特許第6247748号(P6247748)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6247748人工土壌粒子の製造方法、及び人工土壌粒子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6247748
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】人工土壌粒子の製造方法、及び人工土壌粒子
(51)【国際特許分類】
   A01G 1/00 20060101AFI20171204BHJP
【FI】
   A01G1/00 303F
   A01G1/00 303E
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-513779(P2016-513779)
(86)(22)【出願日】2015年4月13日
(86)【国際出願番号】JP2015061380
(87)【国際公開番号】WO2015159859
(87)【国際公開日】20151022
【審査請求日】2016年9月20日
(31)【優先権主張番号】特願2014-85722(P2014-85722)
(32)【優先日】2014年4月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】石坂 信吉
【審査官】 坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/050519(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/050765(WO,A1)
【文献】 特開平3−206825(JP,A)
【文献】 特開昭63−133904(JP,A)
【文献】 特開2011−57461(JP,A)
【文献】 特開2000−198858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保肥性を有するコアをシェルで被覆してなる人工土壌粒子の製造方法であって、
フィラー及びゲル化剤を含むコア形成液と、少なくともゲル化剤を含むシェル形成液とを調製する準備工程と、
前記コア形成液を中心として前記シェル形成液が周囲に配置されるように多重ノズルを用いて前記コア形成液及び前記シェル形成液を、架橋剤を含む架橋液に滴下する滴下工程と、
を包含する人工土壌粒子の製造方法。
【請求項2】
前記準備工程において、前記シェル形成液は、前記コア形成液より高粘度に調整される請求項1に記載の人工土壌粒子の製造方法。
【請求項3】
前記コア形成液の粘度は20℃において100mPa・s以下であり、前記シェル形成液の粘度は20℃において200mPa・s以上である請求項2に記載の人工土壌粒子の製造方法。
【請求項4】
前記準備工程において、前記コア形成液及び前記シェル形成液の少なくとも一方に補強剤を添加する請求項1〜3の何れか一項に記載の人工土壌粒子の製造方法。
【請求項5】
前記コア形成液及び前記シェル形成液に含まれるゲル化剤は、アルギン酸塩である請求項1〜4の何れか一項に記載の人工土壌粒子の製造方法。
【請求項6】
前記準備工程において、前記シェル形成液にフィラーを添加する請求項1〜5の何れか一項に記載の人工土壌粒子の製造方法。
【請求項7】
前記準備工程において、粘度の異なるシェル形成液を複数調製し、
前記滴下工程において、前記コア形成液を中心として前記粘度の異なるシェル形成液が同心円状に配置されるように滴下する請求項1〜6の何れか一項に記載の人工土壌粒子の製造方法。
【請求項8】
前記フィラーは、陽イオン交換能が付与された材料と陰イオン交換能が付与された材料との混合物である請求項1〜7の何れか一項に記載の人工土壌粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保肥性を有するコアをシェルで被覆してなる人工土壌粒子の製造方法、及び人工土壌粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生育条件がコントロールされた環境下で野菜等の植物を栽培する植物工場が増加している。これまでの植物工場は、レタス等の葉物野菜の水耕栽培が中心であったが、最近では水耕栽培には向かない根菜類についても植物工場での栽培を試みる動きがある。
【0003】
根菜類を植物工場で栽培するためには、土壌としての基本性能に優れ、品質が高く、且つ取り扱いが容易な人工土壌を開発する必要がある。そして、人工土壌には、植物に対する水遣りや施肥回数を低減させる等、天然土壌では実現が困難な独自の機能が求められるようになっている。水遣りや施肥回数を低減するには、人工土壌粒子内に保持している水分や肥料を所望の時期に外部に放出できるように、保水性や肥料の徐放性を制御する技術が必要になる。また、人工土壌粒子は粒状肥料等と異なり、人工土壌粒子内に担持するリン酸等の肥料に対して高い耐久性が必要になる。
【0004】
特許文献1には、転動状態の粒状肥料に熱硬化性樹脂を添加して、熱硬化性樹脂層を形成する多層被覆肥料の製造方法が記載されている。特許文献2には、転動又は噴流装置を用いて、粒状肥料の表面にポリオレフィン及び/又は石油ワックスの層を形成させる多層被覆肥料の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−119093号公報
