(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
(歯科用前処理材)
本発明の歯科用前処理材は、少なくとも、(a)酸性基含有重合性単量体と、(b)水と、(c)色変化材とを含み、必要に応じて、その他の材を含む。
【0011】
<(a)酸性基含有重合性単量体>
前記(a)酸性基含有重合性単量体は、前記歯科用前処理材の歯質に対する脱灰作用及び浸透作用を付与する観点から配合される。
前記(a)酸性基含有重合性単量体は、1分子中に少なくとも1つの酸性基と少なくとも1つの重合性不飽和基を有する化合物を意味し、このような化合物であれば、特に制限はなく、目的に応じて公知の化合物から適宜選択して用いることができる。
前記酸性基は、pKa6以下である官能基を意味する。このような酸性基としては、特に制限はないが、歯質の脱灰作用が高く、歯質に対する接着力が高いリン酸基、カルボキシ基が好ましく、具体的には、次に示す基を挙げることができる。なお、酸無水物の基についても、加水分解した状態のものとして前記酸性基に含める。
【0013】
また、前記重合性不飽和基としては、特に制限はなく、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、ビニル基、アリル基、エチニル基、スチリル基を挙げることができ、中でも、前記アクリロイル基、前記メタクリロイル基、前記アクリルアミド基、前記メタクリルアミド基が好ましい。
【0014】
好適に用いることができる前記(a)酸性基含有重合性単量体の例としては、下記構造式に示す化合物の他、ビニル基に直接リン酸基が結合したビニルホスホン酸類、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルスルホン酸等を挙げることができる。
【0019】
ただし、前記構造式で示される化合物中、前記R
1は、水素原子及びメチル基のいずれかを表す。
中でも、下記一般式(a−1)及び(a−2)のいずれかで示される酸性基含有重合性単量体が好ましい。
【0021】
ただし、前記一般式(a−1)及び(a−2)で示される化合物中、前記R
1は、水素原子及びメチル基のいずれかを表す。前記R
2及び前記R
3は、アルキル鎖を表し、前記R
2と前記R
3の炭素数の合計が4以上20未満である。
【0022】
前記一般式(a−1)で示される化合物としては、例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート(「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル又はメタアクリロイルの意であり、以下も同様の表記とする)、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16−(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート等が挙げられる。
【0023】
また、前記一般式(a−2)で示される化合物としては、例えば、ジ〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔9−(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート等が挙げられる。
【0024】
なお、前記(a)酸性基含有重合性単量体としては、前述の化合物を1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0025】
<(b)水>
前記(b)水は、前記(a)酸性基含有重合性単量体の前記酸性基による歯質の脱灰作用を強め、歯質への浸透作用を促進させる観点から配合される。
前記(b)水としては、特に制限はないが、前記歯科用前処理材の保存安定性、生体適合性等を低下させる不純物を実質的に含まないことが好ましく、脱イオン水、蒸留水等を用いることが好ましい。
前記(b)水の配合量としては、特に制限はないが、前記(a)酸性基含有重合性単量体を含む全重合性単量体100質量部に対して、3質量部〜200質量部が好ましい。
なお、前記(b)水は、前記歯科用前処理材を歯に塗布した後、前記(a)酸性基含有重合性単量体を重合させる前に、圧縮空気の吹き付け等により、乾燥除去して使用される。
【0026】
<(c)色変化材>
前記(c)色変化材は、乾燥前後の呈色変化により歯に塗布した後の乾燥状態を確認可能とする材であり、前記歯科用前処理材は、歯に塗布した後、前記歯科用前処理材中に含まれる前記(b)水や後述する(d)揮発性有機溶媒に含まれる水分が確実に除去されているか、前記(c)色変化材の呈色変化を通じて明確かつ容易に確認することを技術の核とする。
このような(c)色変化材としては、乾燥前後で呈色変化するものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、(e)水溶性金属塩、(g)pH指示薬、(h)酸化還元指示薬等が挙げられる。中でも、接着強さへの影響の小ささから、前記(e)水溶性金属塩が好ましい。
なお、前記(c)色変化材としては、カラーセンサ等の装置により呈色変化を確認するものや、目視に呈色変化を確認するものを適用することができるが、目視により呈色変化を確認するものの方が作業負担がなく、より容易に乾燥状態を確認することができることから、呈色変化の視認性が良好である材料を選択することが好ましい。
【0027】
−(e)水溶性金属塩−
前記(e)水溶性金属塩としては、水分の有無により呈色変化する材料を適用することができ、例えば、硫化ニッケル、硫酸ニッケル、ハロゲン化金属塩を挙げることができるが、視認性が良好であることから、ハロゲン化金属塩が好ましい。
前記ハロゲン化金属塩としては、例えば、塩化鉄(III)、塩化コバルト(II)、塩化銅(I)、塩化銅(II)、塩化ニッケル(II)、臭化銀(I)、臭化マンガン(II)、ヨウ化マンガン(I)等を挙げることができるが、中でも、視認性が良好な塩化コバルト(II)が特に好ましい。
前記(e)水溶性金属塩の呈色変化に関し、前記塩化コバルト(II)の呈色変化を例として説明すると、前記(b)水が存在するときに無色に近い赤色に呈色し、前記(b)水が乾燥除去されたときに青色に呈色する。この呈色変化を利用して乾燥状態を確認する。なお、前記(d)揮発性有機溶媒を含む場合、前記塩化コバルト(II)は、青色に呈色し、前記(d)揮発性有機溶媒が揮発すると、前記(b)水により無色に近い赤色に呈色し、前記(b)水が乾燥除去されると、再び青色に呈色する。
【0028】
前記(e)水溶性金属塩の配合量としては、特に制限はないが、前記全重合性単量体100質量部に対して、0.3質量部〜10質量部が好ましい。前記配合量が、10質量部を超えると、接着成分の接着強さが低下することがあり、0.3質量部未満であると、乾燥状態の視認性が低下することがある。ただし、前記配合量が少なく、前記(e)水溶性金属塩自身での視認性が低い場合であっても、(f)アルカリ土類金属塩と併用することで、視認性を向上させることができ、接着強さを維持しつつ、乾燥状態の確認を明確に行うことができる。
