特許第6247229号(P6247229)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6247229
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】高歪点アルミノシリケートガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/091 20060101AFI20171204BHJP
   C03C 3/11 20060101ALI20171204BHJP
   C03C 3/118 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   C03C3/091
   C03C3/11
   C03C3/118
【請求項の数】11
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2014-558978(P2014-558978)
(86)(22)【出願日】2013年2月28日
(65)【公表番号】特表2015-512849(P2015-512849A)
(43)【公表日】2015年4月30日
(86)【国際出願番号】US2013028139
(87)【国際公開番号】WO2013130695
(87)【国際公開日】20130906
【審査請求日】2014年10月20日
(31)【優先権主張番号】61/604,249
(32)【優先日】2012年2月28日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/676,539
(32)【優先日】2012年7月27日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】エリソン,アダム ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】キクゼンスキ,ティモシー ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】マーカム,ショーン ラッチェル
(72)【発明者】
【氏名】マウロ,ジョン クリストファー
【審査官】 増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−522767(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/136027(WO,A1)
【文献】 特表2009−525942(JP,A)
【文献】 特開2011−201711(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 −14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物に基づくモルパーセントで表して、70.31〜72.5%のSiO、11〜13.5%のAl、1〜5%のB、3〜5%のMgO、4〜6.5%のCaO、0〜3%のSrO、および1.5〜5%のBaOを含んでなり、アルカリ要素LiO、NaOおよびKOの全濃度が、もし含まれている場合でも、0.1モル%未満であるガラスであって、
(1)785℃より高い焼き鈍し点を有し、
(2)T35kを前記ガラスが35,000ポアズ(3,500パスカル秒)の粘度を有する際の温度、前記Tliqを前記ガラスの液相線温度とすると、T35k−Tliq>0.25T35k−225℃なる条件を満たし、
(3)Sbの含有量が0.05モル%以下であ
(4)1.05≦(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al≦1.4であって、この式中、Al、MgO、CaO、SrOおよびBaOは上記酸化物成分のモルパーセントを表す、
ガラス。
【請求項2】
0.2≦MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)≦0.35であって、この式中、MgO、CaO、SrOおよびBaOは上記酸化物成分のモルパーセントを表す、請求項1記載のガラス。
【請求項3】
0.65≦(CaO+SrO+BaO)/Al≦0.95であって、この式中、Al、CaO、SrOおよびBaOは上記酸化物成分のモルパーセントを表す、請求項1記載のガラス。
【請求項4】
化学清澄剤として、0.01〜0.4モル%のSnO、AsまたはSb、F、ClまたはBrのいずれか1種または組合せを含有する、請求項1からいずれか1項記載のガラス。
【請求項5】
0.005〜0.2モル%の化学清澄剤として添加されたFe、CeOまたはMnOのいずれか1種または組合せを含有する、請求項1からいずれか1項記載のガラス。
【請求項6】
液相線粘度が200,000ポアズ(20,000パスカル秒)より高い、請求項1からいずれか1項記載のガラス。
【請求項7】
液相線粘度が250,000ポアズ(25,000パスカル秒)より高い、請求項1からいずれか1項記載のガラス。
【請求項8】
AsおよびSb個々の濃度が0.005モル%以下であることを特徴とする、請求項1からいずれか1項記載のガラス。
【請求項9】
LiO、NaOおよびKOの組み合わせられた濃度が0.1モル%以下であることを特徴とする、請求項1からいずれか1項記載のガラス。
【請求項10】
2〜4.5モルパーセントのB含量を有する請求項1からいずれか1項記載のガラス。
【請求項11】
2.5〜4.5モルパーセントのB含量を有する請求項1からいずれか1項記載のガラス。
【発明の詳細な説明】
【関連出願への相互参照】
【0001】
本出願は、米国特許法第119条に基づき、2012年2月28日出願の米国仮特許出願第61/604,249号明細書、および2012年7月27日出願の米国仮特許出願第61/676,539号明細書の優先権の利益を主張する。なお上記両米国仮特許出願は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、高歪点アルミノシリケートガラスに関する。
【背景技術】
【0003】
液晶ディスプレイ、例えば、アクティブマトリックス液晶ディスプレイデバイス(AMLCD)の製造は非常に複雑であり、基板ガラスの特性は極めて重要である。第1に、AMLCDデバイスの製造において使用されるガラス基板は、それらの物理的寸法が厳しく制御される必要がある。ダウンドローシートドローイングプロセス、特に、Dockertyへの特許文献1および特許文献2に記載のフュージョンプロセスによって、ラッピングおよび研磨などの費用のかかる形成後の仕上げ操作を必要とすることなく、基板として使用可能であるガラスシートを製造することができる。不都合なことに、フュージョンプロセスはガラス特性にむしろ厳しい制約を設け、すなわち、比較的高い液相線粘度を必要とする。
【0004】
液晶ディスプレイの分野において、多結晶質シリコンをベースとする薄膜トランジスタ(TFT)は、より効果的に電子を輸送するそれらの能力のため、好ましい。多結晶質をベースとするシリコントランジスタ(p−Si)は、非晶質シリコンをベースとするトランジスタ(a−Si)をベースとするものよりも高い移動度を有することを特徴とする。これによって、より小型で、より高速のトランジスタの製造が可能となり、最終的に、より明るく、より高速のディスプレイが製造される。p−Siをベースとするトランジスタに関する1つの課題は、それらの製造において、a−Siトランジスタの製造で使用される温度よりも高いプロセス温度が必要とされるということである。これらの温度は、a−Siトランジスタの製造において典型的に使用される350℃のピーク温度と比較して、450℃〜600℃の範囲に及ぶ。これらの温度において、ほとんどのAMLCDガラス基板では圧密として知られる過程を経験する。熱安定性または寸法変化とも呼ばれる圧密は、ガラスの仮想温度における変化によるガラス基板の非可逆的な寸法変化(収縮)である。「仮想温度」は、ガラスの構造的状態を示す概念である。高温から急速に冷却されたガラスは、より高い温度構造で「凍結する」ため、より高い仮想温度を有すると言われる。よりゆっくり冷却されたガラス、またはその焼き鈍し点付近でしばらく保持することによって焼き鈍しされたガラスは、より低い仮想温度を有すると言われる。
【0005】
