【実施例】
【0023】
まず、本実施例に係る紙幣の真偽判別方法の概要を、
図1を用いて説明する。
図1(a)は、本実施例に係る紙幣真偽判別装置100が備える紙幣の画像を取得するラインセンサ120の構造と真偽判別の対象となる紙幣との関係の概要を示す図である。
図1(b)は、
図1(a)で示した紙幣の(m×n)個に分割した対象領域のそれぞれの領域においてラインセンサ120によって取得する情報の例を示す図である。
図1(c)は、
図1(b)で示した取得情報に基づいて紙幣の真偽判別に使用する画像の生成方法を示す図である。
図1(d)は、
図1(c)で生成した画像データを使用して実施する真偽判別の概念を説明するための図である。
【0024】
図1(a)に示すように、ラインセンサ120は、紙幣の搬送路を挟むようにして配置され、搬送路の上側の発光ユニット121と、搬送路の下側の受光ユニット123とを有する。発光ユニット121は、y軸方向に等間隔に配置されたm個の発光部122を有する。発光部122は、紙幣の上面に対して赤外光を照射することができる。また、受光ユニット123は、y軸方向に等間隔に配置されたm個の受光部124を有し、m個の受光部124はm個の発光部122に対応する位置に配置されている。また、受光部124は、搬送路を通過する紙幣を透過する光及び紙幣が発光する光を検知する。
【0025】
紙幣は、x軸の正方向に搬送されて、ラインセンサ120を通過する間に、x軸方向についてn個の位置においてラインセンサ120で情報を取得する。これによって、ラインセンサ120を通過する紙幣は、ラインセンサ120によって、x軸方向にn個、y軸方向にm個の単位検出領域ごとに情報が取得されることとなる。
【0026】
図1(b)は、
図1(a)で示した単位検出領域の1つであるエリア(x,y)に対応する受光部124で取得した受光強度と時間との関係を示したグラフである。ラインセンサ120の発光ユニット121は、紙幣のx軸方向のn個の位置ごとに、時刻t0時で点灯して、t2時で消灯する。エリア(x,y)に対応する発光部122が点灯中のt0時からt2時の間は、受光部124で取得する受光強度はv1であり、t2時で発光部122を消灯以降は時間とともに受光部124で取得する受光強度が低下していることを示している。エリア(x,y)に対応する取得情報は、励起光照射中の受光強度として、t1時の受光強度v1と、励起光消灯後の受光強度として、t3時の受光強度v3と、t4時の受光強度v4と、t5時の受光強度v5と、t6時の受光強度v6とを含む。
【0027】
図1(c)では、
図1(b)で示した1つの励起光照射中の受光強度(v1)と、4つの励起光消灯後の受光強度(v3、v4、v5及びv6)から、励起光点灯中の情報に基づく点灯時画像データ132、励起光消灯後の情報に基づく残光強度画像データ134及び残光減衰率画像データ135を生成する方法を説明する。
【0028】
点灯時画像データ132は、
図1(a)で示した紙幣の(m×n)個の領域に対応する(m×n)個の画素で構成される画像であり、それぞれの画素に対応する領域における
図1(b)のグラフに示す励起光照射中の受光強度であるt1時の受光強度v1を、対応する画素の画素値とする画像である。
【0029】
残光強度画像データ134は、
図1(a)で示した紙幣の(m×n)個の領域に対応する(m×n)個の画素で構成される画像であり、それぞれの画素に対応する領域における
図1(b)のグラフに示す励起光消灯後の受光強度であるv3、v4、v5及びv6の合計値を、対応する画素の画素値とする画像である。
【0030】
残光減衰率画像データ135は、
図1(a)で示した紙幣の(m×n)個の領域に対応する(m×n)個の画素で構成される画像であり、それぞれの画素に対応する領域における
図1(b)のグラフに示す励起光消灯後のt3時からt6時の間の受光強度の減衰率を、対応する画素の画素値とする画像である。t3時からt6時の間の受光強度の減衰率は、t3時の受光強度v3からt6時の受光強度v6を減算した値を、t6時からt3時を減算した値で除算することによって算出することができる。ここでは、4回のサンプリングを行っているが、減衰率は2回以上のサンプリングで求めることができる。
【0031】
