特許第6247295号(P6247295)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6247295
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】ロータリーバルブ内燃エンジン
(51)【国際特許分類】
   F01L 7/02 20060101AFI20171204BHJP
   F02B 23/08 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   F01L7/02 A
   F02B23/08 X
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-525932(P2015-525932)
(86)(22)【出願日】2013年8月6日
(65)【公表番号】特表2015-524538(P2015-524538A)
(43)【公表日】2015年8月24日
(86)【国際出願番号】GB2013000336
(87)【国際公開番号】WO2014023929
(87)【国際公開日】20140213
【審査請求日】2016年7月6日
(31)【優先権主張番号】GB1214328.5
(32)【優先日】2012年8月10日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】515036257
【氏名又は名称】アールシーブイ エンジンズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107593
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 太郎
(72)【発明者】
【氏名】ロウェス・ケイス
(72)【発明者】
【氏名】メイソン・ブライアン
【審査官】 二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0308491(US,A1)
【文献】 実開昭59−009111(JP,U)
【文献】 特開2005−273654(JP,A)
【文献】 特開2001−219263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 3/00− 7/18
F01L 11/00−11/06
F01L 15/00−35/04
F01L 1/00− 1/32
F01L 1/36− 1/46
F01L 1/34− 1/356
F01L 9/00− 9/04
F01L 13/00−13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトに接続されてシリンダー内で往復動可能なピストンと、該ピストンによって一部が画定される燃焼室と、シリンダーに対して固定されたバルブハウジング内で滑動するよう密着した状態で回転可能なロータリーバルブとを備え、該ロータリーバルブは、燃焼室を部分的に画定する容積部を含むバルブボディと、その壁部にポートを有し、該ポートは、バルブの回転中、バルブハウジングの吸排気ポートを介して燃焼室への及び燃焼室からの連続的な流体流通を生じさせ、
動作中のバルブボディとバルブハウジングとの間の隙間が増加する場合はバルブボディからバルブハウジングへの熱伝導が減少して隙間を減少させるようバルブボディの加熱が生じる一方、隙間が減少する場合は熱伝導が増加してより多くの熱がバルブハウジングに伝達されてバルブボディの温度が低下するよう、バルブボディ及びバルブハウジングの基材はアルミニウムであり、これによりロータリーバルブのメインボディの表面とバルブハウジングの隣接表面との間でシール機能が達成されるとともに、そのシール機能の総てが、ロータリーバルブのボディ表面とバルブハウジングの表面との間でのみ達成され、ロータリーバルブ又はバルブハウジング内に組み込まれた追加の密封装置が存在しない、ロータリーバルブ内燃エンジン。
【請求項2】
前記アルミニウムは、最大5%の銅含有量のアルミニウム合金である、請求項1に記載のロータリーバルブ内燃エンジン。
【請求項3】
前記アルミニウムは、共晶アルミニウムである、請求項1に記載のロータリーバルブ内燃エンジン。
【請求項4】
バルブボディとバルブハウジングの一方又は両方の接触面が硬化表面を備えている、請求項1に記載のロータリーバルブ内燃エンジン。
【請求項5】
硬化表面は、陽極酸化アルミニウム、セラミック若しくはシリコンカーバイドコーティング、ダイヤモンドライクカーボンコーディング、又は、プラズマ窒化表面である、請求項に記載のロータリーバルブ内燃エンジン。
【請求項6】
バルブのポートは、燃焼室に隣接するバルブボディの壁部の下側周縁部に形成された凹部であり、該凹部は、バルブの側部にポートを形成するようにバルブの壁部の下側周縁部から上方に延びている、請求項1〜5のいずれかに記載のロータリーバルブ内燃エンジン。
