【実施例】
【0030】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中の比率は断りのない限り重量基準で示す。実施例中の特性の評価方法は以下の通りである。
【0031】
(1)吸湿率
試料約2.5gを熱風乾燥機で105℃、16時間乾燥して重量を測定する(W1[g])。次に該試料を20℃×65%RHに調整した恒温恒湿器に5分間入れておく。このようにして吸湿させた試料の重量を測定する(W2[g])。これらの測定結果から、吸湿率を次式によって算出した。
吸湿率[%]={(W2−W1)/W1}×100
【0032】
(2)比容積
試料50gを軽く開繊してから、カード機で開繊し、積層する。試験片を10cm×10cmの大きさになるように6個切り出し、バットに入れて恒温恒湿機内に24hr以上放置する。恒温恒湿機から取出し、質量が10.0g〜10.5gになるように積み重ね、作られた試験片を正確に秤量する。試験片に10cm×10cmのアクリル板を載せ、おもり500gを30秒間載せ、次にこのおもりを除き、30秒間放置する。この操作を3回繰り返し、おもり500gを除いて30秒間放置した後、四すみの高さを測定して平均値を求め、次式により比容積を算出する。
比容積(cm
3/g)=10×10×試料の四すみの高さの測定平均値(mm)/10/試験片の質量(g)
【0033】
(3)寝床内温度および寝床内湿度
発汗シミュレーション測定装置を用い、水供給量(発汗量):100g/m
2・h、熱板温度:37℃、試料−熱板距離:0.5cm、環境温湿度:15℃×50%RHの条件で試験開始より10分後に発汗を開始し、それから5分後の熱板と試料の間の空間の温度と湿度の変化を測定した。
なお、発汗シミュレーション装置は、発汗孔を有する基体および産熱体からなる産熱発汗機構、発汗孔に水を供給するための送水機構、産熱体の温度を制御する産熱制御機構、温湿度センサーから構成されている。基体は黄銅製で面積120cm
2であり、発汗孔が6個設けられており、面状ヒーターからなる産熱体により一定温度に制御される。送水機構はチューブポンプを用いており、一定水量を基体の発汗孔に送り出す。基体表面には、厚み0.1mmのポリエステルマルチフィラメント織物からなる模擬皮膚が貼り付けられており、これにより発汗孔から吐出された水が基体表面に広げられ、発汗状態が作り出される。基体の周囲には高さ0.5cmの外枠が設けられており、試料を基体から0.5cm離れた位置にセットできる。温湿度センサーは基体と試料(中綿を入れた布団)との間の空間に設置され、基体が発汗状態の時の「基体と試料と外枠で囲まれた空間」の温度と湿度を測定する。なお、中綿を入れた布団は、側地としてポリエステル100%の織物を使用し、キルティングを施して作成した。
【0034】
(4)表層部の占める面積割合
試料繊維を、繊維重量に対して2.5%のカチオン染料(Nichilon Black G 200)および2%の酢酸を含有する染色浴に、浴比1:80となるように浸漬し、30分間煮沸処理した後に、水洗、脱水、乾燥する。得られた染色済みの繊維を、繊維軸に垂直に薄くスライスし、繊維断面を光学顕微鏡で観察する。このとき、アクリロニトリル系重合体からなる中心部は黒く染色され、カルボキシル基が多く有する表層部は染料が十分に固定されず緑色になる。繊維断面における、繊維の直径(D1)、および、緑色から黒色へ変色し始める部分を境界として黒く染色されている中心部の直径(D2)を測定し、以下の式により表層部面積割合を算出する。なお、10サンプルの表層部面積割合の平均値をもって、試料繊維の表層部面積割合とする。
表層部面積割合(%)=[{((D1)/2)
2π−((D2)/2)
2π}/((D1)/2)
2π]×100
【0035】
[実施例1]
アクリロニトリル90重量%、アクリル酸メチルエステル10重量%のアクリロニトリル系重合体Ap(30℃ジメチルホルムアミド中での極限粘度[η]=1.5)、アクリロニトリル88重量%、酢酸ビニル12重量%のアクリロニトリル系重合体Bp([η]=1.5)をそれぞれ48重量%のロダンソーダ水溶液で溶解して、紡糸原液を調製した。特公昭39−24301号による複合紡糸装置にAp/Bpの複合比率(重量比)が50/50となるようにそれぞれの紡糸原液を導き、常法に従って紡糸、水洗、延伸、捲縮、熱処理をして、単繊維繊度3.3dtexの重合体ApとBpを複合させたサイド・バイ・サイド型原料繊維を得た。
