特許第6247770号(P6247770)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6247770
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】適合したエテンデュを有する分光計
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20171204BHJP
   G01J 3/44 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   G01N21/65
   G01J3/44
【請求項の数】14
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-545927(P2016-545927)
(86)(22)【出願日】2015年2月28日
(65)【公表番号】特表2017-506738(P2017-506738A)
(43)【公表日】2017年3月9日
(86)【国際出願番号】EP2015054225
(87)【国際公開番号】WO2015128503
(87)【国際公開日】20150903
【審査請求日】2017年10月25日
(31)【優先権主張番号】14157397.2
(32)【優先日】2014年2月28日
(33)【優先権主張国】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514156563
【氏名又は名称】アイメック・ヴェーゼットウェー
【氏名又は名称原語表記】IMEC VZW
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100112911
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】ポル・ファン・ドルぺ
(72)【発明者】
【氏名】ペーテル・プーマンス
【審査官】 立澤 正樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−515928(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0324819(US,A1)
【文献】 国際公開第2012/136982(WO,A1)
【文献】 米国特許第5011284(US,A)
【文献】 米国特許第7925069(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/00− 9/04
G01N 21/00−21/74
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線ビームの特徴を明らかにするための光学システム(100)であって、
光放射線ガイドシステムと、
分光計チップ(130)とを備え、
前記光放射線ガイドシステムは、
前記放射線ビームを平行化して平行放射線ビームを形成するためのコリメータ(110)と、
前記平行放射線ビームのパワーを、孤立した複数のライン状領域にわたって分布させるためのビーム成形器(120)であって、前記ビーム成形器に入射する、前記平行放射線ビームのスペクトルは、前記孤立した複数のライン状領域のそれぞれに分配されるようにしたビーム成形器(120)と、
前記分光計チップ(130)は、前記ビーム成形器(120)から到来する、孤立した複数のライン状放射線を処理するように構成されている、
光学システム(100)。
【請求項2】
前記ビーム成形器(120)は、楔形状を有する、
請求項1に記載の光学システム(100)。
【請求項3】
前記コリメータと前記ビーム成形器は、該ビーム成形器が、前記楔の短い側である楔入口領域(122)を介して放射線を受信可能であるように配置されている、
請求項2に記載の光学システム(100)。
【請求項4】
前記ビーム成形器は、楔入口領域に垂直入射する放射線が、前記楔の他の面で最初に反射されることなく楔出口領域に直接に誘導されるように形成されている、
請求項2または3に記載の光学システム(100)。
【請求項5】
前記コリメータ(110)は、少なくとも部分的に、3D放物線形状を有する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の光学システム(100)。
【請求項6】
前記コリメータ(110)は、入射点を有し、該入射点と前記コリメータの出力部との間で放射ビームを折り曲げるように形成されている、
請求項1から5のいずれか1項に記載の光学システム(100)。
【請求項7】
前記ビーム成形器は、前記孤立した複数のライン状領域に前記放射線ビームを向けるための出口領域を有し、
前記出口領域は、波状パターンまたは階段状パターンを有する、
請求項1から6のいずれか1項に記載の光学システム(100)。
【請求項8】
前記波状パターンまたは階段状パターンは、複数の第1部分(310)と複数の第2部分(320)とを有し、
前記第2部分は、前記第1部分どうしを相互に接続し、
隣接する第1部分どうしは、前記第1部分の長さよりも短い間隔を開けて配置され、かつ、前記ビーム成形器の入口領域に対して垂直な方向に実質的に平行な方向を向いている、
請求項7に記載の光学システム(100)。
【請求項9】
前記第2部分(320)は、屈曲している、
請求項8に記載の光学システム(100)。
【請求項10】
前記分光計チップ(130)は、複数の検出チャネル(210)を有し、
各検出チャネルは、入射結合グレーティング(220)と、出射結合グレーティング(230)と、スペクトル依存型透過システム(240)とを有し、
前記入射結合グレーティング(220)は、前記スペクトル依存型透過システム(240)を通じて前記出射結合グレーティング(230)に結合され、
前記入射結合グレーティング(220)は、孤立した複数のラインの上に配置されている、
請求項1から9のいずれか1項に記載の光学システム(100)。
【請求項11】
前記スペクトル依存型透過システム(240)は、ファブリペローシステムである、
請求項10に記載の光学システム(100)。
【請求項12】
前記コリメータ(110)と前記ビーム成形器(120)との間には、励起放射線を阻止するための第1阻止フィルタ(140)が配置されている、
請求項1から11のいずれか1項に記載の光学システム(100)。
【請求項13】
リストバンドに一体化されている、
請求項1から12のいずれか1項に記載の光学システム(100)。
【請求項14】
グルコースセンサとしての、請求項1から13のいずれか1項に記載の光学システム(100)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被分析物の非侵襲的測定を行うための技術に関する。具体的に言うと、本発明は、ラマン分光を用いて皮膚または他の組織に含まれる被分析物の非侵襲的測定を行うための技術に関する。本発明は、人体に含まれる被分析物の非侵襲的測定に加えて、農産物、流体、布などの特性の測定にも用いることができる。
【背景技術】
【0002】
ラマン分光は、分子を同定するための光学的技術として知られている。分子の同定は、化学結合や分子の対称性に特有の振動情報に基づいて行われる。この技術により、分子を1つに同定することを可能にする特徴が得られる。その結果、ラマン分光は、サンプルに含まれる対象の被分析物を検出するための検定技術および定量化技術として用いることができる。
