(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6247320
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】産業プラントの分散制御システムを試験するためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20171204BHJP
【FI】
G05B23/02 V
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-561967(P2015-561967)
(86)(22)【出願日】2014年1月25日
(65)【公表番号】特表2016-509328(P2016-509328A)
(43)【公表日】2016年3月24日
(86)【国際出願番号】EP2014000198
(87)【国際公開番号】WO2014139616
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2016年12月12日
(31)【優先権主張番号】13158695.0
(32)【優先日】2013年3月12日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508346767
【氏名又は名称】アーベーベー・テクノロジー・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ベン・シュレーター
(72)【発明者】
【氏名】ファン・ダイ
(72)【発明者】
【氏名】ハオ・ディン
(72)【発明者】
【氏名】マリオ・フェルニッケ
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス・マウザー
(72)【発明者】
【氏名】ペーター・ウェーバー
【審査官】
黒田 暁子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−331196(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0292514(US,A1)
【文献】
特表2013−540317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業プラントの分散制御システム(30)を試験するためのシステムであって、
前記分散制御システム(30)は、
・各々が、前記産業プラントの生産プロセス(32)の間、前記産業プラントの個々の作動部分の動作を制御するように構成されている、少なくとも2つの産業用制御デバイス(40,42)と、
・前記少なくとも2つの産業用制御デバイス(40,42)の各々を、前記産業プラントの少なくとも前記個々の作動部分に接続するように構成された、少なくとも1つのデータ通信手段(34〜38)と
を含み、
前記システムは、
・前記分散制御システム(30)の少なくとも1つの部分のエンジニアリングデータ(15)を格納するためのエンジニアリングデータストレージユニット(5)と、前記エンジニアリングデータ(15)を操作するための少なくとも1つのヒューマンマシンインタフェース(12)とを含む、少なくとも1つのエンジニアリングコンピュータデバイス(4)を含み、
前記システムは、
・遠隔データ接続(3)を介して前記少なくとも1つのエンジニアリングコンピュータデバイス(4)に接続され、前記少なくとも2つの産業用制御デバイス(40,42)および/または前記少なくとも1つのデータ通信手段(34〜38)のうち1つをエミュレートするためのソフトエミュレータがインストールされているエミュレーションバーチャルマシン(9,10)を含む、少なくとも1つの遠隔データ処理サーバ(1,2)をさらに含み、
前記エンジニアリングデータ(15)は、前記分散制御システム(30)の前記少なくとも1つの部分の前記産業用制御デバイス(40,42)および前記データ通信手段(34〜38)の少なくとも数、タイプ、および通信構成情報を含み、
前記少なくとも1つの遠隔データ処理サーバ(1,2)は、前記産業プラントの外部にインストールされるとともに、
・前記少なくとも2つの産業用制御デバイス(40,42)および前記少なくとも1つのデータ通信手段(34〜38)の可能なタイプの各々について、インストールされたソフトエミュレータ(20,22,24)が個々のタイプに適合化されている、別個のバーチャルマシンテンプレート(11;21,23,25)と、
・オーケストレーションバーチャルマシン(6)と
を含み、
前記オーケストレーションバーチャルマシン(6)は、
-所定の時間間隔で、または前記エンジニアリングデータ(15)が修正されるたびに、前記遠隔データ接続(3)を介して前記エンジニアリングデータ(15)のコピーを検索し、前記エンジニアリングデータ(15)のコピーを少なくとも1つの遠隔データストレージユニット(14)に格納し、
-結果として得られたエミュレーションバーチャルマシン(9,10,16)の数および対応するソフトエミュレータのタイプが、前記エンジニアリングデータ(15)のコピーに含まれている数およびタイプに合致するように、前記バーチャルマシンテンプレート(11;21,23,25)のコピーを作成または削除することによって、前記少なくとも1つの遠隔データ処理サーバ(1,2)に、または前記少なくとも1つの遠隔データ処理サーバ(1,2)から、エミュレーションバーチャルマシン(16)を追加または除去し、
-前記エンジニアリングデータ(15)のコピーに含まれている前記通信構成情報にしたがって、前記結果として得られたエミュレーションバーチャルマシン(9,10,16)に前記ソフトエミュレータを構成し、
-前記エミュレーションバーチャルマシン(16)が動作していることを確認し、
-少なくとも前記分散制御システム(30)の前記少なくとも1つの部分の前記エンジニアリングデータ(15)が修正された場合に、前記エンジニアリングデータストレージユニット(5)から、前記分散制御システム(30)の前記少なくとも1つの部分の対応する産業用制御デバイスまたはデータ通信手段のデバイス構成データおよび/または実行可能プログラムコード(18)を、前記結果として得られたエミュレーションバーチャルマシン(9,10,16)にダウンロードすることによって、前記結果として得られたエミュレーションバーチャルマシン(9,10,16)に前記ソフトエミュレータをさらに構成し、
-前記少なくとも1つのまたはさらなるヒューマンマシンインタフェース(12)を介して入力されたシミュレーションコマンドにしたがって、前記結果として得られたエミュレーションバーチャルマシン(9,10,16)の前記ソフトエミュレータを動作させるために、前記結果として得られたエミュレーションバーチャルマシン(9,10,16)および前記少なくとも1つのまたは前記さらなるヒューマンマシンインタフェース(12)と通信を行うように構成されている、システム。
【請求項2】
