(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示された従来技術のハイブリッド建設機械では、過渡的な挙動を時間で平均化して評価すれば、上述したようにエンジン制御手段及び電動発電制御手段によってエンジンの回転数とトルクを所望の領域に制御することができるが、エンジンの各気筒内における爆発の周期に対応するような短時間での挙動を評価すると、エンジンの回転数及びトルクは所望の領域にあっても、その中での回転数及びトルクの変動が大きくなることがある。
【0007】
ここで、エンジンのトルクは各気筒の爆発によって発生し、エンジンの回転は爆発直後に加速して圧縮行程で減速するので、エンジンの回転数は各気筒内における爆発の周期で変動する。すなわち、エンジンは各気筒の爆発行程でしかトルクを発生させることができないので、エンジンの回転数は平均的に一定であっても必ず変動することになる。
【0008】
従来技術のハイブリッド建設機械では、エンジン制御手段は、通常、エンジンの各気筒内において爆発が起こるタイミングを把握しているので、エンジンの回転数の変動成分が大きくなければ、その変動成分を除去することができる。これにより、ドループ特性において変動成分が除去されたエンジンの回転数とトルクが一対一で対応する。一方、電動発電制御手段は、エンジンの各気筒内において爆発が起こるタイミングを把握できないので、変動成分が含まれるエンジンの回転数を測定し、電動発電機の回転数を目標回転数(ほぼ定数)に一致させるようとする回転数制御を行うことにより、電動発電機のトルクは車体の動作に伴う負荷が一定であっても変動することになる。
【0009】
そして、電動発電機のトルクの変動によりエンジンの回転数の変動が大きくなり、その結果、エンジン制御手段が変動成分を除去できない程度にエンジンの回転数が変動すると、ドループ特性においてエンジンの回転数に対応するトルクも変動し、このトルクの変動に伴ってエンジンの回転数がさらに大きく変動する。このように、従来技術のハイブリッド建設機械では、電動発電制御手段による回転数制御がエンジンの各気筒内での爆発に伴う回転数及びトルクの変動を増幅させることにより、エンジンの回転数及びトルクが安定せずに変動を繰り返すハンチングが生じることが懸念されている。
【0010】
本発明は、このような従来技術の実情からなされたもので、その目的は、エンジンの動作制御におけるハンチングの発生を抑制することができる建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明の建設機械は、エンジンと、前記エンジンの動力のアシスト及び発電を行う電動発電機と、前記電動発電機との間で電力の授受を行う蓄電装置と、前記エンジン、及び前記電動発電機により駆動される油圧ポンプと、前記エンジンの実回転数を検出する回転数検出装置と、前記回転数検出装置によって検出された前記エンジンの実回転数及び前記エンジンの目標回転数に基づいて、前記エンジンのトルクを発生させる制御を行うエンジンコントローラと、車体の動作を制御する車体コントローラとを備えた建設機械において、前記車体コントローラは、前記油圧ポンプの吸収動力
であるポンプ吸収動力を推定する負荷推定部と、前記蓄電装置の充電状態に応じて、前記電動発電機の回生動作又は力行動作に対して要求される
回生力行要求動力を演算する回生力行要求演算部と、前記負荷推定部によって推定された
ポンプ吸収動力及び前記回生力行要求演算部によって演算された
回生力行要求動力に基づいて、前記エンジンに要求される動力
であるエンジン要求動力を演算するエンジン要求演算部と、
前記エンジン要求演算部によって演算された前記エンジン要求動力及び前記回転数検出装置によって検出された前記エンジンの実回転数に応じて、前記電動発電機の目標回転数に基づいて前記電動発電機のトルクを発生させる回転数制御、及び前記電動発電機の目標トルクに基づいて前記電動発電機のトルクを発生させるトルク制御のいずれかを行う電動発電機制御部とを含み、前記電動発電機制御部は、前記エンジン要求演算部によって演算された
前記エンジン要求動力及び前記回転数検出装置によって検出された前記エンジンの実回転数に応じて、前記回転数制御と前記トルク制御を切替える制御切替部を有し、前記制御切替部は、前記トルク制御が行われている間に、
前記エンジンが最大トルクを発生した状態で前記エンジン
要求動力が増大して前記エンジンの回転数が所定の第1の回転数よりも低くなったとき、前記トルク制御から前記回転数制御へ切替え
、前記回転数制御が行われている間に、前記エンジン要求動力が前記エンジンの最大トルクよりも小さな値に設定された基準動力より小さくなったとき、前記回転数制御から前記トルク制御に切替え、前記電動発電機制御部は、前記回転数制御の際には前記電動発電機の目標回転数を前記エンジンの目標回転数より低い回転数に設定し、前記回転数制御を行っている間は前記エンジンの回転数が前記エンジンの目標回転数より所定回転数低く維持されるように前記電動発電機のトルクを調整することを特徴としている。
【0012】
このように構成した本発明では、電動発電機制御部によってトルク制御が行われているときに、
エンジン要求動力が増大してエンジンのトルクが最大トルクまで増加すると、その後エンジンの回転数が低下する。すなわち、エンジンのラグダウンが生じる。そして、エンジンの回転数が所定の第1の回転数よりも低くなると、電動発電機制御部の制御切替部が電動発電機の動作制御をトルク制御から回転数制御へ切替えることにより、電動発電機の目標回転数に基づいて電動発電機のトルクが発生するので、エンジンの回転数が変動しても、エンジンは最大トルクの状態を維持することができる。このようなエンジンの最大トルクの状態では、エンジンの特性上、エンジンの回転数の変動に伴うエンジンのトルクの変動が少なくて済むので、エンジンの回転数及びトルクを安定させることができる。これにより、エンジンの動作制御におけるハンチングの発生を抑制することができる。
【0014】
また、本発明では、電動発電機制御部によって回転数制御が行われているときに、
エンジン要求動力が
エンジンの最大トルクよりも小さな値に設定された基準動力より小さくなると、電動発電機制御部の制御切替部が電動発電機の動作制御を回転数制御からトルク制御へ切替えることにより、エンジンのトルクを最大トルク以下へ迅速に減少させることができるので、蓄電装置の過剰な充電が行われることを防止しつつ、エンジンの負荷を低減することができる。
