特許第6247225号(P6247225)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6247225アルミニウムフィン合金およびその製造方法
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  • 特許6247225-アルミニウムフィン合金およびその製造方法 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6247225
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】アルミニウムフィン合金およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20171204BHJP
   B21B 1/46 20060101ALI20171204BHJP
   B21B 3/00 20060101ALI20171204BHJP
   C22F 1/00 20060101ALI20171204BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   C22C21/00 J
   B21B1/46 A
   B21B3/00 J
   C22F1/00 630A
   C22F1/00 630F
   C22F1/00 630M
   C22F1/00 640A
   C22F1/00 651A
   C22F1/00 661A
   C22F1/00 681
   C22F1/00 682
   C22F1/00 683
   C22F1/00 684C
   C22F1/00 685Z
   C22F1/00 691A
   C22F1/00 691B
   C22F1/00 691C
   C22F1/00 692A
   C22F1/00 692B
   C22F1/00 694A
   C22F1/04 A
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-546251(P2014-546251)
(86)(22)【出願日】2012年11月29日
(65)【公表番号】特表2015-505905(P2015-505905A)
(43)【公表日】2015年2月26日
(86)【国際出願番号】CA2012050858
(87)【国際公開番号】WO2013086628
(87)【国際公開日】20130620
【審査請求日】2015年6月26日
【審判番号】不服2016-12357(P2016-12357/J1)
【審判請求日】2016年8月16日
(31)【優先権主張番号】61/576,602
(32)【優先日】2011年12月16日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512049948
【氏名又は名称】ノベリス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】NOVELIS INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100103115
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 康廣
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・ディ・ハウエルズ
(72)【発明者】
【氏名】ケビン・マイケル・ゲイテンビー
(72)【発明者】
【氏名】ピエール・アンリ・マロワ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・エル・デイビソン
(72)【発明者】
【氏名】フレッド・ペルドリゼ
【合議体】
【審判長】 鈴木 正紀
【審判官】 金 公彦
【審判官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開平8−143998(JP,A)
【文献】 特開2006−225723(JP,A)
【文献】 特開2006−225719(JP,A)
