(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記削孔工程において形成される前記補強材挿入孔は、鉄筋コンクリート壁の下面から上方に向けて削孔形成されることにより、鉄筋コンクリート壁の下面に開口すると共に、上部に前記先端孔底部を有する縦長方向に延設する挿入孔となっている請求項1記載のせん断補強工法。
前記補強材設置工程の前記先端部挿入工程において、前記筒状スライドパッキン部材が取り付けられた前記せん断補強材の先端部の、前記筒状スライドパッキン部材から先端側の部分に、充填材を塗着させた状態で、前記せん断補強材の先端部を前記補強材挿入孔に挿入する請求項1〜3のいずれか1項記載のせん断補強工法。
前記補強材設置工程のせん断補強材押込み工程において、前記筒状スライドパッキン部材が、前記せん断補強材の外周面に沿って前記せん断補強材の後端部まで後方にスライド移動したら、前記筒状スライドパッキン部材の前記軸方向挿通孔に、前記せん断補強材と略同様の外径を有する補助棒を押し込んで、充填材の圧力を立たせながら前記せん断補強材をさらに押し込むことで、前記せん断補強材の全体を充填材の中に一体として埋設させる請求項1〜4のいずれか1項記載のせん断補強工法。
前記せん断補強材は、先端部分に断面形状が大きくなった拡径定着部を一体として備えると共に、該拡径定着部よりも先端側に先端が尖った形状の先鋭部を有しており、前記補強材設置工程のせん断補強材押込み工程では、前記せん断補強材は、前記補強材挿入孔の先端孔底部に前記先鋭部の先端が当接するまで、充填材の内部に押し込まれる請求項1〜5のいずれか1項記載のせん断補強工法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の鉄筋コンクリート壁のせん断補強工法では、特に耐震補強される鉄筋コンクリート壁が、例えば鉄筋コンクリート構造物の天井部分の鉄筋コンクリート壁等の、下面から上方に向けて補強材挿入孔が形成されるものである場合に、せん断補強材の周囲の補強材挿入孔との間の隙間を埋める充填材と、補強材挿入孔の内部の孔壁面との間の付着力が不十分になり易い。充填材と補強材挿入孔の孔壁面との間の付着力を十分に確保できないと、せん断補強材による補強効果を効率良く発揮させることができなくなる。
【0007】
本発明は、せん断補強材の周囲の補強材挿入孔との間の隙間を埋める充填材と、補強材挿入孔の孔壁面との間の付着力を十分に確保して、せん断補強材による補強効果を効率良く発揮させることのできるせん断補強工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、せん断荷重が作用する既設の鉄筋コンクリート壁を補強するためのせん断補強工法であって、前記鉄筋コンクリート壁の一方の壁面から他方の壁面に向けて有底の補強材挿入孔を削孔形成する削孔工程と、形成した前記補強材挿入孔に充填材を装填する装填工程と、前記充填材が装填された前記補強材挿入孔にせん断補強材を挿入設置する補強材設置工程とを含み、前記装填工程では、
吐出管の先端部に、前記補強材挿入孔の内径と略同様の外径を有する押え拡径部が設けられた充填治具を用いて、該充填治具を、前記押え拡径部が前記補強材挿入孔の先端孔底部に当接又は近接するまで前記補強材挿入孔に挿入してから、充填材を圧送することによって、前記押え拡径部を前記先端孔底部から離間させつつ、前記押え拡径部と前記先端孔底部との間の部分に、圧力を立たせながら充填材を連続して充填することにより装填してゆくようになっており、前記補強材設置工程は、前記せん断補強材の外周面に沿って軸方向にスライド可能に装着されると共に、前記補強材挿入孔の内径と略同様の外径を有する筒状スライドパッキン部材を、軸方向挿通孔に前記せん断補強材を挿通させて前記せん断補強材の先端部に取り付けた状態で、前記せん断補強材の先端部を、前記補強材挿入孔に装填された充填材の後端部に押し付けるまで前記補強材挿入孔に挿入
して、前記筒状スライドパッキン部材と前記先端孔底部との間の部分に充填材が充填された状態とする先端部挿入工程と、前記せん断補強材の前記筒状スライドパッキン部材が取り付けられた先端部を充填材の後端部に押し付けた状態で、前記せん断補強材を、前記補強材挿入孔の前記先端孔底部に向けて充填材の内部に押し込んでゆくことにより、前記筒状スライドパッキン部材と前記先端孔底部との間の部分に