圧密の大きさは、ガラスが製造されるプロセスおよびガラスの粘弾性特性の両方に依存する。ガラスからシート製品を製造するフロートプロセスにおいて、ガラスシートは、溶融物から比較的ゆっくり冷却され、したがって、比較的低い温度構造でガラスに「凍結する」。フュージョンプロセスは、対照的に、溶融物からガラスシートの非常に急速な焼入れすることをもたらし、比較的高い温度構造で凍結させる。その結果、圧密のための推進力は、仮想温度と、圧密の間にガラスが経験し得るプロセス温度との間の差であるため、フュージョンプロセスによって製造されたガラスと比較して、フロートプロセスによって製造されたガラスが経験する圧密はより少ない。したがって、ダウンドロープロセスによって製造されるガラス基板の圧密レベルを最小化することが望ましい。
【0006】
ガラスにおける圧密を最小化するために、2つの方法がある。第1の方法は、ガラスを熱的に前処理して、p−Si TFTの製造中にガラスが経験する温度と類似した仮想温度を生じさせることである。この方法には、いくつかの難点がある。第1に、p−Si TFTの製造中に採用される複数の加熱ステップは、この前処理によって完全に補うことが不可能な、わずかに異なる仮想温度をガラスにおいて発生させることである。第2に、ガラスの熱的安定性が、p−Si TFTの製造の項目に密接に関係することであり、このことは最終消費者が異なると前処理も異なることを意味する。最後に、前処理により、プロセス費用および複雑さが増す。
【0007】
別の方法は、ガラスの粘度を増加させることによって、プロセス温度における歪みの速度を遅くすることである。これは、ガラスの粘度を高めることによって達成可能である。焼き鈍し点は、ガラスの固定粘度に相当する温度を表し、したがって、焼き鈍し点の増加は、固定温度における粘度の増加に等しい。しかしながら、この方法に関する課題は、費用効果の優れた高い焼き鈍し点のガラスの製造ということである。費用に影響を与える主要な要因は、欠陥およびアセット寿命である。フュージョンドロー機に接続した、耐火性プレメルト(premelt)、貴金属ファイナーおよび貴金属ガラス供給ステムを備えた最新の連続ユニット(CU)溶融装置において、4つの種類の欠陥が一般に発生する:(1)気体の含有(気泡またはブリスター)、(2)耐火性材料から、または適切にバッチを溶融することの失敗からの固体含有、(3)主に白金からなる金属欠陥、ならびに(4)低い液相線粘度から生じる失透生成物、またはアイソパイプのいずれかの端部の過度の失透。ガラス組成は、溶融速度不均衡な影響を与え、したがって、気体または固体欠陥を形成するガラスの傾向に影響を与える。またガラスの酸化状態は、白金欠陥を呼び込んでしまう傾向に影響を与える。形成マンドレルまたはアイソパイプ上でのガラスの失透は、高い液相線粘度を有する組成を選択することによって最良に管理される。
【0008】
アセット寿命は、溶融および形成システムの様々な耐火性材料および貴金属成分の摩耗または変形の速度によって主に決定される。耐火性材料、白金システムデザインおよびアイソパイプ耐火性材料の最近の進歩によって、フュージョンドロー機に接続されたCU溶融装置の有用な操作寿命を非常に延長する可能性が提供された。その結果、最新のフュージョンドロー溶融および形成プラットホームの寿命を限定する構成要素は、ガラスを加熱するために使用される電極である。酸化スズ電極は経時的にゆっくり腐食し、かつ腐食速度は、温度およびガラス組成と強い相関関係を有する。アセット寿命を最大化するために、上記の欠陥を制限する特性を維持しながら、電極腐食の速度を低下させる組成を識別することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第3,338,696号明細書
【特許文献2】米国特許第3,682,609号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
開示された材料、化合物、組成物、物品、デバイスおよび方法の目的に従って、アクティブマトリックス液晶ディスプレイ(AMLCD)およびアクティブマトリックス有機発光ダイオードディスプレイ(AMOLED)などのフラットパネルディスプレイデバイスで基板として使用するために望ましい物理的および化学的特性を示すアルカリを含まないボロアルミノシリケートガラスが本明細書に具体化され、また概括的に記載される。ある種のその態様によれば、ガラスは高い焼き鈍し点と、したがって、良好な寸法安定性(すなわち低い圧密)を有する。さらに、開示された組成物は、非常に高い液相線粘度を有し、したがって、形成マンドレル上での失透の可能性を低下させるか、または排除する。それらの組成物の特定の項目の結果として、開示されたガラスは、気体含有が非常に低レベルである良好な品質へと溶融し、貴金属、耐火性材料および酸化スズ電極材料への浸食が最小限である。追加的な利益を以下の詳細な説明に一部明示する。これはある程度そのような説明から明白となるか、または以下に記載の態様を実施することによって理解され得る。以下に記載される利益は、添付された請求の範囲で特に指摘される要素および組合せによって実現し、達成されるであろう。以上の一般的な説明および以下の詳細な説明は、例示および説明のみを目的としており、限定するものではないことは理解されるべきである。
【0011】
添付の図面は、本明細書に組み込まれ、また本明細書の一部を構成しており、以下に記載するいくつかの態様を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、フュージョンドロープロセスにおいて精密なシートを製造するために使用されるアイソパイプ、形成マンドレルの略図である。
図2図2は、断面線6における図1のアイソパイプの断面図である。
図3図3は、1200℃および1140℃黒体のスペクトル、ならびに厚さ0.7mmのEagle XG(登録商標)非晶質薄膜トランジスタ基板の透過スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書に記載されているのは、非晶質シリコン、酸化物および低温ポリシリコンTFTプロセスにおいてTFTバックプレーン基板として使用するための、高い焼き鈍し点、したがって、良好な寸法安定性(すなわち、低圧密)を有する実質的にアルカリを含まないガラスである。高い焼き鈍し点ガラスは、ガラスの製造の後の熱プロセシングの間の圧密/収縮によるパネル歪曲を防ぐことができる。開示されたガラスは、非常に高い液相線粘度も有し、したがって、形成装置の冷所での失透のリスクを有意に低下させる。低いアルカリ濃度が一般に望ましいが、実際には、完全にアルカリを含まないガラスを経済的に製造することは困難であり得るか、または不可能であり得ることは理解されるべきである。このようなアルカリは、原材料中で汚染物質として、耐火材料中で微量成分などとして存在し、完全に排除するのが非常に困難となる。したがって、開示されたガラスは、アルカリ要素LiO、NaOおよびKOの全濃度が約0.1モルパーセント(モル%)未満である場合に実質的にアルカリを含まないと考えられる。
【0014】
一態様において、実質的にアルカリを含まないガラスは、約765℃より高く、好ましくは775℃より高く、より好ましくは785℃より高い焼き鈍し点を有する。そのような高い焼き鈍し点は、低温ポリシリコンプロセスにおいてブラックプレーン基板として使用される開示されたガラスに低い緩和速度、したがって、比較的小さい量の寸法変化をもたらす。別の態様において、約35,000ポアズ(約3,500パスカル秒)の粘度における開示されたガラスの温度(T35k)は、約1310℃未満である。ガラスの液相線温度(Tliq)は、結晶質相がガラスと平衡状態で共存することができない最も高い温度である。別の態様において、ガラスの液相線温度に相当する粘度は、約150,000ポアズ(約15,000パスカル秒)より高く、より好ましくは200,000ポアズ(20,000パスカル秒)より高く、最も好ましくは250,000ポアズ(25,000パスカル秒)より高い。別の態様において、開示されたガラスは、T35k−Tliq>0.25T35k−225℃ということを特徴とする。これによって、フュージョンプロセスの形成マンドレル上での失透の傾向が最小化することが確実となる。
【0015】
一態様において、実質的にアルカリを含まないガラスは、酸化物に基づくモルパーセントで、