なお、前記(e)水溶性金属塩における水溶性とは、20℃での水への溶解度が0.005g/100mL以上であることを意味する。
【0029】
−−(f)アルカリ土類金属塩−−
前記(f)アルカリ土類金属塩は、前述の通り、前記(e)水溶性金属塩と併用して視認性を向上させる観点から配合される。
このような(f)アルカリ土類金属塩としては、特に制限はなく、前記(e)水溶性金属塩の種類に応じて適宜選択することができ、例えば、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等を挙げることができる。
なお、前記(f)アルカリ土類金属塩の配合量としては、特に制限はなく、前記全重合性単量体100質量部に対して、0.1質量部〜1質量部程度である。
【0030】
−(g)pH指示薬−
前記(g)pH指示薬では、水分の乾燥前後でpHが変化し、呈色変化することを利用して、乾燥状態を確認する。
前記(g)pH指示薬としては、前記歯科用前処理材の乾燥状態で酸性を示すことから、変色域がpH3.0以下に存するものを選択することが好ましい。
このような(g)pH指示薬としては、特に制限はないが、視認性が良好であることから、チモールブルーが特に好ましい。
前記(g)pH指示薬の呈色変化に関し、前記チモールブルーの呈色変化を例として説明すると、水分が存在するときにオレンジに呈色し、水分が乾燥除去されたときに赤褐色に呈色する。この呈色変化を利用して乾燥状態を確認する。
【0031】
前記(g)pH指示薬の配合量としては、特に制限はないが、前記全重合性単量体100質量部に対して、0.5質量部〜5質量部が好ましい。前記配合量が、5質量部を超えると、接着成分の接着強さが低下することがあり、0.5質量部未満であると、乾燥状態の視認性が低下することがある。
【0032】
−(h)酸化還元指示薬−
前記(h)酸化還元指示薬では、水分の乾燥前後で酸化還元電位が変化し、呈色変化することを利用して、乾燥状態を確認する。
前記(h)酸化還元指示薬としては、前記歯科用前処理材の乾燥状態で酸化還元電位が低い値を示すことから、変色域が1.0V以下に存するものを選択することが好ましい。
このような(h)酸化還元指示薬としては、特に制限はないが、視認性が良好であることから、メチレンブルーが特に好ましい。
前記(h)酸化還元指示薬の呈色変化に関し、前記メチレンブルーの呈色変化を例として説明すると、水分が存在するときに無色であり、水分が乾燥除去されたときに緑色に呈色する。この呈色変化を利用して乾燥状態を確認する。
【0033】
前記(h)酸化還元指示薬の配合量としては、特に制限はないが、前記全重合性単量体100質量部に対して、0.5質量部〜5質量部が好ましい。前記配合量が、5質量部を超えると、接着成分の接着強さが低下することがあり、0.5質量部未満であると、乾燥状態の視認性が低下することがある。
【0034】
<その他の材>
前記その他の材としては、本発明の効果を妨げない限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、(d)揮発性有機溶媒、(i)酸性基非含有重合性単量体、(j)化学重合開始材、シリカ系フィラー等が挙げられる。
【0035】
−(d)揮発性有機溶媒−
前記(d)揮発性有機溶媒は、接着に有効な成分を歯質に浸透させるとともに、前記歯科用前処理材の保存安定性の観点から配合される。
ここで、前記(d)揮発性有機溶媒は、室温で揮発性を有し、水溶性を示す有機溶媒が該当し、前記揮発性とは、760mmHgでの沸点が100℃以下であり、且つ20℃における蒸気圧が1.0KPa以上であることを意味する。また、前記水溶性とは、20℃での水への溶解度が20g/100mL以上であることを意味し、20℃において水と任意の割合で相溶することが好ましい。
このような前記(d)揮発性有機溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどを挙げることができる。中でも、生体に対する毒性を考慮すると、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトンが好ましい。
なお、これらは、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0036】
前記(d)揮発性有機溶媒を配合する場合の配合量としては、特に制限はないが、前記全重合性単量体100質量部に対して、30質量部〜500質量部が好ましい。
なお、前記(d)揮発性有機溶媒は、前記歯科用前処理材を歯に塗布した後、前記(a)酸性基含有重合性単量体を重合させる前に、圧縮空気の吹き付け等により、乾燥除去して使用される。
【0037】
−(i)酸性基非含有重合性単量体−
前記(i)酸性基非含有重合性単量体は、前記歯科用前処理材を塗布した後、後述する歯科用接着材を用いず、直接、歯科用充填修復材を充填する場合の接着成分として配合される。
前記(i)酸性基非含有重合性単量体は、少なくとも一つの前記重合性不飽和基を有し、かつ、前記酸性基を有しない化合物を指し、公知の化合物から適宜選択して用いることができる。中でも、前記重合性不飽和基を複数有する多官能重合性単量体が、硬化速度、硬化体の機械的物性、耐水性、及び耐着色性等を良好にする観点から好適に用いられる。また、(メタ)アクリレート系重合性単量体が好適に使用される。多官能性の前記(メタ)アクリレート系重合性単量体の代表例としては、下記(1)〜(3)に示される、二官能重合性単量体、三官能重合性単量体、四官能重合性単量体が挙げられる。
【0038】
(1)二官能重合性単量体
前記二官能重合性単量体としては、芳香族化合物系の重合性単量体、脂肪族化合物系の重合性単量体が挙げられる。
前記芳香族化合物系の重合性単量体としては、例えば、2,2’−ビス{4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]フェニル}プロパン、2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシフェニル]プロパン、2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル]プロパン、2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル]プロパン、2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル]プロパン、2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル]プロパン、2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル]プロパン、2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2−[4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル]−2‐[4−(メタ)クリロイルオキシトリエトキシフェニル]プロパン、2−[4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル]−2−[4−(メタ)クリロイルオキシトリエトキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(メタ)クリロイルオキシプロポキシフェニル]プロパン;及びOH基含有ビニルモノマーと脂肪族ジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト等が挙げられる。
