジエン、イソプレンユニットを含むものが好ましい。
【0054】
なかでも、改質対象物の表面を光重合開始剤Aで処理することで該光重合開始剤Aを表面に吸着させ、次いで、処理後の表面に300〜450nmのLED光を照射することにより、重合開始剤Aを形成することが好ましく、特に、改質対象物の表面にベンゾフェノン系化合物溶液、チオキサントン系化合物溶液による表面処理を施して光重合開始剤Aを吸着させた後、更に処理後の表面に300〜450nmのLED光を照射することで、吸着させた光重合開始剤Aを表面に化学結合させることが好ましい。波長が300nm未満では、改質対象物の分子を切断させて、ダメージを与える可能性があるため、300nm以上の光が好ましく、改質対象物のダメージが非常に少ないという観点から、355nm以上の光が更に好ましい。一方、450nmを超える光では、重合開始剤が活性されにくく、重合反応が進みにくいため、450nm以下の光が好ましく、重合開始剤をより活性させる観点から、400nm以下の光が更に好ましい。LED光の波長は、355〜380nmが特に好適である。なお、LED光は波長が狭く、中心波長以外の波長が出ない点で好適であるが、水銀ランプ等でもフィルターを用いて、300nm未満の光をカットすれば、LED光と同様の効果を得ることも可能である。
【0055】
工程2では、前記重合開始点Aを起点にして非機能性モノマーをラジカル重合させて非機能性ポリマー鎖を成長させ、更にフッ素含有機能性モノマーをラジカル重合させてフッ素含有機能性ポリマー鎖を成長させ、好ましくは、前記重合開始点Aを起点にして非機能性モノマーをラジカル重合させて非機能性ポリマー鎖を成長させ、次いで該非機能性ポリマー鎖の表面に重合開始点Bを形成し、更に該重合開始点Bを起点としてフッ素含有機能性モノマーをラジカル重合させてフッ素含有機能性ポリマー鎖を成長させる。具体的には、先ず、工程1で形成された重合開始点Aを起点に非機能性モノマーをラジカル重合させて非機能性ポリマー鎖を作製し、次いで、得られた該非機能性ポリマー鎖に、必要に応じて得られた非機能性ポリマー鎖の表面に重合開始点Bを形成して該重合開始点Bを起点として、更にフッ素含有機能性モノマーをラジカル重合させてポリマー鎖を延長してフッ素含有機能性ポリマー鎖を作製することで、最表面にフッ素含有機能性ポリマー層が形成された表面改質弾性体を製造できる。
【0056】
工程2の非機能性モノマーとは、用途などに応じて適宜設定した機能を有さない非機能性ポリマー鎖を作製するモノマーである。例えば、改質対象物に摺動性、生体適合性、抗菌性などの機能を付与する場合は、これらの機能を付与しないモノマーが該当し、経済性などの観点から適宜選択すればよい。一方、フッ素含有機能性モノマーとは、所望の機能を発揮するフッ素含有機能性ポリマー鎖を作製できるモノマーであり、含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物、環状シロキサンなどが挙げられ、摺動性などの性能を付与できる。
【0057】
非機能性モノマーは、前記の観点で適宜選択すればよく、例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチルなど)、アクリル酸アルカリ金属塩(アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウムなど)、アクリル酸アミン塩、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、メトキシメチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、メタクリル酸、メタクリル酸エステル(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなど)、メタクリル酸アルカリ金属塩(メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸カリウムなど)、メタクリル酸アミン塩、メタクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、ジエチルメタクリルアミド、イソプロピルメタクリルアミド、ヒドロキシエチルメタクリルアミド、メタクリロイルモルホリン、メトキシメチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、アクリロニトリルなどを使用できる。これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0058】
フッ素含有機能性モノマーとしては、例えば、(A)下記式(1)で表される含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物に、(B)(メタ)アクリル基を有する不飽和モノカルボン酸を付加反応させることにより得られる含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物を好適に使用できる。
【化12】
(Rf
11はフルオロアルキル構造又はフルオロポリエーテル構造を含む分子量100〜40,000の一価又は二価の基である。Q
11は少なくとも(a+b)個のSi原子を有する(a+b)価の、シロキサン構造、非置換又はハロゲン置換のシルアルキレン構造、シルアリーレン構造又はこれらの2種以上の組み合せからなる連結基であり、環状構造をなしていてもよく、Q
12は炭素数1〜20の二価の炭化水素基であり、環状構造をなしていてもよく、途中エーテル結合(−O−)又はエステル結合(−COO−)を含んでいてもよい。R
11〜R
13はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜10の一価炭化水素基であり、これらの基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換されていても良く、R
