(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6247540
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】蚊取線香
(51)【国際特許分類】
A01N 25/20 20060101AFI20171204BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20171204BHJP
A01N 53/02 20060101ALI20171204BHJP
A01N 53/06 20060101ALI20171204BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20171204BHJP
C11B 9/00 20060101ALI20171204BHJP
A01M 1/20 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
A01N25/20 101
A01N25/00 101
A01N53/00 502C
A01N53/00 506Z
A01P7/04
C11B9/00 K
C11B9/00 P
C11B9/00 W
A01M1/20 R
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-2824(P2014-2824)
(22)【出願日】2014年1月10日
(65)【公開番号】特開2014-148503(P2014-148503A)
(43)【公開日】2014年8月21日
【審査請求日】2016年12月20日
(31)【優先権主張番号】特願2013-3936(P2013-3936)
(32)【優先日】2013年1月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】川崎 倫久
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 彩華
(72)【発明者】
【氏名】市村 由美子
(72)【発明者】
【氏名】浅井 洋
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
【審査官】
高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−167903(JP,A)
【文献】
特開2000−344646(JP,A)
【文献】
特開2012−144476(JP,A)
【文献】
特開2011−012056(JP,A)
【文献】
特表2000−514794(JP,A)
【文献】
特表2009−537122(JP,A)
【文献】
特開2006−036722(JP,A)
【文献】
化学大辞典3,1960年 9月30日,981
【文献】
REGISTRY(STN)[online],1984年11月16日(検索日:2017年6月8日)、CAS登録番号115-71-9
【文献】
香料の事典,1980年 8月27日,p.390
【文献】
REGISTRY(STN)[online],1984年11月16日(検索日:2017年6月8日)、CAS登録番号541-91-3
【文献】
REGISTRY(STN)[online],1984年11月16日(検索日:2017年6月8日)、CAS登録番号127-41-3
【文献】
REGISTRY(STN)[online],1984年11月16日(検索日:2017年6月8日)、CAS登録番号79-77-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 25/20
A01M 1/20
A01N 25/00
A01N 53/02
A01N 53/06
A01P 7/04
C11B 9/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピレスロイド系殺虫成分、線香基材、及び香料を含有する蚊取線香において、前記香料として沸点が250℃以上400℃以下の加熱拡散香料であるガラクソリド、イソ−イ−スーパー(7−アセチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロ−1,1,6,7−テトラメチルナフタレン)、及びヘキシルシンナミックアルデヒドを含有することを特徴とする蚊取線香。
【請求項2】