なお、前記OH基含有ビニルモノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレート、これらメタクリレートに対応するアクリレート等が挙げられる。また、前記ジイソシアネートとしては、例えば、ジイソシアネートメチルベンゼン、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
【0039】
前記脂肪族化合物系の重合性単量体としては、例えば、1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート、1,8−オクタンジオールジメタクリレート、1,10−デカンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテルジメタクリレート等のメタクリレート、これらメタクリレートに対応するアクリレート等;並びにOH基含有ビニルモノマーと脂肪族ジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト等が挙げられる。
なお、前記OH基含有ビニルモノマーとしては、先に例示したものと同様のものを挙げることができ、前記脂肪族ジイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)等を挙げることができる。
【0040】
(2)三官能重合性単量体
前記三官能重合性単量体としては、例えば、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリメチロールメタントリメタクリレート等のメタクリレート;及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート等が挙げられる。
【0041】
(3)四官能重合性単量体
前記四官能重合性単量体としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート;及びジイソシアネート化合物とグリシドールジメタクリレートとの付加体から得られるジアダクト等が挙げられる。
なお、前記ジイソシアネート化合物としては、例えば、ジイソシアネートメチルベンゼン、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネート等を挙げることができる。
なお、これらの多官能(メタ)アクリレート系重合性単量体は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
更に、必要に応じて、単官能の(メタ)アクリレート系重合性単量体を用いてもよい。
前記単官能の(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0043】
また、前記(メタ)アクリレート系重合性単量体以外の重合性単量体を用いてもよい。
このような重合性単量体としては、例えば、フマル酸モノメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物;スチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン、α−メチルスチレンダイマー等のスチレン系化合物;ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルカーボネート、アリルジグリコールカーボネート等のアリル化合物;などが挙げられる。
【0044】
また、前記重合性単量体として、疎水性の重合性単量体を多く含む場合には、前記(i)酸性基非含有重合性単量体として両親媒性重合性単量体を併用することが好ましい。
前記両親媒性重合性単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(ポリエチレングリコール重合度9〜50)、1,2,3,4−ブタンテトラオール−1,4−ジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。このような両親媒性重合性単量体が配合されることにより、組成の均一性を確保することができ、象牙質への浸透性がより向上する。その結果、安定して高い接着強さを得ることができる。
【0045】
なお、前記(i)酸性基非含有重合性単量体としては、特に制限はないが、前記全重合性単量体100質量部中、10質量部〜90質量部が好ましい。
【0046】
−(j)化学重合開始材−
前記歯科用前処理材としては、目的に応じて前記(j)化学重合開始材を含むこととしてもよい。その目的の一つとして、前記歯科用前処理材を塗布した後、前記歯科用接着材を用いず、直接、前記歯科用充填修復材を充填する場合に配合し、後述する前記歯科用充填材中の(p)化学重合開始材と化学反応して接着成分の重合硬化を開始させることが挙げられる。
ここで、化学重合開始材とは、複数の成分からなり、これらの成分が接触した際に、重合開始種(ラジカル)を生成するものが該当する。
前記(j)化学重合開始材としては、例えば、他の前記化学重合開始材と化学反応して前記重合開始種を生成するものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記(a)酸性基含有重合性単量体及び前記(b)水を含む前記歯科用前処理材においては、第四周期遷移金属化合物を好適に用いることができる。
【0047】
前記第四周期遷移金属化合物は、周期表第四周期の3〜12族の金属化合物であり、具体的には、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)の金属化合物である。これら金属化合物を前処理材中に配合することにより、接着界面で、前記歯科用充填修復材中に含まれる前記(p)化学重合開始材とラジカル重合開始材を形成し、被着面と前記歯科用充填修復材の接着性を極めて良好なものとすることができる。
なお、前記第四周期遷移金属化合物における遷移金属元素としては、各々が複数の価数を取りうるが、安定に存在できる価数であればよく、例えば、Sc(III)、Ti(IV)、V(III〜V)、Cr(II、III、VI)、Mn(II〜VII)、Fe(II、III)、Co(II、III)、Ni(II)、Cu(I、II)、Zn(II)が適用可能とされる。
