(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6247220
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】合わせガラスの冷間曲げ
(51)【国際特許分類】
C03B 23/023 20060101AFI20171204BHJP
C03C 27/12 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
C03B23/023
C03C27/12 R
【請求項の数】15
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-541734(P2014-541734)
(86)(22)【出願日】2012年11月13日
(65)【公表番号】特表2015-502901(P2015-502901A)
(43)【公表日】2015年1月29日
(86)【国際出願番号】FR2012052607
(87)【国際公開番号】WO2013072611
(87)【国際公開日】20130523
【審査請求日】2015年11月11日
(31)【優先権主張番号】1160473
(32)【優先日】2011年11月17日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン ルバスール
(72)【発明者】
【氏名】ロマン ドゥクールセル
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ スウィドゥルスキ
【審査官】
増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第04899507(US,A)
【文献】
国際公開第98/001649(WO,A1)
【文献】
特表2010−517907(JP,A)
【文献】
特表2015−508369(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/12
C03B 23/00 − 23/037
B32B 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属フレームワークと、ポリマー材料から形成された中間層によって分離されたガラス基材を含む合わせガラスを含むパネルとを含む曲げガラス張りモジュールの製造方法であって、該合わせガラスが組み立てられた後で、該パネルが該金属フレームワークの形状を成すようにする力によって該パネルを曲げ、次いでこの形状を保持手段によって保持する製造方法において、
該ポリマー材料が、ポリビニルブチラール、エチレン/ビニルアセテートおよびイオノマー樹脂からなる群から選択され、
該曲げを、該中間層が30℃以上75℃未満の範囲の温度にある間に行うことを特徴とする、曲げガラス張りモジュールの製造方法。
【請求項2】
前記曲げを、前記中間層が40℃を上回る温度にある間に行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記中間層は、曲げ加工中、ガラス転移温度よりも高い温度にあることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記中間層はPVBであることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つのガラス基材が、強化ガラス板を含むことを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記パネルの全てのガラス基材の全てのガラス板を強化することを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
加熱エレメントを該パネルと並置することにより、前記パネルを加熱することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記加熱エレメントは加熱ブランケットであることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記パネルは2つの異なる方向に沿って同時に曲げられることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記曲げが10〜120秒間にわたって持続することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ポリマー材料から形成された中間層と、該中間層と並置されたガラス基材との間の界面に作用する剪断応力が20℃で3MPa未満であるように、前記パネルを曲げることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記パネルが3m2よりも大きい面積の主面を有することを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記パネルが4m2よりも大きいい面積の主面を有することを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記パネルが5m2よりも大きい面積の主面を有することを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
