【実施例1】
【0020】
本発明の好適な一実施例である治療計画装置を、図を用いて説明する。本発明の対象は、X線治療システムや粒子線治療システムに係る治療計画装置となる。本実施例はその一例としての粒子線治療システムを、
図3、
図4を用いて説明するが、X線治療システムに対しても本発明を適用することで同様の効果が得られる。
【0021】
図3は、粒子線治療システムの全体構成を示す図である。
図3において、粒子線治療システムは、荷電粒子ビーム発生装置301、高エネルギービーム輸送系310、回転照射装置311、中央制御装置312、メモリ313、照射制御システム314、表示装置315、照射野形成装置(照射装置)400、ベッド407、治療計画装置501を備えている。
【0022】
荷電粒子ビーム発生装置301は、イオン源302、前段加速器303、粒子ビーム加速装置304から構成される。本実施例は、粒子ビーム加速装置304としてシンクロトロン型の粒子ビーム加速装置を想定したものだが、粒子ビーム加速装置304としてサイクロトロン等、他のどの粒子ビーム加速装置を用いてもよい。シンクロトロン型の粒子ビーム加速装置304は、
図3に示すように、その周回軌道上に偏向電磁石305、加速装置306、出射用の高周波印加装置307、出射用デフレクタ308、および4極電磁石(図示せず)を備える。
【0023】
図3を用いて、粒子ビームが、シンクロトロン型の粒子ビーム加速装置304を利用した荷電粒子ビーム発生装置301から発生し、患者へ向けて出射されるまでの経過を説明する。イオン源302より供給された粒子は、前段加速器303にて加速され、ビーム加速装置であるシンクロトロンへと送られる。シンクロトロンには加速装置306が設置されており、シンクロトロン内を周回する粒子ビームが加速装置306を通過する周期に同期させて加速装置306に設けられた高周波加速空胴(図示せず)に高周波を印加し、粒子ビームを加速する。このようにして粒子ビームが所定のエネルギーに達するまで加速される。
【0024】
所定のエネルギー(例えば70〜250MeV)まで粒子ビームが加速された後、中央制御装置312より、照射制御システム314を介して出射開始信号が出力されると、高周波電源309からの高周波電力が、高周波印加装置307に設置された高周波印加電極により、シンクロトロン内を周回している粒子ビームに印加され、粒子ビームがシンクロトロンから出射される。
【0025】
高エネルギービーム輸送系310は、シンクロトロンと照射野形成装置400とを連絡している。シンクロトロンから取り出された粒子ビームは、高エネルギービーム輸送系310を介して回転照射装置311に設置された照射野形成装置400まで導かれる。回転照射装置311は、患者406の任意の方向からビームを照射するためにあって、装置全体が回転することで患者406の設置されたベッド407の周囲どの方向へも回転することができる。
【0026】
照射野形成装置400は、最終的に患者406へ照射する粒子ビームの形状を整形する装置であり、その構造は照射方式により異なる。散乱体法とスキャニング法が、代表的な照射方式だが、本実施例はスキャニング法を対象とする。スキャニング法は、高エネルギービーム輸送系310から輸送された細いビームをそのまま標的へ照射し、これを3次元的に走査することで、最終的に標的のみに高線量領域を形成することができる。
【0027】
図4は、スキャニング法に対応した照射野形成装置400の構成を示す。
図4を使って、照射野形成装置400内の機器のそれぞれの役割と機能とを簡単に述べる。照射野形成装置400は、上流側から二つの走査電磁石401および402、線量モニタ403、ビーム位置モニタ404を備える。線量モニタ403はモニタを通過した粒子ビームの量を計測する。一方、ビーム位置モニタ404は、粒子ビームが通過した位置を計測することができる。これらのモニタ403、404からの情報により、計画通りの位置に、計画通りの量のビームが照射されていることを、照射制御システム314が管理することが可能となる。
【0028】
荷電粒子ビーム発生装置301から高エネルギービーム輸送系310を経て輸送された細い粒子ビームは、走査電磁石401、402によりその進行方向を偏向される。これらの走査電磁石は、ビーム進行方向と垂直な方向に磁力線が生じるように設けられており、例えば
図4では、走査電磁石401は走査方向405の方向にビームを偏向させ、走査電磁石402はこれに垂直な方向に偏向させる。この二つの電磁石を利用することで、ビーム進行方向と垂直な面内において任意の位置にビームを移動させることができ、標的406aへのビーム照射が可能となる。
【0029】