【文献】 特開2002−241910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00- 21/18
C22F 1/04- 1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次に挙げる重量%での組成物:
Feが0.8〜1.25;
Siが0.8〜1.25;
Mnが0.7〜1.5;
Cuが0.05〜0.5;
Znが2.5以下;
その他の元素がそれぞれ0.05以下、かつ合計0.15以下;および
残りがアルミニウム
のみからなり、0.07mm未満の標準厚さに圧延する場合でも、600℃でのろう付け後に140MPa以上の縦方向UTSと46%IACS以上の導電率とを有する、アルミニウム合金フィン材。
【請求項2】
前記Siの含有量が0.9〜1.1重量%であることを特徴とする、請求項1に記載の
アルミニウム合金フィン材。
【請求項3】
前記Mnの含有量が0.9〜1.1重量%であることを特徴とする、請求項1または2
に記載のアルミニウム合金フィン材。
【請求項4】
前記Znの含有量が0.25〜2.5重量%であることを特徴とする、請求項1、2ま
たは3に記載のアルミニウム合金フィン材。
【請求項5】
0.07mm未満の標準厚さに圧延する場合でも、600℃でのろう付け後に140MPa以上の縦方向UTSと46%IACS以上の導電率とを有する、アルミニウム合金フィン材の製造方法であって、
a)次に挙げる重量%の組成物:
Feが0.8〜1.25;
Siが0.8〜1.25;
Mnが0.70〜1.50;
Cuが0.05〜0.5;
Znが2.5以下;
その他の元素がそれぞれ0.05以下、かつ合計0.15以下;および
残りがアルミニウム
のみからなるアルミニウム合金融液を連続鋳造する工程と、
b)前記連続鋳造した板を熱間圧延する工程と、
c)前記熱間圧延した板を中間焼鈍する工程と、
d)前記板を冷間圧延して標準箔厚さにする工程と
を含む方法。
【請求項6】
前記連続鋳造工程a)が双ロール鋳造工程であることを特徴とする、請求項に記載の
方法。
【請求項7】
前記標準箔厚さが0.07mm未満であることを特徴とする、請求項またはに記載
の方法。
【請求項8】
前記標準箔厚さが0.06mm未満であることを特徴とする、請求項またはに記載
の方法。
【請求項9】
前記標準箔厚さが0.055mm未満であることを特徴とする、請求項またはに記
載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろう付け熱交換器内のフィン材料として使用するアルミニウム合金製品、より具体的には、ろう付け後の強度および伝導性が高く、たわみ抵抗性に優れたフィン材料に関する。本発明はこのほか、このようなフィン材料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用ラジエータの製造には長年、アルミニウム合金が用いられており、このようなラジエータは通常、フィンとチューブを含み、チューブには冷却液が入っている。フィンとチューブは通常、ろう付け作業で接合する。フィン材料は通常、アルミニウム融液に添加する主な合金元素がマンガンである、いわゆる3XXXシリーズのアルミニウム合金から製造される(米国アルミニウム協会により出版され、2001年1月に改訂された「International Alloy Designations and Chemical Composition Limits for Wrought Aluminum and Wrought Aluminum Alloys」を参照されたい;この開示は、この参照により本明細書に明確に組み込まれる)。
【0003】
車両および部品の重量を軽くするという要求を満たすため、フィン材料の改善が常に必要とされている。軽量化を達成するため、様々な特性を最適化する必要がある。このことは主として、熱伝導性およびたわみ抵抗性を損なわずにフィン材料のろう付け後の強度を維持するか、向上させることを意味する。たわみ抵抗性とは、熱交換器ユニットのろう付け時にフィンが潰れる主な原因となる、ろう付けサイクル時の高温クリープに対する抵抗性のことである。熱交換器ユニットの伝熱性能に対しては、当然のことながら熱伝導性が直接影響を及ぼし、ユニットの構造的安定性には他の特性が不可欠である。上に挙げた特性に加えて、フィン材は腐食による劣化を回避しながらチューブに対する犠牲防食効果を示すものでなければならない。フィンが犠牲陽極の役割を果たすようフィンをチューブより電気的に陰性にすることがよく行われている。熱交換器の耐用期間中、この犠牲効果と伝熱性能を維持する必要性とのバランスをとる必要がある。フィンの腐食が速過ぎると、伝熱性能が低下する。