ピレスロイド系殺虫成分、線香基材、及び香料を含有する蚊取線香において、前記香料として沸点が250℃以上400℃以下の加熱拡散香料であるアンブロキサン、及びカロンを含有することを特徴とする蚊取線香。
【請求項3】
ピレスロイド系殺虫成分、線香基材、及び香料を含有する蚊取線香において、前記香料として沸点が250℃以上400℃以下の加熱拡散香料であるヘキシルシンナミックアルデヒド、イソ−イ−スーパー(7−アセチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロ−1,1,6,7−テトラメチルナフタレン)、及びクマリンを含有することを特徴とする蚊取線香。
【請求項4】
前記線香基材が、植物性粉末としての除虫菊抽出粕粉、柑橘類の表皮粉、茶粉末、ココナッツシェル粉末、及び/又は植物性粘結剤としてのタブ粉から選ばれた少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の蚊取線香。
【請求項5】
沸点が250℃未満の香料の少なくとも1種を更に含有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の蚊取線香。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蚊取線香の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蚊取線香は、主に蚊の成虫駆除を目的とし、古くから一般家庭で夏に欠かすことができないものとして親しまれている。蚊取線香が考案されたのは1890年で、この当時のものは長さが30cm位の棒状で燃焼時間は約1時間であったが、その後、蚊取線香の形態は棒状から渦巻状となり、一本の燃焼時間も人間の就寝時間に合わせて7〜8時間位となった。蚊取線香は、マッチ一本でどこでも手軽に使える便利さを有し、燃え尽きるまで一定の殺虫効果を保持するとともに煙を伴って有効成分の拡散力にも優れるので、科学の進歩した今日からみても非常に合理的な殺虫形態といえる。
蚊取線香は、ピレスロイド系殺虫成分、支燃剤・増量剤(植物性粉末、鉱物性粉末、木炭粉など)や糊剤(植物性粘結剤、澱粉など)等の線香基材、及び必要ならば香料、防黴剤等を含む混合粉に、着色剤を含む水溶液を加えて混練後、押出機にかけて板状シートとし、打抜機によって渦巻型に打抜き、水分率7〜10%程度まで乾燥して製するのが一般的である。なお、着色剤としては主にマラカイトグリーンを用い、涼感を醸し出す緑色渦巻線香が主流となっている。
【0003】
ところで、香り付きの蚊取線香はいくつか知られており、例えば、特開平10−167903号公報では、白檀エキスや伽羅エキス等の香料成分を配合して、燃焼時に松や杉等の木粉から発生する異臭や刺激臭をマスキングする試みが提案されている。しかしながら、木粉を多く使用する限り、たとえお香成分を配合したとしても不十分なマスキングに留まり、蚊取線香の長年の伝統が醸し出す、例えば「深みのある心地よい香り」を実現することは困難であった。
即ち、蚊取線香に相応しい香りを付与するにあたっては、加熱や煙を伴う蚊取線香独特の剤型に適合した香料成分を選択するとともに、線香基材との組合わせを徹底的に検討する必要があり、未だ有用な香り付き蚊取線香は創出されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−167903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、蚊取線香にマッチした、有用な香り付き蚊取線香を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の構成が上記目的を達成するために優れた効果を奏することを見出したものである。
(1)ピレスロイド系殺虫成分、線香基材、及び香料を含有する蚊取線香において、前記香料として沸点が250℃以上400℃以下の加熱拡散香料を含有する蚊取線香。
(2)前記沸点が250℃以上400℃以下の加熱拡散香料が、ガラクソリド、ムスクケトン、ヘキシルシンナミックアルデヒド、エチレンブラシレート、メチルアトラレート、ヘキシルサリシレート、トリシクロデセニルアセテート、オレンジャークリスタル、アンブロキサン、キャシュメラン、カロン、ヘリオトロピン、ジヒドロインデニル−2,4−ジオキサン、インドール、メチルセドリルケトン、メチルβ−ナフチルケトン、メチルジヒドロジャスモネート、ローズフェノン、クマリン、バニリン、スチラックスレジノイド、イソ−イ−スーパー(7−アセチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロ−1,1,6,7−テトラメチルナフタレン)、ベンジルベンゾエート、ベンジルサリチレート、イオノン、リリーアルデヒド、及びイソロンギホラノンから選ばれた少なくとも1種である(1)に記載の蚊取線香。
