特許第6247488号(P6247488)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6247488
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】高周波電源装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/46 20060101AFI20171204BHJP
   H03F 1/52 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   H05H1/46 R
   H03F1/52
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-199498(P2013-199498)
(22)【出願日】2013年9月26日
(65)【公開番号】特開2014-207214(P2014-207214A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2016年8月24日
(31)【優先権主張番号】特願2013-56166(P2013-56166)
(32)【優先日】2013年3月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】福本 佳樹
(72)【発明者】
【氏名】森井 龍哉
【審査官】 南川 泰裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−111940(JP,A)
【文献】 特開2009−290678(JP,A)
【文献】 特開2006−246304(JP,A)
【文献】 特開2005−204405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00−1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷に向けて進行波電力を出力する高周波電源装置において、
直流電源、増幅素子及び発振部を内部に有し、前記発振部から出力する高周波信号を、前記直流電源から出力される直流電力を用いて前記増幅素子によって増幅し、進行波電力として出力する進行波電力出力手段と、
前記進行波電力出力手段と負荷との間に挿入されて、その挿入された位置における電気情報を検出する電気情報検出手段と、
前記電気情報検出手段で検出された検出信号に基づいて、進行波電力検出値及び反射波電力検出値を演算する電力値演算手段と、
前記電気情報検出手段の出力に基づいて求まる反射係数又は負荷側インピーダンスを負荷状態情報として定義し、反射波電力検出値が大きくなったときに進行波電力を抑制する反射保護制御を実行開始するか否かの反射波電力検出値の閾値を反射保護閾値として定義したときに、前記負荷状態情報と前記反射保護閾値との対応関係を示す情報を予め記憶しておくとともに、前記対応関係を示す情報の中から、現時点の負荷状態情報に対応する反射保護閾値を適正反射保護閾値として出力する適正反射保護閾値設定手段と、
前記適正反射保護閾値と前記反射波電力検出値とを入力し、前記適正反射保護閾値から反射波電力検出値を減算した値が負の場合にのみ、反射保護制御を行うために、反射保護閾値と反射波電力検出値との差分の大きさに応じた出力抑制信号(正の値)を出力する反射保護制御手段と、
前記進行波電力出力手段から出力させる進行波電力の出力設定値を設定する出力設定手段と、
前記反射保護制御手段から出力された出力抑制信号が正の値の場合は、前記出力設定手段で設定された出力設定値から出力抑制信号を減算した値を反射保護制御時の出力設定値として扱い、前記進行波電力検出値が前記反射保護制御時の出力設定値と等しくなるように前記進行波電力出力手段を制御し、前記反射保護制御手段から出力された出力抑制信号が正の値でない場合は、前記進行波電力検出値が前記出力設定手段で設定された出力設定値と等しくなるように前記進行波電力出力手段を制御する出力電力制御手段と、
を備えた高周波電源装置。
【請求項2】
負荷に向けて進行波電力を出力する高周波電源装置において、
直流電源、増幅素子及び発振部を内部に有し、前記発振部から出力する高周波信号を、前記直流電源から出力される直流電力を用いて前記増幅素子によって増幅し、進行波電力として出力する進行波電力出力手段と、
前記進行波電力出力手段と負荷との間に挿入されて、前記進行波電力出力手段から出力される進行波電力の情報を含む進行波検出信号及び前記負荷で反射された反射波電力の情報を含む反射波検出信号を検出する電力情報検出手段と、
前記進行波検出信号に基づいて進行波電力検出値を演算する進行波電力値演算手段と、
前記反射波検出信号に基づいて反射波電力検出値を演算する反射波電力値演算手段と、
前記進行波電力検出値および前記反射波電力検出値に基づいて、現時点の反射係数の絶対値を演算する反射係数演算手段と、
反射波電力検出値が大きくなったときに進行波電力を抑制する反射保護制御を実行開始するか否かの反射波電力検出値の閾値を反射保護閾値として定義したときに、反射係数の絶対値と前記反射保護閾値との対応関係を示す情報を予め記憶した記憶手段と、
前記現時点の反射係数の絶対値に対応する反射保護閾値を前記記憶手段から読み出して、適正反射保護閾値として出力する適正閾値設定手段と、
前記適正反射保護閾値と前記反射波電力検出値とを入力し、前記適正反射保護閾値から反射波電力検出値を減算した値が負の場合にのみ、反射保護制御を行うために、反射保護閾値と反射波電力検出値との差分の大きさに応じた出力抑制信号(正の値)を出力する反射保護制御手段と、
前記進行波電力出力手段から出力させる進行波電力の出力設定値を設定する出力設定手段と、
前記反射保護制御手段から出力された出力抑制信号が正の値の場合は、前記出力設定手段で設定された出力設定値から出力抑制信号を減算した値を反射保護制御時の出力設定値として扱い、前記進行波電力検出値が前記反射保護制御時の出力設定値と等しくなるように前記進行波電力出力手段を制御し、前記反射保護制御手段から出力された出力抑制信号が正の値でない場合は、前記進行波電力検出値が前記出力設定手段で設定された出力設定値と等しくなるように前記進行波電力出力手段を制御する出力電力制御手段と、
を備えた高周波電源装置。
【請求項3】
負荷に向けて進行波電力を出力する高周波電源装置において、
直流電源、増幅素子及び発振部を内部に有し、前記発振部から出力する高周波信号を、前記直流電源から出力される直流電力を用いて前記増幅素子によって増幅し、進行波電力として出力する進行波電力出力手段と、
前記進行波電力出力手段と負荷との間に挿入されて、前記進行波電力出力手段から出力される進行波電力の情報を含む進行波検出信号及び前記負荷で反射された反射波電力の情報を含む反射波検出信号を検出する電力情報検出手段と、