【0036】
該原料繊維に、水加ヒドラジン0.5重量%および水酸化ナトリウム1.4重量%を含有する水溶液中で、100℃×2時間、架橋導入処理および加水分解処理を同時に行い、8重量%硝酸水溶液で、120℃×3時間処理し、水洗した。得られた繊維を水に浸漬し、水酸化ナトリウムを添加してpH9に調整し、水洗、乾燥することにより、Na塩型カルボキシル基を有するNa塩型架橋ポリアクリレート系繊維(表層部面積13%)を得た。得られた架橋ポリアクリレート系繊維の詳細を表1に示す。
【0037】
上記のようにして得られたNa塩型架橋ポリアクリレート系繊維(単繊維繊度5.0dtex、繊維長48mm)とポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維、単繊維繊度7.8dtex、繊維長64mm、単繊維弾性率32cN/dtex、東レ株式会社の製品番201−7.8Tx64)を予備解繊機で30/70の重量比率となるよう解繊・混合してからカード機にて中綿を作成した。この中綿の構成および評価結果を表1に示す。
【0038】
[実施例2]
実施例1においてNa塩型架橋ポリアクリレート系繊維とポリエステル繊維の重量比率を12/88に変更した以外は同じ方法で中綿を作成した。この中綿の構成および評価結果を表1に示す。
【0039】
[実施例3]
実施例1においてNa塩型架橋ポリアクリレート系繊維とポリエステル繊維の重量比率を20/80に変更した以外は同じ方法で中綿を作成した。この中綿の構成および評価結果を表1に示す。
【0040】
[実施例4]
実施例1においてNa塩型架橋ポリアクリレート系繊維とポリエステル繊維の重量比率を40/60に変更した以外は同じ方法で中綿を作成した。この中綿の構成および評価結果を表1に示す。
【0041】
[実施例5]
実施例1においてNa塩型架橋ポリアクリレート系繊維とポリエステル繊維の重量比率を50/50に変更した以外は同じ方法で中綿を作成した。この中綿の構成および評価結果を表1に示す。
【0042】
[実施例6]
実施例1においてpH9に調整するために添加される水酸化ナトリウムの代わりに水酸化カリウムを使用した以外は同じ方法でK塩型架橋ポリアクリレート系繊維(表層部面積13%)を得た。Na塩型架橋ポリアクリレート系繊維の代わりにこのK塩型架橋ポリアクリレート系繊維(単繊維繊度5.0dtex、繊維長48mm)を使用して実施例1と同様にして中綿を作成した。この中綿の構成および評価結果を表1に示す。
【0043】
[実施例7]
実施例1において架橋導入・加水分解処理に用いる水酸化ナトリウムの濃度を1.4重量%から1.6重量%に変更した以外は同じ方法でNa塩型架橋ポリアクリレート系繊維(表層部面積18%)を得た後、中綿を作成した。この中綿の構成および評価結果を表1に示す。
【0044】
[実施例8]
実施例1において架橋導入・加水分解処理に用いる水酸化ナトリウムの濃度を1.4重量%から1.2重量%に変更した以外は同じ方法でNa塩型架橋ポリアクリレート系繊維(表層部面積8%)を得た後、中綿を作成した。この中綿の構成および評価結果を表1に示す。
【0045】
[実施例9]
実施例1においてアクリロニトリル系重合体Apの組成をアクリロニトリル92重量%、アクリル酸メチルエステル8重量%に変更した以外は同じ方法で中綿を作成した。この中綿の構成および評価結果を表1に示す。
【0046】
[実施例10]
実施例1においてAp/Bpの複合比率(重量比)を50/50から40/60に変更した以外は同じ方法で中綿を作成した。この中綿の構成および評価結果を表1に示す。
【0047】
[実施例11]
実施例4においてNa塩型架橋ポリアクリレート系繊維とポリエステル繊維を40/60の重量比率で使用する代わりに実施例4と同じNa塩型架橋ポリアクリレート系繊維と実施例4と同じポリエステル繊維とアクリル繊維(単繊維繊度4.8dtex、繊維長50mm、単繊維弾性率10cN/dtex)を30/60/10の重量比率で使用した以外は同じ方法で中綿を作成した。この中綿の構成及び評価結果を表1に示す。
【0048】
[実施例12]
実施例1においてNa塩型架橋ポリアクリレート系繊維とポリエステル繊維を30/70の重量比率で使用する代わりに実施例1と同じNa塩型架橋ポリアクリレート系繊維と実施例6と同じK塩型架橋ポリアクリレート繊維と実施例1と同じポリエステル繊維を15/15/70の重量比率で使用した以外は同じ方法で中綿を作成した。この中綿の構成及び評価結果を表1に示す。
