【実施例1】
【0029】
本発明の実施例1は、解析対象構造物の特定負荷点Aと支持点Bと変化負荷点Cと外力荷重点Dとを頂点とする4面体ABCDの稜の6本のバネで解析対象構造物の弾性特性を表わして、動的外力がかかった状態の解析対象構造物の変形を有限要素法で計算して、特定荷重のなす仕事とすべての点の変位量を求め、解析対象構造物の特定負荷点Aと支持点Bと変化負荷点Cとを頂点とする三角形ABCの3辺のバネで解析対象構造物の弾性特性を表わした場合の部分的な剛性行列を検査荷重法により求め、特定荷重のなす仕事と剛性行列と変位量とから剛性指標の値を計算し、解析対象構造物の必要なすべての点を順次たどるように変化負荷点を変更してすべての点の剛性指標の値を計算するように制御する構造物荷重伝達計算装置である。
【0030】
図1に、構造物荷重伝達計算装置の解析対象となる構造物モデルに動的外力が加わった状態を示す。
図2に、変化負荷点を拘束した状態を示す。
図3に、解析対象の構造物モデルの状態を分解して示す。
図4に、機能ブロック図と処理手順を示す。
図5に、計算例を示す。
図1〜
図5において、計算制御手段1は、解析対象構造物の必要なすべての点を順次たどるように変化負荷点Cを変更してすべての点のU
*の値を計算するように制御する手段である。構造物データ保持手段2は、解析対象構造物の形状や弾性特性などのデータを保持するメモリである。有限要素法計算手段3は、弾性体である解析対象構造物の変形を有限要素法により計算する手段である。変位等計算手段4は、4面体ABCDの稜の6本のバネで解析対象構造物の弾性特性を表わして、動的外力がかかった状態の解析対象構造物の変形を有限要素法計算手段で計算して、特定荷重のなす仕事Uとすべての点の変位量(d
Aとd
C)を求める手段である。
【0031】
検査荷重法計算手段5は、三角形ABCの3辺のバネで解析対象構造物の弾性特性を表わした場合の部分的な剛性行列K
ACを有限要素法計算手段の利用で検査荷重法により求める手段である。位置変更手段6は、解析対象構造物の必要なすべての点を順次たどるように変化負荷点Cを変更する手段である。剛性指標計算手段7は、仕事Uと剛性行列K
ACと変位量(d
Aとd
C)とから剛性指標U
*の値((1−2U/(K
ACd
C)・d
A)
-1)を計算する手段である。剛性指標保持手段8は、求めた剛性指標U
*の値を保持するメモリである。解析対象構造物9は、荷重経路を解析する対象であり、動的外力がかかる弾性体である。
【0032】
上記のように構成された本発明の実施例1における構造物荷重経路計算装置の機能と動作を説明する。最初に、
図1を参照しながら、構造物荷重経路計算装置の計算原理の概要を説明する。
図1(a)は、弾性体である解析対象構造物の支持点Bを固定し、変化負荷点Cを自由にして、特定負荷点Aに特定荷重をかけた状態のものを、三角形ABCの3辺の3つのバネで表現した解析モデルである。従来のU
*の定義においては、このように3本のバネで構造を表現する。例えば、剛性行列K
ACにより、動的外力の無い場合の変化負荷点Cの変位と特定負荷点Aの荷重との関係が表わされる。
図1(b)は、解析対象構造物を、6本のバネで表現したものである。解析対象構造物の特定負荷点Aと支持点Bと変化負荷点Cと外力荷重点Dとを頂点とする4面体ABCDの稜の6本のバネで解析対象構造物の弾性特性を表わす。例えば、部分的な剛性行列k
ACにより、動的外力がある場合の変化負荷点Cの変位と特定負荷点Aにかかる特定荷重との関係が表わされる。
【0033】
特定負荷点Aは、複数点でも線分でも面でもよいが、点で代表して特定負荷点Aということにし、複数点や線分や面の場合も含むこととする。支持点Bについても、1点の場合で説明するが、複数の点で保持する場合も含むこととする。外力荷重点Dは、複数点でも線分でも面でもよいが、点で代表して外力荷重点Dということにし、複数点や線分や面の場合も含むこととする。外力荷重点Dが複数の場合、解析対象構造物の弾性特性は、解析対象構造物の特定負荷点Aと支持点Bと変化負荷点Cと複数の外力荷重点D
1、D
2、D
3、…、D
Nとを頂点とする多面体ABCD
1…D
Nの各稜と各対頂線のバネで表わされる。
【0034】
図1(c)は、三角形ABCの3辺の3つのバネで表現した解析モデルに、点D
1、D
2、D
3、…に示すような箇所の各々に、荷重p
D1、p
D2、p
D3、…なる動的外力が加わっている場合を示す図である。このような解析モデルにおいて、動的外力を加えると同時に、特定負荷点Aに荷重p
Aをかけて強制変位d
Aを与える。このように動的外力がかかった状態で特定負荷点に強制変位を与えた解析対象構造物の変形を、有限要素法で計算する。変化負荷点Cを自由にした時の特定負荷点Aにかかる力(特定荷重)のなす仕事Uとすべての点の変位量(d
Aとd
C)を求める。
【0035】
図1(d)は、変化負荷点Cを拘束した状態で、動的外力を加えると同時に、特定負荷点Aに特定荷重p
A'をかけて強制変位d
Aを与えた場合を示す図である。変化負荷点Cを拘束した状態での荷重や変位については、(p
A')のように(')を付して表わす。ただし、変化負荷点Cを自由にしたときと同じ値のときは、(')を付さない。このように変化負荷点Cを拘束したときの特定負荷点Aにかかる力(特定荷重)のなす仕事U'と、上記の仕事Uとの比から剛性指標U
*を求める。しかし、この直接計算方法では計算時間がかかって実用的ではないので、三角形ABCの3辺の3つのバネで表現した場合の部分的な剛性行列K
ACを利用して剛性指標U
*を求める。すなわち、剛性行列K
ACを、有限要素法を使って検査荷重法により求める。仕事Uと剛性行列K
ACと変位量(d
Aとd
C)とから、剛性指標U
*の値((1−2U/(K
ACd
C)・d
A)
-1)を計算する。解析対象構造物の必要なすべての点を順次たどるように変化負荷点Cを変更して、すべての点のU
*の値を計算する。
【0036】
ここで、検査荷重法について簡単に説明する。詳しくは、特許文献1などを参照されたい。特定負荷点Aと支持点Bを固定して、変化負荷点Cに検査荷重を与えて、有限要素法により特定負荷点Aの特定荷重値と変化負荷点Cの変位を計算する。独立な3つの検査荷重をそれぞれ与えて3回計算し、3つの変位を求める。式p
A=K
ACd
Cに、特定負荷点Aの特定荷重p
Aと変化負荷点Cの変位量d
Cを代入して、未知数が9個以下の多元連立一次方程式を解き、剛性行列K
ACを求める。
【0037】
次に、