曲げを施して前記中間層を20℃の温度に戻した後、ポリマー材料から形成された前記中間層と前記ガラス基材との間の界面に作用する剪断応力の状態を、前記パネルの主面に偏光フィルムを貼付することによって、そして次いで該パネル及び該フィルムを透過した色を表示することによって評価することを特徴とする、請求項1から14までのいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合わせガラスを含むパネルの冷間曲げ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合わせガラスは、ポリマー材料から形成された中間層によって分離されたいくつかのガラス基材を含む。ガラス基材は単一の鉱物ガラス板を含み、適切な場合には、次のタイプ、すなわち反射防止タイプ、太陽光線防護タイプ、及び耐摩耗タイプなどの1つ又は2つ以上の層で被覆される。
【0003】
平らな合わせガラスの調製は良好に制御される。曲げガラスの調製は著しく大きい問題をはらみ、付与されるべき曲率が増大するのに伴って問題も大きくなる。曲率が大きい場合には、ガラスが軟質のときにガラス板を事前に熱間曲げすることが必要になる場合がある(概ね500℃を上回る)。合わせガラスの曲率がさほど大きくない場合には、その製造終了後に冷間曲げすることが考えられる。「冷間曲げ」という表現は、ガラスが軟質でない温度である200℃未満での曲げを意味する。
【0004】
EP 282 468は、強化ガラス基材を含む合わせガラスを80℃と140℃の間で曲げることを教示している。80℃と140℃の間の加熱は、合わせガラスの中間層PVBを軟化させるのに役立つ。
【発明の概要】
【0005】
80℃を上回る冷間曲げがポリマー材料から形成された中間層の許容できない老化をもたらし、この老化は、微細ではあるが肉眼で見える気泡の形成によって反映されるものであること、そしてさらに、有利なことには30℃と80℃の間の冷間曲げを実施することによって、曲げに必要な荷重を低減し、そしてまたポリマー材料から形成された中間層とガラス基材との間の剪断応力も低減し、ひいては層間剥離のリスクも低減することが可能であることが現在見いだされた。
【0006】
本発明は、合わせガラスを含むパネルを30℃と80℃の間で曲げる方法に関する。温度が40℃を上回ると特に申し分ない。75℃を下回る温度が一般には好適である。40℃と75℃の間の温度範囲が特に好適である。このプロセスを実施するために、実際には先ず、中間層が推奨温度範囲(曲げ温度)に達するまで、平らなパネルを加熱し、次いでパネルを曲げる。ポリマー材料から形成された中間層のガラス転移温度を上回る温度にパネルを加熱することが好ましい。ガラス転移温度は、反応速度測定を用いた粘性分析によって見極められる。ガラス転移温度を上回る温度に加熱することは、曲げ加工中のポリマー材料のクリープにとって好ましい。その結果として、前記材料とガラス基材との間の界面に作用する永久剪断応力が低減される。ポリマー材料から形成された中間層は、特に、ポリビニルブチラール(PVBと呼ばれる)、エチレン/ビニルアセテート、又はイオノマー樹脂膜、特にDuPontによって販売されているSentryGlasであり得る。イオノマー樹脂の場合には、パネルを45℃を上回る温度に加熱することが好ましい。
【0007】
パネルの冷間曲げの結果、パネルの合わせガラスが冷間曲げされる。パネルは合わせガラスとは別の構成部分、例えば合わせガラスに対して平行なシートを含むことができる。特に、パネルは合わせガラス自体であり得る。
【0008】
パネルを30℃と80℃の間で加熱するために、加熱エレメント、例えば加熱ブランケットをパネルと並置することによって極めて容易に作業することができる。特に、Vulcanicによって販売されているものを加熱ブランケットとして利用してよい。単に、所期温度が得られるまでパネルを加熱エレメントで覆い、続いて曲げ加工を始めることが可能である。曲げ加工中、加熱エレメントをパネルと並置したままにすることもできる。加熱されたばかりのパネルの曲げを行う一方で、加熱エレメントによって別のパネルの加熱を開始することも可能である。もちろん、合わせガラスの性質及びその寸法(主面及び厚さ)に応じて、プロセスを最適化するためにそれぞれの作業に関する加熱、継続時間、及び速度条件をいかにして見いだすかは、当業者には明らかである。
