特許第6247311号(P6247311)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6247311
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】塩素化プロペンを生成するための方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/06 20060101AFI20171204BHJP
   C07C 17/25 20060101ALI20171204BHJP
   C07C 21/073 20060101ALI20171204BHJP
   C07C 19/01 20060101ALI20171204BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20171204BHJP
【FI】
   C07C17/06
   C07C17/25
   C07C21/073
   C07C19/01
   !C07B61/00 300
【請求項の数】10
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-548061(P2015-548061)
(86)(22)【出願日】2013年12月18日
(65)【公表番号】特表2016-500376(P2016-500376A)
(43)【公表日】2016年1月12日
(86)【国際出願番号】US2013075909
(87)【国際公開番号】WO2014100066
(87)【国際公開日】20140626
【審査請求日】2016年10月11日
(31)【優先権主張番号】61/738,787
(32)【優先日】2012年12月18日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515160552
【氏名又は名称】ブルー キューブ アイピー エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】マックス・エム・ティルトウィドジョジョ
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド・エス・ライター
(72)【発明者】
【氏名】バリー・ビー・フィッシュ
(72)【発明者】
【氏名】マシュー・エル・グランドボイス
【審査官】 高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/166393(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/166394(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第101955414(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/06
C07C 17/25
C07C 19/01
C07C 21/073
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン性塩素化工程を含む、1,2−ジクロロプロパンを含む供給流から塩素化プロパンおよび/またはプロペンを生成するための方法であって、前記イオン性塩素化工程が1,2,3−トリクロロプロパンを含む生成物流を生成し、前記生成物流が前記1,2,3−トリクロロプロパンの少なくとも一部を含む第2の生成物流を提供するように分離工程に供され、前記第2の生成物流を前記方法から除去するか、あるいは前記第2の生成物流を第1の化学塩基脱塩化水素工程へ供し、前記第1の化学塩基脱塩化水素工程がジおよびトリクロロプロペンを含む混合物を生成し、前記1,2−ジクロロプロパンの転化率が60%超である、方法。
【請求項2】
前記イオン性塩素化工程が、塩化アルミニウム、塩化第二鉄、ヨウ素、硫黄、鉄、五塩化アンチモン、三塩化ホウ素、1つ以上のハロゲン化ランタン、および1つ以上の金属トリフラート、またはこれらの組み合わせを含む触媒の存在下で実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記イオン性塩素化生成物流が、トリクロロプロパン、テトラクロロプロパン、およびペンタクロロプロパンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記クロロプロペンが、テトラおよびペンタクロロプロパンを含む混合物を提供するための更なる塩素化工程に供される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記更なる塩素化工程が、前記イオン性塩素化工程と同じ反応器内で実行される、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記更なる塩素化工程が、触媒無しに、あるいは1つ以上のアゾ化合物および/もしくは過酸化化合物、紫外線、またはこれらの組み合わせを含むフリーラジカル開始剤を伴い、別の反応器内で実行される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記ペンタクロロプロパンが、分離され、精製され、第2の脱塩化水素工程に供される、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の脱塩化水素工程が、苛性ソーダ、水酸化カリウム、水酸化カルシウムまたはこれらの組み合わせを含む、1つ以上の基礎化学物質を使用して実行される、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記方法が、触媒作用によって実行される更なる脱塩化水素工程を含み、
前記触媒がルイス酸触媒を含み、
前記触媒が、塩化アルミニウム、塩化第二鉄、ヨウ素、硫黄、鉄、五塩化アンチモン、三塩化ホウ素、1つ以上のハロゲン化ランタン、および1つ以上の金属トリフラート、またはこれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
Cl、SOCl、またはこれらの組み合わせの塩素化剤としての使用を更に含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素化プロペンを生成するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロフルオロカーボン(HFC)生成物は、冷蔵、空調、発泡体の発泡を含む多くの用途において、ならびに医療用エアロゾル装置を含むエアロゾル製品のための噴射剤として、広く活用される。HFCは、これが取って代わったクロロフルオロカーボンおよびハイドロクロロフルオロカーボン生成物よりも環境により配慮したものであることは証明されているものの、かなりの地球温暖化能力(GWP)を提示することも新たに発見されている。
【0003】