11とR
12が結合してこれらが結合している炭素原子と共に一つの環をなしていても良い。Rf
11が一価のときにはa’は1であり、かつaは1〜6の整数であり、Rf
11が二価のときにはaは1であり、かつa’は2である。bは1〜20の整数である。)
【0059】
含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物(A)について、式(1)のQ
11としては、具体的には以下に示される構造のものなどが挙げられる。
【化13】
【0060】
なお、式中のa、bは前記と同一で、共に1〜4の整数が好ましく、また、a+bは3〜5の整数が好ましい。a個及びb個の各ユニットの並びはランダムであり、a個及びb個の各ユニットの破線で示される結合手は、Rf
11又は下記式で示される基と結合する。
【化14】
(式中、Q
12、R
11〜R
13は上記の通りである。)
【0061】
式(1)において、Q
12の二価の炭化水素基の炭素数は2〜15が好ましく、Q
12の具体的な構造としては、−CH
2CH
2−、−CH
2CH(CH
3)−、−CH
2CH
2CH
2OCH
2−などが挙げられる。
【0062】
R
11〜R
13の一価炭化水素基の炭素数は1〜8が好ましく、R
11〜R
13の具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基等が挙げられる。
【0063】
このようなR
11〜R
13とQ
12の組み合わせからなる前記式で示される基としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【化15】
【0064】
式(1)において、Rf
11の分子量は500〜20,000が好ましい。また、Rf
11は−C
iF
2iO−(iは、単位毎に独立に、1〜6の整数である。)で表される繰り返し単位を1〜500個、好ましくは2〜400個、より好ましくは4〜200個含むものが好適である。なお、本発明において、分子量は、
1H−NMR及び
19F−NMRに基づく末端構造と主鎖構造との比率から算出される数平均分子量である。
【0065】
式(1)のRf
11としては、下記式(3)で表される基が挙げられる。
【化16】
(Rf’
11は二価の分子量300〜30,000のパーフルオロポリエーテル基であり、途中分岐を含んでいても良い。Q
13は二価の有機基であり、酸素原子、窒素原子、フッ素原子又はケイ素原子を含んでいてもよく、また、環状構造又は不飽和結合を有する基であってもよい。Q
f11はQ
13又はフッ素原子である。Tは、下記式(4)
【化17】
(R
11〜R
13、Q
12、a、bは式(1)で定義した通りであり、Q
14は少なくとも(a+b)個のSi原子を有する(a+b)価のシロキサン構造、非置換又はハロゲン置換のシルアルキレン構造、シルアリーレン構造又はこれらの2種以上の組み合せからなる連結基である。)
で表される連結基であり、vは0〜5の整数であり、なおかつQ
f11がフッ素原子のときv=0である。)
【0066】
式(3)において、Rf’
11の分子量は500〜20,000が好ましく、Rf’
11の具体例としては、下記式で表される二価のパーフルオロポリエーテル基などが挙げられる。
【化18】
(式中、Yはそれぞれ独立にF又はCF
3基、rは2〜6の整数、m、nはそれぞれ0〜200、好ましくは0〜100の整数、但し、m+nは2〜200、好ましくは3〜150の整数である。sは0〜6の整数であり、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
【化19】
(式中、jは1〜3の整数、kは1〜200、好ましくは1〜60の整数である。)
【0067】
式(3)のQ
13としては、下記のものが例示される。なお、式中、Phはフェニル基を示す。
【化20】
【0068】
式(1)において、Rf
11が一価の場合、aは1〜3の整数が好ましい。bは1〜6の整数が好ましい。また、a+bは3〜6の整数が好ましい。
【0069】
式(1)におけるRf
11の具体例としては、以下で示される基などが挙げられる。
【化21】
(式中、m、n、r、sは上述した通りである。)
【0070】
含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物(A)の具体例としては、以下の化合物などを例示できる。
【0071】
【化22】
(式中、j、m、nは上記と同じである。b’は1〜8の整数である。)
なお、これらの含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0072】
(メタ)アクリル基を有する不飽和モノカルボン酸(B)としては、アクリル酸、メタクリル酸が好適であるが、2−クロロアクリル酸、2−(トリフルオロメチル)アクリル酸、2,3,3−トリフルオロアクリル酸等のように一部の水素原子が塩素、フッ素等のハロゲン原子でハロゲン化されているものを用いることもできる。また、必要に応じてこれらのカルボン酸がアリル基、シリル基等で保護されたものを用いることもできる。なお、これらの不飽和モノカルボン酸は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0073】
本発明における含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物は、含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物(A)のエポキシ基と(メタ)アクリル基を有する不飽和モノカルボン酸(B)のカルボキシル基とを公知の方法で反応させて得られ、具体的には、以下に示す化合物などが挙げられる。
【0074】
【化23】
