特許第6247323号(P6247323)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6247323
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】インバータのトリップの制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20171204BHJP
【FI】
   H02M7/48 M
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-33763(P2016-33763)
(22)【出願日】2016年2月25日
(65)【公開番号】特開2016-158489(P2016-158489A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2016年2月25日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0026340
(32)【優先日】2015年2月25日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】593121379
【氏名又は名称】エルエス産電株式会社
【氏名又は名称原語表記】LSIS CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ホン‐ショク,キム
(72)【発明者】
【氏名】チュン‐スック,ヤン
【審査官】 戸次 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−006074(JP,A)
【文献】 特開2004−064977(JP,A)
【文献】 特開2006−025493(JP,A)
【文献】 特開2006−211886(JP,A)
【文献】 特開平07−255166(JP,A)
【文献】 特開平05−292656(JP,A)
【文献】 米国特許第04980624(US,A)
【文献】 特開平09−009684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L1/00−3/12
7/00−13/00
15/00−15/42
H02H3/08−3/253
H02M1/00−1/44
7/42−7/98
H02P21/00−25/03
25/04
25/10−27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子及び温度センシング回路を含むインバータのトリップ制御方法において、
前記温度センシング回路を用いて過負荷電流測定時間の間の前記インバータの温度変化量を直接測定するステップ;
前記温度変化量を用いて前記インバータの発熱量を決定するステップ;
前記過負荷電流測定時間の間に消費される前記インバータの電気エネルギーを決定するステップ;
前記発熱量前記電気エネルギーとの間の差を用いて補償基準時間を決定するステップ;及び
前記補償基準時間と前記過負荷電流測定時間との比較結果に基づいて前記インバータのトリップを発生させるステップ;
を含む、インバータのトリップの制御方法。
【請求項2】
前記補償基準時間は、トリップ発生基準時間に補償時間を加算して決定される、請求項1に記載のインバータのトリップの制御方法。
【請求項3】
前記補償時間は、下記[数1]により決定される、請求項2に記載のインバータのトリップの制御方法。
[数1]
c=(E−Q)/(C×Io2
(但し、tcは、前記補償時間、Qは、前記発熱量、Eは、前記電気エネルギー、Cは、比例定数、Ioは、前記スイッチング素子に流れる出力電流である。)
【請求項4】
前記トリップ発生基準時間は、下記[数2]により決定される、請求項2に記載のインバータのトリップの制御方法。
[数2]
ref=Eref/(C×Io2
(但し、trefは、前記トリップ発生基準時間、Erefは、トリップ判断基準エネルギー、Cは、比例定数、Ioは、前記スイッチング素子に流れる出力電流である。)
【請求項5】
前記温度センシング回路は、
互いに直列に連結される第1抵抗及び第2抵抗;及び
前記第2抵抗と並列に連結される第3抵抗;
を含む、請求項1に記載のインバータのトリップの制御方法。
【請求項6】
前記第3抵抗は、前記インバータの温度と反比例する抵抗値を有する可変抵抗である、請求項5に記載のインバータのトリップの制御方法。
【請求項7】
前記スイッチング素子に流れる出力電流及び前記インバータの定格電流の比率を用いて実際負荷率を計算するステップ;及び
前記実際負荷率と基準負荷率とを比較するステップ;及び
前記比較するステップの結果に基づいて前記インバータのトリップを制御するか否かを決定するステップ;
をさらに含む、請求項1に記載のインバータのトリップの制御方法。
【請求項8】
前記スイッチング素子のスイッチング周波数を基準周波数と比較するステップ;及び
前記スイッチング周波数と前記基準周波数との比較結果に基づいて前記基準負荷率を補正するか否かを決定するステップ;