このような化合物の具体例としては、+III価のスカンジウム化合物としてヨウ化スカンジウム(III)等を挙げることができ、+VI価のチタニウム化合物として塩化チタン(IV)、チタニウム(IV)テトライソプロポキシド等を挙げることができ、+IV価のバナジウム化合物として四酸化二バナジウム(IV)、酸化バナジウムアセチルアセトナート(IV)、シュウ酸バナジル(IV)、硫酸バナジル(IV)、オキソビス(1−フェニル−1,3−ブタンジオネート)バナジウム(IV)、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)等を挙げることができ、+V価のバナジウム化合物として五酸化バナジウム(V)、メタバナジン酸ナトリウム等を挙げることができ、+II価のクロム化合物として塩化クロム(II)等を挙げることができ、+III価のクロム化合物として塩化クロム(III)等を挙げることができ、+VI価のクロム化合物としてクロム酸、クロム酸塩等を挙げることができ、+II価のマンガン化合物として酢酸マンガン(II)、ナフテン酸マンガン(II)等を挙げることができ、+II価の鉄化合物として酢酸鉄(II)、塩化鉄(II)等を挙げることができ、+III価の鉄化合物として酢酸鉄(III)、塩化鉄(III)等を挙げることができ、+II価のコバルト化合物として酢酸コバルト(II)、ナフテン酸コバルト(II)等を挙げることができ、+II価のニッケル化合物として塩化ニッケル(II)等を挙げることができ、+I価の銅化合物として塩化銅(I)、臭化銅(I)等を挙げることができ、+II価の銅化合物として塩化銅(II)、酢酸銅(II)等を挙げることができ、+II価の亜鉛化合物として塩化亜鉛(II)、酢酸亜鉛(II)等を挙げることができる。これらの中でも、V(IV、V)、Mn(II)、Fe(II、III)、Co(II)が好ましく、中でもより高い接着強さが得られることから、+IV及び/又は+V価のバナジウム化合物が好ましい。
【0048】
なお、前記(j)化学重合開始材の配合量としては、特に制限はないが、前記全重合性単量体成分100質量部に対して、0.05質量部〜3質量部が好ましい。
【0049】
−シリカ系フィラー−
前記シリカ系フィラーは、前記歯科用前処理材の保存時におけるゲル化を抑制する観点から配合される。
前記シリカ系フィラーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、石英などの結晶質シリカ、非晶質シリカの他、シリカチタニア、シリカジルコニア等のシリカを主成分とする他の金属酸化物との複合金属酸化物等を挙げることができる。
中でも、前記非晶質シリカが好ましい。前記非晶質シリカとしては、湿式法と乾式法の異なる製造方法で合成されたものが挙げられるが、乾式法で合成されたものが好ましく、フュームドシリカが特に好ましい。
【0050】
前記シリカ系フィラーの比表面積としては、特に制限はないが、50m
2/g以上が好ましく、100m
2/g〜300m
2/gがより好ましい。なお、シリカ系フィラーの比表面積は、BET法によって測定することができる。
また、前記シリカ系フィラーの粒子径としては、特に制限はないが、1次粒子径が1nm〜100nm、二次粒子径が0.1μm〜10μmのものが好ましい。なお、前記粒子径は、電子顕微鏡で測定することができる。
【0051】
前記シリカ系フィラーとしては、シランカップリング材で代表される表面処理材で疎水化することで、各種重合性単量体とのなじみを良好とし、機械的強度や耐水性を向上させることができる。
前記疎水化の方法としては、特に制限はなく、公知の方法を挙げることができ、例えば、前記ランカップリング材として、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等を用いた疎水化を挙げることができる。
【0052】
前記シリカ系フィラーの配合量としては、特に制限はないが、前記全重合性単量体100質量部に対して、5質量部〜35質量部が好ましい。
【0053】
更に、前記歯科用前処理材としては、本発明の効果を妨げない限り、前記各材の他、公知の歯科用前処理材に含まれる各種成分を用いることができ、例えば、重合禁止材、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の高分子化合物などの有機増粘材を添加することができる。また、紫外線吸収材、染料、帯電防止材、顔料、香料等の各種添加材を必要に応じて選択して使用することもできる。また、後述する(n)充填材を添加することもできる。
【0054】
なお、前記歯科用前処理材の調製方法としては、特に制限はなく、公知の方法により、前記各材を均一になるまで混合する方法が挙げられる。
【0055】
(歯科用充填修復キット)
本発明の歯科用充填修復キットは、本発明の前記歯科用前処理材を含み、前記歯科用前処理材の塗布、乾燥後、前記歯科用接着材を塗布して重合硬化させ、その後、前記歯科用充填修復材を用いるタイプと、前記歯科用前処理材の塗布、乾燥後、前記歯科用接着材を用いず、前記歯科用充填修復材を用いるタイプとの2通りで構成することができる。
即ち、前者は、前記歯科用前処理材と、前記歯科用接着材とを有して構成され、後者は、前記歯科用前処理材と、前記歯科用充填修復材とを有して構成される。
なお、前者については、更に、前記歯科用充填修復材を有して構成されてもよい。
【0056】
<歯科用接着材>
前記歯科用接着材は、(k)酸性基非含有重合性単量体と、(l)光重合開始材とを含み、必要に応じて、その他の材を含むこととしてもよい。
【0057】
−(k)酸性基非含有重合性単量体−
前記歯科用接着材に配合される前記(k)酸性基非含有重合性単量体は、水溶性重合性単量体を含む。
前記水溶性重合性単量体は、酸性基を有さず、1分子中に少なくとも1つの水酸基と少なくとも1つの重合性不飽和基を有する水溶性の化合物を意味し、このような化合物であれば、特に制限はなく、目的に応じて公知の化合物から適宜選択して用いることができる。ここで、前記酸性基と前記重合性不飽和基とは、前記(a)酸性基含有重合性単量体で説明したものと同様のものが該当する。また、前記水溶性とは、20℃における水への溶解度が70以上であることを意味し、20℃において水と任意の割合で相溶するものであることが好ましい。
【0058】
前記水溶性重合性単量体の具体例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタアクリレートの意であり、以下も同様の表記とする)、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、N−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2,4−ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシメチル−3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3,4−トリヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。このうち、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0059】