SiO 69〜72.5
Al 11〜13.5
1〜5
MgO 3〜5
CaO 4〜6.5
SrO 0〜3
BaO 1.5〜5
を含んでなり、ここで、
1.05≦(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al≦1.4
(式中、Al、MgO、CaO、SrO、BaOはそれぞれの酸化物成分のモルパーセントを表す)である。
【0016】
さらなる態様において、実質的にアルカリを含まないガラスは、酸化物に基づくモルパーセントで、
SiO 69〜72.5
Al 11.5〜13.5
1〜4.5
MgO 3〜5
CaO 4〜6.5
SrO 0〜3
BaO 1.5〜5
を含んでなり、ここで、
1.05≦(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al≦1.4
かつ
0.2≦MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)≦0.35
(式中、Al、MgO、CaO、SrO、BaOはそれぞれの酸化物成分のモルパーセントを表す)である。
【0017】
さらなる態様において、実質的にアルカリを含まないガラスは、酸化物に基づくモルパーセントで、
SiO 69〜72.5
Al 11.5〜13.5
1〜4.5
MgO 3〜5
CaO 4〜6.5
SrO 0〜3
BaO 1.5〜5
を含んでなり、ここで、
1.05≦(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al≦1.4
かつ
0.65≦(CaO+SrO+BaO)/Al≦0.95
(式中、Al、MgO、CaO、SrO、BaOはそれぞれの酸化物成分のモルパーセントを表す)である。
【0018】
一態様において、開示されたガラスは、化学清澄剤を含む。そのような清澄剤には、限定されないが、SnO、As、Sb、F、ClおよびBrが含まれ、化学清澄剤の濃度は、0.5モル%以下に保持される。化学清澄剤は、CeO、FeおよびMnOなどの遷移金属の他の酸化物を含んでもよい。これらの酸化物は、ガラスにおけるそれらの最終的な原子価状態において可視吸収によってガラスに色を導入し得、したがって、それらの濃度は、好ましくは0.2モル%以下に保持される。
【0019】
一態様において、開示されたガラスは、フュージョンプロセスによってシートへと製造される。フュージョンドロープロセスは、清潔な火炎研磨されたガラス表面をもたらし、これは表面媒介歪曲を低下させ、高解像度TFTバックプレーンおよびカラーフィルターをもたらす。図1は、形成マンドレルまたは、その勾配のある谷部のデザインがアイソパイプに沿って(左から右に)全ての点で同一(したがって、「アイソ」)の流れを生じるため、いわゆるアイソパイプと称されるものの位置のフュージョンドロープロセスの概略図である。図2は、図1の位置6の付近のアイソパイプの概略横断面である。入口1から導入されたガラスは、堰止壁3によって形成された谷部2の底部に沿って圧縮端部4まで流れる。ガラスは、アイソパイプの両側で堰止壁3からあふれ出て(図2参照)、ガラスの2つの流れは、根部6で接合または融合する。アイソパイプのいずれの端部のエッジディレクター7も、ガラスを冷却するために機能し、ビーズと呼ばれるエッジにおいてより厚いストリップを生じさせる。ロールを引くことによってビーズは引き下げられて、したがって、高粘度でのシート形成を可能にする。シートがアイソパイプから引き離される速度を調節することによって、固定溶融速度で非常に広範囲にわたる厚さを生じるためにフュージョンドロープロセスを使用することが可能である。
【0020】
ダウンドローシートドローイングプロセス、特に、参照によって組み込まれる(両方ともDockertyへの)米国特許第3,338,696号明細書および同第3,682,609号明細書に記載のフュージョンプロセスを使用することができる。フロートプロセスなどの他の形成プロセスと比較して、フュージョンプロセスは、いくつかの理由のために好まれる。第1に、フュージョンプロセスから製造されたガラス基板は研磨を必要としない。現行のガラス基板研磨では、原子力顕微鏡検査で測定したところ、約0.5nm(Ra)より高い平均表面粗度を有するガラス基板を製造することが可能である。フュージョンプロセスによって製造されるガラス基板は、原子力顕微鏡検査で測定したところ、0.5nm未満の平均表面粗度を有する。またこの基板は、光遅延によって測定したところ、150psi(1034214Pa)以下である平均内部応力を有する。
【0021】
一態様において、開示されたガラスは、フュージョンプロセスを使用してシートの形態に製造される。開示されたガラスはフュージョンプロセスに適合性を有するが、それらは、より要求が多くない製造プロセスによってシートまたは他の品物に製造されてもよい。そのようなプロセスには、スロットドロー、フロート、ローリングおよび当業者に既知の他のシート形成プロセスが含まれる。
【0022】
ガラスのシートを作成するためのこれらの他の方法と比較して、上記フュージョンプロセスは、清潔な表面を有する、非常に薄く、非常に平面で、非常に均一なシートを作成することが可能である。スロットドローも清潔な表面を生じることができるが、時間とともにオリフィス形状が変化すること、オリフィス−ガラスインターフェースにおける揮発性細片の蓄積、本当に平面なガラスを送達するオリフィスを作成することの難問により、スロットドローガラスの寸法の均一性および表面品質は、フュージョンドローガラスより一般に劣っている。フロートプロセスは、非常に大きな均一なシートを送達することが可能であるが、一方の面においてフロート浴との接触によって、他方の面においてフロート浴から縮合生成物への曝露によって、表面は実質的に悪化する。このことは、高性能ディスプレイ用途に用いるために、フロートガラスは研磨されなければならないことを意味する。
【0023】
不都合なことに、フロートプロセスとは異なり、フュージョンプロセスは、高温からのガラスの急速冷却をもたらし、これは高い仮想温度Tをもたらす。仮想温度は、ガラスの構造的状態と、関心の温度においてそれが完全に緩和されることが仮定される状態との間の相違を表すと考えることができる。T<T≦Tであるように、ガラス転移温度Tを有するガラスをプロセス温度Tまで再加熱する結果をここで考える。T<Tであるから、ガラスの構造的状態は、Tにおける平衡の外側であり、ガラスは、Tにおいて平衡である構造的状態に向かって自発的に緩和する。この弛緩の速度は、Tにおけるガラスの有効粘度と反比例し、高粘度では遅い緩和速度が生じ、低い粘度では急速な緩和速度が生じる。有効粘度はガラスの仮想温度に反比例して変化し、低い仮想温度では高い粘度が生じ、高い仮想温度では比較的低い粘度が生じる。したがって、Tにおける緩和速度は、ガラスの仮想温度と直接比例する。高い仮想温度を導入するプロセスでは、ガラスがTにおいて再加熱される場合に、比較的高い緩和速度が生じる。
【0024】
において緩和速度を低下させる1つの手段は、その温度においてガラスの粘度を増加させることである。ガラスの焼き鈍し点は、ガラスが1013.2ポアズ(1012.2パスカル秒)の粘度を有する温度を表す。温度を焼き鈍し点未満まで低下させた時、過冷却された溶融物の粘度は増加する。T未満の固定温度で、より高い焼き鈍し点を有するガラスは、より低い焼き鈍し点を有するガラスより高い粘度を有する。したがって、Tにおける基板ガラスの粘度を増加させるために、当業者はその焼き鈍し点を上げることを選択するであろう。不都合なことに、一般に、焼き鈍し点を上げるために必要な組成変化によって、他の全ての温度における粘度も増加る。特に、フュージョンプロセスによって製造されるガラスの仮想温度は、1011〜1012ポアズ(1010〜1011パスカル秒)の粘度に相当し、したがって、フュージョン適合性ガラスのための焼き鈍し点の上昇は、一般にその仮想温度も上昇させる。所与のガラスに関して、T未満の温度において、より高い仮想温度はより低い粘度をもたらし、したがって、仮想温度を上げることは、そうでなければ焼き鈍し点を上げることによって得られるであろう粘度増加を抑えてしまう。Tにおける緩和速度の実質的な変化を見るために一般に焼き鈍し点比較的大きな変化が必要である。開示されたガラスの一態様は、それが約765℃より高く、より好ましくは775℃より高く、最も好ましくは785℃より高い焼き鈍し点を有することである。そのような高い焼き鈍し点は、低温TFTプロセシング、例えば、典型的な低温ポリシリコン急速熱焼き鈍しサイクルの間、容認できる低い熱緩和速度をもたらす。