前記少なくとも1つの遠隔データ処理サーバ(1,2)が、前記産業プラントの前記生産プロセス(32)のシミュレーションモデル(19)の実行時環境を含むシミュレーションバーチャルマシン(7)をさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記オーケストレーションバーチャルマシン(6)が、前記シミュレーションモデル(19)の更新版を利用可能なときはいつでも、または所定の時間間隔で、前記遠隔データ接続(3)を介して前記シミュレーションモデル(19)の前記更新版のコピーを検索し、前記更新版を前記シミュレーションバーチャルマシン(7)にロードするようにさらに構成されている、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記オーケストレーションバーチャルマシン(6)が、前記更新版を前記シミュレーションバーチャルマシン(7)にロードするよりも前に、以前のシミュレーションモデルの格納を開始する、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記オーケストレーションバーチャルマシン(6)が、前記エンジニアリングデータ(15)の前記通信構成情報に基づいて、前記結果として得られたエミュレーションバーチャルマシン(9,10,16)と前記シミュレーションバーチャルマシン(7)との間のデータ通信接続を構成するようにさらに構成されている、請求項2から4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記オーケストレーションバーチャルマシン(6)が、前記少なくとも1つの遠隔データ処理サーバ(1,2)にわたる、前記結果として得られたエミュレーションバーチャルマシン(9,10,16)の分散を開始するようにさらに構成されている、請求項1から5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記ソフトエミュレータのうちの1つが、前記少なくとも2つの産業用制御デバイス(40,42)のうち1つの少なくとも1つの通信インタフェース(41,43)をエミュレートするように構成されている、請求項1から6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記オーケストレーションバーチャルマシン(6)が、前記結果として得られたエミュレーションバーチャルマシン(9,10,16)およびシミュレーションバーチャルマシン(7)をサスペンドモードにし、かつ/または対応するユーザ要求に応じて、前記結果として得られたエミュレーションバーチャルマシン(9,10,16)および前記シミュレーションバーチャルマシン(7)を前記少なくとも1つの遠隔データストレージユニット(14)に格納するようにさらに構成されている、請求項1から7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
産業プラントの分散制御システム(30)を試験するための方法であって、
前記分散制御システム(30)は、
・各々が、前記産業プラントの生産プロセス(32)の間、前記産業プラントの個々の作動部分の動作を制御するように構成されている、少なくとも2つの産業用制御デバイス(40,42)と、
・前記少なくとも2つの産業用制御デバイス(40,42)の各々を、前記産業プラントの少なくとも前記個々の作動部分に接続するように構成された、少なくとも1つのデータ通信手段(34〜38)と
を含み、
前記方法は、
・前記分散制御システム(30)の少なくとも1つの部分のエンジニアリングデータ(15)を、少なくとも1つのエンジニアリングコンピュータデバイス(4)のエンジニアリングデータストレージユニット(5)に格納するステップと、
・前記エンジニアリングデータ(15)を操作するための少なくとも1つのヒューマンマシンインタフェース(12)を提供するステップと、
・遠隔データ接続(3)を介して少なくとも1つの遠隔データ処理サーバ(1,2)を前記少なくとも1つのエンジニアリングコンピュータデバイス(4)に接続するステップと、
・前記少なくとも1つの遠隔データ処理サーバ(1,2)上にエミュレーションバーチャルマシン(9,10)を提供するステップと、
・前記少なくとも2つの産業用制御デバイス(40,42)および/または前記少なくとも1つのデータ通信手段(34〜38)のうちの1つをエミュレートするためのソフトエミュレータを前記エミュレーションバーチャルマシン(9,10)にインストールするステップと
を含み、
前記方法は、
・前記分散制御システム(30)の前記少なくとも1つの部分の前記産業用制御デバイス(40,42)および前記データ通信手段(34〜38)の少なくとも数、タイプ、および通信構成情報を前記エンジニアリングデータ(15)に格納するステップと、
・前記少なくとも1つの遠隔データ処理サーバ(1,2)を前記産業プラントの外部にインストールするステップと、
・前記少なくとも2つの産業用制御デバイス(40,42)および前記少なくとも1つのデータ通信手段(34〜38)の可能なタイプの各々について、インストールされたソフトエミュレータ(20,22,24)が個々のタイプに適合化されている、別個のバーチャルマシンテンプレート(11;21,23,25)を前記少なくとも1つの遠隔データ処理サーバ(1,2)に提供するステップと、
・前記少なくとも1つの遠隔データ処理サーバ(1,2)上で動作するオーケストレーションバーチャルマシン(6)によって、
-所定の時間間隔で、または前記エンジニアリングデータ(15)が修正されるたびに、前記遠隔データ接続(3)を介して前記エンジニアリングデータ(15)のコピーを検索し、前記エンジニアリングデータ(15)のコピーを少なくとも1つの遠隔データストレージユニット(14)に格納するステップと、
-結果として得られたエミュレーションバーチャルマシン(9,10,16)の数および対応するソフトエミュレータのタイプが、前記エンジニアリングデータ(15)のコピーに含まれている数およびタイプに合致するように、前記バーチャルマシンテンプレート(11;21,23,25)のコピーを作成または削除することによって、前記少なくとも1つの遠隔データ処理サーバ(1,2)に、または前記少なくとも1つの遠隔データ処理サーバ(1,2)から、エミュレーションバーチャルマシン(16)を追加または除去するステップと、
-前記エンジニアリングデータ(15)のコピーに含まれている前記通信構成情報にしたがって、前記結果として得られたエミュレーションバーチャルマシン(9,10,16)に前記ソフトエミュレータを構成するステップと、
-前記エミュレーションバーチャルマシン(16)が動作していることを確認するステップと、
-少なくとも前記分散制御システム(30)の前記少なくとも1つの部分の前記エンジニアリングデータ(15)が修正された場合に、前記エンジニアリングデータストレージユニット(5)から、前記分散制御システム(30)の前記少なくとも1つの部分の対応する産業用制御デバイスまたはデータ通信手段のデバイス構成データおよび実行可能プログラムコード(18)を、前記結果として得られたエミュレーションバーチャルマシン(9,10,16)にダウンロードすることによって、前記結果として得られたエミュレーションバーチャルマシン(9,10,16)に前記ソフトエミュレータをさらに構成するステップと、
-前記少なくとも1つのまたはさらなるヒューマンマシンインタフェース(12)を介して入力されたシミュレーションコマンドにしたがって、前記結果として得られたエミュレーションバーチャルマシン(9,10,16)の前記ソフトエミュレータを動作させるために、前記結果として得られたエミュレーションバーチャルマシン(9,10,16)および前記少なくとも1つのまたは前記さらなるヒューマンマシンインタフェース(12)と通信を行うステップと