【特許文献2】特開平10−231191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2の多層被覆肥料は、転動装置等を用いて粒状肥料の表面全体をポリオレフィンや熱硬化性樹脂等の合成樹脂で被覆したものである。この技術を人工土壌粒子に適用した場合、人工土壌粒子の表面全体を均一に被覆し難いため、被覆層の厚さが小さい部分が形成され、人工土壌粒子としての強度を維持できない虞がある。また、人工土壌粒子の強度を維持するために被覆する合成樹脂の量を増やすと、被覆層が厚くなり過ぎて水分や肥料を人工土壌粒子内外に吸放出することが困難になり、人工土壌粒子の保水性及び肥料の徐放性が低下する虞がある。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、人工土壌粒子としての強度を維持しながら、保水性及び肥料の徐放性を制御できる人工土壌粒子の製造方法を提供することを目的とする。また、高い強度、良好な保水性及び肥料の徐放性を備えた人工土壌粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明に係る人工土壌粒子の製造方法の特徴構成は、
保肥性を有するコアをシェルで被覆してなる人工土壌粒子の製造方法であって、
フィラー及びゲル化剤を含むコア形成液と、少なくともゲル化剤を含むシェル形成液とを調製する準備工程と、
前記コア形成液を中心として前記シェル形成液が周囲に配置されるように多重ノズルを用いて前記コア形成液及び前記シェル形成液を、架橋剤を含む架橋液に滴下する滴下工程と、
を包含することにある。
【0009】
本構成の人工土壌粒子の製造方法によれば、コア形成液及びシェル形成液は、コア形成液を中心としてシェル形成液が周囲に配置された状態で多重ノズルから滴下される。コア形成液及びシェル形成液が多重ノズルの先端から離脱すると、表面張力の作用によりコア形成液の液滴がシェル形成液に覆われて球状になる。この状態で液滴が架橋剤を含む架橋液に接触すると、コア形成液及びシェル形成液に含まれるゲル化剤が架橋反応によってゲル化し、コアが均一な厚さのシェルで覆われた人工土壌粒子が生成する。この人工土壌粒子は、均一なシェルに起因する高い強度を備えていることに加えて、ゲルの架橋構造及びフィラーに起因する保水性及び保肥性を併せ持つため、高強度でありながら、良好な保水性及び肥料の徐放性を備えた人工土壌粒子となる。また、本構成のように滴下工程によって人工土壌粒子を造粒する方法では、人工土壌粒子の粒径を均一に調整し易いため、品質にバラツキが少ない一定以上の強度を備える人工土壌粒子を容易に製造することができる。
【0010】
本発明に係る人工土壌粒子の製造方法において、
前記準備工程において、前記シェル形成液は、前記コア形成液より高粘度に調整されることが好ましい。
【0011】
本構成の人工土壌粒子の製造方法によれば、シェル形成液は、コア形成液より高粘度に調整されることから、滴下工程を行うときにシェル形成液とコア形成液とが混ざり難くなる。その結果、コアが均一な厚さのシェルで覆われた人工土壌粒子を容易に製造することができる。
【0012】
本発明に係る人工土壌粒子の製造方法において、
前記コア形成液の粘度は20℃において100mPa・s以下であり、前記シェル形成液の粘度は20℃において200mPa・s以上であることが好ましい。
【0013】
本構成の人工土壌粒子の製造方法によれば、コア形成液及びシェル形成液の粘度が適切な値に調整されていることから、滴下工程を行うときにシェル形成液とコア形成液との混合が抑制され、その結果、生成した人工土壌粒子のコアとシェルとの境界が明確になる。このような人工土壌粒子は、コア及びシェルの機能が確実に発揮されるため、シェルに起因する高い強度と、コア及びシェルに起因する良好な保水性及び肥料の徐放性とを兼ね備えたものとなる。
【0014】
本発明に係る人工土壌粒子の製造方法において、
前記準備工程において、前記コア形成液及び前記シェル形成液の少なくとも一方に補強剤を添加することが好ましい。
【0015】
本構成の人工土壌粒子の製造方法によれば、生成した人工土壌粒子のコア又はシェル、あるいはその両方が補強剤によって補強されるため、人工土壌粒子の強度を高めることができる。
【0016】
本発明に係る人工土壌粒子の製造方法において、
前記コア形成液及び前記シェル形成液に含まれるゲル化剤は、アルギン酸塩であることが好ましい。
【0017】
本構成の人工土壌粒子の製造方法によれば、ゲル化剤として用いるアルギン酸塩は親水性材料であるため、ゲル化させた人工土壌粒子は優れた保水性を有するものとなる。また、アルギン酸塩の架橋反応は架橋剤によって制御可能であるため、人工土壌粒子のコア及びシェルの多孔質構造を制御することができる。その結果、所望の保水性と肥料の徐放性とを備えた人工土壌粒子を容易に製造することができる。
【0018】
本発明に係る人工土壌粒子の製造方法において、
前記準備工程において、前記シェル形成液にフィラーを添加することが好ましい。
【0019】
本構成の人工土壌粒子の製造方法によれば、コアに加えてシェルにも保肥性が付与された人工土壌粒子を製造することができる。従って、例えば、コアとシェルとで担持する肥料成分を異ならせた人工土壌粒子を製造することも可能となる。
【0020】
本発明に係る人工土壌粒子の製造方法において、
前記準備工程において、粘度の異なるシェル形成液を複数調製し、
前記滴下工程において、前記コア形成液を中心として前記粘度の異なるシェル形成液が同心円状に配置されるように滴下することが好ましい。
【0021】
本構成の人工土壌粒子の製造方法によれば、コアが複層のシェルで多重に覆われた人工土壌粒子を製造することができるため、人工土壌粒子としての強度、保水性、肥料の徐放性を精密に制御することができる。
【0022】
本発明に係る人工土壌粒子の製造方法において、
前記フィラーは、陽イオン交換能が付与された材料と陰イオン交換能が付与された材料との混合物であることが好ましい。
【0023】
本構成の人工土壌粒子の製造方法によれば、フィラーとして、陽イオン交換能が付与された材料と陰イオン交換能が付与された材料との混合物を使用しているため、コアの保肥性が高まり、長期に亘って肥料の徐放性を維持できる人工土壌粒子を製造することが可能となる。また、製造された人工土壌粒子は、陽イオン交換能と陰イオン交換能との両方を兼ね備えたものとなるため、複数種の肥料成分を担持することができる。従って、栽培植物の種類や栽培段階に応じて、適切な特性を備えた人工土壌粒子を設計することが可能となる。