前記進行波検出信号に基づいて進行波電力検出値を演算する進行波電力値演算手段と、
前記反射波検出信号に基づいて反射波電力検出値を演算する反射波電力値演算手段と、
前記進行波検出信号および前記反射波検出信号に基づいて、現時点の反射係数の絶対値を演算する反射係数演算手段と、
反射波電力検出値が大きくなったときに進行波電力を抑制する反射保護制御を実行開始するか否かの反射波電力検出値の閾値を反射保護閾値として定義したときに、反射係数の絶対値と前記反射保護閾値との対応関係を示す情報を予め記憶した記憶手段と、
前記現時点の反射係数の絶対値に対応する反射保護閾値を前記記憶手段から読み出して、適正反射保護閾値として出力する適正閾値設定手段と、
前記適正反射保護閾値と前記反射波電力検出値とを入力し、前記適正反射保護閾値から反射波電力検出値を減算した値が負の場合にのみ、反射保護制御を行うために、反射保護閾値と反射波電力検出値との差分の大きさに応じた出力抑制信号(正の値)を出力する反射保護制御手段と、
前記進行波電力出力手段から出力させる進行波電力の出力設定値を設定する出力設定手段と、
前記反射保護制御手段から出力された出力抑制信号が正の値の場合は、前記出力設定手段で設定された出力設定値から出力抑制信号を減算した値を反射保護制御時の出力設定値として扱い、前記進行波電力検出値が前記反射保護制御時の出力設定値と等しくなるように前記進行波電力出力手段を制御し、前記反射保護制御手段から出力された出力抑制信号が正の値でない場合は、前記進行波電力検出値が前記出力設定手段で設定された出力設定値と等しくなるように前記進行波電力出力手段を制御する出力電力制御手段と、
を備えた高周波電源装置。
【請求項4】
負荷に向けて進行波電力を出力する高周波電源装置において、
直流電源、増幅素子及び発振部を内部に有し、前記発振部から出力する高周波信号を、前記直流電源から出力される直流電力を用いて前記増幅素子によって増幅し、進行波電力として出力する進行波電力出力手段と、
前記進行波電力出力手段と負荷との間に挿入されて、前記進行波電力出力手段から出力される進行波電力の情報を含む進行波検出信号及び前記負荷で反射された反射波電力の情報を含む反射波検出信号を検出する電力情報検出手段と、
前記進行波検出信号に基づいて進行波電力検出値を演算する進行波電力値演算手段と、
前記反射波検出信号に基づいて反射波電力検出値を演算する反射波電力値演算手段と、
反射係数の絶対値及び位相角、又は負荷側インピーダンスを負荷状態情報として定義したときに、前記進行波検出信号および前記反射波検出信号に基づいて、現時点の負荷状態情報を演算する負荷状態情報演算手段と、
反射波電力検出値が大きくなったときに進行波電力を抑制する反射保護制御を実行開始するか否かの反射波電力検出値の閾値を反射保護閾値として定義したときに、前記負荷状態情報と前記反射保護閾値との対応関係を示す情報を予め記憶した記憶手段と、
前記現時点の負荷状態情報に対応する反射保護閾値を前記記憶手段から読み出して、適正反射保護閾値として出力する適正閾値設定手段と、
前記適正反射保護閾値と前記反射波電力検出値とを入力し、前記適正反射保護閾値から反射波電力検出値を減算した値が負の場合にのみ、反射保護制御を行うために、反射保護閾値と反射波電力検出値との差分の大きさに応じた出力抑制信号(正の値)を出力する反射保護制御手段と、
前記進行波電力出力手段から出力させる進行波電力の出力設定値を設定する出力設定手段と、
前記反射保護制御手段から出力された出力抑制信号が正の値の場合は、前記出力設定手段で設定された出力設定値から出力抑制信号を減算した値を反射保護制御時の出力設定値として扱い、前記進行波電力検出値が前記反射保護制御時の出力設定値と等しくなるように前記進行波電力出力手段を制御し、前記反射保護制御手段から出力された出力抑制信号が正の値でない場合は、前記進行波電力検出値が前記出力設定手段で設定された出力設定値と等しくなるように前記進行波電力出力手段を制御する出力電力制御手段と、
を備えた高周波電源装置。
【請求項5】
前記適正反射保護閾値は、前記進行波電力出力手段から進行波電力を出力させたときに、前記増幅素子で生じる損失が規定値を超えないように、且つ前記進行波電力出力手段に含まれる増幅素子にかかる電圧が耐電圧値を超えないように、且つ増幅素子に流れる電流が耐電流値を超えないように、反射係数毎又は負荷側インピーダンス毎に定めた反射保護閾値である、請求項1〜4のいずれかに記載の高周波電源装置。
【請求項6】
前記適正反射保護閾値は、前記進行波電力出力手段から進行波電力を出力させたときに、前記増幅素子で生じる損失が規定値を超えないように、且つ前記進行波電力出力手段に含まれる増幅素子にかかる電圧が耐電圧値を超えないように、且つ増幅素子に流れる電流が耐電流値を超えないように、且つ、限界値に対して裕度を持たせて反射係数毎又は負荷側インピーダンス毎に定めた反射保護閾値である、請求項1〜4のいずれかに記載の高周波電源装置。
【請求項7】
前記出力設定値は、負荷に向けて出力する進行波電力を一定にする制御を行うために設定される設定値である請求項1〜6のいずれかに記載の高周波電源装置。
【請求項8】
負荷に向けて出力する進行波電力から反射波電力を減算した電力を負荷側電力と定義したときに、前記出力設定値は、前記負荷側電力を一定にする制御を行うために設定される設定値である請求項1〜6のいずれかに記載の高周波電源装置。
【請求項9】
前記出力設定値は、前記負荷側電力の設定値と現時点の反射係数の情報とを用いて演算されることを特徴とする請求項8に記載の高周波電源装置。
【請求項10】
前記進行波電力出力手段と前記電力情報検出手段との間に、前記進行波電力出力手段の出力から高調波成分を除去するローパスフィルタを更に備えた、請求項2〜4のいずれかに記載の高周波電源装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプラズマエッチング、プラズマCVDを行うプラズマ処理装置等の負荷に電力を供給する高周波電源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の高周波電源装置としては、例えば特許文献1に記載のものが提案されている。
図11は、特許文献1に記載された従来の高周波電源装置100の構成例である。
従来の高周波電源装置100は、進行波電力出力部10、ローパスフィルタ20、方向性結合器30、進行波電力演算部41、反射波電力演算部42、出力設定部50、出力制御部60、反射保護閾値設定部110及び反射保護制御部80を備えている。
【0003】