【0004】
特許文献1(欧州特許出願公開第1918394号)には熱交換器のフィンとして使用するAl−Mn箔の製造方法が記載されており、この方法では、次に挙げる組成の範囲内で合金を使用する(以下、組成の値をすべて重量%で表す):Siが0.3〜1.5、Feが0.5以下、Cuが0.3以下、Mnが1.0〜2.0、Mgが0.5以下、Znが4.0以下、IVb族、Vb族またはVIb族の元素から各元素0.3以下でこれらの元素の合計が0.5以下、不可避な不純物および残りの部分がアルミニウム。合金は、圧延し、中間焼鈍を施し、再び冷間圧延した後、箔の再結晶を避けるため熱処理を施した双ロール鋳造物であり得る。ろう付け前とろう付け後の強度は報告されているが、導電率については明らかにされていない。
【0005】
特許文献2(欧州特許出願公開第1693475号)にはFeが1.4〜1.8、Siが0.8〜1.0、Mnが0.6〜0.9のアルミニウムフィン合金が記載されており、ここでは結晶粒の80%超が再結晶化されるように表面粒組織が制御されている。この合金は双ロール鋳造法によって連続的に鋳造されたものである。たわみ抵抗性および導電率は優れているが、ろう付け後の強度が140MPa未満であった。微細組織は金属間化合物Al−Fe−Mn−Siの存在を特徴とするものである。
【0006】
特許文献3(欧州特許出願公開第2048252号)にはSiが0.7〜1.4、Feが0.5〜1.4、Mnが0.7〜1.4、Znが0.5〜2.5、その他の元素が0.05以下、残りがアルミニウムの組成のアルミニウムフィン合金が記載されており、ここでは板製品は、ろう付け後の最大抗張力(UTS)が130Mpa以上、降伏強度(YS)が45Mpa以上、再結晶粒度が500pm以上、導電率が47IACS以上である。この製品はベルト鋳造ストリップから製造され、鋳造ストリップの厚さは5〜10mmである。
【0007】
特許文献4(米国特許出願公開第2005/0106410号)には、コア材料がSiを0.10〜1.50、Feを0.10〜0.60、Cuを1.00以下、Mnを0.70〜1.80、Mgを0.40以下、Znを0.10〜3.00、Tiを0.30以下、Zrを0.30以下、残りにAlおよび不純物を含有する合金からなり、クラッド層がAl−Si系合金であるクラッドフィン材料が記載されている。熱伝導性のデータは報告されていない。報告されているろう付け後の強度は136MPaまたは145MPaであったが、この値を示す実際の合金は明らかにされていない。
【0008】
特許文献5(米国特許第6,620,265号)には、主要な合金元素としてMnを0.6〜1.8、Feを1.2〜2.0、Siを0.6〜1.2含むアルミニウム合金の双ロール鋳造法が記載されており、ここでは鋳造処理量が調節されており、冷間圧延の過程には完全な再結晶化を防ぐよう中間焼鈍の段階が少なくとも2段階含まれている。たわみ抵抗性および伝導性には優れているが、ろう付け後の強度は140MPa未満であった。
【0009】
特許文献6(米国特許出願公開第2005/0150642号)にはSiが約0.7〜1.2、Feが1.9〜2.4、Mnが0.6〜1.0、Mgが約0.5以下、Znが約2.5以下、Tiが約0.10以下、Inが約0.03以下、残りがアルミニウムおよび不純物の組成を含むアルミニウムフィン材料が記載されている。このフィン材料は連続的に鋳造することが可能であり、導電率が48%IACS超、ろう付け後の強度が120MPa超である。ピーク温度から500℃未満までの冷却速度が70℃/分の商業規模でのろう付けサイクルの後、ろう付け後の強度は130Paまたは131Paであった。
【0010】
特許文献7(米国特許第7,018,722号)には1つのコアと2つのクラッド層とを含むクラッドフィン材料が記載されており、このコアの組成は広い範囲から選択され、クラッド層はAl−Si合金から選択される。この発明は、コア表面のSi濃度(0.8以上)とコア中央部のSi濃度(0.7以下)との間に差が生じるように、コア層のSi含有量を調節することに関するものである。機械的特性データまたは導電率データは報告されていない。