(式中、j、m、n、b’は上記と同じである。)
【0075】
本発明では、フッ素含有機能性モノマーとして、前記具体例などの含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物及び前記具体例などの含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物の混合物を好適に使用でき、特に下記式で示される含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物及び含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物の混合物が好ましい。これにより、本発明の効果が充分に得られる。
【化24】
(式中、b’
1+b’
2は2〜6.5であり、Rf’
12は下記の基である。)
【化25】
(式中、n
1は2〜100である。)
【0076】
前記フッ素含有機能性モノマーとしては、下記式;
(Rf
21R
21SiO)(R
AR
21SiO)
h
(式中、R
21は水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基又はフェニル基であり、Rf
21はフッ素原子を含有する有機基であり、R
Aは(メタ)アクリル基を含有する有機基であり、hはh≧2である。)
で表される環状シロキサンからなり、1分子中にF原子を3個以上及びSi原子を3個以上含有する多官能(メタ)アクリレート化合物も挙げられる。
【0077】
多官能(メタ)アクリレート化合物において、Rf
21としては、C
tF
2t+1(CH
2)
u−(式中、tは1〜8の整数、uは2〜10の整数である。)で示される基又はパーフルオロポリエーテル置換アルキル基が挙げられ、具体的には、CF
3C
2H
4−、C
4F
9C
2H
4−、C
4F
9C
3H
6−、C
8F
17C
2H
4−、C
8F
17C
3H
6−、C
3F
7C(CF
3)
2C
3H
6−、C
3F
7OC(CF
3)FCF
2OCF
2CF
2C
3H
6−、C
3F
7OC(CF
3)FCF
2OC(CF
3)FC
3H
6−、CF
3CF
2CF
2OC(CF
3)FCF
2OC(CF
3)FCONHC
3H
6−等が例示できる。
【0078】
R
Aの具体例としては、CH
2=CHCOO−、CH
2=C(CH
3)COO−、CH
2=CHCOOC
3H
6−、CH
2=C(CH
3)COOC
3H
6−、CH
2=CHCOOC
2H
4O−、CH
2=C(CH
3)COOC
2H
4O−等が挙げられる。更にR
Aは、Si原子への結合がSi−O−C結合であることが好ましい。hについては、3≦h≦5が好ましい。
【0079】
多官能(メタ)アクリレート化合物は、1分子中にF原子を3個以上及びSi原子を3個以上、好ましくはF原子を3〜17個及びSi原子を3〜8個含有するものである。
【0080】
前記多官能(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、以下に示す化合物などが例示される。
【化26】
【0081】
また本発明では、フッ素含有機能性モノマーとして、赤外線吸収スペクトルの1045cm
−1付近、1180cm
−1付近、806cm
−1付近、1720cm
−1付近、1532cm
−1付近、3350cm
−1付近に吸収ピークを持つものを使用することが好ましく、特に1045cm
−1付近と1180cm
−1付近に強い吸収ピークを持ち、806cm
−1付近と1720cm
−1付近に吸収ピークを持ち、1532cm
−1付近に弱い吸収ピークを持ち、3350cm
−1付近にブロードな弱い吸収ピークを持つものが好適である。この場合、摺動性などの性能に優れたフッ素含有機能性ポリマー鎖を形成できる。
【0082】
更にフッ素含有機能性モノマーは、Chloroform−d(重クロロホルム)溶液での
13C NMRスペクトルにおいて、化学シフト値として13.01、14.63、23.04、40.13、50.65、63.54、68.97、73.76、76.74、77.06、77.38、113.21、114.11、116.96、117.72、118.47、128.06、131.38、156.46、166.02ppm付近にシグナルを持つものが好ましい。
【0083】
また、フッ素含有機能性モノマーは、Chloroform−d(重クロロホルム)溶液での
1H NMRスペクトルにおいて、化学シフト値として3.40、3.41、3.49、3.60、5.26、5.58、6.12、6.14、6.40、6.42、6.46ppm付近にシグナルを持つものが好ましい。
【0084】
工程2の非機能性モノマー、フッ素含有機能性モノマーのそれぞれのラジカル重合の方法としては、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物などが吸着又は共有結合した改質対象物の表面又は非機能性ポリマー鎖が形成された改質対象物に、非機能性モノマー又はフッ素含有機能性モノマー(液体)若しくはそれらの溶液を塗工(噴霧)し、又は、該改質対象物又は非機能性ポリマー鎖が形成された改質対象物を非機能性モノマー又はフッ素含有機能性モノマー(液体)若しくはそれらの溶液に浸漬し、紫外線などの光を照射することでそれぞれのラジカル重合(光ラジカル重合)が進行し、該改質対象物表面に対して、非機能性ポリマー鎖、フッ素含有機能性ポリマー鎖をこの順に成長させることができる。更に前記塗工後に、表面に透明なガラス・PET・ポリカーボネートなどで覆い、その上から紫外線などの光を照射することでそれぞれのラジカル重合(光ラジカル重合)を進行させ、改質対象物表面に対して、非機能性ポリマー鎖、フッ素含有機能性ポリマー鎖をこの順に成長させることもできる。
【0085】