【0015】
また、本発明
は、電動発電機制御部によって回転数制御が行われている間は、エンジンの回転数が目標回転数よりも
所定回転数低く
維持されるように電動発電機のトルクを調整するので、電動発電機のトルクの変動に拘わらず、エンジンが最大トルクの状態を安定して維持することができる。
【0016】
また、本発明に係る建設機械は、前記発明において、前記エンジンコントローラは、前記エンジンの回転数の低下に対応して前記エンジンのトルクが所定の傾きで増加するガバナ特性で前記エンジンを動作させ、前記電動発電機制御部は、前記トルク制御を行っている間に、前記電動発電機の目標トルクを力行動作に対応する目標トルクに設定した状態で、前記エンジンの回転数が所定の第2の回転数よりも高くなったとき、前記電動発電機の目標トルクを減少させることを特徴としている。
【0017】
このように構成した本発明では、電動発電機制御部によってトルク制御が行われている間に、力行動作に対応する電動発電機の目標トルクに対して過大なトルクが誤って設定されても、エンジンの回転数が所定の第2の回転数よりも高くなった時点で、電動発電機の目標トルクが減少することにより、電動発電機の余分なトルクが発生してエンジンが過剰に回転するのを抑制することができる。これにより、エンジンの過回転を未然に回避することができる。
【0018】
また、本発明に係る建設機械は、前記発明において、前記車体コントローラは、前記エンジンのトルクを推定するトルク推定部を備え、前記エンジンコントローラは、前記エンジンの回転数が前記エンジンの目標回転数に一致するように前記エンジンのトルクを発生させ、前記電動発電機制御部は、前記トルク制御を行っている間に、前記電動発電機の目標トルクを力行動作に対応する目標トルクに設定した状態で、前記トルク推定部によって推定されたトルクが所定のトルクよりも小さくなったとき、前記電動発電機の目標トルクを減少させることを特徴としている。
【0019】
このように構成した本発明では、電動発電機制御部によってトルク制御が行われている間に、力行動作に対応する電動発電機の目標トルクに対して過大なトルクが誤って設定されても、トルク推定部によって推定されたトルクが所定のトルクよりも小さくなった時点で、電動発電機の目標トルクが減少することにより、電動発電機の余分なトルクが発生してエンジンが過剰に回転するのを抑制することができる。これにより、エンジンの過回転を未然に回避することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の建設機械によれば、トルク制御が行われている間に、エンジンに要求される動力が増大してエンジンの回転数が所定の第1の回転数よりも低くなったときに、電動発電機制御部の制御切替部によって電動発電機の動作制御がトルク制御から回転数制御へ切替わることにより、エンジンが最大トルクの状態を維持できるので、エンジンの回転数及びトルクを安定させることができる。これにより、エンジンの動作制御におけるハンチングの発生を抑制できるので、従来よりもエンジンの排気及び燃費の性能を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る建設機械を実施するための形態を図に基づいて説明する。
【0023】
[第1実施形態]
本発明に係る建設機械の第1実施形態は、例えば、
図1に示すハイブリッド油圧ショベル(以下、便宜的に油圧ショベルと呼ぶ)1に適用される。この油圧ショベル1は、走行体2と、この走行体2上に旋回フレーム(図示せず)を介して旋回可能に設けられた旋回体3と、旋回体3の前方に取り付けられ、上下方向に回動して掘削等の作業を行う多関節型のフロント作業機4とを備えている。
【0024】
走行体2は、トラックフレーム6と、このトラックフレーム6に設けられ、旋回体3を旋回させる旋回電動機7(
図2参照)と、トラックフレーム6の前後方向に沿う一端に取付けられて回動駆動するスプロケット(駆動輪)8と、このスプロケット8を回転させる走行モータ9と、トラックフレーム6の前後方向に沿う他端に回動可能に取付けられたアイドラ(遊動輪)10と、これらのスプロケット8及びアイドラ10の外周に無端状に巻かれた履帯11とを有しており、スプロケット8が回動駆動することで履帯11が回動して地面と摺動し、車体が移動するようになっている。
【0025】
旋回体3は、前部に設けられた運転室13と、後部に設けられ、車体の重量のバランスを保つカウンタウェイト14と、後部に設けられ、後述のエンジン15(
図2参照)が収納されるエンジンルーム16と、旋回電動機7、走行モータ9、後述のブームシリンダ4a、アームシリンダ4b、及びバケットシリンダ4c等のアクチュエータの駆動を制御するアクチュエータ駆動制御システム17(
図2参照)とを備えている。
【0026】
フロント作業機4は、基端が旋回フレームに回動可能に取り付けられて上下方向に回動するブーム4Aと、このブーム4Aの先端に回動可能に取り付けられたアーム4Bと、このアーム4Bの先端に回動可能に取り付けられたバケット4Cとを有している。また、フロント作業機4は、旋回体3とブーム4Aとを接続し、伸縮することによってブーム4Aを回動させるブームシリンダ4aと、ブーム4Aとアーム4Bとを接続し、伸縮することによってアーム4Bを回動させるアームシリンダ4bと、アーム4Bとバケット4Cとを接続し、伸縮することによってバケット4Cを回動させるバケットシリンダ4cとを有している。ブーム4A、アームAB、バケット4C、及び旋回体3の各動作は、後述の操作レバー装置24A,24Bの油圧操作信号(制御パイロット圧力)により指示され、走行体2の動作は、後述の走行用の操作ペダル装置の油圧操作信号(制御パイロット圧力)により指示される。
【0027】
次に、旋回体3に搭載されたアクチュエータ駆動制御システム17の構成について、
図2を参照して説明する。
【0028】
図2に示すように、アクチュエータ駆動制御システム17は、エンジン15と、このエンジン15により駆動される油圧ポンプ21と、この油圧ポンプ21によって吐出された圧油の流れを制御する方向切換弁22と、パイロット圧油としての作動油を方向切換弁22へ供給するパイロットポンプ(図示せず)と、油圧ポンプ21及びパイロットポンプへ供給される作動油を貯蔵する作動油タンク23と、運転室13内に設けられ、アクチュエータ4a〜4c,7の所望の動作を可能とし、運転室13内の操作者が把持して操作する操作レバー24A1,24B1が搭載された操作レバー装置24A,24Bと、運転室13内に設けられ、走行体2の所望の動作を可能とし、運転室13内の操作者が踏み込んで操作する操作ペダル(図示せず)が搭載された操作ペダル装置(図示せず)と、これらの操作レバー装置24A,24B及び操作ペダル装置に入口側が接続され、方向切換弁22の後述の受圧室に出口側が接続されたシャトル弁ブロック25とを含んでいる。
