特許第6247567号(P6247567)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6247567焙煎コーヒー豆の微粉物を含有する乳入りコーヒー飲料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6247567
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】焙煎コーヒー豆の微粉物を含有する乳入りコーヒー飲料
(51)【国際特許分類】
   A23F 5/14 20060101AFI20171204BHJP
   A23F 5/24 20060101ALI20171204BHJP
   A23C 9/156 20060101ALI20171204BHJP
   A23L 2/38 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   A23F5/14
   A23F5/24
   A23C9/156
   A23L2/38 P
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-39929(P2014-39929)
(22)【出願日】2014年2月28日
(65)【公開番号】特開2015-164401(P2015-164401A)
(43)【公開日】2015年9月17日
【審査請求日】2017年2月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(72)【発明者】
【氏名】須藤 丈博
【審査官】 伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−067942(JP,A)
【文献】 特開昭51−054960(JP,A)
【文献】 特開2009−291137(JP,A)
【文献】 特開2005−341933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F 5/00−5/50
A23L 2/38
A23C 9/156
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙煎コーヒー豆を微粉砕して得られるメジアン径が90〜200μmの不溶性コーヒー粉末と、焙煎コーヒー豆の粉砕物に抽出処理を行って得られる焙煎コーヒー豆の抽出物と、植物油脂と、乳成分とを含有し、高温殺菌して製造される乳入りコーヒー飲料であって、
飲料中の脂質量が、飲料100gあたり0.5〜2.5gであり、
飲料中のコーヒー脂質含量が1.0〜5.0mg/kgである、
前記乳入りコーヒー飲料。
【請求項2】
飲料中のカフェイン含量が、飲料100gあたり10〜60mgである、請求項1に記載の乳入りコーヒー飲料。
【請求項3】
pHが5.5〜7.0である、請求項1又は2に記載の乳入りコーヒー飲料。
【請求項4】
植物油脂がヤシ油である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の乳入りコーヒー飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱臭が低減された乳入りコーヒー飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
乳入りコーヒー飲料は、一年を通して飲用される嗜好性の高い飲料であり、長期にわたって常温保存可能な容器詰め乳入りコーヒー飲料が多数流通されている。容器詰め乳入りコーヒー飲料は、通常、コーヒー豆抽出液、インスタントコーヒー等のコーヒー原料(本明細書中、コーヒー分とも表記する)に、牛乳、濃縮乳、全脂乳又は全脂粉乳、脱脂乳又は脱脂粉乳、練乳、クリーム、或いは乳タンパク質等のミルク成分を含有する乳原料(本明細書中、乳分とも表記する)などを混合溶解して調合液を得、保存容器に充填される前、または充填された後のいずれかに、高温殺菌をして製造されている。このように高温殺菌を経て製造される乳入りコーヒー飲料では、乳成分が熱変性し、乳加熱臭、具体的には、乳独特の劣化臭(すえ臭)や乳独特のむれっぽい味を発生させ、コク(クリーミー感)が消失して、乳入り飲料の品質を低下させることが知られている。
【0003】