をさらに含む、請求項7に記載のインバータのトリップの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータのトリップの制御方法に関し、より詳細には、インバータの温度を考慮してインバータのトリップを制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータは、交流電圧を直流電圧に変換し、スイッチング素子がPWM(Pulse Width Modulation)信号によって変換された直流電圧をスイッチングして交流電圧を生成し、生成された交流電圧を負荷に出力する回路で構成され、ユーザの所望の電圧及び周波数の交流電圧を負荷に供給し、負荷の駆動を精密に制御することができる。
【0003】
このようなインバータの運転時、必要以上に高い過電流がインバータ内に流れると、インバータの温度が上昇してインバータが過熱される。このような過熱の発生時、インバータに組み込まれた保護機能によってトリップが発生する。トリップが発生すると、インバータの運転は停止する。インバータのトリップの制御(以下、単に「トリップ制御」とも称する)は、種々のタイプで具現され得るが、代表的な例としては、過熱によるトリップの発生後、リセット(Reset)を通してのみトリップ状態を解除できるラッチ(Latch)タイプと、過熱が解消されると、トリップ状態が自動で解除されるレベル(Level)タイプが挙げられる。
【0004】
特に、ラッチタイプのトリップ制御を用いるインバータの場合、過熱によるトリップが発生すると、ユーザが直接リセット動作を行わなければならないので、不要なトリップの発生を防止する必要がある。しかし、従来の技術に係るインバータのトリップの制御方法によると、実際測定された温度ではなく、間接的に推定されたインバータの温度に基づいてインバータのトリップの発生の要否を判断するので、正確なトリップ制御が難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−123730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、インバータの運転時に測定されるインバータの実際の温度を反映し、より正確にインバータのトリップの発生を制御することのできるインバータのトリップの制御方法を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、インバータの実際の温度の反映を通してインバータの動作点を改善することで、不要なトリップの発生を減らすと同時に、インバータの過熱時に、トリップ発生までの時間を短縮してインバータの焼損を防止することのできるインバータのトリップの制御方法を提供することを他の目的とする。
【0008】
本発明の目的は、以上において言及した目的に制限されず、言及されていない本発明の他の目的及び長所は、下記の説明によって理解でき、本発明の実施形態によってより明らかに理解できるだろう。また、本発明の目的及び長所は、特許請求の範囲に示した手段及びその組み合わせにより実現できることが容易に分かるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するために、本発明は、スイッチング素子及び温度センシング回路を含むインバータのトリップの制御方法において、前記温度センシング回路を用いて過負荷電流測定時間の間の前記インバータの温度変化量を検出するステップ、前記温度変化量を用いて前記インバータの発熱量を決定するステップ、前記過負荷電流測定時間の間に消費される前記インバータの電気エネルギーを決定するステップ、前記発熱量及び前記電気エネルギーを用いて補償基準時間を決定するステップ、及び前記補償基準時間と前記過負荷電流測定時間との比較結果に基づいて前記インバータのトリップを発生させるステップを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
前述したような本発明によると、インバータの運転時に測定されるインバータの実際の温度を反映し、より正確にインバータのトリップの発生を制御することのできる長所がある。
【0011】
また、本発明によると、インバータの実際の温度の反映を通してインバータの動作点を改善することで、不要なトリップの発生を減らすと同時に、インバータの過熱時に、トリップの発生までの時間を短縮してインバータの焼損を防止することのできる長所がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態において、トリップ制御方法が適用されるインバータのパワーモジュールの回路図である。
図2図1のインバータに含まれたスイッチング素子のスイッチング周波数に対する基準負荷率の変化を示すグラフである。
図3】インバータの実際負荷率によるインバータのトリップが発生するまでの時間を示すグラフである。
図4】従来の技術に係るインバータのトリップ制御方法のフローチャートである。
図5】本発明の一実施形態において、インバータの温度を測定するために用いられる温度センシング回路の回路図である。
図6】本発明の一実施形態に係るインバータのトリップ制御方法のフローチャートである。
図7】本発明の一実施形態において、過負荷電流測定時間の間、インバータの実際発熱量が、測定された電流により計算された電気エネルギーより大きい場合における、トリップの動作点の変化を示すグラフである。
