(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
前述した目的、特徴及び長所は、添付の図面を参照して詳細に後述され、これによって、本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、本発明の技術的思想を容易に実施することができるだろう。本発明を説明するにあたって、本発明と関連した公知の技術に関する具体的な説明が本発明の要旨を不明確にするおそれがあると判断される場合は、詳細な説明を省略する。以下、添付の図面を参照して、本発明に係る好ましい実施形態を詳細に説明する。図面において同一の参照符号は、同一または類似した構成要素を示すものとして用いられる。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係るトリップの制御方法が適用されたインバータ102のパワー入出力を担当するパワーモジュールの回路図である。
【0015】
図1に示すように、インバータ102には、多数のスイッチング素子11〜17が含まれる。インバータ102において用いられるスイッチング素子11〜17の例示としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar mode Transistor)が挙げられるが、本実施形態において用いられるスイッチング素子11〜17は、これに限定されるものではない。
図1に示すスイッチング素子11〜17は、反復的なスイッチング動作を通して直流電圧をスイッチングさせ、交流電圧を生成する。このとき、定められた時間の間、スイッチング素子11〜17のスイッチング回数が高いほど、言い換えると、スイッチング素子11〜17のスイッチング周波数が高いほど、スイッチング素子11〜17の発熱量が高くなり、これによって、インバータ102の温度も上昇することとなる。
【0016】
図2は、
図1のインバータ102に含まれるスイッチング素子11〜17のスイッチング周波数に対する基準負荷率の変化を示すグラフである。
【0017】
本発明の一実施形態においては、インバータ102の実際負荷率I
o/I
refを基準負荷率と比較し、比較結果に基づいてインバータ102のトリップを制御するか否かを決定する。ここで、実際負荷率は、スイッチング素子11〜17に流れる出力電流I
oとインバータ102の定格電流I
refの比率I
o/I
refで定義される。そして、基準負荷率は、インバータ102のトリップを制御するか否かを決定するために設定される基準値であって、基本設定値は、100%である。
【0018】
前述したように、スイッチング素子のスイッチング周波数が高くなるほど、スイッチング素子の発熱量も増加するようになる。そこで、
図2に示すように、スイッチング周波数が基準周波数(例えば、6kHz)を超える場合、基準負荷率を補正して、基準負荷率を100%以下に低くする。
【0019】
図3は、インバータ102の実際負荷率に対するインバータ102のトリップが発生するまでの時間を示すグラフである。
【0020】
先に
図2を通して説明したように、スイッチング素子11〜17のスイッチング周波数によって基準負荷率が決定される。また、前述したように、インバータ102の実際負荷率I
o/I
refを基準負荷率と比較し、比較結果に基づいてインバータ102のトリップを制御するか否か及びインバータ102のトリップが発生するまでの時間(以下、「トリップ発生時間」とも称する)が変わることとなる。
図3に示すように、実際負荷率I
o/I
refが高くなるほど、トリップ発生時間は短くなる。
【0021】
図4は、従来の技術に係るインバータのトリップの制御方法のフローチャートである。
【0022】
図4を参照すると、先ず、インバータに含まれたスイッチング素子のスイッチング周波数f
sを基準周波数f
cと比較する(402)。ここで、基準周波数f
cは、スイッチング素子のスイッチング周波数f
sによるインバータの過熱有無を判断するための基準値であって、任意に設定され得る。仮に、スイッチング周波数f
sが基準周波数f
cより大きくなければ、基準負荷率は、予め設定された値(例えば、100%)に設定される(404)。しかし、スイッチング周波数f
sが基準周波数f
cより大きければ、基準負荷率は、予め指定された割合で補正される(406)。
【0023】
次に、ステップ404または406を通して定められた基準負荷率を、スイッチング素子に流れる出力電流I
oとインバータの定格電流I
refの比率である実際負荷率I
o/I
refと比較する(408)。仮に、実際負荷率I
o/I
refが基準負荷率より大きくなければ、以後のトリップ制御のステップは行われず、ステップ402が再び行われる。しかし、ステップ408で実際負荷率I
o/I
refが基準負荷率より大きければ、これは、インバータの過熱を意味するので、過負荷電流測定時間tとトリップ発生基準時間t
refとの比較(410)を通してトリップ制御の要否判定が行われる。このとき、過負荷電流測定時間tは、スイッチング素子に出力電流I
oが流れる時間を意味し、トリップ発生基準時間t
refは、下記のように定義される。
【0024】
【数1】
[数1]において、t
refは、トリップ発生基準時間、E
refは、トリップ判断基準エネルギー、Cは、比例定数、I
