特許第6247913号(P6247913)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ リンテック株式会社の特許一覧

特許6247913コロナ表面処理装置および剥離フィルムの製造方法
<>
  • 特許6247913-コロナ表面処理装置および剥離フィルムの製造方法 図000003
  • 特許6247913-コロナ表面処理装置および剥離フィルムの製造方法 図000004
  • 特許6247913-コロナ表面処理装置および剥離フィルムの製造方法 図000005
  • 特許6247913-コロナ表面処理装置および剥離フィルムの製造方法 図000006
  • 特許6247913-コロナ表面処理装置および剥離フィルムの製造方法 図000007
  • 特許6247913-コロナ表面処理装置および剥離フィルムの製造方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6247913
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】コロナ表面処理装置および剥離フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/00 20060101AFI20171204BHJP
   G02B 1/12 20060101ALI20171204BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   C08J7/00 302
   G02B1/12
   B32B27/00 L
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-248671(P2013-248671)
(22)【出願日】2013年11月29日
(65)【公開番号】特開2015-106090(P2015-106090A)
(43)【公開日】2015年6月8日
【審査請求日】2016年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】高野 実希
(72)【発明者】
【氏名】深谷 知巳
【審査官】 大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−189129(JP,A)
【文献】 特開2010−241999(JP,A)
【文献】 特許第0614942(JP,B2)
【文献】 特開平05−339398(JP,A)
【文献】 特開2002−179822(JP,A)
【文献】 特開平10−296856(JP,A)
【文献】 特開昭62−167326(JP,A)
【文献】 特開2012−144034(JP,A)
【文献】 特表2016−516571(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 71/00−71/04
C08J 7/00−7/02;7/12−7/18
B01J 10/00−12/02
B01J 14/00−19/32
H05H 1/00− 1/54
B32B 1/00−43/00
H01G 4/12,4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の放電電極と、
前記各放電電極と対向するように配された複数の対向電極と、を有し、
コロナ表面処理を施す被処理物を前記放電電極と前記対向電極との間に導く、円柱状のガイドロールを備え、
前記複数の対向電極は、前記ガイドロールと一体的に設けられていることを特徴とするコロナ表面処理装置。
【請求項2】
前記ガイドロールは、ガイドロール本体と、ガイドロール本体の外周面を覆う絶縁体層と、で構成され、
前記複数の対向電極は、前記ガイドロール本体の外周面上に設けられており、かつ、前記絶縁体層に埋め込まれている請求項1に記載のコロナ表面処理装置。
【請求項3】
前記対向電極は、前記ガイドロール本体の外周面から突出している請求項1または2に記載のコロナ表面処理装置。
【請求項4】
コロナ表面処理を施す被処理物は、帯状をなしており、
前記複数の放電電極および前記複数の対向電極は、前記被処理物の幅方向に所定の間隔で並んで設けられている請求項1ないしのいずれか1項に記載のコロナ表面処理装置。
【請求項5】
請求項1ないしのいずれか1項に記載のコロナ表面処理装置を用いて、コロナ表面処理を施すことを特徴とする剥離フィルムの製造方法
【請求項6】
グリーンシートの製造に用いられる帯状の剥離フィルムの製造方法であって、
前記剥離フィルムは、帯状の基材と、