図8】本発明の一実施形態において、過負荷電流測定時間の間、インバータの温度情報による過熱判断基準が、出力電流情報による過熱判断基準より小さい場合における、トリップの動作点の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
前述した目的、特徴及び長所は、添付の図面を参照して詳細に後述され、これによって、本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、本発明の技術的思想を容易に実施することができるだろう。本発明を説明するにあたって、本発明と関連した公知の技術に関する具体的な説明が本発明の要旨を不明確にするおそれがあると判断される場合は、詳細な説明を省略する。以下、添付の図面を参照して、本発明に係る好ましい実施形態を詳細に説明する。図面において同一の参照符号は、同一または類似した構成要素を示すものとして用いられる。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係るトリップの制御方法が適用されたインバータ102のパワー入出力を担当するパワーモジュールの回路図である。
【0015】
図1に示すように、インバータ102には、多数のスイッチング素子11〜17が含まれる。インバータ102において用いられるスイッチング素子11〜17の例示としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar mode Transistor)が挙げられるが、本実施形態において用いられるスイッチング素子11〜17は、これに限定されるものではない。図1に示すスイッチング素子11〜17は、反復的なスイッチング動作を通して直流電圧をスイッチングさせ、交流電圧を生成する。このとき、定められた時間の間、スイッチング素子11〜17のスイッチング回数が高いほど、言い換えると、スイッチング素子11〜17のスイッチング周波数が高いほど、スイッチング素子11〜17の発熱量が高くなり、これによって、インバータ102の温度も上昇することとなる。
【0016】
図2は、図1のインバータ102に含まれるスイッチング素子11〜17のスイッチング周波数に対する基準負荷率の変化を示すグラフである。
【0017】
本発明の一実施形態においては、インバータ102の実際負荷率I/Irefを基準負荷率と比較し、比較結果に基づいてインバータ102のトリップを制御するか否かを決定する。ここで、実際負荷率は、スイッチング素子11〜17に流れる出力電流Iとインバータ102の定格電流Irefの比率I/Irefで定義される。そして、基準負荷率は、インバータ102のトリップを制御するか否かを決定するために設定される基準値であって、基本設定値は、100%である。
【0018】
前述したように、スイッチング素子のスイッチング周波数が高くなるほど、スイッチング素子の発熱量も増加するようになる。そこで、図2に示すように、スイッチング周波数が基準周波数(例えば、6kHz)を超える場合、基準負荷率を補正して、基準負荷率を100%以下に低くする。
【0019】
図3は、インバータ102の実際負荷率に対するインバータ102のトリップが発生するまでの時間を示すグラフである。
【0020】
先に図2を通して説明したように、スイッチング素子11〜17のスイッチング周波数によって基準負荷率が決定される。また、前述したように、インバータ102の実際負荷率I/Irefを基準負荷率と比較し、比較結果に基づいてインバータ102のトリップを制御するか否か及びインバータ102のトリップが発生するまでの時間(以下、「トリップ発生時間」とも称する)が変わることとなる。図3に示すように、実際負荷率I/Irefが高くなるほど、トリップ発生時間は短くなる。
【0021】
図4は、従来の技術に係るインバータのトリップの制御方法のフローチャートである。
【0022】
図4を参照すると、先ず、インバータに含まれたスイッチング素子のスイッチング周波数fを基準周波数fと比較する(402)。ここで、基準周波数fは、スイッチング素子のスイッチング周波数fによるインバータの過熱有無を判断するための基準値であって、任意に設定され得る。仮に、スイッチング周波数fが基準周波数fより大きくなければ、基準負荷率は、予め設定された値(例えば、100%)に設定される(404)。しかし、スイッチング周波数fが基準周波数fより大きければ、基準負荷率は、予め指定された割合で補正される(406)。
【0023】
次に、ステップ404または406を通して定められた基準負荷率を、スイッチング素子に流れる出力電流Iとインバータの定格電流Irefの比率である実際負荷率I/Irefと比較する(408)。仮に、実際負荷率I/Irefが基準負荷率より大きくなければ、以後のトリップ制御のステップは行われず、ステップ402が再び行われる。しかし、ステップ408で実際負荷率I/Irefが基準負荷率より大きければ、これは、インバータの過熱を意味するので、過負荷電流測定時間tとトリップ発生基準時間trefとの比較(410)を通してトリップ制御の要否判定が行われる。このとき、過負荷電流測定時間tは、スイッチング素子に出力電流Iが流れる時間を意味し、トリップ発生基準時間trefは、下記のように定義される。
【0024】
【数1】