図1(b)に示す励起光消灯以降の時間の経過に伴う残光強度の下がり方は、紙幣に含まれている燐光インクなどの種類や使われている量によって差異が現れるものであることから、燐光インク光の受光強度だけでは差異の判別が難しい場合においても、真券の印刷に使用されている燐光インクの使われ方による差異による残光強度の下がり方の差異を評価することによって、より厳格に紙幣の真偽判別を行うことができる。
【0032】
また、紙幣真偽判別装置100は、予め判別対象となる金種・方向ごとに、ラインセンサ120で取得した真券に対応する情報を基にして、
図1(b)及び
図1(c)で示した手順と同じ手順で点灯時基準画像、残光強度基準画像及び残光減衰率基準画像を作成したものを判別基準データ131として記憶しておく。紙幣の真偽判別処理時には、
図1(d)に示すように、ラインセンサ120で取得した真偽判別対象の紙幣の情報に基づいて生成した点灯時画像データ132、残光強度画像データ134及び残光減衰率画像データ135を生成し、予め作成して記憶しておいた判別基準データ131に含まれる真券に対応する点灯時基準画像、残光強度基準画像及び残光減衰率基準画像と比較することによって、紙幣の真偽判別を行う。
【0033】
更に、励起光である赤外光が照射された領域からその赤外光が消灯された以降に残光が受光され評価されるためには、赤外光が照射された領域の少なくとも50%以上の領域からの残光を受光センサが受光する必要がある。そのためには、搬送スピードと受光センサの受光領域、及び赤外光の照射面積を適宜設計しておく必要がある。
【0034】
このように、励起光の照射によって燐光を発光する特性を有する紙幣に対して、励起光を照射して紙幣からの透過光及び紙幣の発光する燐光の残光を検知するラインセンサ120を用いて、励起光照射中に取得される点灯時画像データ132と、励起光消灯後の残光強度に基づいて生成した残光強度画像データ134と、励起光消灯後の残光強度の減衰率に基づいて生成した残光減衰率画像データ135と、それぞれ事前に記憶しておいた真券に対応する点灯時基準画像と、残光強度基準画像と、残光減衰率基準画像との類似性を評価することによって紙幣の真偽判別を行うようにしたので、センサ構成をシンプルにすることによってコストを抑制しつつ、厳格な紙幣の真偽判別を実現することができる。
【0035】
次に、特定の領域が燐光インクを使って印刷されている紙幣の燐光の発光特性を、
図2を用いて説明する。
図2(a)と
図2(b)の紙幣は、類似した領域で燐光インクが使用されている例である。また、この2つの紙幣は、赤外光照射停止後の残光の発光強度は同様であるが、減衰率に差異があるという例である。
【0036】
図2(a)に示す紙幣は、
図2(a)に示すように紙幣左下部分に燐光インクが使用されている。
図2(a)の中段のグラフは、
図2(a)に示す燐光インク使用領域にかかるy軸方向の位置がy1の走査位置におけるx軸に平行な走査線上の残光の受光強度を示したグラフである。また、
図2(a)の下段のグラフは、
図2(a)に示す燐光インク使用領域にかかるy軸方向の位置がy1の走査位置におけるx軸に平行な走査線上の残光の減衰率を示したグラフである。
【0037】
図2(b)に示す紙幣は、
図2(b)に示すように
図2(a)の紙幣と類似の紙幣左下部分に燐光インクが使用されている。
図2(b)の中段のグラフは、
図2(b)に示す燐光インク使用領域にかかるy軸方向の位置がy1の走査位置におけるx軸に平行な走査線上の残光の受光強度を示したグラフである。また、
図2(b)の下段のグラフは、
図2(b)に示す燐光インク使用領域にかかるy軸方向の位置がy1の走査位置におけるx軸に平行な走査線上の残光の減衰率を示したグラフである。
【0038】
図2(a)及び
図2(b)の中段のグラフからは、残光の検知位置がいずれもx軸方向のx1とx2の範囲で強く検知されており、検知された残光の受光強度も
図2(a)及び
図2(b)ともにほぼv1付近をピークとしており、
図2(a)及び
図2(b)の紙幣は類似度が高いと判別される可能性が高い。
【0039】
図2(a)及び
図2(b)の下段のグラフからは、残光の減衰率の高い位置についてはいずれもx軸方向のx1とx2の範囲であり類似しているものの、
図2(a)の減衰率のピーク(r1)と、
図2(b)の減衰率のピーク(r2)との差異は大きいことから、
図2(a)及び
図2(b)の紙幣は類似度が低いと判別される可能性が高い。
【0040】
本実施例では、紙幣の真偽判別は、