【0011】
特許文献8(国際公開第07/013380号)には、Siが0.8〜1.4、Feが0.15〜0.7、Mnが1.5〜3.0、Znが0.5〜2.5、残りが不純物およびアルミニウムの組成を含む、フィン材として使用するアルミニウム合金が記載されている。この合金は双ベルト鋳造法によって製造される。ろう付け後の強度レベルには優れているが、導電率は比較的低く、報告されている最大値が45.8%IACSである。
【0012】
特許文献9(米国特許第6,592,688号)にはFeを1.2〜1.8、Siを0.7〜0.95、Mnを0.3〜0.5、Znを0.3〜1.2、残りにAlを含有する連続鋳造合金が記載されている。ろう付け後の導電率は49.8%IACS超、ろう付け後の強度は127MP超であった。140MPaを上回るろう付け後の強度を示した例は記載されいない。
【0013】
特許文献10(米国特許第6,65,291号)にはフィン材料を製造する工程が記載されており、この工程は、Feが1.2〜2.4、Siが0.5〜1.1、Mnが0.3〜0.6、Znが1.0以下、その他の元素が0.05未満、残りがAlの組成の範囲内にある合金に適用可能なものである。この工程では、鋳造時の冷却速度をきわめて速くするともに冷間圧延および中間焼鈍の条件を調節するよう双ロール鋳造を行う。得られたフィン材料は導電率が49%lACS超、ろう付け後の強度が127MPa超であることが報告されている。
【0014】
特許文献11(米国特許第6,238,497号)にはアルミニウムフィン材料を製造する方法が記載されており、この方法はストリップの連続鋳造、任意選択で熱間圧延、次いで冷間圧延、中間焼鈍および追加の冷間圧延を含む。この方法はFeが1.6〜2.4、Siが0.7〜1.1、Mnが0.3〜0.6、Znが0.3〜2.0、その他の元素が0.05未満、残りがAlの組成の合金に適用可能なものである。得られたフィン材料は導電率が49%lACS超、ろう付け後の強度が127MPa超であることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1918394号
【特許文献2】欧州特許出願公開第1693475号
【特許文献3】欧州特許出願公開第2048252号
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/0106410号
【特許文献5】米国特許第6,620,265号
【特許文献6】米国特許出願公開第2005/0150642号
【特許文献7】米国特許第7,018,722号
【特許文献8】国際公開第07/013380号
【特許文献9】米国特許第6,592,688号
【特許文献10】米国特許第6,65,291号
【特許文献11】米国特許第6,238,497号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
特性のバランスは参考文献によって異なる。高い熱伝導性が得られる場合もあるが、これはろう付け後の強度を犠牲にするものである。状況がこれと逆の場合もある。
【0017】
ろう付け後の強度および伝導性が高く、フィンの急速な劣化を回避しながら熱交換器のチューブに対する犠牲防食効果を確実に得るのに十分な耐食性能を有するフィン材料を提供するのが望ましいと考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の1つの実施形態は、次に挙げる組成(値をすべて重量%で表す)を含むアルミニウムフィン材を提供する:
Fe 0.8〜1.25;
Si 0.8〜1.25;
Mn 0.7〜1.5;
Cu 0.05〜0.5;
Zn 任意選択、2.5以下;
その他の元素が存在する場合、それぞれ0.05未満、合計0.15未満;および
残りを構成するアルミニウム。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ろう付け後の実施例3の合金の最大抗張力(UTS)に対するFe、SiおよびCuの効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
