(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記シフト部における前記反射電極指は、前記励振電極における弾性波の波長をλとすると、前記仮想電極指位置から0.1λ以下の範囲で前記励振電極の側にシフトしている請求項1または2に記載の弾性波素子。
前記シフト部における前記反射電極指は、前記励振電極における弾性波の波長をλとすると、前記仮想電極指位置から0.025λ以上0.075λ以下の範囲で前記励振電極の側にシフトしている、請求項1〜5のいずれかに記載の弾性波素子。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る弾性波素子、フィルタ素子および通信装置について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いる図は模式的なものであり、図面上の寸法および比率等は現実のものとは必ずしも一致していない。
【0012】
弾性波素子は、いずれの方向が上方または下方とされてもよいものであるが、以下では便宜的に、直交座標系xyzを定義するとともに、z方向の正側を上方として上面、下面等の用語を用いるものとする。
【0013】
<弾性波素子の構成の概要>
図1は、本発明の一実施形態に係る弾性波素子の一例として弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)を用いた弾性波素子1の構成を示す平面図である。以下、弾性波素子1をSAW素子1と略して記載する。
図2は
図1のIc−Ic線における断面図である。SAW素子1は、
図1に示すように、圧電基板2、圧電基板2の上面2Aに設けられた励振電極3(以下、IDT(Interdigital Transducer)電極3と記載する)および反射器4を有している。
【0014】
圧電基板2は、ニオブ酸リチウム(LiNbO
3)結晶またはタンタル酸リチウム(LiTaO
3)結晶からなる圧電性を有する単結晶の基板によって構成されている。具体的には、例えば、圧電基板2は、36°〜48°Y−XカットのLiTaO
3基板によって構成されている。圧電基板2の平面形状および各種寸法は適宜に設定されてよい。一例として、圧電基板2の厚み(z方向)は、0.2mm以上0.5mm以下である。
【0015】
IDT電極3は、
図1に示すように、第1櫛歯電極30aおよび第2櫛歯電極30bを有している。なお、以下の説明では、第1櫛歯電極30aおよび第2櫛歯電極30bを単に櫛歯電極30といい、これらを区別しないことがある。
【0016】
櫛歯電極30は、
図1に示すように、互いに対向する2本のバスバー31と、各バスバー31から他のバスバー31側へ延びる複数の電極指32とを有している。そして、1対の櫛歯電極30は、第1電極指32aと第2電極指32bとが、弾性波の伝搬方向に互いに噛み合うように(交差するように)配置されている。
【0017】
また、櫛歯電極30は、それぞれの電極指32に対向するダミー電極指33を有している。第1ダミー電極指33aは、第1バスバー31aから第2電極指32bに向かって延びている。第2ダミー電極指33bは、第2バスバー31bから第1電極指32aに向かって延びている。なお、櫛歯電極30にはダミー電極指33を配置しなくてもよい。
【0018】
バスバー31は、例えば概ね一定の幅で直線状に延びる長尺状に形成されている。従って、バスバー31の互いに対向する側の縁部は直線状である。複数の電極指32は、例えば、概ね一定の幅で直線状に延びる長尺状に形成されており、弾性波の伝搬方向に概ね一定の間隔で配列されている。
【0019】
なお、バスバー31の幅は一定でなくてもよい。バスバー31の互いに対向する側(内側)の縁部が直線状であればよく、例えば内側の縁部を台形の底辺とするような形状であってもよい。
【0020】
これ以降、第1バスバー31aおよび第2バスバー31bを単にバスバー31といい、第1と第2とを区別しないことがある。同様に、第1電極指32aおよび第2電極指32bを単に電極指32といい、第1ダミー電極指33aおよび第2ダミー電極指33bを単にダミー電極指33といい、第1と第2とを区別しないことがある。
【0021】
IDT電極3を構成する一対の櫛歯電極30の複数の電極指32は、図面のx方向に繰り返し配列されるように並んでいる。より詳しくは、
図2に示すように、第1電極指32aおよび第2電極指32bは、圧電基板2の上面2Aに間隔をあけて交互に繰り返し配置されている。
【0022】
このように、IDT電極3を構成する一対の櫛歯電極30の複数の電極指32は、ピッチPt1となるように設定されている。ピッチPt1は、複数の電極指32の中心間の間隔(繰り返し間隔)であり、例えば共振させたい周波数での弾性波の波長λの半波長と同等になるように設けられている。波長λ(2×Pt1)は、例えば1.5μm以上6μm以下である。IDT電極3は、複数の電極指32の殆どをピッチPt1となるように配置することにより、複数の電極指32が一定の繰り返し間隔で配置されるため、弾性波を効率よく発生させることができる。
【0023】
ここでピッチPt1は、
図3に示すように、弾性波の伝搬方向において、第1電極指32aの中心から当該第1電極指32aに隣接する第2電極指32bの中心までの間隔を指すものである。各電極指32は、弾性波の伝搬方向における幅w1が、SAW素子1に要求される電気特性等に応じて適宜に設定される。電極指32の幅w1は、例えばピッチPt1に対して0.3倍以上0.7倍以下である。