前記基材の一方の面の全面に形成された剥離剤層と、を有し、
前記剥離剤層の前記基材とは反対側の面に、形成すべきグリーンシートの幅方向の端部を包含する第1の領域と、形成すべきグリーンシートと接し、かつ、前記第1の領域とは異なる第2の領域と、を有し、
前記第1の領域の水に対する静的接触角をX[°]、前記第2の領域の水に対する静的接触角をY[°]としたとき、Y−X≧11の関係を満足し、
前記剥離剤層の表面に対して、請求項1ないしのいずれか1項に記載のコロナ表面処理装置によりコロナ表面処理を施して、前記第1の領域を形成することを特徴とする剥離フィルムの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロナ表面処理装置および剥離フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、フィルムや基板等の被処理物の表面に、親水性を付与して濡れ性を向上させるなどの目的で、コロナ表面処理が行われている。
【0003】
このようなコロナ表面処理を施すコロナ表面処理装置は、放電電極と対向電極とを備えており、放電電極と対向電極との間を被処理物を通過させつつ、放電電極から対向電極に向かって放電を行い、被処理物の表面にコロナ表面処理を施すよう構成されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0004】
従来のコロナ表面処理装置では、電極が一対の放電電極と対向電極とで構成されており、一般に被処理物の表面全体に対して処理を施すよう構成されている。被処理物の表面の一部に処理を施すような場合には、表面処理を施さない部分にマスクをして行っている。
【0005】
ところが、このようなマスクを用いたコロナ表面処理は、長時間コロナ表面処理に晒されることにより、マスク部分が熱を帯びてしまい、その熱によって被処理物が悪影響を受けてしまうといった問題がある。また、長時間コロナ表面処理に晒されることでマスクにダメージが生じてしまい、このダメージ部分から、本来表面処理が施されない部分にも処理が施されてしまうといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−7499号公報
【特許文献2】特開2003−71925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、フィルムや基板等の被処理物の表面の一部に容易にコロナ表面処理を施すことが可能なコロナ表面処理装置を提供すること、このようなコロナ表面処理装置によってコロナ表面処理が施された剥離フィルムを製造する方法を提供すること、グリーンシートを製造する際に、グリーンシートの端部の収縮を抑制することができ、グリーンシートに欠け等が発生するのを抑制することが可能な剥離フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記(1)〜()の本発明により達成される。
(1) 複数の放電電極と、
前記各放電電極と対向するように配された複数の対向電極と、を有し、
コロナ表面処理を施す被処理物を前記放電電極と前記対向電極との間に導く、円柱状のガイドロールを備え、
前記複数の対向電極は、前記ガイドロールと一体的に設けられていることを特徴とするコロナ表面処理装置。
【0010】
) 前記ガイドロールは、ガイドロール本体と、ガイドロール本体の外周面を覆う絶縁体層と、で構成され、
前記複数の対向電極は、前記ガイドロール本体の外周面上に設けられており、かつ、前記絶縁体層に埋め込まれている上記(1)に記載のコロナ表面処理装置。
【0011】
) 前記対向電極は、前記ガイドロール本体の外周面から突出している上記(1)または(2)に記載のコロナ表面処理装置。
【0012】
) コロナ表面処理を施す被処理物は、帯状をなしており、
前記複数の放電電極および前記複数の対向電極は、前記被処理物の幅方向に所定の間隔で並んで設けられている上記(1)ないし()のいずれかに記載のコロナ表面処理装置。
【0013】
) 上記(1)ないし()のいずれかに記載のコロナ表面処理装置を用いて、コロナ表面処理を施すことを特徴とする剥離フィルムの製造方法
【0014】
) グリーンシートの製造に用いられる帯状の剥離フィルムの製造方法であって、
前記剥離フィルムは、帯状の基材と、
前記基材の一方の面の全面に形成された剥離剤層と、を有し、
前記剥離剤層の前記基材とは反対側の面に、形成すべきグリーンシートの幅方向の端部を包含する第1の領域と、形成すべきグリーンシートと接し、かつ、前記第1の領域とは異なる第2の領域と、を有し、