「その他の元素」という用語は不純物および微量元素を包含するとともに、産業界に典型的な計画的訓練の結果として存在し得る少量の細粒化添加物(例えば、TiおよびB)を包含するものとする。
【0021】
組成元素は次のような理由で選択されるものである。合金は、過剰な量の固溶強化元素を添加しなくてもろう付け後の強度が高くなるよう設計される。工程ならびに主要な合金化添加物、Fe、Si、MnおよびCuの組成の調節が適切なものであれば、最終標準厚さにおいて得られる微細組織は、高密度の微細な鋳放しの金属間粒子を示す。この粒子の大きさは、合金が直接チル(DC)鋳造物である場合の大きさに比して微細であるが、ろう付けサイクルの間に完全に溶解して固溶体の状態にならない程度の大きさが保たれるものである。これにより、導電率を低下させずに、粒子強化によってろう付け後の強度の増大がもたらされる。
【0022】
鋳造時に単斜晶系のベータ粒が生じるためにはFeとSiの含有量を厳密に調節することが必要とされる。このような三元のAl−Fe−Si粒子では、その化学量論組成および結晶格子構造により、FeからMnへの置換が起こらない。その結果、鋳造時にはMnの大部分が固溶体の状態にとどまり、少量のものが熱間圧延および中間焼鈍時に微細な分散質として沈降する。この微細組織の作用は、ろう付け作業で材料を600℃まで加熱しても、Mnの固溶体強化作用により材料の強度が保持されるというものである。
【0023】
その結果、他のAl−Fe−Si金属間にMnが組み込まれる状況において、このような比較的低レベルのMnでも強化作用が予想以上に強いものとなる。言い換えると、FeとSiの含有量が、鋳放し粒が主として立方晶系αのAl−Fe−Siとなるレベルであれば、Fe原子がMnに置き換わることが可能であり、得られるろう付け後の強度は、合金中のMnレベルが同じであっても低くなる。立方晶系α粒は大きさが比較的大きいため、比較的短いろう付けサイクルでは再溶解して溶液中に溶け込むことができない。
【0024】
このようにして、Mnの添加量を最適化し有用な特性のバランスを得る。強度を得るのには十分であるが、電気伝導性および熱伝導性には悪影響を及ぼさない量のMn(任意選択でCuと組み合わせて)を添加する。
【0025】
FeおよびSiの含有量はともに、0.8〜1.25重量%になるよう選択する。0.8重量%未満になると、金属間粒子の数が少なすぎ、大きさが小さ過ぎるため、強度が不十分なものになる。1.25重量%を超えると、フィン材の伝導性が低くなり過ぎる。ベータ相の形成が生じるようFeの含有量とSiの含有量が厳密に一致するのが理想的であり、両含有量がほぼ等しくなるのが好ましい。ほぼ等しいという表現を用いたのは、当業者には周知のことであるが、金属鋳造時に鋳造組成を毎回のように正確に調節するのは不可能であるからである。FeとSiの含有量がともに0.9〜1.1重量%であるのが好ましく、ともに1.0重量%前後であればさらに好ましい。
【0026】
Mn含有量は0.7〜1.5重量%になるよう選択する。含有量が0.7重量%未満になると強度が不十分なものになる。含有量が1.5重量%を超えると伝導性が低下する。Mn含有量が0.7重量%〜1.5重量%であれば、強度に大きな変化はみられず、伝導性はMn含有量が低いほど高くなる。したがって、Mnの好ましい範囲は0.7〜1.0重量%である。
【0027】
少量のCuを添加すると、ろう付け後の強度が増大し、たわみ抵抗性を向上させる大きいパンケーキ状粒子の形成に寄与し得る。Cuが0.5重量%を超えると腐食の問題が生じ得る。このような理由から、Cu含有量は0.05〜0.5重量%に設定する。
【0028】
Znはアルミニウム系合金の陽極電位に影響を及ぼすことが知られている。Znを添加すると、アルミニウム合金がさらに電気的に陰性(犠牲的)になる。熱交換器ユニットではフィン材料がチューブ材料の犠牲になることが好ましく、これはチューブ材料自体の組成によって左右される。実際問題として、このことは、フィンの電位がチューブよりも電気的に陰性である限り、一部の製造業者にはZnを添加していないフィン合金が必要になることを意味する。これに対して、チューブ材料の自由腐食電位が既に電気的に陰性であれば、フィンにZnを添加して電気的に陰性にし、犠牲的にすることが必要な場合がある。 Zn含有量が高過ぎる場合、例えば2.5重量%を超える場合、フィン材料の自己腐食が低下し、熱交換器ユニットの熱効率が急激に低下する。以上の理由から、Znは任意選択の元素であるが、2.5重量%以下の量で存在していてもよい。合金の導電率はZnの添加によってさらに向上し、合金の導電率が高い方(48%IACS超)が望ましい状況では、Znを0.25〜2.5重量%の量で添加することができる。