照射制御システム314は、走査電磁石磁場強度制御装置411を介して、走査電磁石401および402に流す電流の量を制御する。走査電磁石401、402には、走査電磁石用電源410より電流が供給され、電流量に応じた磁場が励起されることでビームの偏向量を自由に設定できる。粒子ビームと偏向量と電流量との関係は、あらかじめテーブルとして中央制御装置312の中のメモリ313に保持されており、それを参照する。
【0030】
スキャニング法のビームの走査方式は二通りある。一つは照射位置の移動と停止を繰り返す離散的な方式、もう一つは連続的に照射位置を変化させる方式である。離散的な方式は、以下の流れで実施される。まず、照射位置をある点に留めたまま、規定量のビームが照射される。この点のことをスポットと呼ぶ。規定量のビームがスポットへ照射されたら、続いて、一時的にビームの照射を停止させた後、次の位置へ照射できるように走査電磁石の電流量が変更される。電流量が変更され、次の照射位置に移動後、再びビームを照射させる。なお、この時、照射位置の移動が高速であれば、言い換えると、高速なビーム走査が可能であれば、移動中もビームを停止させないように制御することも可能である。
【0031】
照射位置を連続的に移動させる方式は、ビームを照射したまま照射位置を変化させる。
すなわち、電磁石の励磁量を連続的に変化させながら、照射野内全体を通過するようにビームを照射しながら移動させる。この方法における照射位置ごとの照射量の変化は、走査速度かビームの電流量、あるいはその両方を変調させることで実現する。
【0032】
離散的な方式による照射の概念図を
図5に示す。
図5は、立方体の標的801を照射する例である。粒子ビームは、進行方向におけるある位置で停止し、その停止位置にエネルギーの大部分を付与するため、ビームの停止する深さが標的領域内となるようにエネルギーが調整される。
図5では、同一エネルギーで照射される面802付近で停止するエネルギーのビームが選ばれている。この面上に、離散的なビーム照射位置(スポット)がスポット間隔803で配置されている。一つのスポットで規定量を照射すると、次のスポットへ移動する。スポット804は、スポット804を照射するビームの軌跡805を通るビームで照射される。標的内に配置された同一エネルギーのスポットを順次照射し終わると、標的内の他の深さ位置を照射するために、ビームを停止させる深さが変更される。
【0033】
ビームの停止する深さを変化させるためには、患者406に照射するビームのエネルギーを変化させる。エネルギーを変化させる方法の一つは、粒子ビーム加速装置、すなわち本実施例においてはシンクロトロンの設定を変更することである。粒子はシンクロトロンにおいて設定されたエネルギーになるまで加速されるが、この設定値を変更することで患者406に入射するエネルギーを変更することができる。この場合、シンクロトロンから取り出されるエネルギーが変化するため、高エネルギービーム輸送系310を通過する際のエネルギーも変化し、高エネルギービーム輸送系310の設定変更も必要になる。シンクロトロンの場合、エネルギー変更には1秒程度の時間を要する。
【0034】
図5の例では、同一エネルギーで照射される面802に相当する領域に主にエネルギーを付与していた。エネルギーを変更することで、例えば
図6のような状況となる。
図6では、
図5で使用したエネルギーよりも低いエネルギーのビームが照射される。そのため、ビームはより浅い位置で停止する。この面を同一エネルギーで照射される面901で表わす。このエネルギーのビームに対応するスポットの一つであるスポット902は、スポット902を照射するビームの軌跡903を通るビームで照射される。
【0035】
ビームエネルギーを変化させるもう一つの方法は、照射野形成装置400内に飛程変調体(図示せず)を挿入することである。変化させたいエネルギーに応じて、飛程変調体の厚みを選択する。厚みの選択は、複数の厚みを持つ複数の飛程変調体を用いる方法や、対向する楔形の飛程変調体を用いてもよい。
【0036】
図5は、本発明の好適な一実施例である治療計画装置501の構成を示す。まず、治療計画装置501は、ネットワークによりデータサーバ502、中央制御装置312と接続される。治療計画装置501は、
図6に示すように、放射線を照射するためのパラメータを入力するための入力装置602、治療計画を表示する表示装置603、メモリ604、線量分布計算を実施する演算処理装置605(演算装置)、通信装置606を備える。演算処理装置605が、入力装置602、表示装置603、メモリ(記憶装置)604、通信装置606に接続される。
【0037】
ここから、治療計画装置501を用いた操作の流れを、
図1および
図2に沿って説明する。
図1は操作者の操作の流れを、
図2は本実施例の治療計画装置501が主に演算処理装置605を使用して実施する計算内容の流れを示したものである。
【0038】