【0024】
上記課題を解決するための本発明に係る人工土壌粒子の特徴構成は、
保肥性を有するコアをシェルで被覆してなる人工土壌粒子であって、
前記コア及び前記シェルは、ゲルの架橋構造で固化されていることにある。
【0025】
本構成の人工土壌粒子によれば、コア及びシェルは、ゲルの架橋構造で固化されているため、強度を維持しながら、保水性及び肥料の徐放性を備えた人工土壌粒子を実現することができる。
【0026】
本発明に係る人工土壌粒子において、
前記シェルは、前記コアより架橋密度が高く設定されていることが好ましい。
【0027】
本構成の人工土壌粒子によれば、シェルはコアより架橋密度が高く設定されているため、人工土壌粒子の強度をより高く維持しながら、良好な保水性及び肥料の徐放性を実現することができる。
【0028】
本発明に係る人工土壌粒子において、
前記コアは、陽イオン交換能が付与された材料と陰イオン交換能が付与された材料との混合物を含有することが好ましい。
【0029】
本構成の人工土壌粒子によれば、コアが、陽イオン交換能が付与された材料と陰イオン交換能が付与された材料との混合物を含有するため、コアの保肥性が高まり、長期に亘って肥料の徐放性を維持することが可能となる。また、人工土壌粒子は、陽イオン交換能と陰イオン交換能との両方を兼ね備えたものとなるため、複数種の肥料成分を担持することができる。従って、栽培植物の種類や栽培段階に応じて、適切な特性を備えた人工土壌粒子を設計することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、二重ノズルを備える滴下装置を用いて実施する本発明に係る人工土壌粒子の製造方法の説明図である。
図2図2は、三重ノズルを備える滴下装置を用いて実施する本発明に係る人工土壌粒子の製造方法の説明図である。
図3図3は、二重ノズルを備える滴下装置を用いて製造した本発明に係る人工土壌粒子を模式的に示した説明図である。
図4図4は、本発明の人工土壌粒子における硝酸態窒素肥料の徐放性試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る人工土壌粒子の製造方法、及び人工土壌粒子に関する実施形態を図1〜4に基づいて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることを意図しない。
【0032】
<人工土壌粒子の製造方法>
図1は、二重ノズル40aを備える滴下装置を用いて実施する本発明に係る人工土壌粒子50の製造方法の説明図である。人工土壌粒子50は、多重ノズル40を備える滴下装置等を用いて製造することができる。例えば、コア10を1層のシェル11が覆う人工土壌粒子50を製造する場合、多重ノズル40は、内側の第一ノズル20を中心として、第二ノズル21を第一ノズル20の周囲に配置した上面視で同心円状の二重ノズル40aを使用することができる。人工土壌粒子50は、フィラー1(後述の図3に例示する)及びゲル化剤を含むコア形成液Cと、少なくともゲル化剤を含むシェル形成液Sとを調製する準備工程と、コア形成液C及びシェル形成液Sを、二重ノズル40aの第一ノズル20及び第二ノズル21にそれぞれ充填し、架橋剤を含む架橋液Lに同時に滴下する滴下工程とを実行することにより製造される。準備工程で調製されるコア形成液Cは、例えば、フィラーとしてゼオライト、ゲル化剤としてアルギン酸ナトリウムを含む水性スラリーである。シェル形成液Sは、例えば、ゲル化剤としてアルギン酸ナトリウムを含む水溶液である。また、架橋液Lは、例えば、塩化カルシウム水溶液又は乳酸カルシウム水溶液である。滴下工程では、コア形成液C及びシェル形成液Sが二重ノズル40aの先端から離脱すると、表面張力の作用によりコア形成液Cの液滴がシェル形成液Sに覆われて球状になる。この球状の液滴が架橋液Lに浸漬すると、コア形成液C及びシェル形成液Sに含まれるゲル化剤が架橋液Lに含まれる架橋剤との架橋反応によってゲル化し、シェル11がコア10を覆った状態のゲル化物Gが生成する。当該ゲル化物Gを洗浄後、乾燥させることにより人工土壌粒子50を得ることができる。本発明の人工土壌粒子50の製造方法では、滴下工程によって、粒径及びシェル11の厚みを均一に調整し易いため、安定した強度を有する人工土壌粒子50を容易に製造することができる。当該人工土壌粒子50は、均一なシェル11に起因する高い強度を備えていることに加えて、ゲルの架橋構造及びフィラー1に起因する保水性及び保肥性を併せ持つため、高強度でありながら、良好な保水性及び肥料の徐放性を備えた人工土壌粒子50となる。また、コア形成液C及びシェル形成液Sに含まれるゲル化剤の濃度を調整することにより、コア10及びシェル11の架橋密度を疎から密まで調整することができる。このように、本発明の製造方法によれば、コア10及びシェル11の多孔質構造を容易に制御することができる。その結果、人工土壌粒子50の保水性及び肥料の徐放性を容易に制御することができる。
【0033】
シェル形成液Sは、コア形成液Cより高粘度に調整されることが好ましい。シェル形成液Sをコア形成液Cより高粘度に調整すると、滴下工程において、シェル形成液Sとコア形成液Cとの混合が抑制され、コア10とシェル11との境界が明確となる。その結果、コア10及びシェル11の機能が確実に発揮できるため、所望の保水性と肥料の徐放性とを備えた人工土壌粒子50を容易に製造することができる。シェル形成液Sの粘度を高める方法としては、ゲル化剤の濃度を高めて粘度を上げる手法が一般的であるが、後述する補強剤としての増粘剤を添加することにより粘度を上げることも可能である。コア形成液Cの粘度としては、20℃において、好ましくは100mPa・s以下であり、より好ましくは1〜100mPa・sである。コア形成液Cの粘度が、20℃において、100mPa・sより高いと、コア10の多孔質構造が微細になり過ぎて、人工土壌粒子50としての保水性が低下する虞がある。シェル形成液Sの粘度としては、20℃において、好ましくは200mPa・s以上であり、より好ましくは200〜2000mPa・sである。シェル形成液Sの粘度が、20℃において、200mPa・sより低いと、滴下工程においてコア形成液Cとシェル形成液Sとが混ざり易くなり、人工土壌粒子50としての所望の強度、保水性、及び肥料の徐放性が得られない虞がある。
