(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本発明の部材の変形量の測定方法(以下、単に「測定方法」ということがある)は、経時変形特性を具えた部材の変形量を測定するための方法である。経時変形特性とは、時間の経過とともに形状が少しずつ変形する性質をいう。本実施形態では、経時変形特性を有する部材として、ゴム製品を作る際に準備される未加硫のゴム部材が例示される。この未加硫のゴム部材は、粘着性を有している。
【0021】
図1には、未加硫のゴム部材1Gを製造する装置(圧延装置)2が示される。本実施形態の圧延装置2は、カレンダー部3、クーリング部4及びワインダ部5を含んで構成されている。
【0022】
カレンダー部3は、例えば、上下方向で向き合って配置された一対のカレンダーロール3r、3rを含んで構成されている。一対のカレンダーロール3r、3rの隙間には、ゴム部材1Gが通過されることにより、該ゴム部材1Gをシート状に圧延することができる。
【0023】
クーリング部4は、上下に配列された複数のドラム4a、4bから構成されている。このようなクーリング部4は、シート状のゴム部材1Gを、上下のドラム4a、4b間をジグザグに移動させることにより、該ゴム部材1Gを効果的に冷却することができる。
【0024】
ワインダ部5は、冷却されたシート状のゴム部材1Gを搬送するコンベア5aと、予め定められた寸法に切断されたゴム部材1Gをロール状に巻き取る巻取手段5bとが設けられている。
【0025】
このような圧延装置2により、シート状のゴム部材1Gを形成することができる。また、ゴム部材1Gは、巻取手段5bから再び引き出されて、そのまま又は目的とする形状等に二次加工された後に加硫される。これにより、目的とするゴム製品が製造される。
【0026】
ところで、未加硫のゴム部材1Gは、時間の経過ととともに縮む傾向がある。このため、ゴム部材1Gは、巻取手段5bによってロール状に巻き取られた後も、時間の経過ととともに縮みやすい。このような収縮は、ゴム部材1Gの寸法を不安定にし、ゴム製品の仕上がり寸法や性能等にばらつきを生じさせやすい。このような問題を解決するために、ゴム部材1Gの製造においては、ゴム部材1Gの経時変形量を測定し、その変形量が小さくなるように、圧延装置2を予め調整乃至改善することが重要である。
【0027】
図2には、ゴム部材1Gの経時変形量の測定に用いられる支持台7が示されている。支持台7は、平面視略矩形に形成された板状体7Aを含んで構成されている。この板状体7Aは、例えば、金属や木材等から形成される。また、板状体7Aには、ゴム部材1Gが置かれる平滑な面7sが形成されている。
【0028】
図3には、本実施形態の測定方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の測定方法では、先ず、
図1に示した圧延装置2を用いて、シート状のゴム部材1Gが製造される(工程S1)。
【0029】
次に、
図2に示されるように、ゴム部材1Gが抽出される(工程S2)。本実施形態の工程S2では、巻取手段5b(
図1に示す)で巻き取られる直前のゴム部材1Gの少なくとも一部が抽出される。ゴム部材1Gは、例えば、平面視略矩形のシート状に形成される。ゴム部材1Gは、例えば、長手方向の長さL1が100〜1500mm程度、短手方向の長さL2が100〜500mm程度、厚さW1が0.1〜10mm程度に設定されている。
【0030】
次に、ゴム部材1Gと、支持台7との間に、ゴム部材1Gと支持台7との間の摩擦係数を低下させる摩擦低下手段8を配置して、ゴム部材1Gを経時変形させる(工程S3)。工程S3では、先ず、支持台7の面7sに、摩擦低下手段8が配置される。次に、ゴム部材1Gが、摩擦低下手段8を介して、支持台7の上に置かれる。そして、ゴム部材1Gが変形しなくなるまで放置される。ゴム部材1Gが変形しなくなったか否かの判断は、例えば、ゴム部材1Gの長手方向の長さL1、又は短手方向の長さL2を一定時間(例えば、5〜20分)毎に測定して判断される。
【0031】
図4には、
図3に示したゴム部材1Gと支持台7との部分断面図が示される。本実施形態の摩擦低下手段8は、粉体11である。粉体11は、ゴム部材1Gと支持台7との接触を抑制する。このため、粉体11は、ゴム部材1Gと支持台7との摩擦(ゴム部材1Gの粘着)により、ゴム部材1Gの変形が妨げられるのを防ぐことができる。従って、工程S3では、摩擦低下手段8(粉体11)が配置されなかった従来に比べて、ゴム部材1Gを早期に変形させることができる。
【0032】
粉体11としては、適宜選択することができるが、例えば、化学的に安定し、かつ高い潤滑性を有するタルク、シリカ、炭酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、又は、ポリテトラフルオロエチレン等が望ましい。
【0033】
また、散布される粉体11の質量Ms(g)は、下記式(1)で定義されるのが望ましい。
Ms≧m×S/(πr
2)…(1)
ここで、
m:粉体の一粒子の質量(g)