現在のフルオロカーボン生成物に対してより許容可能な代替物の追求により、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)生成物の出現に至った。以前使われていたものと比べると、HFOは、オゾン層への悪影響がより少ないか、または皆無であり、GWPもHFCと比べてはるかに低く、大気へ与える影響がより少ないと期待される。好都合なことに、HFOの提示する引火性および毒性もまた、低いものである。
【0004】
環境上、したがって経済上のHFOの重要性が高まるにつれ、その生成において活用される前駆物質への需要も高まっている。多くの望ましいHFO化合物、例えば2,3,3,3−テトラフルオロプロプ−1−エンまたは1,3,3,3−テトラフルオロプロプ−1−エン等は、クロロカーボンの供給材料、特に、塩素化プロペンを活用することで典型的に生成され得、塩素化プロペンはまた、ポリウレタン発泡剤、殺生物剤、およびポリマー製造のための供給材料としても使用され得る。
【0005】
残念ながら、多くの塩素化プロペンは、商業的な利用可能性が制限されている場合、および/または非常に高値でしか手に入らない場合がある。これは、塩素化プロペン製造のための従来型の方法が、非常に高価な出発物質の使用を必要とする場合があるという事実に、少なくとも一部は起因するであろう。代替的な出発物質が開発されてはいるものの、これらを使用する方法は、これらの新しい出発物質を所望される塩素化プロペンへと最も効率的に転化するために望ましくまたは必然的に活用される方法条件に適さない中間体の形成を結果として生じる場合がある。
【0006】
したがって、冷媒および他の商業的な生成物の合成における供給材料と同様に有用なクロロカーボン前駆物質の、大容量および/または連続生成のための改善された方法を提供することが望ましくあるだろう。とりわけ、このような方法は、出発物質、処理時間、および/またはこの方法を実行および維持するのに必要な資本費用においてより安価であれば、当分野の現在の状態に対して改善を提供するであろう。有用な転化に対して典型的に不応性である中間体を除去、または利用可能な処理条件または工程の使用は、このような方法をより一層有利なものとするであろう。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、塩素化プロペンを生成するための効率的な方法を提供する。有利なことに、本方法は、プロピレンクロロヒドリンの生成における副生成物である、1,2−ジクロロプロパンを、安価な出発物質として利用する。本方法の選択性は、イオン性塩素化工程を採用することと、イオン性塩素化に適さない中間体を生成物流から除去することと、により従来型の塩素化方法よりも向上される。あるいは、イオン性塩素化生成物流は、任意のこのような中間体を、更なるイオン性塩素化に対してより反応的な種へと転化するために、塩基性化学物質を使用する脱塩化水素工程に供される場合もある。このようにして、イオン性塩素化反応に適さない中間体の再循環が、本方法における中間体の蓄積と同様、低減または回避される。したがって、これらの中間体がイオン性塩素化反応器へと再循環される方法に比べて、所望される塩素化プロペンのより高い収率および/または純度が確認できる。
【0008】
一態様において、本発明は、1つ以上の塩素化プロペンから塩素化プロペンを生成するための方法を提供する。この方法は、1,2−ジクロロプロパンを含む供給流を活用し、同供給流をイオン性塩素化工程に供し、このイオン性塩素化工程は、塩化アルミニウム、塩化第二鉄、ヨウ素、硫黄、鉄、五塩化アンチモン、三塩化ホウ素、1つ以上のハロゲン化ランタン、および1つ以上の金属トリフラート、またはこれらの組み合わせ等のルイス酸を含むイオン性塩素化触媒の存在下で実行されてもよい。
【0009】
任意に、イオン性塩素化触媒による反応を停止し、イオン性塩素化生成物流を乾かした後、任意の1,2,3−トリクロロプロパンの少なくとも一部が、単独であるいは1,2,2,3テトラクロロプロパンと共に、生成物流から除去され、または塩基性化学物質を使用する脱塩化水素工程に供される。もし1,2,3−トリクロロプロパンが、単独であるいは1,2,2,3−テトラクロロプロパンと共に所望的に方法から除去される場合、それは全部または一部除去されてよい。
【0010】
あるいは、1,2,3−トリクロロプロパン、および場合によって1,2,2,3−テトラクロロプロパンを含む流れは、任意の1,2,3−トリクロロプロパンおよび/または1,2,2,3−テトラクロロプロパンの少なくとも一部が分解され、それらのクロロプロペン誘導体を含む生成物流を提供するように、化学塩基の存在下で脱塩化水素されてもよい。塩基性化学物質脱塩化水素生成物流からのクロロプロペンは、テトラおよびペンタクロロプロパンを含む生成物流を提供するために、例えば、第1のイオン性塩素化工程へ再循環されることにより、あるいは追加的な塩素化工程/反応器における、同じまたは異なる条件下での塩素化により、更なる塩素化工程に供される。追加的な塩素化工程のいずれもが、塩素、過酸化またはアゾ基を含むもの等の、化合物、紫外線、もしくはこれらの組み合わせを含有するフリーラジカル開始剤の存在下で実行されてよい。
【0011】
塩基性化学物質脱塩化水素により生成されるペンタクロロプロパンは、化学塩基の存在下で、あるいは触媒作用によってのどちらかで実行されてよい、更なる1つまたは複数の脱塩化水素工程に供されてよい。触媒的脱塩化水素化は、塩化アルミニウム、塩化第二鉄、ヨウ素、硫黄、鉄、五塩化アンチモン、三塩化ホウ素、1つ以上のハロゲン化ランタン、および1つ以上の金属トリフラート、またはこれらの組み合わせ等の1つ以上のルイス酸触媒の存在下で、有利に実行されてよい。
【0012】
任意の塩素化剤が、方法の塩素化工程において使用されてよく、好適な例としては、塩化スルフリル、塩素、またはこれらの組み合わせが挙げられる。ならびに、本方法において行われる任意の追加的な塩素化はまた、イオン性塩素化触媒の存在下または存在無しに実行されてよく、もしそのように所望される場合、第1のイオン性塩素化と同じ反応器内で有利に実行されてよい。他の実施形態において、任意の追加的な塩素化は、イオン性塩素化を実施するのに使用されたものと別の反応器内で実行されてよく、1つ以上のフリーラジカル開始剤の存在下で実施されてよい。
【0013】
本方法により提供される利点は、例えば、2,3,3,3−テトラフルオロプロプ−1−エンまたは1,3,3,3−テトラフルオロプロプ−1−エン等の下流生成物を生成するために、塩素化および/またはフッ素化プロペンを活用することにより、繰り越し得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態に従う製法の略図を示す。
図2】更なる実施形態に従う製法の略図を示す。
図3】更なる実施形態に従う製法の略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書は、より良く本発明を定義するために、ならびに本発明の実践において当業者を指導するために、ある定義と方法とを提供する。特定の用語または言い回しに関する定義の提供、または不提供は、何らかの特定の重要性、またはその欠如を示唆することを意図していない。むしろ、特に断りの無い限り、用語は、関連業者による従来型の使用法に従い理解されるべきである。