図2に示したように、残光の領域ごとの受光強度と、残光の領域ごとの減衰率とを用いて行われることから、より厳格な真偽の判別を行うことができる。
【0041】
次に、本実施例に係る紙幣の真偽判別を行う紙幣真偽判別装置100の内部構成を説明する。
図3は、紙幣真偽判別装置100の内部構成を示すブロック図である。
【0042】
図3に示すように、紙幣真偽判別装置100は、紙幣を1枚ずつ搬送する搬送部110と、搬送部110に取り付けられていて、搬送部110の搬送してきた紙幣の画像情報を取得するラインセンサ120と記憶部130と制御部140とを有する。
【0043】
記憶部130は、不揮発性メモリ等からなる記憶デバイスである。記憶部130は、判別基準データ131、点灯時画像データ132、残光サンプルデータ133、残光強度画像データ134及び残光減衰率画像データ135を有する。
【0044】
判別基準データ131は、紙幣の真偽判別処理に先立って予め記憶されるデータであって、紙幣真偽判別装置100に搬送された紙幣の真偽を判別する際に使用する基準の画像データと、当該基準データを用いて算出される評価値の紙幣の真偽判別に係る閾値とを有している。
【0045】
点灯時画像データ132は、発光ユニット121の点灯中に受光ユニット123で受光した紙幣の透過光の強度を、
図1で示した単位検出領域ごとに記憶したデータである。
【0046】
残光サンプルデータ133は、発光ユニット121の点灯停止後に受光ユニット123で受光した紙幣の残光の強度を、
図1で示した単位検出領域ごとに記憶したデータである。残光サンプルデータ133は、例えば、発光ユニット121の点灯停止後に、点灯停止後t3時経過時点、t4時経過時点、t5時経過時点、t6時経過時点(t3<t4<t5<t6とする)の4つのタイミングで取得した残光強度の4サンプル値を取得する。取得する残光のサンプル数について4サンプルに限定されるものではなく、2サンプルでも5サンプル以上であってもよい。即ち、残光サンプルデータ133は、発光ユニット121の点灯停止後の所定時間経過後に間隔を隔てて2回以上のサンプルを行うことによって得られる。
【0047】
残光強度画像データ134は、例えば、残光サンプルデータ133から生成されたデータであって、それぞれの画素値を、残光サンプルデータ133に含まれる4つのタイミングで取得した4つのサンプル値の合計値とする画像である。本実施例ではこのように残光強度画像データ134の画素値を残光サンプルデータ133に含まれる4つのタイミングで取得した4つサンプル値の合計値としたが、本発明はこれに限定されるものではない。他の例として、残光強度画像データ134の画素値を残光サンプルデータ133に含まれる4つのタイミングで取得した4つのサンプル値の平均値としてもよい。また、例えば、残光強度画像データ134の画素値を残光サンプルデータ133に含まれる4つのタイミングで取得したいずれか1つのサンプル値としてもよい。
【0048】
残光減衰率画像データ135は、残光サンプルデータ133から生成されたデータであって、それぞれの画素値を、残光サンプルデータ133の発光ユニット121の点灯停止後の所定時間経過時であるt3時点のサンプル値から発光ユニット121の点灯停止後t6時点のサンプル値を減算して得られた値を、(t6−t3)で除算することによって算出される値とする画像である。本実施例は、このように残光減衰率画像データ135の画素値は、発光ユニット121の点灯停止後t3時からt6時までの間に残光強度の時間当たりの減少量としたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、残光サンプルデータ133としてサンプル取得したいずれの2つの時点の情報に基づいてその2つの時点間における残光強度の時間当たりの減少量としてもよい。また、例えば、発光ユニット121の点灯停止後所定時間経過時点であるt3時の残光強度に対する、発光ユニット121の点灯停止後のt6時点の残光強度の割合としてもよい。
【0049】
制御部140は、紙幣真偽判別装置100の全体を制御する制御部であり、搬送制御部141、発光制御部142、画像取得制御部143、残光画像生成部144、金種取得部145及び真偽判別部146を有する。実際には、この機能部に対応するプログラムを図示しないROMや不揮発性メモリに記憶しておき、このプログラムをCPU(Central Processing Unit)にロードして実行することにより、対応するプロセスを実行させることになる。