前記第1の領域の水に対する静的接触角をX[°]、前記第2の領域の水に対する静的接触角をY[°]としたとき、Y−X≧11の関係を満足し、
前記剥離剤層の表面に対して、上記(1)ないし()のいずれかに記載のコロナ表面処理装置によりコロナ表面処理を施して、前記第1の領域を形成することを特徴とする剥離フィルムの製造方法
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、フィルムや基板等の被処理物の表面の一部に容易にコロナ表面処理を施すことが可能なコロナ表面処理装置を提供することができる。
【0016】
また、グリーンシートを製造する際に、グリーンシートの端部の収縮を抑制することができ、グリーンシートに欠け等が発生するのを抑制することが可能な剥離フィルムを製造する方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のコロナ表面処理装置の好適な実施形態の概要を示す側面図である。
図2図1のコロナ表面処理装置が備える放電電極および対向電極の配置を示す縦断面図である。
図3図1のコロナ表面処理装置が備えるガイドロールの透過斜視図である。
図4】放電電極および対向電極の他の配置を示す縦断面図である。
図5】剥離フィルムの好適な実施形態を示す横断面図である。
図6】剥離フィルムの好適な実施形態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
1.コロナ表面処理装置
まず、本発明のコロナ表面処理装置の好適な実施形態について説明する。
【0019】
図1は、本発明のコロナ表面処理装置の好適な実施形態の概要を示す側面図、図2は、図1のコロナ表面処理装置が備える放電電極および対向電極の配置を示す縦断面図、図3は、図1のコロナ表面処理装置が備えるガイドロールの透過斜視図、図4は、放電電極および対向電極の他の配置を示す縦断面図である。
【0020】
図1、2に示すように、コロナ表面処理装置1000は、放電電極1100と、放電電極1100と対向するように設けられた対向電極1200と、ガイドロール1300と、被処理物としての帯状の剥離フィルム1をガイドロール1300方向に巻き出すフィルム巻き出し部1400と、コロナ表面処理が施された剥離フィルム1を巻き取るフィルム巻き取り部1500とを有している。
【0021】
このようなコロナ表面処理装置1000では、放電電極1100と対向電極1200との間に、図示せぬ高周波高電圧電源から高電圧パルスを印加することにより、放電電極1100から被処理物である剥離フィルム1に向かってコロナ放電が発生し、剥離フィルム1の表面にコロナ表面処理が施される。
【0022】
放電電極1100は、図示せぬ高周波高電圧電源に接続されており、剥離フィルム1の幅方向に所定の間隔で4つ並んで設置されている。なお、放電電極1100は、コロナ表面処理装置1000から着脱可能となっており、その数を増減させることが可能となっている。
【0023】
放電電極1100を構成する材料としては、例えば、鉄、アルミニウム、ステンレス等を挙げることができる。
【0024】
1つの放電電極1100の幅(剥離フィルム1の幅方向の幅)は、特に限定されないが、5mm〜20mm程度であるのが好ましい。
【0025】
また、放電電極1100から剥離フィルム1までの距離は、1.5mm〜2mm程度であるのが好ましい。
【0026】
対向電極1200は、図示せぬ高周波高電圧電源に接続されており、図2に示すように放電電極1100に対向する位置に、放電電極1100と同数配置されている。
【0027】
対向電極1200は、後述するガイドロールと一体的に設けられており、図2図3に示すように、リング形状をなしている。
【0028】
対向電極1200を構成する材料としては、例えば、鉄、アルミニウム、ステンレス等を挙げることができる。
【0029】
1つの対向電極1200の幅(剥離フィルム1の幅方向の幅)は、特に限定されないが、5mm〜20mm程度であるのが好ましい。
【0030】
対向電極1200の高さ(後述するガイドロール1300の径方向の高さ)は、5mm〜20mm程度であるのが好ましい。
【0031】
ガイドロール1300は、被処理物である剥離フィルム1を放電電極1100と対向電極1200との間に導く機能を有している。
【0032】
ガイドロール1300は、ガイドロール本体1310と、絶縁体層1320と、軸1330とで構成されている。
【0033】
ガイドロール1300は、図1図3に示すように、剥離フィルム1の幅方向を長手方向とする円柱形状をなしており、軸1330を中心に回動するよう構成されている。