をさらに含む、方法。
【請求項10】
前記バーチャルマシンテンプレート(11)が、インスタンス化され、サスペンドモードで永続的に保持される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記結果として得られたエミュレーションバーチャルマシン(9,10,16)およびシミュレーションバーチャルマシン(7)が、前記少なくとも1つの遠隔データ処理サーバ(1,2)から抽出され、前記エンジニアリングデータストレージユニット(5)に格納される、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記生産プロセス(32)のモニタリングおよび/または故障診断の間に使用するために、前記結果として得られたエミュレーションバーチャルマシン(9,10,16)および/または前記シミュレーションバーチャルマシン(7)が、前記少なくとも1つの遠隔データ処理サーバ(1,2)上に復元される、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業プラントの分散制御システムを試験するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分散制御システム(Distributed Control System,DCS)は、産業プラント全体に分散された複数の制御デバイスから成る制御システムである。この場合、当該産業プラントは、製薬/化学産業のようなプロセス産業、または組立製造業(discrete manufacturing industry)、または鉱物/石油/ガス産業、または電力産業など、異なる産業部門に属すことがある。
【0003】
DCSは、少なくとも2つの産業用制御デバイスを含み、それら産業用制御デバイスの各々が、産業プラントの生産プロセスの間、産業プラントの個々の作動部分の動作を制御するように構成されている。この場合、作動部分は、たとえば、モータ、ポンプ、バルブ、スイッチなどの単一アクチュエータであってもよいし、または、アクチュエータ群や産業プラントの作動部全体であってもよい。対応する少なくとも1つのアクチュエータを制御することができるように、各制御デバイスは、産業プラントの個々の作動部分の現在の作動状態に関する、少なくとも1つの状態情報を受け取るように、または決定するように構成されている。この場合、少なくとも1つの状態情報は、少なくとも1つのセンサによって得られた測定値から直接生成されるか、または、入手可能なさらなる状態情報から少なくとも1つの状態情報を推定することによって間接的に生成される。DCSは、少なくとも2つの産業用制御デバイスの各々を、産業プラントの少なくとも個々の作動部分に接続するように構成された、少なくとも1つのデータ通信手段をさらに含む。このデータ通信手段は、好ましくは、有線または無線フィールドバスであり、Foundationフィールドバス、ProfibusおよびProfinet、またはIEC61850などのプロトコルを適用する。
【0004】
以下において、「エンジニアリング」という用語は、DCSの部分または全体の設計、検証および妥当性検査、実装、ならびに試験に関連するあらゆる種類のアクティビティを説明するために使用する。
【0005】
新規または修正されたDCSの部分を実際の産業プラントに配信かつ/またはインストールするのに先立って、いわゆる工場受入試験(FAT)の間にそれらの動作を試験する必要がある。この試験は、通例、産業プラントに予定されているハードウェアの特定のサンプルを含む専用の試験環境において実施される。しかしながら、特定の制御デバイスを試験するために、産業プラントのサブシステムおよびDCSの対応する部分(すでに試験済みの)以上のものを提供することはできない。特に、フィールドバスの構成要素など、DCSの周辺構成要素は、より容易なロジスティック、時間の節約といった理由で、通常は直接現場に送られる。しかしながら、DCS全体が正しく作動してすべての仕様が満たされることを保証するためには、上述の試験環境におけるハードウェア上の制約があるとはいえ、DCSのできるだけ多くの部分を同時試験手順で試験することが望ましい。
【0006】
M. Hoernickeらによる論文、「Effizientes Testen heterogener Leitsystemkonfigurationen」(非特許文献1)には、FATの間のハードウェア上の制約は、シミュレーションを使用して産業プラントにおいて実行される生産プロセスの動的挙動を再現することによって、また、DCSのハードウェアでは得られない部分についてはエミュレーションを利用することによって克服されると記載されている。通例、そのシミュレーションは、産業プラントの作動要素の動的なシステム挙動のコンピュータ実装モデルに基づくものであり、それによって、プラントで実行される生産プロセスがモデル化される。シミュレーションモデルでは、制御デバイスの出力信号、すなわち作動信号が入力変数として使用され、また、産業プラントの作動状態の少なくともいくつかが出力変数を表す。
【0007】
DCSの要素のエミュレーションは、産業プラントで使用されている本来のハードウェアデバイスではなく代替ハードウェアデバイス上で、DCSの制御デバイスおよびデータ通信手段のために書かれた、本来のコンピュータプログラムを実行することによって実施される。この場合、代替ハードウェアデバイスは、本来のハードウェアの計算/処理関連の挙動を模倣する。代替ハードウェアデバイスは、たとえばPC対マイクロコントローラというように、DCSの典型的な制御デバイスよりも高い処理能力を有する、いわゆるエミュレーションコンピュータデバイスであってよい。このエミュレーションコンピュータデバイス上では、いくつかのエミュレートされる制御デバイスが並列に動作することができる。したがって、それらの制御デバイスはソフトウェアにおいてのみエミュレートされる。これは、制御デバイスの処理関連の挙動が、ソフトエミュレータと称される適切なソフトウェアプログラムによって模倣されることを意味する。代替ハードウェアデバイスもまた、DCSの模倣される制御デバイスやデータ通信手段と同一の物理的入力/出力信号を有する専用ハードウェアエミュレータであってよい。すなわち、ハードウェアエミュレータは、本来の1つのハードウェアの挙動を模倣する1つのハードウェアである。このようなハードウェアエミュレータを、特に、フィールドバスシステムやI/OデバイスなどのDCSのデータ通信手段をエミュレートするために使用することができる。
【0008】
その結果、上記に挙げた論文は、結果的に、バーチャルコミッショニングに使用することができ、したがってFATの試験環境として使用できる、いわゆるデジタル工場をもたらす、シミュレーションとエミュレーションの結合物を提示する。
【0009】
DE 10 2010 025 954 A1(特許文献1)では、添付の