前記(k)酸性基非含有重合性単量体としては、前記水溶性重合性単量体に加え、前記酸性基を含有しないその他の重合性単量体を含むこととしてもよい。
前記その他の重合性単量体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記(i)酸性基非含有重合性単量体として説明した、前記二官能重合性単量体、前記三官能重合性単量体、前記四官能重合性単量体を好適に用いることができる。
なお、前記その他の重合性単量体を配合する場合、前記(k)酸性基非含有重合性単量体中における前記水溶性重合性単量体が20質量%以上であることが好ましい。
【0060】
−(l)光重合開始材−
前記光重合開始材としては、特に制限はなく、例えば、カンファーキノン、ベンジル、α−ナフチル、アセトナフテン、ナフトキノン、1,4−フェナントレンキノン、3,4−フェナントレンキノン、9,10−フェナントレンキノン等のα−ジケトン類、2,4−ジエチルチオキサントン等のチオキサントン類、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ペンタノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ペンタノン等のα−アミノアセトフェノン類、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド等のアシルフォスフィンオキシド誘導体などを挙げることができる。
【0061】
前記重合促進材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ−n−ブチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸アミルエステル、N,N−ジメチルアンスラニックアシッドメチルエステル、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−ジメチルアミノフェネチルアルコール、p−ジメチルアミノスチルベン、N,N−ジメチル−3,5−キシリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン、N,N−ジメチル−β−ナフチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルステアリルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、2,2’−(n−ブチルイミノ)ジエタノール等の第三級アミン類、5−ブチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸等のバルビツール酸類、ドデシルメルカプタン、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)等のメルカプト化合物が挙げられる。
更に、前記重合開始材、前記重合促進材に加え、ヨードニウム塩、トリハロメチル置換S−トリアジン、フェナンシルスルホニウム塩化合物等の電子受容体を加えてもよい。
【0062】
−その他の材−
前記その他の材としては、本発明の効果を妨げない限り、特に制限はなく、目的に応じて選択することができ、公知の歯科用接着材に含まれる各種成分を適用することができる。
【0063】
<歯科用充填修復材>
前記歯科用充填修復材は、(m)酸性基非含有重合性単量体と、(n)充填材と、(o)光重合開始材と、(j)化学重合開始材とを含む。
【0064】
−(m)酸性基非含有重合性単量体−
前記(m)酸性基非含有重合性単量体は、難水溶性とされ、難水溶性重合性単量体で構成される。
前記難水溶性重合性単量体は、酸性基を有さず、1分子中に少なくとも1つの重合性不飽和基を有する水溶性の化合物を意味し、このような化合物であれば、特に制限はなく、目的に応じて公知の化合物から適宜選択して用いることができる。ここで、前記酸性基と前記重合性不飽和基とは、前記(a)酸性基含有重合性単量体で説明したものと同様のものが該当する。また、前記難水溶性とは、20℃における水への溶解度が5重量%以下であることを意味する。
前記難水溶性重合性単量体としては、前記特徴を有するものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記(i)酸性基非含有重合性単量体として説明した、前記二官能重合性単量体、前記三官能重合性単量体、前記四官能重合性単量体を好適に用いることができる。
【0065】
−(n)充填材−
前記(n)充填材としては、特に制限はなく、公知の化合物から適宜選択して用いることができ、無機充填材、有機−無機充填材、有機充填材が挙げられる。
前記無機充填材としては、例えば、シリカ、ジルコニア、チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ランタンガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、フッ化イッテルビウム等が挙げられる。
【0066】
前記無機充填材は、シランカップリング材に代表される表面処理材で疎水化することで重合性単量体とのなじみを良好とし、機械的強度や耐水性を向上させることができる。
前記疎水化の方法としては、特に制限はなく、公知の方法が挙げられる。即ち、前記シランカップリング材として、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等を用いた疎水化が挙げられる。
また、前記有機−無機複合充填材としては、前記無機充填材に重合性単量体を予め添加し、ペースト状にした後に重合させ、粉砕して得られる粒状物、或いは、前記無機充填材の凝集粒子に前記重合性単量体を含浸させた後に重合させた粒状物が使用される。
また、前記有機充填材としては、前記重合性単量体を重合して得られた粒状物が使用される。
これら充填材の平均粒径としては、特に制限はなく、一般的に歯科用材料として使用されている大きさの0.01μm〜100μmでよいが、0.01μm〜5μmが好ましい。また、前記充填材の屈折率としても、特に制限はなく、一般的な歯科用の充填材が有する1.4〜1.7でよい。なお、前記充填材としては、1種単独で用いてもよいが、粒径範囲や平均粒径、屈折率、材質の異なる複数の充填材を併用して用いてもよい。
これら充填材の形状としては、特に制限はなく、不定形、球状、略球状のいずれであってもよいが、中でも、球状の無機フィラーが好ましい。
【0067】