図2を参照しながら、慣性力などの動的外力が加わっている場合において、特定負荷点Aから変化負荷点Cを経由して支持点Bに至る荷重伝達伝達を求める計算式の導出方法について説明する。
図2(a)は、特定負荷点Aにも変化負荷点Cにも外力荷重点Dにも慣性力が加わっている状態を示す図である。特定負荷点Aは注目している特定荷重の負荷点なので、慣性力が加わっていても、それを含めて特定負荷点Aの特定荷重とする。慣性力は全体に分布してかかるが、ここでは、一点Dだけに加わる場合で説明することとする。多点D
1、D
2、D
3、…に加わる慣性力の場合も同様に扱える。
【0038】
一般に、変位と荷重の関係は次のように書ける。
【数7】
………(11)
ここで点Dが加わったことで、構造全体を6本のバネで表現したことになる。したがって、これまでのように3本のバネで表現した場合と全く異なる。例えば、特定負荷点Aと変化負荷点Cの間のバネは、3本バネで表現されている時のバネとは異なっている。
【0039】
ここで、支持点Bの変位は常にゼロであるから、上式のd
Bに関する行と列は不要である。したがって、一般に次のように書ける。
【数8】
………(12)
【0040】
変化負荷点Cは任意点であるから、外力荷重点Dと同じ条件にある。ある変化負荷点Cだけに着目し、そこに伝達される荷重を考える。その時の変化負荷点Cは、外力荷重点Dの中から抜き出して注目している。これは、これまでのU
*における任意の変化負荷点Cの考え方と同じである。一般の点からある点を変化負荷点Cとして抜き出して注目して論ずる立場は同じである。
図2(a)の状態において、特定負荷点Aにかかる力(特定荷重)の成す仕事は以下のようになる。
U=(1/2)p
A・d
A=(1/2)(k
AAd
A+k
ACd
C+k
ADd
D)・d
A ………(14)
【0041】
次に、
図2(b)に示すように、変化負荷点Cを拘束した場合を考える。この場合の荷重と変位には(')を付けて示す。
図2(b)は、変化負荷点Cを拘束した場合を示す図である。変化負荷点Cには、最初の慣性力に加えて、
図2(a)の変位の方向とは逆方向の力が加わっている。また、変化負荷点Cの変位はゼロである。
【数9】
………(15)
【0042】
変化負荷点Cには、最初に荷重(p
C)が加わっていたし、変位もしていた。ここでは、それを動かないように止めるから、そのための拘束力が追加されることになる。その最終的に加わっている力を(p
C')とした。また、変化負荷点Cは、最初(d
C)だけ変位していた。それを元に戻すから、結局、変化負荷点Cの変位は(d
C'=0)である。また、特定負荷点Aの変位は常に同一として与えるから、(d
A)である。
【0043】
図2(b)の状態において、特定負荷点Aにかかる力(特定荷重)の成す仕事は、以下のようになる。
U'=(1/2)p
A'・d
A
=(1/2)(k
AAd
A+k
ADd
D')・d
A ………(16)
また、式(14)と式(16)から、次のような表式も可能である。
U'=U−(U−U')
=U−(1/2){k
ACd
C+k
AD(d
D−d
D')}・d
A ………(17)
式(14)と式(16)右辺第1項同士が相殺すること、また、k
ADでくくりだせたことがポイントである。
【0044】
式(17)をU
*の定義に代入すれば次式を得る。
U
*=1−(U'/U)
-1
=1−{1−(1/2U)[k
ACd
C+k
AD(d
D−d
D')・d
A]}
-1
={1−2U/[k
ACd
C+k
AD(d
D−d
D')・d
A]}
-1 ………(18)
上の最後の変形には、次の一般的な関係を用いた。ここで、aとbは0以外の任意の数である。
1−(1−b/a)
-1=(1−a/b)
-1 ………(19)
【0045】
さらに、式(18)の[ ]内をd
Cでくくることができれば、従来のU
*の式と形式的に一致するので、それを目的として次のように変形する。式(13)より、次の式を得る。
p
D=k
DAd
A+k
DCd
C+k
DDd
D ………(20)
また、式(15)から次の関係がある。
p
D'=k
DAd
A+k
DDd
D' ………(21)
ここで、慣性力は変化負荷点Cを拘束しても変わらないことを前提とする。
p
D'=p
D ………(22)
【0046】
式(20)、(21)および式(22)から次の関係を得ることができる。
k
DCd
C+k
DDd
D=k
DDd
D'
k
DCd
C=k
DD(d
D'−d
D)
d
D'−d
D=k
DD-1k
DCd
C ………(23)
これを式(18)に代入することにより、d
Cでくくることができる。すなわち、次の関係を得る。
U
*={1−2U/[(k
AC−k
ADk
DD-1k
DC)d
C]・d
A}
-1 ………(24)
この式は、
図2(a)のように、構造を6本のバネで表現したものに対応している。
【0047】
さて、従来のU
*の定義においては、
図9(a)、(b)のように、3本のバネで構造を表現してきた。このとき、U
*は式(3)で表現された。式(3)を再掲する。
U
*=[1−2U/(K
ACd
C)・d
A]
-1 ………(3)
当然のことではあるが、構造を6本のバネで表現したときの点AC間の剛性行列k
ACと3本のバネで表現したときの剛性行列K
ACとは異なっている。
K
AC≠k
AC ………(25)
式(24)はバネが6本の場合のものであり、式(3)は3本の場合のものであるが、同一の構造を表現している。
【0048】
外力荷重点Dに荷重の無い場合、すなわち慣性力の無い場合(p
D=p
D'=0)を考えた時でも、
図1(c)と(d)の両方の表現で記述されるはずである。しかも、その時のU
*の値は同一となるはずである。よって、式(24)と式(3)の値は、この時には等しくなるので、これを等値する。式(24)を導くときのように、d
Cでくくり出し、次式を得る。
{[K
AC−(k
AC−k
ADk
DD-1k
DC)]d
C}・d
A=0 ………(26)
ここで、d
Aとd
Cは任意に設定できるので、これらに乗じている{ }内部もゼロでなくてはならない。
【0049】
よって、次のように、
図1(c)、(d)の6本バネと3本バネで表現した同一構造における剛性行列の間の関係を求めることができた。
K
AC=k
AC−k
ADk
DD-1k
DC ………(27)
上記のようなエネルギー的な考察により、式(27)の関係を導出することができた。同一構造であっても解析モデルのバネの数に依存して剛性行列が変わるという特徴を利用して、式(27)の関係を導出した。