充填されている充填材の圧力を立たせながら、前記筒状スライドパッキン部材を、前記せん断補強材の外周面に沿って前記補強材挿入孔の孔口部分に向けて後方にスライド移動させるせん断補強材押込み工程とを含んでいるせん断補強工法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0009】
そして、本発明のせん断補強工法は、前記削孔工程において形成される前記補強材挿入孔は、鉄筋コンクリート壁の下面から上方に向けて削孔形成されることにより、鉄筋コンクリート壁の下面に開口すると共に、上部に前記先端孔底部を有する縦長方向に延設する挿入孔となっていることが好ましい。
【0010】
また、本発明のせん断補強工法は、充填材として、チクソトロピー性を有する充填材を用いることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明のせん断補強工法は、前記補強材設置工程の前記先端部挿入工程において、前記筒状スライドパッキン部材が取り付けられた前記せん断補強材の先端部の、前記筒状スライドパッキン部材から先端側の部分に、充填材を塗着させた状態で、前記せん断補強材の先端部を前記補強材挿入孔に挿入することが好ましい。
【0012】
さらにまた、本発明のせん断補強工法は、前記補強材設置工程のせん断補強材押込み工程において、前記筒状スライドパッキン部材が、前記せん断補強材の外周面に沿って前記せん断補強材の後端部まで後方にスライド移動したら、前記筒状スライドパッキン部材の前記軸方向挿通孔に、前記せん断補強材と略同様の外径を有する補助棒を押し込んで、充填材の圧力を立たせながら前記せん断補強材をさらに押し込むことで、前記せん断補強材の全体を充填材の中に一体として埋設させることが好ましい。
【0013】
また、本発明のせん断補強工法は、前記せん断補強材が、先端部分に断面形状が大きくなった拡径定着部を一体として備えると共に、該拡径定着部よりも先端側に先端が尖った形状の先鋭部を有しており、前記補強材設置工程のせん断補強材押込み工程では、前記せん断補強材は、前記補強材挿入孔の先端孔底部に前記先鋭部の先端が当接するまで、充填材の内部に押し込まれることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のせん断補強工法によれば、せん断補強材の周囲の補強材挿入孔との間の隙間を埋める充填材と、補強材挿入孔の内部の孔壁面との間の付着力を十分に確保して、せん断補強材による補強効果を効率良く発揮させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の好ましい一実施形態に係るせん断補強工法は、好ましくは地下空間を形成する函体状の既設の地下構造物として、例えば
図1に示すような地下トンネル用の鉄筋コンクリート製のボックスカルバート10を耐震補強する際に、地下空間10aの周囲を囲う、天井壁部や側壁部や底壁部や仕切壁部の鉄筋コンクリート壁11の、せん断耐力やじん性を向上させるための工法として採用されたものである。本実施形態のせん断補強工法によれば、ボックスカルバート10の内部の地下空間10aからの作業によって、簡易に施工することができると共に、壁厚を大きくして地下空間10aの内空を狭めることなく、鉄筋コンクリート壁11を効果的にせん断補強することができる。また、本実施形態のせん断補強工法は、補強材挿入孔12の内部に充填される充填材14(
図7(a)、(b)参照)と、補強材挿入孔12の内部の孔壁面12aとの間の付着力を高めて、せん断補強材13による補強効果を向上させる機能を備える。
【0017】
なお、本実施形態では、
図1に示すボックスカルバート10の、特に符号Aによって示す部分の天井壁部の鉄筋コンクリート壁11を耐震補強する場合について説明するが、本発明のせん断補強工法によれば、側壁部や底壁部や仕切壁部の鉄筋コンクリート壁11に対しても、同様に耐震補強することが可能である。
【0018】