【0034】
シェル形成液Sは、コア形成液Cよりゲル化剤の濃度が高くなるように調整することが好ましい。これにより、コア10よりもシェル11の架橋密度が高くなる。その結果、人工土壌粒子50としての強度が維持されるとともに、コア10内に吸収した水分が外部に放出され難くなり、人工土壌粒子50としての保水性が向上する。また、当該人工土壌粒子50のコア10に肥料を担持させると、シェル11の高い架橋密度のため、人工土壌粒子50からの肥料の早期放出を抑制することができる。
【0035】
フィラー1には、人工土壌粒子50が十分な保肥力を有するように、イオン交換能が付与された材料又はイオン交換能を有する材料を使用することが好ましい。この場合、イオン交換能が付与された材料又はイオン交換能を有する材料として、陽イオン交換能が付与された材料又は陽イオン交換能を有する材料、陰イオン交換能が付与された材料又は陰イオン交換能を有する材料、あるいは両者の混合物(すなわち、陽イオン交換能が付与された材料と陰イオン交換能が付与された材料との混合物、又は陽イオン交換能を有する材料と陰イオン交換能を有する材料との混合物)を使用することができる。また、イオン交換能を有さない多孔質材料(例えば、高分子発泡体、ガラス発泡体等)を別に用意し、当該多孔質材料の細孔に上記のイオン交換能が付与された材料又はイオン交換能を有する材料を圧入や含浸等によって導入し、これをフィラー1として使用することも可能である。陽イオン交換能が付与された材料又は陽イオン交換能を有する材料として、陽イオン交換性鉱物、腐植、及び陽イオン交換樹脂が挙げられる。陰イオン交換能が付与された材料又は陰イオン交換能を有する材料として、陰イオン交換性鉱物、及び陰イオン交換樹脂が挙げられる。フィラー1として、陽イオン交換能が付与された材料と陰イオン交換能が付与された材料との混合物、又は陽イオン交換能を有する材料と陰イオン交換能を有する材料との混合物を使用した場合、人工土壌粒子50の特にコア10における保肥性が高まり、長期に亘って肥料の徐放性を維持することが可能となる。また、人工土壌粒子50は、陽イオン交換能と陰イオン交換能との両方を兼ね備えたものとなるため、複数種の肥料成分を担持することができる。従って、栽培植物の種類や栽培段階に応じて、適切な特性を備えた人工土壌粒子を設計することが可能となる。
【0036】
陽イオン交換性鉱物は、例えば、モンモリロナイト、ベントナイト、バイデライト、ヘクトライト、サポナイト、スチブンサイト等のスメクタイト系鉱物、雲母系鉱物、バーミキュライト、ゼオライト等が挙げられる。陽イオン交換樹脂は、例えば、弱酸性陽イオン交換樹脂、強酸性陽イオン交換樹脂が挙げられる。これらのうち、ゼオライト、又はベントナイトが好ましい。陽イオン交換性鉱物及び陽イオン交換樹脂は、二種以上を組み合わせて使用することも可能である。陽イオン交換性鉱物及び陽イオン交換樹脂における陽イオン交換容量は、10〜700meq/100gに設定され、好ましくは20〜700meq/100gに設定され、より好ましくは30〜700meq/100gに設定される。陽イオン交換容量が10meq/100g未満の場合、十分に養分を取り込むことができず、取り込まれた養分も灌水等により早期に流失する虞がある。一方、陽イオン交換容量が700meq/100gを超えるように保肥力を過剰に大きくしても、効果は大きく向上せず、経済的ではない。
【0037】
陰イオン交換性鉱物は、例えば、ハイドロタルサイト、マナセアイト、パイロオーライト、シェーグレン石、緑青等の主骨格として複水酸化物を有する天然層状複水酸化物、合成ハイドロタルサイト及びハイドロタルサイト様物質、アロフェン、イモゴライト、カオリン等の粘土鉱物が挙げられる。陰イオン交換樹脂は、例えば、弱塩基性陰イオン交換樹脂、強塩基性陰イオン交換樹脂が挙げられる。これらのうち、ハイドロタルサイトが好ましい。陰イオン交換性鉱物及び陰イオン交換樹脂は、二種以上を組み合わせて使用することも可能である。陰イオン交換性鉱物及び陰イオン交換樹脂における陰イオン交換容量は、5〜500meq/100gに設定され、好ましくは20〜500meq/100gに設定され、より好ましくは30〜500meq/100gに設定される。陰イオン交換容量が5meq/100g未満の場合、十分に養分を取り込むことができず、取り込まれた養分も灌水等により早期に流失する虞がある。一方、陰イオン交換容量が500meq/100gを超えるように保肥力を過剰に大きくしても、効果は大きく向上せず、経済的ではない。
【0038】
ゲル化剤には、イオン性のゲル化剤が好適に用いられ、この場合のゲル化反応として、例えば、アルギン酸塩、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のゲル化剤と多価金属イオン等の架橋剤との架橋反応が挙げられる。このうち、アルギン酸塩と多価金属イオンとのゲル化反応について説明する。アルギン酸塩の一つであるアルギン酸ナトリウムは、アルギン酸のカルボキシル基がNaイオンと結合した形態の中性塩である。アルギン酸は水に不溶であるが、アルギン酸ナトリウムは水溶性である。アルギン酸ナトリウム水溶液を架橋剤である多価金属イオン(例えば、Caイオン)の水溶液に添加すると、アルギン酸ナトリウムの分子間でイオン架橋が起こりゲル化する。アルギン酸塩ゲルの架橋構造で構成された人工土壌粒子50は、適度なサイズの空隙を備えた多孔質構造を有している。当該多孔質構造は、アルギン酸塩及び架橋剤の濃度を変更することにより容易に制御可能である。