(3)前記沸点が250℃以上400℃以下の加熱拡散香料が、ガラクソリド、ムスクケトン、ヘキシルシンナミックアルデヒド、エチレンブラシレート、アンブロキサン、キャシュメラン、ヘリオトロピン、インドール、メチルセドリルケトン、メチルジヒドロジャスモネート、ローズフェノン、クマリン、バニリン、スチラックスレジノイド、イソ−イ−スーパー(7−アセチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロ−1,1,6,7−テトラメチルナフタレン)、ベンジルベンゾエート、ベンジルサリチレート、イオノン、リリーアルデヒド、及びイソロンギホラノンから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の蚊取線香。
(4)前記線香基材が、植物性粉末としての除虫菊抽出粕粉、柑橘類の表皮粉、茶粉末、ココナッツシェル粉末、及び/又は植物性粘結剤としてのタブ粉から選ばれた少なくとも1種を含有する(1)ないし(3)のいずれか1に記載の蚊取線香。
(5)沸点が250℃未満の香料の少なくとも1種を更に含有する(1)ないし(4)のいずれか1に記載の蚊取線香。
【発明の効果】
【0007】
本発明の蚊取線香は、蚊取線香独特の剤型に適合した香料成分を選択するとともに、線香基材との組合わせを最適化させることによって、蚊取線香に相応しい香りを付与させたのでその実用性は極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の蚊取線香は、有効成分として殺虫効力と安全性の点からピレスロイド系殺虫成分を使用する。ピレスロイド系殺虫成分としては、ピレトリン、アレスリン、フラメトリン、プラレトリン、エムペントリン、テラレスリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、4−メトキシメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル 2,2,3,3−テトラメチルシクロプロパンカルボキシラートなどがあげられるがこれらに限定されない。なお、化学構造中に不斉炭素や二重結合に基づく光学異性体あるいは幾何異性体が存在する場合、本発明はそれぞれの単独ならびに任意の混合物を包含することはもちろんである。
ピレスロイド系殺虫成分の含有量としては、蚊取線香の全体量に対して、0.005〜2.0質量%が好ましい。
【0009】
本発明では、殺虫効力の増強のために、N−(2−エチルヘキシル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド(以降、効力増強剤Aと称する)、ピペロニルブトキサイド、リーセン384等の共力剤を添加することもできる。共力剤は、ピレスロイド系殺虫成分に対して0.5〜8.0倍量配合すればよい。
【0010】
線香基材としては、支燃剤・増量剤(植物性粉末、鉱物性粉末、木炭粉など)や糊剤(植物性粘結剤、澱粉など)等があげられるが、本発明では蚊取線香に相応しい香りを付与するために、植物性粉末としての除虫菊抽出粕粉、柑橘類の表皮粉、茶粉末、ココナッツシェル粉末、及び/又は植物性粘結剤としてのタブ粉から選ばれた少なくとも1種が好適に用いられる。
また、本発明でいう茶粉末とは、通常の茶の葉を乾燥したものを粉末にしたものだけではなく、茶を濾した茶葉を乾燥し粉末にした茶抽出粕粉をも含む。
かかる線香基材は、蚊取線香の全体量に対して、1.0〜99質量%、好ましくは10〜60質量%、更に好ましくは20〜50質量%の範囲で適宜配合すればよく、後記する香料成分と相まって、本発明が特徴とする蚊取線香に相応しい香り、例えば「深みのある心地よい香り」を実現することが可能となったものである。
勿論、本発明の趣旨に支障を来たさない限りにおいて、例えば、モミ、トガ、ヒノキ等の木粉等(植物性粉末)、ケイソウ土、クレー、カオリン、タルク等(鉱物性粉末)、あるいは素灰(木炭粉)等の上記以外の支燃剤・増量剤や、例えば、澱粉、タピオカ粉、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコール等の上記以外の糊剤を適宜配合しても構わない。なお、試験の結果、木粉の配合量は、蚊取線香の全体量に対して多くても45%以下に抑え、松、杉の使用を避けるのが好ましかった。