治療に先立ち、治療計画用の画像が撮像される。治療計画用の画像として最も一般的に利用されるのはCT画像である。CT画像は、患者の複数の方向から取得した透視画像から、3次元のデータを再構成する。本実施例は、4DCT画像を利用して治療計画を作成するため、ここで取り込むCT画像も4DCT画像である。ただし、ここで参照する4DCT画像とは、通常のCT画像と異なる特別の撮像方法を経て得られた画像に限定するものではなく、同一の患者の複数の異なる状態における複数の3次元CT画像からなるデータセットのことを表わす。
【0039】
CT装置(図示せず)により撮像された4DCT画像は、データサーバ502に保存されている。治療計画装置501は、この4DCT画像を利用する。操作者による治療計画立案の流れを
図1により示す。まず、治療計画の立案が開始されると(ステップ101)、本治療計画装置の操作者である技師(または医師)は、入力装置602であるマウス等の機器を用いて、データサーバ502から対象となるCTデータを読み込む。すなわち、治療計画装置501は、入力装置602の操作により、通信装置606に接続されたネットワークを通じて、データサーバ502から4DCT画像をメモリ604上にコピーする(ステップ102)。
【0040】
前述した通り、4DCT画像は複数の3次元CT画像のセットから成り、標的領域および周辺の体内構造の、並進、回転、変形を含む、動きの情報を保持している。本実施例では、この様な、放射線を照射する領域の変動に関する情報を保持した一連の3次元CT画像を4DCT画像と呼ぶ。4DCT画像を構成する各々の3次元CT画像は、既知の時間的関係を伴い、ある動きのサイクル(例えば患者の呼吸や心拍のサイクル)の間の、異なる時点における領域の状態を示す。
図9は、4DCT画像を表わす概念図であり、第一の3次元CT画像701〜第四の3次元CT画像704(以降、単に画像701、画像702、画像703、画像704と記載する)の四つの3次元CT画像からなる。なお、
図9では、便宜上、701〜704の四つの3次元CT画像を2次元CT画像の様で描写している。
【0041】
各々の3次元CT画像は肺705と標的領域706を含む患者の胸部領域の3次元CT画像である。画像701〜画像704の3次元CT画像は、患者の呼吸サイクルにおける四つの時点、CT時間1、CT時間2、CT時間3、CT時間4に撮像された状態を表す。これらの画像は、呼吸サイクルの中でどの状態であるのかの情報と関連付けられる。例えば、呼吸の一サイクルが全呼気、全吸気、およびその中間の状態(位相)に分割され、画像701から画像704までの画像が各々の位相に属することになる。この例では、4DCT画像は単一の動き(呼吸)サイクルからなるが、複数の動きサイクルにわたり取得されてもよい。複数のCT画像のセットであって、各々の画像に時間、状態の情報が関連付けられたものであれば一つのサイクルに限定されるものではない。
【0042】
データサーバ502からメモリ604への3次元CT画像の読み込みが完了し、3次元CT画像が表示装置603に表示されると、操作者は表示装置603に表示された3次元CT画像を確認しながら、入力装置602に相当するマウス等の機器を用いて、3次元CT画像のスライス、すなわち2次元CT画像ごとに標的として指定すべき領域を入力する。ここで入力すべき標的領域は、腫瘍細胞が存在する、あるいは存在する可能性があるために十分な量の放射線を照射すべきと判断された領域である。これを標的領域と呼ぶ。照射線量を極力抑えるべき重要臓器が標的領域の近傍に存在するなど、他に評価、制御を必要とする領域がある場合、操作者はそれら重要臓器等の領域も同様に指定する。
【0043】
ここでの領域描画は、4DCT画像に含まれる個々の3次元CT画像すべてにおいて実施してもよいが、4DCT画像に含まれるある一つの状態の3次元CT画像のみ使用することもできる。例えば、全呼気の状態の画像を選択し、この画像上で領域を指定する。また、標的領域の描画は、すべての画像から一枚の画像を合成し、その画像上で描画を行うこともできる。例えば、複数の3次元CT画像から、同じ位置を表す点のCT値を比較し、すべての点において最も輝度の高い数値を選択していくことで1セットの合成CT画像を得ることができる。他にも、MRIに代表される異なるモダリティの画像上で実行されてもよい(ステップ103)。
【0044】
ある一つの3次元CT画像でのみ標的領域、あるいは重要臓器の領域を入力した場合、4DCT画像に含まれる各々の3次元CT画像上での領域は、非剛体レジストレーション技術を用いて決定することができる。操作者による修正が必要な場合があるが、標的領域の変形まで含め、ある画像での領域形状を、動きのモデル(各点の移動の向き、大きさ)を定義した上で他の画像に対応する領域を描画することができる。そうすることによって、4DCT画像に含まれる個々の3次元CT画像について領域描画をする手間を省き、操作者の作業量を軽減することができる。