【0034】
ガイドロール本体1310は、円柱形状をなしている。
ガイドロール本体1310の外周面には、上述した対向電極1200が4つ設けられている。図3に示すように、ガイドロール本体1310の外周面から径方向にむかって対向電極1200が突出するよう構成されている。これにより、放電電極1100から発生したコロナ放電を対向電極1200の方向に向かわせることができる。その結果、コロナ放電の不本意な広がりを防止することができ、所定の位置にコロナ表面処理を施すことができる。
【0035】
ガイドロール本体1310を構成する材料としては、例えば、鉄、アルミニウム、ステンレス等を挙げることができる。
【0036】
絶縁体層1320は、ガイドロール本体1310を覆うように形成されている。また、絶縁体層1320は、対向電極1200を埋め込むように形成されている。
【0037】
この絶縁体層1320は、剥離フィルム1と直接接触する層である。絶縁体層1320が絶縁性を有することにより、剥離フィルム1にコロナ処理を施すことが出来る。
【0038】
絶縁体層1320を構成する材料としては、絶縁性を有する材料であれば特に限定されず、例えば、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム等のゴム材料、セラミックス等を挙げることができる。
【0039】
ガイドロール本体1310の外周面から絶縁体層1320表面までの厚さは、5mm〜30mm程度であるのが好ましい。
【0040】
なお、ガイドロール1300は、着脱可能となっており、対向電極1200の数が異なる他のガイドロール1300と入れ替えることができる。
【0041】
フィルム巻き出し部1400は、巻き取った未処理の剥離フィルム1の捲回体からガイドロール1300に向かって剥離フィルム1を巻き出す(繰り出す)機能を有している。
【0042】
また、フィルム巻き取り部1500は、ガイドロール1300側から送られてくるコロナ表面処理が施された剥離フィルム1を巻き取る機能を備えている。
【0043】
以上説明したようなコロナ表面処理装置1000によれば、フィルムや基板等の被処理物の表面の一部に容易にコロナ表面処理を施すことが可能となる。特に、マスクを必要としないため、剥離フィルム1は不本意な熱によるダメージを受けることがなく、剥離フィルム1は優れた諸機能を発揮する。
【0044】
なお、上記説明では、放電電極1100および対向電極1200が一定の間隔で並んでいるものとして説明したが、間隔は一定でなくてもよい。
【0045】
また、上記説明では、放電電極1100および対向電極1200を4つ有する構成について説明したが、図4に示すように、剥離フィルム1の縁部側に2つずつ有する構成であってもよいし、3つずつ有する構成であってもよいし、5つ以上ずつ有する構成であってもよい。
【0046】
また、上記説明では、1つの対向電極1200がガイドロール本体1310外周にわたって連続して設けられているものとして説明したが、断続的に設けられていてもよい。
【0047】
また、上記説明では、対向電極1200とガイドロール1300とが一体となっている構成について説明したが、対向電極1200とガイドロール1300とは別体として設けてもよい。
【0048】
《剥離フィルム》
次に、剥離フィルム1について説明する。
本実施形態に係る剥離フィルム1は、グリーンシートの製造に用いられるものである。
【0049】
図5は、剥離フィルムの好適な実施形態を示す横断面図、図6は、剥離フィルムの好適な実施形態を示す平面図である。
【0050】
図5図6に示すように、剥離フィルム1は、基材11と、基材11の一方の面に設けられた剥離剤層12とを有している。
【0051】
また、剥離フィルム1は、帯状をなしている。
また、剥離フィルム1は、図5図6に示すように、剥離剤層12の表面にグリーンシート20を形成するものである。
【0052】
また、図6に示すように、剥離剤層12の表面に、第1の領域121を剥離フィルム1の幅方向の両端部に有し、第2の領域122を中央部に有している。
【0053】
本実施形態に係る剥離フィルム1は、剥離剤層12の基材11とは反対側の面が、形成すべきグリーンシート20の幅方向の端部21を包含する第1の領域121と、形成すべきグリーンシート20と接し、かつ、第1の領域121とは異なる第2の領域122とを有し、第1の領域121の水に対する静的接触角が、第2の領域122の水に対する静的接触角よりも小さくなるよう構成されている。具体的には、第1の領域121の水に対する静的接触角をX[°]、第2の領域122の水に対する静的接触角をY[°]としたとき、Y−X≧11の関係を満足するよう構成されている。また、第1の領域121は、剥離剤層12の表面に対して、上述したようなコロナ表面処理装置1000によりコロナ表面処理を施して形成されたものである。