【0009】
本発明による方法は、合わせガラスを含むパネルの冷間曲げに適している。特に、パネル内に存在する全てのガラス板を強化(temper)することができる。本発明は、ポリマー材料から形成された中間層によって分離された2枚の強化ガラス板(tempered glass)を含む合わせガラスから成るパネルを冷間曲げするのに特に適している。
【0010】
特に、本発明は、建造物に取り付けるべき合わせガラス、湾曲して見えなければならない合わせガラスの調製に特に役立つ。特にビジネス街の高層ビルから成るタイプのこれらの建造物は、特に目立った形状を有することができ、同一の建造物に対して互いに異なる形状を有する湾曲パネルを調製することを必要とする場合がある。
【0011】
従って本発明は、金属フレームワークと、ポリマー材料から形成された中間層によって分離されたガラス基材を含む合わせガラスを含むパネルとを含む曲げガラス張りモジュールの製造方法であって、該合わせガラスが組み立てられた後で、該パネルが該金属フレームワークの形状を成すようにする力によって、該パネルを曲げ、次いでこの形状を保持手段によって保持する製造方法において、該曲げを、該中間層が30℃と80℃の間の温度にある間に行う、曲げガラス張りモジュールの製造方法に関する。
【0012】
合わせガラスを含むパネルと、冷間曲げパネルの形状を保持し、ひいては型として作用し得る金属フレームワークとを含むモジュールを製造する。この金属フレームワークは一般に鋼又は押し出しアルミニウムから形成されている。これを行うために、特にパネルを加熱ブランケット上に置くことによって、パネルを30℃と80℃の間に予熱することができ、次いでこれを金属フレームワークと接触させ、そしてパネルがフレームワーク形状を成すようにするために、パネルの1つ又は2つ以上の点に力を加える。加えられる力は例えば、1接触点当たり最大200kgであり得る。パネルをこのように変形させるために、タイロッド、液圧ジャッキ、ウェイト、又はロボットを利用してよい。パネルは維持されるべき曲率半径に応じて、保持手段、例えばクランプによって、又は接着剤によってフレームワーク上で形状を保持される。もちろん、接着に関与する場合には、パネルをフレームワークに取り付ける際の力を除去する前に、接着剤が十分に硬化する(重合、及び架橋など)ように待機時間が必要となる。好適な構造用接着剤は例えば、参照番号DC 3362でDow Corningによって販売されているシリコーンタイプの接着剤である。維持されるべき曲率が大きい場合には、クランプの使用が必須となる場合がある。本発明により、曲げ作業それ自体(パネルの変形開始と変形終了との間)は高速で、特に10秒と120秒の間で行うことができる。
【0013】
パネルの「冷間」変形を、パネルを構成するガラス板内に許容できない応力を発生させながら行ってはならない。従って、強化されていないガラスに対して建築業界で許される最大永久応力は10MPaである。強化ガラスに対して建築業界で許される最大永久応力は40MPaである。パネル上に付与されるべき曲率に応じて、合わせガラス内に組み立てられた強化ガラス板を使用することが有利な場合がある。
【0014】
特に、パネルは2つの異なる方向に沿って同時に曲げられてよい(ねじれガラス)。
【0015】
本発明が関連するパネルは大型であることが可能である。それというのも、パネルは3m
2よりも大きく、場合によっては4m
2よりも大きく、場合によっては5m
2よりも大きい面積の主面を有することができるからである。なお、パネルは(そしてガラス板又は板ガラスも)2つの主面とエッジとを含む。
【0016】
曲げ加工中に、使用している合わせガラスの最大許容応力を超えないことが望ましい。曲げ振幅を制限する最も重要な因子は、ポリマー材料から形成された中間層と、これと並置されたガラス基材との間の界面に作用する剪断応力であることが判った。好ましくは、合わせガラスは、20℃におけるこの応力が3MPa未満、好ましくは2MPa未満、そしてより好ましくは1.5MPa未満となるように曲げられる。本発明によれば、ポリマー材料から形成された中間層を30℃を上回る温度に加熱するのに伴って、曲げ加工中に被る界面の剪断応力は、周囲温度が低下したときの使用中に被る剪断応力よりも著しく低い。このような理由から、曲げを行う前に、予想される曲げが、ポリマー材料から形成された中間層とガラス基材との間の界面に20℃において作用する剪断応力を超えないかどうかをルーティン試験によって見極めることが望ましい。