【0045】
すべての3次元CT画像に対して領域の入力が終わると、操作者は入力した領域の登録を指示する。登録することで、操作者が入力した領域は3次元の位置情報としてメモリ604内に保存される(ステップ104)。領域の位置情報はデータサーバ502にも保存可能であり、3次元CT画像を読み込むにあたり過去に入力された情報を3次元CT画像と共に読み込むこともできる。
【0046】
次に操作者は、登録された標的領域に対して照射すべきビームの位置やエネルギーの情報を含む治療計画を作成する。4DCT画像には、標的領域の変動の情報を保持した複数の3次元CT画像が含まれるが、治療計画の立案は特定の一つの3次元CT画像を参照して実行される。操作者は参照する3次元CT画像を選択する。これは4DCT画像の中のある一つの位相に該当する3次元CT画像でもよいし、同一の患者に対して4DCT画像とは別に撮影された通常の(4Dでない)3次元CT画像であってもよい。以下の操作は、ここで選択した3次元CT画像に基づいて行われる。
【0047】
操作者は、選択した3次元CT画像上で、必要な照射パラメータを設定する(ステップ104)。まず、操作者は、照射方向を設定する。本実施例を適用した粒子線治療システムは、回転照射装置311とベッド407の角度を選択することで、患者の任意の方向からビームの照射を行うことができる。照射方向は一つの標的に対して複数設定することが可能である。ある方向からビームが照射される場合、
図8のように、照射時には標的領域706の重心位置がアイソセンタ(回転照射装置311の回転中心位置)に一致するように位置決めされることが想定される。
【0048】
他に操作者が決定すべき照射のためのパラメータとしては、ステップ102で登録した領域に照射すべき線量値(処方線量)がある。処方線量は標的に照射すべき線量や、重要臓器が避けるべき最大線量が含まれる。
【0049】
以上のパラメータが決まった後、操作者の指示に従って治療計画装置501が自動で計算を行う(ステップ107、
図2)。以下で、治療計画装置501が行う線量計算に係わる内容の詳細に関して説明する。
【0050】
初めに、治療計画装置501は、ビーム照射位置を決定する。前述した離散的な走査方式であれば、離散的なスポット位置、連続的な照射であれば走査経路を算出する。本実施例では、離散的な操作方式を想定する。照射位置は標的領域を覆うように設定される。照射方向(回転照射装置311とベッド407の角度)として複数の方向が指定されている場合は、各方向に関して同じ操作を行う。
【0051】
全ての照射位置が決定されると、治療計画装置501は照射量の最適化計算を開始する。各スポットへの照射量が、ステップ105で設定された目標の処方線量に近づくように決定される。この計算では、スポットごとの照射量をパラメータとした目標線量からのずれを数値化した目的関数を用いる方法が広く採用されている。目的関数は線量分布が目標とする線量を満たすほど小さな値となるように定義されており、目標関数が最小となるような照射量を反復計算により探索することで、最適とされる照射量を算出する。
【0052】
反復計算が終了すると、最終的に各スポットに必要な照射量が定まる。複数あるスポットの照射順序も、この段階で定まる。通常は
図5の走査経路806で示したようにジグザグな経路が設定されるが、走査時間や走査方向を考慮した基準に従って照射順序を並び替えることも可能である。ただし、離散的な走査方式であれば、この段階では照射順序は線量分布に影響しない。
【0053】
次に、治療計画装置501は演算処理装置605により、最終的に得られたスポット位置とスポット照射量を用いて、線量分布を計算する。必要があれば、計算した線量分布結果は、表示装置603に表示される。この結果は、ステップ103において選択した3次元CT画像に対する結果であって、放射線を照射している期間における標的の移動、変形、回転などの、標的領域の変動の情報を考慮した結果でないことに留意する。
【0054】
本実施例の治療計画装置は、作成した治療計画情報に基づく線量分布結果を、特定の3次元CT画像上のみで計算するだけでなく、4DCT画像、すなわち複数の異なる状態での3次元CT画像の情報を総合した上で線量分布を計算し、表示することができる。以下は、その方法の詳細な説明である。計算の流れは
図2のステップ201からステップ210にまとめる。
【0055】
本実施例の治療計画装置501は、治療計画に従った放射線治療を開始した時点における患部の動きの状態を、任意に選択可能である。
【0056】
まず、操作者は照射開始時、すなわち放射線の照射が開始された時の状態(位相)を指定する(ステップ106)。前述したように、4DCT画像に含まれる各々の3次元CT画像には、標的領域の変動に関して、それぞれ対応する位相の情報が含まれる。例えば、
