特許第6247835号(P6247835)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6247835-走行式液体散布機の散布量制御装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6247835
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】走行式液体散布機の散布量制御装置
(51)【国際特許分類】
   A01M 7/00 20060101AFI20171204BHJP
   B05B 17/00 20060101ALI20171204BHJP
   B05B 12/08 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   A01M7/00 D
   B05B17/00 101
   B05B12/08
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-96537(P2013-96537)
(22)【出願日】2013年5月1日
(65)【公開番号】特開2014-217283(P2014-217283A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2016年4月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】509264132
【氏名又は名称】株式会社やまびこ
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】特許業務法人 英知国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100118898
【弁理士】
【氏名又は名称】小橋 立昌
(72)【発明者】
【氏名】湯木 正一
【審査官】 坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開平6−68274(JP,A)
【文献】 特開2008−178819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/00 − 99/00
G06F 17/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体によって走行しながら液体を散布する走行式液体散布機の散布制御装置であって、
散布状態を検出する散布状態検出手段と、
散布状態を調整する調整部と、
走行機体から出力された車速信号が入力されると共に、前記散布状態検出手段からの検出信号が入力され、前記車速信号と前記検出信号を演算処理することによって求められる実散布条件を、設定された目標散布条件と比較して、前記調整部に制御信号を出力する制御部を備え、
前記制御部は、前記車速信号の複数の種類毎にそれぞれ対応した車速換算係数を備え、入力された前記車速信号に対応した前記車速換算係数を選択して、前記車速信号から実車速値を求め、該実車速値を用いて前記実散布条件を求めることを特徴とする走行式液体散布機の散布制御装置。
【請求項2】
前記散布状態検出手段は、散布流量センサ,散布圧力センサ,散布幅センサのいずれか又は全てを備えることを特徴とする請求項1記載の走行式液体散布機の散布制御装置。
【請求項3】
前記実散布条件及び前記目標散布条件は、単位面積当たりの散布量を含むことを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載された走行式液体散布機の散布制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタ等の走行機体によって走行しながら液体を散布する走行式液体散布機の散布量制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
走行式液体散布機は、圃場面を走行しながら薬剤などの液体を散布するものであり、トラクタ直装式のブームスプレーヤなどが知られている。このような走行式液体散布機は、移動速度(散布作業速度)が単位面積当たりの散布量に影響することから、走行機体の車速を検知して、検知した車速信号に基づいて散布量などを制御することが行われている。
【0003】
下記特許文献1に記載された従来技術では、流量センサと散布幅センサと移動速度(車速)センサを備え、これらセンサの検知結果に基づいて、散布幅と移動速度のいずれかが変化しても単位面積当たりの目標散布量通りの散布がなされるように、散布条件を制御する散布制御装置が示されている。
【0004】
また、下記特許文献2には、農作業機用制御装置が記載されている。この農作業機用制御装置の制御ユニットは、走行機体の種類に応じて異なる車速信号を入力し、この入力した車速信号を予め決められた1種類の共通車速信号に変換して出力する車速信号変換部と、この車速信号変換部と電気的に接続され、車速信号変換部からの共通車速信号を入力し、この入力した共通車速信号に応じて作業部の駆動手段を制御する制御部とを有するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−230337号公報
【特許文献2】特開2008−161098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された従来技術によると、散布制御装置の移動速度センサとして、走行機体の車軸の回転速度を検知するセンサなどが用いられており、走行機体に液体散布機を装着する際に移動速度センサの設置が煩雑になる問題がある。これに対して、近年、トラクタなどの走行機体は、自身の車速を車速信号として出力するものが普及しつつあり、これに装着される作業機側でこの車速信号を用いて車速連動作業部の制御を行うことが検討されている。
【0007】