【請求項7】
バルブ内のポートは、バルブボディの壁部内の孔であり、該壁部は、燃焼室に隣接してポートの下に形成されたリップを有する、請求項1〜6のいずれかに記載のロータリーバルブ内燃エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼ガスの吸排気制御がロータリーバルブを用いて行われる内燃エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
このようなロータリーバルブ内燃エンジンは、例えば本願出願人の同時係属出願であるGB2467947Aにおいて知られている。ロータリーバルブエンジンは、相対的に回転するボディ間の隙間の最小化と相反するシーリングの問題があることが知られており、隙間の最小化は効率を改善するが過熱や焼付きのリスクが増加する。燃焼室に隣接するとともに実際に燃焼室の一部を形成するバルブは、注油が殆ど乃至全くなされずに、大きな熱応力、高いガス圧力及び大きな表面速度に曝される。したがって、これらは、バルブボディ内に形成されたポートと関連するバルブハウジングとの間に十分なシールを提供するにあたり固有の問題となる。部分的に燃焼室を形成するボリュームを含まない従来の回転バルブは、典型的に、ロータリーバルブボディとバルブハウジングとの間に可撓性または弾力性のあるシールを使用するが、そのようなシールは、必然的に厳しい環境では寿命が非常に短くなり、また、過度の許容できない排出量となる潤滑油の使用を要求する。そのようなロータリーバルブの一例は、米国特許第6,321,699号に開示されている。シール無しでロータリーバルブを利用して商業的に許容し得るエンジンを作る試みが、特にアスペンによって長年に亘って行われてきたが、バルブボディとバルブハウジングとの間の熱膨張差を主因として成功していない。DE4217608A1やDE4040936A1のような従来技術では、上記の相反する問題が認識されており、複雑な冷却装置を提供することによって上記問題を解決しようとしているとともに、単に適切な材料を使用することによって解決されるとも言及されている。実際には、要求されるよりも大きな隙間が焼き付きのリスクを低減するために設けられており、エンジン効率の低下と排出量の増加を犠牲にしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
隙間の低減に固有の問題はロータリーバルブボディとバルブハウジングとの間の熱膨張の差であり、これはロータリーバルブボディがバルブハウジングと比較して到達温度が高いことにより部分的に引き起こされる。これは、最大温度発生の時点でバルブボディが燃焼室内に位置しており、また、外部に熱伝導する熱経路が乏しいという事実によって部分的に引き起こされる。対照的に、バルブハウジングは、フィンや水冷のような外部冷却手段を設けることにより直接的に熱伝導できる点で有利である。
【0004】
これまでのこの問題を解決するためのすべての努力は、温度上昇に伴うバルブボディの直径増加を制限する最低限の膨張率を有する材料の使用に向けられている。これは、通常、摩耗を最小限にするために表面硬化された高品位鋼の使用を伴う。
【0005】
鋼製のバルブボディのさらなる欠点は、鋼が熱伝導性に乏しいことである。その結果、バルブボディの表面は非常に高温になる傾向があり、過剰な炭化の問題を引き起こす。
【0006】
アルミニウムは鋼よりも遙かに良好な熱伝導体であるので、エンジンを軽量化するとともに冷却を補助するようにバルブハウジングの主な基材としてアルミニウムを使用することが一般的である。しかし、エンジンが熱くなってハウジングを構成するアルミニウムがバルブボディを構成する鋼より膨張し、バルブボディとバルブハウジングとの間の隙間が増大して、ガス漏れ及び動力の損失が生じる。
【0007】
この膨張差効果を低減するために、時には、鋳鉄製または青銅製ブッシュがアルミニウム製バルブハウジング内に押し込まれる。スチール製バルブボディは、このブッシュ内で動作する。このブッシュは炭化の問題の増加につながる熱伝導率をさらに減少させる。あるいは、バルブボディは、ハウジングに内蔵された鋼製バンドを有するアルミニウム製ハウジングに対して動作するものであってもよく、鋼製バンドはアルミニウムの膨張を制御するために使用される。いずれの場合にも、ボディとハウジングの膨張率は、依然として厳密には一致しない傾向がある。これにより、バルブボディがバルブハウジング以上に膨張した場合の焼き付きや、より少ない膨張の場合の漏れの問題につながる。
【0008】