S:部材と支持台との接触面積(mm
2)
r:粉体の平均粒子半径(mm)
【0034】
上記式(1)において、πr
2は、平面視において、粉体11の一粒子がゴム部材1Gの接触面12を専有する面積である。このため、ゴム部材1Gと支持台7との接触面積Sが、粉体11の一粒子が専有する面積πr
2で除されることにより、ゴム部材1Gの接触面12に、粉体11を隙間なく配置させるのに必要な粒子数を求めることができる。
【0035】
そして、粉体11の粒子数S/πr
2に、粉体11の一粒子の質量mが乗じられることにより、粉体11の質量Msを求めることができる。従って、工程S3では、質量Ms(g)以上の粉体11が用いられることにより、粉体11を接触面12に隙間なく配置することができ、ゴム部材1Gと支持台7との間の摩擦係数を確実に低下させることができる。
【0036】
本実施形態では、摩擦低下手段8として、粉体11であるものが例示されたが、これに限定されるわけではない。例えば、摩擦低下手段8としては、流体であってもよい。
図5には、ゴム部材1G、支持台7及び流体13の部分断面図が示される。このような流体13も、ゴム部材1Gと支持台7との接触を抑制して、摩擦係数を低下させることができる。
【0037】
流体13としては、適宜選択できるが、ゴム部材1G及び支持台7に対する接触角が90度以下の液体13rが望ましい。このような液体13rは、ゴム部材1Gと支持台7との間で親水性を発揮でき、ゴム部材1Gと支持台7との接触を効果的に防ぐことができる。
【0038】
なお、液体13rの接触角が90度を超えると、ゴム部材1Gと支持台7との間で親水性を十分に発揮できないおそれがある。このため、接触角は、より好ましくは60度以下が望ましく、さらに好ましくは、30度以下が望ましい。
【0039】
液体13rとしては、上記接触角を発揮しうるものであれば、適宜選択することができる。例えば、ゴム部材1G及び支持台7の劣化を防ぎつつ、親水性に優れる水、又は、パラフィン系化合物を含んだ工業用潤滑油等が望ましい。
【0040】
また、摩擦低下手段8としては、支持台7の面7sに設けられた表面加工層であってもよい。
図6には、ゴム部材1G、支持台7及び表面加工層14の部分断面図が示されている。表面加工層14としては、部材1が変形したときに、部材1に滑りを生じさせるものが選択される。このような表面加工層14は、ゴム部材1Gと支持台7との間の摩擦係数を低下させることができる。
【0041】
表面加工層14としては、適宜選択することができるが、例えば、シリコーン樹脂、又は、フッ素樹脂等によって形成されるのが望ましい。また、表面加工層14の厚さW2は、1〜10mm程度が望ましい。
【0042】
また、摩擦低下手段8は、部材1の変形とともに回転するローラであってもよい。
図7及び
図8には、摩擦低下手段8としてローラ15が設けられた支持台7が示されている。本実施形態のローラ15は、支持台7に設けられた孔部7Hに、複数本配置される。ローラ15は、円柱状に形成され、その中心軸15cがゴム部材1Gの短手方向にのびている。このようなローラ15は、ゴム部材1Gの長手方向の変形に対して、回転可能に枢支される。
【0043】
ローラ15の長さL3は、ゴム部材1Gの短手方向の長さL2(
図2に示す)よりも大に設定される。さらに、ローラ15は、ゴム部材1Gの長手方向の長さL1(
図2に示す)よりも大きい領域T1に複数個配置される。また、ローラ15は、支持台7の面7sよりも、上方に突出(例えば、1〜20mm)している。
【0044】
このようなローラ15は、ゴム部材1Gと支持台7の面7sとの間に摩擦を発生させることなく、ゴム部材1Gを支持することができる。さらに、ローラ15は、ゴム部材1Gの長手方向の変形とともに回転できるため、ゴム部材1Gの変形を妨げることもない。従って、ローラ15は、摩擦低下手段8が配置されなかった従来に比べて、ゴム部材1Gを早期に変形させることができる。
【0045】
なお、ローラ15の直径D1が大きいと、ゴム部材1Gとローラ15との接触面積が大きくなり、ゴム部材1Gの変形が妨げられるおそれがある。このような観点より、直径D1は、好ましくは50mm以下、さらに好ましくは20mm以下である。
【0046】
さらに、ローラ15の表面には、ゴム部材1Gに滑りを生じさせる表面加工層(図示省略)が設けられてもよい。このような表面加工層は、ゴム部材1Gとローラ15との間の摩擦係数を低下させることができ、ゴム部材1Gを効果的に変形させることができる。
【0047】
また、摩擦低下手段8は、ローラ15に代えて、任意の方向に回転可能な球体(図示省略)であってもよい。この場合、球体は、ゴム部材1Gの長手方向、及び短手方向の双方に、複数個配置されるのが望ましい。これにより、球体は、ゴム部材1Gの変形に追従して回転できるため、ゴム部材1Gの変形が妨げられるのを、効果的に防ぐことができる。
【0048】
また、未加硫のゴム部材1Gは、室内の温度を高くするほど、その変形が促進される傾向がある。このため、工程S3では、ゴム部材1Gを経時変形させる際に、室内の温度が常温(20〜30℃)よりも高いのが望ましい。なお、室内の温度は、例えば、40〜70℃に設定されるのが望ましい。
