(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記二次養生を常温で行った後、前記圧縮力を増加させて50℃以上の高温養生により三次養生を行う工程をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載のプレキャストコンクリート部材の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第一の実施形態>
以下、第一の実施形態のプレキャストコンクリート部材1の製造方法について説明する。
プレキャストコンクリート部材1は、
図1の(a)および(b)に示すように、コンクリートの硬化体2と、硬化体2の軸方向に沿って配筋された複数の主筋3,4と、主筋3,4を囲うように配筋された配力筋5,5,…とを備えている。
【0018】
硬化体2は、いわゆる高強度コンクリート(建築工事標準仕様書・同解説JASS5鉄筋コンクリート工事:日本建築学会では、設計基準強度36N/mm
2以上)により構成されている。本実施形態では、高強度コンクリートとして、設計基準強度が150N/mm
2以上の超高強度繊維補強コンクリートを採用する。本明細書での超高強度コンクリートとは、設計基準強度100N/mm
2以上のコンクリートとする。
なお、硬化体2を構成する高強度コンクリートの種類や設計基準強度は限定されない。
【0019】
高強度コンクリートは、結合材と、水と、細骨材と、粗骨材と、減水剤と、繊維とを少なくとも含んだ混合体により構成されている。結合材は、少なくともセメントとシリカフュームとを含んでいる。また、圧縮強度や流動性などに悪影響を及ぼさない範囲で高炉スラグ微粉末などの混和材を含んでもよい。
【0020】
なお、高強度コンクリートの配合は適宜設定すればよい。また、当該高強度コンクリートに使用する繊維は限定されるものではなく、例えば、鋼繊維、ポリプロピレン繊維、ビニロン繊維等の各種繊維、あるいは、これらの繊維の中から複数の繊維を適宜組み合わせたものを使用すればよい。
【0021】
本実施形態では、硬化体2が断面正方形に形成されている場合について説明するが、硬化体2の断面形状は限定されるものではなく、例えば、円形、楕円形、矩形、その他の多角形であってもよい。
【0022】
硬化体2の断面中心部には、軸方向に沿って、貫通孔6が形成されている。
貫通孔6は、断面円形に形成されている。なお、貫通孔6の断面形状や寸法は限定されるものではなく、プレキャストコンクリート部材1の強度に影響を及ぼすことのない範囲内において適宜設定すればよい。
また、貫通孔6は必要に応じて形成すればよく、省略してもよい。例えば、一辺が300mm以下の正方形断面のコンクリート部材であれば、高温養生時の表面と中心部との温度差が小さくなるので、貫通孔6を形成しなくてもよい。
【0023】
図1の(a)に示すように、本実施形態では、プレキャストコンクリート部材1の四つの角部に配筋された4本の主筋3,3,…と、角部以外に配筋された4本の主筋4,4,…との計8本の主筋が配筋されている。
なお、主筋3,4の本数や配置は限定されない。
【0024】
8本の主筋のうちの硬化体2の角部に配筋された主筋3は、硬化体2の軸方向に沿って配管されたシース管7と、シース管7内に配設された鉄筋8と、シース管7と鉄筋8との隙間に充填された充填材9とにより構成されている。
【0025】
シース管7は、硬化体2の長手方向の全長にわたって配管されている。なお、シース管7の内径は、鉄筋8(主筋)の鉄筋径に応じて適宜設定すればよい。
【0026】
鉄筋8は、充填材9を介してシース管7と一体化されている。
鉄筋8を構成する材料は限定されるものではないが、異形鉄筋やネジ鉄筋を使用すればよい。
【0027】
また、充填材9を構成する材料は限定されるものではないが、例えば、グラウトや無収縮モルタル等のセメント系充填材を使用すればよい。
【0028】
角部以外に配筋された主筋4,4,…は、鉄筋(異形鉄筋)からなり直接硬化体2に埋め込まれている。なお、角部以外に配筋された主筋4,4,…は、角部の主筋3と同様に、シース管7と鉄筋8と充填材9とにより構成されたものであってもよい。
【0029】
プレキャストコンクリート部材の製造方法は、準備打設工程と、一次養生工程と、二次養生工程と、除荷工程と、充填工程とを備えている。
【0030】
準備打設工程は、
図2の(a)に示すように、硬化体2の型枠10内に、主筋4,4,…および配力筋5,5,…を配筋するとともにシース管7を配管した後、型枠10内にコンクリートを打設する工程である。