【0024】
このようなIDT電極3において、電極指32の中央付近3aにおいて、第1電極指32aの中心から当該第1電極指32aに隣接する第2電極指32bの中心までの間隔(ピッチ)が第1間隔aで一定である主領域を有する。
図1〜
図3に示す例では、複数の電極指32のピッチは全領域において一様な場合を示している。すなわち、IDT電極3の全てが主領域で構成されている場合を示している。
【0025】
なお、IDT電極3において電極指32の並びの両端部付近において、ピッチPt1が第1間隔aと異なるようにしてもよい。その場合であっても、IDT電極3で全体として励振される弾性波は、弾性波の振幅強度が最も高い中心付近3aにおける第1間隔aによって決定される周波数の弾性波が支配的となる。
【0026】
この複数の電極指32に直交する方向に伝搬する弾性波が発生する。従って、圧電基板2の結晶方位を考慮した上で、2本のバスバー31は、弾性波を伝搬させたい方向に交差する方向において互いに対向するように配置される。複数の電極指32は、弾性波を伝搬させたい方向に対して直交する方向に延びるように形成される。なお、弾性波の伝搬方向は複数の電極指32の向き等によって特定されるが、本実施形態では、便宜的に、弾性波の伝搬方向を基準として複数の電極指32の向き等を説明することがある。
【0027】
複数の電極指32の長さ(バスバー31から電極指32の先端までの長さ)は、例えば概ね同じに設定される。なお、各電極指32の長さを変えてもよく、例えば伝搬方向に進むにつれて長くしたり、短くなるようにしたりしてもよい。具体的には、各電極指32の長さを伝搬方向に対して変化させることにより、アポダイズ型のIDT電極3を構成してもよい。この場合には、横モードのスプリアスを低減させたり、耐電力性を向上させたりすることができる。
【0028】
IDT電極3は、
図2に示すように、例えば金属からなる導電層15によって構成されている。この金属としては、例えばAlまたはAlを主成分とする合金(Al合金)が挙げられる。Al合金は、例えばAl−Cu合金である。なお、IDT電極3は、複数の金属層から構成されてもよい。IDT電極3の各種寸法は、SAW素子1に要求される電気特性等に応じて適宜に設定される。IDT電極3の厚みS(z方向)は、例えば、50nm以上600nm以下である。
【0029】
IDT電極3は、圧電基板2の上面2Aに直接配置されていてもよいし、別の部材を介して圧電基板2の上面2Aに配置されていてもよい。別の部材は、例えばTi、Crあるいはこれらの合金等からなる。別の部材を介してIDT電極3を圧電基板2の上面2Aに配置する場合は、別の部材の厚みはIDT電極3の電気特性に殆ど影響を与えない程度の厚み(例えば、Tiの場合はIDT電極3の厚みの5%程度の厚み)に設定される。
【0030】
また、IDT電極3を構成する電極指32上には、SAW素子1の温度特性を向上させるために、質量付加膜を積層してもよい。質量付加膜としては、例えばSiO
2等から成る膜を用いることができる。
【0031】
IDT電極3は、電圧が印加されると、圧電基板2の上面2A付近においてx方向に伝搬する弾性波を励起する。励起された弾性波は、電極指32の非配置領域(隣接する電極指32間の長尺状の領域)との境界において反射する。そして、電極指32のピッチPt1を半波長とする定在波が形成される。定在波は、当該定在波と同一周波数の電気信号に変換され、電極指32によって取り出される。このようにして、SAW素子1は、1ポートの共振子として機能する。
【0032】
反射器4は、弾性波の伝搬方向においてIDT電極3を挟むように配置されている。反射器4は、概ね格子状に形成されている。すなわち、反射器4は、弾性波の伝搬方向に交差する方向において互いに対向する反射器バスバー41と、これらバスバー41間において弾性波の伝搬方向に直交する方向に延びる複数の反射電極指42とを有している。反射器バスバー41は、例えば概ね一定の幅で直線状に延びる長尺状に形成されており、弾性波の伝搬方向に平行に配置されている。
【0033】
複数の反射電極指42は、基本的には、IDT電極3で励起される弾性波を反射させるピッチPt2に配置されている。ピッチPt2は、複数の反射電極指42の中心間の間隔(繰り返し間隔)であり、IDT電極3のピッチPt1を弾性波の波長λの半波長に設定した場合には、ピッチPt1と同じ程度に設定すればよい。波長λ(2×Pt2)は、例えば1.5μm以上6μm以下である。ここでピッチPt2は、
図4に示すように、伝搬方向において、反射電極指42の中心から隣接する反射電極指42の中心までの間隔を指すものである。
【0034】
また、複数の反射電極指42は、概ね一定の幅で直線状に延びる長尺状に形成されている。反射電極指42の幅w2は、例えば電極指32の幅w1と概ね同等に設定することができる。反射器4は、例えば、IDT電極3と同一の材料によって形成されるとともに、IDT電極3と同等の厚みに形成されている。
【0035】
反射器4は、IDT電極3に対して間隔Gを空けて配置されている。ここで間隔Gは、IDT電極3の反射器4側の端部に位置する電極指32の中心から反射器4のIDT電極3側の端部に位置する反射電極指42の中心までの間隔を指すものである。間隔Gは、通常、IDT電極3の中心付近3aに位置する電極指32のピッチPt1(またはピッチPt2)と同じになるように設定されている。