図1に示すように、DCSのFATの試験環境を実現するための別のアプローチが提示されている。ホストコンピュータシステム上で産業プラントの生産プロセスのシミュレーションと共にDCSのシミュレーションを行えるように、DCS要素の各々をホストコンピュータシステム上で仮想化することが示唆されている。したがって、各制御デバイスは、対応する仮想プロセッサおよび仮想インタフェースをホストコンピュータシステム上に用意することによって仮想化され、また、データ通信手段は、ホストコンピュータシステム上に実装された仮想フィールドバスおよび仮想フィールドバスインタフェースによって仮想化される。M. Hoernickeらの論文に記載されているエミュレーションとDE 10 2010 025 954 A1で使用されている仮想化とは、ハードウェアをシミュレートするための異なる技法である。エミュレートされるハードウェアは、たとえばエミュレートされるプロセッサの完全な命令セットを用意することによって、その挙動の細部すべてにわたって模倣される。一方、仮想化ハードウェアは、できるだけホストコンピュータの命令セットを使用し、通常ホストコンピュータ上では得られない特有の処理アクティビティを必要とする特定の命令を模倣するだけである。
【0010】
DE 10 2010 025 954 A1にさらに記載されているように、一方では、仮想プロセッサとホストコンピュータとが同様のものである場合には、制御デバイスの本来のプログラムを対応する仮想プロセッサ上で直接実行することができる。代替ソリューションでは、制御デバイスの仮想プロセッサを、ホストコンピュータシステムの仮想環境中で動作するハードウェアエミュレータの形態で提供することができる。それとは別に、マイクロコントローラの場合など、DCS制御デバイスのハードウェアが、ホストコンピュータシステムのハードウェアとは著しく異なるという特定の場合があり得る。そのため、そのプロセッサのハードウェアエミュレータの仮想化にはさらに手間がかかる。このような場合には、ハードウェアエミュレータを、ホストコンピュータシステムの仮想化層と並列に、同一レベルで動作するように構成する。結果として得られるDCSのためのシミュレーション環境では、次いで、本来のソフトウェアが、それら個々の完全に仮想化されたプロセッサ、または完全にエミュレートされたプロセッサ、または仮想化とエミュレート化とが混在したプロセッサ上で実行される。
【0011】
通例、デジタルファクトリの上記のバージョンの構成は、各仮想デバイスおよび/またはエミュレータが別個に、また個々に構成されなければならないため、きわめて手動的なプロセスである。いくつかのサブシステムおよび複雑な周辺を有する大規模DCSでは、仮想デバイスおよび/またはエミュレータを、できる限り正確に互いに適合させる必要がある。必要な仮想デバイスおよび/またはエミュレータの相互接続のために、結果として得られるデジタルファクトリは、実際の産業プラントとほぼ同じ程度に複雑なものとなる。
【0012】
この構成は、DCSのエンジニアリングの結果に基づいて行われる。すなわち、仮想デバイスおよび/またはエミュレータは、DCSの個々の要素それぞれの設計、検証、および妥当性検査の間に生成されるエンジニアリングデータを用いて構成される。先に引用した論文で示唆されているような純粋なエミュレーションは、加えて、各エミュレータインスタンスの要件に適合するよう、最後にソフトエミュレータを実行するエミュレーションコンピュータデバイスがハードウェアおよびソフトウェアで構成されることを必要とする。その上、ハードウェアエミュレータとエミュレーションコンピュータデバイスとを物理的に接続するために必要とされるITインフラストラクチャが、デジタルファクトリを使用している間ずっと維持されなければならない。
【0013】
さらにまた、生産プロセスのシミュレーションモデルは手動で組み立てられる。このモデルはプロセスモデルシミュレータに統合され、エミュレータとプロセスモデルシミュレータとの間の接続は、同様にエンジニアリングの結果に基づいて構成される。
【0014】
説明しているデジタルファクトリの手動による構成には、構成のためだけではなく試験環境というものを提供するためにも多くの労力が伴う。特に、試験環境はほとんどスケーラブルではないため、エンジニアリング中により多くの処理能力、メモリ、または外部インタフェースが必要とされる場合には、手動によるハードウェア適合化が必要になることがある。FATの後、次のプロジェクトのためのクリーンな環境を得るため、エミュレーション/シミュレーションインフラストラクチャ(1つのデジタルファクトリに固定的に適合化されたものである)を解体しなければならない。後続のエンジニアリングステップの間にDCSの要素が変更または追加され、したがってエンジニアリングデータが修正された場合、それによって新規エミュレータの必要が生じるようであれば、そのような修正をデジタルファクトリに実装するためにかなりの量の手動による労力が必要とされる。
【0015】
これらの欠点を克服するために、先に引用した論文では、仮想環境においてデジタルファクトリの異なるエミュレータを統合することが示唆されている。そうすることによって試験環境がスケーラブルなものになり、また、どのエミュレーションハードウェアからも独立したものとなる。
【0016】
論文の中で提示されている概念は、1つまたは複数のバーチャルマシン(VM)の自動生成に基づいており、各バーチャルマシンでは複数のエミュレータがインスタンス化されている。バーチャルマシンは、複数のエミュレーションコンピュータデバイス間で自由に分散され、実行される。この場合、分散は特に開発されたツールを使って実行される。そのようなツールの例が、EP 2 508 904 A1(特許文献2)にフレームワークアプリケーションという名称で挙げられている。
【0017】
バーチャルマシンの自動生成は、バーチャルマシンの1つのテンプレートに基づいており、このテンプレートはその後必要に応じて何度でも複製される。
図2の例に示すように、このテンプレートには、DCSの制御デバイスおよびデータ通信手段のエミュレーションに必要となる異なるタイプのソフトエミュレータがインストールされる。「ソフトPLC」という用語は、プログラマブルロジックコントローラ用のソフトエミュレータを表す。
【0018】
バーチャルマシンを自動的に生成するために、また、ソフトエミュレータをインスタンス化するために、M. Hoernickeらの論文では次のステップが示唆されている。
・DCSのエンジニアリング環境からDCSのトポロジーをエクスポートする。
・そのトポロジーから必要とされるエミュレータタイプを識別する。
・ユーザが選択した、シミュレーションの対象とすべきDCSの要素について構成ファイルを生成する。
・選択したDCS要素に基づいてバーチャルマシンの必要数を求め、生成する。この場合、以下の制限を考慮する。
-1つのバーチャルマシンにつき、1つのエミュレータタイプの実行可能なインスタンスの最大数
-1つのバーチャルマシンにつき利用可能な通信インタフェースの最大数
-1つのエミュレータによって同時に実行されるオブジェクトの最大数
-1つのエミュレーションコンピュータデバイスにつき利用可能な最大実ワーキングメモリ
・バーチャルマシンにソフトエミュレータを構成する。これにはそれらの通信インタフェースの構成も含まれる。
・エミュレーションコンピュータデバイス間にバーチャルマシンを分散する。
・バーチャルマシンを始動する。
・DCS要素の以前に生成された構成ファイルを個々のソフトエミュレータにロードする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】独国特許出願公開第102010025954号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第2508904号明細書