【0025】
仮想温度への影響に加えて、焼き鈍し点を上げることはまた、溶融および形成システムを通しての温度、特にアイソパイプ上の温度を上げる。例えば、Eagle XG(登録商標)およびLotus(商標)(Corning Incorporated,Corning,NY)は、約50℃異なる焼き鈍し点を有し、それらがアイソパイプに送達される温度も約50℃異なる。約1310℃を超える温度で延長された期間で保持され場合、耐火性ジルコンは熱クリープを示し、これはアイソパイプ上でアイソパイプ自体の重量およびガラスの重量によって拍車かかり得る。開示されたガラスの第2の態様は、それらの供給温度が1310℃未満であるということである。そのような供給温度は、アイソパイプを置き換えることなく、製造操作持続時間の延長(extended manufacturing campaigns)を可能にする。
【0026】
高い焼き鈍し点および1310℃未満の供給温度を有するガラスの試験を行った際に、より低い焼き鈍し点を有するガラスと比較して、それらは、アイソパイプの根部において、特に、エッジディレクターにおいて失透に向かうより大きい傾向を示すことが発見された。アイソパイプにおける温度プロフィールの慎重な測定によって、エッジディレクター温度は、放射性熱損失のため、中央根部温度と比較して、予期されたよりも非常により低かったことが示された。エッジディレクターは、典型的に、ガラスが根部から出ていくように十分に粘性であることを確実にするために、中央根部温度未満の温度で維持されなければならない。シートは張力下でエッジディレクター間に配置され、したがって、平面形状を維持する。エッジディレクターはアイソパイプのいずれの端部にもあるため、加熱が困難であり、したがって、根部の中央とエッジディレクターとの間の温度差は50℃以上異なることがあり得る
【0027】
理論に縛られることは望んでいないが、このようなフュージョンプロセスにおける失透に向かう増加する傾向は、温度の関数としてのガラスの放射性熱損失の観点から解できる。フュージョンは実質的に等温過程であり、ガラスは特定の粘度で入口を出て、非常により高い粘度で根部を出るが、粘度に関する実際の値は、ガラスの同一性またはプロセスの温度に強く依存しない。したがって、より高い焼き鈍し点を有するガラスは、一般に、供給および出口粘度に適合させるためだけのより低い焼き鈍し点を有するガラスよりも非常により高いアイソパイプ温度を必要とする。一例として、図3は、それぞれ、ほぼ、Eagle XG(登録商標)およびLotus(商標)に関するアイソパイプの根部(図2中の6)の温度である、1140℃および1200℃に相当する黒体スペクトルを示す。約2.5μmの垂直線は、赤外線カットオフ、ボロシリケートガラスの光学的吸収が、非常に急速に、高くかつほとんど一定の値まで上昇する、近赤外線の領域の開始にほぼ相当する。このカットオフ波長より短い波長において、ガラスは300〜400nmのUVカットオフ波長に透明である。約300〜約2.5μmで、1200℃黒体は、1140℃黒体よりも、より大きい絶対エネルギーおよびその全体のエネルギーのより大きなフラクションを有する。ガラスはこの波長範囲で非常に透明であるため、1200℃におけるガラスからの放射性熱損失は、1140℃におけるガラスのものよりも非常に大きい。
【0028】
放射性熱損失は温度によって増加するため、高い焼き鈍し点のガラスは、より低い焼き鈍し点ガラスよりも高い温度で一般に形成されるため、中央根部とエッジディレクターとの間の温度差は、ガラスの焼き鈍し点によって一般に増加する。これは、アイソパイプまたはエッジディレクターにおいて失透生成物を形成するガラスの傾向にして、直接的な影響を有する。ガラスの液相線温度は、ガラスがその温度で無期限に保持される場合に結晶質の相が現れる最も高い温度として定義される。液相線粘度は、液相線温度におけるガラスの粘度である。アイソパイプにおける失透を完全に回避するため、液相線粘度が、ガラスが液相線温度またはその付近で耐火性アイソパイプまたはエッジディレクター材料上にないことを確実にするために十分高いということが望ましい。
【0029】
実際には、ほとんどのアルカリを含まないガラスは、所望の大きさの液相線粘度を有さない。非晶質シリコン用途のために適切な基板ガラス(例えば、Eagle XG(登録商標))による経験は、エッジディレクターは、ある種のアルカリを含まないガラスの液相線温度の60℃未満までの温度で連続的に保持されることができることを示した。より高い焼き鈍し点を有するガラスはより高い形成温度を必要とすることは理解されるが、エッジディレクターが、中央根部温度と比較して、非常に冷たいということは予期されなかった。この効果の経過を追うための有用な測定基準は、アイソパイプ上の供給温度(delivery temperature)とガラスの液相線温度(Tliq)との間の差異である。フュージョンプロセスにおいて、約35,000ポアズ(約3,500パスカル秒)においてガラスを送達(delivery)することが一般に望ましく、35,000ポアズ(3,500パスカル秒)の粘度に相当する温度はT35kとして都合よく表される。特定の供給温度(delivery temperature)のために、T35k−Tliqを可能な限り大きくすることは常に望ましいが、Eagle XG(登録商標)などの非晶質シリコン基板に関して、T35k−Tliqが約80℃以上である場合、操作持続時間の延長(extended manufacturing campaigns)を実行することができることが見出された。温度が増加すると、T35k−Tliqも同様に増加しなければならず、1300℃付近のT35kに関しては、T35k−Tliqが少なくとも100℃であることが望ましい。T35k−Tliqのための最小有用値は、約1200℃〜約1320℃の温度でほぼ線形に変化し、以下のように表わすことができる。
【0030】
最小T35k−Tliq=0.25T35k−225 (1)
全ての温度は℃で示される。したがって、開示されたガラスのさらなる態様は、T35k−Tliq>0.25T35k−225℃である。
【0031】
この基準に加えて、フュージョンプロセスは、高い液相線粘度を有するガラスを必要とする。これは、ガラスとのインターフェースにおいて失透生成物を回避するために、最終的なガラスにおける可視の失透生成物を最小化するために必要である。特定のシートサイズおよび厚さのためのフュージョンと適合性のあるガラスに関して、より広いシートまたはより厚いシートを製造するためにプロセスを調節することは、一般に、アイソパイプ(フュージョンプロセスの形成マンドレル)のいずれの端部でも、より低い温度をもたらす。したがって、より高い液相線粘度を有する開示されたガラスは、フュージョンプロセスによる製造に関して、より高い適応性を提供する。
【0032】
液相線粘度とフュージョンプロセスにおけるその後の失透傾向との関係の試験において、驚くべきことに、開示されたガラスのものなどの高い供給温度は、一般に、より低い焼き鈍し点を有する典型的なAMLCD基板組成物の場合よりも、長時間製造のためにより高い液相線粘度を必要とすることを発見した。理論によって拘束されることを望まないが、この必要条件は、温度が増加した時の結晶成長の促進された速度に起因するように見える。フュージョンは本質的に等粘性プロセスであるので、ある固定温度におけるより粘性ガラスは、より粘性でないガラスよりも高い温度におけるフュージョンによって形成されなければならない。とある程度の過冷却(液相線温度未満で冷却すること)を、より低い温度でガラスにおいて延長された期間持続することができるが、結晶成長率は温度によって増加し、したがって、より粘性のガラスは、より粘性でないガラスよりも短い時間で、同等の容認できない量の失透生成物を成長させる。それらが形成される場所次第で、失透生成物は形成安定性を悪化させ、最終的なガラスに可視欠陥を導入するおそれがある。
【0033】