【0050】
ところで、剛性行列K
ACあるいはk
ACは、境界条件に依存しない。ここで、3本バネ解析モデルにおける剛性行列K
ACを求める。式(24)の( )内をその値K
ACにとれば、式(24)からU
*が計算できることになる。実際には、3本バネ解析モデルにおけるK
ACは、検査荷重法で求めることができる。結論としては、慣性力の有る場合でも従来の手法が使える、ということになる。ただし、式(24)における変化負荷点Cの変位d
Cは、慣性力のある場合の変位量である。ここに、外力荷重点Dの有無の影響がでる。この値は、検査荷重法を用いる前に、構造全体に関して求めておく必要がある。この計算は、外力荷重点Dを考慮しない場合でも必要な計算過程である。これは、一度の静解析で終了することができるので、外力荷重点Dの有無により計算結果は異なるが、計算の回数は変わらない。
【0051】
次に、
図3を参照しながら、解析モデルを分解して計算式を求める方法について説明する。式(9)を経由することを避けるために、
図3のように、解析モデルを分解する。ここでは、外力荷重点が一つであるとして、特定負荷点A以外には外力荷重点Dだけに動的外力があるとする。
図1(c)、(d)のように、外力荷重点D
1、D
2、D
3、…に、荷重p
D1、p
D2、p
D3、…の多数の動的外力がある場合も、以下の議論は同じである。
図3(b)は、
図1(b)と同じ状態を示している。この特定負荷点Aに強制変位d
Aを与えるために必要な力(特定荷重)p
A'を求めることを目的とする。そのためには、以下に示すように、
図3(a)と(c)を計算すればよい。
図3(a)は
図2(a)と同じであり、どの変化負荷点Cに関しても、すべての節点の変位などを、最初に1回だけ計算しておけばよい。
図3(c)の計算は、
図3(c')あるいは(c")の計算と等価であるから、外力荷重点Dの無い場合の通常のU
*計算手順と同一となる。したがって、従来のU
*計算アルゴリズムが利用できる。
【0052】
図3において、特定負荷点Aの変位は、両辺(左辺:
図3(b)、右辺:
図3(a)、(c))で同一である。支持点Bは固定端であり、両辺同一で変位なしである。変化負荷点Cは、
図3(c)で戻すので、両辺で同一変位である。外力荷重点Dは、両辺で同一荷重である。したがって、左右両辺で同一の変形であり、同一の力学的状態にある。[
図3(b)の荷重p
A']=[
図3(a)の荷重p
A]+[
図3(c)での荷重の増加(p
A"+(−p
A))]である。また、変位についても、[
図3(b)の変位]=[
図3(a)の変位]+[
図3(c)の変位の増加]である。
図3(c)の操作における荷重や変位には、(")を付す。ただし、それ以前の状態での値と同じものには付さない。
【0053】
図3(b)において、構造内部の1点を変化負荷点Cとして選び、他の点も順次に変化負荷点Cとして移動し、全ての変化負荷点Cにつき、特定荷重(p
A')の算出を行うことを目的とする。直接の算出では時間がかかるので、間接的に短時間で算出する方法を探究する。特定荷重(p
A')は、強制変位(d
A)を与えるために必要な力である。荷重(p
D)は、外力荷重点Dに加わる動的外力である。変化負荷点Cを拘束し、強制変位(d
A)を与える。
【0054】
図3(a)では、変化負荷点Cに力および強制変位を加えていないから、変化負荷点Cは単なる構造内部の一般点である。強制変位(d
A)を保ったまま、変化負荷点Cを自由にする。外力荷重点Dには、
図3(b)と同じ動的外力がかかっている。よって、バネでモデル化する際に、変化負荷点Cを設ける必要がない。また、変化負荷点Cを毎回移動させるごとに外力荷重点Dを移動させることはないから、
図3(a')に示す構造につき1回計算するだけでよい。つまり、
図3(a)については、どの任意点Cに関しても同一であるから、最初に1回だけ、すべての点について変位を有限要素法で計算しておけばよい。
【0055】
図3(c)において、強制変位(d
A)と荷重(p
D)を保持したまま、変化負荷点Cに強制的に差分変位(−d
C)を与えて元に戻す。したがって、変化負荷点Cの変位は0となる。特定負荷点Aでは、強制変位(d
A)を維持する。強制的に差分変位(−d
C)を与えることによる反力は、(p
A")である。外力荷重点Dには、
図3(c)の操作の間、一定の外力(p
D)(
図3(a)、(b)と同一荷重)を維持する。
図3(c)の外力荷重点Dの外力(p
D)は、一定値で維持されるから、変化負荷点Cにおける強制的な差分変位(−d
C)の量に、動的外力(p
D)は影響を及ぼさない。よって、バネでモデル化する際に外力荷重点Dを設ける必要がない。したがって、
図3(c')のように考えることができる。
図3(c')では、特定負荷点Aで、強制変位(d
A)を維持する。変化負荷点Cでは、強制的な差分変位(−d
C)を与える。強制的な差分変位(−d
C)による特定負荷点Aでの反力は、(p
A")である。
【0056】
つまり、強制変位(d
A)を維持したまま、変化負荷点Cに強制的な差分変位を与えている。この時の特定負荷点Aの差分荷重(p
A"+(−p
A))は、線形微小変形論の場合、特定負荷点Aを維持する位置に依存しないので、強制変位(d
A)をゼロとしたまま維持しても、差分荷重(p
A"+(−p
A))の値は変わらない。すなわち、
図3(c)における特定負荷点Aの差分荷重(p
A"+(−p
A))は、
図3(c")に示す条件での差分荷重と微小変形論の範囲で同一である。線形性のために、特定負荷点Aの反力は、
図3(c)における反力(p
A")と等価である。
図3(c)の反力(p
A")は、外力荷重点Dが無い場合の通常のU
*計算手順と同一となり、従来のU
*計算アルゴリズムが利用できる。
【0057】
結果をまとめると、以下のようになる。簡単のため、式(9)の点A、B、C以外の外力荷重点D
1、D
2、D
3、…が1個の場合を考える。これを外力荷重点Dとした場合は、式(9')となる。本来は、
図3(b)について、構造物を式(9')について表現し、その後の式変形を進める必要がある。
【数10】
………(9')
しかし、上記の考察により、変化負荷点Cの位置を移動させて繰り返し計算する際には、
図3(c")の計算だけで良いことになる。
【0058】
図3(c")は外力荷重点Dを含まないから、式(2)で表現される構造計算を行えばよい。この式は従来の外力荷重点Dの無い場合の式と形も内容も同一である。式(2)を再掲する。