【0054】
これにより、グリーンシート20の幅方向の端部21の収縮(単に端部収縮ともいう)を抑制することができる。これは、以下の理由によるものと考えられる。すなわち、第1の領域121の水に対する静的接触角が、第2の領域122の水に対する静的接触角よりも小さくなることにより、セラミックスラリーの剥離剤層12に対する濡れ性が、第2の領域122よりも第1の領域121のほうが高いものとなる。そのため、セラミックスラリーの表面張力による収縮が抑制される。その結果、形成されるグリーンシート20の端部の膜厚が厚くなるのを防止することができる。
【0055】
また、剥離フィルム1上に形成したグリーンシート20は、第1の領域121よりも内側(例えば、図5中の破線の矢印の部分、図6中の一点破線で示した部分)の第2の領域122内で打ち抜かれ、剥離フィルム1から剥離される。この際、第2の領域122は、第1の領域121よりも剥離力が低いので、打ち抜いたグリーンシート20を容易に剥離することができる。また、打ち抜いたグリーンシート20を剥離する際には、剥離フィルム1上に残存する部分は、剥離するグリーンシート20よりも剥離剤層12との密着性(剥離力)が高いので、剥離フィルム1上に確実に残存し、打ち抜いたグリーンシート20の剥離を阻害しない。
【0056】
以下、本実施形態に係る剥離フィルム1を構成する各層について詳細に説明する。
<基材>
基材11は、剥離フィルム1に、剛性、柔軟性等の物理的強度を付与する機能を有している。また、基材11は、帯状をなしている。
【0057】
基材11は、適度な剛性、柔軟性等の物理的特性を持つものであれば、いかなるもので構成されていてもよいが、主として、樹脂材料によって構成されることが好ましい。これにより、基材11は、引裂きや破断に対する十分な耐性を有するとともに、十分な可撓性を有することができる。
【0058】
基材11を構成する樹脂材料としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、フッ素樹脂、ポリアミド、アクリル樹脂、ノルボルネン系樹脂、シクロオレフィン樹脂等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
この中でも、樹脂材料として、ポリエステルを用いることが好ましく、ポリエチレンテレフタレートを用いることが特に好ましい。
【0060】
基材11の平均厚さは、特に限定されないが、10〜150μmであるのが好ましく、20〜120μmであるのがより好ましい。これにより、剥離フィルム1の柔軟性を適度なものとしつつ、剥離フィルム1の引裂きや破断に対する耐性を特に優れたものとすることができる。
【0061】
<剥離剤層>
剥離剤層12は、基材11の全面に設けられている。
【0062】
剥離剤層12は、主として剥離剤によって構成され、剥離フィルム1に剥離性を付与する機能を有している。
【0063】
剥離剤層12の外表面(基材11とは反対側の面)は、形成すべきグリーンシート20の剥離フィルム1の幅方向の端部21を包含する第1の領域121と、当該第1の領域121の内側の第2の領域122とを有している。
【0064】
本実施形態では、第1の領域121は、剥離フィルム1の幅方向の端部近傍において、剥離フィルム1の長手方向に沿って連続的に形成されている。そして、第2の領域122は、両端部の第1の領域121に挟まれた領域に形成されている。
【0065】
第1の領域121の水に対する静的接触角をX[°]、第2の領域122の水に対する静的接触角をY[°]としたとき、Y−X≧11の関係を満足するものであるが、Y−X≧15の関係を満足するのがより好ましく、45≧Y−X≧20の関係を満足するのがさらに好ましい。このような関係を満足することにより、形成するグリーンシート20において端部収縮が発生するのをより効果的に抑制することができる。
【0066】
第1の領域121の水に対する静的接触角は、具体的には、0〜95°であるのが好ましく、5〜80°であるのがより好ましい。これにより、形成するグリーンシート20において端部収縮が発生するのをより確実に抑制することができる。
【0067】
また、第2の領域122の水に対する静的接触角は、具体的には、100〜120°であるのが好ましく、100〜115°であるのがより好ましい。これにより、セラミックスラリーの塗工性と、グリーンシートの剥離性をより高いものとすることができる。