そして、本実施形態のせん断補強工法は、せん断荷重が作用する既設の鉄筋コンクリート壁として、例えばボックスカルバート10の天井壁部の鉄筋コンクリート壁11を補強するためのせん断補強工法であって、
図2〜
図7に示すように、鉄筋コンクリート壁11の一方の壁面11aから他方の壁面1bに向けて有底の補強材挿入孔12を削孔形成する削孔工程(
図2(a)〜(c)参照)と、形成した補強材挿入孔12に充填材14を装填する装填工程(
図3(a)〜(c)参照)と、充填材14が装填された補強材挿入孔12にせん断補強材13を挿入設置する補強材設置工程(
図5(a)、(b)参照)とを含んで構成されている。
【0019】
装填工程(
図3(a)〜(c)参照)では、吐出管20aの先端部に、補強材挿入孔12の内径と略同様の外径を有する押え拡径部20bが設けられた充填治具20を用いて、この充填治具20を、押え拡径部20bが補強材挿入孔12の先端孔底部12bに当接又は近接するまで補強材挿入孔12に挿入してから(
図3(a)参照)、充填材14を圧送することによって、押え拡径部20bを先端孔底部12bから離間させつつ、押え拡径部20bと先端孔底部12bとの間の部分に、圧力を立たせながら充填材14を連続して充填することにより装填してゆくようになっている(
図3(b)参照)。
【0020】
補強材設置工程(
図5(a)、(b)参照)は、せん断補強材13の外周面に沿って軸方向にスライド可能に装着されると共に、補強材挿入孔12の内径と略同様の外径を有する筒状スライドパッキン部材21を、軸方向挿通孔21aにせん断補強材13を挿通させてせん断補強材13の先端部に取り付けた状態で、せん断補強材13の先端部を、補強材挿入孔12に装填された充填材14の後端部に押し付けるまで補強材挿入孔12に挿入
して、筒状スライドパッキン部材21と先端孔底部12bとの間の部分に充填材14が充填された状態とする先端部挿入工程(
図5(a)参照)と、せん断補強材13の筒状スライドパッキン部材21が取り付けられた先端部を充填材14の後端部に押し付けた状態で、せん断補強材13を、補強材挿入孔12の先端孔底部12bに向けて充填材14の内部に押し込んでゆくことにより、筒状スライドパッキン部材21と先端孔底部12baとの間の部分に
充填されている充填材14の圧力を立たせながら、筒状スライドパッキン部材21を、せん断補強材13の外周面に沿って補強材挿入孔12の孔口部分12cに向けて後方(下方)にスライド移動させるせん断補強材押込み工程(
図5(b)参照)とを含んでいる。
【0021】
また、本実施形態のせん断補強工法は、補強材設置工程のせん断補強材押込み工程において、筒状スライドパッキン部材21が、せん断補強材13の外周面に沿ってせん断補強材13の後端部(下端部)まで後方(下方)にスライド移動したら、
図6(a)、(b)に示すように、筒状スライドパッキン部材21の軸方向挿通孔21aに、せん断補強材13と略同様の外径を有する補助棒22を押し込んで、充填材14の圧力を立たせながらせん断補強材13をさらに押し込むことで、せん断補強材13の全体を充填材14の中に一体として埋設させるようになっている。
【0022】
さらに、本実施形態のせん断補強工法では、筒状スライドパッキン部材21の軸方向挿通孔21aに補助棒22を押し込んで、せん断補強材13の全体を充填材14の中に一体として埋設させたら、
図7(a)、(b)に示すように、筒状スライドパッキン材21と補助棒22とを回収して、補強材挿入孔12の孔口部分12cの仕上げを行うようになっている。
【0023】
なお、
図2、
図3、及び
図5〜
図8では、ボックスカルバート10の天井壁部の鉄筋コンクリート壁11に配筋された鉄筋は、省略して描かれているが、実際には、鉄筋コンクリート壁11の厚さ方向の中央部分を挟んだ一方の壁面11a側と他方の壁面11b側に、これらの壁面11a,11bとの間に所定のかぶり厚を保持した状態で、主鉄筋と配力鉄筋とが、格子状に配筋されてコンクリート中に埋設設置されている。また、せん断補強材13が挿入される補強材挿入孔12は、これらの鉄筋と干渉しないように、これらの配筋位置を避けた部分に削孔形成されるようになっている。
【0024】
本実施形態では、鉄筋コンクリート壁11の一方の壁面11aから他方の壁面11bに向けて有底の補強材挿入孔12を削孔形成する削孔工程は、