【0039】
ゲル化反応に使用可能なアルギン酸塩は、例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウムが挙げられる。これらのアルギン酸塩は、二種以上を組み合わせて使用することも可能である。コア形成液Cのアルギン酸塩の濃度は、好ましくは0.1〜2重量%であり、より好ましくは0.2〜1.5重量%である。アルギン酸の濃度が0.1重量%未満の場合、ゲル化反応が起こり難くなりコア10の強度が維持できない虞がある。一方、アルギン酸の濃度が2重量%を超えると、コア10内の多孔質構造が微細になり過ぎて、人工土壌粒子50としての保水量が低下する虞がある。また、コア10内に担持された肥料の徐放性が低下する虞がある。シェル形成液Sのアルギン酸塩の濃度は、好ましくは0.5〜5重量%であり、より好ましくは0.5〜2重量%である。アルギン酸塩の濃度が0.5重量%未満の場合、シェル形成液Sがコア形成液Cと混ざり易くなり、人工土壌粒子50としての強度が維持できない虞がある。一方、アルギン酸塩の濃度が5重量%を超えると、シェル形成液Sの粘度が高くなり過ぎるため、滴下工程において、コア形成液Cをシェル形成液Sで均一に覆うことが難しくなる虞がある。
【0040】
コア形成液C及びシェル形成液Sを滴下する架橋液Lは、例えば、多価金属イオン水溶液が用いられる。多価金属イオン水溶液は、アルギン酸塩と反応してゲル化が起きる2価以上の金属イオン水溶液であればよい。そのような多価金属イオン水溶液の例として、塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化ストロンチウム、塩化ニッケル、塩化アルミニウム、塩化鉄、塩化コバルト等の多価金属の塩化物水溶液、硝酸カルシウム、硝酸バリウム、硝酸アルミニウム、硝酸鉄、硝酸銅、硝酸コバルト等の多価金属の硝酸塩水溶液、乳酸カルシウム、乳酸バリウム、乳酸アルミニウム、乳酸亜鉛等の多価金属の乳酸塩水溶液、硫酸アルミニウム、硫酸亜鉛、硫酸コバルト等の多価金属の硫酸塩水溶液が挙げられる。その中でも多価金属の塩化物水溶液又は乳酸塩水溶液が好ましく、塩化カルシウム水溶液又は乳酸カルシウム水溶液が好適に使用される。塩化カルシウムは安価であるため、人工土壌粒子の大量生産に適している。乳酸カルシウムは、架橋反応後に塩素等の無機物が生成しないため、得られたゲル化物Gを洗浄する必要がない。このため、ゲル化物Gの洗浄により排出される廃液を低減させることができる。これらの多価金属イオン水溶液は、二種以上を組み合わせて使用することも可能である。多価金属イオン水溶液の濃度は、1〜20重量%とし、好ましくは2〜15重量%とし、より好ましくは3〜10重量%とする。多価金属イオン水溶液の濃度が1重量%未満の場合、ゲル化反応が起こり難くなる。一方、多価金属イオン水溶液の濃度が20重量%を超えるためには溶解に長時間を要するとともに、過剰の材料を使用することになるため、経済的ではない。
【0041】
コア形成液C及びシェル形成液Sの少なくとも一方に補強剤を添加して、人工土壌粒子50の強度を向上させることも可能である。補強剤は、コア10及びシェル11の構造を補強できるものであればよいが、水溶性又は水に分散可能なものが好ましく、例えば、天然多糖類、天然樹脂類、合成樹脂類、樹脂架橋剤、無機バインダー類等が挙げられる。特に、増粘剤である天然多糖類や樹脂架橋剤を用いることが好ましい。増粘剤を添加することにより、コア形成液C及びシェル形成液Sの粘度を上げることができるため、滴下工程において、シェル形成液Sとコア形成液Cとが混ざり難くなる。これらの物質は、二種以上を組み合わせて使用することも可能である。
【0042】
補強剤に使用可能な物質の例として、以下が挙げられる。天然多糖類として、例えば、セルロース、でんぷん、カラギーナン、寒天、アルギン酸塩、アラビアガム、ペクチン、ローカストビーンガム、キサンタンガム、タラガム、グアーガム、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、ヒアルロン酸、キチン、キトサン、膠等が挙げられる。天然樹脂類として、例えば、松脂、漆、べっこう、天然ゴム、ガゼイン、シェラック、ラテックス等が挙げられる。合成樹脂類として、例えば、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、メチルセルロース樹脂、カルボキシメチルセルロース樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、エチレン樹脂、プロピレン樹脂、スチレン樹脂、アミド樹脂、イミド樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂等が挙げられる。樹脂架橋剤として、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、イソシアネート、ビニルスルホン化合物、アジリジン、ジヒドラジド、メチル化アミン、ジグリシジルエーテル、カルボジイミド、ホルムアルデヒド、チタンカップリング剤、シランカップリング剤等が挙げられる。無機バインダー類として、例えば、水ガラス、リン酸塩、ホウ酸塩、セメント等が挙げられる。
【0043】
次に、本発明の人工土壌粒子の製造方法について具体的に説明する。なお、以下の各実施形態に示されている液濃度は重量%を表している。
【0044】
〔第一実施形態〕