【0036】
保護層5は、
図2に示すように、IDT電極3および反射器4上を覆うように、圧電基板2上に設けられている。具体的には、保護層5は、IDT電極3および反射器4の表面を覆うとともに、圧電基板2の上面2AのうちIDT電極3および反射器4から露出する部分を覆っている。保護層5の厚みは、例えば1nm以上50nm以下である。
【0037】
保護層5は、絶縁性の材料からなり、導電層15を腐食等から保護することに寄与する。好適には、保護層5は、温度が上昇すると弾性波の伝搬速度が速くなるSiO
2などの材料によって形成されており、これによって弾性波素子1の温度の変化による電気特性の変化を小さく抑えることもできる。
【0038】
本実施形態のSAW素子1において、反射器4は、少なくとも1本の反射電極指42が、IDT電極3を構成する複数の電極指32のピッチよりもIDT電極3側に配置されているシフト部を備える。ここで、「IDT電極3を構成する複数の電極指32のピッチ」とは、主領域における電極指32から第1間隔aで繰り返し設定される仮想電極指位置をいうものである。シフト部は、反射器4を構成する複数の反射電極指42の全てで構成してもよいし、一部で構成してもよい。
【0039】
本実施形態では、反射器4をIDT電極に近付けることによって反射電極指42を複数の電極指32のピッチよりもIDT電極3側に配置する場合について、以下説明する。
【0040】
反射器4は、IDT電極3との間隔Gが、IDT電極3の中心付近3aに位置する電極指32のピッチPt1(第1間隔a)よりも狭くなるように設定されている。ここで、IDT電極3の中心付近3aに位置する電極指32のピッチPt1とは、少なくともIDT電極3の中心に位置する電極指32を含む2以上の電極指32のピッチPt1を指すものである。すなわち、第1間隔aを指すものである。
【0041】
本実施形態においては、間隔Gの比較対象として、中心付近3aに位置する電極指32のピッチPt1を用いる場合について説明するが、例えば、IDT電極3の電極指32のピッチPt1の平均値を用いたり、IDT電極3の大部分を占める電極指32のピッチPt1を用いたりしてもよい。
【0042】
間隔Gは、通常の間隔(IDT電極3の中心付近3aのピッチPt1;第1間隔a)に対して、例えば0.8倍以上0.975倍以下の範囲で狭くした位置に反射器4を近付けて配置する。より好ましくは、0.8倍以上0.95倍以下の範囲で狭くした位置に反射器4を近付けて配置する。言い換えると、反射器4は、通常の間隔の0.05倍以上0.2倍以下の距離をIDT電極3側にシフトさせて近付けた位置に配置されている。さらに言い換えると、反射器4は、0.025λ〜0.1λの範囲でIDT電極3側にシフトさせていることとなる。
【0043】
このように反射器4をIDT電極3に近付けて配置することにより、
図5に示すように、反射器4の反射電極指42が通常のピッチよりもIDT電極3側に近付くようになる。すなわち、複数の反射器電極指42は全て、それぞれの仮想電極指位置よりもIDT電極3側にシフトしていることとなり、反射器電極指42の全てでシフト部を構成している。
【0044】
このようにすることにより、反共振点付近における共振子の損失を低減することができる。反射器4をIDT電極3に近付けて配置することにより、IDT電極3で励振された弾性波(SAW)の位相と、反射器4で反射されるSAWの位相とが、反共振点付近でうまくマッチングするようになると推定される。そのため、反共振点付近でSAWが他の種類の弾性波に変換されて共振子から漏洩することを防ぐことができるようになり、共振子の損失が改善されると考えられる。
【0045】
本実施形態のSAW素子1のように反射器4をIDT電極3側に近付けた場合について、実際にSAW素子を作製して評価を行なった。作製したSAW素子の基本構成は以下の通りである。
【0046】
[圧電基板2]
材料:42°YカットX伝搬LiTaO
3基板
[IDT電極3]
材料:Al−Cu合金
(ただし、圧電基板2と導電層15との間には6nmのTiからなる下地層がある。)
厚さ(Al−Cu合金層):154nm
IDT電極3の電極指32:
(本数)200本
(ピッチPt1)1.06μm
(デューティー:w1/Pt1)0.5
(交差幅W)20λ (λ=2×Pt1)
[反射器4]
材料:Al−Cu合金
(ただし、圧電基板2と導電層15との間には6nmのTiからなる下地層がある)
厚さ(Al−Cu合金層):154nm
反射電極指42の本数:30本
反射電極指42の交差幅:20λ (λ=2×Pt1)
反射電極指42のピッチPt2:Pt1
IDT電極3との間隔G:Pt1
[保護層5]
材料:SiO
2
厚さ:15nm
【0047】
本実施形態のSAW素子として、IDT電極3および反射器4の間隔Gを、IDT電極3の中心付近3aのピッチPt1に対して1.0倍および0.90倍にした場合について、サンプルを作製し、評価を行なった。なお、間隔GがピッチPt1に対して1.0倍の場合は、通常の場合である。作製したサンプルの測定結果を、
図6に示す。
図6において、横軸は周波数(MHz)を示し、縦軸は左軸がインピーダンス(ohm)を、右軸が位相(deg)を示す。この結果から、反共振点付近のインピーダンスの位相が、間隔Gを狭くした場合に−90°に近付いていることが分かる。これにより、反共振点よりも高周波数側では、共振子の損失が小さいほどインピーダンスの位相が−90°に近付くため、この結果から間隔Gを狭くした場合には共振子の損失を小さくする効果があるということが分かる。