【0016】
本明細書において使用される「第1」、「第2」、および同類の用語は、順番、量、または重要性のいずれも意味せず、むしろ1要素を別のものから区別するために使用される。また、「a」および「an」(ある、1つの)という用語は、量の制限を意味せず、むしろ当該品目の内少なくとも1つの存在を意味し、「前」、「後ろ」、「下」、および/または「上」という用語は、特に断りの無い限り、記載の便宜のために使用されているに過ぎず、任意の1つの位置または空間的定位に制限されない。
【0017】
範囲が開示される場合、同じ成分または特性に向けられる全ての範囲の終端点は包括的であり、独立して組み合わせることができる(例えば、「最大25重量%、または、より具体的には、5重量%〜20重量%、」という範囲は、終端点および「5重量%〜25重量%」の範囲のあらゆる中間値を算入する等)。本明細書において使用されるパーセント(%)転化は、反応器中の反応物質の、流入に比するモル流量または質量流量における変化を指し示すことを意図し、一方パーセント(%)選択性は、反応物質のモル流量の変化に比する反応器中の生成物のモル流量における変化を意味する。
【0018】
本明細書を通して、「一実施形態」または「ある実施形態」への言及は、ある実施形態に関連して記載される特定の特色、構造、または特徴が、少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書を通して、様々な場所における「一実施形態において」または「ある実施形態において」という言い回しの出現は、必ずしも同じ実施形態を言及するものではない。更に、特定の特色、構造または特徴は、1つ以上の実施形態において、任意の好適な様式で組み合わされてよい。
【0019】
いくつかの事例において、「PDC」は、1,2−ジクロロプロパンの省略形として使用され得、「TCPE」は、1,1,2,3−テトラクロロプロペンの省略形として使用され得る。「分解」および「脱塩化水素」という用語は、同じ反応形式、つまり、塩化炭化水素反応剤中の隣接する炭素原子からの水素原子および塩素原子の除去に典型的による二重結合の創成を結果として生じるもの、を指すために互換的に使用される。
【0020】
本発明は、塩素化プロペンを生成するための効率的な方法を提供する。本方法は、PDCを含む供給流上で第1のイオン性塩素化を実行することを含む。多くのクロロヒドリン法における副生成物であるPDCの出発物質としての使用は、いくつかの従来型のクロロヒドリン法に関連してなされているであろう焼却処分よりも、経済的により魅力的である。更に、当業者は、塩素化プロペンを生成するための方法においてPDCに出発物質として注意を向けないであろう。これは少なくとも、PDCが、多くの従来型の方法中に使用されるそのような方法工程に供される際に、所望される生成物を提供するように容易には反応しない、望ましくないペンタクロロプロパン異性体を形成し得るからである。
【0021】
任意のイオン性塩素化触媒が、本方法のイオン性塩素化工程において使用され得る。例示的なイオン性塩素化触媒としては、限定されるものではないが、塩化アルミニウム、塩化第二鉄(FeCl)および他の鉄含有化合物、ヨウ素、硫黄、五塩化アンチモン(SbCl)、三塩化ホウ素(BCl)、ハロゲン化ランタン、金属トリフラート、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0022】
イオン性塩素化条件に適さない、イオン性塩素化により生成される、任意の三または四塩素化プロパンの少なくとも一部は、望ましくは、本方法から除去されるか、あるいは塩基性化学物質を使用する脱塩化水素工程に供される。つまり、PDCのイオン性塩素化は、イオン性塩素化に著しく適さない、ならびに実質的に不活性であるとさえみなされ得る、1,2,3−トリクロロプロパンの10%以上の形成に帰着し得る。結果として、第1のイオン性塩素化工程において使用されるイオン性塩素化反応器へ再循環されることにより、イオン性塩素化条件下で望ましくは塩素化されるであろう生成物流中に存在する1,2,3−トリクロロプロパンの任意の量が、システム内に蓄積し得る。このような蓄積は、工程能力の減損に帰着し得、究極的には1,2,3−トリクロロプロパンを除去するために方法の中断を必要とし、したがって方法を不経済にする可能性がある。
【0023】
1,2,2,3−テトラクロロプロパンは、1,2,3−トリクロロプロパンの沸点に近い沸点を有する。結果として、1,2,3−トリクロロプロパンを除去するために有効な分離技術は、同じ生成物流中の任意の1,2,2,3−テトラクロロプロパンの少なくとも一部の除去に帰着し得る。未転化の1,2,2,3−テトラクロロプロパンはまた、最終的なTCPE生成物から除去することが難しく、費用もかかる。それ故に、本方法によって生成される任意の1,2,2,3−テトラクロロプロパンの少なくとも一部もまた、本方法から除去されるか、あるいは1,2,3−トリクロロプロパンと共に、またはそれとは別個に、脱塩化水素される。
【0024】
本方法の幾つかの実施形態において、PDCのイオン性塩素化により生成される任意の1,2,3−トリクロロプロパンおよび/または1,2,2,3−テトラクロロプロパンの少なくとも一部が、本方法から除去される。あるいは、PDCのイオン性塩素化により生成される任意の1,2,3−トリクロロプロパンおよび/または1,2,2,3−テトラクロロプロパンの実質的に全てが、本方法から除去され得る。これらの組み合わせもまた想定され、つまり、幾つかの実施形態において、1,2,3−トリクロロプロパンは、単独で、あるいは一部または全ての1,2,2,3−テトラクロロプロパンの除去を伴って、全部または一部除去され得る。
【0025】
1,2,3−トリクロロプロパンおよび/または1,2,2,3−テトラクロロプロパンのどちらかまたは両方の分離および除去が、望ましいクロロプロパン異性体の除去に帰着し得、それによって、所望される塩素化プロペンの収率を潜在的に低減させるとしても、より重要なのは、それが、1,2,3−トリクロロプロパンまたは1,2,2,3−テトラクロロプロパンが全く除去されないような方法と比べ、本方法が実質的に連続して運転することを可能とし得ることである。
【0026】
本方法の他の実施形態において、イオン性塩素化工程により生成される任意の量の1,2,3−トリクロロプロパンおよび/または1,2,2,3−テトラクロロプロパンの少なくとも一部が、化学塩基の存在下、それらのクロロプロペン誘導体を含む生成物流を提供するために、脱塩化水素化され得る。これらの誘導体は次いで、例えば、第1のイオン性塩素化反応器への化学塩基脱塩化水素生成物流の再循環、または同じもしくは異なる条件で運転される追加的な反応器へのそれらの供給により、塩素化され得る。このような実施形態において、1,2,2,3−テトラクロロプロパンの脱塩化水素生成物の塩素化が、望ましいペンタクロロプロパン異性体を生成するであろうことから、より高い収率が期待される。
【0027】