図9のように呼吸による移動情報を含む4DCT画像であれば、一つのサイクルが全呼気、全吸気、およびその中間の状態(位相)の四つに分割され、それぞれ画像701、画像702、画像703、画像704のCT画像で代表されている。呼吸サイクルが、この順で繰り返されると、画像701の状態の位相を0、画像702の状態の位相が0.25、703の状態の位相が0.5、画像704の状態の位相が0.75、そして位相1.0で画像701に戻る、というように位相状態が0から1の間の実数で指定できる。なお、位相を0から1の実数で指定することは一例であるため、操作者にとってより分かり易い指標があれば、そちらを採用してもよい。
【0057】
4DCT画像に含まれる各々の3次元CT画像の位相は、4DCT画像を撮影する機器によって予め取得される場合もあるが、操作者が入力装置602を使って設定してもよい。入力装置602を使って操作者が、標的領域の変動に関する位相を、一連の3次元CT画像に対して設定できれば、前述したように、特別の撮像方法を経て得られた画像でなくとも、本実施例の治療計画装置501で利用することが可能となる。
【0058】
本実施例の治療計画装置501は、照射開始時の位相を操作者が指定するための位相指定機能を備える。例えば、位相指定機能として、
図10のようなスライダーがあれば、操作者は入力装置602を用いてスライダー1001を調節して位相を設定する。あるいは、操作者が位相の値を直接入力できてもよい。操作者が位相の値を入力しない場合は、規定値が設定される(ステップ202)。なお、初期位相を入力するステップ106と、領域を入力するステップ104、照射パラメータを決めるステップ105等との順序は、
図1に示す順に限るものではなく、どこで決めてもよい。また、位相指定機能は、入力装置602がその機能を兼ねていてもよい。
【0059】
入力された照射開始時の位相と、動きサイクルに従って、演算処理装置605は、照射開始からの時間に対応する位相を割り当てる。すなわち、治療計画に従った放射線治療の開始から完了するまでの経過時間の情報に対して、4DCT画像を構成する一連の3次元画像のそれぞれに設定された位相を関連付けることによって、照射開始からの任意の時間に、患者の状態がどの位相状態あるのかを参照できるようにする(ステップ203)。なお、この関連付けのためには4DCTに含まれる動きサイクルの周期、言い換えると標的領域の変動の周期の情報が必要になる。4DCT撮影時に得られた情報から周期が分かる場合はその情報を利用できるが、分からない場合も典型的な値、すなわち呼吸のサイクルであれば数秒程度、といった値を操作者が、入力装置602を利用して入力することもできる。
【0060】
あるいは、実際に照射が行われた後、既に照射された線量を評価する目的で治療計画装置を用いて線量分布を計算することもある。この場合、放射線照射時に患部の動きを監視できる装置によって、照射開始からの患部の動きを常に記録していれば、そこから経過時間に依存する患部の位相の変化、すなわち標的領域の変動に関する位相を直接、経過時間に対して入力してもよい。
【0061】
一方で、演算処理装置605は、治療計画に従って放射線治療が開始されてから経過した任意の時間において照射している放射線の情報(照射位置、照射方向、エネルギー等)を算出する(ステップ204)。ビームの照射位置や照射量は、予め作成された治療計画情報に含まれるが、経過時間に対応した照射位置を算出するためには、スポット当たりの照射時間、スポット間の移動時間、エネルギー変更に要する時間等の情報も必要になる。
【0062】
これらの情報は放射線治療装置固有の情報であり、本実施例の粒子線スキャニング照射の場合であれば、シンクロトロンから出射されるビームの電流値、エネルギー変更に要する時間、走査電磁石401、402を利用した時の走査速度などが含まれる。これらの値は、あらかじめ治療計画装置上のメモリ604に記憶されており、計算に必要な場合は参照することができる。また、操作者による値の変更も可能である。
【0063】
ステップ203およびステップ204の計算順序はどちらが先でも構わない。ステップ203およびステップ204の計算結果を参照することにより、照射開始からの任意の時間において、患部の位相と、照射している放射線の情報の両者を得ることができる。この二つの情報に基づき、演算処理装置605は線量分布を計算する。この時、患部の位相である標的領域の変動に関する位相は経過時間に対してある値が定まるが、4DCT画像は一つのサイクルに対して数個から10個程度の位相の情報しか含んでおらず(例えば
図9では四つ)、ある位相に一致するCT画像が常に存在するわけではない。
【0064】