【0048】
(検証)
上述のようなSAW素子1の特性改善について検証した。上述の通り、反射器4がシフト部を備えることで、IDT電極3の端部と反射器4の端部との間で弾性波の位相がマッチングすることで、反共振点よりも高周波側の損失が小さくなることが考えられる。
【0049】
このメカニズムに加え、弾性波の圧電基板2の厚み方向への漏洩を抑制することができることが考えられる。以下、そのメカニズムについて検討する。
【0050】
IDT電極3として電極指32を80本備えたものと、IDT電極3の両端に配置した反射電極指42を20本備える反射器4とからなるSAW素子の有限要素法におけるモデルを作製した。ここで、SAW素子において、反射器4にシフト部を設けない場合および0.1λだけIDT電極3の側にシフトさせたシフト部を設けた場合について、圧電基板2の厚み方向へのエネルギー漏洩量をシミュレーションによって求めた。
【0051】
その結果を
図7に示す。
図7において、縦軸は圧電基板2の厚み方向へのエネルギー漏洩量であり、横軸は電極指32および反射電極指42の配列方向を示す。縦軸においてマイナスの値が大きくなるほど漏洩量が多くなることを示す。シミュレーションは、反共振周波数よりも1%高い周波数で行なった。また、
図7は圧電基板2の上面2Aから厚み方向に3λの深さの地点における、圧電基板2の厚み方向へのエネルギー漏洩を示している。実線はシフト部を設けないSAW素子における漏洩量を示し、破線はシフト部を設けたSAW素子における漏洩量を示している。なお、シフト部を設けないSAW素子とは、通常のSAW素子である。シフト部を備えるSAW素子とは、本実施形態に係るSAW素子である。
【0052】
図7に示す通り、通常のSAW素子では、IDT電極3と反射器4との境界から電極指32または反射電極指42を20本程度離れた位置で漏洩が最大となっている。これは、IDT電極3と反射器4との境界付近における電極指32と反射電極指42の不連続が原因で放射されるバルク波が圧電基板2を厚み方向に斜めに伝播し、上面2Aから3λの厚み位置では、IDT電極3と反射器4との境界から電極指32が20本分程度離れた位置に到達するからであると考えられる。
【0053】
これに対して、本実施形態に係るSAW素子では、IDT電極3側および反射器4側の双方において、通常のSAW素子に比べて圧電基板2の厚み方向への漏洩エネルギー量が少ないことを確認できる。すなわち、圧電基板2の厚み方向へのエネルギーの漏洩が抑制されていることが分かる。
【0054】
このことから、共振子としてのSAW素子1において、エネルギーの漏洩を抑制することができ、共振子の損失を抑制することができるものと考える。
【0055】
次に、シフト部のIDT電極3の側へのシフト量と共振子特性との関係について検証する。弾性波の波長λを2.0μmとしてモデルを作製し、シフト部のシフト量を−0.15λ〜0.05λとしてシミュレーションを行なった。なお、
図8においては、シフト量が負の場合にはIDT電極3の側に近付けることを示し、正の場合にはIDT電極3から遠ざけることを示す。シフト量が0λのモデルは、通常のSAW素子を示すものである。
【0056】
ここで、シフト量を変化させたときに、共振周波数よりも高周波数側と、反共振周波数よりも高周波数側との2つの周波数領域において、SAW素子の位相特性が変化することが確認された。ここで、「共振周波数よりも高周波数側」とは、共振周波数と反共振周波数との間の中心の周波数帯を指し、「反共振周波数よりも高周波数側」とは、反共振周波数よりも1%高周波数側の周波数帯を指すものとする。
【0057】
図8はシフト量に対する位相特性の変化を示すものであり、共振周波数よりも高周波側における位相特性を
図8(a)に、反共振周波数よりも高周波側における位相特性を
図8(b)に示す。これらの図で、横軸は反射器シフト量(×λ)を、縦軸はインピーダンス位相(deg)を示している。
【0058】
共振周波数と反共振周波数との間の周波数帯では、共振子の損失が小さいほどインピーダンスの位相が90°に近付く。ここで、
図8(a)に示すように、共振周波数よりも高周波側においては、IDT電極3の側へのシフト量を0.1λよりも大きくすると、位相が90°から離れる方向に急激に悪化し、損失が大きくなることが確認できた。この周波数帯は、SAW素子をフィルタを形成する並列腕共振子として用いた場合には、フィルタの通過帯域の左肩(低周波数側の端部)に相当する。このため、通過帯域の低周波数側の端部における損失を抑制して肩特性を良好にするためにシフト量を0.1λ以下に抑える必要がある。
【0059】
次に、反共振周波数よりも高周波数側では、共振子の損失が小さいほどインピーダンスの位相が−90°に近付く。ここで
図8(b)に示すように、反共振周波数よりも高周波側においては、反射器4をIDT電極3の側にシフトさせていくことで、位相が−90°に近付いていくことが確認できた。なお、この改善傾向は、シフト量が大きくなり0.1λを超えると飽和し、更なる改善は見込めない様子が確認された。反共振周波数よりも高周波数側であるこの周波数帯は、SAW素子をフィルタを形成する並列腕共振子として用いた場合には、フィルタの通過帯域の右肩(高周波数側の端部)に相当する。このため、通過帯域の高周波数側の端部における損失を抑制して肩特性を良好にするために0λよりもIDT電極3の側に近付ける必要がある。なお、通過帯域の左肩特性の劣化を考慮に入れると、シフト量を0λよりも大きく、かつ0.1λ以下に抑えるとよい。特に、0.025λ以上0.075λ以下とする場合にはフィルタの肩特性が良好となる。