イオン性塩素化に適さない、任意のトリまたはテトラクロロプロパン異性体の少なくとも一部が本方法から除去されるか、またはよりイオン性塩素化条件に適する塩素化プロペンを形成するために脱塩化水素化されるので、本方法の全ての塩素化がイオン的に実行され得、更に有利なことに同じ塩素化反応器内で実行され得る。したがって、追加的な塩素化反応器に関連する支出が回避され得、同反応器の運転に関連する光熱費も同様に回避され得る。しかしながら、同じ反応器の使用が、プロペン中間体の塩素化という利点を確認するために必要なわけではない。なぜなら、そうすることで、所望される最終生成物へとより簡易に転化される望ましいペンタクロロプロパン異性体のより高い収率へ帰着することが予想されるからである。
【0028】
1,2,3−トリクロロプロパンはイオン性脱塩化水素化に対して実際的に不活性であるため、望ましくは、イオン性塩素化流の脱塩化水素化は、化学塩基を使用してなされる。苛性ソーダ、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、またはこれらの組み合わせ等の化学塩基を使用する液相脱塩化水素反応は、反応物質の蒸発を必要としないため、費用節減に繋がる。液相反応において使用されるより低い反応温度はまた、気相反応に関して使用されるより高い反応温度よりも、低い汚損速度に帰着し得、それ故に、少なくとも1つの液相脱塩化水素化が活用される場合、反応器の寿命もまた最適化される。
【0029】
多くの化学塩基が液体脱塩化水素化に有用であることが当分野において公知であり、これらはいずれも使用し得る。例えば、好適な塩基としては、限定されるものではないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属水酸化物、例えば炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩、リチウム、ルビジウム、およびセシウム、またはこれらの組合せが挙げられる。相間移動触媒、例えば第四級アンモニウム塩および第四級ホスホニウム塩(例えば、テトラブチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、またはヘキサデシルトリブチルホスホニウムブロミド)等がまた、これらの化学塩基を用いる脱塩化水素反応の速度を改善するために添加され得る。
【0030】
望ましくは本方法中に実施される他の脱塩化水素工程は、化学塩基を使用して実施され得、または触媒作用によって実施されてもよい。後者の場合、無水HClが回収され得る。無水HClは、化学塩基分解工程の副生成物として生成される塩化ナトリウムよりも、より大きな価値を持つ。それ故に、幾つかの実施形態において、本方法は、売却するかまたは例えばエチレンジクロリドを生成するためのエチレンのオキシ塩素化等の他の方法のための供給材料として使用し得る、2次生成物の生成に帰着する。触媒の使用が所望される場合、好適な脱塩化水素触媒としては、限定されるものではないが、塩化第二鉄(FeCl)またはAlClが挙げられる。
【0031】
本方法は、所望される塩素化プロペンを生成するために、1,2−ジクロロプロパンを含む供給材料を利用する。本方法の供給材料はまた、所望されるならば、トリクロロプロパン、または他の塩素化アルカンを含んでもよい。そして、供給材料の1つ以上の成分は、所望されるならば、例えば、クロロヒドリン法における副生成物として、本方法中またはその前段において生成されてよい。
【0032】
任意の塩素化プロペンが、本方法を使用して生成され得るが、3〜4個の塩素原子を持つものが商業的により実現可能であり、したがって、同塩素化プロペンの生成が好まれる場合がある。幾つかの実施形態において、本方法は、冷蔵、ポリマー、殺生物剤等のための供給材料として高く求められる、1,1,2,3−テトラクロロプロペンの生成において使用され得る。
【0033】
追加的な塩素化工程が実施される場合、この工程はイオン性塩素化触媒の存在下、同じ反応器内で実行されてよく、あるいは、1つ以上のフリーラジカル開始剤の存在下、別の反応器内で実行されてもよい。フリーラジカル開始剤は、典型的に、1つ以上の塩素、過酸化物またはアゾ(R−N=N−R′)基を含み得、および/または反応器の相移動度/活性度を提示し得る。本明細書において使用される言い回し、「反応器の相移動度/活性度」は、相当量の開始剤が、反応器の設計上の制限内で、生成物、塩素化および/またはフッ素化プロペンの有効なターンオーバーを開始し伝播することのできる十分なエネルギーを持つフリーラジカルを生成するために、利用可能であることを意味する。
【0034】
このようなフリーラジカル開始剤は当業者に広く公知であり、例えば、“Aspects of some initiation and propagation processes,”Bamford,Clement H.Univ.Liverpool,Liverpool,UK.,Pure and Applied Chemistry,(1967),15(3−4),333−48およびSheppard,C.S.;Mageli,O.L.“Peroxides and peroxy compounds,organic,”Kirk−Othmer Encycl.Chem.Technol.,3rd Ed.(1982),17,27−90において概説されている。
【0035】
塩素を含む好適なフリーラジカル開始剤の例としては、限定されるものではないが、四塩化炭素、ヘキサクロロアセトン、クロロホルム、ヘキサクロロエタン、ホスゲン、塩化チオニル、塩化スルフリル、トリクロロメチルベンゼン、過塩素化アルキルアリール官能基、あるいは次亜塩素酸、次亜塩素酸t−ブチル、次亜塩素酸メチルを含む、有機および無機の次亜塩素酸塩、例えばchloroamine−T(登録商標)等の塩素化アミン(クロラミン)および塩素化アミドまたはスルホンアミド等が挙げられる。
【0036】
1つ以上の過酸化物基を含む好適なフリーラジカル開始剤の例としては、過酸化水素、次亜塩素酸、過酸化ジ−t−ブチル、過酸化ベンゾイル、過酸化クミルを含む、脂肪族および芳香族過酸化物またはハイドロ過酸化物等が挙げられる。ジペルオキシドは、競合的方法(例えば、TCP(およびその異性体)ならびにテトラクロロプロパンへのPDCのフリーラジカル塩素化)を伝播することができないという利点をもたらす。加えて、アゾ基を含む化合物、例えばアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)または1,1′−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル(ABCN)もまた使用され得る。これらの任意の組み合わせもまた、活用され得る。
【0037】