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】M. Hoernicke, et al., "Effizientes Testen heterogener Leitsystemkonfigurationen"
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
以下に提示するソリューションは、上述のDSC試験環境を自動的に生成するためのアプローチが依然としてある大きな欠点を伴うという事実の認識に基づいたものである。上記に説明したように、ユーザは、DCSのどの要素をシミュレートしたいかを選択しなければならない。その後、自動生成プロセスを開始すると、試験環境を変更するためのさらなる対話は一切できなくなる。試験環境は固定され、静的なものとなる。試験環境は、異なるDCS要素セットをシミュレートするという場合に、全体として破棄し、最初から完全に再作成することしかできない。
【課題を解決するための手段】
【0022】
したがって、本発明は、上述の欠点を克服できる、産業プラントのDCSを試験するためのシステムおよび方法を提供することを目的とする。
【0023】
この目的は、独立請求項に記載されたシステムおよび方法によって達成される。
【0024】
この産業プラントのDCSを試験するためのシステムは、DCSの少なくとも1つの部分のエンジニアリングデータを格納するためのエンジニアリングデータストレージユニットと、エンジニアリングデータを操作するための少なくとも1つのヒューマンマシンインタフェースとを含む、少なくとも1つのエンジニアリングコンピュータデバイスを含む。このシステムは、遠隔データ接続を介して少なくとも1つのエンジニアリングコンピュータデバイスに接続され、少なくとも2つの産業用制御デバイスおよび/または少なくとも1つのデータ通信手段のうちの1つをエミュレートするための少なくとも1つのソフトエミュレータがインストールされているエミュレーションバーチャルマシンを含む、少なくとも1つの遠隔データ処理サーバをさらに含む。
【0025】
本発明によれば、エンジニアリングデータストレージユニットに格納されたエンジニアリングデータは、DCSの少なくとも1つの部分の産業用制御デバイスおよびデータ通信手段の数、タイプ、および通信構成情報を含み、少なくとも1つの遠隔データ処理サーバは、産業プラントの外部にインストールされ、少なくとも2つの産業用制御デバイスおよび少なくとも1つのデータ通信手段の可能なタイプの各々について、インストールされたソフトエミュレータが個々のタイプに適合化されている、別個のバーチャルマシンテンプレートを含む。
【0026】
少なくとも1つの遠隔データ処理サーバは、オーケストレーションバーチャルマシンをさらに含み、当該オーケストレーションバーチャルマシンは、
・所定の時間間隔で、またはエンジニアリングデータが修正されるたびに、遠隔データ接続を介してエンジニアリングデータのコピーを検索し、コピーを少なくとも1つの遠隔データストレージユニット(この場合、遠隔データストレージユニットは少なくとも1つの遠隔データ処理サーバに属する)に格納し、
・結果として得られるエミュレーションバーチャルマシンの数およびそれらに対応するソフトエミュレータのタイプがエンジニアリングデータのコピーに含まれている数およびタイプに合致するように、バーチャルマシンテンプレートのコピーを作成または削除することによって、少なくとも1つの遠隔データ処理サーバに、または少なくとも1つの遠隔データ処理サーバから、エミュレーションバーチャルマシンを追加または除去し、
・エンジニアリングデータのコピーに含まれた通信構成情報にしたがって、結果として得られたエミュレーションバーチャルマシンにソフトエミュレータを構成し、
・エミュレーションバーチャルマシンが動作していることを確認し、
・少なくともDCSの少なくとも1つの部分のエンジニアリングデータが修正された場合に、エンジニアリングデータストレージユニットから、DCSの少なくとも1つの部分の対応する産業用制御デバイスまたはデータ通信手段のデバイス構成データおよび/または実行可能プログラムコードを、結果として得られたエミュレーションバーチャルマシンにダウンロードすることによって、結果として得られたエミュレーションバーチャルマシンにソフトエミュレータをさらに構成し、
・少なくとも1つまたはさらなるヒューマンマシンインタフェースを介して入力されたシミュレーションコマンドにしたがって、結果として得られたエミュレーションバーチャルマシンのソフトエミュレータを動作させるために、結果として得られたエミュレーションバーチャルマシンおよび少なくとも1つまたはさらなるヒューマンマシンインタフェースと通信を行うように構成されている。
【0027】
産業プラントのDCSを試験するための対応する方法は、DCSの少なくとも1つの部分のエンジニアリングデータを、少なくとも1つのコンピュータデバイスのエンジニアリングデータストレージユニットに格納するステップと、エンジニアリングデータを操作するための少なくとも1つのヒューマンマシンインタフェースを提供するステップと、遠隔データ接続を介して少なくとも1つの遠隔データ処理サーバを少なくとも1つのエンジニアリングコンピュータデバイスに接続するステップと、少なくとも1つの遠隔データ処理サーバ上にエミュレーションバーチャルマシンを提供するステップと、少なくとも2つの産業用制御デバイスおよび/または少なくとも1つのデータ通信手段のうちの1つをエミュレートするための少なくとも1つのソフトエミュレータをエミュレーションバーチャルマシンにインストールするステップと、を含む。
【0028】
本発明によれば、この方法はさらに、エンジニアリングデータに、DCSの少なくとも1つの部分の産業用制御デバイスおよびデータ通信手段の少なくとも数、タイプ、および通信構成情報を格納するステップと、少なくとも1つの遠隔データ処理サーバを産業プラントの外部にインストールするステップと、少なくとも1つの遠隔データ処理サーバ上に、少なくとも2つの産業用制御デバイスおよび少なくとも1つのデータ通信手段の可能なタイプの各々について、インストールされたソフトエミュレータが個々のタイプに適合化されている別個のバーチャルマシンテンプレートを提供するステップと、を含む。
【0029】
さらに、少なくとも1つの遠隔データ処理サーバ上で動作しているオーケストレーションバーチャルマシンによって以下のステップ、すなわち、
・所定の時間間隔で、またはエンジニアリングデータが修正されるたびに、遠隔データ接続を介してエンジニアリングデータのコピーを検索し、コピーを少なくとも1つの遠隔データストレージユニットに格納するステップと、
・結果として得られるエミュレーションバーチャルマシンの数およびそれらに対応するソフトエミュレータのタイプがエンジニアリングデータのコピーに含まれている数およびタイプに合致するように、バーチャルマシンテンプレートのコピーを作成または削除することによって、少なくとも1つの遠隔データ処理サーバに、または少なくとも1つの遠隔データ処理サーバから、エミュレーションバーチャルマシンを追加または除去するステップと、
・エンジニアリングデータのコピーに含まれている通信構成情報にしたがって、結果として得られたエミュレーションバーチャルマシンにソフトエミュレータを構成するステップと、