二重ノズル40aを備える滴下装置を用いて実施する人工土壌粒子50の製造方法について説明する。コア形成液Cとして、0.1〜1%アルギン酸ナトリウム水溶液に、フィラー1として陽イオン交換性鉱物であるゼオライト、陰イオン交換性鉱物であるハイドロタルサイト、及び肥料成分を添加したものを用いる。シェル形成液Sとして、1〜5%アルギン酸ナトリウム水溶液に補強剤を添加し、高粘度(20℃、200〜2000mPa・s)に調整したものを用いる。二重ノズル40aの中心の第一ノズル20にコア形成液Cを充填し、第一ノズル20の周囲に配置されている第二ノズル21にシェル形成液Sを充填し、架橋剤である塩化カルシウム又は乳酸カルシウムの5%水溶液(架橋液L)に同時に滴下する。これにより、シェル11がコア10を覆った粒状のゲル化物Gが生成する。その後、ゲル化物Gを回収して水洗し、十分に乾燥させる。架橋剤に乳酸カルシウムを使用する場合は、ゲル化物Gを水洗する必要はない。これにより、フィラー1が分散したコア10と、コア10を覆うシェル11とを備える人工土壌粒子50が得られる。本実施形態の人工土壌粒子50は、シェル形成液Sを調製する際にフィラー1を添加していないため、シェル11の架橋構造(多孔質構造)が微細になり、高い強度を備えることになる。そのため、植物が分泌する根酸、肥料のリン酸、及び微生物等による分解を受け難い構造になる。また、シェル11の架橋構造が微細になるため、コア10内に保持されている肥料の早期放出を抑制するとともに、コア10内に吸収された水分の保水性も向上する。また、フィラー1としてイオン交換能を有するゼオライト及びハイドロタルサイトを使用しているため、肥料溶液に浸漬させることにより、肥料を担持させることも可能である。
【0045】
〔第二実施形態〕
二重ノズル40aを備える滴下装置を用いて実施する人工土壌粒子50の他の製造方法について説明する。コア形成液Cとして、0.1〜1%アルギン酸ナトリウム水溶液に、フィラー1として陽イオン交換性鉱物であるゼオライト、陰イオン交換性鉱物であるハイドロタルサイト、及び肥料成分を添加したものを用いる。シェル形成液Sとして、1〜5%アルギン酸ナトリウム水溶液に、補強剤、並びにフィラー1として陽イオン交換性鉱物であるゼオライト及び陰イオン交換性鉱物であるハイドロタルサイトを添加し、高粘度(20℃、200〜2000mPa・s)に調整したものを用いる。二重ノズル40aの中心の第一ノズル20にコア形成液Cを充填し、第一ノズル20の周囲に配置されている第二ノズル21にシェル形成液Sを充填し、架橋剤である塩化カルシウム又は乳酸カルシウムの5%水溶液(架橋液L)に同時に滴下する。これにより、シェル11がコア10を覆った粒状のゲル化物Gが生成する。その後、ゲル化物Gを回収して水洗し、十分に乾燥させる。架橋剤として乳酸カルシウムを使用する場合は、ゲル化物Gを水洗する必要はない。これにより、フィラー1が分散したコア10と、当該コア10を覆うシェル11とを備える人工土壌粒子50が得られる。本実施形態の人工土壌粒子50は、シェル形成液Sを調製する際にフィラー1としてイオン交換能を有するゼオライト及びハイドロタルサイトを添加しているため、シェル11に保肥性を付与することができる。この人工土壌粒子50は、肥料溶液に浸漬させるだけで、肥料を容易に担持させることができる。
【0046】
〔第三実施形態〕
図2は、三重ノズル40bを備える滴下装置を用いて実施する人工土壌粒子50の製造方法の説明図である。本実施形態の人工土壌粒子50の作製には、コア形成液Cと、第一シェル形成液S1と、第二シェル形成液S2とを用いる。コア形成液Cとして、0.5〜1%アルギン酸ナトリウム水溶液に、フィラー1として陽イオン交換性鉱物であるゼオライト、陰イオン交換性鉱物であるハイドロタルサイト、及び肥料成分を添加したものを用いる。第一シェル形成液S1として、1〜5%アルギン酸ナトリウム水溶液に、補強剤、並びにフィラー1として陽イオン交換性鉱物であるゼオライト、陰イオン交換性鉱物であるハイドロタルサイト、及び肥料成分を添加し、高粘度(20℃、200〜2000mPa・s)に調整したものを用いる。第二シェル形成液S2として、1〜5%アルギン酸ナトリウム水溶液に補強剤を添加し、高粘度(20℃、200〜2000mPa・s)に調整したものを用いる。三重ノズル40bの中心の第一ノズル20にコア形成液Cを充填し、第一ノズル20の周囲に配置されている第二ノズル21に第一シェル形成液S1を充填し、第二ノズル21の周囲に配置されている第三ノズル22に第二シェル形成液S2を充填し、架橋剤である塩化カルシウム又は乳酸カルシウムの5%水溶液(架橋液L)に同時に滴下する。これにより、第一シェル11aがコア10を覆い、さらに第二シェル11bが第一シェル11aを覆った二重被覆構造の粒状のゲル化物Gが生成する。その後、ゲル化物Gを回収して水洗し、十分に乾燥させる。架橋剤として乳酸カルシウムを使用する場合は、ゲル化物Gを水洗する必要はない。これにより、フィラー1が分散したコア10と、コア10を覆う第一シェル11aと、第一シェル11aを覆う第二シェル11bとを備える人工土壌粒子50が得られる。本実施形態の人工土壌粒子50は、第一シェル11a及び第二シェル11bを備えることから、初めに第一シェル11aから肥料を放出させ、その後コア10から肥料を放出させることができる。このように、肥料の徐放性を細かく制御することができる。また、保水性についても、同様に細かい制御が可能となる。この人工土壌粒子50では、フィラー1としてイオン交換能を有するゼオライト及びハイドロタルサイトを使用しているため、肥料溶液に浸漬させるだけで、肥料を容易に担持させることができる。
【0047】
〔第四実施形態〕