フュージョンプロセスによって形成するために、開示されたガラス組成物、200,000ポアズ(約20,000パスカル秒)以上、より好ましくは250,000ポアズ(約25,000パスカル秒)以上の液相線粘度を有することが望ましく、より高い液相線粘度が好ましい。驚くべき結果は、開示されたガラスの範囲において、ガラスの液相線粘度が、開示された範囲外の組成物と比較して異常に高いように、十分に低い液相線温度および十分に高い粘度を得ることが可能であるということである。
【0034】
本明細書に記載されるガラス組成物において、SiOは、基本ガラス形成剤として機能する。ある態様において、SiOの濃度は、フラットパネルディスプレイガラス(例えば、AMLCDガラス)に好適な密度および化学耐久性、液相線温度(液相線粘度)を有するガラスが提供されるように69モルパーセントより高いことが可能であり、それによって、ダウンドロー法(例えば、フュージョンプロセス)によりガラスを形成することができる。上限に関して、一般に、SiO濃度は、耐熱性溶融装置において、従来の高容積、溶融技術、例えば、ジュール溶融を用いて、バッチ材料を溶融することができるように約72.5モルパーセント以下とすることが可能である。SiOの濃度が増えるにつれ、200ポアズ(約20パスカル秒)の温度(溶融温度)は一般に上昇する。様々な用途において、SiO濃度を調整して、ガラス組成物の溶融温度が、1,725℃以下となるようにする。一態様において、SiO濃度は、69〜72.5モルパーセントである。別の態様において、SiO濃度は、69〜71.5モルパーセントである。
【0035】
Alは、本明細書に記載されるガラスを製造するために用いるもう1つのガラス形成剤である。Al濃度が11モルパーセント以上であると、低液相線温度および高粘度を有し、その結果、高い液相線粘度となるガラスが提供される。少なくとも12モルパーセントのAlの使用によって、ガラスの焼き鈍し点および弾性率も改善する。(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al比が1.05以上であるためには、Al濃度を13.5モルパーセント未満に保つのが望ましい。一態様において、Al濃度は、11〜13.5モルパーセントである。別の態様において、Al濃度は、11.5〜12.5モルパーセントである。
【0036】
は、ガラス形成剤と、溶融を補助し、溶融温度を下げる融剤の両方として機能する。液相線温度へのその影響は、少なくとも粘度へのその影響と同様の大きさであり、したがって、ガラスの液相線粘度を増加させるためにの増加を利用することができる。これらの効果を得るためには、本明細書に記載されるガラス組成物のB濃度は、1モルパーセント以上である。SiOに関して上述したとおり、LCD用途においては、ガラス耐久性もまた非常に重要である。耐久性は、アルカリ土類酸化物の濃度を上げ、高含量のBを大幅に減じることにより、若干制御することができる。Bが増加すると、焼き鈍し点が減少するため、非晶質シリコン基板のその典型的な濃度と比較して、B含量を低く保つのが望ましい。したがって、一態様において、本明細書に記載されるガラスは、1〜5モルパーセントのB濃度を有する。別の態様において、ガラスは、2〜4.5モルパーセントのB含量を有する。なお別の態様において、本発明のガラスは、2.5〜4.5モルパーセントのB含量を有する。
【0037】
ガラスの溶融および形成特性を維持しながら、焼き鈍し点を上げ、弾性率を高め、耐久性を改善し、密度を減じ、熱膨張係数(CTE)を減じるために、AlおよびB濃度対として選択することができる。
【0038】
例えば、Alの増加が(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al比を約1.0より下げないという条件下で、の増加と、対応するAlの減少は、低密度およびCTEを得るのに有用であり、一方、Alの増加と、対応するBの減少は、焼き鈍し点、弾性率および耐久性を高めるのに有用である。約1.0未満の(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al比に関して、シリカ原材料の後期段階溶融のため、ガラスから気体の含有を除去することは困難であるか、または不可能であるかもしれない。さらにまた、(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al≦1.05である場合、ムライトというアルミノシリケートの結晶が液相線相として現れる可能性がある。一旦ムライトが液相線相として存在すると、液相線の組成物感度がかなり増加し、ムライト失透生成物は非常に急速に成長し、一度そうなるムライト失透生成物の除去非常に困難である。したがって、一態様において、本明細書に記載されるガラスは、(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al≧1.05の条件を満たすまた、当該技術分野で知られているとおり、AMLCD用途で用いるガラスのCTE(22〜300℃)は、28〜42×10−7/℃、好ましくは30〜40×10−7/℃、最も好ましくは32〜38×10−7/℃の範囲ある。
【0039】
本明細書に記載されるガラスは、ガラス形成剤(SiO、AlおよびB)に加えて、アルカリ土類酸化物も含む。一態様において、少なくとも3つのアルカリ土類酸化物、例えば、MgO、CaOおよびBaOと、任意選択でSrOが、ガラス組成物の一部である。アルカリ土類酸化物は、ガラスに、溶融、清澄、成形および最終用途にとって重要な様々な特性を与える。したがって、これらに関して、ガラス性能を改善するには、一態様において、(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al比は、1.05以上である。この比率が増加すると、液相線温度よりも強く粘度が増加する傾向があり、したがって、T35k−Tliqに関して適切に高い値を得ることはますます困難となる。したがって、別の態様において、(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al比は1.4以下である。別の態様において、(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al比は1.3以下である。別の態様において、比率は1.2以下である。
【0040】
本発明の特定の実施形態について、アルカリ土属酸化物は、事実上、単一組成成分として扱われてもよい。これは、粘弾特性、液相線温度および液相関係に対する影響が、ガラス形成酸化物SiO、AlおよびBに対してよりも、互いに対して定量的により類似しているからである。しかしながら、アルカリ土属酸化物CaO、SrOおよびBaOは、長石鉱物、特に、灰長石(CaAlSi)およびセルシアン(BaAlSi)およびこのストロンチウム含有固溶体を形成することができるが、MgOは有意な程度までこれらの結晶に関与しない。したがって、長石結晶が既に液相の場合、MgOをさらに添加すると、結晶に対して液体を安定化し、液相線温度を下げる役割を果たす。同時に、粘度曲線が、典型的に、急勾配になって、低温粘度にほとんど、または全く影響を与えずに、融点を下げる。この意味で、少量のMgOの添加は、高い焼き鈍し点と低圧密を保ちつつ、溶融温度を下げることによる溶解の利点、液相温度を下げ、液相線粘度を上げることによる成形の利点が得られる。
【0041】
高い焼き鈍し点を有するガラスにおける液相線傾向の研究の驚くべき結果は、T35k−Tliqの適切に高い値を有するガラスに関して、MgO対他のアルカリ土類、MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)の比率が、比較的狭い範囲に収まるというこである。上記したように、MgOの添加は、長石鉱物を不安定にする可能性があり、したがって、液体およびより低い液相線温度を安定させる。しかしながら、一旦MgOが特定のレベルに達したら、ムライト、AlSiO1は安定化し得、したがって、液相線温度を増加させて、液相線粘度を低下させる。そのうえ、MgOの濃度が高いほど、液体の粘度を低下させる傾向があり、したがって、たとえ液相線粘度がMgOの添加によって不変のままであったとしても、それは、最終的には、液相線粘度が低下するケースとなる。したがって、別の態様において、0.2≦MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)≦0.35である。この範囲内で、MgOは、他の所望の特性を得ることによって調和したT35k−Tliqの値を最大にするために、ガラス形成剤および他のアルカリ土属酸化物に対して変化してもよい。