【数11】
………(2)
そのため、式(2)を扱った以前の検査荷重法のU
*計算手法が適用できる。これにより、剛性行列K
ACを短時間で計算できる。
【0059】
仕事Uと各点の変位(d
A、d
C)は、
図3(a)の計算で求められるので、これらと剛性行列K
ACを式(3)に代入すれば、剛性指標U
*を求めることができる。式(3)を再掲する。
U
*=[1−2U/(K
ACd
C)・d
A]
-1 ………(3)
このように、外力荷重点Dの力のベクトルと位置の情報を加味するだけで、式(3)を用いる既存のプログラムに容易に組み込むことができる。その際、剛性行列K
ACは、外力荷重点Dが無い場合と同一だが、式(3)におけるd
Cは、慣性力などの動的外力がある場合の変位量である。
【0060】
上記のことについて、
図3(d)〜(i)を参照しながら、単純化して説明する。
図3(d)は、初期状態を示す。特定荷重と動的外力を同時に印加すると、
図3(e)の状態になる。特定負荷点の変位を維持しながら、変化負荷点Cを強制的に戻すと、
図3(f)の状態になる。このとき、動的外力は不変であるから、影響はない。したがって、3本バネで表わした構造物を変形させたことと同じになるから、
図3(i)で表わすことができる。一方、
図3(d)の状態から、変化負荷点Cを拘束すると、
図3(g)の状態になる。さらに、特定荷重と動的外力を同時に印加すると、
図3(h)の状態になる。この最終状態における点Cの力学的状態は、
図3(i)の最終状態における点Cの力学的状態と同じである。すなわち、
図3(h)において固定された変化負荷点Cにかかる力(固定反力)は、
図3(f)において変化負荷点Cにかけられる力と同じ(p
C")である。
図3(f)においては、(p
C")を与える前から既に(p
D)を加えているから、
図3(f)で(p
C")を求めるには、対象が線形系のため、(p
D)が無い場合として計算すればよい。
【0061】
したがって、
図3(i)の状態を解析すればよい。
図3(i)において、特定負荷点Aと支持点Bの変位の差分はゼロであるから、特定負荷点Aにかかる特定荷重の差分は、変化負荷点Cの変位の差分にのみ依存する。すなわち、(p
A"+p
A)=K
AC(−d
C)となる。これを、
図3(i)の計算については従来の検査荷重法の過程と同様となるので、有限要素法を利用して検査荷重法で解いてK
ACを求める。このとき、特定負荷点Aが複数点であれば、一部の例外的な境界条件の場合を除いて、U
*の(K
ACd
C)・d
Aが、Σ
Ai=A1AN1(K
AiCd
C)・d
Ai(N1は自然数)(これをΣ
A(K
ACd
C)・d
Aと略記する)と変わる。支持点Bが複数点であっても、支持点B
1、B
2、B
3、…、B
N2(N2は自然数)の変位の差分はゼロであるから、計算結果に変わりは無い。外力荷重点Dが複数点であっても、外力荷重点D
1、D
2、D
3、…、D
N3(N3は自然数)が点Cの差分変位におよぼす影響はゼロであるから、計算結果に変わりは無い。この点については、詳しくは、櫻井,多田,石井,野原,星野,高橋:構造物の荷重経路解析における複雑な支持条件の考慮,日本機械学会論文集,A編Vol.71, No.712, P.1605〜1611,(2005)や、櫻井,多田,石井,野原,星野,高橋:構造物の荷重経路U
*解析における多点負荷条件の考慮,日本機械学会論文集 A編,Vol.73, No.726, P.195〜200,(2007)を参照されたい。
【0062】
次に、
図4を参照しながら、U
*を計算する構造物荷重伝達計算装置の構成と計算手順を説明する。この構造物荷重伝達計算装置は、弾性体である解析対象構造物の変形を有限要素法により計算する有限要素法計算手段3を備え、荷重伝達経路法により解析対象構造物の構造解析を行う装置である。解析対象構造物の特定負荷点Aと支持点Bと変化負荷点Cと外力荷重点Dとを頂点とする4面体ABCDの稜の6本のバネで解析対象構造物の弾性特性を表わす。変化負荷点Cを拘束しない場合の特定負荷点Aの変位を(d
A)とし、変化負荷点Cの変位を(d
C)とする。動的外力がかかった状態の解析対象構造物の変形を有限要素法計算手段3で計算して、特定負荷点Aにかかる特定荷重のなす仕事Uと、すべての点の変位量(d
Aとd
C)を、変位等計算手段4で求める。三角形ABCの3辺のバネで解析対象構造物の弾性特性を表わした場合の剛性行列K
ACを、有限要素法計算手段3を利用して検査荷重法により検査荷重法計算手段5で求める。仕事Uと剛性行列K
ACと変位量(d
Aとd
C)とから、剛性指標U
*の値((1−2U/(K
ACd
C)・d
A)
-1)を剛性指標計算手段7で計算する。解析対象構造物の必要なすべての点を順次たどるように、変化負荷点Cを位置変更手段6で変更する。変化負荷点Cを変更して、すべての点のU
*の値を計算するように計算制御手段1で制御する。
【0063】
図4(a)に示す機能ブロック図における構造物データ保持手段2に、解析対象構造物の形状や弾性特性などのデータを格納しておく。変位等計算手段4で、有限要素法計算手段3を利用して、すべての点の変位(d
Aとd
C)と、特定負荷点Aにかかる特定荷重のなす仕事Uを計算する。すなわち、動的外力がかかった状態で、変化負荷点Cを解放して、特定負荷点Aに特定荷重をかけて、すべての点の変位を求める。検査荷重法計算手段5で、有限要素法計算手段3を利用して、剛性行列K
ACを計算する。これは、従来のU
*の計算における剛性行列K
ACの計算と同じである。剛性指標計算手段7で、U
*(=(1−2U/(K
ACd
C)・d
A)
-1)を計算して、剛性指標保持手段8に格納する。位置変更手段6で、変化負荷点Cを更新する。計算制御手段1で、すべての点のU
*の値を計算するように全体を制御する。
【0064】
図4(b)に示す流れ図において、ステップ1で、すべての点の変位(d
Aとd
C)と、特定負荷点Aにかかる特定荷重のなす仕事Uを計算する。ステップ2で、検査荷重法により剛性行列K
ACを計算する。ステップ3で、仕事Uと剛性行列K
ACと変位量(d
Aとd
C)とから、剛性指標U
*を計算する。ステップ4で、変化負荷点Cを更新する。ステップ5で、すべての点について剛性指標U
*を計算したか検査する。計算する点が残っていれば、ステップ2に戻って繰り返す。計算する点が残っていなければ終了する。
【0065】
ここで、特定負荷点Aと支持点Bと外力荷重点Dが複数である場合を含むときの計算方法を説明する。解析対象構造物の特定負荷点を、A