【0003】
光学的、非破壊的な技術であるラマン分光は、医療用途においてターゲットを同定する目的で(例えば、人の皮膚の分子を同定する目的で)、また、検査する体積中に含まれる分子の総数を見積もる目的でも用いられる。これまで想定された用途として、生体中のグルコースのセンシングが挙げられる。
【0004】
しかし、他の多くの光学的技術と同様、グルコースを測定する場合の応答信号は非常に小さい。生体中のグルコースをモニタリングするためには、大きいバックグラウンド信号が存在する状態で小さい信号の変動を測定する必要がある。したがって、ラマン分光に基づく検出器は高感度であることが重要である。
【0005】
ラマン散乱では、等方的な光信号が得られる(すなわち、光信号は全方位に放射される)。分光計は、可能な限り、全角度に伝搬する光を捕捉する必要がある。さらに、皮膚内では光が散乱しやすく、皮膚の表面での光は、大きい面積(1mm以上、用いる照明スキームに応じて変化する)にわたって広がっている。これにより、全角度と大きい面積、すなわち大きいエテンデュ(面積と立体角との積に比例する)にわたって光を収集するという課題が生じる。これは、光学系における根本的な課題である。なぜなら、大きいエテンデュで光信号を収集し、処理できる分光計を設計、構築するのは困難だからである。
【0006】
さらに、皮膚の局所的な形状は、皮膚における位置や個人によっても異なる(例えば、皮膚を構成する複数の層の厚さや微小構造が異なる)ので、各人に対してそれぞれ校正を行わなければ、特定の被分析物の濃度を定量化することは難しい。それゆえ、再現可能な技術を得るために、体系的に校正を行うことが好ましい。これは、通常、時間がかかって面倒なプロセスであり、グルコースやコレステロール、エタノールなどの重要な被分析物を日常的に非侵襲的な方法で正確に測定するためのラマン技術の適用性が制限される。
【0007】
高感度な検出器と校正に加えて、通常、ユーザがセンサを容易に利用できるようにする必要がある。例えば、グルコースのセンシングの場合、通常、一日に数回センシングを行う必要がある。従来のラマンシステムは、通常、大規模な光学システムであり、日常的にグルコースをモニタリングするには不便である。光学ラマンシステムを小型化する努力がなされている。過去、埋め込み型センサを用いる提案が、例えば米国特許出願13/415,392でなされている。埋め込み型センサは、容易に利用でき、一旦埋め込めば連続的にモニタリングできるという利点がある。しかし、埋め込み型センサは、測定する組織や流体へのアクセスを維持しつつ正確にパッケージングする必要があり、さらに、埋め込みを行うための外科手術が必要となる。
【0008】
感度が高く、正確度が高く、ユーザにとって利用しやすい、ラマンベースの良好な光学センサに対するニーズが存在する。
【発明の概要】
【0009】
本発明の実施形態の目的は、光源との結合因子が大きい、光スペクトルを検出するための光学システムを提供することである。光学システムが、光源の大きいエテンデュを受容できることは、本発明の実施形態の利点である。エテンデュを適合させることができることは、本発明の実施形態の利点である。安価でコンパクトかつ高感度のラマンベースデバイスが得られ、これを用いて組織内の被分析物の濃度を決定できることは、本発明の実施形態の利点である。
【0010】
上述の目的は、本発明による方法とデバイスにより達成される。
【0011】
一態様では、放射線ビームの特徴を明らかにする(特徴づける)ための光学システムに関する。光学システムは、光放射線ガイドシステムを備える。前記光放射線ガイドシステムは、前記放射線ビームを平行化して平行放射線ビームを形成するためのコリメータと、前記平行放射線ビームのパワーを、孤立した複数のライン状領域にわたって分布させるためのビーム成形器とを有する。光学システムは、前記ビーム成形器から到来する、孤立した複数のライン状放射線を処理するように構成された分光計チップをさらに備えている。前記光学システムは分光計であってもよい。
【0012】
光学システムの導波路の数を増やすことにより、分光計全体のエテンデュを、光源のエテンデュに適合するように増加させることができる。非常に多くの入射結合グレーティングを実現できることは、本発明の実施形態の利点である。平行放射線ビームは、最大発散角を20°として、実質的に1つの方向に向けられてもよい。
【0013】
本発明の実施形態では、前記ビーム成形器は、該ビーム成形器に入射する平行放射線ビームのスペクトルが、孤立した複数のライン状領域のそれぞれに分配されるように構成されている。言い換えると、ビーム成形器は、平行放射線ビームを、孤立した複数の異なるライン状領域についてスペクトルが異なるビーム(サブビーム)に分割しないように構成されており、複数のライン状領域にわたって平行放射線ビームのパワーを分割するように構成されている。前記ビーム成形器は、平行放射線ビームを孤立した複数のライン状領域にわたって均一に分布させてもよく、これによりスペクトル全体は、孤立した複数のライン状領域のそれぞれに分布する。したがって、前記ビーム成形器は、スペクトル分布を誘導することなく、パワーを分配するように構成されていてもよい(スペクトル成分は、複数のライン状領域にわたって分割されない)。
【0014】
前記システムは、前記ライン状領域が前記ビーム成形器により分割された後に、前記ライン状領域を分光的に処理する。
【0015】
前記ビーム成形器は、楔形状を有していてもよい。前記システムの高さを制限しつつ、前記楔に入射する平行放射線を大きい面積に広げることができることは、本発明の実施形態の利点である。これは、有利には、前記デバイスの装着性を向上させる。
【0016】
前記コリメータと前記ビーム成形器は、該ビーム成形器が、前記楔の短い側である楔入口領域を介して放射線を受信可能であるように配置されていてもよい。高さが制限され、装着性が向上したシステムが得られることは、本発明の実施形態の利点である。
【0017】
前記ビーム成形器は、楔入口領域に垂直入射する放射線が、前記楔の他の面で最初に反射されることなく前記楔出口領域に直接に誘導されるように形成されていてもよい。
【0018】
前記コリメータは、少なくとも部分的に、3D放物線形状または3D双曲線形状を有していてもよい。ビームを正確に平行化できることは、本発明の実施形態の利点である。
【0019】
前記コリメータは、入射点を有し、該入射点と前記コリメータの出力部との間で放射ビームを折り曲げる(折り返す)ように形成されていてもよい。コンパクトな光学システムを提供できることは、本発明の実施形態の利点である。
【0020】
前記ビーム成形器は、前記孤立した複数のライン状領域に前記放射線を向けるための出口領域を有していてもよい。前記出口領域は、波状パターンまたは階段状パターンを有していてもよい。前記光が前記楔の出口領域で屈折すること、前記屈折が位置に依存することは、本発明の実施形態の利点である。
【0021】
前記波状パターンまたは階段状パターンは、複数の第1部分と複数の第2部分とを有していてもよい。前記第2部分は、前記第1部分どうしを相互に接続していてもよい。隣接する第1部分どうしは、前記第1部分の長さよりも短い間隔を開けて配置されていてもよく、前記ビーム成形器の入口領域に対して垂直な方向に実質的に平行な方向を向いていてもよい。
【0022】