しかしながら、トラクタなどの走行機体から出力される車速信号は、通常パルス信号が出力されているが、このパルス信号はISOで規格化されているものがあれば、トラクタメーカ毎に異なる形態で出力されるものもあり、単純にこの車速信号を利用して制御を行うことができない問題がある。
【0008】
これに対して、特許文献2に記載された従来技術は、種類の異なる車速信号を予め決められた1種類の共通車速信号に変換して出力するものであるため、一定のアナログ電圧値や一定のパルス値のような共通車速信号を改めて発信する発信手段を要すると共に、車速信号変換部と制御部とを電気的に接続して共通車速信号を伝送させる回線が必要になり、制御ユニット内の構成が複雑になる問題があった。また、制御ユニット内で共通車速信号を伝送するのでノイズの影響を受けやすく、共通車速信号がノイズによって乱れて制御部の誤動作を招き易い問題があった。
【0009】
また、このような従来技術のように入力された車速信号を共通車速信号に変換して制御部に伝送する方式では、トラクタが車速信号を発生してから制御部に入力されるまでに伝送遅れが生じることになり、制御部では伝送遅れを含んだ車速信号に基づく散布量制御を行うことになるので、適正な散布量制御を行うことができない問題があった。
【0010】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、異なる形態の車速信号を出力するトラクタ等の走行機体に対して、これらの車速信号を利用した散布制御を行うことができること、この際、新たな発信手段や回線を追加しない簡易な構成で、ノイズによる誤動作や車速信号の伝送遅れによる散布量の誤制御を招き難い制御ユニットを構築することができること、等が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的を達成するために、本発明による走行式液体散布機の散布制御装置は、以下の構成を少なくとも具備するものである
【0012】
走行機体によって走行しながら液体を散布する走行式液体散布機の散布制御装置であって、散布状態を検出する散布状態検出手段と、散布状態を調整する調整部と、行機体から出力された車速信号が入力されると共に、前記散布状態検出手段からの検出信号が入力され、前記車速信号と前記検出信号を演算処理することによって求められる実散布条件を、設定された目標散布条件と比較して、前記調整部に制御信号を出力する制御部を備え、前記制御部は、前記車速信号の複数の種類毎にそれぞれ対応した車速換算係数を備え、入力された前記車速信号に対応した前記車速換算係数を選択して、前記車速信号から実車速値を求め、該実車速値を用いて前記実散布条件を求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
このような特徴を有する走行式液体散布機の散布制御装置によると、異なる形態の車速信号を出力するトラクタ等の走行機体に対して、これらの車速信号を利用した散布制御を行うことができる。この際、新たな発信手段や回線を追加しない簡易な構成で、ノイズによる誤動作や車速信号の伝送遅れによる散布量の誤制御を招き難い制御ユニットを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態における走行式液体散布機の全体構成例を示した説明図である。
図2】本発明の実施形態に係る走行式液体散布機の散布制御装置を示した説明図である。
図3】本発明の実施形態における散布制御装置の制御部の構成及び機能を示した説明図である。
図4】本発明の実施形態における車速換算係数設定部による車速換算係数の設定フローである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。図1は本発明の一実施形態における走行式液体散布機の全体構成例を示した説明図である。走行式液体散布機1は、トラクタなどの走行機体Tによって走行しながら液体を散布するものである。ここでの走行式液体散布機1は、走行機体Tが車速信号を出力するものであればよく、図示のようなトラクタ装着式だけでなく、所謂自走式であってもよい。走行式液体散布機1は、散布する液体を貯留するタンク2と散布ノズル部3と後述する散布制御装置を備えている。
【0016】
図2は、本発明の実施形態に係る走行式液体散布機の散布制御装置を示した説明図である。散布制御装置4は、散布条件を制御しながらタンク2に貯留された液体を散布ノズル部3に供給するものである。タンク2と散布ノズル部3は、配管41(41A,41B)と分流器42を介して分岐される配管43(43A,43B)によって連結されている。散布ノズル部3は、配管43(43A,43B)に接続され、複数のノズル30が装着された散布管(散布ホース)31(31A,31B)とこの散布管31を支持するブーム32(32A,32B)を備えている。タンク2内の液体は、配管41に設けたポンプ40の駆動圧によって、配管41,分流器42,配管43を経由して散布ノズル部3に供給される。
【0017】
散布制御装置4は、散布状態検出手段10、調整部20、制御部5を備えている。散布状態検出手段10は、散布状態(散布流量Q、散布圧力P、散布幅Wなど)を検知する各種センサ(散布流量センサ11、散布圧力センサ12、散布幅センサ13など)のいずれか又は全てを備えている。調整部20は、散布流量などの散布状態を調整するものであり、電動調圧弁21及びこの電動調圧弁21を調整する調整モータ21Aなどによって構成することができる。
【0018】
制御部5は、走行機体Tから出力された車速信号(信号A,信号B,信号C,…)が入力されると共に、散布状態検出手段10からの検出信号が入力され、車速信号と検出信号を演算処理することによって求められる実散布条件を、設定された目標散布条件と比較して調整部20に制御信号を出力する。ここでの実散布条件及び目標散布条件は、単位面積当たりの散布量(l/m2)などを含むものである。制御部5には、表示操作入力部6が接続されている。表示操作入力部6は、制御部5において設定される設定値(目標散布条件や設定車速など)を入力すると共に、制御部5の演算処理結果を表示する機能を有する。