oは、スイッチング素子に流れる出力電流を意味する。参考までに、[数1]は、E[J]=I
o2×R×t(但し、Eは、電気エネルギー、Rは、インバータの抵抗値)のような数式から誘導された時間推定式である。
【0025】
ステップ410で過負荷電流測定時間tがトリップ発生基準時間t
refより大きくなければ、トリップ制御は行われず、ステップ402が再び行われる。しかし、ステップ410で過負荷電流測定時間tがトリップ発生基準時間t
refより大きければ、インバータのトリップが発生し(412)、これによって、インバータの運転は停止する。
【0026】
図4を通して説明された従来の技術によると、過負荷電流測定時間tをトリップ発生基準時間t
refと比較して、インバータの過熱の有無及びそれによるトリップ発生の要否が決定される。このとき、トリップ発生基準時間t
refは、[数1]のように、出力電流I
oに基づいて定義される。これは、インバータが消費する電気エネルギーが、E[J]=I
o2×R×t(但し、Rは、インバータの抵抗値)のように定義され、このような電気エネルギーEは、1J=0.24calのような関係式により、インバータの発熱量Qに変換され得るという点に着目したものである。参考までに、インバータの発熱量Q[cal]=c×m×Δt(但し、cは、インバータの比熱、mは、インバータの質量、Δtは、インバータの温度変化量)と定義される。結局、インバータが消費する電気エネルギーEを発熱量Qに変換することで、温度変化量Δtの推定が可能となる。
【0027】
即ち、従来の技術においては、過負荷電流測定時間tの間にインバータが消費する電気エネルギーEを通して、過負荷電流測定時間tの間のインバータの温度変化量Δtを推定してトリップ動作を制御する。しかし、このような従来の技術のインバータのトリップの制御方法によると、インバータの温度を直接測定するのではなく、出力電流I
oを通して温度変化量Δtを推定するという点で、正確なインバータのトリップ制御が不可能である。また、従来の技術によると、E[J]=I
o2×R×tのように、負荷によるインバータの電気エネルギーの消費を抵抗の観点のみから考慮している。しかし、実際、インバータに連結される負荷(例えば、電動機)は、等価回路上の抵抗Rだけでなく、インダクタンスLも含まれるので、このような電気エネルギーを用いたインバータ温度の推定は、実際の温度変化を正確に反映していない。
【0028】
これに対し、本発明の一実施形態においては、インバータ102の温度変化を直接測定し、これをインバータ102のトリップ制御に反映するために、温度センシング回路を用いて、過負荷電流測定時間tの間、インバータ102の温度変化量Δtを検出する。
【0029】
図5は、本発明の一実施形態において、インバータ102の温度を測定するために用いられる温度センシング回路の回路図である。
【0030】
図5を参照すると、本発明の一実施形態において、インバータ102の温度を測定するために用いられる温度センシング回路は、互いに直列に連結される第1抵抗502及び第2抵抗504、そして、第2抵抗504と並列に連結される第3抵抗506を含む。ここで、第3抵抗506は、測定対象、例えば、インバータ102の温度と反比例する抵抗値を有するNTC抵抗のような可変抵抗であってもよい。
【0031】
本発明の一実施形態においては、
図5のような温度センシング回路を用いてインバータ102の温度を測定することができる。例えば、第1抵抗502の抵抗値をR1、第2抵抗504の抵抗値をR2、第3抵抗506の抵抗値をR3とするとき、出力電圧V
outは、下記のように計算され得る。
【0033】
本発明の一実施形態においては、このように出力される出力電圧V
outを予め定められたテーブル、例えば、下記[表1]のようなテーブルの出力電圧の範囲と比較して、対応する温度をインバータ102の温度に決定することができる。参考までに、[表1]のようなそれぞれの出力電圧の範囲及びこれに対応する温度の範囲は、実施形態によって異なるように設定され得る。
【0035】
インバータ102の温度測定のために、本実施形態に示す
図5の温度センシング回路ではなく、他の温度センシング装置が用いられてもよい。
【0036】
図6は、本発明の一実施形態に係るインバータ102のトリップの制御方法のフローチャートである。
【0037】
図6を参照すると、先ず、インバータ102に含まれたスイッチング素子11〜17のスイッチング周波数f
sを基準周波数f
cと比較する(602)。仮に、スイッチング周波数f
sが基準周波数f
cより大きくなければ、基準負荷率は、予め設定された値(例えば、100%)に設定される(604)。しかし、スイッチング周波数f
sが基準周波数f
cより大きければ、基準負荷率は、予め指定された割合で補正される(606)。
【0038】
次に、ステップ604または606を通して定められた基準負荷率を、スイッチング素子11〜17に流れる出力電流I
oとインバータ102の定格電流I
refの比率である実際負荷率I
o/I
refと比較する(608)。仮に、実際負荷率I
o/I
refが基準負荷率より大きくなければ、以後のトリップ制御のステップは行われず、ステップ602が再び行われる。しかし、ステップ608で実際負荷率I
o/I