進行波電力出力部10は、図示しない直流電源、発振部(発振器)、増幅素子等を有し、発振部から出力される高周波信号を、直流電源から出力される直流電力を用いて増幅素子によって増幅し、無線周波数帯域の出力周波数を有する高周波電力を出力するものである。なお、高周波電源装置から負荷に向かう高周波電力を進行波電力といい、負荷で反射されて高周波電源装置側に戻ってくる高周波電力を反射波電力という。また、一般にこの種の高周波電源装置では、数百kHz以上の周波数(例えば、13MHz,40MHz等の周波数)を有する進行波電力を出力している。
【0004】
また、進行波電力出力部10は、後述する出力制御部60によって出力が制御される。進行波電力出力部10から出力された進行波電力は、主に高調波を除去するためのローパスフィルタ20、方向性結合器30を介して図略の負荷に供給される。なお、進行波電力出力部10の増幅素子としては、例えば、FETやトランジスタ等が用いられる。また、ローパスフィルタ20の代わりにバンドパスフィルタを用いることがある。また、ローパスフィルタ20を省略することが可能な場合もある。
【0005】
方向性結合器30は、進行波電力出力部10と負荷との間に挿入されて、進行波電力出力部10から出力される進行波電力の情報を含む進行波検出信号Vf及び負荷で反射された反射波電力の情報を含む反射波検出信号Vrを出力する。
【0006】
進行波電力演算部41は、進行波検出信号Vfに基づいて進行波電力検出値Pfを演算する。また、反射波電力演算部42は、反射波検出信号Vrに基づいて反射波電力検出値Prを演算する。
【0007】
出力設定部50は、進行波電力出力部10から出力させる進行波電力の設定値である出力設定値PFsetを設定する。設定された出力設定値PFsetは、出力制御部60に送られる。なお、出力設定値PFsetは、外部の装置から入力してもよいし、変更も可能である。
【0008】
従来の高周波電源装置100は、反射波電力検出値Prが、反射保護閾値設定部110で設定した反射保護閾値Rth以下の場合は、定常時制御を行うが、そうでない場合は、反射保護制御を行って、進行波電力出力部内の増幅素子等を保護するように構成されている。以下、定常時制御及び反射保護制御のそれぞれの場合について、出力制御部60及び反射保護制御部80の動作を中心に説明する。
【0009】
<定常時制御>
出力制御部60は、内部に補償器61を有している。また、出力制御部60には、出力設定値PFset、出力抑制信号Pres及び進行波電力検出値Pfが入力される。そして、出力設定値PFsetから出力抑制信号Presを減算し、更に進行波電力検出値Pfを減算したものが補償器61に入力される。ここで、出力抑制信号Presは、後述するように、反射波電力検出値Prが反射保護閾値Rthよりも大きいときに、反射保護制御部80から出力される信号である。すなわち、反射波電力検出値Prが反射保護閾値Rth以下のときには、実質的に、出力設定値PFsetから進行波電力検出値Pfを減算したもの(出力設定値PFsetと進行波電力検出値Pfとの差分)が補償器61に入力されることになる。
【0010】
この場合、補償器61は、出力設定値PFsetと進行波電力検出値Pfとの差分に基づいて、進行波電力検出値Pfと出力設定値PFsetとを等しくするための出力制御信号Pcntを進行波電力出力部10に送る。
【0011】
進行波電力出力部10では、出力制御部60から出力された出力制御信号Pcntに基づいて出力する進行波電力の大きさを変化させる。これにより、進行波電力検出値Pfが、出力設定値PFsetと等しくなるように制御される。
【0012】
<反射保護制御>
反射保護制御部80は、内部に補償器81を有している。また、反射保護制御部80には、反射保護閾値Rthと反射波電力検出値Prとが入力される。そして、反射保護閾値Rthから反射波電力検出値Prを減算した値(反射保護閾値Rthと反射波電力検出値Prとの差分)が補償器81に入力される。なお、反射波電力検出値Prが反射保護閾値Rthよりも大きくなった場合を負とする。
【0013】
補償器81は、反射保護閾値Rthと反射波電力検出値Prとの差分が負の場合にのみ、反射保護閾値Rthと反射波電力検出値Prとの差分の大きさに応じた出力抑制信号Pres(正の値)を出力する。この出力抑制信号Presは、出力制御部60に送られる。
【0014】
この場合、出力制御部60では、出力設定値PFsetから出力抑制信号Presが減算される。出力設定値PFsetから出力抑制信号Presを減算したものが、実質的な出力設定値PFsetとなるので、反射波電力検出値Prが反射保護閾値Rthよりも大きくなった場合には、進行波電力出力部10から出力される進行波電力を抑制することができる。なお、反射保護閾値Rthは、反射保護制御を実行開始するか否かの反射波電力検出値Prの閾値となる。
【0015】
反射波電力検出値Prが大きい場合には、進行波電力出力部内の増幅素子等が破損する恐れがあるので、上記のように、進行波電力出力部10から出力する進行波電力を抑制し、結果として反射波電力を低減させて増幅素子等を保護する反射保護制御が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開昭61−16314
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上述したように、従来では、実際の反射波電力を検出し、検出した反射波電力検出値Prに基づいて反射保護制御を行うか否かを判定していた。そのため、例えば、高周波電源装置の進行波電力の定格出力が3000W、反射保護閾値Rthが600Wの場合には、次の(1)及び(2)のいずれの場合にも反射保護制御を行うことになる。
(1)進行波電力検出値Pf:3000W、反射波電力検出値Pr:900W
(2)進行波電力検出値Pf:1500W、反射波電力検出値Pr:900W
【0018】
上記の場合、反射波電力検出値Prは、両方とも900Wで同じであるが、進行波電力を含めた定在波として考えると、(1)の方が進行波電力出力部内の増幅素子等に与える影響が大きく、保護対象である増幅素子等の破損リスクが高い。
すなわち、反射波電力検出値Prが同じでも、進行波電力出力部10から出力させる進行波電力が定格出力値(最大値)に近いほど、保護対象(増幅素子等)の安全余裕が小さくなる。反射保護の考え方としては、より安全な方向で反射保護閾値Rthを設定することになるので、従来の反射保護制御では、進行波電力の定格出力時における反射波電力検出値Prを基準にすることになる。その結果、上記(2)のように、進行波電力検出値Pfが定格出力値よりも小さい場合は、まだ余裕があるにも関わらず反射保護制御を行ってしまうことになる。そのため、進行波電力出力部10から出力させる進行波電力を抑制しすぎる場合が生じてしまう。
【0019】
例えば、プラズマ処理装置の内部で発生するプラズマ等の負荷は不安定であるため、進行波電力出力部10から出力させる進行波電力を抑制しすぎると、さらに不安定になって、プラズマが消滅する場合があるため、従来の反射保護制御では問題がある。