この専門家の鑑定は、やはり本発明の主題を成す方法によって極めてシンプルに実施することができる。この方法によれば、これらの剪断応力は、偏光フィルムを合わせガラスの主面のうちの一方と並置することによって表示することができる。合わせガラス試料上にこの偏光フィルムを位置決めした後、一方の側ではガラス基材のうちの一方を、そして他方の側では他方のガラス基材を引張ることによって、引張り試験を実施する。応力の出現は透過する色によって反映される、色は応力の強度とともに変化する。このように、場合に応じて、最大許容応力に相当する色を突き止めることで十分である(3MPa又は2MPa又は1.5MPa又は1MPa、又はその他)。この較正は、合わせガラスの主面と並置されたただ1つの偏光フィルムを用いて実施することができる。この場合、色はほぼ45°の視角(合わせガラスに対する法線と観察方向との間の角度)で観察するべきである。合わせガラスの主面のそれぞれにフィルムを配置することも可能である。この場合には、応力は任意の観察角で表示することができる。(ポリマー材料から形成された所与の中間層と前記中間層の所与の厚さとに対する)較正を実施した後、合わせガラスの主面に1枚の偏光フィルムを貼付するか、又は2枚の偏光フィルムを貼付する、つまり合わせガラスの主面のそれぞれに1枚の偏光フィルムを貼付することによって、最大剪断応力を超えないことを合わせガラス製造時に容易に確認することができる。このように、本発明は、本発明に基づいて曲げを施して中間層を20℃の温度に戻した後、ポリマー材料から形成された中間層と、これと並置されてポリマー材料の両側に配置されたガラス基材との間の界面に作用する剪断応力の状態を、パネルの主面に偏光フィルムを貼付することによって、そして次いでパネル及びフィルムを透過した色を表示することによって評価する方法にも係る。続いてこの色を事前に行われた較正の色と比較することによって、ポリマー材料から形成された中間層と前記ガラス基材との間の界面に作用する剪断応力を評価し、そしてこの比較の結果に基づいて、仕様に対するモジュールの適合性を判断する、すなわちそのモジュールを有効とするか又は廃棄することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は合わせガラスに変形を加え、そして被った応力を測定するのを可能にする装置を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1の装置によって合わせガラスに加えられた撓みの関数としての、2つの温度事例(20及び70℃)で測定された力の絶対値の合計を示す図である。
【
図3】
図3は、変形を加える力の絶対値の合計の経時的変化を、両温度事例(20及び70℃)で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
例
それぞれの寸法が1938×876×8mmの2枚の強化モノリシック板ガラスを、それぞれのスキン圧縮力120MPaで、4枚のPVB中間層(PVB厚は0.38mmの4倍)と合体させることにより、強化合わせガラスを製造する。次いで合わせガラスに、
図1に示したように変形を施す。合わせガラス1の固定幅2及び固定長さ3を維持し、そして
図1に示されているように、下向きの鉛直方向のベクトルによって、固定状態を保持されない側に変位を加える。このことは、組み立て済の合わせガラスを1つの事例では20℃の温度、そして別の事例では70℃の温度にもたらした後で実施する。変位を施す結合ロッドの下側に配置された力センサ4は、合わせガラスの周囲の種々異なる点で加えられた力を測定するのを可能にする。いくつかの点で力は引張り力であり、他の点では力は圧縮力であるので、合力はゼロである。従って合わせガラスがもちこたえた荷重は、力の絶対値を加算することによって評価する。
図2は、両温度事例で測定された力の絶対値の合計を、撓みの関数として示している。70℃の加熱が30%オーダーの荷重低減を可能にすることが判る。
図3は、力の絶対値の合計の変化を時間の関数として示している。70℃までの予熱を伴う試験の場合、合わせガラスは20℃の周囲空気に直ちに戻されることが知られている。70℃と20℃との間で合わせガラスの温度が低下することが、時間を関数として示されている。20℃で変形させられた合わせガラスと、70℃で変形させられ20℃に戻された合わせガラスとを比較すると、70℃まで予熱する事例において合成力は著しく低いままであって30%の省力が維持され、そして改善さえされていることが判る。従って、70℃まで予熱された場合の中間層はより良好に老化することになり、層間剥離の傾向及び白化の傾向が少なくなる。