【0050】
搬送制御部141は、送られてきた紙幣を搬送して所定の搬送速度でラインセンサ120を通過させるように制御する。また、ラインセンサ120を通過させることによってラインセンサ120で取得した情報に基づいて真偽判別が行われて、その判別結果を上位制御部に送る。
【0051】
発光制御部142は、ラインセンサ120の発光ユニット121に指示することによって所定のサイクルで点灯と消灯を繰り返す。また、発光制御部142は、発光ユニット121への点灯の指示に併せて受光ユニット123へ点灯時用に回路のゲインを下げるように指示を行う。また、発光制御部142は、発光ユニット121への消灯の指示に併せて受光ユニット123への残光検知用に回路ゲインを上げるように指示を行う。
【0052】
画像取得制御部143は、紙幣がラインセンサ120を通過する際に、発光ユニット121の点灯開始から所定時間経過したタイミングで受光ユニット123が取得した情報を点灯時画像データ132に書き込む。また、画像取得制御部143は、発光ユニット121の消灯から所定時間経過の4つのタイミングで受光ユニット123が取得したサンプル値を残光サンプルデータ133に書き込む。点灯時画像データ132の1画像及び残光サンプルデータ133の4サンプル値はそれぞれ、発光ユニット121の点灯サイクルと、搬送部110の搬送速度と、紙幣の搬送方向に対する長さとによって決定される走査線数と、受光ユニット123が有する受光部124の個数を乗算して得られた数分の画素を有する画像である。
【0053】
残光画像生成部144は、残光サンプルデータ133に含まれる、励起光照射停止からの経過時間が異なる4枚の残光画像に基づいて、残光強度画像データ134及び残光減衰率画像データ135を生成する。残光強度画像データ134のそれぞれの画素値は、残光サンプルデータ133に含まれる、励起光照射停止からの経過時間が異なる4枚の残光画像の同じ位置の画素の画素値の合計値である。また、残光減衰率画像データ135のそれぞれの画素値は、残光サンプルデータ133に含まれる、励起光照射停止からの経過時間が一番短い残光画像の同じ位置の画素の画素値と、励起光照射停止からの経過時間が一番長い残光画像の同じ位置のサンプル値の差分を、経過時間の差分で除算して得られた値である。
【0054】
金種取得部145は、図示しない搬送路上流に設けられた金種識別部が判別した紙幣の金種及び紙幣の方向を取得する処理部である。
【0055】
真偽判別部146は、残光強度画像データ134と残光減衰率画像データ135と、金種取得部145によって取得した判別対象の紙幣の金種及び紙幣の方向の情報を基に判別基準データ131に含まれる金種・方向別の基準画像データを選択し、ラインセンサ120で取得した画像データに対応する紙幣が、金種取得部145によって取得した金種・方向の真券であるか否かの判別を行う。
【0056】
次に、
図1に示した発光部122、受光部124を含むラインセンサ120の構成を、
図4を用いて説明する。
図4は、紙幣の搬送方向に対して垂直な面によるラインセンサ120の断面図である。
【0057】
ラインセンサ120は、紙幣搬送路を挟んで上側に発光ユニット121、下側に受光ユニット123を有している。発光ユニット121は、等間隔で配置された発光部122を複数備えている。また、受光ユニット123は、発光ユニット121のそれぞれの発光部122に対応する位置に受光部124を有する。それぞれの発光部122は、搬送路を通る紙幣に励起光を照射し、それぞれの発光部122に対応する位置に配置されている受光部124は、励起光の照射にともなう透過光や照射停止後の残光を検知する。
【0058】
発光部122は、光源122bの点灯/消灯を制御したり発光強度の調整を行う発光部基板122aと、赤外光を発光するLEDなどの光源122bと、透明なガラス又は樹脂からなる透明部材122dとを含んでいる。受光部124は、透明なガラス又は樹脂からなる透明部材124aと透明部材124aを通った光を検知する受光センサ124dと、受光センサ124dが検知した情報を増幅したりデジタル変換する受光部基板124eを含んでいる。また、受光部基板124eは、光源122bを点灯中の透過光と、光源122bを消灯中の残光では光の強度の差が大きすぎるため、受光センサ124dの増幅アンプ回路のゲイン(受光感度)の調整をする機能を有しており、制御部140からの指示に基づいて増幅アンプ回路のゲインを変更することができる。