鋼製のバルブボディとアルミニウム製ハウジングとを利用する公知のエンジンのさらなる欠点は、低温条件下で起こる。アルミニウム製ハウジングが鋼製バルブボディよりも大きな膨張係数を有するので、低温条件下で一層収縮し、特に氷点下の温度で、隙間が完全に消失する結果、エンジンが事実上焼き付いて始動しないことが分かっている。冷間始動を可能にするためには、エンジン効率にとって望ましい隙間よりも大きな隙間を設ける必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ロータリーバルブボディにアルミニウムを用いることによるこれらの欠点を克服しようとするものであり、アルミニウム製バルブボディの表面自体をシーリング面として機能させ、バルブボディやバルブハウジングに内蔵される追加のシーリング装置は存在しない。バルブボディへのアルミニウムの使用は、最小限の熱膨張と非常に硬い作動面の要求により焼入鋼部材が通常使用されてこととなり、従来のロータリーバルブの設計に反する。しかし、驚くべきことに、バルブボディにアルミニウムを用いることに成功し、鋼製バルブボディの主たる欠点を克服することが実験によって見出された。
【0010】
同じ材料がバルブボディとバルブハウジングの両方に使用されているため、本質的に、バルブボディ及びハウジングは同じ速度で膨張する。これにより、冷間始動から最大温度までの温度範囲にわたってより一貫したシーリングがもたらされ、高温時には漏れが低減され、低温時にはエンジンの焼き付きが防止される。
【0011】
アルミニウム製バルブボディの改善された熱伝導率は、バルブの表面温度を低下させるとともに、炭素析出を減少させる。
【0012】
さらに、効率低下や焼き付きリスクを増加させることなく、既存の鋼製バルブボディよりも大きな公差をバルブボディとハウジングと間の隙間に使用することが可能であることが見出された。
【0013】
これにより、特に量産用途で製造が飛躍的に容易になり、製造コストを大幅に削減できる。典型的には、効率の要求がある場合には公知のエンジンで5〜10ミクロンの範囲内の隙間が必要であるのに対し、効率の有意な損失なしでバルブボディとハウジングとの間の冷間隙間を10〜30ミクロンにすることができることが判明している。実際には、このような厳しい公差は、バルブボディとハウジングとが個別に適合しなければ使用することができず、大量生産には実用的でない。
【0014】
この驚くべき利点の理由は、バルブボディからバルブハウジングへの熱伝達における熱膨張のフィードバックループのタイプである。動作中のバルブボディとハウジングとの間の隙間が増加する場合は、バルブからハウジングへの熱伝導が減少して、隙間を減少させるようバルブボディの加熱が生じる。隙間が減少する場合も同様に、熱伝導が増加してより多くの熱がハウジングに伝達され、これによりバルブボディの温度が低下する。この自己均衡により、より広い許容範囲を補正係数に使用することが可能になる。
【0015】
本発明は、クランクシャフトに連結され且つシリンダ内を往復動可能なピストンと、該ピストンが一部を画定する燃焼室と、シリンダに対して固定されたバルブハウジング内に滑動するよう密着した状態で回転可能なロータリーバルブを備えており、該ロータリーバルブは、前記燃焼室の一部を画定する容積部を有するバルブボディと、ロータリーバルブの壁部に設けられたポートとを備え、該ポートは、前記バルブの回転中、バルブハウジング内の吸排気ポートを介して燃焼室との間で連続的に流体流通を生じさせるロータリーバルブ内燃エンジンにおいて、前記ロータリーバルブ及びバルブハウジングはアルミニウム製であり、シール機能が、ロータリーバルブのメインボディの表面と、バルブハウジングの隣接表面との間で達成されることを特徴とするものである。
【0016】
好ましくは、シール機能の総てが、ロータリーバルブのボディ表面とバルブハウジングの表面との間でのみ達成され、ロータリーバルブ又はバルブハウジング内に組み込まれた追加の密封装置はない。
【0017】
好ましくは、前記アルミニウムは、最大5%の銅含量を有するアルミニウム合金であり、共晶アルミニウムであってもよい。好ましい実施形態において、バルブボディとバルブハウジングの一方又は両方の接触面が硬化表面を備え、該硬化表面は、硬質陽極酸化アルミニウム、セラミック若しくはシリコンカーバイドコーティング、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティング、又は、プラズマ窒化表面からなる。
【0018】
一実施形態では、バルブ内のポートは、燃焼室に隣接するバルブボディの壁部の下側周縁部に形成された凹部であり、該凹部は、バルブの側部にポートを形成するようにバルブの壁部の下側周縁部から上方に延びている。別の実施形態では、バルブ内のポートは、バルブボディの壁部内の孔であり、該壁部は、燃焼室に隣接してポートの下に形成されたリップを有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】単気筒空冷エンジンの断面図である。
図2】ロータリーバルブボディの一実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の好適な実施形態について添付の図面を参照しながら説明する。