そこで、乳入り飲料において、乳加熱臭を抑制する方法が種々開発されている。例えば、乳又は乳製品にα―グリコシルトレハロースを含有せしめ、加熱処理工程を経て製造することを特徴とする乳加熱臭の生成が抑制された乳又は乳製品の製造方法(特許文献1)や、糖分を含むコーヒー抽出液に、単糖およびアミノ酸からなる混合物ならびに乳成分を添加し、容器に充填後、レトルト殺菌することを特徴とする、加温状態でも長期間にわたり香味劣化のない乳入りコーヒー飲料(特許文献2)や、乳成分を配合したコーヒー抽出液に、クロロゲン酸またはクロロゲン酸類を添加することを特徴とする、加温状態でも長期間にわたり香味劣化のない乳入りコーヒー飲料(特許文献3)、飲料中の乳脂肪1重量%当たりに対し、植物油脂を0.15〜2の割合で配合することを特徴とする飲用後そう快な後味を有する容器詰めコーヒー(特許文献4)等が挙げられる。
【0004】
一方、コーヒー飲料に対する消費者嗜好の多様化に伴い、コーヒー豆の微粉砕品を配合したコーヒー飲料が提案されている(特許文献5〜7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−94856号公報
【特許文献2】特開平11−9190号公報
【特許文献3】特開平11−9189号公報
【特許文献4】特開2009−291137号公報
【特許文献5】特開2005−124486号公報
【特許文献6】特開2007−289035号公報
【特許文献7】特開2005−318812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のとおり、容器詰め乳入りコーヒー飲料の高温殺菌時における香味劣化の抑制方法が種々開発されているが、未だ十分に満足できるものではなかった。本発明の目的は、乳入りコーヒー飲料の高温殺菌時に発生する乳加熱臭を抑制した、ドリンカビリティの高いコーヒー飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、植物油脂と特定の粒子径に微粉砕された焙煎コーヒー豆微粉末(不溶性コーヒー粉末)とを配合し、好ましくはコーヒー脂質量((A)パルミチン酸カーウェオール及び(B)パルミチン酸カフェストールの総量[(A)+(B)])が特定範囲に調整された乳入り飲料は、高温殺菌後の乳加熱臭が大きく低減されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、これに限定されるものではないが、本発明は以下を包含する。
(1)焙煎コーヒー豆を微粉砕して得られるメジアン径が50〜300μmの不溶性コーヒー粉末と、焙煎コーヒー豆の粉砕物に抽出処理を行って得られる焙煎コーヒー豆の抽出物と、植物油脂と、乳成分とを含有し、高温殺菌して製造される乳入りコーヒー飲料。
(2)飲料中の脂質量が、飲料100gあたり0.4〜3.0gである、(1)に記載の乳入りコーヒー飲料。
(3)飲料中のカフェイン含量が、飲料100gあたり10〜60mgである、(1)又は(2)に記載の乳入りコーヒー飲料。
(4)コーヒー脂質含量が0.5〜11.0mg/kgである、(1)〜(3)のいずれかに記載の乳入りコーヒー飲料。
(5)pHが5.5〜7.0である、(1)〜(4)のいずれかに記載の乳入りコーヒー飲料。
(6)植物油脂がヤシ油である、(1)〜(5)のいずれかに記載の乳入りコーヒー飲料。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、高温殺菌および長期間の保存にも香味の観点から品質的に耐えうる、乳入りコーヒー飲料が得られる。本発明の乳入りコーヒー飲料は、乳入り飲料のオフフレーバー(乳加熱臭や酸化臭)が低減され、乳成分のコクが付与されたドリンカビリティの高い飲料である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書でいう「コーヒー飲料」とは、コーヒー分を原料として使用し、加熱殺菌工程を経て製造される飲料製品のことをいう。製品の種類は特に限定されないが、1977年に認定された「コーヒー飲料等の表示に関する公正競争規約」の定義である「コーヒー」「コーヒー飲料」「コーヒー入り清涼飲料」が主に挙げられる。また、コーヒー分を原料とした飲料においても、乳固形分が3.0質量%以上のものは「飲用乳の表示に関する公正競争規約」の適用を受け、「乳飲料」として取り扱われるが、これは、本発明におけるコーヒー飲料に含まれるものとする。