そこで、ある位置を照射する放射線が形成する線量分布を計算する時に、4DCT画像を構成する画像の中から、その位置を照射する時間に対応する位相に最も近い位相のCT画像を選択し、計算する方法が考えられる。この場合、スキャニング照射法では、同一エネルギーのスポット(例えば、
図5の同一エネルギーで照射される面802内のスポット)のすべてが同じCT画像に割り当てられず、例えば前半と後半で異なる位相のCT画像上で線量計算が実施されることもある。この結果、最終的に積算した線量で評価すると、前半部分と後半部分のつなぎ目で線量が実際よりも高い領域、あるいは低い領域が生じてしまう可能性がある。
【0065】
一方で、同一エネルギーのスポットの照射には数10〜数100ミリ秒の時間しか要さず、呼吸等の動きにくらべれば十分にはやく、本来は動きの線量分布への影響は小さいと思われる。つまり、最も近い位相の画像を選択する方法は、スキャニング照射法のように照射位置が時間ごとに短い間隔で変化する照射法において、本来は現れないような線量分布の変化が計算上、発生する可能性がある。
【0066】
これを避けるために、本実施例の治療計画装置は次のような方法で線量分布計算を実施する。
図11に、この方法を概念的に表す。
【0067】
前述したように、演算処理装置605は照射開始からの経過時間の関数として患者の位相を算出することができる。
図11は横軸に経過時間を表し、経過時間への4DCT画像の関連付けの結果1101を点線で囲んで表示している。同じサイクルを繰り返すと仮定しているので、画像701の位相(位相0)から画像702(位相0.25)、画像703(位相0.5)、画像704(位相0.75)を経て、画像701に戻る動きサイクルを繰り返す。
【0068】
ここで、演算処理装置605は、治療に用いられる放射線を複数のグループに分類する(ステップ205)。スキャニング照射法であれば、もっとも細かくは一つのスポットを一つのグループとしてもよいが、通常は同一エネルギーのビームを一つのグループにまとめれば十分である。この様子を
図11の点線で囲った、各グループに対する照射時間の経過時間に対する関連付けの結果1102として示す。それぞれ線で表した、照射時間 1103、1104 は、一つのグループに属するそれぞれのスポットが照射され、一つのグループに対する照射が完了するまでの時間をそれぞれ表わしている。
【0069】
次いで、演算処理装置605は、各々のグループに対して代表的な照射時間を設定する(ステップ206)。例えば、グループに属するスポットを照射する時間の、ちょうど中間の時間(中間時点)を代表的な照射時間とすれば、容易に代表時間を治療計画から算出することができる。この中間時点に基づき、対応する患部の位相を参照する。
【0070】
図11からも分かるように、当然ながらこの位相は元々の4DCT画像に含まれる画像(画像701から画像704のどれか)の位相とは一致しない。
図11では、照射時間1103の代表時間1105は、経過時間への4DCT画像の関連付けの結果1101内の位相(画像701から画像704)と一致しない。
【0071】
そこで、この位相に相当する画像を、元の4DCT画像に含まれる画像701から画像704を使って、演算処理装置605が生成する。
【0072】
図11の例では、代表時間1105に相当する位相を表わす3次元CT画像を、その位相の両隣の画像である画像701と画像702から生成する(ステップ207)。この
図11から明らかなように、本実施例では、演算処理装置605が、放射線が照射される期間ごとに、標的領域の変動の情報を補間し、その補間結果が反映された3次元画像を生成している。
【0073】
ここで使われる技術は、非剛体レジストレーション技術である。非剛体レジストレーション技術では参照画像の点が、他の画像でどの点に位置するのかが関連付けられている。
すなわち、画像701上の点Aの座標xが、画像702上では座標x′の点に位置することが分かっている。さらに言えば、xからx′に向かうベクトルが定義されている。画像701の位相が0、画像702の位相が0.25、画像の欲しい位相が0.1であれば、点Aから定義されたベクトルを元の0.1/0.25倍の長さとして伸ばした座標が、この位相で点Aに対応する点となる。この作業をすべての点に対して行うことで、代表時間1105に対応する位相の画像が生成できる。なお、この画像生成方法は一例であって、二つの3次元CT画像から、照射時間の代表時間に対応する位相の3次元CT画像を生成できる方法であればよい。
【0074】