【0011】
本発明の蚊取線香は、上記成分とともに、香料として沸点が250℃以上400℃以下の加熱拡散香料を含有することに特徴を有する。
本発明でいう加熱拡散香料とは、加熱の際に香料成分が効率よく揮散することで広範囲に拡散するとともに香り立ちが高まる性質を持つものを意味する。
このような加熱拡散香料は、線香燃焼時揮散し、ベースノート成分としてまろやかな「安らぎの香り」をほのかに醸し出す。具体的には、ガラクソリド、ムスクケトン、ヘキシルシンナミックアルデヒド、エチレンブラシレート、メチルアトラレート、ヘキシルサリシレート、トリシクロデセニルアセテート、オレンジャークリスタル、アンブロキサン、キャシュメラン、カロン、ヘリオトロピン、ジヒドロインデニル−2,4−ジオキサン、インドール、メチルセドリルケトン、メチルβ−ナフチルケトン、メチルジヒドロジャスモネート、ローズフェノン、クマリン、バニリン、スチラックスレジノイド、イソ−イ−スーパー(7−アセチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロ−1,1,6,7−テトラメチルナフタレン)(以下、「イソ−イ−スーパー」と記載する)、ベンジルベンゾエート、ベンジルサリチレート、イオノン、リリーアルデヒド、イソロンギホラノン、アセト酢酸−m−キシリダイド、アセト酢酸−o−トルイダイド、アセトシリンゴン、アセチルトリエチルシトレート、ベンゾフェノン、ベンジルカプリレート、ベンジルシンナメート、ベンジルオイゲノール、ベンジルラウレート、ベンジルメチルチグレート、ベンジルフェニルエーテル、ベンジルフェニルアセテート、ゲラニルアントラニレ−ト、ゲラニルヘキサノエート、ゲラニルシクロペンタノン、ゲラニルフェニルアセテート、ヘキシルフェニルアセテート、イコサン、インダン、シンナミルブチレート、シンナミルフェニルアセテート、ヘキセニルベンゾエート、シトラールジエチルアセタール、イソアミルベンゾエート、リナリルオクタノエート、1−メンチルサリチレート、シトロネリルアントラニレート、ジメチルフェネチルカルビニルイソブチレート、ジフェニルオキシド、ドデシルブチレート、エチルバニレート、エチルバニリン、メンチルイソバレレート、メトキシエチルフェニルグリシデート、メチル2,4−ジヒドロキシ−3,6−ジメチルベンゾエート、ネロリジルアセテート、ネリルイソバレレート、オクテニルシクロペンタノン、オクチルカプリレート、フェネチルイソアミルエーテル、フェネチルオクタノエート、フェネチルフェニルアセテート、エチルバニリンアセテート、エチルバニリンプロピレングリコールアセタール、エチルヘキシルパルミテート、オイゲニルベンゾエート、ファルネソール、ファルネシルアセテート、ファルネシルメチルエーテル、ホルムアルデヒドシクロドデシルメチルアセタール、ホルミルエチルテトラメチルテトラリン、フルフリルベンゾエート、γ−ドデカラクトン、フェネチルサリチレート、フェノキシエチルプロピオネート、フェニルベンゾエート、フェニルジスルフィド、サンタリルブチレート、テトラヒドロ−プソイド−イオノン、テオブロミン、及びバレンセン等があげられ、これらから選ばれた少なくとも1種が蚊取線香の全体量に対して0.001〜2.0質量%の範囲で配合される。なお、上記香料成分が精油中に含まれている場合、その精油も本発明に包含されることは勿論である。
【0012】
上記香料成分のうち、特に、ガラクソリド、ムスクケトン、ヘキシルシンナミックアルデヒド、エチレンブラシレート、メチルアトラレート、ヘキシルサリシレート、トリシクロデセニルアセテート、オレンジャークリスタル、アンブロキサン、キャシュメラン、カロン、ヘリオトロピン、ジヒドロインデニル−2,4−ジオキサン、インドール、メチルセドリルケトン、メチルβ−ナフチルケトン、メチルジヒドロジャスモネート、ローズフェノン、クマリン、バニリン、スチラックスレジノイド、イソ−イ−スーパー、ベンジルベンゾエート、ベンジルサリチレート、イオノン、リリーアルデヒド、及びイソロンギホラノンから選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
また、本発明では、沸点が250℃未満の香料を更に含有させて、加熱拡散香料のトップノート及びミドルノート成分として構成したり、香調の調整を図ることもできる。