【0060】
(SAW素子の変形例1)
上述では、SAW素子1において、IDT電極3および反射器4の間隔Gを狭くする場合について説明したが、
図9に示す通り、反射電極指42を仮想電極指位置よりもIDT電極3側に配置する方法として、一部の反射電極指42のピッチPt2を狭くしてもよい。
【0061】
具体的には、反射器4は、IDT電極3の側に位置する少なくとも隣接する2本の反射電極指42(第1反射電極指42a,第2反射電極指42b)の中心間の間隔である第2間隔bが、IDT電極3の中心付近3aに位置する電極指32のピッチPt1(第1間隔a)よりも狭くなっていてもよい。ピッチPt2をピッチPt1よりも狭くする反射電極指42は、少なくとも2本あればよいが、反射電極指42のピッチPt2全てを狭くしてもよい。
【0062】
図9に示す例では、IDT電極3の側に位置する第1反射電極指42aと、これに隣接して第1反射電極指42aに対してIDT電極3の反対側に配置された第2反射電極指42bとのピッチを第2間隔bとしている。なお、第1反射電極指42aは、仮想電極指位置に配置されている。また、第2反射電極指42bよりもIDT電極3の反対側に位置する反射電極指42のピッチは、第1間隔aと同等にしている。これにより、第2反射電極指42bと、第2反射電極指42bよりもIDT電極3の反対側に位置する反射電極指42とでシフト部を形成することとなる。言い換えると、第1反射電極指42aよりもIDT電極3の反対側に位置する反射電極指42群でシフト部を構成することとなる。
【0063】
ピッチPt2を狭くする反射電極指42は、第1間隔aに対して、例えば0.8倍以上0.975倍以下の範囲にピッチPt2を設定することができる。言い換えると、励振電極3側に近付ける距離は、第1間隔aに対して、例えば0.025倍以上0.2倍以下の距離に設定すればよい。さらに言い換えると、仮想電極指位置に対して、0.0125λ以上0.1λ以下の距離でIDT電極3側にシフトさせる。
【0064】
また、本変形例は、IDT電極3側の端部に位置する反射電極指42を含む2本の反射電極指42のピッチPt2を狭くする場合であるが、これに限らず、IDT電極3側の端部にない(IDT電極3から離れた位置に存在する)反射電極指42のピッチPt2を狭くしてもよい。また、反射電極指42の全部についてピッチPt2を狭くしてもよい。ただし、複数の反射電極指42の中で、ピッチPt2が第1間隔aよりも大きくなることがないようにする。
【0065】
本変形例のように、一部の反射電極指42のピッチPt2のみを狭くすることで、弾性波の反射を好適に行なうことができるとともに、反共振点付近の損失改善効果を維持しつつ、共振点付近の特性悪化を低減することができる。
【0066】
反射電極指42のピッチPt2を少なくとも一部で狭くすることにより、
図9に示すように、反射器4の反射電極指42の少なくとも一部を通常のピッチ(仮想電極指位置)よりもIDT電極3側に近付けるようにすることができる。その結果、上述したIDT電極3および反射器4の間隔Gを狭くする場合と同様の効果を得ることができる。加えて、反射電極指42のピッチPt2を狭くすることから、IDT電極3と反射器4との間の間隔Gが小さくならないため、耐ESD(Electrostatic Discharge)性、耐電力性の劣化が起こりにくいものとすることができる。
【0067】
次に、本変形例のSAW素子1のように、反射電極指42の一部のピッチPt2を狭くした場合についてSAW素子のサンプルを作製してインピーダンス特性の評価を行なった。サンプルの基本構成については、上述の実施形態と同様である。本変形例のSAW素子1では、IDT電極3側の2本の反射電極指42のピッチPt2を、第1間隔aに対して1.0倍および0.9倍に設定した場合である。なお、ピッチPt2がピッチ第1間隔aの1.0倍の場合は、通常のSAW素子の場合である。
【0068】
作製したサンプルの測定結果を
図10に示す。
図10において、横軸は周波数(MHz)を、縦軸は左軸がインピーダンス絶対値(ohm)を、右軸が位相(deg)をそれぞれ示す。図中の実線は通常のSAW素子の特性を示し、破線は本変形例のSAW素子1の特性を示している。この図に示す結果からも明らかなように、変形例のSAW素子1は通常のSAW素子に比べて、反共振周波数の高周波数側の領域において位相が−90°に近付いていることが確認できた。この結果から、上述の実施形態のように間隔Gを狭くした場合と同様に、共振子の損失を抑制する効果を得ることができたことが分かる。
【0069】
また、反射器4において反射電極指42の一部のピッチPt2を狭くする場所を異ならせたときの損失抑制効果を検証するためにSAW素子のサンプルを作製した。具体的には、モデル1〜9のSAW素子のサンプルを作製してインピーダンスの位相特性の評価を行なった。モデル1は通常のSAW素子であり、モデル2はIDT電極3と反射器4と間隔Gを0.9λとしたSAW素子であり、モデル3〜9は反射電極指42の間隔を第2間隔bとしたSAW素子である。モデル3〜9は2本の反射電極指42の間隔を第2間隔bとした部分(狭ピッチ部)の位置を異ならせたものであり、モデル3は励振電極3の側の端部に位置する反射電極指42と端部から1本目との間としたもの、モデル4は端部から1本目と2本目との間としたもの、と順次ずらして、モデル9は端部から6本目と7本目との間としたものである。これらの例では、IDT電極3の側の端部に位置する反射電極指42は0本目となる。なお、反射電極指42間の間隔は、第2間隔bとした場所以外は第1間隔aとした。第2間隔bは0.9λとした。