refが基準負荷率より大きければ、これは、インバータ102の過熱を意味するので、過負荷電流測定時間tと補償基準時間t
ref+t
cとの比較(610)を通してトリップ制御の要否判定が行われる。
【0039】
一方、
図6の実施形態においては、先に
図5を通して説明したように、直接測定されたインバータ102の温度を用いて、過負荷電流測定時間tの間のインバータ102の温度変化量Δtを検出し、下記のように過負荷電流測定時間tの間のインバータ102の発熱量Qを計算する。
【0040】
【数3】
ここで、cは、インバータ102の比熱、mは、インバータ102の質量、Δtは、インバータ102の温度変化量を意味する。
【0041】
また、過負荷電流測定時間tの間にインバータ102によって消費された電気エネルギーEは、下記のように計算され得る。
【0042】
【数4】
ここで、Rは、インバータ102の抵抗値を意味する。
【0043】
本発明の実施形態においては、このように計算された過負荷電流測定時間tの間のインバータ102の実際発熱量Q及び計算された電気エネルギーEを用いて、下記のように補償時間t
cを計算する。
【0044】
【数5】
ここで、Cは、比例定数を意味する。また、インバータ102の計算された電気エネルギーE及び実際発熱量Qの間の差、即ち、
E−Qを求める時は、1J=0.24calまたは1cal=4.186Jのような関係式によって、QとEの単位を一致させることができる。
【0045】
このように補償時間t
cが計算されると、本発明の実施形態においては、従来のトリップ発生基準時間t
ref([数1]参照)に補償時間t
cを加算することによって補償基準時間t
ref+t
cを算出し、算出された補償基準時間t
ref+t
cと過負荷電流測定時間tとを比較して、インバータ102のトリップ発生の要否を判断する(610)。即ち、過負荷電流測定時間tが補償基準時間t
ref+t
cより大きい場合は、インバータ102が過熱したとみなし、トリップを発生させてインバータ102を停止させ(612)、そうではない場合は、ステップ602に復帰する。
【0046】
このように、本発明の実施形態においては、過負荷電流測定時間tの間のインバータ102の計算された電気エネルギーE及び実際発熱量Qの間の差
E−Qに基づいて、トリップ発生基準時間t
refに補償時間t
cを加えて補償することで、従来の技術に比べてより正確なインバータ102のトリップ制御が可能である。
【0047】
図7は、本発明の一実施形態において、過負荷電流測定時間の間のインバータ102の実際発熱量が、測定された電流により計算された電気エネルギーより大きい場合における、トリップの動作点の変化を示すグラフである。
【0048】
前述したように、本発明の実施形態においては、インバータ102の計算された電気エネルギーE及び実際発熱量Qの間の差
E−Qに基づいて算出した補償時間t
cによりトリップ発生基準時間t
refを補償し、これは、結果的にインバータ102のトリップの動作点の調節につながることとなる。例えば、インバータ102の実際発熱量Qが、計算された電気エネルギーEより
小さい場合、補償時間t
cは正数になるので、補償基準時間t
ref+t
cは、トリップ発生基準時間t
refより大きくなる。この場合、
図7のように、補償されたトリップ発生時間基準曲線706は、従来のトリップ発生時間基準曲線704に比べて右側に移動することとなる。これによって、従来のトリップ発生時間基準曲線704により過負荷と認知された過負荷信号702は、新たなトリップ発生時間基準曲線706により過負荷と認知されない。結局、本発明の実施形態によると、インバータ102の実際発熱量Qが、計算された電気エネルギーEより
小さい場合は、インバータ102の温度が正常範囲内にあるにもかかわらず、誤った温度情報の反映による不要なトリップ発生の回数が減少する効果を得ることができる。
【0049】
図8は、本発明の一実施形態において、過負荷電流測定時間の間、インバータ102の温度情報による過熱判断基準が、出力電流情報による過熱判断基準より小さい場合における、トリップの動作点の変化を示すグラフである。
【0050】
図7と逆に、インバータの実際発熱量Qが、計算された電気エネルギーEより
大きい場合、補償時間t
cは負数になるので、補償基準時間t
ref+t
cは、トリップ発生基準時間t
refより小さくなる。この場合、
図8のように、補償されたトリップ発生時間基準曲線804は、従来のトリップ発生時間基準曲線806に比べて左側に移動することとなる。これによって、従来のトリップ発生時間基準曲線806により過負荷と認知されなかった過負荷信号802は、新たなトリップ発生時間基準曲線804により過負荷と認知される。結局、本発明の実施形態において、インバータの実際発熱量Qが、計算された電気エネルギーEより
大きい場合は、従来のインバータ制御方法で、インバータが過熱状態であるにもかかわらず、それを正常状態と判断することによって発生していたインバータの焼損及び製品の故障を防止することができる。
【0051】
前述した本発明は、本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、本発明の技術的思想を外れない範囲内で種々の置換、変形及び変更が可能であるので、前述した実施形態及び添付の図面により限定されるものではない。