前記充填材の配合量としては、特に制限はないが、前記(m)酸性基非含有重合性単量体100質量部に対して、70質量部〜700質量部が好ましい。
【0068】
−(o)光重合開始材−
前記(o)光重合開始材は、窩洞内に充填される前記歯科用修復材のうち、前記歯科用前処理材と接触しない領域を重合硬化させる観点から配合される。
前記(o)光重合開始材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記歯科用接着材中の前記(l)光重合開始材と同様のものを適用することができる。
前記(o)光重合開始材の配合量としては、特に制限はないが、前記(m)酸性基非含有重合性単量体100質量部に対して、0.01質量部〜20質量部が好ましい。
【0069】
−(p)化学重合開始材−
前記(p)化学重合開始材は、窩洞内に充填される前記歯科用修復材のうち、前記歯科用前処理材と接触して、前記歯科用前処理材中の前記(j)化学重合開始材との化学反応により重合開始種を生成させ、接着成分の重合を開始させる観点から配合される。
前記(p)化学重合開始材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記(j)化学重合開始材として前記第四周期遷移金属化合物を選択する場合は、過酸化物を好適に用いることができる。
【0070】
前記過酸化物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、有機過酸化物、無機過酸化物を適用することができる。
前記有機過酸化物としては、特に制限はなく、公知のハイドロパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキサイド類、アルキルシリルパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類等を適用することができる。
【0071】
前記ハイドロパーオキサイド類としては、例えば、P−メタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
【0072】
前記パーオキシケタール類としては、例えば、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサノン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロデカン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、n−ブチル4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン等が挙げられる。
【0073】
前記ケトンパーオキサイド類としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド等が挙げられる。
【0074】
前記アルキルシリルパーオキサイド類としては、例えば、t−ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルトリメチルシリルパーオキサイド、t−ヘキシルトリメチルシリルパーオキサイド等が挙げられる。
【0075】
前記ジアシルパーオキサイド類としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。
【0076】
前記パーオキシエステル類としては、例えば、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオデカノエート等が挙げられる。
【0077】
これらの中でも前記第四周期遷移金属化合物との反応が速いことから、前記ハイドロパーオキサイド、前記パーオキシケタール、前記ケトンパーオキサイド、前記アルキルシリルパーオキサイド類が好ましく、前記ハイドロパーオキサイドが特に好ましい。
【0078】
前記無機過酸化物としては、特に制限はなく、ペルオキソ二硫酸塩、アルカリ金属の過酸化物、アルカリ土類金属の過酸化物、遷移金属の過酸化物等の公知の無機過酸化物を適用することができる。前記ペルオキソ二硫酸塩としては、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸アルミニウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等が挙げられる。前記アルカリ金属の過酸化物としては、過酸化リチウム、過酸化ナトリウム、過酸化カリウム等が挙げられる。前記アルカリ土類金属の過酸化物としては、過酸化マグネシウム、過酸化カルシウム、過酸化バリウム等が挙げられる。前記遷移金属の過酸化物としては、過酸化亜鉛、過酸化カドミウム、過酸化水銀等が挙げられる
【0079】
なお、前記(p)化学重合開始材の配合量としては、特に制限はないが、前記(m)酸性基非含有重合性単量体100質量部に対して、0.1質量部〜10質量部が好ましい。
【0080】
−その他の材−
前記その他の材としては、本発明の効果を妨げない限り、特に制限はなく、目的に応じて選択することができ、公知の歯科用充填修復材に含まれる各種成分を適用することができる。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明の技術的思想は、これらにより何ら制限されるものではない。なお、実施例及び比較例の製造に用いた各成分並びにその略称及び略号については、以下の通りである。
【0082】
(各成分並びにその略称及び略号)
[(a)酸性基含有重合性単量体]
PM:2−メタクロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェートとビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェートの混合物
MHP:8−メタクリルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート
MDP:10−メタクリルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
MAC−10:11−メタクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸
[(b)水]
水:蒸留水
IPA:イソプロピルアルコール
エタノール
[(c)色変化材]
−(e)水溶性金属塩−
CoCl
2:塩化コバルト(II)
FeCl
3:塩化鉄(III)
NiSO
4:硫酸ニッケル(II)
−−(f)アルカリ金属土類塩−−
MgCl
2:塩化マグネシウム
CaCl
2:塩化カルシウム
−(g)pH指示薬−
TB:チモールブルー(変色域:pH1.2〜pH2.8)
−(h)酸化還元指示薬−
MB:メチレンブルー(変色域:0.53V)
[(d)揮発性有機溶媒]
アセトン
[酸性基非含有重合性単量体]
BisGMA:2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