【0011】
ここで、コーヒー分(本明細書中、焙煎コーヒー豆の抽出物とも表記する)とは、コーヒー豆由来の成分を含有する溶液のことをいい、例えば、コーヒー抽出液、すなわち、焙煎、粉砕されたコーヒー豆を水や温水などを用いて抽出した溶液が挙げられる。また、コーヒー抽出液を濃縮したコーヒーエキス、コーヒー抽出液を乾燥したインスタントコーヒーなどを、水や温水などで適量に調整した溶液も、コーヒー分として挙げられる。
【0012】
本明細書中、乳成分を原料として使用し、加熱殺菌工程を経て製造されるコーヒー飲料を、「乳入りコーヒー飲料」と表す。ここで、乳成分とは、コーヒー飲料に乳風味や乳感を付与するために添加される成分を指し、少なくとも無脂乳固形成分を含む成分をいう。主に哺乳動物の乳、牛乳及び乳製品のことをいい、例えば、生乳、牛乳、特別牛乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳、乳飲料などが挙げられ、乳製品としては、クリーム、濃縮ホエイ、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、バターミルクパウダー、調整粉乳などが挙げられる。特に、本発明の効果は、乳成分として牛乳を用いたときに発生する加熱臭の抑制に効果的であるから、牛乳を含む飲料は本発明の好ましい態様の一つである。本発明の乳入り飲料における乳成分の含有量は、特に限定されないが、好ましくは固形分換算で0.1〜10質量%である。ここでいう固形分とは、乳成分を一般的な乾燥法(凍結乾燥、蒸発乾固等)を用いて乾燥させて水分を除いた後の、乾固物のことをいう。
【0013】
本発明の飲料は、無脂乳固形成分を配合して得られる乳入りコーヒー飲料であるが、好ましい態様において、飲料中の水溶性タンパク質が、飲料100gあたり0.4〜2.0gとなるように調製する。水溶性タンパク質の量は、より好ましくは飲料100gあたり0.5〜1.8gであり、さらに好ましくは0.6〜1.6gである。ここで、飲料中の水溶性タンパク質含量は、栄養改善法の栄養表示基準(ケルダール法)に基づく飲料中のたんぱく質量の測定に基づき分析される。
【0014】
本発明のコーヒー飲料は、上記のコーヒー分及び乳成分を含有する乳入りコーヒー飲料に、さらに特定の粒子径に微粉砕された焙煎コーヒー豆微粉末(不溶性コーヒー粉末)と、植物油脂とを配合することを特徴とする。以下、これらについて詳述する。
(不溶性コーヒー粉末)
本発明の「不溶性コーヒー粉末」とは、焙煎コーヒー豆を微粉砕して得られるもの(焙煎コーヒー豆微粉末)をいう。ここで、「焙煎コーヒー豆」とは、コーヒーの生豆に対して焙煎と呼ばれる加熱処理を施したものである。焙煎によって生豆に含まれている成分が化学変化してコーヒーの風味(強い芳香性やフレーバー)が醸し出されており、また、空隙含有構造体が形成されている。
【0015】
本発明の不溶性コーヒー粉末の原料となる焙煎コーヒー豆は、特に限定されない。直火式、熱風式、半熱風式、炭火式、遠赤外線式、マイクロ波式、過熱水蒸気式などの方法で、水平(横)ドラム型、垂直(縦)ドラム型、垂直回転ボール型、流動床型、加圧型などの装置を用い、コーヒー豆の種別に対応して、所定の目的に応じた焙煎度に仕上げればよい。ただし、焙煎度が高いと油脂成分がコーヒー豆表面に析出しやすくなり、粉砕が困難になったり、粉砕処理して得られる微粉末がケーキングを起こし易くなったりする。この観点から、アグトロンカラーメーターで測定した値(アグトロン値)を指標として、45〜70程度、好ましくは50〜60程度となるように焙煎された焙煎コーヒー豆が好適に用いられる。なお、コーヒー豆の種別についても、限定されるものではなく、アラビカ種、ロブスタ種のいずれも使用できるが、ロブスタ種は本発明のコーヒー特有のジテルペン化合物(カフェストール及びカーウェオール)の濃度を特定範囲に調整しやすいことから、好ましい態様の一例である。
【0016】
この焙煎コーヒー豆を粉砕処理して、本発明の不溶性コーヒー粉末を得る。粉砕処理は、焙煎後、24時間以内、好ましくは20時間以内、より好ましくは15時間以内、特に好ましくは10時間に行うことが好ましい。焙煎後の放置時間が長いと、油脂成分がコーヒー豆表面に析出しやすくなる。