【0070】
このようなモデル1〜9に対して、反共振周波数よりも1%高周波数側の周波数帯における位相を測定した。その結果を
図11に示す。
【0071】
図11は、モデル1〜9の反共振周波数の高周波数側における位相特性値をプロットしたものである。図中で横軸は各モデルの別(No.)を、縦軸は2070MHzのインピーダンス位相(deg)を示す。反共振周波数の高周波数側のため、位相は−90°に近付くほど共振子としての損失が少ないこととなる。
【0072】
図11に示す結果からも明らかなように、狭ピッチ部を設けることで反共振周波数よりも高周波数側の位相特性は向上し、特に、モデル3(
図7に示す構成)ではIDT電極3と反射器4との間隔Gを調整した場合(モデル2)よりも位相特性が優れていることが確認できた。また、狭ピッチ部がIDT電極3から遠ざかるにつれて位相特性向上の効果が少なくなるが、IDT電極3の側の端部に位置する反射電極指42から6本目と7本目との間までは充分に位相特性が向上しており、共振子として損失改善特性を備えることを確認できた。
【0073】
(SAW素子の変形例2)
また、SAW素子1において、反射電極指42を、IDT電極3を構成する複数の電極指32のピッチよりもIDT電極3側に配置する方法として、
図12に示すように、IDT電極3の電極指32のピッチPt1を狭くしてもよい。
【0074】
具体的には、IDT電極3は、反射器4側に位置する少なくとも隣接する2本の電極指32のピッチPt1が、IDT電極3の中心付近3aに位置する電極指32の第1間隔aよりも狭くなっていてもよい。ピッチPt1を狭くするIDT電極3は、少なくとも2本あればよい。本変形例では、IDT電極3において反射器4側の端部に位置する電極指32を含む2本の電極指32のピッチPt1を狭くする場合であるが、これに限らず、端部から離れた電極指32のピッチPt1を狭くしてもよい。
【0075】
このように電極指32のピッチPt1を狭くすることにより、
図12に示すように、反射器4の反射電極指42が通常のピッチよりもIDT電極3側に近付くようにすることができる。その結果、上述したIDT電極3および反射器4の間隔Gを狭くする場合と同様の効果を得ることができる。
【0076】
本変形例のSAW素子1のように、IDT電極3のピッチPt1を狭くした場合についてサンプルを作製し、インピーダンス特性の評価を行なった。サンプルの基本構成については、上述の実施形態と同様である。本変形例のSAW素子1は、IDT電極3における反射器4側の2本の電極指32のピッチPt1を、IDT電極3の中心付近3aのピッチPt1に対して0.9倍に設定した場合である。すなわち、IDT電極3における反射器4側の2本の電極指32の間隔を0.9aとしている。作製したサンプルの測定結果を
図13に示す。
図13において、横軸は周波数(MHz)を、縦軸は左軸がインピーダンス絶対値(ohm)を、右軸が位相(deg)をそれぞれ示している。実線で通常のSAW素子の特性を、破線で本変形例のSAW素子1の特性を示している。
図13(b)に示すように、反共振周波数よりも高周波数側において、変形例のSAW素子1は通常のSAW素子よりも位相が−90°に近付いており、共振子としての損失を抑制できていることが確認できる。この結果から、本変形例のSAW素子1は、上述の実施形態のように間隔Gを狭くした場合と同様の効果を得ることができたことが分かる。
【0077】
<フィルタ素子および通信装置>
図14は、本発明の実施形態に係る通信装置101の要部を示すブロック図である。通信装置101は、電波を利用した無線通信を行なうものである。分波器7は、通信装置101において送信周波数の信号と受信周波数の信号とを分波する機能を有している。
【0078】
通信装置101において、送信すべき情報を含む送信情報信号TISは、RF−IC103によって変調および周波数の引き上げ(搬送波周波数の高周波信号への変換)がなされて送信信号TSとされる。送信信号TSは、バンドパスフィルタ105によって送信用の通過帯域以外の不要成分が除去され、増幅器107によって増幅されて分波器7に入力される。増幅された送信信号TSには、増幅器107を通ることでノイズが混入することがある。分波器7は、このような入力された送信信号TSから送信用の通過帯域以外の不要成分(ノイズ等)を除去してアンテナ109に出力する。アンテナ109は、入力された電気信号(送信信号TS)を無線信号に変換して送信する。
【0079】
通信装置101において、アンテナ109によって受信された無線信号は、アンテナ109によって電気信号(受信信号RS)に変換されて分波器7に入力される。分波器7は、入力された受信信号RSから受信用の通過帯域以外の不要成分を除去して増幅器111に出力する。出力された受信信号RSは、増幅器111によって増幅され、バンドパスフィルタ113によって受信用の通過帯域以外の不要成分が除去される。バンドパスフィルタ113により取り除かれる不要成分としては、例えば増幅器111によって混入するノイズ等が挙げられる。そして、受信信号RSは、RF−IC103によって周波数の引き下げおよび復調がなされて受信情報信号RISとされる。