【0029】
エンジン15は、内部の各気筒内への燃料噴射量を調整する電子ガバナ15Aを有している。油圧ポンプ21は、例えば、可変容量型油圧ポンプから成っている。具体的には、油圧ポンプ21は、斜板(図示せず)と、この斜板の傾転角を調整し、吐出する圧油の流量を制御するポジティブ制御方式のレギュレータ21Aとを有している。
【0030】
このレギュレータ21Aは、シャトル弁ブロック25に電気的に接続されており、操作レバー装置24A,24B及び操作ペダル装置の操作部材である操作レバー24A1,24B1及び操作ペダルの操作量(要求流量)が増加し、シャトル弁ブロック25を介して受信した油圧操作信号が上昇するに従って油圧ポンプ21の斜板の傾転角(容量)を増加させることにより、油圧ポンプ21の吐出流量が増加するようになっている。なお、レギュレータ21Aは、図示されないが、油圧ポンプ21の吐出圧が高くなるに従って油圧ポンプ21の傾転角(容量)を減らして、油圧ポンプ21の吸収トルクを予め設定した最大トルクを超えないように制御するトルク制限制御機能を有している。
【0031】
方向切換弁22は、例えば、センタバイパスラインに配置されるオープンセンタ型のスプール弁から成り、油圧ポンプ21及びアクチュエータ4a〜4cとの間で油圧回路を構成している。また、方向切換弁22は、図示されないが、外殻を形成するハウジング内でストロークすることにより、油圧ポンプ21から吐出された圧油の流量及び方向を調整するスプールと、シャトル弁ブロック25からの制御パイロット圧力が作用し、スプールのストローク量を変更する受圧部とを有している。
【0032】
操作レバー装置24A,24B及び操作ペダル装置は、パイロットポンプから吐出された圧油により生成された1次圧を当該各装置に備えられる減圧弁(リモコン弁)の操作開度に応じて2次圧に減圧して制御パイロット圧力(油圧操作信号)を生成し、その制御パイロット圧力が方向切換弁22の受圧室に送られることにより、方向切換弁22を中立位置から切換操作する。シャトル弁ブロック25は、操作レバー24A1,24B1が生成する油圧操作信号のうち旋回操作を指示する油圧操作信号以外の油圧操作信号と、操作ペダル装置が生成する油圧操作信号のうち最も圧力が高い油圧操作信号を選択してレギュレータ21Aへ出力する。
【0033】
また、アクチュエータ駆動制御システム17は、エンジン15の駆動軸上に配置され、エンジン11との間でトルクを伝達することにより、エンジン11の動力のアシスト及び発電を行う電動発電機(M/G)31と、旋回体3を駆動する前述の旋回電動機(M)7と、これらの電動発電機31及び旋回電動機7の動作を制御するインバータ32,33と、インバータ32,33を介して電動発電機31及び旋回電動機7との間で電力の授受を行う蓄電装置としてのバッテリ34と、このバッテリ34の動作を制御するバッテリコントローラ35とを備えている。
【0034】
さらに、アクチュエータ駆動制御システム17は、エンジン15の目標回転数を設定する目標回転数設定部36と、エンジン15の実回転数を検出する回転数検出装置としての回転数センサ37と、この回転数センサ37及び電子ガバナ15Aに接続され、エンジン15の動作を制御するエンジンコントローラ38と、操作レバー装置24A,24B及び操作ペダル装置によって減圧された制御パイロット圧力を検出する圧力センサ39A,39Bと、油圧ポンプ21と方向切換弁22との間に設けられ、油圧ポンプ21から吐出された圧油の吐出圧を検出する吐出圧センサ40と、インバータ32,33、バッテリコントローラ35、目標回転数設定部36、エンジンコントローラ38、及び圧力センサ39A,39Bに接続され、これらの各機器と種々の信号の入出力を行うことにより、車体全体の動作を制御する車体コントローラ41とを含んでいる。
【0035】
電動発電機31は、エンジン15及び油圧ポンプ21の回転軸と連結されており、エンジン15の動力を電気エネルギ(電力)に変換してインバータ32へ出力する発電機としての機能と、インバータ32から供給される電気エネルギ(電力)により駆動され、エンジン15の動力をアシストして油圧ポンプ21を駆動する電動機としての機能とを有している。旋回電動機7は、インバータ33から供給される電気エネルギ(電力)により旋回体3を駆動する。また、旋回電動機7は、旋回体3の制動時の動力を電気エネルギ(電力)に変換してインバータ33へ出力する回生機能を有している。
【0036】
インバータ32は、電動発電機31が発電機として機能するときは、電動発電機31で生成した交流電力を直流電力に変換してバッテリ34又はインバータ33へ出力し、電動発電機31が電動機として機能するときは、バッテリ34からの直流電力を交流電力に変換して電動発電機31へ供給する。インバータ33は、旋回電動機7による回生機能が作動するときは、旋回電動機7で生成した交流電力を直流電力に変換してバッテリ34へ出力し、旋回電動機7が旋回体3を駆動するときは、バッテリ34又はインバータ32からの直流電力を交流電力に変換して旋回電動機7へ供給する。
【0037】
バッテリ34は、バッテリコントローラ35からの制御指令を入力し、インバータ32,33へ直流電力を供給して放電し、あるいはインバータ32,33から供給された直流電力を蓄積して充電することにより、電動発電機31で生成した電気エネルギ及び旋回電動機7で回生した電気エネルギを蓄える。バッテリコントローラ35は、バッテリ34の電圧及び電流を検出し、バッテリ34に蓄えられている電気エネルギの量、いわゆる蓄電残量(SOC)を推定して車体コントローラ41に入力する。
【0038】
目標回転数設定部36は、例えば、運転室13内に設けられ、軽掘削作業やならし作業等の軽負荷又は中負荷の作業を行うときのモードであるエコノミーモード、及びこのエコノミーモードより高負荷の作業を行うときのモードである高負荷モード等の作業の内容に応じた作業モードを選択し、各作業モードにおいてエンジン15の目標回転数を設定する目標回転数設定ダイヤルから構成されている。
【0039】