【0021】
本発明の実施の形態について、以下、添付図面を参照しつつ説明する。
【0022】
図1を参照すると、単気筒空冷エンジンが示されている。シリンダ2は、シリンダ2内の往復運動のために、従来の方法でクランクシャフト3に連結されたピストン1を有している。特に図1に示すように、シリンダ2の上部は、燃焼室4によって閉鎖される。燃焼室4内への吸気燃料混合ガスの流れ、及び、燃焼室4からの排気ガスの流れは、ロータリーバルブ5によって制御される。この実施形態では、バルブは、燃焼室ハウジングにおけるバルブハウジング内で、クランクシャフト3の回転軸3aに平行な軸5a周りに回転可能である。
【0023】
ロータリーバルブ5は、燃焼室4から離れた端部上に取り付けられた従動プーリ17を有し、該プーリは、ベルト駆動機構によってエンジンクランクシャフト3上の駆動プーリ18に接続され、ベルト駆動機構はエンドレスベルト19を備え、該ベルトの内面は、プーリ17,18上の対応する歯と駆動係合するのこぎり歯状である。これらプーリーは(したがってエンドレスベルト19もまた)、共通の平面20内にある。したがって、クランクシャフト3の回転とピストンの移動とは、ロータリーバルブ5の回転に同期して、該エンジンは従来の4ストロークサイクルで動作する。これを達成するために、従動プーリ17の直径は駆動プーリ18の半分であり、ロータリーバルブ5は、エンジン速度の半分で回転する。
【0024】
また、図2を参照すると、ロータリーバルブ5のさらなる詳細が示されている。ロータリーバルブは、簡素なアクティブバルブからなり、単レースボールベアリング7からなるボールベアリング機構に取り付けられたシャフト6の形態の第1の円筒状部を有し、ベアリングは燃焼室4から離れたバルブ5の側部に配置されている。バルブは、肩部12を形成するバルブボディ11からなる僅かに大きな円筒状ボディを有し、ボールベアリング7は肩部12に対して配置されている。バルブボディ11は、燃焼室内に向かって延びているとともに、その内部に燃焼室4の一部を形成する容積部9を有している。バルブボディ1は、バルブボディ11は、バルブハウジング8内の孔内で回転可能であり、バルブボディ11は前記孔内に滑動するよう密着する。典型的には、ロータリーバルブ5とバルブハウジング8の孔との間の隙間は、10〜30ミクロンの範囲内である。バルブ5とバルブハウジング8は、アルミニウムで形成されている。
【0025】
好ましくは、アルミニウムは、5%以下の高い銅含有量を有するアルミニウム合金であってよく、これにより良好な放熱性と良好な軸受品質とが得られる。好ましいアルミニウムは、2618アルミニウムとして指定される。本発明のさらなる発展において、バルブボディ5とバルブハウジング8の一方または両方の接触面は、陽極酸化アルミニウム、Nikasil(登録商標)のようなセラミック又はシリコンカーバイドコーティング、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティング、又は、プラズマ窒化処理のような硬化被膜を設けることができる。
【0026】
ロータリーバルブ5のシャフト6の部分は、上記肩部を設けるためにバルブボディ11の直径よりわずかに小さい。このシャフト部は、外部にバルブボディ11からの熱を伝導するための良好な経路を提供する固体である。シャフトは、燃焼室から離れた端部に従動プーリ17が接続されているが、従動プーリ17とともに回転可能なファンやフィンなどのヒートシンク13のような追加の冷却手段を備えることができる。
【0027】
ロータリーバルブは、そのバルブボディに設けられたポート14が、バルブの回転中、バルブハウジングの吸排気ポートを介して燃焼室からの及び燃焼室への連続的な流体流通を可能にする。この実施形態では、ポートは、燃焼室に隣接するバルブボディの壁部15の下側周縁部16に形成された凹部の形態であり、該凹部は、バルブの側部にポート14を形成するようにバルブの壁部のこの下縁から上方に延びている。別の構造(図示せず)では、ポートは、バルブボディの壁部の孔であり、該壁部は、燃焼室に隣接する壁部15の下端周縁部16でポートの下に形成されたリップを有する。
【0028】
単気筒エンジンとして説明したが、本発明は、インライン、V型または水平対向構造の多気筒エンジンにも等しく適用可能であることが理解されるであろう。さらに、スパーク点火エンジンとして説明したが、本発明は、圧縮点火エンジンにも同様に適用可能である。
【0029】
上記実施例は、クランクシャフトの軸線に平行なロータリーバルブの回転軸を有するエンジン用であるが、本発明は、バルブの回転軸がクランクシャフトの回転軸に対して垂直、若しくは、実際には任意の中間角であるロータリーバルブエンジンにも等しく適用可能であることが理解されるであろう。
図1
図2