【0020】
本発明は、従来よりも進行波電力出力部から出力させる進行波電力を抑制しすぎないようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
第1の発明によって提供される高周波電源装置は、
負荷に向けて進行波電力を出力する高周波電源装置において、
直流電源、増幅素子及び発振部を内部に有し、前記発振部から出力する高周波信号を、前記直流電源から出力される直流電力を用いて前記増幅素子によって増幅し、進行波電力として出力する進行波電力出力手段と、
前記進行波電力出力手段と負荷との間に挿入されて、その挿入された位置における電気情報を検出する電気情報検出手段と、
前記電気情報検出手段で検出された検出信号に基づいて、進行波電力検出値及び反射波電力検出値を演算する電力値演算手段と、
前記電気情報検出手段の出力に基づいて求まる反射係数又は負荷側インピーダンスを負荷状態情報として定義し、反射波電力検出値が大きくなったときに進行波電力を抑制する反射保護制御を実行開始するか否かの反射波電力検出値の閾値を反射保護閾値として定義したときに、前記負荷状態情報と前記反射保護閾値との対応関係を示す情報を予め記憶しておくとともに、前記対応関係を示す情報の中から、現時点の負荷状態情報に対応する反射保護閾値を適正反射保護閾値として出力する適正反射保護閾値設定手段と、
前記適正反射保護閾値と前記反射波電力検出値とを入力し、前記適正反射保護閾値から反射波電力検出値を減算した値が負の場合にのみ、反射保護制御を行うために、反射保護閾値と反射波電力検出値との差分の大きさに応じた出力抑制信号(正の値)を出力する反射保護制御手段と、
前記進行波電力出力手段から出力させる進行波電力の出力設定値を設定する出力設定手段と、
前記反射保護制御手段から出力された出力抑制信号が正の値の場合は、前記出力設定手段で設定された出力設定値から出力抑制信号を減算した値を反射保護制御時の出力設定値として扱い、前記進行波電力検出値が前記反射保護制御時の出力設定値と等しくなるように前記進行波電力出力手段を制御し、前記反射保護制御手段から出力された出力抑制信号が正の値でない場合は、前記進行波電力検出値が前記出力設定手段で設定された出力設定値と等しくなるように前記進行波電力出力手段を制御する出力電力制御手段と、
を備えている。
【0022】
第2の発明によって提供される高周波電源装置は、
負荷に向けて進行波電力を出力する高周波電源装置において、
直流電源、増幅素子及び発振部を内部に有し、前記発振部から出力する高周波信号を、前記直流電源から出力される直流電力を用いて前記増幅素子によって増幅し、進行波電力として出力する進行波電力出力手段と、
前記進行波電力出力手段と負荷との間に挿入されて、前記進行波電力出力手段から出力される進行波電力の情報を含む進行波検出信号及び前記負荷で反射された反射波電力の情報を含む反射波検出信号を検出する電力情報検出手段と、
前記進行波検出信号に基づいて進行波電力検出値を演算する進行波電力値演算手段と、
前記反射波検出信号に基づいて反射波電力検出値を演算する反射波電力値演算手段と、
前記進行波電力検出値および前記反射波電力検出値に基づいて、現時点の反射係数の絶対値を演算する反射係数演算手段と、
反射波電力検出値が大きくなったときに進行波電力を抑制する反射保護制御を実行開始するか否かの反射波電力検出値の閾値を反射保護閾値として定義したときに、反射係数の絶対値と前記反射保護閾値との対応関係を示す情報を予め記憶した記憶手段と、
前記現時点の反射係数の絶対値に対応する反射保護閾値を前記記憶手段から読み出して、適正反射保護閾値として出力する適正閾値設定手段と、
前記適正反射保護閾値と前記反射波電力検出値とを入力し、前記適正反射保護閾値から反射波電力検出値を減算した値が負の場合にのみ、反射保護制御を行うために、反射保護閾値と反射波電力検出値との差分の大きさに応じた出力抑制信号(正の値)を出力する反射保護制御手段と、
前記進行波電力出力手段から出力させる進行波電力の出力設定値を設定する出力設定手段と、
前記反射保護制御手段から出力された出力抑制信号が正の値の場合は、前記出力設定手段で設定された出力設定値から出力抑制信号を減算した値を反射保護制御時の出力設定値として扱い、前記進行波電力検出値が前記反射保護制御時の出力設定値と等しくなるように前記進行波電力出力手段を制御し、前記反射保護制御手段から出力された出力抑制信号が正の値でない場合は、前記進行波電力検出値が前記出力設定手段で設定された出力設定値と等しくなるように前記進行波電力出力手段を制御する出力電力制御手段と、
を備えている。
【0023】
第3の発明によって提供される高周波電源装置は、
負荷に向けて進行波電力を出力する高周波電源装置において、
直流電源、増幅素子及び発振部を内部に有し、前記発振部から出力する高周波信号を、前記直流電源から出力される直流電力を用いて前記増幅素子によって増幅し、進行波電力として出力する進行波電力出力手段と、
前記進行波電力出力手段と負荷との間に挿入されて、前記進行波電力出力手段から出力される進行波電力の情報を含む進行波検出信号及び前記負荷で反射された反射波電力の情報を含む反射波検出信号を検出する電力情報検出手段と、
前記進行波検出信号に基づいて進行波電力検出値を演算する進行波電力値演算手段と、
前記反射波検出信号に基づいて反射波電力検出値を演算する反射波電力値演算手段と、
前記進行波検出信号および前記反射波検出信号に基づいて、現時点の反射係数の絶対値を演算する反射係数演算手段と、
反射波電力検出値が大きくなったときに進行波電力を抑制する反射保護制御を実行開始するか否かの反射波電力検出値の閾値を反射保護閾値として定義したときに、反射係数の絶対値と前記反射保護閾値との対応関係を示す情報を予め記憶した記憶手段と、
前記現時点の反射係数の絶対値に対応する反射保護閾値を前記記憶手段から読み出して、適正反射保護閾値として出力する適正閾値設定手段と、
前記適正反射保護閾値と前記反射波電力検出値とを入力し、前記適正反射保護閾値から反射波電力検出値を減算した値が負の場合にのみ、反射保護制御を行うために、反射保護閾値と反射波電力検出値との差分の大きさに応じた出力抑制信号(正の値)を出力する反射保護制御手段と、
前記進行波電力出力手段から出力させる進行波電力の出力設定値を設定する出力設定手段と、
前記反射保護制御手段から出力された出力抑制信号が正の値の場合は、前記出力設定手段で設定された出力設定値から出力抑制信号を減算した値を反射保護制御時の出力設定値として扱い、前記進行波電力検出値が前記反射保護制御時の出力設定値と等しくなるように前記進行波電力出力手段を制御し、前記反射保護制御手段から出力された出力抑制信号が正の値でない場合は、前記進行波電力検出値が前記出力設定手段で設定された出力設定値と等しくなるように前記進行波電力出力手段を制御する出力電力制御手段と、