なお、BisGMA及び3Gは、難水溶性の酸性基非含有重合性単量体であり、HEMAは、水溶性の酸性基非含有重合性単量体である。
[第四周期遷移金属化合物]
BMOV:オキソバナジウム(IV)ビス(マルトラート)
V
2O
5:五酸化バナジウム(V)
[光重合開始材]
CQ:カンファーキノン
DMBE:4−ジメチルアミノ安息香酸エチル
BTPO:ビス(2,6−ジメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド
[過酸化物]
TMBPO:1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド
CHPO:クメンハイドロパーオキサイド
KPS:ペルオキソ二硫酸カリウム
[重合禁止材]
BHT:ジブチルヒドロキシトルエン
[充填材]
F:シリカ−ジルコニアフィラーをγ―メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランにより疎水化処理したものと、シリカ−チタニアフィラーをγ―メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランにより疎水化処理したものとを質量比70:30で混合した混合物
[歯科用充填修復材]
EFQ:トクヤマデンタル社製エステライトフロークイック
【0083】
(歯科用前処理材)
<実施例1>
下記組成に従い、各成分を混合後、これらが均一になるまで攪拌して実施例1に係る歯科用前処理材を製造した。なお、この実施例1に係る歯科用前処理材は、歯科用接着材とともに歯の修復に用いられるタイプの歯科用前処理材である。
【0084】
−組成−
・(a)酸性基含有重合性単量体 PM 100g
・(b)水 100g
・(d)揮発性有機溶媒 アセトン 100g
・(e)水溶性金属塩 CoCl
2 1.0g
・ 重合禁止材 BHT 0.1g
【0085】
<実施例2〜24/比較例1〜6>
また、下記表1に記載の組成に基づいて製造したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜24及び比較例1〜6に係る各歯科用前処理材を製造した。
【0086】
【表1】
【0087】
(歯科用接着材)
下記組成に従い、各成分を混合後、これらが均一になるまで攪拌して歯科用接着材B−1を製造した。
【0088】
−組成−
・(k)酸性基非含有重合性単量体 HEMA 40g
BisGMA 36g
3G 24g
・(l)光重合開始材 CQ 1.4g
DMBE 1.4g
・ 重合禁止材 BHT 1.0g
【0089】
また、下記表2に記載の組成に基づいて製造したこと以外は、歯科用接着材B−1と同様にして、歯科用接着材B−2を製造した。
【0090】
【表2】
【0091】
(歯科用充填修復キット)
<実施例25〜49/比較例7〜13>
実施例1〜24及び比較例1〜6に係る各歯科用前処理材と、歯科用接着材B−1,B−2とを後掲の表3に示す組み合わせで組み合わせ、これらを実施例25〜49及び比較例7〜13に係る各歯科用充填修復キットとし、接着試験に用いた。以下、接着試験の内容を説明する。
【0092】
<接着試験>
先ず、屠殺後24時間以内に抜去した牛下顎前歯を、注水下、#600のエメリーペーパー(耐水研磨紙)で研磨し、唇面と平行になるようにエナメル質平面及び象牙質平面を削り出した。
次に、これら平面に圧縮空気を吹き付けて乾燥させた後、これら平面に直径3mmの円孔の開いた両面テープをそれぞれ固定し、接着面積を規定した。
次に、直径8mmの孔の開いた厚さ0.5mmのパラフィンワックスを、該孔が前記両面テープの前記円孔と同一中心となる位置で前記両面テープ上に貼り付けて模擬窩洞を形成した。
この模擬窩洞に実施例1〜24及び比較例1〜6に係る各歯科用前処理材を塗布し、20秒間放置した後、圧縮空気を吹き付けて乾燥させた。ここで、乾燥状態の確認は、後掲の表4に定める基準により行った。また、前記(c)色変化材を含む実施例1〜24に係る各歯科用前処理材の乾燥状態を目視で確認するのに際し、次の基準により、視認性の評価を行った。
−乾燥状態の視認性−
◎:容易に確認できる。
○:確認できる。
×:確認できない。
【0093】
乾燥後の前記模擬窩洞に歯科用接着材B−1又はB−2を塗布した後、歯科用光照射器(トクヤマデンタル社製)を用いて10秒間光照射した。
次いで、前記模擬窩洞内に前記歯科用充填修復材EFQを充填し、ポリエステル製フィルムで覆った上から、歯科用光照射器(トクヤマデンタル社製)を用いて20秒間光照射し、最後に、前記ポリエステル製フィルム及び前記パラフィンワックスを丁寧に外し、接着試験片Iを得た。
前記接着試験片Iを24時間、37℃の水中に浸漬させた後、金属製の治具を取り付け、引張試験機(島津社製オートグラフAG5000)を用いて、クロスヘッドスピード2mm/minの条件で引っ張り試験を行い、前記エナメル質平面及び前記象牙質平面に対する接着強さを測定した。なお、この接着強さの測定結果は、20回、同一条件で繰返し測定した各測定値の平均値として算出したものであり、また、同一条件で繰返し測定した場合の標準偏差についても算出した。
前記接着強さ、前記標準偏差及び前記乾燥状態の視認性の各測定結果を下記表3に示す。
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
上掲表3に示すように、実施例1〜24に係る各歯科用前処理材を用いた実施例25〜49に係る各歯科用充填修復キットでは、比較例1〜6に係る各歯科用前処理材を用いた比較例7〜13に係る各歯科用充填修復キットに比べ、接着強さ及び視認性が良好である。なお、比較例7〜13に係る各歯科用充填修復キットでは、乾燥状態の判断にばらつきが生じるため、標準偏差が大きくなり、接着強さが不安定となることが確認される。
また、実施例2,19,22に係る各歯科用前処理材を用いた実施例27,44,47に係る各歯科用充填修復キットでは、実施例1,3,20,23に係る各歯科用前処理材を用いた実施例25,28,45,48に係る各歯科用充填修復キットに比べ、前記(c)色変化材の添加量が少ないため、視認性の低下が確認される。
また、実施例4〜6,21,24に係る各歯科用前処理材を用いた実施例29〜31,46,49に係る各歯科用充填修復キットでは、実施例1,3,20,23に係る各歯科用前処理材を用いた実施例25,28,45,48に係る各歯科用充填修復キットに比べ、前記(c)色変化材の添加量が多いため、接着強さの低下が確認される。
また、実施例3,16に係る各歯科用前処理材を用いた実施例28,41に係る各歯科用充填修復キットでは、実施例18に係る歯科用前処理材を用いた実施例43に係る歯科用充填修復キットに比べ、前記(e)水溶性金属塩として、ハロゲン化金属塩を用いているため、視認性が良好である。中でも、塩化コバルト(II)を用いた、実施例3に係る歯科用前処理材を用いた実施例28に係る歯科用充填修復キットの視認性が最良であった。