例えば、p−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート、o−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート、p−tert−ペンチルシクロヘキシルアセテート、ベンジルアセテート、フェニルエチルアセテート、スチラリルアセテート、アニシルアセテート、シンナミルアセテート、テルピニルアセテート、ジヒドロテルピニルアセテート、リナリルアセテート、エチルリナリルアセテート、シトロネリルアセテート、ゲラニルアセテート、ネリルアセテート、ボルニルアセテート、及びイソボルニルアセテート等の酢酸エステル化合物、
アリルヘキサノエート、アリルヘプタノエート、アリルオクタノエート、アリルイソブチルオキシアセテート、アリルn−アミルオキシアセテート、アリルシクロヘキシルアセテート、アリルシクロヘキシルプロピオネート、アリルシクロヘキシルオキシアセテート、アリルフェノキシアセテート等のアリルエステル化合物、
ならびに、テルピネオール、ゲラニオール、ジヒドロミルセノール、ボルネオール、メントール、シトロネロール、ネロール、リナロール、エチルリナロール、チモール、フェニルエチルアルコール、及びオイゲノール等のモノテルペン系アルコールもしくは炭素数が10の芳香族アルコール、
他に、リモネン、α−ピネン、テルピネン、メチルヨノン、トナリド、アニスアルデヒド等があげられるが、これらに限定されない。
【0014】
更に、シス−3−ヘキセノールで代表される「みどりの香り」を配合することによって、リラックス効果を伴うとともに蚊取線香に相応しい香りを実現することも可能となる。
ところで、蚊取線香の燃焼部分は700〜800℃にも達するが、燃焼部分から離れるにつれて温度勾配が生じ、有効成分のピレスロイド系殺虫成分は6〜8mm手前の約250℃前後のところから揮散することが知られている。同様に、香料成分もその揮散性に応じ、シス−3−ヘキセノールのような揮散性の高いものほど、遠く離れた手前の温度の低い部分から熱分解を被ることなく揮散するものと推測される。
【0015】
本発明の蚊取線香には、上記成分に加え、防黴剤、安定剤、着色剤等の添加物を配合してもよい。防黴剤としてはデヒドロ酢酸塩やソルビン酸塩があげられ、安定剤としてはジブチルヒドロキシトルエン(BHT)が代表的である。また、着色剤としてはマラカイトグリーンを用い、涼感を醸し出す緑色渦巻線香が主流となっているが、食品添加物に該当し安全性の高い色素を使用することも実用的である。例えば、食用青色1号と共に、食用黄色4号及び/又は食用赤色106号を組合わせてマラカイトグリーンに替わる緑色を実現したり、あるいは黄緑色線香や紫色線香等を製することもできる。
【0016】
本発明の蚊取線香は、前記成分と水を含む混合粉に、着色剤を含む水溶液を加えて混練後、押出機にかけて板状シートとし、打抜機によって渦巻型に打抜き、水分率7〜10%程度まで乾燥して製するのが一般的である。なお、ピレスロイド系殺虫成分及び/又は香料成分を含まない線香成形後に、ピレスロイド系殺虫成分及び/又は香料成分をスプレー、塗布、滴下、浸漬等の手段によって含有させることも可能である。
【0017】
こうして得られた本発明の蚊取線香は、従来の蚊取線香の殺虫効力や品質を保持しつつ、長年親しまれてきた蚊取線香に相応しい「安らぎの香り」を付与させたもので、通常の蚊類やハエ類、ゴキブリ類、ノミ、トコジラミ、コバエ類、ユスリカ等に対して高い駆除効果を奏するものである。蚊類としては、アカイエカ、ヒトスジシマカ、チカイエカ、コダカアカイエカ、ネッタイイエカ、ヌカカ等が例示される。
【0018】
つぎに具体的実施例に基づいて、本発明の蚊取線香を更に詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
dl,d−T80−アレスリンを0.3部、効力増強剤Aを0.7部、支燃剤・増量剤として、除虫菊抽出粕粉(植物性粉末)を35部、柑橘類の表皮粉(植物性粉末)を8.0部及び木粉(モミ由来の植物性粉末)を32部、糊剤として、タブ粉(植物性粘結剤)を8.4部とα−澱粉を15部、加熱拡散香料として、ガラクソリド、イソ−イ−スーパー及びヘキシルシンナミックアルデヒド等を含む香料成分(沸点が250℃以上400℃以下のベースノート成分)を0.06部、とシス−3−ヘキセノール及びリナロール等を含む香料成分(沸点が250℃未満のトップノート及びミドルノート成分)を0.04部を含有する混合粉に、着色剤(食用青色1号:85%、食用黄色4号:10%及び食用赤色106号:5%、)を0.35部と防黴剤としてのデヒドロ酢酸ナトリウムを0.15部及び水100部を加えて混練後、押出機にかけて板状シートとし、打抜機によって渦巻型に打抜き、水分率7〜10%程度まで乾燥して緑色の蚊取線香Aを製造した。