を備えている。
【0024】
第4の発明によって提供される高周波電源装置は、
負荷に向けて進行波電力を出力する高周波電源装置において、
直流電源、増幅素子及び発振部を内部に有し、前記発振部から出力する高周波信号を、前記直流電源から出力される直流電力を用いて前記増幅素子によって増幅し、進行波電力として出力する進行波電力出力手段と、
前記進行波電力出力手段と負荷との間に挿入されて、前記進行波電力出力手段から出力される進行波電力の情報を含む進行波検出信号及び前記負荷で反射された反射波電力の情報を含む反射波検出信号を検出する電力情報検出手段と、
前記進行波検出信号に基づいて進行波電力検出値を演算する進行波電力値演算手段と、
前記反射波検出信号に基づいて反射波電力検出値を演算する反射波電力値演算手段と、
反射係数の絶対値及び位相角、又は負荷側インピーダンスを負荷状態情報として定義したときに、前記進行波検出信号および前記反射波検出信号に基づいて、現時点の負荷状態情報を演算する負荷状態情報演算手段と、
反射波電力検出値が大きくなったときに進行波電力を抑制する反射保護制御を実行開始するか否かの反射波電力検出値の閾値を反射保護閾値として定義したときに、前記負荷状態情報と前記反射保護閾値との対応関係を示す情報を予め記憶した記憶手段と、
前記現時点の負荷状態情報に対応する反射保護閾値を前記記憶手段から読み出して、適正反射保護閾値として出力する適正閾値設定手段と、
前記適正反射保護閾値と前記反射波電力検出値とを入力し、前記適正反射保護閾値から反射波電力検出値を減算した値が負の場合にのみ、反射保護制御を行うために、反射保護閾値と反射波電力検出値との差分の大きさに応じた出力抑制信号(正の値)を出力する反射保護制御手段と、
前記進行波電力出力手段から出力させる進行波電力の出力設定値を設定する出力設定手段と、
前記反射保護制御手段から出力された出力抑制信号が正の値の場合は、前記出力設定手段で設定された出力設定値から出力抑制信号を減算した値を反射保護制御時の出力設定値として扱い、前記進行波電力検出値が前記反射保護制御時の出力設定値と等しくなるように前記進行波電力出力手段を制御し、前記反射保護制御手段から出力された出力抑制信号が正の値でない場合は、前記進行波電力検出値が前記出力設定手段で設定された出力設定値と等しくなるように前記進行波電力出力手段を制御する出力電力制御手段と、
を備えている。
【0025】
第5の発明によって提供される高周波電源装置は、前記適正反射保護閾値に関するものであり、
前記適正反射保護閾値は、前記進行波電力出力手段から進行波電力を出力させたときに、前記増幅素子で生じる損失が規定値を超えないように、且つ前記進行波電力出力手段に含まれる増幅素子にかかる電圧が耐電圧値を超えないように、且つ増幅素子に流れる電流が耐電流値を超えないように、反射係数毎又は負荷側インピーダンス毎に定めた反射保護閾値である。
【0026】
第6の発明によって提供される高周波電源装置は、前記適正反射保護閾値に関するものであり、
前記適正反射保護閾値は、前記進行波電力出力手段から進行波電力を出力させたときに、前記増幅素子で生じる損失が規定値を超えないように、且つ前記進行波電力出力手段に含まれる増幅素子にかかる電圧が耐電圧値を超えないように、且つ増幅素子に流れる電流が耐電流値を超えないように、且つ、限界値に対して裕度を持たせて反射係数毎又は負荷側インピーダンス毎に定めた反射保護閾値である。
【0027】
第7の発明によって提供される高周波電源装置は、前記出力設定値に関するものであり、
前記出力設定値は、負荷に向けて出力する進行波電力を一定にする制御を行うために設定される設定値である。
【0028】
第8の発明によって提供される高周波電源装置は、前記出力設定値に関するものであり、
負荷に向けて出力する進行波電力から反射波電力を減算した電力を負荷側電力と定義したときに、前記出力設定値は、前記負荷側電力を一定にする制御を行うために設定される設定値である。
【0029】
第9の発明によって提供される高周波電源装置は、前記出力設定値に関するものであり、
前記出力設定値は、前記負荷側電力の設定値と現時点の反射係数の情報とを用いて演算される。
【0030】
第10の発明によって提供される高周波電源装置は、
前記進行波電力出力手段と前記電力情報検出手段との間に、前記進行波電力出力手段の出力から高調波成分を除去するローパスフィルタを更に備えている。
【発明の効果】
【0031】
本発明では、現時点の反射係数に応じた適正な反射保護閾値を設定することができる。そのため、反射保護制御を行う場合に、従来よりも進行波電力出力部から出力させる進行波電力を抑制しすぎないようにできる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明に係る高周波電源装置が適用される高周波電力供給システムの一例を示す図である。
図2】第1実施形態の高周波電源装置1の構成例である。
図3】第1実施形態の高周波電源装置1の他の構成例である。
図4】第2実施形態の高周波電源装置1の構成例である。
図5】反射保護閾値テーブル72に記憶されている反射係数Γと反射保護閾値との対応関係を示す情報の一例を示す図である。
図6】反射係数Γと出力可能電力値との対応関係を示す情報の一例を示す図である。
図7】反射保護閾値テーブル72に記憶されている反射係数Γと反射保護閾値との対応関係を示す情報の他の一例を示す図である。
図8】第3実施形態の高周波電源装置1の構成例である。
図9】第4実施形態の高周波電源装置1の構成例である。
図10】出力設定部500の内部構成例を示す図である。
図11】特許文献1に記載された従来の高周波電源装置100の構成例である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、従来と同一又は同様の構成には、同一符号を付している。
【0034】
図1は、本発明に係る高周波電源装置が適用される高周波電力供給システムの一例を示す図である。この高周波電力供給システムは、半導体ウエハや液晶基板等の被加工物に対して進行波電力を供給して、例えばプラズマエッチングといった加工処理を行うものである。この高周波電力供給システムは、高周波電源装置1、伝送線路2、インピーダンス整合器3、負荷接続部4及び負荷5で構成されている。なお、インピーダンス整合器3を用いない構成にしてもよい。
【0035】
高周波電源装置1は、発振部(発振器)から出力される高周波信号を増幅し、無線周波数帯域の出力周波数を有する進行波電力を出力して負荷5に供給するための装置である。高周波電源装置1から出力された進行波電力は、同軸ケーブルからなる伝送線路2及びインピーダンス整合器3及び遮蔽された銅板からなる負荷接続部4を介して負荷5に供給される。なお、一般にこの種の高周波電源装置では、数百kHz以上の周波数(例えば、13MHz,40MHz等の周波数)を有する進行波電力を出力している。