【0017】
乾式での粉砕処理は、メジアン径で1mm以下に粗粉砕した後、微粉砕することが好ましい。微粉砕をする前に、予め粗粉砕することにより、一層効率よく短時間に微粉砕することができ、コーヒーの香り(フレーバー)の飛散を最小限に抑えることができる。また、粒度分布を狭くできるという利点もある。粗粉砕は、メジアン径で約1mm以下、好ましくは0.5mm以下になるように粉砕するが、その方法は特に制限されない。ロール式ミル、ボール式ミル、石臼式ミル等、種々の形式の粉砕機を使用することができる。
【0018】
不溶性コーヒー粉末は、メジアン径で50〜300μmとなるように粉砕する。メジアン径で300μmを超える粉末は、飲料に配合した場合に食感や舌触りなどのテクスチャーに違和感を与えることがある。より好ましい微粉砕の程度の上限はメジアン径で250μm以下、さらに好ましくは200μm以下である。また、メジアン径で50μm未満となるまで微粉砕処理した場合には、保存安定効果が得られない傾向がある。より好ましい微粉砕の程度の下限はメジアン径で70μm以上、さらに好ましくは80μm以上、特に好ましくは90μm以上である。微粉砕の方法も特に制限されず、ロール式粉砕機、バーハンマー式やピンハンマー式等の衝撃式粉砕機、気流式粉砕機など、種々の形式の粉砕機を使用することができるが、ロール式粉砕機が好ましく用いられる。
【0019】
粒子径は、多数個の測定結果を粒子径毎の存在比率の分布として表すのが一般的であり、これを粒子径分布という。存在比率の基準としては体積基準と個数基準などがあるが、本明細書では体積基準での存在比率で表わし、レーザー回折・散乱法に基づいた測定装置にて測定することができる。測定装置の例としては、マイクロトラック粒度分布測定装置(日機装株式会社製)である。そして、本明細書において焙煎コーヒー豆の微粉砕物の粒子径をメジアン径で表わしているが、メジアン径とは粒子径の累積データの50%径であり、粉体をある粒子径から2つに分けたとき、大きい側と小さい側が等量となる径のことである。
【0020】
本発明における不溶性コーヒー粉末は、コーヒー飲料100mLあたりの水不溶性固形分が0.01〜1g、好ましくは0.1〜0.5gとなるように配合する。ここで、水不溶性固形分とは、飲料中の不溶性固形分を濾紙上に集めて乾燥して得られる固形分(重量)をいう。飲料100mLあたりの水不溶性固形分が0.01g未満であると、乳加熱臭を低減するのに十分な効果が得られないことがあり、飲料100mLあたりの水不溶性固形分が1gを超えると、飲用時にザラツキを感じたり、焙煎コーヒー豆に起因する好ましくない加熱臭を感じることがある。
【0021】
一般に脂質は、コーヒーの胃に対する刺激を和らげるとともに、口当たりをマイルドにする、飲料に乳風味、コク感を付与するなど風味上の大切な役割をもっているが、本発明者は、UHT殺菌やレトルト殺菌等の高温加熱を伴う容器詰めコーヒー飲料の場合、コーヒー脂質とタンパク質とを混合して高温加熱を行うと、加熱臭が増大する傾向にあることを見出している。これより、コーヒー原料(不溶性コーヒー粉末及び焙煎コーヒー豆の抽出物)は、コーヒー脂質が少ないものを用いることが好ましい。ここで、本明細書でいう「コーヒー脂質」とは、後述する実施例に記載の方法で測定されるカーウェオール(kahweol)とカフェストール(cafestol)にパルミチン酸がエステル結合した、(A)パルミチン酸カーウェオール(略記:KwO-pal)と(B)パルミチン酸カフェストール(略記:CfO-pal)の総量[(A)+(B)]をいう。
【0022】
不溶性コーヒー粉末のコーヒー脂質は、ロブスタ種を用いることで同じ量のアラビカ種のコーヒー豆を用いた場合よりも低い濃度とすることができる。焙煎コーヒー豆の抽出物のコーヒー脂質は、コーヒー抽出液にコーヒー脂質の吸着能を有する吸着剤処理を行う方法を用いるのが簡便である。コーヒー脂質の吸着能を有する吸着剤としては、例えば、ペーパーフィルター、ネル(綿)フィルター、珪藻土、ポリプロピレン製不織布を用いたフィルターカートリッジ等の多孔質ろ材が例示される。また、三相遠心分離を用いて、油分、抽出液、粕の三相に分け、油分を適量除去することによりコーヒー脂質を低減してもよい。多孔質ろ材には、焙煎コーヒー豆又はその粉砕物も使用することができる。具体的には、焙煎コーヒー豆(抽出後のコーヒー滓を含む)をカラム状に積層させ、これに溶液状のコーヒー原料を通液することによりコーヒー脂質を選択的に吸着除去できる。通液は、ダウンフローであってもアップフローであってもよいが、アップフローはよりコーヒー脂質が除去されやすい傾向にある。