【0059】
発光部122の光源122bが発光した赤外光が搬送路を通過中の紙幣に照射されると、紙幣を透過した光は受光センサ124dへ入射し、受光センサ124dが透過光を検知する。また、光源122bの消灯後には、紙幣の残光が受光センサ124dへ入射し、受光センサ124dが残光を検知する。このようにして、紙幣に励起光を照射した時の点灯時の情報と、励起光の照射停止後の残光の強度の情報とを取得することができる。
【0060】
ここで、上述の説明には受光部フィルタ124bと集光レンズ124cの説明はなかったが、ある条件下では受光部124に受光部フィルタ124bと集光レンズ124cを設けることができる。燐光を測定する時には光源122bは消灯しており、発光側のフィルタは不要である。集光レンズ124cは励起される燐光が弱ければ集光するために設けることができる。また、励起された燐光が可視光成分と赤外光成分の両方を有しており、いずれか1方の光成分を評価したいときには受光部フィルタ124bを設けてもよい。
【0061】
次に、
図3に示した紙幣真偽判別装置100のデータ構成を、
図5を用いて説明する。
【0062】
判別基準データ131は、搬送された紙幣の真偽の判別処理で使用する真偽判別基準情報を含む。また、真偽判別基準情報は、残光強度画像基準情報と残光減衰率画像基準情報とを含む。残光強度画像基準情報は、金種・方向ごとに判別閾値と基準画像データとを有する。基準画像データは、真券を使って取得した残光強度画像データ134である。また、判別閾値は、搬送された紙幣の残光強度画像データ134と基準画像データから算出した2つの画像の類似度を示す評価値の、搬送された紙幣が当該金種の真券と判別する下限値を示す。
【0063】
また、残光減衰率画像基準情報は、金種・方向ごとに判別閾値と基準画像データとを有する。基準画像データは、真券を使って取得した残光減衰率画像データ135である。また、判別閾値は、搬送された紙幣の残光減衰率画像データ135と基準画像データから算出した2つの画像の類似度を示す評価値の、搬送された紙幣が当該金種の真券と判別する下限値を示す。
【0064】
図5の判別基準データ131の例を示す。残光強度画像基準情報の金種1のA方向に対する真偽の判別閾値が「v11A」で基準画像データとして真券の金種1のA方向の基準となる残光強度画像データ134を有し、金種1のB方向に対する真偽の判別閾値が「v11B」で基準画像データとして真券の金種1のB方向の基準となる残光強度画像データ134を有し、金種2のA方向に対する真偽の判別閾値が「v12A」で基準画像データとして真券の金種2のA方向の基準となる残光強度画像データ134を有し、金種3のA方向に対する真偽の判別閾値が「v13A」で基準画像データとして真券の金種3のA方向の基準となる残光強度画像データ134を有していることを示している。また、残光減衰率画像基準情報の金種1のA方向に対する真偽の判別閾値が「v21A」で基準画像データとして真券の金種1のA方向の基準となる残光減衰率画像データ135を有し、残光減衰率画像基準情報の金種1のB方向に対する真偽の判別閾値が「v21B」で基準画像データとして真券の金種1のB方向の基準となる残光減衰率画像データ135を有し、金種2のA方向に対する真偽の判別閾値が「v22A」で基準画像データとして真券の金種2のA方向の基準となる残光減衰率画像データ135を有し、金種3のA方向に対する真偽の判別閾値が「v23A」で基準画像データとして真券の金種3のA方向の基準となる残光減衰率画像データ135を有していることを示している。ここで、搬送方向の4方向をA方向、B方向、C方向、D方向として表す。
【0065】
残光サンプルデータ133は、励起光照射停止からの経過時間が異なる4つのタイミングで取得した4つのサンプルデータである。励起光照射停止からの経過時間の小さな順に残光サンプル値1、残光サンプル値2、残光サンプル値3及び残光サンプル値4のデータを有する。
【0066】
次に、
図3に示した紙幣真偽判別装置100における本実施例の紙幣の画像取得に係る処理タイミングを、
図6を用いて説明する。
図6は、ラインセンサ120の発光ユニット121の点灯及び消灯の1サイクルにおける受光ユニット123の増幅回路のゲインの切替と受光ユニット123による画像データ取得タイミングを示す図である。