【0068】
なお、本明細書において、静的接触角は、接触角計(協和界面科学社製、全自動接触角計「DM−701」)を用いて、液滴法により、温度23℃、湿度50%の条件下で測定した値を指す。
【0069】
第1の領域121と第2の領域122は、上述したようなコロナ表面処理装置1000を用いて、剥離剤層12の表面の第1の領域121を形成すべき領域にコロナ表面処理を施すことにより形成されている。これにより、第1の領域121と第2の領域122とを容易に形成することが可能となる。また、第1の領域121の静的接触角をより容易に調整することができる。
【0070】
コロナ表面処理を施す際の放電量は、150〜1000W・min/mであることが好ましく、250〜600W・min/mであることがより好ましい。これにより、剥離フィルム1表面に対する不本意な損傷を抑制しつつ、十分な親水性を付与することができる。
【0071】
剥離フィルム1を平面視した際の、剥離フィルム1の面積に対する第1の領域121(両端部の第1の領域121の合計)の面積の割合は、5〜40%であることが好ましく、8〜35%であることがより好ましい。これにより、剥離剤層12表面を有効に活用することができ、より効率よくグリーンシート20を製造することができる。
【0072】
剥離剤層12は、剥離剤を含む剥離剤組成物を用いて形成される。
剥離剤組成物としては、特には限定されないが、ポリオルガノシロキサンで構成された剥離剤を含むシリコーン系剥離剤組成物を用いるのが好ましい。
【0073】
ポリオルガノシロキサンとしては、剥離剤層12を形成することのできるものであればよく、例えば、付加反応型、縮合反応型のポリオルガノシロキサンを用いることができる。このようなポリオルガノシロキサンは、剥離剤層12の形成時において、熱、光等のエネルギーが加えられることにより、重合反応することができる。この結果、シリコーン系剥離剤が好適に硬化して剥離剤層12が形成される。中でも、付加反応型のポリオルガノシロキサンを用いることが好ましい。
【0074】
付加反応型のポリオルガノシロキサンとしては、シリコーン系剥離剤の硬化時に付加反応することのできるポリオルガノシロキサンであれば特に限定されず、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、デセニル基等のアルケニル基を有するポリオルガノシロキサンを用いることができる。
【0075】
アルケニル基を有するポリオルガノシロキサンとしては、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有する、質量平均分子量20,000〜1,300,000のものを用いることが好ましい。
【0076】
上記1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有する、質量平均分子量20,000〜1,300,000のポリオルガノシロキサンは、例えば、以下の一般式(I)で表される。
【0077】
SiO(RSiO)(RRSiO)SiR ……(I)
式(I)中、Rは脂肪族不飽和結合を有しない同一または異種の一価炭化水素基、Rは同一または異種のアルケニル基、Rは、RまたはRであり、mおよびnは自然数を表す。
【0078】
式(I)中のRは、炭素数1〜12、特に炭素数1〜10の一価炭化水素基であるのが好ましい。炭素数1〜10の一価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基などが挙げられる。
【0079】
また、式(I)中のRで示されるアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、デセニル基等の炭素数2〜10のものが挙げられる。
【0080】
上記ポリオルガノシロキサンにおいて、ケイ素原子に直接結合した一価炭化水素基のうち、80モル%以上がメチル基であることが好ましい。
【0081】
また、シリコーン系剥離剤組成物は、架橋剤を含むことが好ましい。このような架橋剤によってポリオルガノシロキサンが架橋されることにより、ポリオルガノシロキサンが剥離剤層12からグリーンシートへ移行することが防止され、グリーンシートが汚染されることが確実に防止される。また、剥離剤層12の表面強度を特に優れたものとすることができるとともに、基材11と剥離剤層12との密着性が特に優れたものとなる。
【0082】