三重ノズル40bを備える滴下装置を用いて実施する人工土壌粒子50の他の製造方法について説明する。本実施形態の人工土壌粒子50の作製には、コア形成液Cと、第一シェル形成液S1と、第二シェル形成液S2とを用いる。コア形成液Cとして、0.5〜1%アルギン酸ナトリウム水溶液に、フィラー1として陰イオン交換性鉱物であるハイドロタルサイトを添加したものを用いる。第一シェル形成液S1として、1〜5%アルギン酸ナトリウム水溶液に、補強剤、及びフィラー1として陽イオン交換性鉱物であるゼオライトを添加し、高粘度(20℃、200〜2000mPa・s)に調整したものを用いる。第二シェル形成液S2として、1〜5%アルギン酸ナトリウム水溶液に補強剤を添加し、高粘度(20℃、200〜2000mPa・s)に調整したものを用いる。三重ノズル40bの中心の第一ノズル20にコア形成液Cを充填し、第一ノズル20の周囲に配置されている第二ノズル21に第一シェル形成液S1を充填し、第二ノズル21の周囲に配置されている第三ノズル22に第二シェル形成液S2を充填し、架橋剤である塩化カルシウム又は乳酸カルシウムの5%水溶液(架橋液L)に同時に滴下する。これにより、第一シェル11aがコア10を覆い、さらに第二シェル11bが第一シェル11aを覆った二重被覆構造の粒状のゲル化物Gが生成する。その後、ゲル化物Gを回収して水洗し、十分に乾燥させる。架橋剤として乳酸カルシウムを使用する場合は、ゲル化物Gを水洗する必要はない。これにより、フィラー1が分散したコア10と、コア10を覆う第一シェル11aと、第一シェル11aを覆う第二シェル11bとを備える人工土壌粒子50が得られる。本実施形態の人工土壌粒子50は、コア形成液Cを調製する際にフィラー1として陰イオン交換能を有するハイドロタルサイトを添加し、第一シェル形成液S1を調製する際にフィラー1として陽イオン交換能を有するゼオライトを添加しているため、生成した人工土壌粒子50を、例えば、硝酸カリウム溶液に浸漬させると、コア10に硝酸イオン(NO)が担持され、第一シェル11aにカリウムイオン(K)が担持される。そうすると、第一シェル11aに存在するカリウムイオンによって、コアに担持されている硝酸イオンが人工土壌粒子外に放出し難くなり、硝酸イオンの徐放性を備えた人工土壌粒子50とすることができる。
【0048】
<人工土壌粒子>
図3は、二重ノズル40aを備える滴下装置を用いて製造した本発明に係る人工土壌粒子50を模式的に示した説明図である。人工土壌粒子50は、コア10をシェル11で被覆した構造を備えている。コア10は、複数のフィラー1が集合して粒状に構成されたものであり、保肥性を有する。フィラー1は、表面から内部にかけて多数の細孔2を有している。細孔2は、種々の形態を含む。例えば、フィラー1が、図3に示すゼオライトの場合、当該ゼオライトの結晶構造中に存在する空隙が細孔2である。また、図示しない層構造を有するハイドロタルサイトの場合、当該ハイドロタルサイトの層構造中に存在する層間が細孔2となる。つまり、「細孔」とは、フィラー1の構造中に存在する空隙部、層間部、空間部等を意図し、これらは「孔状」の形態に限定されない。フィラー1の細孔2には、主にカリウム(K)、窒素(N)、リン(P)等の養分が保持される。コア10を構成する複数のフィラー1の間には、空隙が形成される。空隙は連通孔3となり、水分が保持される。
【0049】
シェル11は、主に人工土壌粒子50の強度、及び保水性を制御するように機能するが、コア10からの肥料の放出特性を制御することもできる。図3の人工土壌粒子50は、コア10を被覆するシェル11が一層であるが、多層でも良く、所望の人工土壌粒子50の機能に合わせて適宜設計される。シェル11を多層にすると、保水性及び肥料の徐放性を精密に制御することができる。シェル11には、コア10と同様にフィラー1が添加されてあっても良く、人工土壌粒子50の機能に合わせて保水性のフィラー1や保肥性のフィラー1等を添加することができる。コア10及びシェル11は、ゲルの架橋構造で固化されているため、架橋構造の間、及び複数のフィラー1の間に空隙が形成された多孔質構造を有している。この多孔質構造により、人工土壌粒子50の外部に存在する水分は毛細管現象により人工土壌粒子50内に吸収され、コア10の連通孔3に保持される。人工土壌粒子50の外部に存在する水分が少なくなると、コア10の連通孔3に保持された水分が外部に放出され、植物に供給される。水分の吸放出特性は、人工土壌粒子50の多孔質構造を制御することで、所望の特性に調整することができる。
【0050】
人工土壌粒子50の特性は、コア10及びシェル11の構造によって決定される。人工土壌粒子50が高い強度を維持しながら、良好な保水性及び肥料の徐放性を有するためには、特に、コア10及びシェル11の架橋密度を適切に設定する必要がある。本発明では、シェル11の架橋密度がコア10の架橋密度より高くなるように設定されている。これにより、シェル11が微細な多孔質構造を備えることになり、人工土壌粒子50の強度が向上するとともに、人工土壌粒子50に吸収した水分をコア10内で保持することができる。また、人工土壌粒子50のコア10にフィラー1として保肥性を有するフィラーを担持させると、シェル11の存在により、肥料の早期放出を抑制することができるため、肥料の徐放性を備えた人工土壌粒子50とすることができる。コア10及びシェル11の架橋密度は、上述した人工土壌粒子の製造方法の滴下工程で使用するコア形成液C及びシェル形成液Sに含まれるゲル化剤の濃度や、架橋液Lに含まれる架橋剤の濃度を調整することにより、疎から密まで調整可能である。
【実施例】
【0051】
本発明の製造方法で製造された人工土壌粒子について、リン酸耐久性及び硝酸肥料の徐放性の確認試験を実施した。なお、以下の実施例に示されている液濃度は重量%を表している。
【0052】
<人工土壌粒子の作製>