図2(a)、(b)に示すように、例えばコアドリルや削岩機等の公知の削孔機30を使用して、地下空間10aからの作業によって、地下空間10aの天井面となっている、一方の壁面11aと垂直な上方に向けてコア削孔することにより行なわれる。これによって、後述するせん断補強材13の先端部に取り付けられた、六角ナットによる拡径定着部13a(
図4(a)参照)の最大外径よりも大きな、例えば30〜80mm程度の内径の円形断面を有する補強材挿入孔12が、基端開口を備える孔口部分12cから、先端孔底部12bまで、同じ内径を有するように形成される(
図2(c)参照)。またこれによって、補強材挿入孔12は、鉄筋コンクリート壁11の下面(天井面)から上方に向けて削孔されることで、鉄筋コンクリート壁11の下面に開口すると共に、上部に先端孔底部12bを有する縦長方向に延設する挿入孔として形成される。
【0025】
ここで、補強材挿入孔12は、好ましくは、鉄筋コンクリート壁11の内部に格子状に配筋された、主鉄筋及び配力鉄筋による格子の目の中央部分を削孔位置として、地下空間10aの天井面となっている一方の壁面11aに、縦横に所定の間隔をおいて複数箇所に形成される。補強材挿入孔12が形成される所定の間隔や個数は、鉄筋コンクリート壁11の補強後の耐震強度や、ボックスカルバート10の大きさ及び厚さや、設置深さ等を鑑みて、適宜設定することができる。
【0026】
また、補強材挿入孔12は、孔口部分12cの基端開口から、先端孔底部12bが、地山23と接する他方の壁面11b側の主鉄筋に近接して配置される深さまで、削孔形成されることが好ましい。補強材挿入孔12の深さが深すぎると、地山23に面した他方の壁面11b側のかぶり部分のコンクリートが破損しやすくなり、浅すぎると、せん断補強材13や充填材14による鉄筋コンクリート壁11のせん断補強効果を、十分に発揮させることができなくなる。
【0027】
本実施形態では、所定の深さまで削孔して補強材挿入孔12を形成したら、形成した補強材挿入孔12の内部に充填材14を充填するのに先立って、補強材挿入孔12の内部を清掃する。各々の強材挿入孔12の内部の清掃は、
図2(c)に示すように、例えば噴出口24aを先端に備えるブラシ付清掃ノズル24bが取り付けられた高圧清掃具24を用いて、高圧空気を噴出させながら容易に行うことができる。
【0028】
形成した補強材挿入孔12の内部に充填材14を装填する装填工程は、
図3(a)、(b)に示すように、吐出管20aの先端部に、補強材挿入孔12の内径と略同様の外径を有する押え拡径部20bが設けられた充填治具20を用いて、地下空間10aからの作業によって、例えば高流動性を有する充填材14を、押え拡径部20bと先端孔底部12aとの間の部分に、圧力を立たせながら連続して充填してゆくことによって行われる。
【0029】
ここで、本実施形態では、充填材14として、かきまぜることにより、粘度が低下し、次に放置することにより、粘度が元に戻ろうとする性質であるチクソトロピー性を有する充填材を用いることが好ましい。また、チクソトロピー性を有すると共に、充填性に優れた高流動性モルタルを用いることが更に好ましい。チクソトロピー性を有する充填性に優れた高流動性モルタルとしては、例えば使用時に所定量の水を加え、練り混ぜることによって使用することが可能な、高いチクソトロピー性を有するプレミックスタイプの空隙充填用グラウト材として公知の、例えば商品名「なおしタル」(株式会社ニューテック製)を好ましく用いることができる。
【0030】
充填材14として、チクソトロピー性を有する充填材14を用いることにより、補強材挿入孔12に所定量の充填材14を装填した後に、補強材挿入孔12から充填治具20を取り除いた状態でも、
図3(c)に示すように、後述する補強材設置工程において、筒状スライドパッキン部材21を備えるせん断補強材13の先端部を、下方から押し付けるまでの間、流れ落ちることなく、縦長方向に延設する補強材挿入孔12の上部側に充填材14が装填された状態を、容易に保持することが可能になる。また、充填材14として、充填性に優れた高流動性モルタルを用いることにより、固化した充填材14を、既設の鉄筋コンクリート壁11のコンクリートよりも大きな強度の、安定した補強材料として有効に利用することが可能になる。