【0080】
送信情報信号TISおよび受信情報信号RISは、適宜な情報を含む低周波信号(ベースバンド信号)でよく、例えば、アナログの音声信号もしくはデジタル化された音声信号である。無線信号の通過帯域は、UMTS(Universal Mobile Telecommunications System)等の各種の規格に従ったものでよい。変調方式は、位相変調、振幅変調、周波数変調もしくはこれらのいずれか2つ以上の組合せのいずれであってもよい。また、RF−IC103にバンドパスフィルタ105およびバンドパスフィルタ113の機能を持たせ、これらのフィルタを省略してもよい。
【0081】
図15は、本発明の一実施形態に係る分波器7の構成を示す回路図である。分波器7は、
図14において通信装置101に使用されている分波器である。分波器7は、送信フィルタ11および受信フィルタ12の少なくとも一方を構成するフィルタ素子を有している。送信フィルタ11および受信フィルタ12の少なくとも一方を構成するフィルタ素子は、直列腕共振子と並列腕共振子とを含み、並列腕共振子としてSAW素子1が用いられているものである。直列腕共振子および並列腕共振子は、圧電基板2をSAW素子1と共有している。
【0082】
SAW素子1は、例えば、
図14に示した分波器7における送信フィルタ11のラダー型フィルタ回路の一部を構成するSAW素子である。送信フィルタ11は、
図15に示すように、圧電基板2と、圧電基板2上に形成された直列腕共振子S1〜S3および並列腕共振子P1〜P3とを有する。
【0083】
分波器7は、アンテナ端子8と、送信端子9と、受信端子10と、アンテナ端子8と送信端子9との間に配置された送信フィルタ11と、アンテナ端子8と受信端子10との間に配置された受信フィルタ12とから主に構成されている。
【0084】
送信端子9には増幅器107からの送信信号TSが入力され、送信端子9に入力された送信信号TSは、送信フィルタ11において送信用の通過帯域以外の不要成分が除去されてアンテナ端子8に出力される。また、アンテナ端子8にはアンテナ109から受信信号RSが入力され、受信フィルタ12において受信用の通過帯域以外の不要成分が除去されて受信端子10に出力される。
【0085】
送信フィルタ11は、例えばラダー型SAWフィルタによって構成されている。具体的に送信フィルタ11は、その入力側と出力側との間において直列に接続された3個の直列腕共振子S1、S2、S3と、直列腕共振子S1、S2、S3同士を接続するための配線である直列腕と基準電位部Gndとの間に設けられた3個の並列腕共振子P1、P2、P3とを有する。すなわち、送信フィルタ11は3段構成のラダー型フィルタである。ただし、送信フィルタ11においてラダー型フィルタの段数は任意である。そして、送信フィルタ11では、送信端子9が入力端子として機能し、アンテナ端子8が出力端子として機能する。なお、受信フィルタ12をラダー型フィルタで構成した場合には、アンテナ端子8が入力端子として機能し、受信端子10が出力端子として機能する。
【0086】
並列腕共振子P1、P2、P3と基準電位部Gndとの間には、インダクタLが設けられていることがある。このインダクタLのインダクタンスを所定の大きさに設定することによって、送信信号の通過周波数の帯域外に減衰極を形成して帯域外減衰を大きくしている。複数の直列腕共振子S1、S2、S3および複数の並列腕共振子P1、P2、P3は、それぞれSAW素子1のようなSAW共振子からなる。
【0087】
受信フィルタ12は、例えば、多重モード型SAWフィルタ17と、その入力側に直列に接続された補助共振子18とを有している。なお、本実施形態において、多重モードは2重モードを含むものである。多重モード型SAWフィルタ17は、平衡−不平衡変換機能を有しており、受信フィルタ12は平衡信号が出力される2つの受信端子10に接続されている。受信フィルタ12は多重モード型SAWフィルタ17によって構成されるものに限られず、ラダー型フィルタによって構成してもよいし、平衡−不平衡変換機能を有していないフィルタであってもよい。
【0088】
送信フィルタ11、受信フィルタ12およびアンテナ端子8の接続点とグランド電位部Gndとの間には、インダクタなどからなるインピーダンスマッチング用の回路を挿入してもよい。
【0089】
本実施形態のSAW素子1を、並列腕共振子P1〜P3のいずれかに使用してもよい。SAW素子1を並列腕共振子P1〜P3の少なくとも1つに用いることにより、フィルタの通過帯域の高周波数側端部付近の損失を低減することができる。分波器7では送信帯域は受信帯域よりも低周波数側に位置していることが多いため、特に送信フィルタ11では、通過帯域の高周波数側で急峻な減衰特性が必要となる。このため、SAW素子1を並列腕共振子P1〜P3に用いることにより、通過帯域の高周波数側付近の損失を低減すると同時に急峻度を向上させることができ、分波器7において、損失を小さくしつつ、送信信号と受信信号との分離度を向上させることができる。
【0090】