【0067】
図6に示すように、発光ユニット121は、t1時で点灯してから、t4時で消灯し、再びt13時で点灯するまでを1サイクルとして動作する。また当該1サイクルの時間の長さはL1で固定であり、点灯を開始してから消灯するまでの点灯中時間の長さがL2で、消灯してから点灯するまでの消灯中時間の長さがL3である。時間L2とL3は同じ長さであってもよい。また、受光ユニット123の増幅回路のゲインの切替は発光ユニット121の点灯及び消灯と同期して、t1時及びt13時の発光ユニット121の点灯と同期して、受光ユニット123の増幅回路のゲインを下げる。また、t4時の発光ユニット121の消灯と同期して、受光ユニット123の増幅回路のゲインを上げる。
【0068】
また、点灯のタイミング(t1)から所定時間(L4)を経過したt2時から所定時間内(L6)のt3時までの間に、受光ユニット123で検知した情報を点灯時画像データ132の一部の内容として取り込む。1回の情報の取り込みによって紙幣の搬送方向に垂直な1つの走査線上の領域の点灯時画像に対応するデータを取得することとなる。
【0069】
また、消灯のタイミング(t4)から所定時間(L5)を経過したt5時から所定時間内(L6)のt6時までの間に、受光ユニット123で検知した情報を残光サンプルデータ133の残光サンプル値1の一部の内容として取り込む。また、t6時から所定時間(L7)経過したt7時から所定時間内(L6)のt8時までの間に、受光ユニット123で検知した情報を残光サンプルデータ133の残光サンプル値2の一部の内容として取り込む。また、t8時から所定時間(L7)経過したt9時から所定時間内(L6)のt10時までの間に、受光ユニット123で検知した情報を残光サンプルデータ133の残光サンプル値3の一部の内容として取り込む。また、t10時から所定時間(L7)経過したt11時から所定時間内(L6)の時間t12までの間に、受光ユニット123で検知した情報を残光サンプルデータ133の残光サンプル値4の一部の内容として取り込む。
【0070】
次に、
図3に示した紙幣真偽判別装置100における、画像データ取得処理の処理手順を説明する。
図7は、紙幣真偽判別装置100における、画像データ取得処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0071】
搬送部110によって搬送されてきた紙幣が、紙幣画像の読取の開始位置に来たか否かを検知する(ステップS101)。紙幣が紙幣画像の読取の開始位置に来たことを検知していない場合(ステップS101;No)には、到来を検知するまで待ちを続ける。そして、紙幣の到来を検知したならば(ステップS101;Yes)、画像取得制御部143は、点灯時画像データ132、残光サンプルデータ133、残光強度画像データ134及び残光減衰率画像データ135を初期化するなどの搬送されてきた紙幣の画像取得のための準備処理を行う(ステップS102)。
【0072】
また、発光制御部142は、ラインセンサ120の受光ユニット123の増幅回路のゲインを下げる指示を行う(ステップS103)とともに、ラインセンサ120の発光ユニット121に点灯の指示を行う(ステップS104)。次に、画像取得制御部143は、点灯時画像データ132の取得タイミングであるか否かの判定を行い(ステップS105)、点灯時画像データ132の取得タイミングとなった場合(ステップS105:Yes)には、受光ユニット123で検知した情報を点灯時画像データ132の一部の内容として取り込む(ステップS106)。また、点灯時画像データ132の取得タイミングになっていない場合(ステップS105:No)には、ステップS105に戻ることによって点灯時画像データ132の取得タイミングの待ち合わせを行う。
【0073】
次に、発光制御部142は、発光ユニット121の消灯のタイミングであるか否かの判定を行い(ステップS107)、発光ユニット121の消灯のタイミングとなった場合(ステップS107;Yes)には、ラインセンサ120の発光ユニット121に消灯の指示を行う(ステップS108)とともに、ラインセンサ120の受光ユニット123の増幅回路のゲインを上げる指示を行う(ステップS109)。発光ユニット121の消灯のタイミングとなっていない場合(ステップS107;No)には、ステップS107に戻ることによって発光ユニット121の消灯のタイミングの待ち合わせを行う。