【0036】
インピーダンス整合器3は、高周波電源装置1と負荷5とのインピーダンスを整合させるものである。より具体的には、例えば高周波電源装置1の出力端から高周波電源装置1側を見たインピーダンス(出力インピーダンス)が例えば50Ωに設計され、高周波電源装置1が、特性インピーダンス50Ωの伝送線路2でインピーダンス整合器3の入力端に接続されているとすると、インピーダンス整合器3は、当該インピーダンス整合器3の入力端から負荷5側を見たインピーダンスを50Ωに変換させるものである。
【0037】
負荷5は、加工部を備え、その加工部の内部に搬入したウエハ、液晶基板等の被加工物を加工(エッチング、CVD等)するための装置である。この負荷5は、被加工物を加工するために、加工部にプラズマ放電用ガスを導入し、そのプラズマ放電用ガスに高周波電源装置1から供給された進行波電力(電圧)を印加することによって、上記のプラズマ放電用ガスを放電させて非プラズマ状態からプラズマ状態にしている。そして、プラズマを利用して被加工物を加工している。
【0038】
[第1実施形態]
図2は、第1実施形態の高周波電源装置1の構成例である。高周波電源装置1は、図2に示すように、進行波電力出力部10、ローパスフィルタ20、方向性結合器30、進行波電力演算部41、反射波電力演算部42、出力設定部50、出力制御部60、適正反射保護閾値設定部70及び反射保護制御部80を備えている。
【0039】
なお、進行波電力出力部10は進行波電力出力手段、方向性結合器30は電気情報検出手段又は電力情報検出手段、進行波電力演算部41は進行波電力値演算手段、反射波電力演算部42は反射波電力値演算手段、出力設定部50は出力設定手段、出力制御部60は出力電力制御手段、反射係数演算部71は反射係数演算手段又は負荷状態情報演算手段、反射保護閾値テーブル72は記憶手段、閾値選択部73は適正閾値設定手段、反射保護制御部80は反射保護制御手段のそれぞれ一例である。
また、本明細書では、進行波電力演算部41及び反射波電力演算部42を総称して電力値演算手段40の一例としている。
【0040】
進行波電力出力部10、ローパスフィルタ20、方向性結合器30、進行波電力演算部41、反射波電力演算部42、出力設定部50、出力制御部60及び反射保護制御部80は、図11に示した従来のものと同様であるので、説明を省略する。なお、ローパスフィルタ20の代わりにバンドパスフィルタを用いることがある。また、ローパスフィルタ20を省略することが可能な場合もある。また、進行波電力演算部41から出力される進行波電力検出値Pf及び反射波電力演算部42から出力される反射波電力検出値Prは、外部に出力することができ、例えばモニタに表示させることができる。
【0041】
適正反射保護閾値設定部70は、反射係数Γと反射保護閾値との対応関係を示す情報を有し、反射係数演算部71によって演算された現時点の反射係数Γの絶対値|Γ|に対応する反射保護閾値を適正反射保護閾値PRthとして出力するものである。適正反射保護閾値設定部70は、反射係数演算部71、反射保護閾値テーブル72及び閾値選択部73を備えている。
【0042】
反射係数演算部71は、方向性結合器30から出力される進行波検出信号Vfおよび反射波検出信号Vrに基づいて、反射係数Γの絶対値|Γ|及び位相角θのうち、少なくとも絶対値|Γ|を演算するものである。反射係数演算部71によって演算された反射係数Γの情報は、現時点の反射係数Γの情報として閾値選択部73に送られる。
【0043】
なお、進行波検出信号Vfおよび反射波検出信号Vrは、通常、電圧信号として検出されるので、反射係数Γは、式(1)のようにして求めることができる。また式(2)のように絶対値|Γ|及び位相角θを用いて表すことができる。
反射係数Γ=Vr/Vf ・・・・・ (1)
反射係数Γ=|Γ|・exp(jθ) ・・・・・ (2)
【0044】
また、進行波電力演算部41から出力される進行波電力検出値Pf及び反射波電力演算部42から出力される反射波電力検出値Prに基づいて、反射係数Γの絶対値|Γ|を式(3)のように求めるようにしてもよい。
反射係数Γの絶対値|Γ|=√Pr/√Pf ・・・・・ (3)
【0045】
なお、進行波電力検出値Pf及び反射波電力検出値Prは、いずれも方向性結合器30から出力された情報に基づいて演算されたものであるので、式(3)のように求めた反射係数Γの絶対値|Γ|も、方向性結合器30から出力される進行波検出信号Vfおよび反射波検出信号Vrに基づいて求めたものと言える。
【0046】
図2では、反射係数演算部71が、進行波電力検出値Pf及び反射波電力検出値Prを用いて反射係数Γの絶対値|Γ|を演算する例を示しているが、図3のように、進行波検出信号Vfおよび反射波検出信号Vrを用いて反射係数Γの絶対値|Γ|を演算することもできる。また、図4のように、進行波検出信号Vfおよび反射波検出信号Vrを用いて反射係数Γの絶対値|Γ|及び位相角θを演算することもできる。なお、図2図4では、説明を簡略化するため、高周波電源装置1等の符号を同一にしている。
【0047】
反射保護閾値テーブル72は、反射係数Γと反射保護閾値との対応関係を示す情報を予め記憶したものである。これについては、後述する。
【0048】
なお、以下では第1実施形態として、反射保護閾値テーブル72が、反射係数Γの絶対値|Γ|と反射保護閾値との対応関係を示す情報を予め記憶したものであるとして説明する。そのため、図2又は図3に示した構成が該当する。もちろん、図4に示すように反射係数演算部71が、反射係数Γの絶対値|Γ|及び位相角θの両方を出力する場合であっても、反射係数Γの絶対値|Γ|だけを用いれば同様になる。
【0049】
閾値選択部73は、反射係数演算部71によって演算された現時点の反射係数Γの絶対値|Γ|を入力し、この現時点の反射係数Γの絶対値|Γ|に対応する反射保護閾値を反射保護閾値テーブル72から読み出して、適正反射保護閾値PRthとして出力する。
この適正反射保護閾値PRthは、従来技術で説明した反射保護閾値Rthと同じ役割を担う。ただし、従来技術で説明した反射保護閾値Rthは、一定値であったのに対して、適正反射保護閾値PRthは、上記のように現時点の反射係数Γによって異なる値となる。
【0050】
また、上述したように、進行波電力出力部10、ローパスフィルタ20、方向性結合器30、進行波電力演算部41、反射波電力演算部42、出力設定部50、出力制御部60及び反射保護制御部80は、図11に示した従来のものと同様であるので、定常時制御及び反射保護制御は、従来と同様の仕組みで行われる。
【0051】