前記第2部分は、屈曲していてもよい。第2部分により屈折した放射線を、前記分光計チップのライン上に集光できることは、本発明の実施形態の利点である。前記複数の第1部分は、それぞれ等しい長さを有していてもよく、かつ/または、前記複数の第2部分は、それぞれ等しい長さと形状を有していてもよい。
【0023】
前記分光計チップは、複数の検出チャネルを有していてもよい。各検出チャネルは、入射結合グレーティングと、出射結合グレーティングと、スペクトル依存型透過システムとを有していてもよい。前記入射結合グレーティングは、スペクトル依存型透過システムを通じて前記出射結合グレーティングに結合されていてもよい。前記入射結合グレーティングは、孤立した複数のラインの上に配置されていてもよい。前記入射結合グレーティングおよび/または前記出射結合グレーティングは、複数の検出器で共有されてもよい。孤立した複数のラインにわたる入射結合グレーティングの分布は、入射結合グレーティングの一本のラインと比べてより広い空間が利用できるので、シングルモードの導波路の数を増やすことができる。光源から到来する光が前記楔により孤立した複数のライン状領域にわたって分布するときに、前記分光計チップに到達する前記ライン状領域の間隔と向きが入射結合グレーティングの間隔と向きに対応するように前記楔が設計されることは、本発明の実施形態の利点である。これにより、前記光源と前記分光計チップとの間で高い結合係数を得ることができる。前記スペクトル依存型透過システムは、ファブリペローシステムであってもよい。
【0024】
前記コリメータと前記ビーム成形器との間には、励起放射線を阻止するための第1阻止フィルタが配置されていてもよい。本発明の実施形態では、前記ビーム成形器と前記分光計チップとの間に第2阻止フィルタが設けられてもよく、かつ/または、ブラッググレーティングを用いたスペクトル依存型透過システムに第3阻止フィルタが設けられてもよい。
【0025】
前記光学システムは、リストバンドに一体化されてもよい。前記リストバンドを装着することにより、前記コリメータの入口部と前記皮膚とを良好に接触させられることは、本発明の実施形態の利点である。前記センシングシステムの優れた装着性が得られることは、本発明の実施形態の利点である。
【0026】
本発明は、上述のとおり、光学システムのグルコースセンサとしての使用にも関する。過度に患者を乱すことなく(すなわち、実質的に患者の快適さを阻害することなく)、患者のグルコースレベルまたはその変化を測定できることは、本発明の実施形態の利点である。使用中、測定したスペクトルは、信号対雑音比を増加させるため、基準グルコーススペクトルと相関付けられてもよい。検出対象の粒子または分子の標準応答を基準スペクトルとして利用できる場合、信号対雑音比を増加させられることは、本発明の実施形態の利点である。
【0027】
本発明の実施形態は、検出器システムにも関する。前記検出器システムは、光プリント基板と読み出しプリント基板に実装された光学システムを備えている。前記読み出しプリント基板は、前記光信号をデジタル化し、かつ/または、前記デジタル化された結果を処理するために、前記光プリント基板に接続されている。前記読み出しプリント基板と前記光学システムとが直接に接続されて前記検出器システム全体のノイズが低下することは、本発明の実施形態の利点である。ある実施形態では、前記光学システムおよび/または前記読み出しシステムは、リストバンドに一体化されてもよい。
【0028】
本発明は、放射線ビームを平行化して平行放射線ビームを形成するためのコリメータと、前記平行放射線ビームのパワーを孤立した複数のライン状領域にわたって分布させるためのビーム成形器とを備えた光放射線ガイドシステムに関する。前記ビーム成形器は、スペクトル分布を誘導することなく、パワーを分配するように構成されていてもよい(スペクトル成分は、複数のライン状領域にわたって分割されない)。
【0029】
本発明の実施形態では、前記ビーム成形器は、前記平行放射線ビームのスペクトル全体が前記孤立した複数のライン状領域のそれぞれに分配されるように構成されている。言い換えると、前記ビーム成形器は、前記平行放射線ビームを、前記孤立した複数の異なるライン状領域についてスペクトルが異なるビーム(サブビーム)に分割しないように構成されており、前記複数のライン状領域にわたって前記平行放射線ビームのパワーを分割するように構成されている。
【0030】
本発明の具体的な態様と好ましい態様が、添付の特許請求の範囲における独立請求項と従属請求項に記載されている。従属請求項に記載された特徴は、独立請求項の特徴および他の従属請求項の特徴と、必要に応じて、特許請求の範囲に明示的に記載されたものに限定されない形で組み合わせることができる。
【0031】
本発明のこれらの態様と他の態様は、以下で説明する実施形態から明らかであり、当該実施形態を参照して明瞭にされる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1a】本発明の実施形態による光学システムの概略図を示す。
図1b】本発明の実施形態の変形例による楔の概略図を示す。
図2】本発明の実施形態による第2阻止フィルタのTEM像を示す。
図3】本発明の実施形態による分光計チップの概略図を示す。
図4】本発明の実施形態によるラマン分光を用いて得られるグルコーススペクトルの例を示す。
図5】グルコーススペクトルと、積分時間の10秒間、光学システムを用いて測定したショットノイズを含むグルコース測定スペクトルとを示すグラフである。
図6】グルコーススペクトルと、積分時間の120秒間、光学システムを用いて測定したショットノイズを含むグルコース測定スペクトルとを示すグラフである。
図7】積分時間の10秒間、光学システムを用いて測定した、グルコースのヒストグラムである。
図8】積分時間の120秒間、光学システムを用いて測定した、グルコースのヒストグラムである。
図9】本発明の実施形態による測定値を示すクラークエラーグリッド(積分時間10秒)である。
図10】本発明の実施形態による測定値を示すクラークエラーグリッド(積分時間120秒)である。
図11】本発明の実施形態による検出器システムの三次元概略図である。
図12】本発明の実施形態による、リストバンドを備えた検出器システムの三次元概略図である。
図13】導波路の透過率を示す。
図14】導波路の透過率を示す。
図15】導波路の透過率を示す。
図16】本発明の実施形態によるシステムで処理される入射スペクトルである。
図17】スペクトル変換を導波路ごとに示す。
図18】入射スペクトルと再構築されたスペクトルを示す。
図19】本発明の実施形態によるシステムで処理可能な入射スペクトルを示す。
図20】入射スペクトルと再構築されたスペクトルを示す。
【0033】
図面は概略的なものにすぎず、非制限的である。図面で、幾つかの要素の大きさは、説明のために誇張され、実際のスケールでは図示されていないことがある。
【0034】
特許請求の範囲で用いられるどの参照符号も、範囲を限定するものとして解釈すべきでない。
【0035】
異なる図面で、同じ参照符号は、同じまたは類似の要素を指す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