エンジンコントローラ38は、エンジン15の目標回転数及びエンジン15の実回転数を車体コントローラ41及び回転数センサ37からそれぞれ入力し、これらのエンジン15の目標回転数とエンジン15の実回転数の偏差を演算する。そして、エンジンコントローラ38は、演算した偏差に基づいて目標燃料噴射量を演算し、この目標燃料噴射量に対応する制御指令を電子ガバナ15Aへ出力する。電子ガバナ15Aは、エンジンコントローラ38から入力された制御指令により作動し、目標燃料噴射量に相当する燃料をエンジン15の各気筒内へ噴射して供給する。
【0040】
これにより、エンジン15の動作は、エンジン15の回転数が目標回転数に維持されるように、エンジン15のトルクを発生させる制御が行われる。また、エンジンコントローラ38は、エンジン15の回転数の低下に対応してエンジン15のトルクが所定の傾きで増加するガバナ特性(
図5参照)でエンジン15を動作させるようにしている。すなわち、エンジンコントローラ38はエンジン15の動作制御としてドループ制御を行う。
【0041】
車体コントローラ41は、各機器へ出力する制御指令に関する演算を行う制御演算回路42(
図3参照)を有しており、例えば、旋回電動機7及び電動発電機31に対して下記の制御を行う。
【0042】
(1)旋回電動機7の駆動制御
圧力センサ39Aは、操作レバー装置24Aが生成した油圧操作信号のうち左右方向の旋回操作を指示する油圧操作信号を導くパイロット油路に接続され、このパイロット油路における油圧操作信号を検出する。車体コントローラ41は、圧力センサ39Aの検出信号(電気信号)を入力し、圧力センサ39Aによって検出された油圧操作信号に応じて、旋回電動機7の駆動制御を行う。
【0043】
具体的には、車体コントローラ41は、入力した圧力センサ39Aの検出信号が左方向の旋回操作を指示する油圧操作信号であるときは、その油圧操作信号に基づいて、インバータ32の動作を制御して電動発電機31を発電機として動作させる発電制御を行うと共に、インバータ33の動作を制御して旋回電動機7を電動機として駆動する力行制御を行う。これにより、旋回電動機7がインバータ33から供給された電力によって作動することにより、旋回体3が油圧操作信号に対応した速度で左旋回する。
【0044】
また、車体コントローラ41は、入力した圧力センサ39Aの検出信号が右方向の旋回操作を指示する油圧操作信号であるときは、その油圧操作信号に基づいて、インバータ32の動作を制御して電動発電機31を発電機として動作させる発電制御を行うと共に、インバータ33の動作を制御して旋回電動機7を電動機として駆動する力行制御を行う。これにより、旋回電動機7がインバータ33から供給された電力によって作動することにより、旋回体3が油圧操作信号に対応した速度で右旋回する。
【0045】
(2)旋回電動機7の回生制御
車体コントローラ41は、旋回体3の旋回動作の制動時に、インバータ33の動作を制御して旋回電動機7を発電機として動作させる発電制御を行うことにより、旋回電動機7から電気エネルギを回収する。そして、車体コントローラ41は、回収した電気エネルギをバッテリ34に蓄積することにより、バッテリ34の蓄電残量が上昇する。
【0046】
(3)電動発電機31の動作制御(バッテリ34の蓄電管理制御)
車体コントローラ41は、油圧ポンプ21の吸収動力、すなわち油圧ポンプ21の負荷が低く、かつバッテリコントローラ35によって管理されるバッテリ34の蓄電残量が少ないときには、インバータ32に対して、電動発電機31を発電機として動作させる発電制御を行う。これにより、電動発電機31が余剰の電力を発生させることにより、バッテリ34による充電動作が行われ、バッテリ34の蓄電残量が上昇する。
【0047】
一方、車体コントローラ41は、油圧ポンプ21の吸収動力、すなわち油圧ポンプ21の負荷が重く、かつバッテリコントローラ35によって管理されるバッテリ34の蓄電残量が所定量以上あるときは、インバータ32に対して、バッテリ34の電力を供給して電動発電機31を電動機として動作させる力行制御を行う。これにより、電動発電機31がエンジン15の動力をアシストすることにより、油圧ポンプ21がエンジン15及び電動発電機31により駆動される。従って、バッテリ34による放電動作が行われ、バッテリ34の蓄電残量が減少する。
【0048】
次に、上記(3)のバッテリ34の蓄電管理制御を考慮した電動発電機31の動作制御を実現する車体コントローラ41の制御演算回路42の構成について、
図3を参照して詳細に説明する。
【0049】
図3に示すように、車体コントローラ41の制御演算回路42は、油圧ポンプ21の吸収動力(以下、便宜的にポンプ吸収動力と呼ぶ)を推定する負荷推定部45と、バッテリ34の充電状態に応じて、電動発電機31の回生動作又は力行動作に対して要求される動力(以下、便宜的に回生力行要求動力と呼ぶ)を演算する回生力行要求演算部46と、負荷推定部45によって推定されたポンプ吸収動力及び回生力行要求演算部46によって演算された回生力行要求動力に基づいて、エンジン15に要求される動力(以下、エンジン要求動力と呼ぶ)を演算するエンジン要求演算部47とを備えている。
【0050】
負荷推定部45は、例えば、圧力センサ39A,39Bの検出信号から得られた操作レバー24A1,24B1の操作量に基づいて、油圧ポンプ21の吐出流量を推定する吐出流量推定部45Aと、吐出圧センサ40によって検出された吐出圧と吐出流量推定部45Aによって推定された吐出流量とを乗じることにより、ポンプ出力を演算するポンプ出力演算部45Bとを有している。
【0051】
また、負荷推定部45は、油圧ポンプ21の回転数、吐出圧、及び吐出流量等の油圧ポンプ21の運転状態に対するポンプ効率及び損失のマップを記憶するマップ記憶部45Cと、ポンプ出力演算部45Bによって演算されたポンプ出力を、マップ記憶部45Cに記憶されたマップを参照して得られたポンプ効率で除することにより、あるいは、ポンプ出力演算部45Bによって演算されたポンプ出力から、マップ記憶部45Cに記憶されたマップを参照して得られた損失を減算することにより、ポンプ吸収動力を演算する負荷演算部45Dとを有している。
【0052】
ここで、バッテリ34の蓄電残量の基準値が、例えば、蓄電容量の50%と設定されている場合に、バッテリ34の蓄電残量が基準値より少ないとき、回生力行要求演算部46は、回生力行要求動力として、バッテリ34の蓄電残量と基準値との差及びエンジン15の目標回転数に基づく回生トルクを発生させるのに必要な回生動力を演算する。一方、バッテリ34の蓄電残量が基準値より多いとき、回生力行要求演算部46は、回生力行要求動力として、バッテリ34の蓄電残量と基準値との差及びエンジン15の目標回転数に基づく力行トルクを発生させるのに必要な力行動力を演算する。