工程2は、還元剤又は抗酸化物質が添加された非機能性モノマー又はフッ素含有機能性モノマーを光照射することでラジカル重合(光ラジカル重合)を進行させることが好ましい。この場合、還元剤又は抗酸化物質が系内の酸素を補足するため、望ましい。還元剤又は抗酸化物質が添加されたモノマーは、それぞれの成分が混合しているものでも、分離しているものでもよい。また、工程1で得られた改質対象物に非機能性モノマーを接触させた後、又は非機能性ポリマー鎖が形成された改質対象物にフッ素含有機能性モノマーを接触させた後、そこに更に還元剤、抗酸化物質を添加しても、前記成分を先ず混合しその混合材料を該改質対象物又は該非機能性ポリマー鎖が形成された改質対象物に接触させてもよい。
【0086】
具体的には、工程1で得られた光重合開始剤Aによる重合開始点Aが表面に形成された改質対象物と、非機能性モノマー(液体)若しくはその溶液に還元剤又は抗酸化物質の溶液が添加されたものとを接触させた後に(浸漬、塗布など)、又は、該改質対象物と非機能性モノマー(液体)若しくはその溶液とを接触させ、更にその上に還元剤又は抗酸化物質の溶液を載置した後に、光照射する工程を行い、次いで、非機能性ポリマー鎖が形成された改質対象物に対して、フッ素含有機能性モノマー(液体)若しくはその溶液、還元剤又は抗酸化物質の溶液を用いて同様の工程を行うことなど、によってそれぞれのラジカル重合を実施し、非機能性ポリマー鎖、フッ素含有機能性ポリマー鎖を順に形成できる。
【0087】
例えば、比重が1より大きく、また水と混ざらないフッ素含有機能性モノマーを使用すると、ラジカル重合性モノマー(液体)又はその溶液の上に、還元剤又は抗酸化剤の溶液が分離して乗る。
【0088】
還元剤、抗酸化物質としては特に限定されず、このような作用を有する化合物を適宜使用できる。例えば、レチノール、デヒドロレチノール、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、レチナール、レチノイン酸、ビタミンA油などのビタミンA類、それらの誘導体及びそれらの塩;α−カロテン、β−カロテン、γ−カロテン、クリプトキサンチン、アスタキサンチン、フコキサンチンなどのカロテノイド類及びその誘導体;ピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサール−5−リン酸エステル、ピリドキサミンなどのビタミンB類、それらの誘導体及びそれらの塩;アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、ステアリン酸アスコルビル、パルミチン酸アスコルビル、ジパルミチン酸アスコルビル、アスコルビン酸リン酸マグネシウムなどのビタミンC類、それらの誘導体及びそれらの塩;
エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール、1,2,5−ジヒドロキシ−コレカルシフェロールなどのビタミンD類、それらの誘導体及びそれらの塩;α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、δ−トコフェロール、α−トコトリエノール、β−トコトリエノール、γ−トコトリエノール、δ−トコトリエノール、酢酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロールなどのビタミンE類、それらの誘導体及びそれらの塩;トロロックス、その誘導体及びそれらの塩;ジヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、ジブチルヒドロキシトルエン、α−リポ酸、デヒドロリポ酸、グルタチオン、その誘導体及びそれらの塩;尿酸、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウムなどのエリソルビン酸、その誘導体及びそれらの塩;没食子酸、没食子酸プロピルなどの没食子酸、その誘導体及びそれらの塩;ルチン、α−グリコシル−ルチンなどのルチン、その誘導体及びそれらの塩;トリプトファン、その誘導体及びそれらの塩;ヒスチジン、その誘導体及びそれらの塩;N−アセチルシステイン、N−アセチルホモシステイン、N−オクタノイルシステイン、N−アセチルシステインメチルエステルなどのシステイン誘導体及びそれらの塩;N,N’−ジアセチルシスチンジメチルエステル、N,N’−ジオクタノイルシスチンジメチルエステル、N,N’−ジオクタノイルホモシスチンジメチルエステルなどのシスチン誘導体及びそれらの塩;カルノシン、その誘導体及びそれらの塩;ホモカルノシン、その誘導体及びそれらの塩;アンセリン、その誘導体及びそれらの塩;カルシニン、その誘導体及びそれらの塩;ヒスチジン及び/又はトリプトファン及び/又はヒスタミンを含むジペプチド又はトリペプチド誘導体及びそれらの塩;フラバノン、フラボン、アントシアニン、アントシアニジン、フラボノール、クエルセチン、ケルシトリン、ミリセチン、フィセチン、ハマメリタンニン、カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレートなどのフラボノイド類;タンニン酸、コーヒー酸、フェルラ酸、プロトカテク酸、カルコン、オリザノール、カルノソール、セサモール、セサミン、セサモリン、ジンゲロン、クルクミン、テトラヒドロクルクミン、クロバミド、デオキシクロバミド、ショウガオール、カプサイシン、バニリルアミド、エラグ酸、ブロムフェノール、フラボグラシン、メラノイジン、リボフラビン、リボフラビン酪酸エステル、フラビンモノヌクレオチド、フラビンアデニンヌクレオチド、ユビキノン、ユビキノール、マンニトール、ビリルビン、コレステロール、エブセレン、セレノメチオニン、セルロプラスミン、トランスフェリン、ラクトフェリン、アルブミン、スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ、メタロチオネイン、O−ホスホノ−ピリドキシリデンローダミンなどが挙げられる。これらは単独又は2種以上を併用して用いてもよい。