1、A
2、A
3、…、A
N1(N1は自然数)とする。支持点を、B
1、B
2、B
3、…、B
N2(N2は自然数)とする。変化負荷点をCとする。外力荷重点を、D
1、D
2、D
3、…、D
N3(N3は自然数)とする。これらの点を頂点とする多面体A
1…A
N1B
1…B
N2CD
1…D
N3の各稜と各対頂線のバネで解析対象構造物の弾性特性を表わす。変化負荷点Cを拘束しない場合の特定負荷点A
1、A
2、A
3、…、A
N1の変位をd
A1、d
A2、d
A3、…、d
AN1とし、変化負荷点Cの変位をd
Cとする。外力がかかった状態の解析対象構造物の変形を、有限要素法計算手段3で計算する。特定負荷点A
1、A
2、A
3、…、A
N1にかかる特定荷重のなす仕事Uと、すべての点の変位量(d
A1、d
A2、d
A3、…、d
AN1とd
C)を求める。これらの計算を、変位等計算手段4で行う。
【0066】
解析対象構造物の特定負荷点A
1、A
2、A
3、…、A
N1と支持点B
1、B
2、B
3、…、B
N2と変化負荷点Cとを頂点とする多面体A
1A
2A
3…A
N1B
1B
2B
3…B
N2Cの各稜と各対頂線のバネで解析対象構造物の弾性特性を表わす。この場合の部分的な剛性行列K
A1C、K
A2C、K
A3C、…、K
AN1Cを、有限要素法計算手段3を利用して、検査荷重法により検査荷重法計算手段5で求める。仕事Uと剛性行列K
A1C、K
A2C、K
A3C、…、K
AN1Cと変位量(d
A1、d
A2、d
A3、…、d
AN1とd
C)とから、剛性指標U
*の値((1−2U/{Σ
A(K
ACd
C)・d
A})
-1)を剛性指標計算手段7で計算する。解析対象構造物の必要なすべての点を順次たどるように変化負荷点Cを変更してすべての点のU
*の値を計算するように、計算制御手段1で制御する。
【0067】
図5に、計算例を示す。円孔付き平板モデルを用いた動的U
*解析の例である。有限要素モデルは次の通りである。
図5(a)に、円孔付き平板モデルを示す。板を3分割し、各部分の材料定数を指定した。
図5(b)に、境界条件を示す。右端の中央部分を固定する。静解析では、左端の矢印部分に強制変位(1mm)を与える。動解析では、左端の矢印部分に加速度をかける。
図5(c)に、静的解析結果(200msでの変形)を示す。微小変形論では面内変形のみで、座屈現象は考慮しない。
図5(d)〜(g)に、動的U
*解析の結果を示す。U
*によれば、どの時刻でも、ほぼ予想したような荷重伝達経路を示している。円孔部周辺で荷重を伝達するという誤謬のある結果とはなっていない。
【0068】
上記のように、本発明の実施例1では、構造物荷重伝達計算装置を、解析対象構造物の特定負荷点Aと支持点Bと変化負荷点Cと外力荷重点Dとを頂点とする4面体ABCDの稜の6本のバネで解析対象構造物の弾性特性を表わして、動的外力がかかった状態の解析対象構造物の変形を有限要素法で計算して、特定荷重のなす仕事とすべての点の変位量を求め、解析対象構造物の特定負荷点Aと支持点Bと変化負荷点Cとを頂点とする三角形ABCの3辺のバネで解析対象構造物の弾性特性を表わした場合の部分的な剛性行列を検査荷重法により求め、特定荷重のなす仕事と剛性行列と変位量とから剛性指標の値を計算し、解析対象構造物の必要なすべての点を順次たどるように変化負荷点を変更してすべての点の剛性指標の値を計算するように制御する構成としたので、慣性力などの動的外力が加わる場合でも、構造物の荷重伝達を計算できる。
【実施例2】
【0069】
本発明の実施例2は、解析対象構造物の特定負荷点Aと支持点Bと変化負荷点Cと外力荷重点Dとを頂点とする4面体ABCDの稜の6本のバネで解析対象構造物の弾性特性を表わして、動的外力がかかった状態の解析対象構造物の変形を有限要素法で計算して、特定荷重のなす相補仕事とすべての点の変位量を求め、解析対象構造物の特定負荷点Aと支持点Bと変化負荷点Cとを頂点とする三角形ABCの3辺のバネで解析対象構造物の弾性特性を表わした場合の部分的な撓み性行列の逆行列を検査荷重法により求め、特定荷重のなす相補仕事と撓み性行列の逆行列と変位量とから剛性指標の値を計算し、解析対象構造物の必要なすべての点を順次たどるように変化負荷点を変更してすべての点の剛性指標の値を計算するように制御する構造物荷重伝達計算装置である。
【0070】
図6に、構造物荷重伝達計算装置の解析対象となる構造物モデルに動的外力が加わった状態を示す。
図7に、解析対象の構造物モデルの状態を分解して示す。
図8に、機能ブロック図と処理手順を示す。
図6〜
図8において、計算制御手段1は、解析対象構造物の必要なすべての点を順次たどるように変化負荷点Cを変更してすべての点のU
**の値を計算するように制御する手段である。構造物データ保持手段2は、解析対象構造物の形状や弾性特性などのデータを保持するメモリである。有限要素法計算手段3は、弾性体である解析対象構造物の変形を有限要素法により計算する手段である。変位等計算手段4は、4面体ABCDの稜の6本のバネで解析対象構造物の弾性特性を表わして、動的外力がかかった状態の解析対象構造物の変形を有限要素法計算手段で計算して、特定荷重のなす相補仕事Wとすべての点の変位量(d
C)を求める手段である。
【0071】
検査荷重法計算手段5は、三角形ABCの3辺のバネで解析対象構造物の弾性特性を表わした場合の部分的な撓み性行列の逆行列C
CC-1を有限要素法計算手段の利用で検査荷重法により求める手段である。位置変更手段6は、解析対象構造物の必要なすべての点を順次たどるように変化負荷点Cを変更する手段である。剛性指標計算手段7は、相補仕事Wと撓み性行列の逆行列C
CC-1と変位量d
Cとから剛性指標U
**の値(d
C・C
CC-1d
C/2W)を計算する手段である。剛性指標保持手段8は、求めた剛性指標U
**の値を保持するメモリである。解析対象構造物9は、荷重伝達を解析する対象であり、動的外力がかかる弾性体である。
【0072】
上記のように構成された本発明の実施例2における構造物荷重伝達計算装置の機能と動作を説明する。最初に、
図6を参照しながら、構造物荷重伝達計算装置の計算原理の概要を説明する。
図6(a)は、弾性体である解析対象構造物の支持点Bを固定し、変化負荷点Cを自由にして、特定負荷点Aに荷重をかけた状態のものを、三角形ABCの3辺の3つのバネで表現した解析モデルである。従来のU