【0031】
装填工程では、例えば相当の容量のホッパを備える公知のモルタルポンプ(図示せず)に接続された、圧送ホース25を介して送られる充填材14を、
図3(a)、(b)に示すように、圧送ホース25に接続された充填治具20から、モルタルポンプによる圧送圧力を利用して、充填治具20の先端の押え拡径部20bと補強材挿入孔12の先端孔底部12aとの間の部分に圧入すると共に、この圧入圧力によって、先端孔底部12aに当接又は近接していた押え拡径部20bを、先端孔底部12aから離間させつつ、圧力を立たせながら、これらの間の部分に充填材14を連続して充填してゆく。
【0032】
ここで、充填治具20は、本実施形態では、圧送ホース24に接続される、例えば塩化ビニル製の吐出管20aと、吐出管20aの先端部に固定された、例えばゴムスポンジ製の押え拡径部20bとを含んで構成されている。吐出管20aは、圧送ホース25の内径と同様の外径を有している。吐出管20aの基端部分を圧送ホース25の先端部内側に密着状態で挿入すると共に、ジョイント補助部材として、例えばホースバンド26を外側から巻き着けることによって、充填治具20が、モルタルポンプによる圧送圧力によって抜け出ないように、圧送ホース25の先端部分に強固に接合される。
【0033】
押え拡径部20bは、中央部分に吐配管20の外径と同様の内径の貫通穴が形成された、補強材挿入孔12の内径と略同様の外径を有する、円形ドーナツ形状のパッキン部材である。押え拡径部20bは、貫通穴に吐出管20aの先端部を嵌着した状態で、接着剤等を介して接合することによって、吐出管20aの先端開口を開口させた状態で、吐出管20aの先端部に一体として固定される。押え拡径部20bとホースバンド26との間の中間部分には、吐出管20aの外周面に一体として接合されて、補強材挿入孔12の内径よりも僅かに小さな外径を有する、ガイドリング27が取り付けられている。
【0034】
本実施形態では、装填工程において、上述の構成の充填治具20を、押え拡径部20bが補強材挿入孔12の先端孔底部12aに当接又は近接するまで補強材挿入孔12に挿入する(
図3(a)参照)。しかる後に、圧送ホース25及び充填治具20を介して、モルタルポンプから充填材14を圧送すると共に、吐出管20aの先端開口から、押え拡径部20bと先端孔底部12aとの間の部分の補強材挿入孔12に、圧送された充填材14を吐出させる。この際の吐出圧力によって、充填治具20は、押え拡径部20bを先端孔底部12aから離間させつつ、補強材挿入孔12から下方に押し出されてゆくと共に、離間した押え拡径部20bと先端孔底部12aとの間の部分には、圧送された充填材14が連続して充填されてゆく。また充填される充填材14の充填圧力によって充填治具20が下方に押し出されてゆく際に、この押出し圧力を、例えば押え拡径部20の外周面と補強材挿入孔12の内周面との間の摩擦力で支持したり、吐出管20aを適宜手で押さえて支持したりすることによって、充填される充填材14の充填圧力を所望の大きさに立たせながら、押え拡径部20bと先端孔底部12aとの間の部分に、充填材14を連続して充填して行くことが可能になる。
【0035】
充填材14を、押え拡径部20bと先端孔底部12aとの間の部分に、圧力を立たせながら充填してゆくことによって、補強材挿入孔12の内部に装填される充填材14を、補強材挿入孔12の孔壁面12aに強固に密着させることが可能になって、装填された充填材14と補強材挿入孔12の孔壁面12aとの間における、充填材14が固化した後の付着力を、効果的に高めることが可能になる。
【0036】
充填材14を圧送することによって、充填治具20の押え拡径部20bと補強材挿入孔12の先端孔底部12bとの間の部分に、充填材14を連続して充填して、補強材挿入孔12の内部に所定の量の充填材14を装填したら、
図3(c)に示すように、装填された充填材14を補強材挿入孔12の内部の上部側に保持した状態で、充填治具20を補強材挿入孔12から取り出して、次の補強材設置工程を行なえるようにする。ここで、装填工程で装填される充填材14の所定の量は、装填された充填材14の下方に残置される補強材挿入孔12の内部の空間の容積が、充填材14の内部に埋設設置されるせん断補強材13の容積よりも、僅かに少なくなるような量に設定することが好ましい。これによって、孔口部分12cを含む補強材挿入孔12の全体に充填材14を十分にゆきわたらせた状態で、充填材14の内部にせん断補強材13を埋設することが可能になる(