このとき、型枠10の中心部に貫通孔6を形成するための内型枠11を配置しておく。
【0031】
本実施形態では、内型枠11として、シース管を配管しておく。
なお、内型枠11を構成する材料は限定されるものではなく、例えば、養生後に撤去が可能な塩化ビニールパイプ、紙製パイプ等からなる円筒状部材や、高温養生時に溶融する材料等を使用してもよい。
また、コンクリートの打設方法は限定されるものではなく、適宜行えばよい。
【0032】
一次養生工程は、型枠10に打設したコンクリートを一次養生する工程である。
一次養生は、型枠10内に打設された高強度コンクリートを、脱型が可能な強度が発現するまで行う。
【0033】
本実施形態では、一次養生を常温で行うが、一次養生時の管理方法は限定されるものではない。
【0034】
二次養生工程は、脱型した後、コンクリートの硬化体2に圧縮力を導入した状態でコンクリートを二次養生する工程である。
【0035】
硬化体2へ圧縮力を導入する場合には、まず、シース管7に緊張材12を挿入する。
緊張材12の両端は、
図2の(b)に示すように、硬化体2の両端面に配置した支圧板13,13に固定する。緊張時の硬化体2のコンクリート強度は、20N/mm
2以上であればよい。
プレストレスは、緊張時の硬化体2のコンクリート強度に0.45を乗じた値以下(プレストレスコンクリート設計施工規準・同解説:日本建築学会)で、かつ二次養生工程での自己収縮ひずみとプレストレスによる弾性ひずみが同程度になる圧縮力を導入するのが好ましい。
【0036】
本実施形態では、緊張材12として、ネジ鉄筋を採用するが、緊張材12を構成する材料は限定されるものではなく、例えば、PC鋼線、PC鋼より線、PC鋼棒であってもよい。
【0037】
緊張材12の端部が支圧板13を貫通した状態で緊張材12に引張力を導入した後、緊張材12の端部にナット14を締着することにより緊張材12を支圧板13に固定する。
そして、緊張材12の引張力を解除することで、プレストレスが支圧板13を介して硬化体2に作用する。
【0038】
なお、緊張材12のシース管7へ挿入するタイミングは限定されるものではない。例えば、脱型の前、脱型の後、または、脱型と同時に行ってもよい。
【0039】
本実施形態の二次養生工程では、硬化体2を50℃以上に加熱する、いわゆる加熱養生(高温養生)により硬化体2を養生する。
【0040】
本実施形態では、高温養生槽内において、50℃の空気により加熱する。
このとき、
図2の(c)に示すように、送風機15を利用して、貫通孔6に高温の空気を送風することで、硬化体2の外周面と貫通孔6から加熱する。
貫通孔6を利用した加熱により、見かけ上の熱の伝達する部材厚が従来の半分程度となるため、効率的な加熱養生が可能となる。
【0041】
なお、二次養生工程において、貫通孔6内に棒状のヒーターを挿入することで、貫通孔6内から加熱してもよく、二次養生工程における加熱方法は限定されるものではない。
【0042】
二次養生工程による加熱養生が完了することにより、緻密で高強度な硬化体2が完成する。
【0043】
除荷工程は、緊張材12の緊張力(硬化体2の圧縮力)を解除する工程である。
緊張材12の緊張力(硬化体2の圧縮力)は、緊張材12からナット14を取り外すことにより解除する。
【0044】
充填工程は、シース管7内に鉄筋8を配筋するとともに充填材9を充填する工程である。
鉄筋8は、緊張材12として使用したネジ鉄筋をそのまま使用してもよいし、緊張材12をシース管7から抜き出して、新たな鉄筋8を当該シース管7に挿入してもよい。
【0045】
鉄筋8のシース管7への配筋とともに、充填材9をシース管7内に注入して、シース管7と鉄筋8との隙間を埋める。
【0046】
以上、本実施形態のプレキャストコンクリート部材の製造方法によれば、強度発現が進行している段階で硬化体2に圧縮力(プレストレス)を付与することで緻密なコンクリートが形成される。また、主筋4は、プレストレスによって長さが短くなっているので、主筋4がコンクリートの自己収縮を拘束することを抑制できる。そのため、膨張材や収縮低減剤等の混和剤を添加しなくても、あるいは添加量を低減させても、自己収縮に伴う微細なひび割れを大幅に削減することができる。
【0047】
より詳しく説明すると、養生期間中には、コンクリートに生じる自己収縮ひずみと、圧縮力(プレストレス)による弾性ひずみが硬化体2に生じるが、圧縮力による弾性ひずみとクリープひずみは、養生が進行するにつれて、見掛け上コンクリートの自己収縮に移行し(相互干渉)、圧縮力によるひずみが減少していく。また、主筋4,4,…およびシース管7は、圧縮力によってコンクリートと同じひずみを維持しながら縮む。そのため、主筋4やシース管7がコンクリートの収縮ひずみを拘束することはなく、強度発現過程における微細なひび割れが抑制される。