【0029】
組成および工程を制御することにより、0.07mm未満の標準厚さに圧延する場合でも、材料のたわみ抵抗性を大きくすることができる。組み立てた熱交換器を制御雰囲気下でろう付けする場合、フィン材料、チューブ材料およびヘッダ材料が595〜610℃の範囲の温度に曝される。この温度では、アルミニウム成分がクリープし始める。ろう付けの時間は短くても、使用する材料の標準厚さ厚が薄く温度が超高温であれば、車両用フィン材にはクリープが何らかの問題となる。この高温クリープは「たわみ」とも呼ばれ、材料がこの種のクリープに抵抗する能力はたわみ抵抗性と呼ばれる。フィン材の標準厚さが小さくなるほど、フィン材がろう付け作業時のたわみに抵抗する能力が重要になる。等軸粒組織をもつフィン材料がクリープする傾向が強いのに対して、パンケーキ状の粒組織をもつフィン材料はこれより強いたわみ抵抗性を示す。本発明のMn含有量は、粒組織の再結晶化を遅らせて、等軸粒が形成される傾向を抑えるものである。連続鋳造および最終標準厚さへの圧延後に存在する金属間化合物の微細分布により、粒子が圧延面で成長することは可能であっても、板厚全体にわたって成長することはできない。再結晶を遅らせ、粒子の圧延方向への成長を促進することにより、本発明の合金にパンケーキ状の粒組織と十分なたわみ抵抗性をもたせることが可能になる。
【0030】
本発明のまた別の特徴は、厚さがわずか0.05mmのフィン材料に特性のバランスが得られることである。フィン材料は通常、0.07mm前後の標準厚さで提供される。その差は小さいものであるが、百分率でみれば0.02mmの減少は相当なものであり、大きな軽量化がもたらされる。本発明の合金および工程により、比較的高い標準厚さでも所望の結果が得られるが、本発明によるフィン材の標準厚さは0.07mm未満、あるいは0.06mm未満、あるいは0.055mm未満であってもよい。
【0031】
このように組成および組織を制御した結果、次のような特性のバランスを示す製品が開発された。600℃でろう付け後、最大抗張力(UTS)が140Mpa以上、導電率が46%IACS以上である。
【0032】
本発明のまた別の実施形態の例では、フィン材を製造する方法が提供される。この方法は、本発明の合金を連続鋳造して4〜10mm厚のストリップを形成する段階、任意選択で鋳放しストリップを熱間圧延して1〜5mm厚の板にする段階、鋳放しストリップまたは熱間圧延した板を冷間圧延して0.07〜0.20mm厚の板にする段階、中間板を340〜450℃で1〜6時間焼鈍する段階および中間板を冷間圧延して最終標準厚さ(0.05〜0.10mm)にする段階を含む。
【0033】
熱間圧延を実施する場合、鋳放しストリップが約400〜550℃の温度で熱間圧延工程に入るのが好ましい。ろう付け後の粒子の平均の大きさが110μmを上回る、好ましくは240μmを上回るよう、最終圧延段階の冷間圧延の量を調節することができる。0.05mm厚のフィン材では通常、箔の厚さ方向にこのような大きさの粒子が3個存在する。このような「パンケーキ状」の粒子の有用性は、クリープ(またはたわみ)抵抗性において明白である。
【0034】
鋳造手順において、平均冷却速度が遅過ぎると、鋳造時に形成される金属間粒子が大きくなり過ぎることにより、圧延上の問題が生じる。このほか、金属間化合物が、上記のようにろう付けサイクル時に再溶解することができない立方晶系α型になる。冷却速度が遅いのは一般に、DC鋳造およびそれに続く均質化である。鋳造時の冷却速度を速くするためには、連続ストリップ鋳造工程を用いるべきである。双ロール鋳造、ベルト鋳造およびブロック鋳造を含めた様々な代替工程が存在する。双ロール鋳造では、平均冷却速度が約1500℃/秒を超えてはならない。ベルト鋳造およびブロック鋳造はともに、これより低い250℃/秒未満、より一般的には200℃/秒未満の最大平均冷却速度で行うものである。連続鋳造工程では比較的多数の微細な金属間粒子が形成され、冷却速度が速いほど金属間化合物が微細なものになる。金属間化合物の大きさをさらに効率的に制御するのに好ましい代替工程は双ロール鋳造を用いることであり、この鋳造法では、冷却速度が200℃/秒より速いことが好ましい。