【0023】
不溶性コーヒー粉末及び焙煎コーヒー豆の抽出物を含有する本発明のコーヒー飲料中の好ましいコーヒー脂質含量[(A)+(B)]は、0.5〜11.0mg/kg、より好ましくは0.6〜8.0mg/kg、さらに好ましくは0.8〜6.0mg/kg、特に好ましくは1.0〜5.0mg/kg程度である。
【0024】
(植物油脂)
本発明のコーヒー飲料は、植物油脂を必須成分として含有する。植物油脂としては、例えは、ナタネ油、ナタネ硬化油、コメ油、大豆油、コーン油、サフラワー油、ヒマワリ油、綿実油、ゴマ油、オリーブ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、ヤシ硬化油等の植物油脂と、それらの水素添加油、それらの1種以上の混合物によるエステル交換油等が挙げられる。これらの植物油脂のうち、特にヤシ油、パーム核油が、本発明の効果がより顕著になるため好ましい。さらに好ましい植物油脂はヤシ油である。
【0025】
植物油脂は、栄養改善法の栄養表示基準(レーゼゴットリーブ法)に基づく飲料中の脂質量、すなわち飲料中のコーヒー脂質含量、乳脂質含量および植物油脂由来の脂質含量の合計が、飲料100gあたり0.4〜3.0gとなるように配合する。飲料100gあたりの脂質量が0.5〜2.5gであるとより好ましく、0.5〜2.0gであるとさらに好ましい。通常、植物油脂の配合量は、コーヒー飲料100mLあたり0.5〜2.5g、好ましくは0.5〜2.0g程度である。
【0026】
(その他成分)
通常、コーヒー原料は弱酸性であるが、乳成分の安定性を保つために、容器詰めされる乳入りコーヒー飲料では、通常、pH調整剤が添加され、pHが5.5〜7.0程度、好ましくはpH6.0〜7.0の中性領域になるようにpH調整が行われている。しかし、このpH調整の段階では、コーヒー原料が本来有する風味(例えば、ほのかな酸味)や味わいが失われるという問題があった。しかし、本発明のコーヒー脂質を低減した乳入りコーヒー飲料は、pHが5.5〜7.0程度、好ましくはpH6.0〜7.0の中性領域であっても、コーヒーの味わいが十分に付与されており、また乳成分のコクも増強されるので、コーヒーと乳とがそれぞれの良さを引き立てあい、広がりがありかつメリハリのある味わいを愉しむことができるコーヒー飲料となる。ここで、用いられるpH調整剤としては、水に溶解した時にアルカリ性を示す物質であれば限定されず、具体的には、重曹(炭酸水素ナトリウム)、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウムなどが挙げられる。
本発明のコーヒー飲料は、コーヒーと乳とがそれぞれの良さを引き立てあう飲料であり、特に繊細なコーヒーの香りを維持(保持)した嗜好性(ドリンカビリティ;飲料の性質を指し、ある飲料を一定量飲用した後も、なおおいしく飲み続けられる場合には、その飲料はドリンカビリティがあるといえる。ドリンカビリティは「飲みたいかどうか」と表現されることもある。)の高い飲料である。より詳述すると、一般に、コーヒーの香りは、とても繊細、不安定なものであり、抽出直後の香り、風味は時間の経過とともに変化していき、長時間保持できるものではないことが知られている。高温殺菌される容器詰め飲料では、特に、コーヒーの香りや風味の消失、変性が著しいが、コーヒー脂質を低減し、かつ脂質中のカーウェオール及びカフェストールの割合が特定範囲に調整されたコーヒー飲料は、不安定なコーヒーの香りを効果的に維持(保持)する。
【0027】
なお、コーヒー風味を良好に発現、維持させるために、本発明のコーヒー飲料には、カフェインを含有させることが好ましいが、カフェイン含有量が高いと、本発明の効果を低下させ、かえって加熱臭が強く感じられることがある。カフェインの含有量は、飲料100mLに対して10〜60mgが好ましく、15〜50mgがより好ましく、20〜40mgがさらに好ましい。
【0028】
さらに、必要に応じて、本発明のコーヒー飲料には、甘味料、安定剤等を添加することもできる。
【0029】
(容器詰め飲料)