・エミュレーションバーチャルマシンが動作していることを確認するステップと、
・少なくとも分散制御システムの少なくとも1つの部分のエンジニアリングデータが修正された場合に、エンジニアリングデータストレージユニットから、DCSの少なくとも1つの部分の対応する産業用制御デバイスまたはデータ通信手段のデバイス構成データおよび/または実行可能プログラムコードを、結果として得られたエミュレーションバーチャルマシンにダウンロードすることによって、結果として得られたエミュレーションバーチャルマシンにソフトエミュレータをさらに構成するステップであって、ダウンロード動作は、エンジニアリングデータストレージユニットとエミュレーションバーチャルマシンとの間で直接に、または、デバイス構成データおよび実行可能プログラムコードをエミュレーションバーチャルマシンにロードするよりも前に少なくとも1つの遠隔データストレージユニットに中間的に格納することによって実行され得る、ステップと、
・少なくとも1つまたはさらなるヒューマンマシンインタフェースを介して入力されたシミュレーションコマンドにしたがって、結果として得られたエミュレーションバーチャルマシンのソフトエミュレータを動作させるために、結果として得られたエミュレーションバーチャルマシンおよび少なくとも1つまたはさらなるヒューマンマシンインタフェースと通信を行うステップと
が実行される。
【0030】
換言すれば、DCSの全体的試験を1つまたはいくつかの遠隔コンピュータデバイス上で実施するというのがここでの概念であり、この場合、遠隔コンピュータデバイスは、現場にインストールされるのではなく、プライベート環境やパブリッククラウド環境など、外部にインストールされる。したがって、試験環境を確立するために企業内ITハードウェアが必要とされることはもはやなくなる。そのため、変化する試験に対するニーズに合わせてハードウェアを維持したり適合させたりする労力も避けられる。遠隔試験環境の設定/構成は、クラウドにおいて動作し、現在DCSのエンジニアリングが行われている1つまたは複数のコンピュータデバイスへの遠隔インタフェースを使用する、いわゆるオーケストレーションバーチャルマシンを介して、自動的に行われる。「オーケストレーション」という用語は、試験環境のソフトウェア要素の管理、構成、開始、停止、およびそれらソフトウェア要素との相互作用に関わるすべてのアクティビティに関する。これらソフトウェア要素はすべてバーチャルマシンに基づいており、amazon.comなどのパブリッククラウドベンダの場合、バーチャルマシンは個々のパブリッククラウドベンダ独自の権利を有するフォーマット(proprietary format)で提供される。
【0031】
本ソリューションの要旨は、DCSの制御/通信要素の各デバイスタイプについてソフトエミュレータを提供し、各ソフトエミュレータについて、そのソフトエミュレータがインストールされたバーチャルマシンテンプレートを作成するということである。したがって、各エミュレータは別個のテンプレートを有する。すなわち、上述の論文におけるように、単一テンプレートでエミュレータ同士が結合されるということはない。
【0032】
提案している、DCSのエンジニアリングシステムに永続的に接続されたオーケストレーションバーチャルマシンをもってすれば、また、DCS要素のタイプごとの提案している個別のバーチャルマシンテンプレートをもってすれば、DCSの試験環境におけるエンジニアリングされたDCSに施されたいかなる変更も自動的に反映することができる。
【0033】
これは、エンジニアリングシステムから最新のエンジニアリングデータ、すなわち、その時点で入手できるエンジニアリング結果に関するデータを収集するようにオーケストレーションバーチャルマシンを構成することによって成し遂げられる。これは、新しいデータが存在する場合にはいつでも、または所定の時間間隔で実施することができる。エンジニアリングデータは遠隔試験環境にコピーされるので、そこで常に最新の状態に保たれる。
【0034】
クラウドに直近にコピーされたエンジニアリングデータのコピーに基づいて、オーケストレーションバーチャルマシンは、バーチャルマシンテンプレートのコピーを作成し、それによって新しいバーチャルマシンを作成する。この場合、新しい各バーチャルマシンは、自身にインストールされたソフトエミュレータと共に、DCSに新たに導入された1つの制御デバイスまたは1つの通信要素のためのシミュレーション手段としての役割を果たす。変更の認識は逆方向にも作用する。すなわち、エンジニアリングシステムにおいてDCSの制御デバイスまたはデータ通信手段が削除されると、その仮想表現もまた削除される。
【0035】
バーチャルマシンテンプレートから作成され、DCSをシミュレートすることを意図されたバーチャルマシンはエミュレーションバーチャルマシンと称される。
【0036】
以下のステップでは、オーケストレーションバーチャルマシンは、エミュレーションバーチャルマシンを始動し、特定のDCS要素のIPアドレスなど、エンジニアリングデータのコピーに含まれる通信関連の情報にしたがって、エミュレーションバーチャルマシンを構成する。その後、そのDCS要素の構成および/または対応するソフトエミュレータ上で実行されるプログラムコードがエンジニアリングシステムから個々のエミュレーションバーチャルマシンにダウンロードされる。次いで、DCSの試験を直ちに実行することができる。
【0037】
したがって、本ソリューションによって、エンジニアリングされているDCSに変更があった場合の新たな試験環境の完全な再作成を避けられる。その代わりに、クラウドにおけるシミュレーション環境はエンジニアリングされているDCSの現在の状態を常に反映し、最新の仮想複製を表す。
【0038】
好ましい実施態様では、少なくとも1つの遠隔データ処理サーバは、産業プラントの生産プロセスのシミュレーションモデルの実行時環境を含むシミュレーションバーチャルマシンをさらに含む。これによって、FATなど、DCSと産業プラントの生産プロセスとの間の相互作用の試験が可能になる。
【0039】
オーケストレーションバーチャルマシンは、更新が利用可能なときはいつでも、または所定の時間間隔で、遠隔データ接続を介してシミュレーションモデルの更新版のコピーを検索し、更新版をシミュレーションバーチャルマシンにロードするように構成され得る。これは、シミュレーションモデルの新版が作成されたときにはいつでも、それがシミュレーションバーチャルマシンにコピーされ、それによって、DCSの仮想表現だけでなく生産プロセスの仮想表現も最新のものに維持されることを意味する。
【0040】
オーケストレーションバーチャルマシンは、更新版をシミュレーションバーチャルマシンにロードする前に、前回のシミュレーションモデルの格納を開始することができる。換言すれば、シミュレーションモデルの旧版は、新版で上書きされる前に、適切なストレージ、たとえばネットワーク接続ストレージまたはストレージエリアネットワークに格納することができる。
【0041】
さらに、オーケストレーションバーチャルマシンは、エンジニアリングデータの通信構成情報に基づいて、結果として得られるエミュレーションバーチャルマシンとシミュレーションバーチャルマシンとの間のデータ通信接続を構成し、それによって、DCSと生産プロセスの動作要素との間の、産業プラント内の実際の物理的通信ネットワークの仮想複製を表す仮想ローカルエリアネットワークの完全な自動セットアップを実行するように構成することができる。