特定の実施形態に関して、特定の図面を参照しつつ本発明について説明するが、本発明はこれに限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。図面は概略的なものにすぎず、非制限的である。図面で、幾つかの要素の大きさは、説明のために誇張され、実際のスケールでは図示されていないことがある。寸法および相対寸法は、本発明が実際に実施化される態様とは対応していない。
【0037】
さらに、明細書の説明と特許請求の範囲で用いられる、第1、第2などは、類似の要素を区別するために用いられているのであって、必ずしも時間的、空間的、序列、または他のいずれかの方法での順序を表すために用いられているのではない。こうして用いられた用語は、適切な状況下で交換可能であり、本明細書で説明している本発明の実施形態は、本明細書で説明または図示されているものとは別の順序で動作可能であると理解すべきである。
【0038】
さらに、明細書の説明と特許請求の範囲で用いられる、上、下などは、説明のために用いられているのであって、必ずしも相対的な位置を記述するために用いられているのではない。こうして用いられた用語は、適切な状況下で交換可能であって、本明細書で説明した本発明の実施形態は、本明細書で説明または図示されているものとは別の向きで動作可能であると理解すべきである。
【0039】
特許請求の範囲で用いられる、「備える、有する、含む」は、それ以降に列挙された手段に限定されるように解釈すべきでない。「備える、有する、含む」は、他の要素、ステップを除外しない。それゆえ、「備える、有する、含む」は、記載されている特徴、整数、ステップまたは構成要素の存在を明記するものであると解釈すべきであって、1つ以上の他の特徴、整数、ステップもしくは構成要素、またはこれらの組み合わせの存在または追加を除外するものではない。したがって、「手段Aと手段Bとを備えたデバイス」という表現の範囲は、構成要素A,Bのみからなるデバイスに限定すべきでない。この表現は、本発明に関して、構成要素A,Bが、デバイスの関連するコンポーネントであることを意味するにすぎない。
【0040】
この明細書を通じて「一実施形態、実施形態」は、当該実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれるということを意味する。したがって、本明細書を通じてさまざまな場所で現れるフレーズ「一実施形態で、実施形態で」は、必ずしもすべてが同じ実施形態を参照するわけではないが、参照してもよい。さらに、本開示から当業者に明らかなように、1つ以上の実施形態に記載された特定の特徴、構造または特性は、任意の適切な方法で組み合わされてよい。
【0041】
同様に、本発明の例示的な実施形態の説明で、本発明のさまざまな特徴は、開示を簡素化し、さまざまな発明の態様の理解を容易にする目的で、1つの実施形態、図面、またはその説明にまとめられていることがあると認識すべきである。ただし、本開示の方法は、特許請求の範囲に記載の発明が、各請求項に明示的に記載された特徴よりも多くの特徴を必要とするという意図を反映していると解釈すべきではない。むしろ、以下の特許請求の範囲が反映しているように、発明の態様は、開示された1つの実施形態のすべての特徴よりも少なくなる。したがって、詳細な説明に続く特許請求の範囲は、この詳細な説明中に明確に包含され、各請求項は、この発明の別々の実施形態としてそれ自身で成立する。
【0042】
さらに、当業者に理解されるように、本明細書で説明する幾つかの実施形態は、他の実施形態の特徴の幾つかは含むが別の幾つかは含まず、異なる実施形態の特徴の組み合わせは、本発明の範囲に含まれ、さまざまな実施形態を構成する。例えば、以下の特許請求の範囲において、特許請求の範囲で請求された実施形態のいずれも、任意の組み合わせで用いることができる。
【0043】
本明細書でなされている説明では、多くの具体的な詳細が記述されている。しかし、本発明の実施形態は、これらの具体的な詳細を含まなくても実施できると理解すべきである。他の例では、周知の方法、構造および技術は、説明の理解を不明瞭にしないために、詳細には示されていない。
【0044】
本発明の実施形態では、「エテンデュ(etendue)」は、光学システムにおける光の幾何学的範囲を指す。エテンデュは、光が広がる範囲を特徴付ける。
【0045】
本発明の実施形態では、「N」は、チップの上に設けられた導波路の総数を指す。Nは、1,000以上10,000,000以下であり、例えば100,000以上5,000,000以下である。導波路の総数は、測定する必要がある光信号のエテンデュに応じて変わる。導波路群の総エテンデュは、理想的には、チップに入射する光信号のエテンデュより大きい。実施する上で考慮すべき点、例えばレクチルの最大値やチップのコストにより、実際の最適値が低下する。波長ごとのエテンデュは、λのオーダである。したがって、光信号のエテンデュが1mmである場合、λ=1μmの光信号のエテンデュに適合するためには、約1,000,000個の導波路が必要となる。
【0046】
本発明の実施形態では、「L」は、異なるスペクトル応答の総数を指す。本発明の実施形態では、Lは50以上500以下である。
【0047】
本発明の実施形態では、「M」は、繰り返しの数を指す。ここで、Lは、導波路の総数Nをスペクトル応答の総数で割った値に等しい。本発明の実施形態では、Mは200以上10000以下である。
【0048】
第1の態様では、本発明は、放射線ビーム(例えば、特徴を明らかにする対象の物体と相互作用した後に捕捉される放射線ビーム)の特徴を明らかにするための光学システムに関する。
【0049】
本発明の実施形態では、高い感度を得ることができ、有利には、入射放射線源のエテンデュが、光学システムにおいて受容され且つ実質的に維持される。
【0050】
本発明の実施形態は、分子を同定するために(例えば、人の皮膚の下にある組織液または間質液中のグルコースを定量化するために)用いてもよい。本発明の実施形態は、例えば、散乱の大きい物体における分子の存在/濃度を定量化するために用いてもよい。皮膚をターゲットにする用途では、グルコースの定量化を行ってもよいが、他の生体分子の定量化を行ってもよい。本発明の実施形態では、光学システムは光放射線ガイドシステムを備えている。光放射線ガイドシステムは、放射線ビームを平行化して平行放射線ビームを形成するためのコリメータを有する。平行放射線ビームは、放射線の拡がりの小さい放射線ビームであってもよい(例えば放射線の発散角が20°であるような放射線ビームであってもよい)。本発明の実施形態では、光学システムは、コリメータから到来する光のパワーを孤立した(離散した)複数のライン状領域(line shaped field)にわたって分布させるためのビーム成形器をさらに備えている。ビーム成形器は、当該ビーム成形器に入射する平行放射線ビームのスペクトルが、孤立した複数のライン状領域のそれぞれに分配されるように構成されている。言い換えると、ビーム成形器は、平行放射線ビームを、孤立した複数の異なるライン状領域についてスペクトルが異なるビーム(サブビーム)に分割しないように構成されており、複数のライン状領域にわたって平行放射線ビームのパワーを分割するように構成されている。励起放射線は、ビーム成形器に入射する前に、平行放射線ビームの状態から、部分的にまたは完全にフィルタリングされてもよいことに留意すべきである。
【0051】
本発明の実施形態では、光学システム100は、ビーム成形器から到来する、孤立した複数のライン状放射線を処理するように構成された分光計チップをさらに備えている。本発明の実施形態では、好都合には、エテンデュは保存される。