【0089】
なかでも、酸素の補足能が高いという理由から、リボフラビン、アスコルビン酸、α−トコフェロール、β−カロテン、尿酸が好ましく、リボフラビン、アスコルビン酸が特に好ましい。
【0090】
還元剤、抗酸化物質の溶液を用いる場合、該還元剤、抗酸化物質の濃度は、10
−4〜1質量%が好ましく、10
−3〜0.1質量%がより好ましい。
また、ラジカル重合性モノマーの使用量は、形成するポリマー鎖の長さ、その鎖により発揮される性能などにより、適宜設定すればよい。更に、還元剤、抗酸化物質の使用量も系内の酸素の補足などの点から、適宜設定すればよい。
【0091】
塗工(噴霧)溶媒、塗工(噴霧)方法、浸漬方法、照射条件などは、従来公知の材料及び方法を適用できる。なお、ラジカル重合性モノマーの溶液としては、水溶液又は使用する光重合開始剤(ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物など)を溶解しない有機溶媒に溶解させた溶液が使用される。また、ラジカル重合性モノマー(液体)、その溶液として、4−メチルフェノールなどの公知の重合禁止剤を含むものも使用できる。
【0092】
本発明では、モノマー(液体)若しくはその溶液の塗布後又はモノマー若しくはその溶液への浸漬後、光照射することで非機能性モノマー、フッ素含有機能性モノマーのそれぞれのラジカル重合が進行するが、主に紫外光に発光波長をもつ高圧水銀灯、メタルハライドランプ、LEDランプなどのUV照射光源を好適に利用できる。照射光量は、重合時間や反応の進行の均一性を考慮して適宜設定すればよい。また、反応容器内における酸素などの活性ガスによる重合阻害を防ぐために、光照射時又は光照射前において、反応容器内や反応液中の酸素を除くことが好ましい。そのため、反応容器内や反応液中に窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスを導入して酸素などの活性ガスを反応系外に排出し、反応系内を不活性ガス雰囲気に置換すること、などが適宜行われている。更に、酸素などの反応阻害を防ぐために、UV照射光源をガラスやプラスチックなどの反応容器と反応液や改質対象物の間に空気層(酸素含有量が15%以上)が入らない位置に設置する、などの工夫も適宜行われる。
【0093】
紫外線を照射する場合、その波長は、好ましくは300〜450nm、より好ましくは300〜400nmである。これにより、改質対象物の表面に良好にポリマー鎖を形成できる。光源としては高圧水銀ランプや、365nmの中心波長を持つLED、375nmの中心波長を持つLEDなどを使用することが出来る。なかでも、300〜400nmのLED光を照射することが好ましく、355〜380nmのLED光を照射することがより好ましい。特に、ベンゾフェノンの励起波長366nmに近い365nmの中心波長を持つLEDなどが効率の点から好ましい。
【0094】
なお、工程2において、重合開始点Aを起点にして非機能性モノマーをラジカル重合させて非機能性ポリマー鎖を成長させ、次いで該非機能性ポリマー鎖の表面に重合開始点Bを形成し、更に該重合開始点Bを起点としてフッ素含有機能性モノマーをラジカル重合させてフッ素含有機能性ポリマー鎖を成長させる場合、該重合開始点Bの形成は、得られた非機能性ポリマー鎖の表面に対して、新たに光重合開始剤Bを吸着させること、必要に応じて更に化学結合させること等、工程1と同様の手法を適用することで実施できる。ここで、光重合開始剤Bは、光重合開始剤Aと同様のものを使用できる。
【0095】
本発明はまた、加硫ゴム又は熱可塑性エラストマーを改質対象物とする表面改質方法であって、前記改質対象物の表面に光重合開始剤Aの存在下で非機能性モノマーをラジカル重合させて非機能性ポリマー鎖を成長させ、更に光重合開始剤Bの存在下でフッ素含有機能性モノマーをラジカル重合させてフッ素含有機能性ポリマー鎖を成長させる工程Iを含む。具体的には、光重合開始剤Aを開始剤として非機能性モノマーをラジカル重合させて非機能性ポリマー鎖を作製し、次いで、得られた該非機能性ポリマー鎖に更に光重合開始剤Bを開始剤としてフッ素含有機能性モノマーをラジカル重合させてポリマー鎖を延長してフッ素含有機能性ポリマー鎖を作製することで、最表面にフッ素含有機能性ポリマー層が形成された表面改質弾性体を製造できる。
【0096】
工程Iは、改質対象物の表面で光重合開始剤Aから形成される重合開始点Aを起点として非機能性モノマーをラジカル重合させて非機能性ポリマー鎖を成長させ、次いで該非機能性ポリマー鎖の表面で光重合開始剤Bから形成される重合開始点Bを起点としてフッ素含有機能性モノマーをラジカル重合させてフッ素含有機能性ポリマー鎖を成長させることが好ましい。例えば、工程Iは、改質対象物の表面に光重合開始剤A及び非機能性モノマーを接触させた後、300〜450nmのLED光を照射することで、該光重合開始剤Aから重合開始点Aを生じさせるとともに、該重合開始点Aを起点として非機能性モノマーをラジカル重合させて非機能性ポリマー鎖を成長させ、次いで、該非機能性ポリマー鎖の表面に光重合開始剤B及び機能性モノマーを接触させた後、300〜450nmのLED光を照射することで、該光重合開始剤Bから重合開始点Bを生じさせるとともに、該重合開始点Bを起点としてフッ素含有機能性モノマーをラジカル重合させてフッ素含有機能性ポリマー鎖を成長させることにより実施できる。
【0097】