反応器ゾーンは、Breslow,R.により、Organic Reaction Mechanisms W.A.Benjamin Pub,New York p223−224において教示されているように、フリーラジカル開始剤の光分解を誘導するために好適な波長で、パルスレーザー又は連続UV/可視光源に供されてもよい。光源の300〜700nmの波長は、商業的に利用可能なラジカル開始剤を解離するのに十分である。このような光源としては、例えば、塩素化反応器を照射するように構成される適切な波長又はエネルギーの、Hanovia UV放電灯、太陽灯またはパルスレーザービームまでもが含まれる。代わりに、Bailleuxらにより、Journal of Molecular Spectroscopy,2005,vol.229,pp.140−144において教示されているように、反応器に導入されたブロモクロロメタン供給原料へのマイクロ波放電からクロロプロピルラジカルを生成することができる。
【0038】
本方法において活用される触媒のいずれかまたは全てを、バルクまたは例えば活性炭、グラファイト、シリカ、アルミナ、ゼオライト、フッ素化グラファイトおよびフッ素化アルミナ等の基材に結合させて提供することができる。所望される触媒(もしあれば)、またはその構成がどのようなものであっても、当業者は、それらの適切な形式及び導入方法を決定する方法を熟知している。例えば、多くの触媒は典型的に、別の供給として、あるいは他の反応物との溶液として、反応ゾーンに導入される。
【0039】
活用される任意のフリーラジカル開始剤、イオン性塩素化および/または脱塩化水素触媒の量は、他の反応条件と同様、選択された特定の触媒/開始剤に依存する。一般的に、触媒/開始剤の活用が所望される本発明の実施形態において、反応方法条件(例えば、必要とされる温度の低下など)または実現される生成物に幾らかの改善をもたらすために十分な触媒/開始剤が活用されるべきであるが、経済的実用性の理由だけでも、如何なる追加的な利益ももたらされない。
【0040】
単に例示目的に示すものであるが、イオン性塩素化触媒の有用な濃度は、0.001重量%〜20重量%、または0.01%〜10%、または0.1%〜5重量%の範囲であり、それらの間の全ての部分範囲を含むことが予想される。フリーラジカル開始剤の有用な濃度は、0.001重量%〜20重量%、または0.01%〜10%、または0.1%〜5重量%の範囲であろう。脱塩化水素触媒が1つ以上の脱塩化水素工程に関して活用される場合、有用な濃度は、70℃〜200℃の温度において、0.01重量%〜5重量%、または0.05重量%〜2重量%の範囲であり得る。化学塩基が1つ以上の脱塩化水素に関して活用される場合、これらの有用な濃度は、0.01〜20グラムモル/L、または0.1グラムモル/L〜15グラムモル/L、または1グラムモル/L〜10グラムモル/Lの範囲であり、それらの間の全ての部分範囲を含む。各触媒/塩基の相対濃度は、例えば、1,2−ジクロロプロパンの供給に応じて所与される。
【0041】
本方法の塩素化工程は、任意の塩素化剤を使用して実施され得、これらの内幾つかは当分野において公知である。例えば、好適な塩素化剤としては、限定されるものではないが、塩素、および/または塩化スルフリル(SOCl)が挙げられる。塩素化剤の組み合わせもまた使用され得る。前述のイオン性塩素化触媒の使用によって促進されるような場合は、Clおよび塩化スルフリルのいずれかまたは両方が、特に有効であり得る。
【0042】
追加的な実施形態において、本方法の1つ以上の反応条件は、更なる利点、つまり反応副生成物の選択率、転化率、または生成における改善をもたらすように、最適化し得る。ある実施形態において、複数の反応条件が最適化され、反応副生成物の選択率、転化率、および生成における更なる改善すら確認し得る。
【0043】
最適化することのできる本方法の反応条件は、例えば、製造フットプリントにおいて既存の装置および/または材料の活用によって調節し得る、または低リソースコストで獲得しうる等、適宜調節される任意の反応条件を含む。このような条件の例は、限定されるものではないが、温度、圧力、流量、反応物のモル比等の調節を含み得る。
【0044】
しかしながら、本明細書に記載される各工程で採用される特定の条件は重要ではなく、当業者によって容易に決定される。重要なことは、1,2−ジクロロプロパンを含む供給流が出発物質として使用され、イオン性塩素化工程に供されることと、イオン性塩素化工程により生成される任意の1,2,3−トリクロロプロパンおよび/または1,2,2,3−テトラクロロプロパンの少なくとも一部が、本方法から除去されるか、あるいはイオン性塩素化条件により適している、テトラ、ペンタクロロプロパンおよび/またはクロロプロペン中間体を生成するために反応させられることと、である。当業者は、各工程のための好適な装置と、塩素化、脱塩化水素化、分離、乾燥、および異性化工程を実行し得る特定の条件と、を容易に決定することができるであろう。
【0045】
例示的な一実施形態において、PDCは、例えば、内部冷却コイルもしくは外部熱交換器を備えるバッチまたは連続攪拌槽オートクレーブ反応器等の液相反応器に供給される。気液解放タンクまたは容器に付随する、シェルおよび多管交換器もまた使用し得る。好適な反応条件としては、例えば、周囲温度(例えば、20℃)〜200℃、または30℃〜150℃、または40℃〜120℃、または50℃〜100℃の温度が挙げられる。周囲圧力、または100kPa〜1000kPa、または100kPa〜500kPa、または100kPa〜300kPaの圧力が使用され得る。このような条件で、1つ以上のイオン性塩素化触媒を使用することにより、PDCは、三、四、および五塩素化プロパンへ、60%超、または70%超、または80%超、または85%超の転化率で塩素化され、更には最大90%を確認することができる。
【0046】
本方法は、水無しで、つまり溶媒の非存在下で実施してもよく、あるいは1つ以上の溶媒が、塩素化反応器に提供されてもよく、供給材料として提供されてもよく、または塩素化反応器からの流れを受けるように動作可能に配置された、1つ以上の分離カラムから再循環されてもよい。例えば、未転化のPDC、トリクロロプロパン、ジクロロプロペン、およびトリクロロプロペン中間体は、1つの分離カラムから塩素化反応器に再循環されてもよく、ならびに/あるいは塩素化反応器は、例えば、四塩化炭素、塩化スルフリル、1,1,2,3,3−ペンタクロロプロパン、1,1,2,2,3,3−ヘキサクロロプロパン、他のヘキサクロロプロパン異性体、またはこれらの組み合わせ等の塩素化反応のための任意の好適な溶媒の供給材料を提供され得る。
【0047】
塩素化反応器からの上部蒸気は、冷却され、凝縮され、第1の分離カラムに供給される。このカラムは、無水HClをその上部ラインに提供し、塩素を下部再循環ラインを通じて提供するために有効な条件で運転される。より具体的には、このようなカラムの頂部温度は、典型的に0℃以下に設定し得、またはより好ましくは−70℃〜−10℃の温度に設定し得る。このカラムの下部温度は、望ましくは、下部の混合組成物にある程度依存する正確な温度によって、10℃〜150℃、または30℃〜100℃に設定される。このカラムの圧力は、望ましくは200kPa以上の圧力に、または好ましくは500kPa〜2000kPa、またはより好ましくは500kPa〜1000kPaに設定される。このような条件で運転されるカラムの下部流は、過剰な塩素、未反応のPDC、およびモノクロロプロペン中間体を含有することが予想される一方、上部流は、無水HClを含むことが予想される。