【0052】
例として、本発明の実施形態はこれに限定されないが、光学システムの標準の特徴と選択的な特徴について、より詳細に説明する。図面を参照して、例示的な光学システム100を図1aに示している。
【0053】
本発明のある実施形態では、コリメータは、光の平行化を行わず、光ビームの断面を拡げる。本発明の実施形態では、コリメータは、入射する放射線ビームに由来する放射線の方向を1つの方向に変え、発散角を20度、好ましくは10度とする。本発明の実施形態では、コリメータの出口面積は、3mm以上80mm以下、より好ましくは5mm以上20mm以下、例えば10mmである。本発明の実施形態では、コリメータの入口面積は、0.25mm以上10mm以下、より好ましくは0.5mm以上2mm以下、例えば1mmである。
【0054】
本発明のある実施形態では、コリメータは3D(三次元)放物線形状であってもよい。入口面積と出口面積との間の比は、例えば、次の値に等しくてもよい。
【0055】
【数1】

ここで、θは発散角(拡がり角)である。θ=20°であれば、出口面積に対する入口面積の比は10に等しい。これは、光ビームの断面の拡がりと、光ビームの平行化との関係を示す。
【0056】
本発明のある好ましい実施形態では、図1aに例示しているように、コリメータ110は、放射線ビームがコリメータ110の入口に入射したときに、実際のビーム経路が折り曲げられるように構成されている。本発明の実施形態では、放射線ビームは、30°以上150°以下の角度にわたって(例えば60°以上120°以下の角度にわたって)折り曲げられていてもよい。
【0057】
本発明の例示的な実施形態では、励起領域のエテンデュは1mmであり、入射放射線は、10フォトン/秒の拡散光源に対応する。動作するときには、放射線は、まずコリメータ110により平行化され、次に楔120により、孤立した複数のライン状領域にわたって分散され、その後、分光計チップ130により検出される。この動作は、図1aに示す本発明の例示的な実施形態について説明している。図1aの例示的な実施形態では、コリメータ110の入口面積は1mmである。入口150での放射線は、平行化されていない光を生成する拡散源(照明された、例えば皮膚の組織または間質液)に対応していてもよい。放射線の発散角は、0°以上90°以下である。これにより、散漫散乱(diffuse scattering)の源(例えば、肌)から到来する放射線が、最大90度の半円錐(ハーフコーン)に成形される。図示している例で、入射放射線は、10フォトン/秒以上10フォトン/秒以下の光子束を有する。放射線(例えば、肌を出射するラマン光)は、コリメータ110を通過し、放射線領域は広がって、平行化される。図1aに示す例示的なシステムのコリメータの出口面積は30mmであり、出射する放射線の発散角は10.5°である。コリメータから出射する放射線のエテンデュは、1.2mmである。コリメータ110の出口での光子束は、例えば0.8×10フォトン/秒に等しい。入射光は、コリメータの側壁の方向を向き、当該側壁で反射されて平行化される。この反射は、全反射に基づくものであってもよく、または、反射率の高い金属コーティング面によるものであってもよい。その形状は、通常、放射線の方向を変えて平行化するように最適化される。コリメート部は、複合双曲面型集光器、複合放物面型集光器またはこれらに似た形状となるように構成されてもよい。ただし、レンズをベースとする他のコリメータ素子を用いてもよい。本発明の有利な実施形態では、コリメータの高さが制限される。図1aの例では、コリメータの高さhは約5mmである。
【0058】
上述のとおり、本発明の実施形態では、コリメータ110と分光計チップ130との間にビーム成形器120が設けられている。ビーム成形器120は、コリメータ110から到来する放射線を孤立した複数のライン状に分布させる。コリメータから到来する放射線は、入口領域122の位置でビーム成形器に入射し、出口領域124の位置でビーム成形器から出射する。ビーム成形器とコリメータは、有利には、平行放射線がビーム成形器の入口領域に向けて直接に、またはフィルタリングされた後に誘導されるように構成されている。したがって、ビーム成形器の入口領域は、コリメータの出口領域に対して平行であってもよい。あるいは、ビーム成形器の入口領域は、コリメータの出口領域に対して非平行であってもよい。図1aに示すコリメータの入口領域と出口領域は、完全に平行ではない。本発明の実施形態では、ビーム成形器120は、有利には、楔形状(ウェッジ)を有していてもよい。それゆえ、楔(ウェッジ)120は、コリメータ110の出口領域の方向を向く楔入口領域122と、分光計チップ130の方向を向く楔出口領域124とを有する。図1aに示す例示的な実施形態では、楔120の断面を示している。図面は実際の寸法どおり描かれていない。
【0059】
本発明の少なくとも幾つかの実施形態では、放射線は、楔に入射した後、楔の上側領域123でまず反射し、楔の出口領域に向かう。放射線は、出口領域を所定の形状とすることにより、検出領域に集光できる。この原理を図1aに示している。
【0060】
本発明の少なくとも幾つかの実施形態では、楔入口領域122と楔の上側領域123との間の角度は90°である。これにより、楔入口に対して垂直に入射する放射線は、最初に上縁には入射せず、最初に楔出口領域124に入射する。図1bは、実際の寸法どおりに描かれていないので、本発明の例示的な実施形態で90°である角度αは、図面では90°に描かれていない。図1bの拡大図では、どのように放射線の反射が生じるかが示されている。
【0061】
本発明のある実施形態では、楔出口領域124には、波状パターンまたは階段状パターンが設けられている。図1aと図1bに示す、楔入口領域122と楔出口領域124に対して垂直な断面では、楔出口領域124について階段状パターンが示されている。階段状の出口領域124は、ある実施形態では楔入口領域122に対して垂直な方向を向く面である第1部分310を有する。隣接する第1部分310,310の間隔は、第1部分310の長さよりも短くてもよい。階段状の出口領域124は、第1部分310に相互に接続された第2部分320をさらに有する。第2部分320は、平面または曲面であってもよい。第2部分320は、円筒の表面であってもよい。図1bに概略的に示されている例示的な波状/階段状の出口領域は、距離20mmにわたって広がる複数の第2部分を有している。放射線は、楔出口領域124の第2部分320で全反射し、第1部分、そして分光計チップ130に向かう。これは、図1bの拡大図で見られる。本発明のある実施形態では、第1部分310,310は、同じ形状を有していてもよい。これにより、ライン状領域どうしの幅が等しくなる。本発明のある実施形態では、第2部分320,320は、同じ長さと形状を有していてもよい。ある実施形態では、照明されるラインの幅は、分光計チップ130に含まれる2つの入射結合部と同程度であり、2つの入射結合部は、互いに反対の2方向に結合する。
【0062】