下記の表1に記載される配合(重量部)に従って、コア形成液及びシェル形成液を調製した。コア形成液として、アルギン酸ナトリウム水溶液に、補強剤、フィラー、及び肥料成分として硝酸カリウムを添加し、ミキサー(SM−L57:三洋電機株式会社製)を用いて3分間撹拌したものを用いた。シェル形成液として、補強剤をアルギン酸ナトリウム水溶液に添加し、ミキサー(SM−L57:三洋電機株式会社製)を用いて3分間撹拌したものを用いた。フィラーは、陽イオン交換性鉱物であるゼオライト(琉球ライトCEC600、株式会社エコウェル製)、陰イオン交換性鉱物であるハイドロタルサイト(和光純薬工業株式会社製)、陽イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製)、陰イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製)、ベントナイト(カサネン工業株式会社製)、及びカオリンクレー(昭和ケミカル株式会社製)を使用した。補強剤は、ラテックス(SBRラテックス、日本ゼオン株式会社製)、寒天(和光純薬工業株式会社製)、酢酸ビニル樹脂(酢酸ビニルエマルジョン、コニシ株式会社製 CH18)、キサンタンガム(MRCポリサッカライド株式会社製 ソアキサン(登録商標)XG550)、ポリアクリル酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)、及びポリオレフィン樹脂(住友精化株式会社製 セポルジョン(登録商標)G)を使用した。人工土壌粒子の作製にあたっては、上面視で同心円状の二重ノズル及び粘性液加圧圧送機構を備える滴下装置を用いた。二重ノズルの中心の第一ノズルにコア形成液を充填し、第一ノズルの周囲に配置されている第二ノズルにシェル形成液を充填し、架橋剤である塩化カルシウムの5%水溶液(架橋液)に同時に滴下してゲル化物を生成した。当該ゲル化物を液から回収し、洗浄した後、55℃で24時間乾燥させて実施例1、3〜7の人工土壌粒子を作製した。架橋液として乳酸カルシウム5%水溶液を使用した実施例2の人工土壌粒子は、ゲル化物を洗浄せず、そのまま55℃で24時間乾燥させた。比較例1は、コア形成液のみを用いて人工土壌粒子を作製した。比較例2は、比較例1の人工土壌粒子を、5%変性セルロース溶液に24時間浸漬した後、乾燥させて変性セルロースで被覆した人工土壌粒子とした。下記表1中の○の表記は、使用した架橋剤を含む架橋液を示している。
【0053】
【表1】
【0054】
<確認試験>
(リン酸耐久性試験)
本試験では、肥料成分の一つであるリン酸が人工土壌粒子の耐久性に与える影響を確認した。各人工土壌粒子(実施例1〜7、比較例1及び2)0.5gを、5%リン酸水溶液50ccに浸漬し、500rpmで撹拌して人工土壌粒子が崩壊するまでの時間を計測した。各人工土壌粒子の崩壊の有無は、目視により行った。
【0055】
(硝酸態窒素肥料の徐放性試験1)
本試験では、植物の根酸の成分であるクエン酸が人工土壌粒子の硝酸態窒素肥料の徐放性に与える影響を確認した。底部に穴を形成した樹脂製カップに各人工土壌粒子(実施例1〜7、比較例1及び2)50ccを入れ、50ccの水で10回上面灌水を行った。次に、1%クエン酸水溶液50ccで10回上面灌水を行い、樹脂製カップから排出された1回目の排出液の硝酸イオン濃度、及び10回目の排出液の硝酸イオンの濃度を測定した。得られた1回目及び10回目の硝酸イオン濃度を、以下の式(1)を用いて、硝酸イオンの放出量低下率を算出し、硝酸態窒素肥料の徐放性を評価した。
硝酸イオンの放出量低下率 = ( 1 − 10回目の硝酸イオン濃度/1回目の硝酸イオン濃度 ) × 100(%) ・・・ (1)
確認試験の結果を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
実施例1〜7の人工土壌粒子は、何れも5%リン酸水溶液中で3時間以上崩壊せず、高いリン酸耐久性を示した。一方、比較例1及び2の人工土壌粒子は、0.5〜1時間で崩壊し、本発明品よりもリン酸耐久性は劣る結果となった。また、実施例1〜7の人工土壌粒子は、水及びクエン酸により夫々10回抽出した後でも、人工土壌粒子に担持させた肥料成分に由来する硝酸イオンの放出量低下率が抑えられており、硝酸態窒素肥料の徐放性を備えることが示された。これに対して、比較例1の人工土壌粒子は、略全ての肥料成分が放出されており、硝酸態窒素肥料の徐放性が劣るものとなった。比較例2の人工土壌粒子は、被覆層を設けていることから、硝酸態窒素肥料の徐放性は認められるが、上述のとおりリン酸に対する耐久性が低いため、実用的ではなかった。これは、本発明の人工土壌粒子の製造方法では、コアを覆っているシェルの厚みを均一に製造することができるが、通常の造粒法により被覆層を設けると不均一な厚みの部分、つまり被覆層が薄い部分が形成され、人工土壌粒子としての強度を十分に向上させることができないためと考えられる。
【0058】
(硝酸態窒素肥料の徐放性試験2)
図4は、本発明の人工土壌粒子における硝酸態窒素肥料の徐放性試験の結果を示すグラフである。この硝酸態窒素肥料の徐放性試験では、底部に穴を形成した樹脂製カップに人工土壌粒子(実施例1、比較例1)50ccを入れ、50ccの水で10回上面灌水を行い、1回目の排出液の硝酸イオン濃度、及び10回目の排出液の硝酸イオン濃度を測定した。次いで、1%クエン酸水溶液50ccで10回上面灌水を行い、1回目の排出液の硝酸イオン濃度、及び10回目の排出液の硝酸イオンの濃度を測定した。各排出液の硝酸イオン濃度から実施例1及び比較例1の人工土壌粒子の硝酸態窒素肥料の徐放性を評価した。
【0059】
図4に示すように、実施例1の人工土壌粒子は、硝酸イオンの放出が20ppm以下に抑制され、1%クエン酸水溶液で10回上面灌水を行った後でも抑制効果は安定していた。このように、本発明品は、硝酸態窒素肥料の徐放性を備えており、適量の肥料を長期間植物に与えることができることが示された。これに対して、シェルを有していない比較例1の人工土壌粒子は、硝酸イオンを早期に放出し、硝酸態窒素肥料の徐放性が劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の人工土壌粒子の製造方法、及び人工土壌粒子は、植物工場等で使用される人工土壌に利用可能であるが、その他の用途として、施設園芸用土壌、緑化用土壌、成型土壌、土壌改良剤、インテリア用土壌等にも応用可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 フィラー
10 コア
11 シェル
40 多重ノズル
50 人工土壌粒子
C コア形成液
L 架橋液
S シェル形成液
図1
図2
図3
図4