[数1]において、trefは、トリップ発生基準時間、Erefは、トリップ判断基準エネルギー、Cは、比例定数、Iは、スイッチング素子に流れる出力電流を意味する。参考までに、[数1]は、E[J]=I×R×t(但し、Eは、電気エネルギー、Rは、インバータの抵抗値)のような数式から誘導された時間推定式である。
【0025】
ステップ410で過負荷電流測定時間tがトリップ発生基準時間trefより大きくなければ、トリップ制御は行われず、ステップ402が再び行われる。しかし、ステップ410で過負荷電流測定時間tがトリップ発生基準時間trefより大きければ、インバータのトリップが発生し(412)、これによって、インバータの運転は停止する。
【0026】
図4を通して説明された従来の技術によると、過負荷電流測定時間tをトリップ発生基準時間trefと比較して、インバータの過熱の有無及びそれによるトリップ発生の要否が決定される。このとき、トリップ発生基準時間trefは、[数1]のように、出力電流Iに基づいて定義される。これは、インバータが消費する電気エネルギーが、E[J]=I×R×t(但し、Rは、インバータの抵抗値)のように定義され、このような電気エネルギーEは、1J=0.24calのような関係式により、インバータの発熱量Qに変換され得るという点に着目したものである。参考までに、インバータの発熱量Q[cal]=c×m×Δt(但し、cは、インバータの比熱、mは、インバータの質量、Δtは、インバータの温度変化量)と定義される。結局、インバータが消費する電気エネルギーEを発熱量Qに変換することで、温度変化量Δtの推定が可能となる。
【0027】
即ち、従来の技術においては、過負荷電流測定時間tの間にインバータが消費する電気エネルギーEを通して、過負荷電流測定時間tの間のインバータの温度変化量Δtを推定してトリップ動作を制御する。しかし、このような従来の技術のインバータのトリップの制御方法によると、インバータの温度を直接測定するのではなく、出力電流Iを通して温度変化量Δtを推定するという点で、正確なインバータのトリップ制御が不可能である。また、従来の技術によると、E[J]=I×R×tのように、負荷によるインバータの電気エネルギーの消費を抵抗の観点のみから考慮している。しかし、実際、インバータに連結される負荷(例えば、電動機)は、等価回路上の抵抗Rだけでなく、インダクタンスLも含まれるので、このような電気エネルギーを用いたインバータ温度の推定は、実際の温度変化を正確に反映していない。
【0028】
これに対し、本発明の一実施形態においては、インバータ102の温度変化を直接測定し、これをインバータ102のトリップ制御に反映するために、温度センシング回路を用いて、過負荷電流測定時間tの間、インバータ102の温度変化量Δtを検出する。
【0029】
図5は、本発明の一実施形態において、インバータ102の温度を測定するために用いられる温度センシング回路の回路図である。
【0030】
図5を参照すると、本発明の一実施形態において、インバータ102の温度を測定するために用いられる温度センシング回路は、互いに直列に連結される第1抵抗502及び第2抵抗504、そして、第2抵抗504と並列に連結される第3抵抗506を含む。ここで、第3抵抗506は、測定対象、例えば、インバータ102の温度と反比例する抵抗値を有するNTC抵抗のような可変抵抗であってもよい。
【0031】
本発明の一実施形態においては、図5のような温度センシング回路を用いてインバータ102の温度を測定することができる。例えば、第1抵抗502の抵抗値をR1、第2抵抗504の抵抗値をR2、第3抵抗506の抵抗値をR3とするとき、出力電圧Voutは、下記のように計算され得る。
【0032】
【数2】
【0033】
本発明の一実施形態においては、このように出力される出力電圧Voutを予め定められたテーブル、例えば、下記[表1]のようなテーブルの出力電圧の範囲と比較して、対応する温度をインバータ102の温度に決定することができる。参考までに、[表1]のようなそれぞれの出力電圧の範囲及びこれに対応する温度の範囲は、実施形態によって異なるように設定され得る。
【0034】
【表1】
【0035】
インバータ102の温度測定のために、本実施形態に示す図5の温度センシング回路ではなく、他の温度センシング装置が用いられてもよい。
【0036】
図6は、本発明の一実施形態に係るインバータ102のトリップの制御方法のフローチャートである。
【0037】
図6を参照すると、先ず、インバータ102に含まれたスイッチング素子11〜17のスイッチング周波数fを基準周波数fと比較する(602)。仮に、スイッチング周波数fが基準周波数fより大きくなければ、基準負荷率は、予め設定された値(例えば、100%)に設定される(604)。しかし、スイッチング周波数fが基準周波数fより大きければ、基準負荷率は、予め指定された割合で補正される(606)。
【0038】
次に、ステップ604または606を通して定められた基準負荷率を、スイッチング素子11〜17に流れる出力電流Iとインバータ102の定格電流Irefの比率である実際負荷率I/Irefと比較する(608)。仮に、実際負荷率I/Irefが基準負荷率より大きくなければ、以後のトリップ制御のステップは行われず、ステップ602が再び行われる。しかし、ステップ608で実際負荷率I/Irefが基準負荷率より大きければ、これは、インバータ102の過熱を意味するので、過負荷電流測定時間tと補償基準時間tref+tとの比較(610)を通してトリップ制御の要否判定が行われる。