図11では、代表時間1105に対応する位相の画像である補間画像1106が生成され、同様に照射時間1104の代表時間1107に対応する位相を表わす補間画像1108が生成されている。同様に生成されたCT画像が、照射時間に応じて補間処理により生成された補間画像群1109の中に図示されている。各グループに属するスポットの形成する線量分布は、このCT画像に基づいて計算される。すなわち、照射時間1103に照射されるグループに属するスポットの形成する線量分布は、そのグループに属するスポットに対して放射線が照射される期間における標的領域の変動を補間した結果である補間画像1106上で計算される。演算処理装置605は、この作業をすべてのグループに対して、言い換えると、全ての照射時間について行う(ステップ208)。この様に、本実施例の治療計画装置は、線量分布を算出する際に、治療計画に従った放射線治療の開始から完了までの経過時間の中で、任意の時点における標的領域の変動を反映した画像を、予め取得した複数の画像から補間処理により生成し、この生成された画像上で線量分布を演算している。
【0075】
なお、表示装置603は、4DCT画像を構成する一連の3次元CT画像から生成された、放射線が照射されている期間に対応する3次元CT画像及び、その生成された3次元CT画像上で演算された線量分布を逐次表示してもよい。そうすることによって、治療計画に従って放射線治療が実施された場合に形成される線量分布を、時系列に沿って把握することができる。
【0076】
演算処理装置605は、すべてのスポットの線量分布の計算が終わると、最終的な線量分布を得るために、すべての画像において演算した線量分布を積算する。すなわち、演算処理装置605が、放射線が照射される期間ごとに形成される線量分布を、放射線治療の開始から完了までにわたって積算することによって、放射線治療を完了したときに形成される線量分布を算出する。
【0077】
図11では、照射時間に応じて補間処理により生成された補間画像群1109内のCT画像に対して、対応するグループ内のスポットによる線量分布が計算されているので、このすべてを積算する(ステップ209)。積算に当たっては、非剛体レジストレーション技術を用いて、対応する点での線量を積算してもよい。演算処理装置605は、最終的な線量分布を表示装置603に表示する。
【0078】
操作者は出力された放射線治療が完了したときに形成される線量分布を評価し、この線量分布が目標とする条件や、放射線治療が完了したときに形成される、目標とする線量分布との一致度を満たしているか否かを判断する(ステップ109)。評価のために、ステップ105で指定した初期位相を変更して計算をやり直すことも有用である。あるいは、初期位相を自動で何通りか選択し計算した後、それらの目標とする分布からのずれの平均値を算出手段も用意できる。演算処理装置605が、複数の初期位相を設定したときの線量分布と、目標とする線量分布とのずれの平均値を算出することで、標的領域の変動が、計画された線量分布に対して与える平均的な影響を評価することができる。
【0079】
また、本実施例の治療計画装置501は、3次元のCT画像上での線量分布のみでなく、任意断面での分布を表示装置603に表示することも可能である。また、標的領域に代表される特定の領域内での線量ヒストグラムをグラフとして表示することもできる。必要であれば、操作者は入力装置602を用いて、表示されている分布やグラフをデータとして治療計画装置501の外部に出力することもできる。
【0080】
最終的に形成される線量分布を評価した結果、操作者が望ましくない分布であると判断した場合は、ステップ103に戻り、照射パラメータを設定し直す。変更すべきパラメータとしては、照射方向や処方線量があるが、4DCTを使った計算では走査経路や繰り返し照射数も線量分布に影響するため、これらの値も設定が可能である。
【0081】
設定を変更した後、4DCT画像を使った計算が繰り返される。望ましい結果が得られた時点で、治療計画の立案は終了する。得られた照射条件は、ネットワークを通じてデータサーバ502に保存される(ステップ110、ステップ111)。
【0082】
以上のように、本実施例の治療計画装置501は、4DCT画像を用いることによって、標的の動きが線量分布へと与える影響を考慮して、最終的に形成される線量分布CT画像評価することが可能となる。
【0083】
また、演算処理装置605が、治療計画情報に従って放射線が照射される期間ごとに、標的領域の変動の情報を補間した結果として、その期間における標的領域の変動が反映された3次元CT画像を4DCT画像から生成し、この生成された3次元CT画像を使って線量分布を演算しているため、標的領域の移動や変形を考慮した高精度な線量分布の演算が可能となる。
【実施例2】
【0084】
実施例1では、
図11のように対応する位相に相当する画像を非剛体レジストレーションによる補間操作により生成した。生成すべき画像数が増えると、計算時間が増大する。
CT画像自体を補間により生成する操作は、線量分布計算に必要ない部分の画素まで補間してしまうため、本実施例では標的領域等の線量分布に関心がある領域内のみに計算対象を絞る。