すなわち、反射保護制御部80では、反射波電力検出値Prが適正反射保護閾値PRthよりも大きくなった場合に、適正反射保護閾値PRthと反射波電力検出値Prとの差分の大きさに応じた出力抑制信号Pres(正の値)を出力する。これにより反射保護制御が行われ、進行波電力出力部10から出力する進行波電力が抑制される。また、反射波電力検出値Prが適正反射保護閾値PRth以下の場合には、定常時制御が行われる。
【0052】
次に、反射保護閾値テーブル72に記憶される反射係数Γと反射保護閾値との対応関係を示す情報について説明する。
【0053】
図5は、反射保護閾値テーブル72に記憶されている反射係数Γと反射保護閾値との対応関係を示す情報の一例を示す図である。
この図5において、図5(a)は、反射係数Γの領域を、反射係数Γの絶対値|Γ|と位相角θとで表した図である。この図5(a)は、円の中心点が、反射係数Γの絶対値|Γ|=「0」であり、円の外周部分が、反射係数Γの絶対値|Γ|=「1」となっている。そして、円の中心点から0.2間隔で円状に補助線を描いている。また、反射係数Γの位相角θは、円の中心点から右方向に伸びる線上を0度として、図示するように、0〜180度、0〜−180度で表される。この例では、30度間隔で補助線を描いている。なお、本実施形態では、反射係数Γの位相角θを用いず、反射係数Γの絶対値|Γ|のみを用いるので、反射係数Γの位相角θは参考である。
【0054】
図5(b)は、図5(a)に示された反射係数Γの領域に対応した反射保護閾値を記憶したテーブルの一例を示す。この図5(b)に示すように、反射保護閾値は、例えば、反射係数Γの絶対値|Γ|を0.01間隔で分割した領域毎に設定される。もちろん、これに限定されるものではない。例えば、反射係数Γの絶対値|Γ|の間隔を0.001程度にしてもよいし、他の方法で反射保護閾値を定めてもよい。
【0055】
また、反射係数演算部71によって演算された現時点の反射係数Γの絶対値|Γ|と同じ値が反射保護閾値テーブル72にない場合は、例えば、現時点の反射係数Γの絶対値|Γ|と一番近いものに対応する反射保護閾値を選択して適正反射保護閾値PRthとすればよい。もちろん、これに限定されるものではない。例えば、現時点の反射係数Γの絶対値|Γ|を所定の位で切り捨てた値、又は切り上げた値を採用してもよい。
【0056】
図5(c)は、反射係数Γの絶対値|Γ|に対する反射保護閾値をグラフ化した一例である。図5(c)の例では、反射係数Γの絶対値|Γ|が0のときの適正反射保護閾値PRthが0Wである。そして、反射係数Γの絶対値|Γ|が大きくなるにしたがって、適正反射保護閾値PRthが大きくなり、反射係数Γの絶対値|Γ|が1のときの適正反射保護閾値PRthが600Wになるように設定されている。
【0057】
反射係数Γと反射保護閾値との対応関係を示す情報は、図5のように設定されているため、閾値選択部73は、反射係数演算部71によって演算された現時点の反射係数Γの絶対値|Γ|に対応する反射保護閾値を反射保護閾値テーブル72から読み出して、適正反射保護閾値PRthとして出力することができる。
【0058】
次に適正反射保護閾値PRthについて説明する。
【0059】
増幅素子を保護するための条件としては、進行波電力出力部10から進行波電力を出力させたときに、増幅素子で生じる損失が規定値を超えないように、且つ進行波電力出力部10に含まれる増幅素子にかかる電圧が耐電圧値を超えないように、且つ増幅素子に流れる電流が耐電流値を超えないようにする必要がある。なお、上記の増幅素子で生じる損失の規定値、増幅素子にかかる電圧の耐電圧値及び増幅素子に流れる電流の耐電流値は、限界値にしてもよいが、それぞれ裕度を持たせた値にしてもよい。
【0060】
この増幅素子を保護するための条件を満たすためには、例えば、図6に示すように反射係数Γの絶対値|Γ|が大きくなるにしたがって、進行波電力出力部10から出力させる進行波電力値の最大値を小さくする必要がある。すなわち、反射係数Γに応じて進行波電力出力部10から出力可能な進行波電力値を制限する必要があり、その最大値を出力可能電力値Pmaxとすると、図6に示すような関係になる。そして、出力可能電力値Pmaxが図6に示すような関係を保つ限り増幅素子を保護することができる。なお、図6に示すような関係は、例えば実験によって求めることができる。
【0061】
ところで、反射係数Γの絶対値|Γ|は、式(3)に示すように、「|Γ|=√Pr/√Pf」であるから、反射波電力検出値Prは式(4)で演算できる。
反射波電力検出値Pr=Pf・|Γ| ・・・・ (4)
【0062】
この式(4)において、進行波電力検出値Pfを出力可能電力値Pmaxに置き換えるとともに、反射係数Γの絶対値|Γ|を0〜1の範囲で順次代入したときに得られる反射波電力検出値Prは、上記の増幅素子を保護するために必要な条件の閾値となるので、反射保護閾値Rthに相当する。しかも、反射係数Γの絶対値|Γ|に対応した値であるので、適正な反射保護閾値Rthであると言える。本明細書では、この適正な反射保護閾値Rthを適正反射保護閾値PRthとする。
【0063】
上記のように適正反射保護閾値PRthを設定しているため、適正反射保護閾値PRthは、進行波電力出力部10から進行波電力を出力させたときに、増幅素子で生じる損失が規定値を超えないように、且つ進行波電力出力部10に含まれる増幅素子にかかる電圧が耐電圧値を超えないように、且つ増幅素子に流れる電流が耐電流値を超えないように、反射係数Γ(絶対値|Γ|及び位相角θのうち、少なくとも絶対値|Γ|)毎に定めた反射保護閾値である。
【0064】
このように適正反射保護閾値PRthを設定することにより、反射保護閾値が現時点の反射係数Γに対して適正な値となるので、従来よりも進行波電力出力部10から出力させる進行波電力を抑制しすぎないようにできる。
【0065】
なお、上記に限定されることはなく、例えば、適正反射保護閾値PRthは、進行波電力出力部10から進行波電力を出力させたときに、増幅素子で生じる損失が規定値を超えないように、且つ進行波電力出力部10に含まれる増幅素子にかかる電圧が耐電圧値を超えないように、且つ増幅素子に流れる電流が耐電流値を超えないように、且つ、限界値に対して裕度を持たせて反射係数Γ(絶対値|Γ|及び位相角θのうち、少なくとも絶対値|Γ|)毎に定めた反射保護閾値としてもよい。
【0066】
[第2実施形態]
図5では、反射保護閾値テーブル72に記憶されている反射係数Γと反射保護閾値との対応関係を示す情報の一例として、反射係数Γの絶対値|Γ|に対応した反射保護閾値を記憶したテーブルを示した。しかし、図7に示すように、反射保護閾値テーブル72に反射係数Γの絶対値|Γ|及び位相角θと反射保護閾値との対応関係を示す情報を予め記憶してもよい。この場合、高周波電源装置1は、図4のような構成となる。
【0067】