**の定義においては、このように3本のバネで構造を表現する。例えば、部分的な撓み性行列C
ACにより、動的外力の無い場合の変化負荷点Cの変位と特定負荷点Aの特定荷重との関係が表わされる。
図6(b)は、解析対象構造物を、6本のバネで表現したものである。解析対象構造物の特定負荷点Aと支持点Bと変化負荷点Cと外力荷重点Dとを頂点とする4面体ABCDの稜の6本のバネで解析対象構造物の弾性特性を表わす。例えば、部分的な撓み性行列c
ACにより、動的外力がある場合の変化負荷点Cの変位と特定負荷点Aの特定荷重との関係が表わされる。
【0073】
特定負荷点Aは、複数点でも線分でも面でもよいが、点で代表して特定負荷点Aということにし、複数点や線分や面の場合も含むこととする。有限要素法では、線分や面は複数の点で表わされる。支持点Bについても、1点の場合で説明するが、安定に保持できるように複数の点で保持する場合も含むこととする。外力荷重点Dは、複数点でも線分でも面でもよいが、点で代表して外力荷重点Dということにし、複数点や線分や面の場合も含むこととする。外力荷重点Dが複数の場合、解析対象構造物の弾性特性は、解析対象構造物の特定負荷点Aと支持点Bと変化負荷点Cと複数の外力荷重点D
1、D
2、D
3、…、D
Nとを頂点とする多面体ABCD
1…D
Nの各稜と各対頂線のバネで表わされる。
【0074】
図6(c)は、三角形ABCの3辺の3つのバネで表現した解析モデルに、点D
1、D
2、D
3、…に示すような箇所の各々に、荷重p
D1、p
D2、p
D3、…なる動的外力が加わっている場合を示す図である。このような解析モデルにおいて、動的外力を加えると同時に、特定負荷点Aに特定荷重p
Aをかけて変位(d
A)を与える。このように動的外力がかかった状態で特定負荷点に強制変位を与えた解析対象構造物の変形を、有限要素法で計算する。変化負荷点Cを自由にした時の特定負荷点Aにかかる力(特定荷重)のなす相補仕事Wとすべての点の変位量(d
C)を求める。
【0075】
図6(d)は、変化負荷点Cを拘束した状態で、動的外力を加えると同時に、特定負荷点Aに特定荷重(p
A)をかけて、変位(d
A')を与えた場合を示す図である。変化負荷点Cを拘束した状態での荷重や変位については、(d
A')のように(')を付して表わす。ただし、変化負荷点Cを自由にしたときと同じ値のときは、(')を付さない。このように変化負荷点Cを拘束したときの特定負荷点Aにかかる力(特定荷重)のなす相補仕事W'と、上記の相補仕事Wとの比から剛性指標U
**を求める。しかし、この直接計算方法では計算時間がかかって実用的ではないので、三角形ABCの3辺のバネで解析対象構造物の弾性特性を表わした場合の部分的な撓み性行列C
CCを利用して剛性指標U
**を求める。すなわち、撓み性行列C
ACを、有限要素法を使って検査荷重法により求める。相補仕事Wと撓み性行列の逆行列C
AC-1と変位量(d
C)とから、剛性指標U
**の値(d
C・C
CC-1d
C/2W)を計算する。解析対象構造物の必要なすべての点を順次たどるように変化負荷点Cを変更して、すべての点のU
**の値を計算する。
【0076】
ここで、検査荷重法について簡単に説明する。詳しくは、特許文献2などを参照されたい。変化負荷点Cに検査荷重を与える方法である。ただし、U
**の場合には、特定負荷点Aの扱いに特徴がある。すなわち、式d
C=C
CAp
A+C
CCp
Cにおいて、特定負荷点Aの特定荷重(p
A)を零とした場合を想定し、その場合の(d
C)と(p
C)を、(d
C~)と(p
C~)と書けば、d
C~=C
CCp
C~なる関係があることに着目する。特定負荷点Aを自由にして外力を与えない。一方、変化負荷点Cには、(p
C~)として任意の検査荷重を1個だけ与える。式(10)を解いて、変化負荷点Cの変位(d
C~)を求める。この一組の(p
C~)と(d
C~)を、式d
C~=C
CCp
C~に代入することにより、3方向成分に関する3個の式を得ることができる。同様に、独立した3個の(p
C~)を与えれば、9個の式が得られる。その結果、9個の要素を持つC
CCの全要素を求めることができる。このようにして、構造物の各点に3個ずつの検査荷重を与えることによりC
CCを求める手法が、検査荷重法である。C
CCは対称行列であるから、実際には求めるべき未知数は9個でなく6個である。そのため、実際には9個の方程式の中から6個の未知数を求める方程式だけを選んで解くことが有利である。
【0077】
次に、
図7を参照しながら、特定負荷点以外にも動的外力を受ける構造物のU
**計算について、解析モデルを分解して計算式を求める方法について説明する。式(10)を経由することを避けるために、
図7のように解析モデルを分解する。ここでは、動的外力が一つであるとして、特定負荷点A以外には外力荷重点Dだけに外力があるとする。
図6(c)、(d)のように、外力荷重点D
1、D
2、D
3、…に、荷重p
D1、p
D2、p
D3、…の多数の動的外力がある場合も、以下の議論は同じである。
図7(b)は、
図6(d)と同じ状態を示している。この特定負荷点Aに特定荷重(p
A)を与えたときの変位(d
A')を求めることを目的とする。そのためには、
図7(a)と(c)を計算すればよい。ここで、
図7(a)は
図6(c)と同じであり、どの変化負荷点Cに関しても、最初に1回だけ各点の変位を計算しておけばよい。
図7(c)では、外力荷重点Dの無い場合の通常のU
**計算手順と同一となり、従来のU
**計算アルゴリズムが利用できる。
【0078】
図7の特定負荷点Aでは、両辺で同一荷重である。支持点Bは固定端であるので、両辺同一変形である。変化負荷点Cでは、
図7(c)で強制的に変位を戻すので、両辺同一変位である。外力荷重点Dでは、両辺で同一荷重である。つまり、左右両辺で同一の変形であり、同一の力学的状態にある。[
図7(b)の変位d
A']=[
図7(a)の変位d
A]+[
図7(c)での変位の増加(d
A"+d
A)]である。また、荷重についても、[
図7(b)の荷重]=[
図7(a)の荷重]+[
図7(c)の荷重の増加]となっている。
図7(c)の操作における荷重や変位には、(")を付す。ただし、それ以前の状態での値と同じものには付さない。
【0079】
図7(b)では、変化負荷点Cを拘束し、特定負荷点Aに特定荷重(p
A)をかける。特定負荷点Aに特定荷重(p
A)をかけたときの変位は(d
A')である。外力荷重点Dには、動的外力(p
D)が加えられる。外力荷重点Dに加わっている動的外力は(p
D)である。