【0042】
ガラス組成物中に存在する酸化カルシウムは、フラットパネル用途、特に、AMLCD用途について、最も望ましい範囲の低液相線温度(高液相線粘度)、高い焼き鈍し点および弾性率、ならびにCTEを生じさせることができる。また、化学的耐久性にも寄与するため好ましく、他のアルカリ土類酸化物に比べて、バッチ材料としては比較的安価である。しかしながら、高濃度において、CaOは、密度およびCTEを増加させる。さらに、十分に低いSiO濃度において、CaOは、灰長石を安定化させ得るものでありそれによって液相線粘度が減少する。したがって、一態様において、CaO濃度は、4モルパーセント以上とすることができる。別の態様において、ガラス組成物のCaO濃度は、4〜6.5モルパーセントである。
【0043】
SrOおよびBaOは、両者共、低液相線温度(高液相線粘度)に寄与し、したがって、本明細書に記載されるガラスは、典型的に、これらの酸化物のうち少なくとも1つを含有する。しかしながら、これらの酸化物の選択および濃度は、CTEおよび密度の増加、ならびに弾性率および焼き鈍し点の減少を排除するように選択される。SrOとBaOの相対的な比率を釣り合わせて、物理特性と液相線粘度の好適な組合せが得られるようにし、ガラスがダウンドロー法により形成できるようにする。
【0044】
高い焼き鈍し点を有するガラスにおける液相線傾向の研究の驚くべき結果は、T35k−Tliqの適切に高い値を有するガラスが、一般に0.65≦(CaO+SrO+BaO)/Al≦0.95を有するということである。より単純なRO−Al−SiOの3成分系(R=Ca、Sr、Ba)において、アルカリ土属アルミノシリケート(例えば灰長石またはセルシアン)とムライトとの間でコテクティック(したがって、液相線最小)がある。理論に限定されることを望まないが、このコテクティックで、またはその付近で液体にMgOを添加することは、いずれの結晶質相に関しても液体を安定させるように見える。
【0045】
本発明のガラスの中心成分の効果/役割をまとめると、SiOが基本的なガラス形成剤である。AlとBもまたガラス形成剤であり、対として選択することができる。例えば、Bを増やし、これに対応して、Alを減らすことは、低密度およびCTEを得るために使用され、Alを増やし、これに対応して、Bを減らすことは、焼き鈍し点、弾性率および耐久性を増加するために使用される。ただし、Alを増やしても、RO/Al比を約1.05未満に下げないものとする。式中、RO=(MgO+CaO+SrO+BaO)である。この比が低すぎると、溶融性が損なわれる。すなわち、溶融温度が高くなりすぎる。Bを用いて溶融温度を下げることができるが、高レベルのBだと、焼き鈍し点が損なわれる。
【0046】
溶融性と焼き鈍し点の考慮に加えて、AMCLD用途については、ガラスのCTEが、シリコンに匹敵するものでなければならない。かかるCTE値を得るために、本発明のガラスは、ガラスのRO含量を制御する。所与のAl含量について、RO含量を制御することは、RO/Al比を制御することに対応する。実際、好適なCTEを有するガラスは、RO/Al比が約1.2未満の場合に作製される。
【0047】
これらの考慮に加えて、ガラスは、ダウンドロープロセス、例えば、フュージョンプロセスにより形成可能であるのが好ましい。すなわち、ガラスの液相線粘度を比較的高くする必要がある。個々のアルカリ土類は、これに関して重要な役割を演じる。形成される結晶相を不安定にする可能性があるためである。BaOおよびSrOは、液相線粘度を制御するのに特に効率的であり、少なくともこの目的のために、本発明のガラスに含まれる。以下の実施例で示すように、アルカリ土類の様々な組合せによって、高液相線粘度を有し、アルカリ土類の合計が、低溶融温度、高い焼き鈍し点および好適なCTEを得るのに必要なRO/Al2O比の制限を満足するガラスが作製される
【0048】
上記の成分に加えて、本明細書に記載されるガラス組成物は、ガラスの様々な物理、溶融、清澄および成形属性を調整するために、様々なその他の酸化物を含むことができる。そのような他の酸化物の例としては、これらに限定されないが、TiO、MnO、Fe、ZnO、Nb、MoO、Ta、WO、Y、LaおよびCeOが含まれる。一態様において、これらの各酸化物の量は、2.0モルパーセント以下とし、合計の組合せた濃度は、4.0モルパーセント以下とし得る。本明細書に記載されるガラス組成物はまた、バッチ材料に関連した、および/またはガラスを作製するのに用いる溶融、清澄および/または形成装置によりガラスに導入された様々な汚染物質、特に、FeやZrOも含む可能性がある。ガラスはまた、酸化錫電極を用いるジュール溶融の結果、および/または錫含有材料、例えば、SnO、SnO、SnCO、SnCなどのバッチ材料の使用(batching)により、SnOを含有する可能性もある。
【0049】
ガラス組成物は、一般にアルカリを含まないが、ガラスはある程度のアルカリ汚染物質を含む可能性がある。AMCLD用途においては、アルカリレベルを、0.1モルパーセント未満に保って、ガラスから、TFTのシリコンへのアルカリイオンの拡散により、薄膜トランジスタ(TFT)性能に悪影響を及ぼさないようにするのが望ましい。本明細書で用いる場合、「アルカリを含まないガラス」は、0.1モルパーセント以下の合計アルカリ濃度を有するガラスである。合計アルカリ濃度は、NaO、KOおよびLiO濃度の合計である。一態様において、合計アルカリ濃度は、0.1モルパーセント以下である。
【0050】
上記の通り、1.05以上の(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al比により、清澄、すなわち、溶融バッチ材料からの気体含有物の除去が改善される。この改善によって、より環境に優しい清澄パッケージの使用可能となる。例えば、酸化物基準で、本明細書に記載されるガラス組成物は、以下の組成特性のうち1つ以上、あるいは全てを有することができる。(i)最大で0.05モルパーセントのAs濃度、(ii)最大で0.05モルパーセントのSb濃度、(iii)最大で0.25モルパーセントのSnO濃度。
【0051】
Asは、AMLCDガラスについての効率的な高温清澄剤であり、本明細書に記載したいくつかの態様において、Asは、その優れた清澄特性のために、清澄に用いられる。しかしながら、Asは毒性があり、ガラス製造プロセスにおいては特別な取り扱いが必要である。したがって、特定の態様においては、大量のAsを用いずに清澄を行う。すなわち、仕上がりガラスのAsは、最大で0.05モルパーセントとする。一態様においては、ガラスの清澄には、意図的にAsは使わない。そのような場合、バッチ材料および/またはバッチ材料を溶融するのに用いる装置に存在する汚染物質により、仕上がりガラスのAsは、最大で0.005モルパーセントである。
【0052】
Asほどではないが、Sbも毒性があるため、特別な取り扱いが必要である。さらに、Sbは、AsまたはSnOを清澄剤として用いるガラスに比べ、密度を上げ、CTEを上げ、焼き鈍し点を下げる。したがって、特定の態様においては、大量のSbを用いずに清澄を行う。すなわち、仕上がりガラスのSbは、最大で0.05モルパーセントとする。他の態様においては、ガラスの清澄には、意図的にSbは使わない。そのような場合、バッチ材料および/またはバッチ材料を溶融するのに用いる装置に存在する汚染物質により、仕上がりガラスのSbは、最大で0.005モルパーセントである。
【0053】
AsおよびSb清澄に比べると、スズ清澄(すなわち、SnO清澄)はあまり効率的でないが、SnOは、有害な特性が認められないどこにでもある材料である。また、長年にわたって、SnOは、そのようなガラスのバッチ材料のジュール溶解において、スズ酸化物電極を利用するAMLCDガラスの成分となっている。AMLCDガラスにSnOが存在しても、液晶ディスプレイの製造において、これらのガラスを用いる悪影響は認められていない。しかしながら、高濃度のSnOは好ましくない。AMLCDガラスにおける結晶欠陥の形成となり得るからである。一態様において、仕上がりガラスのSnOの濃度は、0.25モルパーセント以下である。
【0054】