【0039】
一方、図6の実施形態においては、先に図5を通して説明したように、直接測定されたインバータ102の温度を用いて、過負荷電流測定時間tの間のインバータ102の温度変化量Δtを検出し、下記のように過負荷電流測定時間tの間のインバータ102の発熱量Qを計算する。
【0040】
【数3】
ここで、cは、インバータ102の比熱、mは、インバータ102の質量、Δtは、インバータ102の温度変化量を意味する。
【0041】
また、過負荷電流測定時間tの間にインバータ102によって消費された電気エネルギーEは、下記のように計算され得る。
【0042】
【数4】
ここで、Rは、インバータ102の抵抗値を意味する。
【0043】
本発明の実施形態においては、このように計算された過負荷電流測定時間tの間のインバータ102の実際発熱量Q及び計算された電気エネルギーEを用いて、下記のように補償時間tを計算する。
【0044】
【数5】
ここで、Cは、比例定数を意味する。また、インバータ102の計算された電気エネルギーE及び実際発熱量Qの間の差、即ち、E−Qを求める時は、1J=0.24calまたは1cal=4.186Jのような関係式によって、QとEの単位を一致させることができる。
【0045】
このように補償時間tが計算されると、本発明の実施形態においては、従来のトリップ発生基準時間tref([数1]参照)に補償時間tを加算することによって補償基準時間tref+tを算出し、算出された補償基準時間tref+tと過負荷電流測定時間tとを比較して、インバータ102のトリップ発生の要否を判断する(610)。即ち、過負荷電流測定時間tが補償基準時間tref+tより大きい場合は、インバータ102が過熱したとみなし、トリップを発生させてインバータ102を停止させ(612)、そうではない場合は、ステップ602に復帰する。
【0046】
このように、本発明の実施形態においては、過負荷電流測定時間tの間のインバータ102の計算された電気エネルギーE及び実際発熱量Qの間の差E−Qに基づいて、トリップ発生基準時間trefに補償時間tcを加えて補償することで、従来の技術に比べてより正確なインバータ102のトリップ制御が可能である。
【0047】
図7は、本発明の一実施形態において、過負荷電流測定時間の間のインバータ102の実際発熱量が、測定された電流により計算された電気エネルギーより大きい場合における、トリップの動作点の変化を示すグラフである。
【0048】
前述したように、本発明の実施形態においては、インバータ102の計算された電気エネルギーE及び実際発熱量Qの間の差E−Qに基づいて算出した補償時間tcによりトリップ発生基準時間trefを補償し、これは、結果的にインバータ102のトリップの動作点の調節につながることとなる。例えば、インバータ102の実際発熱量Qが、計算された電気エネルギーEより小さい場合、補償時間tcは正数になるので、補償基準時間tref+tcは、トリップ発生基準時間trefより大きくなる。この場合、図7のように、補償されたトリップ発生時間基準曲線706は、従来のトリップ発生時間基準曲線704に比べて右側に移動することとなる。これによって、従来のトリップ発生時間基準曲線704により過負荷と認知された過負荷信号702は、新たなトリップ発生時間基準曲線706により過負荷と認知されない。結局、本発明の実施形態によると、インバータ102の実際発熱量Qが、計算された電気エネルギーEより小さい場合は、インバータ102の温度が正常範囲内にあるにもかかわらず、誤った温度情報の反映による不要なトリップ発生の回数が減少する効果を得ることができる。
【0049】
図8は、本発明の一実施形態において、過負荷電流測定時間の間、インバータ102の温度情報による過熱判断基準が、出力電流情報による過熱判断基準より小さい場合における、トリップの動作点の変化を示すグラフである。
【0050】
図7と逆に、インバータの実際発熱量Qが、計算された電気エネルギーEより大きい場合、補償時間tcは負数になるので、補償基準時間tref+tcは、トリップ発生基準時間trefより小さくなる。この場合、図8のように、補償されたトリップ発生時間基準曲線804は、従来のトリップ発生時間基準曲線806に比べて左側に移動することとなる。これによって、従来のトリップ発生時間基準曲線806により過負荷と認知されなかった過負荷信号802は、新たなトリップ発生時間基準曲線804により過負荷と認知される。結局、本発明の実施形態において、インバータの実際発熱量Qが、計算された電気エネルギーEより大きい場合は、従来のインバータ制御方法で、インバータが過熱状態であるにもかかわらず、それを正常状態と判断することによって発生していたインバータの焼損及び製品の故障を防止することができる。
【0051】
前述した本発明は、本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、本発明の技術的思想を外れない範囲内で種々の置換、変形及び変更が可能であるので、前述した実施形態及び添付の図面により限定されるものではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8