本発明の乳入りコーヒー飲料は、上記したとおり、高温殺菌及び長期間の保存による不快な香りや風味を改善した容器詰め飲料である。本発明のコーヒー飲料が充填される容器としては、殺菌方法や保存方法に合わせて適宜選択すればよく、アルミ缶、スチール缶、PETボトル、ガラス瓶、紙容器など、通常用いられる容器のいずれも用いることができる。
【0030】
本明細書における高温殺菌とは、高温で短時間殺菌した後、無菌条件下で殺菌処理された保存容器に充填する方法(UHT殺菌法)と、調合液を缶等の保存容器に充填した後、レトルト処理を行うレトルト殺菌法とをいう。高温殺菌の条件は、乳入り飲料の調合液の特性や使用する保存容器に応じて適宜選択すればよいが、UHT殺菌法の場合、通常120〜150℃で1〜120秒間程度、好ましくは130〜145℃で30〜120秒間程度の条件であり、レトルト殺菌法の場合、通常110〜130℃で10〜30分程度、好ましくは120〜125℃で10〜20分間程度の条件である。
コーヒー飲料の香りや風味の評価は、官能評価によって行うことができる。例えば、加熱殺菌処理後および長期間保存後のコーヒー飲料を、繊細なコーヒーの香りの強さや不快臭の強さ、乳成分のコク、ドリンカビリティーなどを指標に評価する。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を示して本発明の詳細を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0032】
[実施例1]
(1)不溶性コーヒー粉末の調製
ロブスタ種のコーヒー豆を定法にてアグトロン値が50〜60(55程度)になるまで焙煎して、焙煎コーヒー豆を得た。この焙煎コーヒー豆をロール式粉砕機にて粒子径がメジアン径で105μm程度となるまで微粉砕して、焙煎コーヒー豆微粉末(不溶性コーヒー粉末)を得た。なお、本実施例中、粒子径の測定には、マイクロトラック粒度分布測定装置(日機装株式会社製、型式:MT3300EXII)を用いた。測定は、粉体の試料をエアーで分散させながら、レーザー光を試料に照射し、回折散乱パターンから粒子径分布の測定(乾式レーザー回折散乱法)を行い、粒子径の累積データの50%径をメジアン径とした。
(2)焙煎コーヒー豆の抽出物の調製
ロブスタ種のコーヒー豆を定法にてアグトロン値が45〜49になるまで焙煎して、焙煎コーヒー豆を得た。この焙煎コーヒー豆を原料とし、湯による抽出処理を行ってコーヒー抽出液を得、これを噴霧乾燥処理して粒子径がメジアン径で270μm程度の可溶性コーヒー粉末(焙煎コーヒー豆の抽出物)を得た。
(3)コーヒー飲料の調製
上記(1)で調製した不溶性コーヒー粉末(焙煎コーヒー豆微粉末)と、上記(2)で調製した焙煎コーヒー豆の抽出物を用い、表1の処方で混合し、さらに炭酸水素ナトリウムを用いてpHを6.5調整して、コーヒー調合液を得た。
【0033】
【表1】
【0034】
このコーヒー調合液を食品衛生法に従った殺菌条件で加熱殺菌後、熱可塑性樹脂の容器に150gずつ充填し、容器蓋をヒートシールして密封して容器詰めコーヒー飲料を製造した。また、比較として、不溶性コーヒー粉末を配合せずに焙煎コーヒー豆の抽出物の配合量を1.5重量%とする以外は同様に製造したもの(比較例1)、植物油脂パウダーを配合せずに乳脂肪で置換する以外は同様に製造したもの(比較例2)を製造した。
(4)分析
得られた飲料中の栄養改善法の栄養表示基準(レーゼゴットリーブ法)に基づく脂質量および栄養改善法の栄養表示基準(ケルダール法)に基づく飲料中のたんぱく質量を分析した。また、以下の方法によりコーヒー脂質濃度を求めた。まず、飲料をBrix1.5となるように水で希釈し、(A)パルミチン酸カーウェオール(KwO-pal)及び(B)パルミチン酸カフェストール(CfO-pal)の含量を、LC−MS/MSを使用し、MRMモードにて測定した。以下に測定方法の詳細を示す。
【0035】
(分析試料の調製)
まず、希釈試料2gをガラス製遠沈管にとり、アセトニトリル4mlを加えて、ボルテックスミキサーで1分間攪拌した。これを遠心機で遠心(1680×g、30分、20℃)し、上清を10mlメスフラスコに移した。遠沈管にエタノール2mlを加え、沈殿物をピペット先端で潰して拡散させた。これを超音波洗浄機に15分かけて不溶物をさらに拡散させ、ボルテックスミキサーで1分間攪拌し、遠心機で遠心(1680×g、30分、20℃)して、上清を10mlメスフラスコに移した。同様のエタノールによる抽出作業を、さらに1回行った。抽出液を回収した10mlメスフラスコをエタノールでメスアップし、よく混ぜた液をPTFE製メンブレンフィルター(東洋濾紙社製、孔径0.2μm、直径25mm)で濾過し、分析試料とした。LC−MS/MSの測定方法は以下のとおり。