工程Iの非機能性モノマー、フッ素含有機能性モノマーのそれぞれのラジカル重合の方法としては、改質対象物の表面又は非機能性ポリマー鎖が形成された改質対象物に、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物などの光重合開始剤A又はBを含む非機能性モノマー又はフッ素含有機能性モノマー(液体)若しくはそれらの溶液を塗工(噴霧)し、又は、改質対象物又は非機能性ポリマー鎖が形成された改質対象物を光重合開始剤A又はBを含む非機能性モノマー又はフッ素含有機能性モノマー(液体)若しくはそれらの溶液に浸漬し、紫外線などの光を照射することでそれぞれのラジカル重合(光ラジカル重合)が進行し、該改質対象物表面に対して、非機能性ポリマー鎖、フッ素含有機能性ポリマー鎖をこの順に成長させることができる。更に、前述の透明なガラス・PET・ポリカーボネートなどで覆い、その上から紫外線などの光を照射する方法なども採用できる。なお、前記と同様、還元剤、抗酸化物質を添加してもよい。また、塗工(噴霧)溶媒、塗工(噴霧)方法、浸漬方法、照射条件などは、前述と同様の材料及び方法を適用できる。
【0098】
また、工程2、工程Iにおいて、フッ素含有機能性ポリマー鎖を含むポリマー鎖を形成することにより、優れた摺動性、耐久性が得られ、かつ良好なシール性も維持できる。形成されるポリマー鎖の重合度は、好ましくは20〜200000、より好ましくは350〜50000である。
【0099】
工程2、工程Iで形成される非機能性ポリマー鎖及びフッ素含有機能性ポリマー鎖を合わせた全ポリマー鎖の長さは、好ましくは10〜50000nm、より好ましくは100〜50000nmである。10nm未満であると、良好な摺動性が得られない傾向がある。50000nmを超えると、摺動性の更なる向上が期待できず、高価なモノマーを使用するために原料コストが上昇する傾向があり、また、表面処理による表面模様が肉眼で見えるようになり、美観を損ねたり、シール性が低下する傾向がある。
【0100】
工程2、工程Iで形成される全ポリマー鎖において、非機能性ポリマー鎖及びフッ素含有機能性ポリマー鎖の長さの比(非機能性ポリマー鎖の長さ:フッ素含有機能性ポリマー鎖の長さ)は、好ましくは50:50〜99.9:0.1、より好ましくは90:10〜99.5:0.5である。フッ素含有機能性ポリマー鎖の長さが1%未満では、所望の機能を付与できないおそれがあり、50%を超えると、経済的に不利になる傾向がある。
【0101】
上記工程2、工程Iでは、重合開始点Bを起点にして2種以上の非機能性モノマーを同時にラジカル重合させてもよく、また、2種以上のフッ素含有機能性モノマーを同時にラジカル重合させてもよい。更に、非機能性、フッ素含有機能性ポリマー鎖は、それぞれ2層以上積層されたものでもよい。更に、改質対象物の表面に複数のポリマー鎖を成長させてもよい。本発明の表面改質方法は、ポリマー鎖間を架橋してもよい。この場合、ポリマー鎖間には、イオン架橋、酸素原子を有する親水性基による架橋、ヨウ素などのハロゲン基による架橋が形成されてもよい。
【0102】
加硫ゴム又は熱可塑性エラストマーに前記表面改質方法を適用することで、表面改質弾性体が得られる。例えば、水存在下又は乾燥状態での摺動性に優れた表面改質弾性体が得られ、これは低摩擦で、水の抵抗が少ないという点にも優れている。また、三次元形状の固体(弾性体など)の少なくとも一部に前記方法を適用することで、改質された表面改質弾性体が得られる。更に、該表面改質弾性体の好ましい例としては、ポリマーブラシ(高分子ブラシ)が挙げられる。ここで、ポリマーブラシとは、表面開始リビングラジカル重合によるgrafting fromのグラフトポリマーを意味する。また、グラフト鎖は、改質対象物の表面から略垂直方向に配向しているものがエントロピーが小さくなり、グラフト鎖の分子運動が低くなることにより、摺動性が得られて好ましい。更に、ブラシ密度として、0.01chains/nm
2以上である準濃度及び濃度ブラシが好ましい。
【0103】
また、加硫ゴム又は熱可塑性エラストマーに前記表面改質方法を適用することで、改質された表面を少なくとも一部に有する注射器用ガスケットを製造できる。改質は、少なくともガスケット表面の摺動部に施されていることが好ましく、表面全体に施されていてもよい。
【0104】
図1は、注射器用ガスケットの実施形態の側面図の一例である。
図1に示されているガスケット1は、注射器の注射筒内周面と接触する外周面に、連続して円周方向に突出した3つの環状突起部11a、11b、11cを有している。ガスケット1において、前記表面改質を適用する部位としては、(1)環状突起部11a、11b、11cなどのシリンジと接する突起部表面、(2)環状突起部11a、11b、11cを含む側面の表面全部、(3)該側面の表面全部と底面部の表面13、などが挙げられる。
【0105】
更に、乗用車などの車両に使用されるタイヤのトレッドに形成された溝に前記表面改質方法を適用し、溝にポリマーブラシを生成させることにより、ウエットや雪上路面における溝表面の流体抵抗が下がったり、水との接触角が上がったりするので、水や雪の排除及びはけを向上させ、グリップ性を改善できる。
【0106】
図2は、空気入りタイヤ(全体不図示)のトレッド部2の展開図の一例、
図3は、
図2のA1−A1断面図の一例を示す。
図2〜3において、中央縦溝3a(溝深さD1)、ショルダー縦溝3b(溝深さD2)は、タイヤ周方向に直線状にのびるストレート溝で構成される。このようなストレート溝は、排水抵抗を小さくし、直進走行時に高い排水性能を発揮しうる。
【0107】
また、空気入りタイヤは、ショルダー縦溝3b側でタイヤ周方向にのびる細溝5(溝深さD3)、この細溝5から中央縦溝3aに向かって傾斜してのびる中間傾斜溝6(溝深さD4)、細溝5よりもタイヤ軸方向内側に位置しかつタイヤ周方向で隣り合う中間傾斜溝6、6間を接続する継ぎ溝7(溝深さD5)、ショルダー縦溝3bからタイヤ外間に向かうショルダー横溝8、8a、8b(溝深さD6)などが配され、このような溝でも排水性能が発揮しうる。そして、これらの溝に前記方法を適用することで、前述の効果が発揮される。また、サイドウォール表面に前記方法を適用することでゴミや粉塵の付着を抑制する効果も期待される。
【実施例】