図7(b)の構造内部の1点Cを選び、他の点も順次に変化負荷点Cとして移動し、全ての変化負荷点Cにつき変位(d
A')の算出を行いたい。そのためには、以下に示すように、
図7(a)と(c)を計算すればよい。
図7(a)は
図6(c)と同じであり、どの変化負荷点Cに関しても、すべての節点の変位などを、最初に1回だけ計算しておけばよい。
図7(c)の計算は、外力荷重点Dの無い場合の通常のU
**計算手順と同一となる。したがって、従来のU
**計算アルゴリズムが利用できる。
【0080】
図7(a)において、特定荷重(p
A)をかけたまま変化負荷点Cを自由にする。外力荷重点Dには、動的外力(p
D)が加えられている。特定負荷A点には、特定荷重(p
A)(
図7(b)と同一荷重)がかけられる。特定負荷A点の変位は(d
A)である。変化負荷点Cは拘束せず、自由に変位させる。変化負荷点Cの変位は(d
C)である。外力荷重点Dでは、動的外力(p
D)(
図7(b)と同一外力)がかかる。
図7(a)では、変化負荷点Cに力および強制変位を加えていないから、変化負荷点Cは単なる構造内部の一般点である。よって、バネでモデル化する際に、変化負荷点Cを設ける必要がない。また、変化負荷点Cを毎回移動させるごとに外力荷重点Dは移動させないから、
図7(a')の構造につき1回計算するだけでよい。
図7(a)については、どの変化負荷点Cに関しても同様であるから、最初に1回だけ、すべての点の変位を計算しておけばよい。
【0081】
図7(c)において、特定荷重(p
A)と動的外力(p
D)を保持したまま、変化負荷点Cに強制的な差分変位(−d
C)を与えて、元の位置に戻す。
図7(c)の操作をする間、特定負荷点Aに対して、一定の特定荷重(p
A)(
図7(a)と同一荷重)を維持する。変化負荷点Cには、強制的な差分変位(−d
C)を与える。変化負荷点Cに強制的な差分変位(−d
C)を与えるときの特定負荷点Aの変位は(d
A")である。外力荷重点Dに対しては、
図7(c)の操作の間、一定の外力(p
D)(
図7(a)と同一荷重)を維持する。
図7(c)の外力荷重点Dの外力(p
D)は、一定値で維持するだけだから、その値は変化負荷点Cにおける強制的な差分変位(−d
C)による特定負荷点Aの変位に影響を及ぼさない。よって、バネでモデル化する際に、外力荷重点Dを設ける必要がない。
【0082】
図7(c')において、特定負荷点Aに対しては、
図7(c)の操作の間、一定の特定荷重(p
A)(
図7(a)と同一荷重)を維持する。変化負荷点Cに対しては、
図7(c)と同じく、強制的な差分変位(−d
C)を与え、元の位置に戻す。この時の特定負荷点Aの変位増加分(d
A"+(−d
A))は、線形微小変形論の場合、特定負荷点Aで維持している特定荷重(p
A)には依存しない。よって、特定荷重(p
A)をゼロとしても変位増加分(d
A"+(−d
A))の値は変わらない。
【0083】
図7(c")において、
図7(c)における特定負荷点Aの変位増加(d
A"+(−d
A))は、
図7(c")の条件での変位増加と同一である。特定負荷A点では、特定荷重(p
A)をゼロとするが、特定負荷点Aの変位は(d
A"+(−d
A))だけ増加する。変化負荷点Cでは、
図7(c)と同一の強制的な差分変位(−d
C)がある。この状態でも、線形性のために、特定負荷点Aの変位増加は、
図7(c)の(d
A"+(−d
A))と等価である。
図7(c)の(d
A"+(−d
A))は、外力荷重点Dの無い場合の通常のU
**計算手順と同一となり、従来のU
**計算アルゴリズムが利用できる。
【0084】
結果をまとめると、以下のとおりとなる。簡単のため、式(10)のA、B、C以外の外力荷重点D
1、D
2、D
3、…が1つの場合を考える。これを外力荷重点Dとした場合は、式(10')となる。本来は
図7(b)について、構造物を式(10')について表現し、その後の式変形を進める必要がある。外力荷重点Dが一個でなく、D
1、D
2、D
3、…のように多数存在する場合には、式(10')は極めて複雑となる。
【数12】
………(10')
【0085】
しかし、上記の考察により、変化負荷点Cの位置を移動させて繰り返し計算する際には、
図7(c")の計算だけで良いことになる。この
図7(c")は外力荷重点Dを含まないから、式(5)で表現される構造計算を行えばよい。この式は従来の外力荷重点Dの無い場合の式と形も内容も同一である。式(5)を再掲する。
【数13】
………(5)
そのため、式(5)を扱った以前の検査荷重法のU
**計算手法が適用できるから、外力荷重点Dの力のベクトルと位置の情報を加味しただけで、式(6)を用いる既存のプログラムに容易に組み込むことができる。その際、撓み性行列C
CCは、外力荷重点Dの無い場合と同一だが、式(6)における変位(d
C)は慣性力のある場合の変位量である。これにより、撓み性行列C
CCを短時間で計算できる。
【0086】
相補仕事Wと各点の変位(d
C)は、
図7(a)の計算で求められるので、これらと撓み性行列C
CCを式(6)に代入すれば、剛性指標U
**を求めることができる。式(6)を再掲する。
U
**=d
C・(C
CC-1d
C)/2W ………(6)
このように、外力荷重点Dの力のベクトルと位置の情報を加味するだけで、式(6)を用いる既存のプログラムに容易に組み込むことができる。その際、撓み性行列C
CCは、外力荷重点Dが無い場合と同一だが、式(6)における(d
C)は、慣性力などの動的外力がある場合の変位量である。
【0087】
上記のことについて、
図7(d)〜(i)を参照しながら、単純化して説明する。
図7(d)は、初期状態を示す。特定荷重と動的外力を同時に印加すると、
図7(e)の状態になる。特定荷重を維持しながら、変化負荷点Cを強制的に戻すと、
図7(f)の状態になる。このとき、動的外力は不変であるから、影響はない。したがって、3本バネで表わした構造物を変形させたことと同じになるから、
図7(i)で表わすことができる。一方、
図7(d)の状態から、変化負荷点Cを拘束すると、
図7(g)の状態になる。さらに、特定荷重と動的外力を同時に印加すると、
図7(h)の状態になる。この最終状態における点Cの力学的状態は、
図7(i)の最終状態における点Cの力学的状態と同じである。
【0088】
図7(h)において固定された変化負荷点Cにかかる力(固定反力)は、
図7(f)において変化負荷点Cにかけられる力と同じ(p
C")である。
図7(f)においては、(p