【0020】
こうして得られた本発明の蚊取線香Aは、使用前に開封した際に、「安らぎの香り」を発散し、異臭、刺激臭は感じられなかった。そして、6畳の部屋で就寝中使用したところ、この「安らぎの香り」は使用最後まで持続し、リラックス感をもたらすとともに、その間蚊に悩まされることがなかった。
【0021】
蚊取線香Aと同様にして、加熱拡散香料として、エチレンブラシレート、メチルアトラレート及びヘキシルサリシレート等を含む香料成分(沸点が250℃以上400℃以下のベースノート成分)のみを置き換えて製造した蚊取線香B、加熱拡散香料として、トリシクロデセニルアセテート、オレンジャークリスタル、及びキャシュメラン等を含む香料成分(沸点が250℃以上400℃以下のベースノート成分)のみを置き換えて製造した蚊取線香C、加熱拡散香料として、ヘリオトロピン、ジヒドロインデニル−2,4−ジオキサン、及びインドール等を含む香料成分(沸点が250℃以上400℃以下のベースノート成分)のみを置き換えて製造した蚊取線香D、加熱拡散香料として、メチルセドリルケトン、メチルβ−ナフチルケトン、ローズフェノン、及びスチラックスレジノイド等を含む香料成分(沸点が250℃以上400℃以下のベースノート成分)のみを置き換えて製造した蚊取線香Eを作成した。これらの線香を蚊取線香Aと同様に6畳の部屋で試験したところ、いずれも同様に「安らぎの香り」が持続し、リラックス感をもたらすとともに、その間蚊に悩まされることがないことが確認出来た。
【実施例2】
【0022】
実施例1に準じて、表1に示す各種の蚊取線香(着色剤、防黴剤及び水の配合は実施例1と同じ)を作製し、以下の項目について性能を評価した。結果を表2に示す。
(1)官能試験:直径20cm、高さ40cmのガラスシリンダー内で供試線香をそれぞれ燃焼させ、10人のパネラーによる香りの試験を行った。結果は、パネラーの香りに対する評点の平均値で示した(香りの嗜好性の最高値を10、最低値を1とした)。
(2)脳波測定:6畳の部屋で供試線香(本発明線香1乃至8、比較例線香1乃至3)をそれぞれ燃焼させた。試験者5人が1人ずつ部屋の中央に静座し装置を装填して、ファストα波、ミッドα波(リラックス状態で意識が集中した状態)、スローα波、β波(緊張、不安、イライラ時の状態)及びθ波を測定した。各脳波についてブランク(線香を使用しない平常時の状態)からの占有率の変化を算出し、ミッドα波の変化率/β波の変化率(5人の平均値)を求めて、供試線香がもたらすリラックス度を評価した。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
試験の結果、ピレスロイド系殺虫成分、線香基材、及び沸点が250℃以上400℃以下の加熱拡散香料を含有する本発明の蚊取線香は、長年親しまれてきた蚊取線香に相応しい「安らぎの香り」を発散し、リラックス感をもたらすものであった。このことは、官能試験だけでなく、脳波測定からも裏付けられている。
なお、本発明の中でも本発明線香4では木粉の配合が多く、本発明線香5ではタブ粉が配合されておらず、本発明の中では効果がやや低い傾向にあった。これらのことから線香基材としては、植物性粉末としての除虫菊抽出粕粉、柑橘類の表皮粉、茶粉末、ココナッツシェル粉末、及び/又は植物性粘結剤としてのタブ粉の配合が多いものと香料との組み合わせの方がより好ましいことが判った。
また、本発明線香5は本発明線香6と比較し、沸点が250℃以上400℃以下の加熱拡散香料に沸点が250℃未満のトップノート及びミドルノート成分を添加したものであるが、この方がより好ましい事が判った。
これに対し、比較例1のように、加熱拡散香料を配合しない線香では、嗜好性の高い「やすらぎの香り」が得られず、また、250℃未満の香料成分が主体の精油を多く配合した比較例2は、[ミッドα波の変化率/β波の変化率]の数値が低く、不安やイライラ感をもたらす傾向があった。更に、比較例3は、本発明に係る加熱拡散香料の配合がなく、沸点250℃未満の香料を配合しても、木粉由来の異臭、刺激臭が強かった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の蚊取線香は、殺虫剤として実用性の高いものであり、これ以外の例えば仏壇線香などにも応用が可能である。