また、実施例11,12に係る各歯科用前処理材を用いた実施例36,37に係る各歯科用充填修復キットでは、実施例2に係る歯科用前処理材を用いた実施例27に係る歯科用充填修復キットに比べ、前記(f)アルカリ土類金属塩を添加したため、視認性を向上させることができている。なお、前記(f)アルカリ土類金属塩を添加した実施例17に係る歯科用前処理材を用いた実施例42に係る歯科用充填修復キットにおいても、良好な視認性が得られている。
【0097】
(歯科用前処理材)
<実施例50>
下記組成に従い、各成分を混合後、これらが均一になるまで攪拌して実施例50に係る歯科用前処理材を製造した。なお、この実施例50に係る歯科用前処理材は、前記歯科用接着材の機能を兼ね、前記歯科用接着材なしに歯科用充填修復材による歯の修復に用いられるタイプの歯科用前処理材である。即ち、下記組成中、第四周期遷移金属化合物が後述する歯科用充填修復材中に含まれる過酸化物と反応して化学重合が開始される。なお、窩洞中、前記歯科用前処理材と前記歯科用充填修復材とが接触しない位置では、前記歯科用充填修復材中に含まれる前記光重合開始材により光重合が開始される。
【0098】
−組成−
・(a)酸性基含有重合性単量体 PM 30g
・(b)水 100g
・(d)揮発性有機溶媒 アセトン 100g
・(e)水溶性金属塩 CoCl
2 1.0g
・(i)酸性基非含有重合性単量体 HEMA 30g
BisGMA 24g
3G 16g
・ 重合禁止材 BHT 1.0g
・ 第四周期遷移金属化合物 BMOV 1.0g
【0099】
<実施例51〜76/比較例14〜22>
また、下記表5に記載の組成に基づいて製造したこと以外は、実施例50と同様にして、実施例51〜76及び比較例14〜22に係る各歯科用前処理材を製造した。
【0100】
【表5】
【0101】
(歯科用充填修復材)
下記組成に従い、各成分を混合後、これらが均一になるまで攪拌して歯科用充填修復材CR−1を製造した。
【0102】
−組成−
・(m)酸性基非含有重合性単量体 BisGMA 60g
3G 40g
・(n)充填材 F 230g
・(o)光重合開始材 CQ 1.0g
DMBE 1.0g
・ 過酸化物 TMBPO 2.0g
・ 重合禁止材 BHT 0.1g
【0103】
また、下記表6に記載の組成に基づいて製造したこと以外は、歯科用充填修復材CR−1と同様にして、歯科用充填修復材CR−2〜CR−4を製造した。
【0104】
【表6】
【0105】
(歯科用充填修復キット)
<実施例77〜106/比較例23〜34>
実施例50〜76及び比較例14〜22に係る各歯科用前処理材と、歯科用充填修復材CR−1〜CR−4とを後掲の表7に示す組み合わせで組み合わせ、これらを実施例77〜106及び比較例23〜34に係る各歯科用充填修復キットとし、接着試験に用いた。以下、接着試験の内容を説明する。
【0106】
<接着試験>
先ず、屠殺後24時間以内に抜去した牛下顎前歯を、注水下、#600のエメリーペーパー(耐水研磨紙)で研磨し、唇面と平行になるようにエナメル質平面及び象牙質平面を削り出した。
次に、これら平面に圧縮空気を吹き付けて乾燥させた後、これら平面に直径3mmの円孔の開いた両面テープをそれぞれ固定し、接着面積を規定した。
次に、直径8mmの孔の開いた厚さ0.5mmのパラフィンワックスを、該孔が前記両面テープの前記円孔と同一中心となる位置で前記両面テープ上に貼り付けて模擬窩洞を形成した。
この模擬窩洞に実施例50〜76及び比較例14〜22に係る各歯科用前処理材を塗布し、20秒間放置した後、圧縮空気を吹き付けて乾燥させた。ここで、乾燥状態の確認は、前掲の表4に定める基準により行った。また、前記(c)色変化材を含む実施例50〜76に係る各歯科用前処理材の乾燥状態を目視で確認するのに際し、前記乾燥状態の視認性の基準に基づき、視認性の評価を行った。
【0107】
乾燥後の前記模擬窩洞内に歯科用充填修復材CR−1〜CR−4のいずれか1つを充填し、ポリエステル製フィルムで覆った上から、歯科用光照射器(トクヤマデンタル社製)を用いて20秒間光照射し、最後に、前記ポリエステル製フィルム及び前記パラフィンワックスを丁寧に外し、接着試験片IIを得た。
前記接着試験片IIを24時間、37℃の水中に浸漬させた後、金属製の治具を取り付け、引張試験機(島津社製オートグラフAG5000)を用いて、クロスヘッドスピード2mm/minの条件で引っ張り試験を行い、前記エナメル質平面及び前記象牙質平面に対する接着強さを測定した。なお、この接着強さの測定結果は、20回、同一条件で繰返し測定した各測定値の平均値として算出したものであり、また、同一条件で繰返し測定した場合の標準偏差についても算出した。
前記接着強さ、前記標準偏差及び前記乾燥状態の視認性の各測定結果を下記表7に示す。
【0108】
【表7】
【0109】
上掲表7に示すように、実施例50〜76に係る各歯科用前処理材を用いた実施例77〜106に係る各歯科用充填修復キットでは、比較例14〜22に係る各歯科用前処理材を用いた比較例23〜34に係る各歯科用充填修復キットに比べ、接着強さ及び視認性が良好である。なお、比較例23〜34に係る各歯科用充填修復キットでは、乾燥状態の判断にばらつきが生じるため、標準偏差が大きくなり、接着強さが不安定となることが確認される。
また、実施例53,71,74に係る各歯科用前処理材を用いた実施例83,101,104に係る各歯科用充填修復キットでは、実施例50,54,72,75に係る各歯科用前処理材を用いた実施例77,84,102,105に係る各歯科用充填修復キットに比べ、前記(c)色変化材の添加量が少ないため、視認性の低下が確認される。
また、実施例55〜57,73,76に係る各歯科用前処理材を用いた実施例85〜87,103,106に係る各歯科用充填修復キットでは、実施例50,54,72,75に係る各歯科用前処理材を用いた実施例77,84,102,105に係る各歯科用充填修復キットに比べ、前記(c)色変化材の添加量が多いため、接着強さの低下が確認される。
また、実施例54,68に係る各歯科用前処理材を用いた実施例84,98に係る各歯科用充填修復キットでは、実施例70に係る歯科用前処理材を用いた実施例100に係る歯科用充填修復キットに比べ、前記(e)水溶性金属塩として、ハロゲン化金属塩を用いているため、視認性が良好である。中でも、塩化コバルト(II)を用いた、実施例54に係る歯科用前処理材を用いた実施例84に係る歯科用充填修復キットの視認性が最良であった。
また、実施例62,63に係る各歯科用前処理材を用いた実施例92,93に係る各歯科用充填修復キットでは、実施例53に係る歯科用前処理材を用いた実施例83に係る歯科用充填修復キットに比べ、前記(f)アルカリ土類金属塩を添加したため、視認性を向上させることができている。なお、前記(f)アルカリ土類金属塩を添加した実施例69に係る歯科用前処理材を用いた実施例99に係る歯科用充填修復キットにおいても、良好な視認性が得られている。