【0042】
仮想DCSと仮想生産プロセスとの間のデータ通信接続のセットアップもエンジニアリングデータに基づき、それによって、確実にデータ通信接続が動的に更新されるようにすることができる。一例では、実DCSの要素がイーサネット(登録商標)接続を介して通信を行う場合、各エミュレーションバーチャルマシンは、後でシミュレーションバーチャルマシンに自動的に接続され得るように、まずエンジニアリング対象のIPアドレスを得る。次いで、エンジニアリングデータに格納されている通信構成情報に基づいて、シミュレーション信号と対応するエミュレーション信号との間の接続が確立され、それによって、試験中、仮想DCSと仮想生産プロセスとの間で正しい値を交換することができる。
【0043】
さらにまた、オーケストレーションバーチャルマシンは、少なくとも1つの遠隔データ処理サーバにわたる、結果として得られたエミュレーションバーチャルマシンの分散を開始するように構成することができる。これは、オーケストレーションバーチャルマシンが、プライベートクラウド中のメモリおよび処理デバイスに対してエミュレーションバーチャルマシンをアクティブに割り振ることができる、またはパブリッククラウドのクラウドプロバイダにより多くのメモリおよび/または処理能力を要求できることを意味する。
【0044】
本発明およびその実施形態は、次の添付の図面に関連して以下に記載する例からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】当技術分野で知られているような、DCS要素の仮想化に基づいた試験環境の実現を示す図である。
【
図2】当技術分野で知られているような、単一のバーチャルマシンテンプレートに基づいた試験環境の実現を示す図である。
【
図3】本ソリューションの基礎を形成する、DCSの要素ごとの1つのバーチャルマシンテンプレートを示す図である。
【
図4】産業プラントにおける通信インフラストラクチャを示す図である。
【
図5】DCSを試験するためのシステムの例を示す図である。
【
図6】更新済みDCSを備えた、
図5のシステムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
図3には、3つの異なるバーチャルマシンテンプレート21,23,25が示されている。ここで、バーチャルマシンテンプレート21,23,25の各々には、DCSの制御デバイス(22)またはデータ通信手段(20,24)のいずれかのための異なるソフトエミュレータがインストールされている。したがって、本ソリューションでは、DCSの各要素について、それぞれが自身の個別のバーチャルマシンテンプレートを有する、別個のソフトエミュレータが提供される。その結果、当技術分野で知られているように、また
図2に示すように、単一のテンプレートでエミュレータ同士が結合されるということはない。このようにして、いずれの時点においてもDCSのエンジニアリング結果に適合する仮想表現を自動的に生成/更新できることにより、DCSの試験環境においてエンジニアリングされているDCSに対して施されたいかなる変更も自動的に反映することができるようになる。
【0047】
図4は、産業プラントにおける通信インフラストラクチャの例を示す。DCSが使用される産業プラントは、製薬、化学、鉱物、金属、石油/ガス、または電力産業など、あらゆる種類の産業部門に属する可能性がある。ここで示す例は、鉄鋼業界に属する溶解所である。石油/ガス産業の例には、たとえば、精製、エチレンガス化、エチレンガス処理、エチレンガス液化で使用される設備が含まれる。
【0048】
例示の目的で、この溶解所は、鉄鋼スラブを溶かすための少なくとも1つのアーク炉47、酸素(O2)吹き込みにより溶けた鉄鋼を処理するための少なくとも1つのアルゴン酸素脱炭ユニット48、合金の目的で温度調整/化学調整が行われる少なくとも1つの取鍋炉49、および厚板を鋳造するための少なくとも1つの連続鋳造機50を含む。厚板は、その後ある長さに切断され、下流ストレージおよび/または圧延機に送られる。したがって、溶解所によってなされる生産プロセス32への入力は鉄鋼スラブであり、その出力は鉄鋼厚板である。
【0049】
鉄鋼スラブを生産するための生産プロセス32は、DCS 30を介して制御される。DCS 30は、少なくとも2つの産業用制御デバイス40,42を含む。産業用制御デバイス40,42は、それぞれ、生産プロセス32の間の産業プラントの個々の作動部分の動作を、個々の作動部分の現在の作動状態に基づいて制御するように構成されている。DCS 30は、ここではProfinet 34、Profibus 35、Foundationフィールドバス37、およびIEC 61850プロセスバス38などの異なるプロトコルに基づくフィールドバスとして図示されている少なくとも1つのデータ通信手段と、I/Oシステム35と、制御デバイス40,42の通信インタフェース41,43とをさらに含む。これらのすべてのデータ通信手段は、制御デバイス40,42と生産プロセス32に伴う作動部分およびセンサとの間の通信に使用される。
【0050】
図5および
図6には、DCS 30がエンジニアリングされた後、実際の溶解所に出荷される前に、そのDCS 30を試験するための試験環境を備えることができるシステムの例を示す。このシステムは、DCS 30の少なくとも1つの部分のエンジニアリングデータ15を格納するためのエンジニアリングデータストレージユニット5と、エンジニアリングデータ15を操作するための少なくとも1つのヒューマンマシンインタフェース(Human Machine Interface,HMI)12とを備えた、少なくとも1つのエンジニアリングコンピュータデバイス4を含む。
図5のエンジニアリングデータ15は、産業用制御デバイス40,42およびデータ通信手段34〜38,41,43の少なくとも数、タイプ、および通信構成情報を含む。
【0051】
このシステムは、産業プラントの外部、ここではパブリッククラウド17にインストールされ、また、遠隔データ接続3を介して少なくとも1つのエンジニアリングコンピュータデバイス4に接続された、少なくとも1つの遠隔データ処理サーバ1,2をさらに含む。この少なくとも1つの遠隔データ処理サーバ1,2は、制御デバイス40,42およびデータ通信手段34〜38の異なるタイプの各々について、別個のバーチャルマシンテンプレートを含む。ここでは、そのバーチャルマシンテンプレートを、DCS 30のコントローラ1およびコントローラ2のただ1つのバーチャルマシンテンプレートとして例示している。コントローラ1およびコントローラ2は同一のデバイスタイプを有し、すなわち、どちらもPLCである。このバーチャルマシンテンプレートは、インスタンス化され、サスペンドモードで永続的に保持されるので、いつでも使用できるようになっている。
【0052】