【0048】
幾つかの実施形態において、塩素化反応器からの液体生成物流は、未反応のPDCおよび1,1,2−トリクロロプロパンを含む上部流を回収するために有効な条件下で運転される、第2分離カラムに供給され得る。この流れは次いで、イオン性塩素化反応器へ再循環される。下部流は次いで、別の分離装置に提供され得る。
【0049】
別の実施形態において、イオン性塩素化生成物からの1,2,3−トリクロロプロパンを含む流れは、第3の分離装置において、四および五塩化プロパンを含む他の生成物から分離される。この分離カラムからの、1,2,3−トリクロロプロパンを含む上部流が本方法から除去される一方、テトラおよびペンタクロロプロパン、ならびに重質副生成物、例えばヘキサクロロプロパン異性体等を含むと見込まれる下部流は、更なる分離カラムへと提供されてもよい。
【0050】
この第4の分離カラムは、望ましいペンタクロロプロパン、すなわち1,1,2,2,3−ペンタクロロプロパンおよび1,1,1,2,2−ペンタクロロプロパンを、下部流としてパージされる望ましくない1,1,2,3,3−ペンタクロロプロパンおよび重質成分から分離する。1,1,2,2,3−ペンタクロロプロパン、1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパン、および1,1,1,2,2−ペンタクロロプロパンを含む上部流は次いで反応器へ提供され、ここで2,3,3,3−テトラクロロプロペンおよび1,1,2,3−テトラクロロプロペンを生成するために、化学塩基を使用して脱塩化水素化される。より具体的には、脱塩化水素反応器は、典型的に、バッチまたは連続攪拌槽型反応器であり得る。混合は、例えば、供給物流の、機械的またはジェット混合によりなされ得る。当業者は、前述の脱塩化水素化を実行するため、脱塩化水素反応器を運転するために適切な条件を容易に決定することができる。
【0051】
脱塩化水素反応器からの反応流は、任意に乾燥カラムへ提供されてもよく、そこからの乾燥流は、適切な条件下で、2,3,3,3−テトラクロロプロペンを1,1,2,3−テトラクロロプロペンへ異性化するための更なる反応器に提供される。例えば、触媒が異性化を助長するために活用されてよく、その場合、好適な触媒としては、限定されるものではないが、(i)カオリナイト、ベントナイト、およびアタパルジャイトを含む極性表面を有する珪質顆粒、(ii)サポナイトまたは石英等の、シリカの他のミネラル塩、あるいは(iii)シリカゲル、ヒュームドシリカ、およびガラス、またはこれらの任意の組み合わせ等の珪質非ミネラル物質が挙げられる。このような反応流のための乾燥カラムに関する好適な条件もまた、米国特許第3,926,758号により明示されるように、当業者に公知である。
【0052】
他の実施形態において、イオン性塩素化反応器からの生成物流は、イオン性塩素化反応器へと再循環され得る、ジクロロプロパンおよび1,1,2−トリクロロプロパンを含む生成物流と、化学塩基を装入された脱塩化水素反応器へ提供され得る、1,2,3−トリクロロプロパンおよびテトラクロロプロパンを含む別の生成物流と、を生成するために有効な1つ以上の分離装置に提供されてよい。化学塩基脱塩化水素反応器は、究極的にイオン性塩素化反応器へと再循環され得る、ジおよびトリクロロプロペンを含む生成物流を提供する。
【0053】
このような方法の略図が図1に示される。図1に示されるように、方法100は、塩素化反応器102、分離カラム104、106、108、110、112および114、反応停止装置116、乾燥器118、120および122、ならびに脱塩化水素反応器124および126を利用する。運転において、1,2−ジクロロプロパン、1つ以上のイオン性塩素化触媒、および所望の塩素化剤(例えば、塩素、SOCl、またはこれらの組み合わせ)が、塩素化反応器102へ供給、あるいは提供され、三、四および五塩化プロパンへのPDCの塩素化のために提供するように運転可能な条件の任意のセットで、運転され得る。
【0054】
HCl、過剰な塩素化剤、および未反応のPDCを含む、塩素化反応器102の上部流は、分離カラム104へ供給される。分離カラムへの供給は、好ましくは、例えば米国特許第4,010,017号に記載されるような分別法を適用することにより作製される、−40℃〜0℃の温度の、完全に濃縮された液体である。分離カラム104は、無水HClを上部ラインを通じて提供し、塩素およびPDCを塩素化反応器102へ戻すために有効な条件で運転される。
【0055】
反応器102の液体下部流は、反応停止装置116へ供給される。反応停止装置は、攪拌層反応器であってよく、望ましくは、イオン性塩素化触媒をその不活性型に転化するために有効な条件で運転され、すなわち反応停止装置は望ましくは20℃〜80℃の温度および大気圧もしくはそれ以上で運転され得る。反応停止装置116からの反応を停止された流れは、乾燥装置118へと提供され、そこで乾燥され、ヒドロキシル化されたイオン性塩素化触媒が除去される。乾燥された生成物流は、未反応のPDCをまた含み、分離装置106に提供される。
【0056】
分離装置106は、PDC、1,3−ジクロロプロパン、および1,1,2−トリクロロプロパンを含む上部流を提供し、この上部流は塩素化反応器102へ再循環される。1,2,3−トリクロロプロパンならびに四および五塩素化プロパンを含む、分離装置106の下部流は、分離装置108へ提供される。分離装置108は、1,2,3−トリクロロプロパンおよび1,2,2,3−テトラクロロプロパンを含む上部流を提供し、この上部流は化学塩基脱塩化水素反応器124へ供給される。
【0057】
典型的に苛性ソーダ、水酸化カリウム、水酸化カルシウムまたはこれらの組み合わせを装入されてもよく、周囲圧力〜400kPaの圧力および40℃〜150℃の温度で運転されてもよい、化学塩基脱塩化水素反応器124は、1,2,3−トリクロロプロパン、1,2,2,3−テトラクロロプロパン、および他のテトラクロロプロパンを、ジおよびトリクロロプロペンへと脱塩化水素化し、この生成物流は水および塩化ナトリウムの除去のために、乾燥装置120へ供給される。ジおよびトリクロロプロペンに加え、未反応の1,2,3−トリクロロプロパンおよびテトラクロロプロパンを含む乾燥流は、分離装置110へ提供される。分離装置110は、未反応のトリおよびテトラクロロプロパンを含む、分離装置108へ再循環されてもよい下部流と、ジおよびトリクロロプロペンを含む、分離装置106へ再循環されてもよい上部流と、を提供する。ジおよびトリクロロプロペンは、PDCおよび1,1,2−トリクロロプロパンと一緒になって、次いでイオン性塩素化反応器102へ再循環される。
【0058】