図16は、ラダー型フィルタの通過特性と、直列腕共振子S1、S2、S3および並列腕共振子P1、P2、P3のインピーダンス特性の周波数位置とを示す概念図である。下方に位置するのは直列腕共振子および並列腕共振子のインピーダンス特性である。実線で直列腕共振子の特性を示し、破線で並列腕共振子の特性を示している。なお、横軸は周波数を、縦軸はインピーダンスを示している。このような直列腕共振子および並列腕共振子をラダー型に接続することで、フィルタとして機能する。このフィルタのフィルタ通過特性について、
図16の上方に示している。ここで縦軸はインピーダンスを、横軸は周波数を示している。
【0091】
図16に示すインピーダンス特性から分かるように、直列腕共振子の共振点と並列腕共振子の反共振点とが、フィルタ通過帯域のほぼ中央に位置している。フィルタ通過帯域の高周波数側の端部にあたる周波数は、
図16中にAで表記したように、並列腕共振子の反共振点よりも少し高周波数側に位置している。
【0092】
本実施形態のSAW素子1を並列腕共振子P1〜P3に用いた場合は、この周波数領域での損失を低減することができるため、結果としてフィルタの通過帯域の高周波数側端部付近の損失を低減することができる。また、本実施形態のSAW素子1は共振周波数近傍における特性が劣化する。しかしながら、並列腕共振子P1〜P3の共振周波数近傍はフィルタの通過帯域よりも低周波数側であって、フィルタ全体の特性としては大きなデメリットとなりにくくすることができる。
【0093】
また、特に並列腕共振子P1〜P3の中でも共振周波数の最も低い並列腕共振子に少なくともSAW素子1を用いることにより、フィルタ通過帯域において、高周波数側端部の損失を抑制し、その結果の肩特性を向上させることができ、フィルタの通過帯域における急峻性を向上させることができる。すなわち、並列腕共振子P1〜P3のうち、第1並列腕共振子とこれよりも共振周波数が高い第2並列腕共振子とを含む場合に、第1並列腕共振子にSAW素子1を適用することが好ましい。さらに好ましくは、第1並列腕共振子の共振周波数が、並列腕共振子の中で最も低いとよい。
【0094】
本発明のSAW素子は、上述の実施形態に限られるものではなく、種々の変更を加えてもよい。例えば、上述の実施形態では、反射電極指42を、IDT電極3を構成する複数の電極指32のピッチよりもIDT電極3側に配置する方法として、間隔Gを狭くする場合、反射電極指42のピッチPt2を狭くする場合、および電極指32のピッチPt1を狭くする場合のそれぞれについて説明したが、これらを組み合わせてもよい。
【0095】
すなわち、反射電極指42を、IDT電極3を構成する複数の電極指32のピッチよりもIDT電極3側に配置する方法として、間隔Gを狭くしつつ、反射電極指42のピッチPt2を狭くしてもよい。この場合、間隔Gを狭くする幅と、ピッチPt2を狭くする幅を小さくできるので、それぞれの構成における特性の劣化を低減することができる。なお、間隔Gを狭くしつつ、IDT電極3の電極指32のピッチPt1を狭くしてもよいし、間隔G、ピッチPt1およびピッチPt2すべてを狭くしてもよい。
【0096】
また、上述の実施形態のSAW素子は、通過帯域の周波数に関係なく効果を奏するものである。
図17〜22は、通過帯域の周波数を800MHz帯に設定したものであるが、上述の実施形態と同様の効果を奏していることが分かる。具体的には、
図17〜
図22において、横軸は周波数(MHz)を、縦軸は位相(deg)を示している。これらの図では、実線で間隔GをピッチPt1に対して1.0倍としたSAW素子の特性を示し、破線で間隔GをピッチPt1に対して0.9倍としたSAW素子の特性を示している。なお、ピッチPt1の1.0倍のものは通常のSAW素子である。これらの全ての図において、破線で示す間隔GをピッチPt1に対して0.9倍としたSAW素子が、1.0倍としたSAW素子よりも、反共振周波数よりも高周波数側における位相が−90°に近付いており、損失の発生を抑制していることが確認された。
【0097】
また、上述の実施形態では、IDT電極3の電極指32の本数を200本とした場合であった。これに対して、上述の実施形態のSAW素子の基本構成からIDT電極3の電極指32の本数を変更したSAW素子を作製し、測定した結果を
図17〜19に示している。具体的には、
図17、18、19はそれぞれIDT電極3の本数を100本、200本および300本に設定したSAW素子を作製し、位相特性を測定した結果である。電極指32の膜厚は、規格化膜厚が7.7%となるように、378μm(下地層の6nmを含む)に設定した場合である。規格化膜厚は、弾性波の波長に対する電極指32の膜厚の割合であり、電極指32の膜厚を波長で割ったものである。
【0098】
図17〜19に結果を示す通り、電極指32の本数に関係なく本発明の効果を奏することが分かる。
【0099】
一方、
図20〜22に示すように、電極指32の膜厚を変えた場合でも本実施形態のSAW素子と同様の効果を得ることができることが分かる。
図20〜22は、上述の実施形態のSAW素子において、規格化膜厚が変化するように電極膜厚を変化させたSAW素子を作製し、測定した結果である。具体的に、
図20〜22は、それぞれ規格化膜厚6.5%(電極膜厚320nm(下地層6nmを含む))、7.7%(電極膜厚378nm(下地層6nmを含む))、8.2%(電極膜厚400nm(下地層6nmを含む))となるように設定したものである。この結果から、電極指32の膜厚に拘わらず、高周波数側のロスを改善することができることが明らかである。特に膜厚が薄い場合は、ロスの改善効果が大きく、リップルも小さくすることができることが分かった。