【0108】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0109】
(実施例1)
イソプレンユニットを含むクロロブチルゴム(不飽和度:1〜2%)をトリアジンで架橋した加硫ゴムガスケット(180℃で10分加硫)をベンゾフェノンの3wt%アセトン溶液に浸漬して、加硫ゴム表面にベンゾフェノンを吸着させ、乾燥させた。次いで、加硫ゴムガスケット表面に365nmの波長を持つLED−UVライトを10分照射し、ベンゾフェノンを化学結合させた後、未反応のベンゾフェノンを除くために表面をアセトンで洗浄した。その後、加硫ゴムを取り出し乾燥した。
乾燥した加硫ゴムガスケットをアクリル酸の水溶液(2.5M:18gのアクリル酸を100mLの水に溶解)の入ったガラス反応容器に浸漬し、365nmの波長を持つLED−UVライトを1時間照射してラジカル重合を行ってゴム表面に非機能性ポリマー鎖を成長させた。その後、表面を水洗し、乾燥させた。
次に、フッ素含有機能性モノマー液(信越化学工業社製:KY−1203、下記式で示される含フッ素エポキシ変性有機ケイ素化合物及び含フッ素(メタ)アクリル変性有機ケイ素化合物の混合物)を、ポリアクリル酸を成長させた加硫ゴムガスケット表面に塗布し、アルゴンガス雰囲気下で、365nmの波長を持つLED−UVライトを15分間照射してラジカル重合を行い、ポリアクリル酸鎖(非機能性ポリマー鎖)上に更にフッ素含有機能性ポリマー鎖を成長させた。これにより表面改質弾性体(積層されたポリマーブラシ)を得た。
【化27】
(式中、b’
1+b’
2は2〜6.5であり、Rf’
12は下記の基である。)
【化28】
(式中、n
1は2〜100である。)
【0110】
(実施例2)
フッ素含有機能性モノマー液の重合時間(LED−UVライトの照射時間)を30分間に変更した以外は実施例1と同様にして表面改質弾性体(積層されたポリマーブラシ)を得た。
【0111】
(実施例3)
イソプレンユニットを含むクロロブチルゴム(不飽和度:1〜2%)をトリアジンで架橋した加硫ゴムガスケット(180℃で10分加硫)をベンゾフェノンの3wt%アセトン溶液に浸漬して、加硫ゴム表面にベンゾフェノンを吸着させ、乾燥させた。
乾燥した加硫ゴムガスケットをアクリル酸の水溶液(2.5M:18gのアクリル酸を100mLの水に溶解)の入ったガラス反応容器に浸漬し、365nmの波長を持つLED−UVライトを30分間照射してラジカル重合を行ってゴム表面に非機能性ポリマー鎖を成長させた。その後、表面を水洗し、乾燥させた。
次に、乾燥した加硫ゴムガスケットをベンゾフェノンの3wt%アセトン溶液に浸漬して、ポリアクリル酸の表面にベンゾフェノンを吸着させ、乾燥させた。更に、フッ素含有機能性モノマー液(信越化学工業社製:KY−1203)を、ポリアクリル酸表面にベンゾフェノンを吸着させた加硫ゴムガスケット表面に塗布し、アルゴンガス雰囲気下で、365nmの波長を持つLED−UVライトを15分間照射してラジカル重合を行い、ポリアクリル酸鎖(非機能性ポリマー鎖)上に更にフッ素含有機能性ポリマー鎖を成長させた。これにより表面改質弾性体(積層されたポリマーブラシ)を得た。
【0112】
(実施例4)
イソプレンユニットを含むクロロブチルゴム(不飽和度:1〜2%)をトリアジンで架橋した加硫ゴムガスケット(180℃で10分加硫)をベンゾフェノンの1wt%アセトン溶液に浸漬して、加硫ゴム表面にベンゾフェノンを吸着させ、乾燥させた。
乾燥した加硫ゴムガスケットをアクリル酸の水溶液(2.5M:18gのアクリル酸を100mLの水に溶解)の入ったガラス反応容器に浸漬し、365nmの波長を持つLED−UVライトを30分間照射してラジカル重合を行ってゴム表面に非機能性ポリマー鎖を成長させた。その後、表面を水洗し、乾燥させた。
次に、乾燥した加硫ゴムガスケットをベンゾフェノンの1wt%アセトン溶液に浸漬して、ポリアクリル酸の表面にベンゾフェノンを吸着させ、乾燥させた。更に、フッ素含有機能性モノマー液(信越化学工業社製:KY−1203)を、ポリアクリル酸表面にベンゾフェノンを吸着させた加硫ゴムガスケット表面に塗布し、アルゴンガス雰囲気下で、365nmの波長を持つLED−UVライトを15分間照射してラジカル重合を行い、ポリアクリル酸鎖(非機能性ポリマー鎖)上に更にフッ素含有機能性ポリマー鎖を成長させた。これにより表面改質弾性体(積層されたポリマーブラシ)を得た。
【0113】
(実施例5)
イソプレンユニットを含むクロロブチルゴム(不飽和度:1〜2%)をトリアジンで架橋した加硫ゴムガスケット(180℃で10分加硫)をベンゾフェノンの1wt%アセトン溶液に浸漬して、加硫ゴム表面にベンゾフェノンを吸着させ、乾燥させた。
乾燥した加硫ゴムガスケットをアクリルアミドの水溶液(2.5M:17.8gのアクリルアミドを100mLの水に溶解)の入ったガラス反応容器に浸漬し、365nmの波長を持つLED−UVライトを60分間照射してラジカル重合を行ってゴム表面に非機能性ポリマー鎖を成長させた。その後、表面を水洗し、乾燥させた。
次に、乾燥した加硫ゴムガスケットをベンゾフェノンの1wt%アセトン溶液に浸漬して、ポリアクリルアミドの表面にベンゾフェノンを吸着させ、乾燥させた。フッ素含有機能性モノマー液(信越化学工業社製:KY−1203)を、ポリアクリルアミド表面にベンゾフェノンを吸着させた加硫ゴムガスケット表面に塗布し、アルゴンガス雰囲気下で、365nmの波長を持つLED−UVライトを15分間照射してラジカル重合を行い、ポリアクリルアミド鎖(非機能性ポリマー鎖)上に更にフッ素含有機能性ポリマー鎖を成長させた。これにより表面改質弾性体(積層されたポリマーブラシ)を得た。
【0114】
(実施例6)
イソプレンユニットを含むクロロブチルゴム(不飽和度:1〜2%)をトリアジンで架橋した加硫ゴムガスケット(180℃で10分加硫)をベンゾフェノンの1wt%アセトン溶液に浸漬して、加硫ゴム表面にベンゾフェノンを吸着させ、乾燥させた。