図7に示すように、反射保護閾値テーブル72に反射係数Γの絶対値|Γ|及び位相角θと反射保護閾値との対応関係を示す情報を予め記憶しておくと、負荷の特性が、位相角θによって異なる場合に、より適切な制御をすることができるようになる。
【0068】
[第3実施形態]
負荷側インピーダンスZLは、式(5)のように、反射係数Γと特性インピーダンスZ0(例えば50Ω)によって表すことができる。そのため、上記の第1実施形態〜第2実施形態では、反射係数演算部71を設けて反射係数Γを演算し、その反射係数Γに対応する反射保護閾値を反射保護閾値テーブル72から読み出していたが、これに限定されることはなく、負荷側インピーダンスZLを演算し、その負荷側インピーダンスZLに対応する反射保護閾値を反射保護閾値テーブル72から読み出すようにしてもよい。
ZL=Z0・((1+Γ)/(1−Γ)) ・・・・・(5)
【0069】
図8は、第3実施形態の高周波電源装置1の構成例である。なお、図8では、説明を簡略化するため、高周波電源装置1等の符号を図2図4と同一にしている。
【0070】
負荷側インピーダンス演算部74は、方向性結合器30から出力される進行波検出信号Vfおよび反射波検出信号Vrに基づいて、負荷側インピーダンスZLを演算するものである。この図8では、負荷側インピーダンスZLの絶対値|ZL|及び位相角θを閾値選択部73に送る例を示している。しかし、負荷側インピーダンスZLの抵抗分をR、リアクタンス分をXとし、負荷側インピーダンスZLを「ZL=R +jX」の形式で表したときの抵抗分R及びリアクタンス分Xを負荷側インピーダンス演算部74から閾値選択部73に送るようにしてもよい。なお負荷側インピーダンス演算部74は、負荷状態情報演算手段の一例である。
【0071】
反射保護閾値テーブル72は、負荷側インピーダンスZLと反射保護閾値との対応関係を示す情報を予め記憶したものである。
【0072】
閾値選択部73は、負荷側インピーダンス演算部74によって演算された現時点の負荷側インピーダンスZLを入力し、この現時点の負荷側インピーダンスZLに対応する反射保護閾値を反射保護閾値テーブル72から読み出して、適正反射保護閾値PRthとして出力する。
その他は、上記の第1実施形態〜第3実施形態と同様なので説明を省略する。
【0073】
[第4実施形態]
上記の第1実施形態〜第3実施形態は、進行波電力を一定にする制御(以下、進行波電力一定制御)の場合についての実施形態であったが、本発明は、進行波電力から反射波電力を減算した負荷側電力を一定にする制御(以下、負荷側電力一定制御)にも適用できる。以下、本発明を負荷側電力一定制御に適用する場合の実施形態を説明する。
【0074】
図9は、第4実施形態の高周波電源装置1の構成例である。高周波電源装置1は、図9に示すように、進行波電力出力部10、ローパスフィルタ20、方向性結合器30、進行波電力演算部41、反射波電力演算部42、出力設定部500、出力制御部60、適正反射保護閾値設定部70及び反射保護制御部80を備えている。なお、説明を簡略化するため、高周波電源装置1等の符号を図2等と同一にしている。
【0075】
図9に示した高周波電源装置1は、図2に示した高周波電源装置1と比較すると、出力設定部50に代えて出力設定部500が設けられている点、反射係数演算部71によって演算された反射係数Γの情報(反射係数Γの絶対値|Γ|)が出力設定部500に送られる点が異なる。
【0076】
図10は、出力設定部500の内部構成例を示す図である。
出力設定部500は、負荷側電力設定部501と出力設定値演算部502とを備えており、出力設定部50と同様に、進行波電力出力部10から出力させる進行波電力の設定値である出力設定値PFsetを設定し、出力制御部60に送る。
【0077】
負荷側電力設定部501は、進行波電力から反射波電力を減算した負荷側電力の設定値PLset(以下、負荷側電力設定値PLset)を設定する。なお、負荷側電力設定値PLsetは、外部の装置から入力してもよいし、変更も可能である。
【0078】
出力設定値演算部502は、式(6)に示すように、負荷側電力設定値PLsetと反射係数演算部71によって演算された反射係数Γの情報(反射係数Γの絶対値|Γ|)とを用いて出力設定値PFsetを演算する。なお、式(6)は、上記の式(3)において、「Pr=Pf−PLset」,「Pf=PFset」とすることにより求めることができる。
PFset=PLset/(1−|Γ|) ・・・・・(6)
【0079】
このように、負荷側電力設定値PLsetを出力設定値PFsetに変換することができるので、負荷側電力一定制御の場合であっても、第1実施形態〜第3実施形態と同様の制御を行うことができる。
【0080】
なお、上記に限定されるものではなく、例えば、図3又は図4に示した反射係数演算部71で演算した反射係数Γの情報(反射係数Γの絶対値|Γ|)を、出力設定部500に入力するようにしてもよい。また、図8に示した負荷側インピーダンス演算部74で演算した負荷側インピーダンスZLから反射係数Γの情報(反射係数Γの絶対値|Γ|)を求めて、出力設定部500に入力するようにしてもよい。
【0081】
上記の第1実施形態〜第4実施形態では、方向性結合器30によって検出した進行波検出信号Vf及び反射波検出信号Vrに基づいて反射係数Γ又は負荷側インピーダンスZLを求めたが、これに限定されるものではない。例えば、高周波電源装置1の出力端における電圧及び電流を検出する電圧/電流検出器を設け、検出した電圧及び電流から電圧と電流との位相差を求める。そして、電圧、電流及び位相差に基づいて、周知の方法によって反射係数Γ又は負荷側インピーダンスZLを求めてもよい。
【0082】
また、本明細書では、高周波電源装置1の出力端における反射係数Γ又は負荷側インピーダンスZLを求めるための電気情報の検出手段である方向性結合器30及び電圧/電流情報検出部等を電気情報検出手段とする。
【符号の説明】
【0083】
1 高周波電源装置
2 伝送線路
3 インピーダンス整合器
4 負荷接続部
5 負荷
10 進行波電力出力部
20 ローパスフィルタ
30 方向性結合器
40 電力値演算手段
41 進行波電力演算部
42 反射波電力演算部
50 出力設定部
60 出力制御部
61 補償器
70 適正反射保護閾値設定部
71 反射係数演算部
72 反射保護閾値テーブル
73 閾値選択部
74 負荷側インピーダンス演算部
80 反射保護制御部
81 補償器
500 出力設定部
501 負荷側電力設定部
502 出力設定値演算部
Pcnt 出力制御信号
Pf 進行波電力検出値
PFset 出力設定値
Pr 反射波電力検出値
Pres 出力抑制信号
PRth 適正反射保護閾値
Rth 反射保護閾値
Vf 進行波検出信号
Vr 反射波検出信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11