代わりに(図1には示されていない)、乾燥装置120からの生成物流はまた、塩素化反応器102へ再循環される前に、分離装置における更なる精製を経ることもできる。ペンタクロロプロパンおよび重質2次生成物を含む分離装置108の下部流は、分離装置112へ提供され、ここで転化に適すペンタクロロプロパン中間体、例えば1,1,2,2,3−および、存在するとすればより少ない量の1,1,1,2,2−ペンタクロロプロパンが脱塩化水素反応器126への上部流として提供される。六塩化プロパンおよび重質2次生成物を含む、分離装置112からの下部流は、適切に処理され得る。脱塩化水素反応器126は、TCPEを含む生成物流を生成するために、1つ以上の化学塩基を使用してペンタクロロプロパンを脱塩化水素化し、この生成物流は次いで、乾燥装置122へ提供され得、乾燥流は分離装置114へ提供される。分離装置114は上部流としてTCPEを、下部流として未反応五塩化プロパンを提供し、この下部流は所望されるならば分離装置112へ再循環され得る。
【0059】
幾つかの実施形態において、脱塩化水素反応器126への流れは、1,1,2,3−テトラクロロプロパンを更に含み得る。このような実施形態において、任意のトリクロロプロペンを分離し、それらを塩素化反応器102へ戻すために、追加的な分離装置(示されていない)を分離装置114の前段に含むことが望ましい。他の実施形態において、第3の脱塩化水素反応器が、クロロプロペンおよび無水HClを生成するように触媒作用によってテトラクロロプロパンおよび/またはペンタクロロプロパンを分解するために、使用され得る(示されていない)。この装置は、化学塩基脱塩化水素装置の前または後ろに置かれ得る。
【0060】
方法100において、塩素化反応器102においてPDCのイオン性塩素化により生成される、1,2,3−トリクロロプロパンおよび1,2,2,3−テトラクロロプロプロパンは、クロロプロペンを提供するために化学塩基の存在下、脱塩化水素化され、このクロロプロペンは次いで塩素化反応器102へ再循環される。1,2,3−トリクロロプロパンよりむしろ、1,2,3−トリクロロプロパンおよび1,22,3−テトラクロロプロパンの化学塩基脱塩化水素により生成されるクロロプロペンを再循環させることにより、イオン性塩素化条件に対し概ね抵抗性のある1,2,3−トリクロロプロパンの本方法内における蓄積が低減され、または取り除かれる。したがって、方法100の連続的な運転が提供される。
【0061】
塩素化プロペンの生成のための更なる1つの例示的な方法が、図2において略図化される。方法200は、塩素化反応器202、分離カラム204、206、208、212、および214、反応停止装置216、乾燥器218および222、ならびに脱塩化水素反応器224および226を利用する。
【0062】
方法200は、ジおよびトリクロロプロペンならびにテトラクロロプロパンを含む、脱塩化水素反応器224からの生成物流が、追加的な乾燥装置(例えば図1における120)へ提供されるよりむしろ、乾燥装置218へ再循環される点を除いて方法100に類似する。分離装置206は次いで、望ましくは、ジ、トリクロロプロペン、PDC、および1,1,2−トリクロロプロパンを含む上部流を塩素化反応器202へ提供するように作動する。それ故に、方法200は、方法100よりも1つ少ない乾燥装置(図1における乾燥装置120)および1つ少ない分離装置(図1における分離装置110)しか必要とせず、それでも、イオン性塩素化の後に化学塩基脱塩化水素工程を含まない、TCPE生成のための従来型の方法よりも、高いTCPEの収率および純度を維持する。方法200はその他の点においては方法100と同様に運転し、また連続的な運転も可能である。
【0063】
塩素化プロペンの生成のための更なる例示的な方法が、図3において略図化される。方法300は、塩素化反応器302、分離カラム304、306、308、312、および314、乾燥器318および322、ならびに脱塩化水素反応器324および326を利用する。
【0064】
方法300は、ジおよびトリクロロプロペンならびに未転化のトリおよびテトラクロロプロパンを、水溶性の副生成物と共に含む、脱塩化水素反応器324からの生成物流が、乾燥器318へ供給される前に、反応器302の生成物流と混合される点を除いて方法100に類似する。このようにして、脱塩化水素反応器324からの生成物流が触媒反応停止剤として直接的に使用され、反応停止装置(例えば、図1における116)の使用は必要ない。分離装置306は次いで、望ましくは、ジ、トリクロロプロペン、PDC、および1,1,2−トリクロロプロパンを含む上部流を塩素化反応器302へ提供するように作動する。要するに、方法300は、方法100よりも少ない設備、つまり、反応停止装置(図1における116)は必要とせず、1つ少ない乾燥装置(図1における乾燥装置120)および1つ少ない分離装置(図1における分離装置110)しか必要とせず、それでも、イオン性塩素化の後に化学塩基脱塩化水素工程を含まない、TCPE生成のための従来型の方法よりも、高いTCPEの収率および純度を維持する。方法300はその他の点においては方法100と同様に運転し、また連続的な運転も可能である。
【0065】
本方法によって生成される塩素化プロペンは、典型的に、ハイドロフルオロオレフィンを含む更なる下流生成物、例えば、1,3,3,3−テトラフルオロプロプ−1−エン(HFO−1234ze)等を提供するために加工処理され得る。本発明は塩素化プロペンの生成のための改善された方法を提供するので、提供される改善がこれらの下流方法および/または生成物へ改善を提供するために繰り越されるであろうことが予期される。したがって、例えば2,3,3,3、−テトラフルオロプロプ−1−エン(HFO−1234yf)等のハイドロフルオロオレフィンの生成のための改善された方法もまた、本明細書において提供される。
【0066】
ハイドロフルオロオレフィンを提供するための塩素化プロペンの転化は、式C(X)CCl(Y)(C)(X)で表される化合物の、式CFCF=CHZで表される少なくとも1つの化合物へのフッ素化を含む、単一の反応または2つ以上の反応を概して含み得、ここで、各X、YおよびZは、独立してH、F、Cl、IまたはBrであり、各mは独立して1、2または3であり、nは0または1である。より具体的な例は、塩素化プロペンの供給材料が、例えば1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(1233zd)等の化合物を形成するために、触媒気相反応においてフッ素化される、多段階方法を含み得る。1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは次いで、1−クロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロパンを生み出すよう水素フッ素化され、これは次いで触媒気相反応により、2,3,3,3−テトラフルオロプロプ−1−エンまたは1,3,3,3−テトラフルオロプロプ−1−エンへと脱塩化水素化される。
【0067】
実施例1.PDCのイオン性塩素化
【0068】