C")を与える前から既に(p
D)を加えているから、
図7(f)で(p
C")を求めるには、対象が線形系のため、(p
D)が無い場合として計算すればよい。したがって、
図7(i)の状態を解析すればよい。
図7(i)において、特定負荷点Aの荷重の差分はゼロであるから、変化負荷点Cの変位の差分は、変化負荷点Cの荷重の差分にのみ依存する。すなわち、−d
C=C
CCp
C"となる。
図7(i)の計算については、従来の検査荷重法の過程と同様となるので、有限要素法を利用して検査荷重法で解いてC
CCを求める。このとき、特定負荷点Aや支持点Bが複数点であっても、特定負荷点Aの荷重の差分はゼロであり、支持点Bの変位はすべてゼロであるから、計算結果に変わりは無い。
【0089】
次に、
図8を参照しながら、U
**を計算する構造物荷重伝達計算装置の構成と計算手順を説明する。この構造物荷重伝達計算装置は、弾性体である解析対象構造物の変形を有限要素法により計算する有限要素法計算手段3を備え、荷重伝達経路法により解析対象構造物の構造解析を行う装置である。解析対象構造物の特定負荷点Aと支持点Bと変化負荷点Cと外力荷重点Dとを頂点とする4面体ABCDの稜の6本のバネで解析対象構造物の弾性特性を表わす。変化負荷点Cを拘束しない場合の変化負荷点Cの変位を(d
C)とする。動的外力がかかった状態の解析対象構造物の変形を有限要素法計算手段3で計算して、特定負荷点Aにかかる特定荷重のなす相補仕事Wとすべての点の変位量(d
C)を、変位等計算手段4で求める。三角形ABCの3辺のバネで解析対象構造物の弾性特性を表わした場合の部分的な撓み性行列C
CCを、有限要素法計算手段3を利用して、検査荷重法により検査荷重法計算手段5で求める。相補仕事Wと撓み性行列の逆行列C
CC-1と変位量(d
C)とから、剛性指標U
**の値(d
C・C
CC-1d
C/2W)を剛性指標計算手段7で計算する。解析対象構造物の必要なすべての点を順次たどるように、変化負荷点Cを位置変更手段6で変更する。変化負荷点Cを変更して、すべての点のU
**の値を計算するように、計算制御手段1で制御する。
【0090】
図8(a)に示す機能ブロック図における構造物データ保持手段2に、解析対象構造物の形状や弾性特性などのデータを格納しておく。変位等計算手段4で、有限要素法計算手段3を利用して、すべての点の変位(d
C)と、特定負荷点Aにかかる特定荷重のなす相補仕事Wを計算する。すなわち、動的外力がかかった状態で、支持点Bを固定し、特定負荷点Aに変位を与えて、変化負荷点Cを解放して、すべての点の変位を求める。検査荷重法計算手段5で、有限要素法計算手段3を利用して、撓み性行列の逆行列C
CC-1を計算する。これは、従来の動的外力がない場合の剛性指標U
**の計算における撓み性行列の逆行列C
CC-1の計算と同じである。剛性指標計算手段7で、剛性指標U
**(=d
C・C
CC-1d
C/2W)を計算して、剛性指標保持手段8に格納する。位置変更手段6で、変化負荷点Cを更新する。計算制御手段1で、すべての点の剛性指標U
**の値を計算するように、全体を制御する。
【0091】
図8(b)に示す流れ図において、ステップ1で、すべての点の変位(d
C)と、特定負荷点Aにかかる特定荷重のなす相補仕事Wを計算する。ステップ2で、検査荷重法により撓み性行列C
CCを計算して、その逆行列C
CC-1を求める。ステップ3で、相補仕事Wと撓み性行列の逆行列C
CC-1と変位量(d
C)とから、剛性指標U
**を計算する。ステップ4で、変化負荷点Cを更新する。ステップ5で、すべての点について剛性指標U
**を計算したか検査する。計算すべき変化負荷点Cが残っていれば、ステップ2に戻って繰り返す。計算する点が残っていなければ終了する。
【0092】
ここで、特定負荷点Aと支持点Bと外力荷重点Dが複数である場合を含むときの計算方法を説明する。解析対象構造物の特定負荷点を、A
1、A
2、A
3、…、A
N1(N1は自然数)とする。支持点を、B
1、B
2、B
3、…、B
N2(N2は自然数)とする。変化負荷点をCとする。外力荷重点を、D
1、D
2、D
3、…、D
N3(N3は自然数)とする。これらの点を頂点とする多面体A
1…A
N1B
1…B
N2CD
1…D
N3の各稜と各対頂線のバネで解析対象構造物の弾性特性を表わす。変化負荷点Cを拘束しない場合の特定負荷点A
1、A
2、A
3、…、A
N1の変位をd
A1、d
A2、d
A3、…、d
AN1とし、変化負荷点Cの変位を(d
C)とする。外力がかかった状態の解析対象構造物の変形を、有限要素法計算手段3で計算する。特定負荷点A
1、A
2、A
3、…、A
N1にかかる特定荷重のなす相補仕事Wと、すべての点の変位量(d
C)を求める。これらの計算を変位等計算手段4で行う。
【0093】
解析対象構造物の特定負荷点A
1、A
2、A
3、…、A
N1と支持点B
1、B
2、B
3、…、B
N2と変化負荷点Cとを頂点とする多面体A
1A
2A
3…A
N1B
1B
2B
3…B
N2Cの各稜と各対頂線のバネで、解析対象構造物の弾性特性を表わす。この場合の部分的な撓み性行列C
CCを、有限要素法計算手段3を利用して、検査荷重法により検査荷重法計算手段5で求める。相補仕事Wと撓み性行列の逆行列C
CC-1と変位量(d
C)とから、剛性指標U
**の値(d
C・C
CC-1d
C/2W)を、剛性指標計算手段7で計算する。解析対象構造物の必要なすべての点を順次たどるように変化負荷点Cを変更して、すべての点のU
**の値を計算するように、計算制御手段1で制御する。
【0094】
上記のように、本発明の実施例2では、構造物荷重伝達計算装置を、解析対象構造物の特定負荷点Aと支持点Bと変化負荷点Cと外力荷重点Dとを頂点とする4面体ABCDの稜の6本のバネで解析対象構造物の弾性特性を表わして、動的外力がかかった状態の解析対象構造物の変形を有限要素法で計算して、特定荷重のなす相補仕事とすべての点の変位量を求め、解析対象構造物の特定負荷点Aと支持点Bと変化負荷点Cとを頂点とする三角形ABCの3辺のバネで解析対象構造物の弾性特性を表わした場合の部分的な撓み性行列の逆行列を検査荷重法により求め、特定荷重のなす相補仕事と撓み性行列の逆行列と変位量とから剛性指標の値を計算し、解析対象構造物の必要なすべての点を順次たどるように変化負荷点を変更してすべての点の剛性指標の値を計算するように制御する構成としたので、慣性力などの動的外力が加わる場合でも、構造物の荷重伝達を計算できる。