【0074】
次に、画像取得制御部143は、残光サンプルデータ133の取得タイミングであるか否かの判定を行い(ステップS110)、まだ残光サンプルデータ133の取得タイミングではない場合(ステップS110;No)には、ステップS110に戻ることによって残光サンプルデータ133の取得タイミングの待ち合わせを行う。また、残光サンプルデータ133の取得タイミングとなった場合(ステップS110;Yes)には、受光ユニット123で検知した情報を残光サンプルデータ133の一部の内容として取り込む(ステップS111)。残光画像の取得タイミングは
図6に示したように、発光ユニット121の点灯、消灯の1サイクル内で消灯中に4回あり、取得するタイミングによって残光サンプルデータ133の残光サンプル値1〜4のいずれのデータとして取り込むのかが決まる。
【0075】
次に、発光ユニット121の点灯、消灯の1サイクル内にある4回の残光サンプル値の取得タイミングにおける4個のサンプル値を取得済みか否かの判定を行って(ステップS112)、まだ取得済みとなっていない残光画像がある場合(ステップS112;No)には、ステップS110に戻ることによって、未取得の残光サンプル値の取得タイミングの待ち合わせを行う。また、既に4回の残光サンプル値の取得タイミングにおける4サンプル値に対する情報を取得済みである場合(ステップS112;Yes)には、残光画像生成部144は、直前のステップS110からステップ112で取得した残光サンプルデータ133に基づいて、残光強度画像データ134の対応する画素値を算出して、算出した内容で残光強度画像データ134を更新する(ステップS113)。また、残光画像生成部144は、直前のステップS110からステップ112で取得した残光サンプルデータ133に基づいて、残光減衰率画像データ135の対応する画素値を算出して、算出した内容で残光減衰率画像データ135を更新する(ステップS114)。
【0076】
次に、画像取得制御部143は、紙幣がラインセンサ120を通過済みか否かの判定を行って(ステップS115)、まだ紙幣がラインセンサ120を通過していない場合(ステップS115;No)には、ステップS103に戻る。また、既に紙幣がラインセンサ120を通過の場合(ステップS115;Yes)には、処理を終了する。
【0077】
次に、
図3に示した紙幣真偽判別装置100における、紙幣の真偽判別処理の処理手順を説明する。
図8は、紙幣真偽判別装置100における、紙幣の真偽判別処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0078】
図8に示す紙幣の真偽判別処理は、
図7に示した紙幣の画像データ取得処理に引き続いて動作する。金種取得部145は、搬送路上流部に設けた金種識別部で判別した紙幣の金種及び紙幣の方向の情報を取得する(ステップS201)。
【0079】
ステップS201で金種・方向の情報が取得できた場合(ステップS202;Yes)には、真偽判別部146は、残光強度画像データ134と判別基準データ131の残光強度画像基準情報のステップS201で取得された金種・方向に対応する基準画像データとから、当該2つの画像の類似度を示す評価値を算出する(ステップS203)。真偽判別部146は、ステップS203で算出された評価値と、判別基準データ131の残光強度画像基準情報のステップS201で取得された金種・方向に対応する判別閾値とを比較して(ステップS204)、ステップS203で算出された評価値が当該判別閾値以上である場合(ステップS204;Yes)には、ステップ205に移行する。ここで、評価値の例として相関係数を使用することができる。
【0080】
真偽判別部146は、残光減衰率画像データ135と判別基準データ131の残光減衰率画像基準情報のステップS201で取得された金種・方向に対応する基準画像データとから、当該2つの画像の類似度を示す評価値を算出する(ステップS205)。真偽判別部146は、ステップS205で算出された評価値と、判別基準データ131の残光減衰率画像基準情報のステップS201で取得された金種・方向に対応する判別閾値とを比較して(ステップS206)、ステップS205で算出された評価値が当該判別閾値以上である場合(ステップS206;Yes)には、ラインセンサ120で取得された画像に対する紙幣は真券であると判定して(ステップS207)、処理を終了する。