【0085】
本実施例に関しては、
図1に示す操作者の操作の流れは実施例1と同様であって、
図2に示す計算内容の流れ
においても、ステップ206までは実施例1と同じであり、
図12に示すようにステップ217からステップ219の内容のみが実施例1と異なる。以下にこのステップの内容のみ説明する。
【0086】
ここでは、ステップ205で分類したグループの中の、ある一つのグループに属するスポットに関する線量分布計算を考える。まず、ステップ103で操作者により入力された標的領域等の関心領域内に線量を評価する計算点を設定する。3次元CT画像の解像度で領域内に計算点を配置すればよく、この計算点は入力装置を使って操作者が設定してもよいし、また演算処理装置605が標的領域内に自動的に設定してもよい。
【0087】
これらの計算点のインデックスをjで表わす。次いで、該当するグループに属するスポットの中で、i番目のスポットに単位強度のビームを照射した場合にj番目の点に与える線量を計算し、この値をD
ijとする。
図12のステップ217で、この値をすべてのスポットおよびすべての計算点に
対して算出する。すなわち、D
ijとは、ある標的領域の変動に関する位相を保持する3次元CT画像において、それぞれのスポットに対してある強度をもつビーム(単位強度ビーム)が照射されたときに、計算点jが、それらの各スポットから受ける線量の度合いを示している。
【0088】
j番目の計算点の線量d
jは、周囲のスポットからのこの計算点への寄与の和をとれば求まるため、以下のような計算で算出される。
図12に示すステップ218で、この処理が行なわれる。
【0089】
本実施例のステップ217について詳細に説明する。
【0090】
【数1】
【0091】
w
iはi番目のスポットに照射した照射量である。
【0092】
演算処理装置605は、D
ijの計算を、4DCT画像に含まれるすべての3次元CT画像で計算する(ステップ217)。すなわち、4DCT画像を構成する一連の3次元CT画像ごとに、ある強
度のエネルギーをもつ放射線が標的領域内に照射されたときに計算点jへ付与される線量の度合いを演算する。
図9の例では、4DCT画像に画像701〜画像704の4セットが含まれるが、本実施例では、演算処理装置605は、これらを順にA、B、C、Dと参照する。例えば
、画像701を使って計算した要素D
ijは、D
ijA、画像702を使って計算した要素D
ijは、D
ijBと表す。
【0093】
以上の情報を基に、任意の位相に対応する画像での計算点の線量が次のように求められる。実施例1と同様に、画像701の位相が0、画像702の位相が0.25とする。位相0.1に対応する画像での線量の計算は、実施例1のように3次元CT画像全体を補間するのではなく、D
ijの値を補間する。すなわち、新たなD
ijの値を次のように計算する。
【0094】
【数2】
【0095】
次にステップ218について説明する。
【0096】
新たに求めたD
ijは、治療計画に従って放射線治療が開始されてから、ある時点における放射線の照射期間において、計算点jが、標的領域の全体から与えられる線量の寄与を、一連の3次元CT画像と、放射線治療の経過時間とから補間した結果である。すなわち、放射線の照射期間における標的領域の変動に関する情報を補間した結果として、実施例1においては、3次元CT画像を生成したが、本実施例では、計算点jへ与えられる線量の寄与が演算される。
【0097】
関心領域内の各計算点での線量は、(式2)で求まった値を使って、(式1)から計算できる。演算処理装置605が、治療計画に従って放射線治療が開始されてから完了するまでの経過時間の中で、放射線が照射されている期間の任意の時点に関して(式2)に基づきD
ijを補間し、この任意の時点において照射されている放射線の線量w
i を治療計画から読み出し、(式1)を計算することによって、任意の時点において計算点jに対する線量を求めることができる(ステップ218)。
【0098】
実施例1と同様に、演算処理装置605が、
図12のステップ219に示すように、治療計画に従った放射線治療の開始から完
了までにわたって、計算点jにおける線量を積算することで、放射線治療を完了したときに形成される線量分布を評価することもできる。また、この積算した線量分布は、表示装置603に表示することもできる。
【0099】
以上の操作により、放射線の照射期間に対応する3次元CT画像を非剛体レジストレーション技術等により補間する操作を省くことができるため、計算時間を短縮することができ、かつ標的領域の変動の情報を反映した線量分布の計算を実施できる。元の4DCT画像に含まれる3次元CT画像間の位相間隔が大きすぎなければ、この方法による計算結果も実施例1と大きく変わらない。