【0049】
[比較例1]
実施例1においてNa塩型架橋ポリアクリレート系繊維とポリエステル繊維の重量比率を5/95に変更した以外は同じ方法で中綿を作成した。この中綿の構成及び評価結果を表1に示す。
【0050】
[比較例2]
実施例1において架橋導入・加水分解処理に用いる水酸化ナトリウムの濃度を1.4重量%から1.8重量%に変更した以外は同じ方法でNa塩型架橋ポリアクリレート系繊維(表層部面積25%)及び中綿を作成した。この中綿の構成および評価結果を表1に示す。
【0051】
[比較例3]
アクリロニトリル90重量%、アクリル酸メチルエステル10重量%のアクリロニトリル系重合体Ap(30℃ジメチルホルムアミド中での極限粘度[η]=1.5)、アクリロニトリル88重量%、酢酸ビニル12重量%のアクリロニトリル系重合体Bp([η]=1.5)をそれぞれ48重量%のロダンソーダ水溶液で溶解して、紡糸原液を調製した。特公昭39−24301号による複合紡糸装置にAp/Bpの複合比率が50/50となるようにそれぞれの紡糸原液を導き、常法に従って紡糸、水洗、延伸、捲縮、熱処理をして、単繊維繊度3.3dtexの重合体ApとBpを複合させたサイド・バイ・サイド型原料繊維を得た。
【0052】
該原料繊維に、水加ヒドラジン0.5重量%および水酸化ナトリウム1.4重量%を含有する水溶液中で、100℃×2時間、架橋導入処理および加水分解処理を同時に行い、8重量%硝酸水溶液で、120℃×3時間処理し、水洗した。得られた繊維を水に浸漬し、水酸化ナトリウムを添加してpH9に調整した後、繊維に含まれるカルボキシル基量の2倍に相当する硝酸マグネシウムを溶解させた水溶液に50℃×1時間浸漬することによりイオン交換処理を実施し、水洗、乾燥することによりMg塩型カルボキシル基を有するMg塩型架橋ポリアクリレート系繊維(表層部面積13%)を得た。Na塩型架橋ポリアクリレート系繊維の代わりにこのMg塩型架橋ポリアクリレート系繊維(単繊維繊度5.0dtex、繊維長48mm)を使用して実施例1と同様にして中綿を作成した。この中綿の構成および評価結果を表1に示す。
【0053】
[比較例4]
実施例1において得られたサイド・バイ・サイド型原料繊維に、水加ヒドラジン0.5重量%および水酸化ナトリウム2.0重量%を含有する水溶液中で、100℃×1時間、架橋導入処理及び加水分解処理を同時に行い、さらに100℃×1時間、8重量%硝酸水溶液で処理し、水洗した。得られた繊維を水に浸漬し、水酸化ナトリウムを添加してpH9に調整した後、繊維に含まれるカルボキシル基量の2倍に相当する硝酸マグネシウムを溶解させた水溶液に50℃×1時間浸漬することによりイオン交換処理を実施し、水洗、乾燥することにより、Mg塩型カルボキシル基を有するMg塩型架橋ポリアクリレート系繊維(表層部面積35%)を得た。Na塩型架橋ポリアクリレート系繊維の代わりにこのMg塩型架橋ポリアクリレート系繊維(単繊維繊度5.0dtex、繊維長48mm)を使用して実施例1と同様にして中綿を作成した。この中綿の構成および評価結果を表1に示す。
【0054】
[比較例5]
実施例1と同じポリエステル繊維を100重量%使用した以外は実施例1と同じ方法で中綿を作成した。この中綿の構成及び評価結果を表1に示す。
【0055】
[比較例6]
実施例11と同じアクリル繊維を100重量%使用した以外は実施例1と同じ方法で中綿を作成した。この中綿の構成及び評価結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1からわかるように、実施例1〜12の中綿は、初期の高い吸湿性と高い嵩高性(比容積)を両立しているので、早期に高い寝床内温度と低い寝床内湿度を実感することができ、極めて快適に使用可能である。これに対して、Na塩型架橋ポリアクリレート系繊維が少ない比較例1は吸湿性に劣り、Na塩型架橋ポリアクリレート系繊維の表層部面積が多い比較例2は嵩高性に劣り、Mg塩型架橋ポリアクリレート系繊維を使用する比較例3,4は吸湿性に劣る問題があった。また、ポリエステル繊維のみを使用する比較例5は吸湿性に劣り、アクリル繊維のみを使用する比較例6は吸湿性及び嵩高性に問題があった。吸湿性及び嵩高性のいずれかに問題がある比較例は、いずれも寝床内温度、湿度において良好な環境を作ることができず、人間にとって快適とは言えないものであった。