【0053】
これらの回生トルク及び力行トルクは、電動発電機31の動作制御がトルク制御のときの目標トルクであり、この目標トルクに従う回生動作と力行動作が行われることにより、バッテリ34の蓄電残量は適正な範囲に調整される。なお、回生力行要求動力の符号は、例えば、回生動力のときに負となり、力行動力のときに正となる。
【0054】
ここで、エンジン要求動力をL、ポンプ吸収動力をP、回生力行要求動力をQとすると、エンジン要求動力Lは下記の数式(1)により定義される。
【数1】
【0055】
回生力行要求動力Qが回生動力Qg(>0)になるときは(Q=−Qg)、数式(1)においてQが負の値となるので、エンジン15はポンプ吸収動力Pと回生動力Ggを加算した動力を発生させる。一方、回生力行要求動力Qが力行動力Qd(>0)になるときは(Q=Qd)、数式(1)においてQが正の値となるので、エンジン15はポンプ吸収動力Pから力行動力Qdを減算した動力を発生させるだけで良い。従って、エンジン15がエンジン要求動力Lを発生することにより、適切なポンプ吸収動力Pが得られる上に、回生力行要求動力Qも満たすことができる。
【0056】
エンジン要求演算部47は、負荷演算部45Dによって演算されたポンプ吸収動力Pと回生力行要求演算部48によって演算された回生力行要求動力Qを、上記の数式(1)に代入することにより、エンジン要求動力Lを演算する。
【0057】
また、制御演算回路42は、電動発電機31の目標回転数に基づいて電動発電機31のトルクを発生させる回転数制御、及び電動発電機31の目標トルクに基づいて電動発電機31のトルクを発生させるトルク制御のいずれかを行う電動発電機制御部48を備えている。この電動発電機制御部48は、エンジン要求演算部47によって演算されたエンジン要求動力L及び回転数センサ37によって検出されたエンジン15の実回転数に応じて、回転数制御とトルク制御を切替える制御切替部48Aを含んでいる。
【0058】
この制御切替部48Aは、
図4に示すように、トルク制御が行われている間に(状態S1)、エンジン要求動力Lが増大してエンジン15の回転数が所定の第1の回転数Nminよりも低くなったとき、トルク制御から回転数制御へ切替え、回転数制御が行われている間に(状態S2)、エンジン要求動力Lが所定の動力(以下、便宜的に基準動力と呼ぶ)L0より小さくなったとき、回転数制御からトルク制御に切替える。電動発電機制御部48は、回転数制御を行っている間(状態S2)、電動発電機31の目標回転数をエンジン15の目標回転数より低い回転数に設定する。なお、エンジン要求動力Lはエンジン15に要求される動力、回生力行要求動力Qは電動発電機31の回生動作又は力行動作に対して要求される動力として、上記の数式(1)により定義したが、後述するように、実際にはその要求は満たされないことが多い。
【0059】
次に、このように構成された車体コントローラ41の制御演算回路42による電動発電機31の動作制御に伴うエンジン15の動作ついて、
図5を参照して詳細に説明する。
【0060】
図5に示すように、エンジン15はエンジンコントローラ38によってドループ制御で動作するので、無負荷でエンジン15のトルクが0になる回転数をエンジン15の目標回転数Ne
*(具体例として、2000rpm)として、操作者が作業の内容に応じて目標回転数設定ダイヤル36により指定することができる。電動発電機31がトルクを発生しないときに、操作レバー24A1,24B1及び操作ペダルが無操作であれば、エンジン15の動作状態は油圧ポンプ21の引き摺り等に対応する動作点E0にあり、油圧ポンプ21の負荷、すなわちポンプ吸収動力Pが増加するにつれてエンジン要求動力Lが増大するので、エンジン15のトルクも増加してエンジン15の動作状態が最大トルクである動作点E2まで移動する。そして、ポンプ吸収動力Pがさらに増加すると、エンジン15の動作状態は最大トルクに沿って遷移し、エンジン15の回転数が低下する。
【0061】
ここで、電動発電機制御部48による電動発電機31の動作制御の初期状態を状態S1として、電動発電機31の動作制御の状態遷移を説明する。電動発電機31の動作制御が状態S1のとき、電動発電機制御部48は電動発電機31に対してトルク制御を行うので、回転数に拘わらず、ほぼ指定した目標トルクを発生する。この目標トルクは、上述したように、バッテリ34の蓄電残量を考慮した回生力行要求動力Qから演算される。
【0062】
電動発電機31が回生しているときには、電動発電機31の回生によるトルクと油圧ポンプ21の負荷によるトルクを合計したトルクがエンジン15に加えられ、電動発電機31が力行しているときには、油圧ポンプ21のトルクから電動発電機31のトルクを減算したトルクをエンジン15が支えることになる。いずれにしても、それらのエンジン15の負荷になるトルクがエンジン15の最大トルクよりも小さいときは、エンジン15は動作点E0から動作点E2までのドループ特性上で運転する。
【0063】
そのため、エンジン15の負荷が変動すると、エンジン15のトルクもドループ特性に従って変動する。このとき、電動発電機31による負荷は回転数によって変動するものではなく、しかもトルク制御が行われるので、目標トルクの変化率をバッテリ34の充放電管理に悪影響のない範囲で設定することができる。従って、電動発電機31によってエンジン15のトルクの変動が増加してエンジン15の排気及び燃費の性能が悪化するのを防止でき、さらにバッテリ34の蓄電残量の管理を容易に行うことができる。
【0064】
その後、エンジン15の動作状態が動作点E2において、エンジン15の負荷が増加すると、エンジン15の回転数が低下し、エンジン15の動作状態が動作点E3から動作点E4まで遷移する。そして、エンジン15の負荷がさらに増加して、エンジン15の回転数が動作点E4の回転数Nminよりも低下すると、電動発電機31の動作制御の状態が状態S1から状態S2へ遷移し、制御切替部48Aが電動発電機31の動作制御をトルク制御から回転数制御に切替える。そして、電動発電機制御部48は、電動発電機31の目標回転数をエンジン15の目標回転数Ne
*より低い回転数Na
*(具体例として、1980rpm)に設定することにより(Na
*<Ne