【0035】
以下の実施例は、実施形態の例を詳細に説明するものとして記載されるものである。以下、添付図面を参照する。 図1はろう付け後の実施例3の合金の最大抗張力(UTS)に対するFe、SiおよびCuの効果を示すグラフである。
【0036】
実施例1
表1(値をすべて重量%で表す)に示す組成の合金は、双ロール鋳造により6.0mmの標準厚さにした後、多数の鋳造段階で冷間圧延して0.78mmにした。0.78mm標準厚さの中間板を35時間の総サイクル時間、最高炉温420℃で焼鈍した。この中間焼鈍の後、最終標準厚さ0.052mmまで段階的に冷間圧延することによって、板の標準厚さをフィン材まで減少させ、調質H18の材料を得た。4種類の合金を作製した。
【0037】
【表1】
【0038】
いずれの場合にも、不純物および微量元素として存在するその他の元素が0.05未満であり、残りがAlであった。
【0039】
試料AおよびBは本発明による合金であり、試料CおよびDは本発明の範囲外にある合金である。
【0040】
次いで、最終標準厚さのフィン材を工業における典型的な制御雰囲気でのろう付け条件を模したろう付けサイクルに供した。このろう付けサイクルでは、570℃に予熱した制御雰囲気の炉に試料を置き、次いで温度を約12分間で600℃に上げ、3分間、600℃に保った後、炉を50℃/分で400℃まで放冷し、その時点より後に試料を取り出し、室温まで放冷した。
【0041】
この標準厚さの材料について、通常の方法で引張特性を測定し、ろう付け後の導電率をJIS−N0505に従って測定した。その結果を表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
本発明による合金、AおよびBは、高いろう付け後強度(140MPa超)と高い導電率(46%IACS以上)を兼ね備えていた。
【0044】
実施例2
Zn添加を組み入れたまた別の2種類の合金組成を試験した。合金組成を表3に示す(値をすべて重量%で表す)。
【0045】
【表3】
【0046】
いずれの場合にも、不純物および微量元素として存在するその他の元素が0.05未満であり、残りがAlであった。
【0047】
各試料の合金は双ロール鋳造により6.0mmの標準厚さにした。試料Eは中間標準厚さ0.78mmで熱間圧延後、35時間の総サイクル時間、最高炉温420℃で中間焼鈍し、次いで最終標準厚さ0.052mmまで冷間圧延し、調質H18の材料を得た。
【0048】
試料Fも調質H18で得たが、中間焼鈍は標準厚さ0.38mmで熱間圧延後に実施し、中間焼鈍の温度および時間は試料Eと同じであった。
【0049】
次いで、最終標準厚さのフィン材を実施例1に記載したものと同じろう付けサイクルに供した。
【0050】
この標準厚さの材料について、通常の方法で引張特性を測定し、ろう付け後の導電率をJIS−N0505に従って測定した。その結果を表4に示す。
【0051】
【表4】
【0052】
Znの添加により導電率が向上したが、強度の低下は全く生じなかった。
【0053】
実施例3
表5に記載する合金は25mm×150mm×200mmの「ブックモールド」サイズに鋳造したものである。鋳塊を室温から525℃まで9時間かけて予熱し、5.5時間浸漬した。次いで、これを熱間圧延により5.8mmの標準厚さにした後、冷間圧延により標準厚さ0.1mmにした。
【0054】
【表5】
【0055】
いずれの場合にも、不純物および微量元素として存在するその他の元素が0.05未満であり、残りがAlであった。
【0056】
次いで、これらを実施例1および2に記載したものと同じ制御雰囲気でのろう付けサイクルに供し、ろう付け後のUTSについて引張試験を実施した。その特性を表6に示す。
【0057】
【表6】
【0058】
図1は、Fe+Si含有量が増加すると、ろう付け後のUTSも増大し、同じFe+Si含有量でCu含有量を増やすと、ろう付け後のUTSも増大することを示している。
図1