【0019】
図3は、本発明の実施形態における散布制御装置の制御部の構成及び機能を示した説明図である。制御部5には、トラクタなどの走行機体Tから出力される車速信号が入力される。車速信号は、一般にパルス信号であるが、走行機体Tの機種などによって異なる信号が出力される。異なる車速信号は、例えば、信号Aでは1m/sの車速に相当する単位時間当たりのパルス数がn1パルス数/s、信号Bでは1m/sの車速に相当する単位時間当たりのパルス数がn2パルス数/s、信号Cでは1m/sの車速に相当する単位時間当たりのパルス数がn3パルス数/sとなるように、機種毎に異なる信号が出力される。
【0020】
制御部5は、車速信号の単位時間当たりパルス数を計測するためのパルスカウンタ50とタイマ51、更には車速信号(信号A,信号B,信号C,…)に対応した車速換算計数(K1,K2,K3,…)を記憶するためのメモリ52を備えている。ここでの車速換算係数は、様々な車速信号から実車速値を算出するために用いられる係数であり、計測された車速信号の単位時間当たりパル数nにその車速信号に対応した車速換算係数Kを乗ずることで実車速値Vを求めることができる。すなわち、K=V/n[m/パルス]の関係がある。
【0021】
制御部5の機能としては、車速換算係数選択部5A、車速換算係数設定部5B、目標散布条件設定部5C、実車速値算出部5D、実散布条件算出部5E、比較部5Fなどを備えている。車速換算係数選択部5Aは、走行式液体散布機1が装着される走行機体Tから出力される車速信号を確認して、その車速信号が予め登録されている場合には、表示操作入力部6から入力される選択信号によって、メモリ52からその車速信号に対応した車速換算係数K(K1,K2,K3,…)を選択する。車速換算係数設定部5Bは、走行式液体散布機1が装着される走行機体Tから出力される車速信号が予め登録されていない場合に、後述するように、走行機体Tの事前走行によって新たに車速換算係数Kを設定する機能を有する。
【0022】
目標散布条件設定部5Cは、散布する際の目標とする散布条件(例えば、単位面積当たりの散布量Qcなど)を設定する機能を有し、表示操作入力部6から入力される設定信号によって目標散布条件が設定される。
【0023】
実車速値算出部5Dは、散布作業中に入力される車速信号から実車速値Vを算出する機能を有する。実車速値Vは、入力される車速信号の単位時間当たりのパルス数n(パルス/s)に選択又は設定された車速換算係数Kを乗ずる(V=K・n)ことによって求める。
【0024】
実散布条件算出部5Eは、実車速値算出部5Dが求めた実車速値Vと散布状態検出手段10(散布流量センサ11,散布圧力センサ12,散布幅センサ13)から入力される検出値(散布流量Q,散布圧力P,散布幅W)によって実散布条件(例えば、単位面積当たりの散布量Qs)を算出する。
【0025】
比較部5Fは、目標散布条件設定部5Cによって設定された目標散布条件(単位面積当たりの散布量Qc)と実散布条件算出部5Eが算出した実散布条件(単位面積当たりの散布量Qs)とを比較して、実散布条件が目標散布条件に一致するように制御信号を出力する。制御信号は調整部20に入力され、調整部20の調整動作が行われる。
【0026】
図4は、前述した車速換算係数設定部5Bによる車速換算係数の設定フローである。車速信号が予め登録されていない場合は、調整部20の制御に先立って、車速換算係数設定モードを開始し、表示操作入力部6から設定車速Vc(m/s)を入力する(S1)。これによって表示操作入力部6には、「設定車速○○m/sで定速走行して下さい」というメッセージが表示され、設定車速Vcでの定速走行指示がなされる(S2)。作業者はこのメッセージに従って、走行機体Tを一定の設定車速Vcで走行させ、走行機体Tから出力される車速信号を制御部5に入力する。
【0027】
制御部5では、入力された車速信号の単位時間当たりのパルス数n(パルス/s)がカウントされ(S3)、K=Vc/nの演算によって車速換算係数Kが算出され(S4)、算出された車速換算係数Kが実車速値を求めるための値として設定される(S5)。そして、調整部20の制御時には、設定された車速換算係数Kによる制御がなされる。このように設定された車速換算係数Kは、車速信号の種類に対応してメモリ52に登録され、次回の散布制御時には登録された車速換算係数Kを用いた制御を行うことができる。
【0028】
このように、本発明の実施形態に係る走行式液体散布機1の散布制御装置4は、機種の異なる走行機体Tから出力される各種の車速信号を入力して、走行機体Tの実車速値を求めることができるので、パルス信号として車速信号を出力するものであれば、どのような走行機体Tに装着しても適切な散布制御を行うことができる。この際、制御部5に入力された車速信号は演算処理によって実車速値が求められるので、従来技術のような共通車速信号への変換や伝送が不要になり、新たな発信手段や回線を追加しない簡易な構成で、ノイズによる誤動作や車速信号の伝送遅れによる散布量の誤制御を招き難い制御ユニットを構築することができる。
【0029】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0030】
1:走行式液体散布機,2:タンク,3:散布ノズル部,4:散布制御装置,
5:制御部,6:表示操作入力部,
10:散布状態検出手段,
11:散布流量センサ,12:散布圧力センサ,13:散布幅センサ,
20:調整部,21:電動調圧弁,21A:調整モータ,
50:パルスカウンタ,51:タイマ,52:メモリ,
5A:車速換算係数選択部,5B:車速換算係数設定部,
5C:目標散布条件設定部,5D:実車速値算出部,
5E:実散布条件算出部,5F:比較部
図1
図2
図3
図4