図1aに概略的に示す例で、楔出口領域124の面積は、200×10mm×0.01mm=20mmとした。楔120を出射する光のエテンデュは、π×0.6mmとした。楔120を出射する光の発散角は10°であり、光子束は0.2×10フォトン/秒とした。この例示的な実施形態から、全体の収集効率が10%より高くなり、エテンデュが最大限保存されることは、本発明の実施形態の利点であると結論づけることができる。多数の入射導波路と特定の光ガイド構造との組合せにより、エテンデュが最大限保存される。入力に対する出力の比は、60%に達する。一方、全光子の計数値は20%である。知られているように、エテンデュは、システムの最小エテンデュに限定される。また、放射された光全体のエテンデュは増加するが、グレーティングカプラに到達する光のエテンデュは、光学系の制限に起因して低下することになる。
【0063】
本発明の実施形態では、光学システム100は、分光計チップ130をさらに備えている。分光計チップ130は、ビーム成形器120から到来する放射線を検出できる。本発明の実施形態では、分光計チップ130は、複数の検出器210を有する。各検出器は、入射結合グレーティング220と、出射結合グレーティング230と、スペクトル依存型透過システム240とを有する。入射結合グレーティング220は、スペクトル依存型透過システム240を通じて出射結合グレーティング230に結合され、複数の検出器210の入射結合グレーティング220は、孤立した複数のライン状に配置されている。入射結合グレーティング220は、典型的には、ビーム成形器により形成されるライン状の放射線領域に沿って配置されていてもよい。
【0064】
本発明の例示的な実施形態では、分光計チップは、放射線を受信する200本のラインを有する。分光計チップの活性化部分は、20mmに等しい。これは、0.1mmのライン間の距離diに対応する。分光計チップの各ラインは、約2000×2個の導波路を有する。この例示的な実施形態では、導波路と入射結合グレーティングの総数Nは、200×2×2000=800,000に等しい。空間的なヘテロダイン化(heterodynisation)に起因して、導波路の総数を大きくすることができるので、分光計のエテンデュを増大させることができることは、本発明の実施形態の利点である。ライン間の距離diを小さくすることにより、全高さを同じにしたときのラインの総数を減らすことができる。入射結合領域における分光計のエテンデュεは、以下の式で表される。
【0065】
【数2】

ここで、導波路のエテンデュは、λ=(850nm)=0.72=0.72μmである。
【0066】
上述の例示的な実施形態では、分光計のエテンデュは、1フォトニクス層当たり最大で0.58mmである。導波路をより高密度に配置すると、1フォトニクス層当たりのエテンデュをより大きくすることができる。複数のフォトニクス層により積層体を形成し、全体のエテンデュをより大きくすることができる。
【0067】
例示的な実施形態では、ラインの幅は10mmに等しい。一般に、幅は、主としてコリメータの出力幅に依存する。本発明の実施形態では、ラインdi間の距離は、得ようとする分解能に応じて変化させてもよい。ライン間の距離は、分光計のスペクトル分解能に適合する必要がある最大長さにより規定されてもよい。グルコーススペクトルの場合、約2nm以上約3nm以下の幅のピークを分解したいと考える者がいるかもしれない。一例では、ライン間の距離は、20μm以上2mm以下であってもよく、より好ましくは50μm以上1mm以下である。例示的な実施形態では、異なるスペクトル応答の数Lは200である。それゆえ、スペクトルの種類ごとの導波路の数Mは、800,000/200=4,000である。言い換えると、スペクトルが異なる分光計の出力ごとに、平均4,000個の導波路が用いられる。
【0068】
本発明の実施形態では、スペクトル依存型透過システム140は、ファブリペローシステムである。スペクトル依存型透過システム140として、スペクトル可変透過を行う他のコンパクトな構造が用いられてもよい。例えば、マッハ・ツェンダー干渉計、リング共振器などが用いられてもよい。本発明の実施形態では、分光計チップ130の出力に含まれる光子数が増加すると、信号レベルが増大する。分光計チップ130の光子出力は、エテンデュと平均光子透過率との積に比例する。導波路/入射結合グレーティング220ごとのエテンデュは制限される。ファブリペロー型のスペクトル依存型透過システム140を用いて高い光子出力を実現できることは、本発明の実施形態の利点である。
【0069】
図13図14および図15は、本発明の実施形態による光学システムにおける導波路の透過率(T(λ))を示す。ここでは、ファブリペロー型のスペクトル依存型透過システム140を想定している。導波路の長さは、図13の例では0.03mm、図14の例では0.1mm、図15の例では0.5mmである。これらの図では、透過率を波長の関数として示している。透過率は、出射結合グレーティング230の位置で測定している。図16は、入射するスペクトルを示す。スペクトル強度S(λ)は、波長の関数として示している。図17は、すべての導波路に同じスペクトルを挿入したときの、スペクトル応答の変換を、導波路ごとに示している。
【0070】
【数3】

ここで、jは導波路を特定する添え字(番号)、Sは入射スペクトル、Tは導波路jの透過率である。本発明の実施形態では、入射スペクトルは、測定結果に基づいて再構築されてもよい。スペクトルは、最小二乗法によるフィッティングを用いて再構築されてもよい。再構築されたスペクトルを図18に示している。図18は、入力スペクトル1910と、再構築されたスペクトル1920とを示している。スペクトルは、図17に示す測定結果に基づいて再構築されている。本発明の実施形態では、入力スペクトルの完全な再構築は要求されない(例えば、グルコース濃度の評価(推定、見積もり)のためには)。図19は、二重ピークを有する入力スペクトルを示す。ピークの1つは885nmであり、他方は875nmである。図20は、入力スペクトル2110と、再構築されたスペクトル2120とを示している。
【0071】
スペクトル依存型透過システムの長さを50μmに低下させることにより、高さ20mmの分光計チップ130は、40本のラインでなく、200本のラインを有することができる。導波路の数を5倍に増加させることにより、チップのエテンデュも5倍の0.58mmに増加する。分光計チップ130の高さを低下させることにより、適合性を向上させることができることは、本発明の実施形態の利点である。スペクトル応答特性ごとに4000個の導波路を有する例示的な実施形態では、SNR>1を得るために応答が追加されるので、全4000個の導波路を適合させる必要がある。
【0072】
ある実施形態では、コリメータ110とビーム成形器120との間に第1阻止フィルタ140が設けられていてもよい。第1阻止フィルタは、例えば、関心領域を1つの波長で光学的に励起するために用いられる励起ビームを阻止し、他の波長では放射線の応答が期待されるように設けられている。本発明の特定の実施形態では、阻止フィルタの光学密度は、675nm以上830nm以下の波長について6より大きくてもよい。図1に示す例示的な実施形態では、コリメータ110から到来する光が阻止フィルタ140に入射する。阻止フィルタ140から到来する光は、楔120の楔入口領域122に入射し、楔の楔出口領域124から出射する。楔入口領域122の面積は、30mmである。光のエテンデュは1.2mmである。コリメータに入射する光の発散角は10.5°であり、光子束は0.4×10フォトン/秒である。
【0073】