*)、電動発電機31の回転数が目標回転数Na
*に一致するように電動発電機31のトルクを調整する。
【0065】
このとき、エンジン15の回転数は完全には目標回転数Na
*に一致するわけではないが、電動発電機31の動作制御の状態が状態S2のときには、エンジン15の動作状態は動作点E3の付近にあり、エンジン15の回転数は目標回転数Ne
*よりも低く維持されるので、電動発電機31のトルクの変動に拘わらず、エンジン15が最大トルクの状態を安定して維持することができる。これにより、電動発電機31によってエンジン15のトルクの変動が増加しても、エンジン15が排気及び燃費の高い性能を発揮することができる。なお、電動発電機31の動作制御の状態が状態S2のときには、上述したように、エンジン15は目標回転数Ne
*よりも低い目標回転数Na
*で運転されるが、これらの目標回転数Ne
*と目標回転数Na
*との差(具体例では、20rpm)は、例えば、エンジン15の定格回転数の1%程度で上述した効果を十分に得ることができるので、エンジン15のトルクや動力への影響はほとんどない。
【0066】
そして、電動発電機31の動作制御の状態が状態S2のときに、エンジン要求演算部47によって演算されたエンジン要求動力Lが基準動力L0より小さくなると、制御切替部48Aが電動発電機31の動作制御を回転数制御からトルク制御に切替えることにより、電動発電機31の動作制御の状態が状態S2から状態S1へ遷移する。これにより、エンジン15のトルクを最大トルク以下へ迅速に減少させることができるので、バッテリ34の過剰な充電が行われることを防止しつつ、エンジン15の負荷を低減することができる。これにより、エンジン15及びバッテリ34の長寿命化を図ることができる。
【0067】
上述の状態S2は、エンジン要求動力Lが大きいとき、操作者が目標回転数設定ダイヤル36で指示した回転数、あるいは油圧ポンプ21の駆動に必要な回転数を確保しながら、エンジン15が確実かつ安定して最大トルクを発生するための状態である。電動発電機31の動作制御の状態S2から状態S1への遷移は、エンジン要求動力Lが低下したことを意味するため、基準動力L0は、例えば、エンジン15の最大トルクの8割程度に設定すれば良い。
【0068】
次に、電動発電機31の動作制御の状態が状態S2のときの電動発電機31の動作について、
図6を参照して詳細に説明する。
【0069】
電動発電機31の動作制御の状態が状態S2であるので、
図6に示すエンジン要求動力L1〜L3は、制御切替部48Aによる電動発電機31の動作制御の切替が行われる基準動力L0よりも大きいものとする。また、ポンプ吸収動力P1は、エンジン15の最大トルクに対応する動力に比べて小さく、ポンプ吸収動力P2は、エンジン15の最大トルクに対応する動力に比べて大きいものとする。なお、以下の説明は、これらのエンジン要求動力L1〜L3及びポンプ吸収動力P1,P2を組み合わせた以下の5つの場合について示している。
【0070】
図6に示すように、ポンプ吸収動力PがP1であるとき、エンジン要求動力LがL1であれば、電動発電機31の動作として、回生トルクG1を発生させることが要求される。しかし、実際には、エンジン要求動力L1は基準動力L0よりも大きく、電動発電機31の動作制御の状態は状態S2に維持されているので、エンジン15の動作状態は動作点E3にあり、電動発電機31は、動作点E3からポンプ吸収動力P1までの回生トルクGを発生させる。この場合には、要求された回生トルクG1よりも大きな回生トルクGが得られる(G>G1)。
【0071】
ポンプ吸収動力PがP1であるとき、エンジン要求動力LがL2であれば、電動発電機31の動作として、回生トルクG2を発生させることが要求される。しかし、実際には、エンジン要求動力L2は基準動力L0よりも大きく、電動発電機31の動作制御の状態は状態S2に維持されているので、エンジン15の動作状態は動作点E3にあり、電動発電機31は、動作点E3からポンプ吸収動力P1までの回生トルクGを発生させる。この場合には、要求された回生トルクG2よりも小さな回生トルクGが得られる(G<G2)。
【0072】
ポンプ吸収動力PがP2であるとき、エンジン要求動力LがL1であれば、電動発電機31の動作として、力行トルクD1を発生させることが要求される。しかし、実際には、エンジン要求動力L1は基準動力L0よりも大きく、電動発電機31の動作制御の状態は状態S2に維持されているので、エンジン15の動作状態は動作点E3にあり、電動発電機31は、動作点E3からポンプ吸収動力P2までの力行トルクDを発生させる。この場合には、要求された力行トルクD1よりも小さな力行トルクDが得られる(D<D1)。
【0073】
ポンプ吸収動力PがP2であるとき、エンジン要求動力LがL2であれば、電動発電機31の動作として、力行トルクD2を発生させることが要求される。しかし、実際には、エンジン要求動力L2は基準動力L0よりも大きく、電動発電機31の動作制御の状態は状態S2に維持されているので、エンジン15の動作状態は動作点E3にあり、電動発電機31は、動作点E3からポンプ吸収動力P2までの力行トルクDを発生させる。この場合には、要求された力行トルクD2よりも大きな力行トルクDが得られる(D>D2)。
【0074】
ポンプ吸収動力PがP2であるとき、エンジン要求動力LがL3であれば、電動発電機31の動作として、回生トルクG3を発生させることが要求される。しかし、実際には、エンジン要求動力L3は基準動力L0よりも大きく、電動発電機31の動作制御の状態は状態S2に維持されているので、エンジン15の動作状態は動作点E3にあり、電動発電機31は、動作点E3からポンプ吸収動力P2までの力行トルクDを発生させる。この場合には、要求された回生トルクG3ではなく、力行トルクDが得られる。
【0075】
以上、説明した5つの場合の電動発電機31の動作におけるポンプ吸収動力、エンジン要求動力、電動発電機31への要求動作、電動発電機31のトルク(実トルク)、及びエンジン15の動作状態を
図7に示す。この
図7に示すように、電動発電機31の動作制御の状態が状態S2のときには、エンジン15の動作状態は動作点E3にあり、電動発電機制御部48によって電動発電機31に対して回転数制御が行われるので、エンジン15が最大トルクを発生すると共に、電動発電機31が目標回転数Na
*を実現するトルクを発生する。これらのエンジン15及び電動発電機31の動作が優先されるので、電動発電機31の回生動作又は力行動作に対する要求は、ほとんどの場合、完全には満たされない。