【0049】
次に、変形したゴム部材1Gの変形量が測定される(工程S4)。本実施形態では、工程S3において、ゴム部材1Gを従来に比べて早期に変形させることができるため、ゴム部材1Gの変形量の測定を、迅速に開始することができる。また、ゴム部材1Gは、ゴム部材1Gの変形が妨げられないため、ゴム部材1Gの変形量を正確に測定することができる。
【0050】
ゴム部材1Gの変形量は、例えば、
図2に示されるように、ゴム部材1Gが矩形状(長方形状)に形成される場合、短手方向に比べて変形量(長さ)が大きい長手方向において、測定されるのが望ましい。また、ゴム部材1Gの変形量は、工程S3で変形させる前に、ゴム部材1Gの表面に予め記入された一対の平行線17、17(
図2に示す)に基づいて測定されるのが望ましい。これにより、ゴム部材1Gが変形して、各平行線17、17に歪が生じてしまう場合でも、例えば、平行線17、17間の最短距離を測定することにより、ゴム部材1Gの変形量を定量的に測定することができる。
【0051】
次に、ゴム部材1Gの変形量が許容範囲内か否かが判断される(工程S5)。この工程S5では、ゴム部材1Gの変形量が許容範囲内と判断された場合、現在の圧延装置2の設定のまま、ゴム部材1Gが継続して製造される。一方、ゴム部材1Gの変形量が許容範囲外と判断された場合は、ゴム部材1Gの変形量が小さくなるように、圧延装置2の調整乃至改善が行われ(工程S6)、工程S1〜S5が再度実施される。これにより、本実施形態では、ゴム部材1Gの変形量を許容範囲内に維持することができる。なお、圧延装置2の調整乃至改善は、例えば、従来の方法に従って、クーリング部4及びワインダ部5でのゴム部材1Gの移動速度を調整すること等によって実施される。
【0052】
本実施形態では、測定対象の部材1として、シート状に形成された未加硫のゴム部材1Gが例示されたが、例えば、ブロック状に形成されるものでもよい。さらに、部材1としては、粘着性を有する未加硫のゴム部材1Gに限定されるわけではなく、例えば、ゲル又は樹脂でもよい。本発明の測定方法では、上記のような部材1と支持台7との間に、摩擦係数を低下させる摩擦低下手段8が配置されるため、部材1の変形量を迅速かつ正確に測定することができる。
【0053】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0054】
図3に示した処理手順に従って、未加硫のゴム部材と、このゴム部材が置かれる支持台との間に、摩擦係数を低下させる摩擦低下手段(粉体)を配置して、ゴム部材を経時変形させた。そして、変形開始から120分経過するまでの間、ゴム部材の変形量が、複数回測定された(実施例)。変形量は、ゴム部材の長手方向の長さを基準として測定されている。
【0055】
また、比較のために、摩擦低下手段(粉体)を配置せずに、ゴム部材を経時変形させた。そして、変形開始から120分経過するまでの間、ゴム部材の変形量が、複数回測定された(比較例)。そして、実施例及び比較例において、ゴム部材の変形量が比較された。なお、共通仕様は、次のとおりである。
ゴム部材:
天然ゴム(NR):RSS#3(60質量部)
スチレンブタジエンゴム(SBR):住友化学(株)製のSBR1502(40質量部)
カーボンブラック:昭和キャボット社製のカーボンブラックN326(50質量部)
プロセスオイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスPS32(4質量部)
老化防止剤6C:住友化学工業(株)製のアンチゲン6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)(2質量部)
ステアリン酸:日本油脂(株)製の椿(2.5質量部)
亜鉛華:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種(3.5質量部)
硫黄:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄(2質量部)
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)(2質量部)
長手方向の長さL1:1000mm
短手方向の長さL2:400mm
厚さW1:5mm程度
部材と支持台との接触面積S:400000mm
2
摩擦低下手段(粉体):白石カルシウム(株)社製のソフトン2200
平均粒子半径r:0.0005mm
一粒子の質量m:1×10
−9g
散布された粉体の質量:700g( ≧ m×S/(πr
2):509g)
室内の温度:30℃
【0056】
図9には、実施例及び比較例の変形量と、測定時間との関係を示すグラフが示される。テストの結果、比較例では、変形量が3%に達するのに要した時間が120分であった。一方、実施例では、変形量が3%に達するのに要した時間が15分程度であった。従って、実施例は、比較例よりも、ゴム部材を早期に変形させることができ、ゴム部材の変形量を迅速かつ正確に測定できることを確認できた。