本発明の実施形態では、ビーム成形器120と分光計チップ130との間に第2阻止フィルタが設けられていてもよい。本発明の実施形態では、第2阻止フィルタは、SiO/a−SiC:Hの積層体を用いたオンチップロングパス阻止フィルタであってもよい。第2阻止フィルタの光学密度は、3より大きくてもよい。532nmの光を阻止するように最適化した例示的な実施形態を図2に示している。
【0074】
フィルタの数は、1または2に限定されない。ある実施形態では、ブラッググレーティングを有するシングルモードの導波路を用いて、第3阻止フィルタが本質的に備えられていてもよい。第3阻止フィルタの光学密度は1より大きくてもよい。また、フォトニックチップとイメージャ/検出器との間に、第4阻止フィルタが設けられている。第4阻止フィルタの光学密度は、4より大きくてもよい。
【0075】
本発明の実施形態では、得られる全体の光学密度は、9より大きくてもよい。
【0076】
本発明の実施形態による光学システム100は、さまざまな種類の製品に用いることができる。以下では、光学システム100をグルコースセンサとして用いる方法について説明する。光学システム100をグルコースセンサとして用いる場合、以下の信号対雑音比について検討する必要がある。
‐SNRpeak, glucose:脱イオン水中のグルコースについて、強いグルコースラマンピークの位置で測定されたラマンスペクトル信号の信号対雑音比。例えば、1126cm−1のピークが、最も強い信号を与えるグルコースピークである。この例では、強い蛍光またはラマンバックグラウンドは存在しない。
‐SNRpeak, skin:強いグルコースラマンピークの位置で測定される皮膚中のグルコースについてのラマンスペクトル信号の信号対雑音比。この例では、強いバックグラウンド蛍光と他のラマン信号が大きいショットノイズにつながる。
−SNRsystem:スペクトル分析後のグルコース濃度測定の信号対雑音比。この値は、複数のピークに由来する情報が結びついているので、SNRpeak,skinよりも大きくなる。
【0077】
グルコースのみを仮定した水中の信号対雑音比は、以下の式で推定できる。
【0078】
【数4】

ここで、Pglucose はグルコーススペクトル、ηic は入射結合効率(光学システム全体の入射結合効率)、ηdet は検出器の効率、tは積分時間(または積算時間)である。グルコーススペクトルと検出器の効率との積の例を図4に示している。
【0079】
脱イオン水中のノイズ信号と比べてバックグラウンド信号が1000倍大きいとしたときの、皮膚中のグルコースについてのラマン分光信号の信号対雑音比は、以下の式で推定できる。
【0080】
【数5】

ここで、Pbackground = 1000 max (Pglucose)である。
【0081】
図5は、積分時間10秒の後の測定スペクトル610と、ノイズのないスペクトル620とを示している。図6は、積分時間120秒の後の測定スペクトル710と、ノイズのないスペクトル720とを示している。グルコーススペクトルPglucose×ηdetを考えると、積分時間10秒の後に、SNRpeak, skin(=1.7)が得られ、積分時間120秒の後に、SNRpeak, skin(=6)が得られる。
【0082】
本発明の実施形態では、測定したスペクトルのそれぞれを用いてグルコーススペクトルに最小二乗法のフィッティングを行うことにより、グルコース信号が推定される。バックグラウンドが既知で安定していると仮定すると、信号対雑音比を増加させることができる。積分時間10秒の後、得られたSNRsystemは、SNRpeak, skin(=1.7)でなく、4.0である。これは、図7に示している。グルコースを含まないサンプル(810)とグルコース濃度が40mg/dlであるサンプル(820)についての測定について、推定されるグルコース濃度を示している。また、ヒストグラム830,840を示している。積分時間120秒の後、SNRpeak, skin(=6)でなく、SNRsystem(=13)が得られる。これを図8に示している。グルコースを含まないサンプル(910)と40mg/dlのグルコース(920)を含むサンプルに対する測定値の組について、推定されるグルコース濃度を示している。また、ヒストグラム930,940を示している。グルコースを含まないものについて500回のフィッティングを行った(ノイズはグルコースの寄与とみなされる)、グルコース濃度が40mg/dlであるものについて500回のフィッティングを行った。40mg/dlは、グルコースの生理学的最小濃度である。SNRsystemは、強いピーク(=6)平方根(約2.5)に対応することが期待される。これは、以下の式を適用したときの図7図8に示す結果に対応する。
【0083】
【数6】

ここで、Sとσを図7に示している。
【0084】
図9図10は、SNRsystemについて、それぞれ積分時間10秒後と積分時間120秒後のクラークエラーグリッドを示す。両者の入射結合効率ηicは2%であり、検出器効率ηdetは30%である。グルコース信号よりも1000倍大きいバックグラウンド信号が想定されている。FDAのガイダンスによれば、測定値の95%がゾーンAに属し、5%未満がゾーンBに属し、0%がゾーンC、DまたはEに属する。図9に対応するSNRsystemは3.8であり、図10に対応するSNRsystemは13である。グラフから、生理学的濃度の最低値(40mg/dl)でのSNRsystem >4であれば、グルコース濃度については十分であると結論づけることができる。このような信号対雑音比を得ることができることが、本発明の実施形態の利点である。
【0085】
第2の態様で、本発明は、検出器システム1200に関する。検出器システム1200は、上述の光学システム100を備えている。光学システム100は、光プリント基板1210(optical printed circuit board)の一部であり、または光プリント基板1210の上に実装されており、分光計の光学部品を含んでいる。検出器システム1200は、第1の態様で説明した分光計の光学部品から送信される光信号を読み出すための読み出しプリント基板1220をさらに備えている。読み出しプリント基板1220は、光プリント基板1210に接続されている。読み出しプリント基板1220は、光学システム100から到来する光信号をデジタル化し、かつ/またはデジタル化された結果を処理する。プリント基板1220の例示的な実施形態を図11に示している。
【0086】
本発明の実施形態では、検出器システム1200は、リストバンド1310を備えている。光学システム100と読み出しプリント基板1220は、リストバンド1310に一体化されている。図12に示す例示的な実施形態では、寸法d,t,wが示されている。これらの寸法は、d=6.5cm、t=7.4cm、w=14mmであってもよい。光学システムが薄いので、リストバンドの高さが制限され、これによりリストバンドを着用しやすくなる。
【0087】
第3の態様では、本発明は、第1の態様で説明した、コリメータとビーム成形器とを備えた光放射線ガイドシステムに関し、分光計の光学部品は含んでいない。したがって、光放射線ガイドシステムは、分離した部品であってもよい。光放射線ガイドシステムの特徴と利点は、第1の態様で説明したとおりである。
【0088】
以下の態様において、本発明の実施形態でのラマン分光計は、本発明のこれまでの態様による光学システムに対応する。
【0089】