【0076】
ここで、バッテリ34への充電が多くなる場合には、バッテリ34の蓄電残量が大きくなり、回生力行要求演算部46によって演算される回生力行要求動力Q(回生動力Qg)が減少するので、エンジン要求動力L(=P−Q)がL0より小さくなる(L<L0)。そのため、電動発電機制御部48は、電動発電機31の目標トルクを力行トルクに設定することにより、バッテリ34による放電動作が行われるので、バッテリ34の蓄電残量は基準値に制御される。
【0077】
油圧ポンプ21の負荷が大きいときには、電動発電機31がエンジン15の動力のアシストを行うため、バッテリ34による放電動作が多くなるが、油圧ポンプ21の負荷が低下すれば、電動発電機31の動作制御の状態が状態S2において、電動発電機制御部48が電動発電機31の回転数制御を行うことにより、電動発電機31が動作点E3からポンプ吸収動力Pまでの回生トルクを発生する。そして、油圧ポンプ21の負荷がさらに低下し、電動発電機31の動作制御の状態が状態S2から状態S1へ遷移すれば、電動発電機制御部48は、電動発電機31のトルク制御を行って電動発電機31の目標トルクを回生トルクに設定することにより、バッテリ34の蓄電残量は基準値に制御される。
【0078】
次に、電動発電機31の動作制御の状態が状態S1のときの電動発電機31の動作について、
図8を参照して詳細に説明する。
【0079】
電動発電機31の動作制御の状態が状態S1であるので、
図8に示すエンジン要求動力L4は、制御切替部48Aによる電動発電機31の動作制御の切替が行われる基準動力L0よりも小さいものとする。また、ポンプ吸収動力P3は、エンジン要求動力L4に比べて小さく、ポンプ吸収動力P4は、エンジン要求動力L4に比べて大きいものとする。なお、以下の説明は、これらのエンジン要求動力L4及びポンプ吸収動力P3,P4を組み合わせた以下の2つの場合について示している。
【0080】
図8に示すように、ポンプ吸収動力PがP3であるとき、エンジン要求動力LがL4であれば、電動発電機31の動作として、回生トルクGを発生させることが要求される。そのため、電動発電機制御部48は、電動発電機31の目標トルクをエンジン要求動力L4からポンプ吸収動力P3までの回生トルクGに設定することにより、電動発電機31が回生トルクGを発生させる。
【0081】
ポンプ吸収動力PがP4であるとき、エンジン要求動力LがL4であれば、電動発電機31の動作として、力行トルクDを発生させることが要求される。そのため、電動発電機制御部48は、電動発電機31の目標トルクをエンジン要求動力L4からポンプ吸収動力P4までの力行トルクDに設定することにより、電動発電機31が力行トルクDを発生させる。
【0082】
ここで、電動発電機31の目標トルクとして誤って過大な力行トルクが設定されると、エンジン15に対する負荷、すなわちエンジン要求動力Lは低下することにより、エンジンコントローラ38によるドループ制御によってエンジン15の回転数が増加し、エンジン15のトルクが低下する。そして、エンジン15のトルクが0になっても、電動発電機31が発生するトルクが油圧ポンプ21の負荷や引き摺りによるトルクより大きければ、エンジン15の回転数はエンジン15の目標回転数Ne
*を超えて増加する過回転が生じる。このようなエンジン15の過回転は、エンジン15及び油圧ポンプ21に不要な負担がかかるので、エンジン15及び油圧ポンプ21の故障の原因になり易い。
【0083】
そこで、本発明の第1実施形態では、電動発電機制御部48は、トルク制御を行っている間に、電動発電機31の目標トルクを力行動作に対応する目標トルク、すなわち力行トルクに設定した状態で、エンジン15の回転数が所定の第2の回転数N0よりも高くなったとき、電動発電機31の目標トルクを減少させる。
【0084】
具体的には、
図9に示すように、電動発電機制御部48は、回生力行要求演算部46によって演算された回生力行要求動力Qを回転数センサ37によって検出された実回転数で除することにより、電動発電機31の目標トルクを演算する目標トルク演算部48Bと、目標トルク演算部48Bによって演算された目標トルクに補正係数を乗じることにより、電動発電機31の目標トルクを補正する目標トルク補正部48Cと、エンジン15の回転数と補正係数との関係を示すマップが予め記憶された補正マップ記憶部48Dとを含んでいる。
【0085】
補正マップ記憶部48Dのマップは、例えば、エンジン15の回転数が回転数N0よりも低いとき、補正係数は1(最大値)に設定され、エンジン15の回転数が回転数N0から回転数Ne
*のとき、補正係数は、エンジン15の回転数に対して反比例し、0以上かつ1以下の値に設定され、エンジン15の回転数が回転数Ne
*よりも高いとき、補正係数は0(最小値)に設定されている。なお、回転数N0は、例えば、操作レバー24A1,24B1及び操作ペダルが無操作のときの油圧ポンプ21の引き摺りに対してエンジン15が釣り合う回転数に設定されている。
【0086】
そして、補正マップ記憶部48Dは、マップにおけるエンジン15の回転数と補正係数との関係に、回転数センサ37によって検出された回転数を適用することにより、対応する補正係数を求めて目標トルク補正部48Cへ出力する。従って、電動発電機31の目標トルクに対して過大な力行トルクが誤って設定されても、エンジン15の回転数が回転数N0よりも高くなった時点で、電動発電機31の目標トルクが減少することにより、電動発電機31の余分なトルクが発生してエンジン15が過剰に回転するのを抑制することができる。これにより、エンジン15の過回転を未然に回避することができる。特に、エンジン15の回転数が回転数Ne
*を超えると、目標トルク補正部48Cによって電動発電機31の目標トルクが0に補正され、電動発電機31が発生するトルクを制限できるので、エンジン15の過回転の抑制の実効性を高めることができ、エンジン15及び油圧ポンプ21の故障を十分に防止することができる。
【0087】
このように構成した本発明の第1実施形態によれば、電動発電機制御部48によってトルク制御が行われているときに(状態S1)、エンジン要求動力Lが増大してエンジン15のトルクが最大トルクまで増加し、その後エンジン15の回転数が低下して回転数Nminよりも低くなると、制御切替部48Aが電動発電機31の動作制御をトルク制御から回転数制御へ切替えることにより、電動発電機31の動作制御の状態が状態S1から状態S2へ遷移する。そのため、電動発電機31の目標回転数に基づいて電動発電機31のトルクが発生することにより、エンジン15の回転数が変動しても、エンジン15は最大トルクの状態を維持することができる。従って、