図5では、DCS 30全体を、少なくとも1つの遠隔データ処理サーバ1,2上で現在インスタンス化されているエミュレーションバーチャルマシンによって表している。各エミュレーションバーチャルマシンは、DCS 30の要素の1つの仮想複製を表し、そのDCS 30の要素の1つのためにエンジニアリングされた実行可能プログラムコード18を動作させるソフトエミュレータを含む。エミュレーションバーチャルマシンは、オーケストレーションバーチャルマシン6が少なくとも1つの遠隔データストレージユニット14に格納されたエンジニアリングデータ15のコピーを使って作成したものである。基本的な概念を明確に表す目的で、ここではDCS 30の制御デバイス40,42のためのエミュレーションバーチャルマシン9,10だけを示しており、各エミュレーションバーチャルマシン9,10上では、2つの制御デバイス40,42のうちの別の一方が対応するソフトエミュレータによってエミュレートされる。しかしながら、フィールドバス34,35,37,38の各々およびI/Oシステム35についても、図示されていないだけで、同様に少なくとも1つの遠隔データ処理サーバ1,2上に別個のエミュレーションバーチャルマシンが存在している。
【0053】
生産プロセス32は、エンジニアリングデータストレージユニット5に格納されているシミュレーションモデル19によって表されている。少なくとも1つの遠隔データ処理サーバ1,2上でインスタンス化されているシミュレーションバーチャルマシン7上では、シミュレーションモデルのコピーが動作している。エミュレーションバーチャルマシン9,10およびシミュレーションバーチャルマシン7は、DCS 30と生産プロセス32との間の相互作用のためにエンジニアリングされたものと同一の方法でデータを交換するように構成されている。
【0054】
ユーザは、DCS 30の要素の動作と生産プロセス32との相互作用をシミュレートするために、HMI 12を介してコマンドを入力することができる。コマンドは、オーケストレーションバーチャルマシン6が受け取り、次いで、オーケストレーションバーチャルマシン6が、それに応じてエミュレーションバーチャルマシン9,10およびシミュレーションバーチャルマシン7を管理/制御する。シミュレーションの結果は、可視化のために、遠隔データ接続3を介してHMI 12に送られる
【0055】
図6は、DCS 30のエンジニアリングデータ15への変更を取り入れた後の
図5のシステムを示す。ここで、DCS 30のコントローラが2つではなく3つである場合を考察する。オーケストレーションバーチャルマシン6はエンジニアリングデータ15の変更を認識して次のステップを実行する。
・エンジニアリングデータ15の変更が検出されるとすぐに、遠隔データ接続3を介してエンジニアリングデータ15のコピーを検索し、そのコピーを少なくとも1つの遠隔データストレージユニット14に格納する。
・バーチャルマシンテンプレート11のコピーを作成することにより、少なくとも1つの遠隔データ処理サーバ1,2にエミュレーションバーチャルマシン16を追加する。その結果、結果として得られるエミュレーションバーチャルマシン9,10,16の数およびそれらに対応するソフトエミュレータのタイプが、エンジニアリングデータ15のコピーに含まれている数およびタイプに再び合致する。
・エンジニアリングデータ15のコピーに含まれている通信構成情報にしたがって、新たに導入されたエミュレーションバーチャルマシン16にソフトエミュレータを構成する。その他のコントローラのタイプは修正されないままなので、それらに新しいテンプレートを使う必要はまったくなく、また、それらのソフトエミュレータの再構成が生じる必要もまったくない。
・新たに導入されたエミュレーションバーチャルマシン16を始動することによって、確実にすべてのエミュレーションバーチャルマシンが動作するようにする。
・さらに、エンジニアリングデータストレージユニット5から、対応する新たに導入したコントローラのデバイス構成データ(図示せず)および実行可能プログラムコード18を、新たに導入したバーチャルマシン16にダウンロードすることによって、新たに導入したバーチャルマシン16にソフトエミュレータを構成する。あるいは、エンジニアリングデータ15が実際にDCSのどの要素について変更されたのかを特に確かめることなく、個々の実行可能プログラムコードおよび/またはデバイス構成データをすべての対応するエミュレーションバーチャルマシンに同様にダウンロードすることもできる。
【0056】
上記に挙げたステップの結果を
図6に示す。
図6では、更新手順に関わるシステムのすべての部分を点線で強調表示してある。次いで、パブリッククラウド17における更新済みの試験環境は、再びシミュレーションおよび試験を目的とした準備が整う。
【0057】
DCS 30のエンジニアリングが完全に完了した後、オーケストレーションバーチャルマシン6は、最終的な結果として得られたエミュレーションバーチャルマシン9,10,16およびシミュレーションバーチャルマシン7をサスペンドモードにすることができる。このようにして、DCS 30を試験するための特定の試験環境に使用したリソースを、さらなるエンジニアリングプロジェクトなど、その他の用途のために利用可能にすることができる。この試験環境は、依然として利用可能ではあるが、ただしオフラインモードになる。
【0058】
加えて、オーケストレーションバーチャルマシン6は、自動的に試験環境を解体し、結果として得られたエミュレーションバーチャルマシン9,10,16およびシミュレーションバーチャルマシン7を、バックアップ目的で少なくとも1つの遠隔データストレージユニット14に格納することができる。これは、対応するユーザ要求に応じて行うことができる。さらにまた、エミュレーションバーチャルマシンおよびシミュレーションバーチャルマシンを少なくとも1つの遠隔データ処理サーバ1,2から抽出して、クラウドの外、たとえばエンジニアリングデータストレージユニット5に格納することができる。格納されたバーチャルマシンは、将来の試験のために後の時点で復活させることができる。
【0059】
これとは別に、生産プロセス32のモニタリングおよび/または故障診断の間に使用するために、結果として得られたエミュレーションバーチャルマシン9,10,16および/またはシミュレーションバーチャルマシン7をパブリッククラウド17に復元することができ、それによって少なくとも1つの遠隔データ処理サーバ1,2上に復元することができる。このように、DCSの仮想複製および生産プロセスのシミュレーションモデルを、産業プラントの実際の運転の間に再利用して、その生産プロセスおよびDCSの時間依存作動挙動のデジタルオブザーバモデルのベースとして役立てることができる。この場合、デジタルオブザーバモデルは、たとえばセンサによって測定できなかったり現在アクセスが可能でなかったりするために入手ができない産業プラントの作動状態を生成するために使用される。
【符号の説明】
【0060】
1,2 遠隔データ処理サーバ
3 遠隔データ接続
4 エンジニアリングコンピュータデバイス
5 エンジニアリングデータストレージユニット
6 オーケストレーションバーチャルマシン
7 シミュレーションバーチャルマシン
9,10,16 エミュレーションバーチャルマシン
11,21,23,25 バーチャルマシンテンプレート
12 ヒューマンマシンインタフェース(HMI)
14 遠隔データストレージユニット
15 エンジニアリングデータ
17 パブリッククラウド
18 実行可能プログラムコード
20,24 データ通信手段
22 制御デバイス
30 分散制御システム(DCS)
32 生産プロセス
34,35,36,37,38 データ通信手段
40,42 産業用制御デバイス
41,43 通信インタフェース
47 アーク炉
48 アルゴン酸素脱炭ユニット
49 取鍋炉
50 連続鋳造機