図7(a)、(b)参照)。
【0037】
そして、本実施形態では、補強材設置工程は、
図5(a)、(b)に示すように、筒状スライドパッキン部材21をせん断補強材13の先端部に取り付けた状態で、せん断補強材13の先端部を補強材挿入孔12に装填された充填材14の後端部に押し付ける先端部挿入工程(
図5(a)参照)と、せん断補強材13の先端部を充填材14の後端部に押し付けた状態で、せん断補強材13を充填材14の内部に押し込んでゆくことにより、装填されている充填材14の圧力を立たせながら、筒状スライドパッキン部材21を補強材挿入孔12の孔口部分12cに向けて後方(下方)にスライド移動させるせん断補強材押込み工程(
図5(b)参照)とを含んでいる。
【0038】
ここで、せん断補強材13は、
図4(a)、(b)に示すように、例えば鉄筋径が13〜51mm程度の太さの補強鉄筋となっており、好ましくは先端部分に雄ネジ部を備えるネジ付補強鉄筋となっている。せん断補強材13は、先端部分に断面形状が大きくなった拡径定着部13aを一体として備えると共に、拡径定着部13aよりも先端側に、先端が尖った形状の先鋭部13bを有している。
【0039】
本実施形態では、せん断補強材13は、鉄筋コンクリート壁11の厚さから、一方の壁面11a側及び他方の壁面11b側の双方のかぶり厚を差し引いた、例えば140〜4600mm程度の長さを有している。拡径定着部13aは、好ましくは雄ネジ部にナット部材として、最大外径が例えば23〜75mm程度の大きさの六角ナットを螺着することで、せん断補強材13の先端部分に一体として設けられている。先鋭部13bは、せん断補強材13の拡径定着部13aよりも先端側に突出する部分を、例えば斜めにカットすることによって、当該拡径定着部13aよりも先端部分に、先端が尖った形状を有するように形成される。
【0040】
後述するせん断補強材押込み工程において、せん断補強材13は、補強材挿入孔12の先端孔底部12aに先鋭部13bの先端が当接するまで、充填材14の内部に押し込まれる(
図6(b)参照)。これによって、せん断補強材13は、補強材挿入孔12の内部に位置決めされると共に、先端部分に断面形状が大きくなった拡径定着部13aを、鉄筋コンクリート壁11の地山23に面した他方の壁面11b側に配筋された主鉄筋に、近接して配置することが可能になる。またこれによって、定着強度を増大させることが可能になるので、地震時に、主鉄筋よりも地山23側の、既設のコンクリートによるかぶり部分に負荷される荷重を広範囲に分散させることで、鉄筋コンクリート壁11のせん断耐力やじん性を、効果的に向上させることが可能になる。また、せん断補強材13は、先鋭部13bの尖った先端を補強材挿入孔12の先端孔底部12aに当接させて、補強材挿入孔12の内部に位置決めされているので、先鋭部17の尖った先端による当接箇所の周囲の先端面と、先端孔底部12aとの間にも、充填材14が充填されることで、先端孔底部12aの孔壁面との付着力を、さらに向上させることが可能になる。
【0041】
本実施形態では、筒状スライドパッキン部材21は、せん断補強材13の外径と略同様の内径を有すると共に、補強材挿入孔12の内径と略同様の外径を有する、好ましくはゴムスポンジからなる厚肉の略円筒形状に成形された本体部21bと、この本体部21bの上下の端面に各々接合された、好ましくはプラスチック板からなる円環ドーナツ形状に成形された補強リング板21cとを含んで構成されている。筒状スライドパッキン部材21の中央部分には、これの軸方向に貫通して、補強リング板21cの部分で開口する軸方向挿通孔21aが形成されている。筒状スライドパッキン部材21は、例えば上端面の補強リング21cが、拡径定着部13aの下端面に当接するまで、軸方向挿通孔21aにせん断補強材13を挿通装着することによって、せん断補強材13の外周面に沿って軸方向(上下方向)にスライド移動可能な状態で、せん断補強材13の上端部(先端部)に一体として取り付けられる(