架橋剤としては、例えば、単量体中にSi−H結合を有するポリオルガノシロキサン、具体的には、ジメチルハイドロジェンシロキシ基末端封鎖ジメチルシロキサン−メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、トリメチルシロキシ基末端封鎖ジメチルシロキサン−メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、トリメチルシロキシ基末端封鎖ポリ(メチルハイドロジェンシロキサン)、ポリ(ハイドロジェンシルセスキオキサン)等が挙げられ、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0083】
シリコーン系剥離剤組成物における架橋剤は、ポリオルガノシロキサン:100質量部に対し、0.1〜100質量部含まれることが好ましく、0.3〜50質量部含まれることがより好ましい。
【0084】
また、シリコーン系剥離剤組成物は、上述したような成分に加え、他の成分を含んでいてもよい。例えば、シリコーン系剥離剤組成物は、密着向上剤、重合開始剤、安定剤、シリカ、染料、顔料等を含むものであってもよい。
【0085】
この剥離剤層12の厚さは、特に限定されないが、0.01〜3μmであるのが好ましく、0.03〜1μmであるのがより好ましい。
【0086】
なお、本明細書において、質量平均分子量(Mw)とは、テトラヒドロフランを展開溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、各剥離剤を測定し、ポリスチレン換算値として求めたものをいう。測定条件は以下の通りである。
【0087】
GPC測定装置:HLC−8020(商品名、東ソー社製)
GPCカラム(以下の順に通過):TSK guard column HXL−H、TSK gel GMHXL(×2)、TSK gel G2000HXL(以上商品名、東ソー社製)
測定溶媒:テトラヒドロフラン 測定温度:40℃
【0088】
以上、本発明を好適実施形態に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0089】
例えば、上述した実施形態では、第1の領域が剥離フィルムの長手方向に沿って連続的に形成されているものとして説明したが、これに限定されず、断続的であってもよい。
【0090】
また、例えば、第1の領域121と第2の領域122とで剥離剤層12を構成する材料を異なるものとすることにより形成してもよい。
【0091】
また、上述した実施形態では、第1の領域と第2の領域との境界が明確であるものとして説明したが、明確でなくてもよい。すなわち、第2の領域から第1の領域に向かって、水に対する静的接触角が徐々に小さくなるよう構成してもよい。
【実施例】
【0092】
次に、剥離フィルムの具体的実施例について説明する。
[1]剥離フィルムの作製
(実施例1)
ビニル基を有するポリオルガノシロキサン(質量平均分子量:1,130,000、ビニル基含有量:0.21mmol/g)とポリオルガノハイドロジェンシロキサンとを含有する付加反応型ポリオルガノシロキサン溶液(固形分30質量%、ビニル基の数に対するヒドロシリル基の数の比:2.7)100質量部を、トルエンおよびメチルエチルケトンの混合液(質量比3:7)にて固形分濃度が1.5質量%になるように希釈し、さらに白金系触媒(東レ・ダウコーニング社製,SRX−212)2質量部を添加混合して剥離剤組成物の溶液を得た。
【0093】
幅300mm、厚さ31μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレート製の基材フィルム上に、剥離剤組成物の溶液を、乾燥後の膜厚が0.09μmとなるように全面に塗布した後、125℃で30秒間乾燥および硬化反応を行わせて剥離剤層を形成した。
【0094】
その後、図1図3に示すようなコロナ表面処理装置を用いて、剥離剤層の両端部から15mmまでの範囲に400W・min/mの放電量でコロナ処理を施して第1の領域および第2の領域を形成し、ロール状に巻回した剥離フィルムを作製した。
【0095】
得られた剥離フィルムを平面視した場合における剥離フィルムの面積に対する第1の領域の面積の割合は、10%であった。
【0096】
(実施例2)
剥離剤層の両端部から30mmまでの範囲にコロナ処理を行なって、第1の領域および第2の領域を形成した以外は、前記実施例1と同様にして剥離フィルムを作製した。なお、得られた剥離フィルムを平面視した場合における剥離フィルムの面積に対する第1の領域の面積の割合は、20%であった。
【0097】
(実施例3)