【0036】
(LC−MS/MS分析条件)
〔使用機種〕
・MS:4000QTRAP(AB Sciex社製)
・LC:1290Infinity(Agilent Technologies社製)
〔LC条件〕
・移動相:(A)0.1%ギ酸水溶液、(B)エタノール
・流速:0.4ml/分
・グラジエント条件:0−1分(80%B)、1−5分(80−100%B)、5−7.5分(100%B)、初期移動相による平衡化2.5分
・カラム:Agilent Technologies社製 Zorbax Eclipse Plus RRHD C18 1.8μm 2.1×150mm
・カラム温度:45℃
・導入量:1μl
〔MS条件〕
・イオン源:Heated Nebulizer
・CUR:20
・CAD:Medium
・NC:5
・TEM:400
・GS1:40
・ihe:ON
・切り替えバルブ条件:カラムを通過した移動相のうち、4.5〜5.8分のみをMSに導入した
〔MRM条件〕
・パルミチン酸カーウェオール:535.41→279.17(Q1→Q3)
・パルミチン酸カフェストール:537.43→281.19(Q1→Q3)
・DP:95
・EP:10
・CE:21
・CXP:12
本実施例においては、上記条件でパルミチン酸カーウェオール標準品(MP Biomedicals社製)およびパルミチン酸カフェストール標準品(LKT Labs社製)を分析して検量線をあらかじめ作成し、試料中のパルミチン酸カーウェオールおよびパルミチン酸カフェストールを定量した。上記条件におけるパルミチン酸カーウェオールの溶出時間は5.1分、パルミチン酸カフェストールの溶出時間は5.2分であった。
【0037】
さらに、飲料中の水不溶性固形分量を以下の方法により求めた。
【0038】
(水不溶性固形分量の測定)
25℃に恒温したサンプル(コーヒー飲料)をよく攪拌し均一な状態にし、10gを遠沈管に定量し、卓上本架遠心機(KOKVSAN H-28F)を用いて、処理温度20℃、回転数3000rpmで10分間遠心した。保留粒子径が5μmの濾紙の乾燥質量を測定した後、遠沈管内の遠心後の上清固形分を減圧濾過により集めた。次に遠沈管中にイオン交換水を加えて攪拌し、再び同条件で10分間遠心した。遠沈管内の遠心後の上清固形分を該濾紙上に減圧濾過により集めた。残った固形分も該濾紙上に集めて水洗し、減圧濾過した。水洗に用いたイオン交換水は全量で100mLとした。該濾紙を乾燥後に質量を測定し、以下の式により水不溶性固形分量(質量%)を算出した。
【0039】
[水不溶性固形分量(質量%)]=[(乾燥後の濾紙質量(g))−(濾紙の初期乾燥質量(g))]/10(g)×100
【0040】
(5)官能評価
3種類の容器詰めコーヒー飲料を1ヶ月間常温で保存した後、冷蔵温度(5〜10℃)に冷却したものを官能評価した。官能評価は5名の専門パネラーにより、加熱臭について、+:強い、±:普通、−:弱いとし、最も多い評価で表わした。
(6)結果
結果を表2に示す。不溶性コーヒー粉末と焙煎コーヒー豆の抽出物と植物油脂とを含有する本発明の乳入りコーヒー飲料は、顕著に加熱臭が低減されていた。
【0041】
【表2】
【0042】
[実施例2]
実施例1で調製した不溶性コーヒー粉末と焙煎コーヒー豆の抽出物を用い、表3の処方で混合し、さらに炭酸水素ナトリウムを用いてpHを6.5調整してコーヒー調合液を得、実施例1と同様にして容器詰めコーヒー飲料を製造した。また、不溶性コーヒー粉末を配合せずに焙煎コーヒー豆の抽出物の配合量を1.0重量%とする以外は同様に製造したもの(比較例3)、植物油脂パウダーを配合せずに乳脂肪水で置換する以外は同様に製造したもの(比較例4)を製造し、実施例1と同様に分析、評価した。
【0043】
【表3】
【0044】
結果を表4に示す。脂質濃度が高い実施例2においても、不溶性コーヒー粉末と焙煎コーヒー豆の抽出物と植物油脂とを含有する本発明の乳入りコーヒー飲料は、顕著に加熱臭が低減されていた。
【0045】
【表4】