スズ清澄は、所望により、単独、あるいは、他の清澄技術と組み合わせて用いることができる。例えば、スズ清澄は、ハロゲン化物清澄、例えば、臭素清澄と組み合わせて用いることができる。他の可能な組合せとしては、これらに限定されないが、スズ清澄と、硫酸、硫化物、酸化セリウム、機械発泡および/または真空清澄が挙げられる。これらのその他の清澄技術は、単独で用いることができるものと考えられる。特定の態様において、(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al比と、上述した範囲内の個々のアルカリ土類濃度を維持することによって、清澄プロセスを、実施し易く、より効率的にさせる。
【0055】
本明細書に記載されるガラスは、当該技術分野で公知の様々な技術を用いて製造することができる。一態様において、ガラスは、例えば、フュージョンダウンドロープロセスなどのダウンドロープロセスを用いて作製される。一態様において、本明細書に記載されているのは、バッチ材料を選択し、溶融し、清澄する工程を含むダウンドロープロセスによる、アルカリを含まないガラスシートを製造する方法であり、シートを構成するガラスは、SiO、Al、B、MgO、CaOおよびBaOを含んでなり、かつ酸化物基準で、(i)1.05以上の(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al比、(ii)3.0モルパーセント以上のMgO含量、(iii)4.0モルパーセント以上のCaO含量、および(iv)1.05モルパーセント以上のBaO含量を含み、ここで、(a)清澄は、大量のヒ素を用いずに(任意選択で、大量のアンチモンを用いずに)実施され、(b)溶融および清澄したバッチ材料からダウンドロープロセスにより作製された50枚の連続ガラスシートの集合体の平均気体含有レベルは、0.10気体含有/立方センチメートル未満であり、その集合体の各シートの体積が、少なくとも500立方センチメートルである。
【実施例】
【0056】
以下の実施例は、開示された対象に従った方法および結果を例示するために以下に明らかにされる。これらの実施例は、本明細書に開示された対象の全ての態様を含むものではなく、代表的な方法および結果を例示するものである。これらの実施例は、当業者に明白な本発明の均等物および変形形態を除外するものではない。
【0057】
数(例えば、量、温度など)に関しては精度が確保されるよう努力したが、多少の誤差や偏差はあるものとする。特記されない限り、温度は℃、または周囲温度であり、圧力は大気圧または大気圧付近ある。組成物自体は、酸化物基準でのモルパーセントで与えられており、100%に正規化されている。反応条件、例えば、成分濃度、温度、圧力およびその他反応範囲、ならびに、記載したプロセスから得られる生成物純度および収率を最適化するのに用いることのできる条件の数多くの変形形態および組合せがある。そのようなプロセス条件を最適化するには、適切な所定の実験のみが必要とされる。
【0058】
表1に示したガラス特性は、ガラス技術において通常の技術に従って求めた。このように、25〜300℃の温度範囲にわたる線熱膨張率(CTE)は、×10−7/℃で表され、焼き鈍し点は℃で表されている。これらは、繊維伸長技術(それぞれ、ASTMリファレンスE228−85およびC336)から求めた。グラム/cmの密度は、Archimedes法(ASTM C693)により測定した。℃での溶融温度(ガラス溶融物が200ポアズ(20パスカル秒)の粘度を示す温度と定義される)は、回転シリンダ粘度計により測定された高温粘度データに適合させたFulcher等式を用いて計算した(ASTM C965−81)。
【0059】
℃でのガラスの液相線温度を、ASTM C829−81の標準勾配ボート液相線法を用いて測定した。これには、砕いたガラス粒子を白金ボートに置き、ボートを勾配温度の領域を有する炉に入れ、ボートを適切な温度領域で24時間加熱し、結晶がガラス内部に現れる最高温度を顕微鏡により調べることにより決定することが含まれる。より具体的には、ガラス試料を、一体型でPtボートから取り外し、偏光顕微鏡を用いて調べて、Ptと空気との界面に対して、および試料の内部に生じた結晶の場所と性質を識別する。炉の勾配は周知であるため、温度対場所は、5〜10℃以内で、良好に推定することができる。試料の内側点で結晶が観察される温度は、ガラスの液相線を表す(対応する試験時間について)。成長の遅い相を観察するために、試験は、長い時間(例えば、72時間)実施されることがある。200ポアズ(約20パスカル秒)に相当する温度および液相線の粘度(ポアズ)は、Vogel−Fulcher−Tammann方程式を使用して、高粘度データに適合することから決定した。
【0060】
log(η)=A+B/(T−T
式中、Tは温度であり、A、BおよびTは適合パラメーターである。液相線粘度を決定するため、Tのための値として液相線温度が使用される。Gpaでのヤング率の値は、ASTM E1875−00e1に記載された一般型の共鳴超音波分光分析技術を用いて決定した。
【0061】
表1から分かるとおり、例示のガラスは、AMLCD用途などのディスプレイ用途に好適なガラスを製造する密度、CTE、焼き鈍し点およびヤング率の値を有する。表1には示していないが、ガラスは、市販のAMLCD基板から得られるものと同様の酸および塩基媒体中で耐久性を有し、したがって、AMLCD用途に適切である。例示的なガラスは、ダウンドロー技術を使用して形成することができ、特に、上記の基準に照らして、フュージョンプロセスと適合性がある。
【0062】
表1の例示的なガラスは、シリカ供給源として、90重量%が標準U.S.100メッシュシーブを通過するようにミル加工された市販の砂を使用して調製した。アルミナはアルミナ供給源であり、ペリクレースはMgOの供給源であり、石灰石はCaOの供給源であり、炭酸ストロンチウム、硝酸ストロンチウムまたはそれらの混合物はSrOの供給源であり、炭酸バリウムはBaOの供給源であり、酸化スズ(IV)はSnOの供給源であった。原材料を完全に混合し、炭化ケイ素グローバーによって加熱された炉に吊るされた白金容器に装填し、均質性を確実にするために1600〜1650℃の温度で溶融して、数時間撹拌し、白金容器の基部でオリフィスを通して送達された。得られたガラスのパティを、焼き鈍し点またはその付近で焼き鈍し、次いで、物理的、粘性および液相線特性を決定するために、様々な実験方法を行った。
【0063】
これらの方法は珍しいものではなく、表1のガラスは当業者に周知の標準方法を使用して調製することができる。そのような方法には連続溶融プロセスが含まれ、例えば、連続溶融プロセスに使用される溶解装置が、気体、電力またはそれらの組合せによって加熱されるような連続溶融プロセスが実行される。
【0064】
開示されたガラスを製造するために適切な原材料には、SiOの供給源として、商業的に入手可能な砂;Alの供給源として、アルミナ、水酸化アルミニウム、アルミナの水和型、ならびに様々なアルミノシリケート、硝酸塩およびハロゲン化物;Bの供給源として、ホウ酸、無水ホウ酸および酸化ホウ素;MgOの供給源として、ペリクレース、ドロマイト(CaOの供給源でもある)、マグネシア、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、ならびに様々な形態のケイ酸マグネシウム、アルミノシリケート、硝酸塩およびハロゲン化物;CaOの供給源として、石灰石、霰石、ドロマイト(MgOの供給源でもある)、ウォラストナイト、ならびに様々な形態のケイ酸カルシウム、アルミノシリケート、硝酸塩およびハロゲン化物;ならびにストロンチウムおよびバリウムの酸化物、炭酸塩、硝酸塩およびハロゲン化物が含まれる。化学清澄剤が望ましい場合、別の主要なガラス成分(例えばCaSnO)とともに混合された酸化物として、またはSnO、シュウ酸スズ、ハロゲン化スズ、もしくは当業者に既知のスズの他の化合物として酸化条件で、スズをSnOとして添加することができる。
【0065】