図5に示すように、エンジン15の特性上、エンジン15の回転数の変動に伴うエンジン15のトルクの変動が少なくて済むので、エンジン15の回転数及びトルクを安定させることができる。これにより、エンジン15の動作制御におけるハンチングの発生を抑制できるので、エンジン15の排気及び燃費の性能を向上させることができる。
【0088】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態が前述した第1実施形態と異なるのは、第1実施形態は、
図5に示すように、エンジンコントローラ38が、エンジン15の回転数の低下に対応してエンジン15のトルクが所定の傾きで増加するガバナ特性でエンジン15を動作させるようにしたのに対して、第2実施形態は、
図11に示すように、エンジンコントローラ58(
図10参照)は、エンジン15の回転数がエンジン15の目標回転数に一致するようにエンジン15のトルクを発生させるようにしたことである。すなわち、エンジンコントローラ58はエンジン15の動作制御として、いわゆるアイソクロナス制御を行う。
【0089】
この場合には、油圧ポンプ21の負荷、すなわちポンプ吸収動力Pが増加しても、エンジン15のトルクが最大トルクに達するまでは、目標回転数設定ダイヤル36によって設定されたエンジン15の目標回転数Ne
*と回転数センサ37によって検出された実回転数はほぼ一致する。ポンプ吸収動力Pが増加するにつれて、エンジン15の動作状態が最大トルクに沿って遷移し、エンジン15の回転数が低下するのは、上述したドループ制御の場合と同じである。従って、電動発電機31の動作制御の状態が状態S2のときの電動発電機31の動作については、上述した第1実施形態と同様となり、エンジン15の動作制御に拘わらず、上述した第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0090】
一方、電動発電機31の動作制御の状態が状態S1のときの電動発電機31の動作については、
図12に示すように、ポンプ吸収動力PがP3であるとき、エンジン要求動力LがL4であれば、電動発電機31の動作として、回生トルクGを発生させることが要求される。そのため、電動発電機制御部68(
図10参照)は、電動発電機31の目標トルクをエンジン要求動力L4からポンプ吸収動力P3までの回生トルクGに設定することにより、電動発電機31が回生トルクGを発生させる。
【0091】
ポンプ吸収動力PがP4であるとき、エンジン要求動力LがL4であれば、電動発電機31の動作として、力行トルクDを発生させることが要求される。そのため、電動発電機制御部68は、電動発電機31の目標トルクをエンジン要求動力L4からポンプ吸収動力P4までの力行トルクDに設定することにより、電動発電機31が力行トルクDを発生させる。
【0092】
このように、電動発電機31の動作制御の状態が状態S1のときの電動発電機31の動作についても、上述した第1実施形態と同様となり、エンジン15の動作制御に拘わらず、上述した第1実施形態と同様の作用効果を得ることができるが、エンジンコントローラ58によるアイソクロナス制御では、エンジン15の回転数は、ポンプ吸収動力Pに拘わらず、目標回転数Ne
*にほぼ一致するので、本発明の第2実施形態に係る電動発電機31の目標トルクの補正については、上述した第1実施形態と異なる構成を適用する。
【0093】
例えば、
図10に示すように、車体コントローラ61の制御演算回路62は、エンジン15のトルクを推定するトルク推定部51を備え、電動発電機制御部68は、トルク制御を行っている間に(状態S1)、電動発電機31の目標トルクを力行動作に対応する目標トルク、すなわち力行トルクに設定した状態で、トルク推定部51によって推定されたトルクが所定のトルクT0よりも小さくなったとき、電動発電機31の目標トルクを減少させる。具体的には、本発明の第2実施形態に係る電動発電機制御部68は、上述した第1実施形態に係る補正マップ記憶部48Dの代わりに、
図13に示すように、エンジン15のトルクと補正係数との関係を示すマップが予め記憶された補正マップ記憶部68Dを含んでいる。
【0094】
補正マップ記憶部68Dのマップは、例えば、エンジン15のトルクがトルクT0よりも大きいとき、補正係数は1(最大値)に設定され、エンジン15のトルクが0からトルクT0のとき、補正係数は、エンジン15のトルクに対して正比例し、0以上かつ1以下の値に設定されている。なお、トルクT0は、例えば、操作レバー24A1,24B1及び操作ペダルが無操作のときの油圧ポンプ21の引き摺りに対してエンジン15が釣り合うトルクに設定されている。そして、補正マップ記憶部68Dは、マップにおけるエンジン15のトルクと補正係数との関係に、トルク推定部51によって推定されたトルクを適用することにより、対応する補正係数を求めて目標トルク補正部48Cへ出力する。本発明の第2実施形態のその他の構成は、第1実施形態の構成と同様であるので、重複する説明を省略し、第1実施形態の構成と同一の部分には同一の符号を付している。
【0095】
このように構成した本発明の第2実施形態によれば、上述した第1実施形態と同様の作用効果が得られる他、電動発電機31の目標トルクに対して過大な力行トルクが誤って設定されても、エンジン15のトルクがトルクT0よりも小さくなった時点で、電動発電機31の目標トルクが減少することにより、電動発電機31の余分なトルクが発生してエンジン15が過剰に回転するのを抑制することができる。これにより、エンジン15の過回転を未然に回避することができる。特に、トルク推定部51によって推定されたトルクが0になると、目標トルク補正部48Cによって電動発電機31の目標トルクが0に補正され、電動発電機31が発生するトルクを制限できるので、エンジン15の過回転の抑制の実効性を高めることができ、エンジン15及び油圧ポンプ21の故障を十分に防止することができる。
【0096】
なお、上述した本実施形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。
【0097】
また、本実施形態に係る建設機械は、油圧ショベル1から成る場合について説明したが、この場合に限らず、ハイブリッドホイールローダ等の建設機械であっても良い。