図4(a)、(b)参照)。
【0042】
また、せん断補強材13は、後述する先端部挿入工程(
図5(a)参照)において、充填材14が装填された補強材挿入孔12に挿入されるのに先立って、
図4(c)に示すように、拡径定着部13a及び筒状スライドパッキン部材21が取り付けられたせん断補強材13の先端部の、筒状スライドパッキン部材21から先端側の部分に、充填材14を塗着しておくことが好ましい。せん断補強材13の先端部の、筒状スライドパッキン部材21から先端側の部分に、充填材14を塗着しておくことにより、せん断補強材13の先端部を補強材挿入孔12に挿入して、充填材14の後端部に押し付けた際に、拡径定着部13aや筒状スライドパッキン部材21と、充填材14の後端部との間に、エア噛みが生じるのを、効果的に回避することが可能になる。
【0043】
本実施形態では、補強材設置工程の先端部挿入工程は、
図5(a)に示すように、せん断補強材13の外周面に沿って軸方向にスライド移動可能に装着された筒状スライドパッキン部材21を、拡径定着部13aの下端面に当接させた状態で、せん断補強材13の先端部を、好ましくは当該先端部に充填材14を予め塗着しておいてから、補強材挿入孔12に装填された充填材14の後端部に押し付けるまで補強材挿入孔12に挿入する。これによって、せん断補強材13の先端部の拡径定着部13aや筒状スライドパッキン部材21が、装填された充填材14の後端部に食い込むようにして密着する。
【0044】
せん断補強材13の先端部を、補強材挿入孔12に装填された充填材14の後端部に押し付けることにより密着させたら、次に、せん断補強材押込み工程において、
図5(b)に示すように、せん断補強材13のみを、補強材挿入孔12の先端孔底部12bに向けて、充填材14の内部にさらに押し込んでゆく。これによって、せん断補強材13の拡径定着部13aよりも下方の部分が、補強材挿入孔12に装填された充填材14の内部に新たに押し込まれて行く。また、せん断補強材13の拡径定着部13aよりも下方の部分が、充填材14の内部に新たに押し込まれた分の容積を、補強材挿入孔12の筒状スライドパッキン部材21よりも先端孔底部12a側に加える必要を生じるので、筒状スライドパッキン部材21は、せん断補強材13が新たに押し込まれた分の容積を増やすべく、せん断補強材13が押し込まれた際の充填材14による押出し圧力により押圧されて、せん断補強材13の外周面や補強材挿入孔12の内周面に沿って摺動しながら、補強材挿入孔12の孔口部分12cに向けて下方にスライド移動する。
【0045】
またこの際に、充填材14による押出し圧力を、例えば筒状スライドパッキン部材21の外周面と補強材挿入孔12の内周面との間の摩擦力や、軸方向挿通孔21aの内周面とせん断補強材13の外周面との間の摩擦力で支持することによって、充填された充填材14の圧力を所望の大きさで立たせながら、筒状スライドパッキン部材21を、補強材挿入孔12の孔口部分12cに向けて下方にスライド移動させることが可能になる。
【0046】
せん断補強材13を、補強材挿入孔12に装填された充填材14の内部に押し込むと共に、筒状スライドパッキン部材21を孔口部分12cに向けてスライド移動させて、
図6(a)に示すように、筒状スライドパッキン部材21が、せん断補強材13の外周面に沿ってせん断補強材13の下端部(後端部)まで下方に移動すると、せん断補強材13の下端部が筒状スライドパッキン部材21によって隠されて、せん断補強材13をこれ以上押し込むことが難しくなる。このため、本実施形態では、せん断補強材13の鉄筋径と略同様の外径を有する、例えば丸鋼からなる補助棒22を使用して、この補助棒22を、これの先端部をせん断補強材13の後端部に当接させながら、せん断補強材13に後続して筒状スライドパッキン部材21の軸方向挿通孔21aに挿通することで、充填材14の内部にせん断補強材13と共に押し込んでゆく。これによって、
図6(b)に示すように、せん断補強材13の全体を、これの先鋭部17を補強材挿入孔12の先端孔底部12aに当接させた状態で、補強材挿入孔12に充填された充填材14の内部に、一体として埋設することが可能になる。
【0047】