【0081】
また、ステップS205で算出された評価値がこれに対する判別閾値未満の場合(ステップS206;No)には、ラインセンサ120で取得された画像に対する紙幣は偽券と判定して(ステップS208)、処理を終了する。また、ステップ203で算出された評価値がこれに対する判別閾値未満の場合(ステップS204;No)にも、ラインセンサ120で取得された画像に対する紙幣は偽券と判定して(ステップS208)、処理を終了する。また、ステップS201で金種・方向の情報の取得ができなかった場合(ステップS202;No)にも、ラインセンサ120で取得された画像に対する紙幣は偽券と判定して(ステップS208)、処理を終了する。
【0082】
他の実施例としてステップS201において、点灯時画像データ132に格納された透過赤外光画像データと判別基準データ131に予め格納された金種判別基準透過赤外光データとに基づいて金種の識別を行う様にすることも可能である。
【0083】
上述してきたように、本実施例では、励起光の照射によって燐光を発光する特性を有する紙幣に対して、励起光を照射して紙幣からの透過光及び紙幣の発光する燐光の残光を検知するラインセンサ120を用いて、励起光消灯後の残光強度に基づいて生成した残光強度画像データ134と、励起光消灯後の残光強度の減衰率に基づいて生成した残光減衰率画像データ135と、それぞれ事前に記憶しておいた真券に対応する残光強度基準画像と、残光減衰率基準画像との類似性を評価することによって紙幣の真偽判別を行うよう構成したので、センサ構成をシンプルにすることによってコストを抑制しつつ、厳格な紙幣の真偽判別を実現することができる。
【0084】
また、赤外光照射中に取得される点灯時画像データ
132を取得することにより、金種識別も可能とすることができる。更に、紙幣の同一場所の透過赤外画像データ、残光強度画像と残光減衰率画像が取得できるので、紙幣上の位置を透過赤外画像データで特定し、その特定した位置に対応した残光強度画像値と残光減衰率画像値を評価できるので、真偽判別が精緻にできるとともに、燐光インク部領域を継ぎはぎするような切貼を行った偽造券に対する真偽判別能力をアップさせることができる。
【0085】
なお、上述の本実施例では、赤外光で励起して赤外領域の波長で燐光発光する特徴を有する紙幣の真偽判別を行う例を説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではない。可視光や紫外光で燐光発光するインクの存在は一般に良く知られているので、赤外光の替わりに可視光や紫外光を使うことが可能である。例えば、紫外光で励起して可視光領域の波長で燐光発光する特徴を有する紙幣を対象とした場合のラインセンサは、紫外光を照射して可視光を検知できるようなラインセンサを採用することとなる。また、紙葉類を透過しやすい赤外光と違って、紫外光は紙葉類を透過しにくいことから、紫外光を照射して可視光を検知するようなラインセンサは、紫外光を照射する面の反射光を検知するような反射型のラインセンサとなることが多い。また、本実施例では、透過型センサで説明を行ったが、反射型センサとして、発光ユニットと受光ユニットを紙幣搬送路の同一面に設置することも行える。なお、透過型センサ又は反射型センサのいずれの構造とするかは、励起光として使用する波長が赤外光、可視光又は紫外光のいずれであるかに基いて選択することが可能である。だだし、波長の長短の性質を考慮して反射型センサが優位か透過型センサが優位かは設計の現場で検討されるものである。
【0086】
また、上述の本実施例では、紙葉類の全面の画像データをラインセンサ120で取得して、紙葉類の全面の画像データに基づいて金種の判別及び真偽の判別を行ったが、本発明はこれに限定されない。例えば、紙葉類の特定の領域で金種及び真偽の判別が可能であるような紙葉類を対象とする装置においては、紙葉類の全面ではなく特定領域の画像データだけを取得するようにして、特定領域の基準画像との比較によって金種の判別や真偽の判別を行うようにしてもよい。
【0087】
また、上述の実施例で図示した各構成は機能概略的なものであり、必ずしも物理的に図示の構成をされていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。