【0048】
また、コンクリートの硬化体2の外側と内側(貫通孔6の内面)から加熱することにより効率的に養生することができる。そのため、より緻密で高強度なプレキャストコンクリート部材を製造することが可能となる。
【0049】
また、硬化体2の養生期間後に鉄筋8をシース管7に挿入するため、養生期間中においては、シース管7に緊張材12を挿入することができ、当該緊張材12によって、養生中の硬化体2にプレストレスを付与することができる。プレストレスを付与した状態で養生した硬化体2は、組織が緻密となる。
【0050】
また、硬化体2をその周囲と中心(貫通孔6)から加熱することが可能となるため、見かけ上の熱の伝達する厚みが従来と比較して半分程度となる。したがって、効率的な加熱養生が可能となる。
【0051】
なお、養生完了時にコンクリートの収縮(自己収縮とクリープ)が完全に収束していると仮定すると、残存緊張力がある場合には、コンクリートと主筋4に緊張力による弾性圧縮ひずみ(回復ひずみ)が生じることになるが、養生期間中にコンクリートが収縮し、応力の再配分が生じることから、圧縮力の負担割合は、主筋4の方が大幅に大きくなっている。
【0052】
したがって、残存緊張力を解除すると、主筋の圧縮ひずみが大きく減少し、コンクリートのひずみは圧縮ひずみから引張ひずみとなり、埋設された主筋4,4,…の量(鉄筋量)によっては、引張ひび割れが生じるおそれがある。そのため、コンクリート(硬化体2)に鉄筋(主筋4)を直接埋設する場合には、その鉄筋量を適切に管理する必要がある。
そのため、以下に、鉄筋量の決定方法について、
図3を参照して説明する。
【0053】
本説明では、
図3の(a)に示すように、プレキャストコンクリート部材1の一端を固定端とし、他端を自由端として、埋設する主筋4,4,…とコンクリート(硬化体2)との付着を除去した状態で、コンクリート打設、高温養生を行うものとする。
【0054】
この状態で、コンクリートに強度が発現すると、
図3の(b)に示すように、コンクリートの自己収縮により硬化体2が縮む(縮み量L)。この状態から主筋4,4,…を硬化体2の端面まで押し込んだ後、主筋とコンクリートとの付着を復活させた状態(
図3の(c)参照)が、除荷工程後の状態と等価となる。
【0055】
このとき、硬化体2には、引張応力(
cσ
t)が生じ、主筋4,4,…には圧縮応力(
sσ
c)が作用する。
硬化体2の引張合力(=Ac・
cσ
t、ここで、Acは主筋を除く硬化体の断面積である)と主筋4の圧縮合力(=ΣAs・
sσ
c、ここでAsは全主筋の断面積である)は釣り合っており、この状態でのコンクリートの引張応力
cσ
tが製造完了時のコンクリートの引張強度以下であれば、プレキャストコンクリート部材1にはひび割れが生じないことになる。
【0056】
コンクリートの自己収縮ひずみ(拘束なしの材料試験値)、コンクリートの材料特性値(ヤング係数、引張強度)、プレキャストコンクリート部材1のコンクリート部の断面積、主筋4のヤング係数を既知の値として、埋設する主筋4の量を変化させながら、コンクリートの引張応力
cσ
tがコンクリートの引張強度を超えない鉄筋量を収束計算によって算出する。なお、コンクリートの材料特性値は、事前に同様のコンクリート供試体による試験値を用いればよい。
このように、適正な鉄筋量は、コンクリートの材料特性によって異なる。例えば、鋼繊維を混入した繊維補強コンクリートは、引張強度が増大するため、埋設する主筋4の量を増加させることができる。
【0057】
<第二の実施形態>
第二の実施形態のプレキャストコンクリート部材1は、
図4の(a)および(b)に示すように、コンクリートの硬化体2と、硬化体2の軸方向に沿って配筋された複数の主筋3の全てが、硬化体2の軸方向に沿って配管されたシース管7と、シース管7内に配設された鉄筋8と、シース管7と鉄筋8との隙間に充填された充填材9とにより構成されている点で、第一の実施形態のプレキャストコンクリート部材1と異なっている。
【0058】
硬化体2、主筋3および配力筋5の詳細は、第一の実施形態で示した内容と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0059】
第二の実施形態のプレキャストコンクリート部材の製造方法は、準備・打設工程と、一次養生工程と、二次養生工程と、三次養生と、除荷工程と、充填工程とを備えている。