本実施形態では、筒状スライドパッキン部材21の軸方向挿通孔21aに、せん断補強材13に後続させて補助棒22を押し込んで、せん断補強材13の全体を充填材14の中に一体として埋設したら、
図7(a)、(b)に示すように、筒状スライドパッキン材21と補助棒22とを回収して、補強材挿入孔12の孔口部分12cの仕上げを行う。孔口部分12cの仕上げは、例えば、補助棒22を抜き取った部分を、補強材挿入孔12の孔口部分12cからはみ出した、余剰分の充填材14を用いて埋めることで補修すると共に、補強材挿入孔12の孔口部分12cからはみ出した部分の充填材14を、カットして除去することによって、容易に行うことができる。また、
図8に示すように、孔口部分12cに例えばゴム栓28を押し込んで固定することによって、孔口部分12cの仕上げを行うこともできる。ゴム栓28を押し込む際に、例えばゴム栓28の中心からずらした位置にφ5mm程度の貫通孔28aを形成しておくことで、余剰分の充填材14を排出させながらゴム栓28を押し込むことが可能になる。
【0048】
そして、上述の構成を備える本実施形態のせん断補強工法によれば、せん断補強材13の周囲の補強材挿入孔12との間の隙間を埋める充填材14と、補強材挿入孔12の内部の孔壁面12aとの間の付着力を十分に確保して、せん断補強材13による補強効果を効率良く発揮させることが可能になる。
【0049】
すなわち、本実施形態のせん断補強工法によれば、形成した補強材挿入孔12に充填材14を装填する装填工程と、充填材14が装填された補強材挿入孔12にせん断補強材13を挿入設置する補強材設置工程とを含んでおり、装填工程では、充填治具20を、押え拡径部20bが補強材挿入孔12の先端孔底部12bに当接又は近接するまで補強材挿入孔12に挿入してから、充填材14を圧送することによって、押え拡径部20bと先端孔底部12bとの間の部分に、圧力を立たせながら充填材14を連続して充填するようになっており、補強材設置工程では、せん断補強材13の筒状スライドパッキン部材21が取り付けられた先端部を充填材14の後端部に押し付けた状態で、せん断補強材13を、補強材挿入孔12の先端孔底部12bに向けて充填材14の内部に押し込んでゆくことにより、充填材14の圧力を立たせながら、筒状スライドパッキン部材21を補強材挿入孔12の孔口部分12cに向けて後方にスライド移動させるようになっている。
【0050】
したがって、本実施形態のせん断補強工法によれば、装填工程と補強材設置工程のいずれにおいても、補強材挿入孔12の内部に装填されたり充填された充填材14の圧力を立たせることによって、充填材14を補強材挿入孔12の孔壁面12aに強固に密着させることが可能になるので、装填された充填材14と補強材挿入孔12の孔壁面12aとの間における、充填材14が固化した後の付着力を効果的に高めることによって、十分な付着力を確保して、せん断補強材13による補強効果を、効率良く発揮させることが可能になる。
【0051】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、補強材挿入孔に装填される充填材は、チクソトロピー性を有する充填材である必要は必ずしも無い。せん断補強材は、ネジ付補強鉄筋の他、鉄筋棒や鋼棒等であっても良い。補強材設置工程の先端部挿入工程において、筒状スライドパッキン部材が取り付けられたせん断補強材の先端部に、充填材を塗着させた状態で、せん断補強材を補強材挿入孔に挿入する必要は必ずしも無い。せん断補強材の先端部分に、拡径定着部や先鋭部が設けられている必要は必ずしも無い。拡径定着部は、ナット部材である必要は必ずしも無く、せん断補強材に一体接合して設けられていても良い。
【0052】
本発明のせん断補強工法によって耐震補強される既設の地下構造物は、ボックスカルバート以外の、地下駐車場等のその他の函体状の地下構造物であっても良く、地下構造物以外の、鉄筋コンクリート壁を備える例えば地上に形成された鉄筋コンクリート構造物であっても良い。例えば鉄筋コンクリート壁の背面側に既設の設備があったり、背面側が水路であったり、背面側が鉄道や道路に面していたり、背面側に足場を設置することが困難であったりする場合に、背面側とは反対の正面側から、本発明のせん断補強工法を行って、鉄筋コンクリート構造物のせん断補強を行うことも可能である。