剥離剤層の両端部から45mmまでの範囲にコロナ処理を行なって、第1の領域および第2の領域を形成した以外は、前記実施例1と同様にして剥離フィルムを作製した。なお、得られた剥離フィルムを平面視した場合における剥離フィルムの面積に対する第1の領域の面積の割合は、30%であった。
【0098】
(実施例4)
剥離剤層の両端部から15mmまでの範囲に、200W・min/mの放電量でコロナ処理を施して、第1の領域および第2の領域を形成した以外は、前記実施例1と同様にして剥離フィルムを作製した。
【0099】
(実施例5)
剥離剤層の両端部から15mmまでの範囲に、300W・min/mの放電量でコロナ処理を施して、第1の領域および第2の領域を形成した以外は、前記実施例1と同様にして剥離フィルムを作製した。
【0100】
(比較例1)
コロナ処理を施さなかった以外は、前記実施例1と同様にして剥離フィルムを作製した。
【0101】
各実施例および比較例の第1の領域の面積の割合を表1に示した。
また、各実施例および各比較例の剥離フィルムを作製後、温度23℃、相対湿度50%の条件で7日間養生した後、第1の領域および第2の領域の水に対する静的接触角を測定した。その結果を表1に示した。なお、比較例1については、剥離剤層表面の水に対する静的接触角を第2の領域の欄に記載した。
【0102】
【表1】
【0103】
[2]評価
以上のようにして得られた剥離フィルムに関して、以下のような評価を行った。
【0104】
[2.1]端部収縮評価
チタン酸バリウム(BaTiO;堺化学工業社製,BT−02)100質量部、バインダーとしてのポリビニルブチラール(積水化学工業社製,エスレックB・K BM−2)8質量部および可塑剤としてのフタル酸ジオクチル(関東化学社製,フタル酸ジオクチル 鹿1級)4質量部に、トルエンおよびエタノールの混合液(質量比6:4)135質量部を加え、ボールミルにて混合分散させて、セラミックスラリーを調製した。
【0105】
各実施例および比較例にて製造してから常温で24時間保管した剥離フィルム(幅:300mm)の剥離剤層表面に、上記セラミックスラリーを乾燥後の膜厚:3μm、幅:290mmになるようにダイコーターを用いて均一に塗工し、その後、乾燥機にて80℃で1分間乾燥させた。このようにして、グリーンシート付剥離フィルムを300m製造した。
【0106】
得られたグリーンシート付剥離フィルムの300mにおいて、幅方向端部に端部収縮が発生したかどうかを、下記式により端部収縮幅を算出し、下記基準により評価した。結果を表1に示した。
端部収縮幅=(セラミックスラリーの塗工幅)−(形成したグリーンシートの幅)
【0107】
○:端部収縮幅が2mm未満(良好)
△:端部収縮幅が2mm以上5mm未満(使用可)
×:端部収縮幅が5mm以上(不良)
【0108】
[2.2]剥離力評価
端部収縮評価と同様にして得られたグリーンシート付剥離フィルムを、温度23度、湿度50%の雰囲気下に24時間静置した後、第1の領域以外の部分から120mm×40mmの大きさのサンプルを採取し、40mmの辺に、グリーンシート面側から長さ40mmのアクリル粘着テープ(日東電工社製,31Bテープ)を貼付して試験片とした。
【0109】
この試験片の剥離フィルム面側を平板に固定し、アクリル粘着テープを貼付した端辺側を下側にして90°に傾け、剥離試験機(島津製作所社製,AG−1S 500N)に設置した。
【0110】
そして、アクリル粘着テープを貼付した端辺の剥離フィルムをグリーンシートから剥がし、アクリル粘着テープ側を剥離試験機の治具に取り付けた。この状態にて、剥離速度300mm/minでアクリル粘着テープを垂直上方向に引っ張り、剥離フィルムからグリーンシートを剥がしたときの剥離力(mN/40mm)を測定した。
【0111】
測定した剥離力が15mN/100mm未満のものを「○」(良好)、15mN/100mm以上のものを「×」(不良)として評価した。結果を表1に合わせて示す。
【0112】
[3]評価結果
表1から明らかなように、実施例の剥離フィルムは、グリーンシートの端部収縮を効果的に抑制することができるものであった。また、実施例の剥離フィルムは、成膜されたグリーンシートの剥離性に優れるものであった。これに対して、比較例では満足な結果が得られなかった。
【符号の説明】
【0113】
1 剥離フィルム
11 基材
12 剥離剤層
121 第1の領域
122 第2の領域
20 グリーンシート
21 グリーンシートの幅方向の端部
1000 コロナ表面処理装置
1100 放電電極
1200 対向電極
1300 ガイドロール
1310 ガイドロール本体
1320 絶縁体層
1330 軸
1400 フィルム巻き出し部
1500 フィルム巻き取り部
図1
図2
図3
図4
図5
図6