乾燥した加硫ゴムガスケットをアクリル酸とアクリルアミドの25:75の混合水溶液(2.5M:4.5gのアクリル酸と13.4gのアクリルアミドを100mLの水に溶解)の入ったガラス反応容器に浸漬し、365nmの波長を持つLED−UVライトを52.5分照射してラジカル重合を行ってゴム表面に非機能性ポリマー鎖を成長させた。その後、表面を水洗し、乾燥させた。
次に、乾燥した加硫ゴムガスケットをベンゾフェノンの1wt%アセトン溶液に浸漬して、ポリアクリル酸とポリアクリルアミドの表面にベンゾフェノンを吸着させ、乾燥させた。フッ素含有機能性モノマー液(信越化学工業社製:KY−1203)を、ポリアクリル酸表面及びポリアクリルアミド表面にベンゾフェノンを吸着させた加硫ゴムガスケット表面に塗布し、アルゴンガス雰囲気下で、365nmの波長を持つLED−UVライトを15分間照射してラジカル重合を行い、ポリアクリル酸鎖及びポリアクリルアミド鎖(非機能性ポリマー鎖)上に更にフッ素含有機能性ポリマー鎖を成長させた。これにより表面改質弾性体(積層されたポリマーブラシ)を得た。
【0115】
(実施例7)
イソプレンユニットを含むクロロブチルゴム(不飽和度:1〜2%)をトリアジンで架橋した加硫ゴムガスケット(180℃で10分加硫)を、ベンゾフェノン含有アクリルアミド水溶液(2.5M:17.8gのアクリルアミドを100mLの水に溶解し、更に2mgのベンゾフェノンを溶解させた液)の入ったガラス反応容器に浸漬し、365nmの波長を持つLED−UVライトを60分間照射してラジカル重合を行ってゴム表面に非機能性ポリマー鎖を成長させた。その後、表面を水洗し、乾燥させた。
次に、モノマーに対して3wt%のベンゾフェノンを溶解させたフッ素含有機能性モノマー液(信越化学工業社製:KY−1203)を、ポリアクリルアミドを成長させた加硫ゴムガスケット表面に塗布し、アルゴンガス雰囲気下で、365nmの波長を持つLED−UVライトを15分間照射してラジカル重合を行い、ポリアクリルアミド鎖(非機能性ポリマー鎖)上に更にフッ素含有機能性ポリマー鎖を成長させた。これにより表面改質弾性体(積層されたポリマーブラシ)を得た。
【0116】
(実施例8)
イソプレンユニットを含むクロロブチルゴム(不飽和度:1〜2%)をトリアジンで架橋した加硫ゴムガスケット(180℃で10分加硫)を2,4−ジエチルチオキサンの1wt%アセトン溶液に浸漬して、加硫ゴム表面に2,4−ジエチルチオキサンを吸着させ、乾燥させた。
乾燥した加硫ゴムガスケットをアクリルアミドの水溶液(2.5M:17.8gのアクリルアミドを100mLの水に溶解)の入ったガラス反応容器に浸漬し、365nmの波長を持つLED−UVライトを20分間照射してラジカル重合を行ってゴム表面に非機能性ポリマー鎖を成長させた。その後、表面を水洗し、乾燥させた。
次に、乾燥した加硫ゴムガスケットを2,4−ジエチルチオキサンの1wt%アセトン溶液に浸漬して、ポリアクリルアミドの表面に2,4−ジエチルチオキサンを吸着させ、乾燥させた。フッ素含有機能性モノマー液(信越化学工業社製:KY−1203)を、ポリアクリルアミド表面に2,4−ジエチルチオキサンを吸着させた加硫ゴムガスケット表面に塗布し、アルゴンガス雰囲気下で、365nmの波長を持つLED−UVライトを10分間照射してラジカル重合を行い、ポリアクリルアミド鎖(非機能性ポリマー鎖)上に更にフッ素含有機能性ポリマー鎖を成長させた。これにより表面改質弾性体(積層されたポリマーブラシ)を得た。
【0117】
(比較例1)
イソプレンユニットを含むクロロブチルゴム(不飽和度:1〜2%)をトリアジンで架橋した加硫ゴムガスケット(180℃で10分加硫)そのものを用いた。
【0118】
(比較例2)
加硫ゴムガスケットの表面に非機能性ポリマー鎖を形成せず、フッ素含有機能性ポリマー鎖のみを成長させた以外は実施例1と同様にして表面改質弾性体を得た。
【0119】
実施例、比較例で作製した表面改質弾性体を以下の方法で評価し、その結果を表1に示した。
(ポリマー鎖の長さ)
加硫ゴム表面に形成されたポリマー鎖の長さは、ポリマー鎖が形成された改質ゴム断面を、SEMを使用し、加速電圧15kV、1000倍で測定した。撮影されたポリマー層の厚みをポリマー鎖の長さとした。
【0120】
(摩擦抵抗力)
表面改質弾性体の表面の摩擦抵抗力を測定するために、実施例、比較例で作製した加硫ゴムガスケットを注射器のCOP樹脂シリンジにセットし、引張試験機を用いて押し込んでいき、そのときの摩擦抵抗力を測定した(押し込み速度:30mm/min)。比較例1の摩擦抵抗力を100として、下記式を用い、各実施例について摩擦抵抗指数で示した。指数が小さい方が、摩擦抵抗力が低いことを示す。
(摩擦抵抗指数)=各実施例の摩擦抵抗力/比較例1の摩擦抵抗力×100
【0121】
【表1】
【0122】
表1より、実施例の表面改質弾性体表面は、摩擦抵抗力が大きく下がり、良好な摺動性が得られることが明らかとなった。また、表面のみ改質したものであるため、シール性は、比較例1と同等であった。
【0123】
従って、注射器のプランジャーのガスケットに使用した場合、十分なシール性とともにプランジャーのシリンジに対する摩擦力が軽減され、注射器による処置を容易にかつ正確に行うことができる。また、静摩擦係数と動摩擦係数との差が少ないため、プランジャーの押し始めとその後のプランジャー進入動作とを脈動させることなく円滑に行うことができる。更に、注射器のシリンジを熱可塑性エラストマーで作製し、その内表面にポリマー鎖を生成させたときも、上記と同様に注射器による処方を容易に行うことができる。
【0124】
また、乗用車などに使用されるタイヤのトレッドに形成された溝、サイドウォール、ダイヤフラム、スキーやスノーボード板の滑走面、水泳水着、道路標識、看板などの表面にポリマー鎖を形成することで、前述の効果も期待できる。