100mLのParr反応器にAlCl(100mg)、CHCl(45mL)を装入し、密封する。ショットタンクに、PDC(1mL)およびCHCl(9mL)を装入する。反応器は完全に脱気され、Cl(N中30%v/v)で125psigへ加圧される。Cl流は30分間継続され、次いで遮断される。反応器は70℃へ加熱され、圧力は125psigへ再調節される。次いで、PDC溶液が添加され(t=0)、試料が定期的に採取される。下の表1は、クロロプロパンのモル%分布を、時間との相関関係で示すものである。表1によって示されるように、1,2,3−トリクロロプロパンおよび1,1,2,3−テトラクロロプロパンは、一旦PDC塩素化からまず生成されると、比較的不活性である。対照的に、他のトリおよびテトラクロロプロパン中間体は、ペンタクロロプロパン異性体および重質副生成物へと、容易に塩素化を経る。
【0069】
【表1】
【0070】
実施例2.PDCのイオン性塩素化
【0071】
100mLのParr反応器にAlCl(100mg)、I(20mg)およびCHCl(45mL)を装入し、密封する。ショットタンクに、PDC(1mL)およびCHCl(9mL)を装入する。反応器は完全に脱気され、Cl(N中30%v/v)で125psigへ加圧される。Cl流は30分間継続され、次いで遮断される。反応器は70℃へ加熱され、圧力は135psigへ再調節される。次いで、PDC溶液が添加され(t=0)、試料が定期的に採取される。下の表2は、クロロプロパンのモル%分布を、時間との相関関係で示すものである。
【0072】
表2によって示されるように、1,2,3−トリクロロプロパンおよび1,1,2,3−テトラクロロプロパンは、一旦PDC塩素化からまず生成されると、比較的不活性である。対照的に、他のトリおよびテトラクロロプロパン中間体は、ペンタクロロプロパン異性体および重質副生成物へと、容易に塩素化を経る。
【0073】
【表2】
【0074】
実施例3.化学塩基を使用する、1,2,2,3−テトラクロロプロパンおよび1,2,3−トリクロロプロパンの混合物の脱塩化水素化
【0075】
攪拌棒を備えるフラスコに、相間移動触媒テトラブチルアンモニウムクロリド(20mg)、及び123−トリクロロプロパンおよび1223−テトラクロロプロパンの混合物7gを装入する(表1を参照、組成物に関してt=0)。この混合物をNでフラッシュし、80℃へ加熱する。NaOH水溶液(9mL、5N)を数分間かけて滴下添加する。混合物を80℃で激しく撹拌し、1時間後及び3時間後に採取する。H NMR分光法による分析から、次の生成物組成(表3)が示される。
【0076】
【表3】
【0077】
実施例4.2,3−ジクロロプロペンおよび1,2,3−トリクロロプレン(trichloroprene)の混合物の塩素化
【0078】
圧力反応器に、ジおよびトリクロロプロペン(3.35g)ならびにフリーラジカル開始剤、四塩化炭素(45mL)の混合物を装入する。撹拌(900rpm)を開始し、反応器を塩素/窒素混合物(N中30%Clv/v)により約140psigの圧力へ加圧する。 塩素/窒素混合物を、25℃及び流量200sccmで、少なくとも140psigで反応器に約30分間通過させる。混合物は次いで、試料採取され、1H NMR分光法により分析され、これから2,3−ジクロロプロペンおよび1,2,3−トリクロロプロペンがそれぞれ高い選択率で1,2,2,3−テトラクロロプロパンおよび1,1,2,2,3−ペンタクロロプレンへ転化されることが示される。H NMR分光法による分析から、次の生成物組成(表4)が示される。
【0079】
【表4】
【0080】
この実施例は、ジおよびトリクロロプロペンの塩素化生成物が、最初のイオン性塩素化反応器において生成されたものと類似していることを示しており、これらは、所望される中間体および/または高い選択性を持つ生成物を生成するための反応条件に再曝露され得る。
【0081】
実施例5.2,3−クロロプロペンの塩素化
【0082】
圧力反応器に、塩化アルミニウム(0.15g)および溶媒、塩化メチレン(50mL)を装入した。反応器を閉じ、一定の攪拌(800rpm)および反応器圧力(150psig)の下で30:70Cl:Nガス流を起こす前に、圧力を160psigへ管理した。反応混合物を70℃へ加熱し、次いで2,3−ジクロロプロペン(10mL)を装入した。反応を、クロロプロペンの添加から15分後、60分後、80分後、および160分後に1mLの分割量を除去することにより監視した。これらの分割量を水で反応停止させ、次いでガスクロマトグラフィーにより分析し、下の表5に示されるような生成物組成を決定した。
【0083】
【表5】
【0084】
実施例6.2,3−クロロプロペンの塩素化
【0085】
圧力容器に、塩化アルミニウム(0.15g)、ヨウ素(0.03g)、および塩化メチレン溶媒(50mL)を装入した。反応器を閉じ、一定の攪拌(800rpm)および反応器圧力(135psig)の下で30:70Cl:Nガス流(100sccm)を起こす前に、圧力を160psigへ管理した。反応混合物を70℃へ加熱し、次いで2,3−ジクロロプロペン(10mL)を装入した。反応を、クロロプロペンの添加から15分後、30分後、90分後、および150分後に1mLの分割量を除去することにより監視した。これらの分割量を水で反応停止させ、次いでガスクロマトグラフィーにより分析し、下の表6に示されるような生成物組成を決定した。
【0086】
【表6】
【0087】
実施例7.1,2,3−トリクロロプロペンの塩素化
【0088】
圧力容器に、1,2,3−トリクロロプロペン(5mL)、塩化アルミニウム(0.35g)、および塩化メチレン溶媒(44mL)を装入した。反応器を閉じ、一定の攪拌(800rpm)および反応器圧力(125psig)の下で30:70Cl:Nガス流(100sccm)を起こす前に、圧力を160psigに管理した。反応混合物を70℃へ加熱し、次いでクロロプロペンの添加から90分後および180分後に1mLの分割量を除去することにより監視した。これらの分割量を水で反応停止させ、次いでガスクロマトグラフィーにより分析し、下の表7に示されるような生成物組成を決定した。
【0089】
【表7】
【0090】
実施例8.1,2,3−トリクロロプロペンの塩素化
【0091】
圧力容器に、塩化アルミニウム(0.15g)、ヨウ素(0.08g)、および塩化メチレン溶媒(50mL)を装入した。反応器を閉じ、一定の攪拌(800rpm)および反応器圧力(135psig)の下で30:70Cl:Nガス流(100sccm)を起こす前に、圧力を160psigに管理した。反応混合物は70℃へ加熱され、次いで1,2,3−トリクロロプロペン(10mL)が装入された。反応を、クロロプロペンの添加から15分後、30分後、および90分後に1mLの分割量を除去することにより監視した。これらの分割量を水で反応停止させ、次いでガスクロマトグラフィーにより分析し、下の表8に示されるような生成物組成を決定した。
【0092】
まとめると、実施例5〜8は、ジおよびトリクロロプロペン生成物が、最初のイオン性塩素化反応器内で確認されるものに類似の反応条件へと独立して再導入され得、イオン性塩素化触媒およびフリーラジカル開始剤の両方を使用して、所望される三、四および五塩化プロパンへと塩素化し得ることを示すものである。
【0093】
【表8】

図1
図2
図3