表1のガラスは、清澄剤としてSnOを含有するが、TFT基板用途のために十分な品質のガラスを得るために、他の化学清澄剤を使用することもできる。例えば、開示されたガラスは、清澄を促進する意図的な添加として、As、Sb、CeO、Feおよびハロゲン化物のいずれか1つまたはそれらの組合せを使用することができ、これらのいずれも、実施例に示されるSnO化学清澄剤とともに使用されることができる。これらのうち、AsおよびSbは一般に、ガラス製造の間またはTFTパネルのプロセシングにおいて生じるかもしれない廃物流れの制御の下、危険物として認識され。したがって、個々に、または組み合わせてAsおよびSbの濃度を0.005モル%以下に限定することが望ましい。
【0066】
開示されたガラスに意図的に組み込まれる要素に加えて、周期表のほとんど全ての安定元素は、低レベルの原材料の汚染によって、製造プロセスにおいて耐火性材料および貴金属の高温度浸食によって、または最終的なガラスの特性を微調整するための低レベルの意図的な導入によって、いくらかのレベルでガラスに存在する。例えば、ジルコニウムは、ジルコニウムが豊富な耐火性材料との相互作用によって汚染物質として導入され得る。さらなる例として、白金およびロジウムは、貴金属との相互作用によって導入され得る。さらなる例として、鉄は、原材料の混入物(tramp)として導入され得るか、または気体含有の制御を向上させるために意図的に添加され得る。さらなる例として、マンガンは、色を調節するため、または気体含有の制御を向上させるために導入され得る。さらなる例として、アルカリは、LiO、NaOおよびKOの組み合わせられた濃度の約0.1モル%までのレベルで混入成分として存在し得る。
【0067】
水素は、ヒドロキシルアニオン(OH)の形態で必然的に存在し、その存在は標準赤外線分光学技術によって確認することができる。溶解したヒドロキシルイオンは、有意に、かつ非線形に開示されたガラスの焼き鈍し点に影響を及ぼし、したがって、所望の焼き鈍し点を得るためには、埋め合わせをするために主要な酸化物成分の濃度を調節することが必要となり得る。ヒドロキシルイオン濃度は、原材料の選択または溶融システムの選択によって、ある程度は制御可能である。例えば、ホウ酸がヒドロキシルの主要な供給源であり、ホウ酸を酸化ホウ素と置き換えることは、最終的なガラスのヒドロキシル濃度を制御するために有用な手段となる。同様の理論は、ヒドロキシルイオン、水和物、または物理吸着されたか、もしくは化学吸着された水分子を含んでなる化合物を含んでなる他の可能な原材料に当てはまる。バーナーが溶融プロセスに使用される場合、次いで、ヒドロキシルイオンは、天然ガスおよび関連炭化水素の燃焼から燃焼生成物を通して導入されることもあ、したがって、埋め合わせをするためには、溶融に使用されるエネルギーをバーナーから電極に代えることが望ましい。あるいは、溶解されたヒドロキシルイオンの有害な影響を埋め合わせるために、主要な酸化物成分を調節する反復プロセスを代わりに利用してもよい。
【0068】
硫黄はしばしば天然ガス中に存在し、同様に、多くの炭酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物および酸化物原材料の混入成分である。SOの形態で、硫黄は気体含有の厄介な供給源であるおそれがある。SOリッチ欠陥(SO−rich defects)を形成する傾向は、原材料の硫黄レベルを制御することによって、および低レベルの比較的還元された多価カチオンをガラスマトリックスに組み込むことによって、有意な程度まで管理することができる。理論によって拘束されることを望まないが、SOリッチな気体含有は、主にガラスに溶解された硫酸イオン(SO)の還元を通して生じるように思われる。開示されたガラスの高いバリウム濃度は、溶融の早期段階においてガラスの硫黄保持を増加させるように思われるが、上記したように、バリウムは、低い液相線温度、したがって高いT35k−Tliqおよび高い液相線粘度を得るために必要とされる。原材料の硫黄レベルを低レベルに意図的に制御することは、ガラスに溶解した硫黄(おそらく硫酸塩)を還元させる有用な手段である。特に、硫黄は、好ましくはバッチ材料における重量で200ppm未満であり、より好ましくはバッチ材料における重量で100ppm未満である。
【0069】
還元された多価体は、SOブリスターを形成する開示されたガラスの傾向を制御するために使用されることもできる。理論に拘束されることを望まないが、これらの要素は、硫酸イオン還元のための起電力を抑制する潜在的電子供与体としてふるまう。硫酸イオン還元は、
SO→SO+O+2e
などの半反応の観点から記載することができる。式中、eは電子を示す。この半反応のための「平衡定数」は、
eq=[SO][O][e/[SO
であり、括弧は化学活性を示す。理想的には、SO、Oおよび2eから硫酸イオンを生成するように反応を進めたい。硝酸塩、過酸化物または他の酸素豊富な原材料を添加することは有用であり得るが、溶融の初期における硫酸イオン還元に対しても作用し得、それは第一にそれらを添加する利点を打ち消し得る。SOはほとんどのガラスにおいて非常に低い溶解性を有し、ガラス溶融プロセスに添加することは非実用的である。電子は、還元された多価体を通して「添加されてもよい」。例えば、鉄(Fe2+)のための適切な電子を供与する半反応は、
2Fe2+→2Fe3++2e
として表される。
【0070】
電子のこの「活性」は、硫酸イオン還元反応を左に強制し得るものでありその結果、ガラス中のSOを安定させ。適切な還元され多価体は、限定されないが、Fe2+、Mn2+、Sn2+、Sb3+、As3+、V3+、Ti3+および当業者に周知の他のものを含む。それぞれの場合、ガラスの色における有害な影響を回避するために、またはAsおよびSbの場合、最終消費者のプロセスにおける廃棄物管理の複雑化に関てそのような成分の十分高いレベルの添加を回避するために、そのような成分の濃度を最小化することが重要となり得る。
【0071】
開示されたガラスの主要な酸化物成分、および上記の微量または混入成分に加えて、ハロゲン化物は、原材料の選択を通して導入された汚染物質として、またはガラスの気体含有を排除するために使用される意図的な成分として、様々なレベルで存在し得る。清澄剤として、ハロゲン化物は約0.4モル%未満のレベルで組み込まれてもよいが、オフガス取り扱い装置の腐食を回避するために、可能であれば、より低い量を使用することが一般に望ましい。好ましい実施形態において、個々のハロゲン化要素の濃度は、各個のハロゲン化物の重量で約200ppm以下であるか、または全てのハロゲン化要素の合計の重量で約800ppm以下である。
【0072】
これらの主要な酸化物成分、微量および混入成分、多価体およびハロゲン化清澄剤に加えて、所望の物理的、光学的または粘弾性特性を達成するために他の無色酸化物成分低い濃度組み込むことが有用となり得る。そのような酸化物には、限定されないが、TiO、ZrO、HfO、Nb、Ta、MoO、WO、ZnO、In、Ga、Bi、GeO、PbO、SeO、TeO、Y、La、Gdおよび当業者に周知の他のものが含まれる。開示されたガラスの主要な酸化物成分の相対的な割合を調節する反復的なプロセスによって、そのような無色の酸化物は、焼き鈍し点、T35k−Tliqまたは液相線粘度に対して容認できない影響を及ぼすことなく、約2モル%までのレベルに添加されることができる。
【0073】
【表1-1】
【0074】
【表1-2】
【0075】
【表1-3】
【0076】
【表1-4】
【0077】
【表1-5】
【0078】
【表1-6】
【0079】
【表1-7】
【0080】
【表1-8】
【0081】
【表1-9】
【0082】
【表1-10】
【0083】
【表1-11】
【0084】
【表1-12】
【0085】
【表1-13】
【0086】
表2は、開示された範囲外のガラスの例を示す。実施例5〜8は、(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al<1.05を有し、液相線相としてのムライトおよび容認できないほど低いT35k−Tliqの両方を示す。他の例は、開示された範囲外の特定の酸化物成分の濃度を有し、同様に容認できないT35k−Tliqを示す。
【0087】
【表2-1】
【0088】
【表2-2】
【0089】
本明細書に記載される材料、方法および物品に、様々な修正および変更を実施することができる。本明細書に記載される材料、方法および物品の他の態様は、明細書の考察、ならびに本明細書に開示される材料、方法および物品の実施から明白である。明細書および実施例は例示として考察されることが意図される。
図1
図2
図3