本開示の第4の態様では、組織に対して分光を行うための集積回路が提供される。デバイスは、第1光学ユニットを備えている。第1光学ユニットは、ラマン分光計と、OCT分光計と、OCT分光計に光学的に接続された干渉計と、照明された組織から到来する散乱光と反射光をラマン分光計とOCT分光計に結合するように配置された光カプラとを有する。デバイスは、ラマン分光計とOCT分光計に光学的に接続された画像領域をさらに備えている。本開示の実施形態によれば、集積回路は、少なくとも第2光学ユニットをさらに備えている。この実施形態で、画像領域は、各光学ユニットのラマン分光計とOCT分光計に光学的に接続されている。本開示の実施形態では、第1光学ユニットは、光カプラに光学的に接続されたIR分光計(赤外線分光計)と、IR分光計に光学的に接続された画像領域とをさらに有する。
【0090】
本開示の第5の態様では、組織に対して分光を実施するための集積回路が提供される。デバイスは、第1光学ユニットを備える。第1光学ユニットは、ラマン分光計と、IR分光計と、照明された組織から到来する散乱光および反射光をラマン分光計およびIR分光計に結合するように配置された光カプラと、ラマン分光計に光学的に結合された撮影領域と、IR分光計に光学的に結合された赤外線撮影領域とを有している。本開示の実施形態では、集積回路は、少なくとも第2光学ユニットをさらに備えている。撮影領域は、各光学ユニットのラマン分光計に光学的に接続されている。赤外線撮影領域は。各光学ユニットのIR分光計に光学的に接続されている。本開示の実施形態では、第1光学ユニットは、光カプラに光学的に接続されたOCT分光計と、OCT分光計に光学的に接続された干渉計とをさらに有する。撮影領域は、OCT分光計に光学的に接続されている。本開示の実施形態では、集積回路は、少なくとも1つの第2光学ユニットをさらに有する。撮影領域は、各光学ユニットのラマン分光計とOCT分光計に光学的に接続されている。赤外線撮影領域は、各光学ユニットのIR分光計に光学的に接続されている。本開示の実施形態では、集積回路は、さらに、光源の光ビームを集積回路に分散し、組織の複数の位置を同時に照明できるようにするための光導波路型分散器を少なくとも1つ有する。本開示の実施形態では、集積回路は、さらに、当該集積回路を通じて組織の照明を可能にする貫通孔を少なくとも1つ有する。本開示の実施形態では、集積回路は、さらに、動作時に、散乱光のみがラマン分光計に到達するように配置された阻止フィルタを少なくとも1つ有する。本開示の実施形態では、集積回路は、三次元集積回路を構成する複数の能動電子素子層を有する。各能動電子素子層は、第1光学ユニット、または、少なくとも1つの第2光学ユニットを有する。集積回路は、それぞれ光学ユニットを有する複数の層を含む、3D(積層)集積回路であってもよい。本開示の実施形態では、各能動電子素子層の、第1光学ユニット、または、少なくとも1つの第2光学ユニットの光カプラは、異なる波長の光をラマン分光計に結合するように構成されている。3D集積回路の層にある光学ユニットの光カプラは、分光計に特定波長の光を結合するように構成されていてもよい。さまざまな光カプラの波長域は、複数波長の光が特定の波長範囲内に入るように隣接していてもよい。本開示の実施形態では、撮像領域の1つ以上のフォトダイオードは、ラマン散乱光をスペクトル分解するための分光フィルタを有する。撮影領域内の少なくとも1つのフォトダイオードは、集積回路の能動電子素子層内にあってもよく、分光フィルタを有していてもよい。撮影領域の複数のフォトダイオードは、さまざまな分光フィルタを有していてもよい。
【0091】
本開示の第6の態様では、組織内の被分析物の濃度を非侵襲的に測定するためのウェアラブルシステムが提供される。本開示の実施形態では、このウェアラブルシステムは、集積回路と、集積回路に光学的に接続され、ラマン分光を実施するためのレーザビームを放出するように構成された第1光源と、集積回路に光学的に接続され、OCT分光とIR分光を実施するための広帯域光ビームを放出するように構成された第2光源とを備えている。ウェアラブルシステムは、集積回路に光学的に接続され、ラマン分光計およびIR分光計、またはラマン分光計およびOCT分光計から分光データを読み出して相関させるように構成され、かつ、相関付けられた分光データを用いて被分析物の濃度を決定するように構成された読み出し電子機器をさらに備えている。本開示の実施形態では、ウェアラブルシステムは、集積回路に光学的に接続され、IR分光またはOCT分光を実施するための広帯域光を放出するように構成された第3光源をさらに備えている。ここで、読み出し電子機器は、さらに、ラマン分光計、OCT分光計およびIR分光計から分光データを読み出して相関させ、相関付けられた分光データを用いて被分析物の濃度を決定するように構成されている。
【0092】
本開示の実施形態では、第2光源は、低コヒーレンス光源または超広帯域光源であり、第3光源は、低コヒーレンス光源または超広帯域光源である。
【0093】
本開示の実施形態では、ウェアラブルシステムは、さらに、光源から到来する光を集積回路に結合するように構成された光反射器を少なくとも1つ備えている。
【0094】
本開示の実施形態では、組織は皮膚組織であり、システムは、ウェアラブルケーシング内に完全に収容され、ウェアラブルケーシングは、人が身に着けたときに集積回路を人の皮膚組織に対して押し付け、照明された皮膚組織から到来する散乱光または反射光を集積回路により受信できるように構成されている。本開示の実施形態では、ウェアラブルケーシングはリストバンドであり、リストバンドの大きさは、人が身に着けたときに集積回路が人の皮膚に対して押し付けられるように調節可能である。本開示の実施形態では、ウェアラブルケーシングはストラップを有する腕時計であり、腕時計のストラップの大きさは、人が身に着けたときに集積回路が人の皮膚に対して押し付けられるように調節可能である。
【0095】
本開示の第7の態様では、ウェアラブルシステムを用いて組織中の被分析物の濃度を非侵襲的に測定するための方法が提供される。この方法は、組織の複数の位置でラマン散乱光のスペクトルを同時に取得するステップと、組織の光学モデルを取得するステップと、取得したラマン散乱光のスペクトルと取得した光学モデルとを相関させるステップと、相関データを用いて被分析物の濃度を決定するステップとを含む。
【0096】
本開示の実施形態では、組織の光学モデルを取得するステップは、組織の複数の層の厚さと光学特性を決定するステップを含む。本開示の実施形態では、組織は皮膚組織であり、組織の光学モデルを取得するステップは、センサの下側に位置する皮膚組織の皮膚モデルを取得するステップを含む。ここで、皮膚モデルは、皮膚組織の複数の層の厚さと光学特性に関する情報を含んでいる。本開示の実施形態では、皮膚モデルは、皮膚組織中の間質液と血液の屈折率に関する情報をさらに含む。本開示の実施形態では、被分析物はグルコースである。本開示の実施形態では、組織の光学モデルを取得するステップは、IR分光および/またはOCT分光を用いて実施される。本開示の実施形態では、組織の複数の位置でラマン散乱光のスペクトルを同時に取得するステップと、組織の光学モデルを取得するステップは、同時に実施される。
【0097】
本開示の第8の態様では、システムは、生体組織中のグルコース濃度を測定するために用いられてもよい。
図1a
図1b
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