なお、準備・打設工程、一次養生工程、除荷工程および充填工程の詳細は、第一の実施形態で示した内容と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0060】
二次養生工程は、脱型した後、コンクリートの硬化体2に圧縮力を導入した状態でコンクリートを二次養生する工程である。
本実施形態では、二次養生を常温で行う。この他の二次養生の詳細は、第一の実施形態で示した内容と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0061】
三次養生工程は、緊張材12に付与する緊張力を二次養生工程の終了時よりも増加させた上で、50℃以上の高温養生により三次養生を行う工程である。
三次養生工程は二次養生を常温で行った後に行う。
本実施形態では、高温養生槽内において、50℃の空気により加熱する。
【0062】
高温養生では、送風機を利用して、貫通孔6に高温の空気を送風する。こうすると、硬化体2の外周面と貫通孔6の内面から硬化体2が加熱される。
これにより、見かけ上の熱の伝達する部材厚が従来の半分程度となるため、効率的な加熱養生が可能となる。なお、硬化体2の加熱方法は限定されない。
【0063】
三次養生工程による加熱養生が完了すると、緻密で高強度な硬化体2が完成する。
【0064】
本実施形態のプレキャストコンクリート部材の製造方法によれば、硬化体2に生じる微細なひび割れを大幅に削減あるいは無くすことができるとともに、緻密なコンクリートを製造することができる。その理由は、次の通りである。
【0065】
まず、シース管7の軸方向剛性が鉄筋に比べて極めて小さいので、シース管7によるコンクリートの拘束力は無視し得る程度に小さく、したがって、シース管7の周囲に微細なひび割れが生じにくい。
【0066】
次に、コンクリートの養生時に硬化体2に圧縮力が付与されているため、高温養生中の水和反応に伴うクリープによって生じた微細なコンクリートの損傷が随時修復されることになり、緻密なコンクリートとなる。
なお、養生時に緊張材12に付与する緊張力は、強度発現過程におけるコンクリートの想定縮み量(500〜1500μ程度)以上のひずみが生じる程度とする。
【0067】
本実施形態では、2段階の緊張力導入方式(常温養生初期に比較的小さな緊張力を導入しておき、高温養生前にその時点のコンクリート強度に見合った緊張力に過緊張(常温時の2倍程度の緊張力を付与)する方式)を採用しているため、合理的に高品質なプレキャストコンクリート部材1を製造することができる。
【0068】
なお、硬化体2に作用させた圧縮力(緊張材12に付与した緊張力)を解除すると、残存緊張力と養生完了時のコンクリートのヤング係数によって求まる弾性圧縮ひずみ(回復クリープ)が消失する。一方、養生時の強度発現によるコンクリートの自己収縮およびクリープによる圧縮ひずみは、ほぼ収束した状態となる(非回復プリープ)。そのため、非回復クリープひずみ分だけコンクリートが押し固められ、その結果、コンクリートが緻密になる。
【0069】
例えば、Fc200以上の高強度コンクリートの場合、高温養生前の常温時にコンクリート強度が100N/mm
2を超える場合があるが、その場合には、より大きい圧縮力を硬化体2に導入することができ、高温養生後には大きな非回復ひずみが生じるため、コンクリートがより緻密になる。
【0070】
この他の第二の実施形態のプレキャストコンクリート部材の製造方法およびプレキャストコンクリート部材1による作用効果は、第一の実施形態で示した内容と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0071】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の各実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
【0072】
例えば、プレキャストコンクリート部材1の用途は限定されるものではない。
プレキャストコンクリート部材1は、
図5に示すように、柱に適用してもよい。この場合、シース管7内への充填材9の注入は、目地材16の注入と同時に行ってもよい。
また、鉄筋8を硬化体2の端面から突出させておき、これを他の構造体(例えば基礎17)との接合部における接合筋として使用してもよい。
【0073】
また、プレキャストコンクリート部材1は、
図6に示すように、扁平断面に形成して、梁に適用してもよい。なお、鉄筋8の端部を硬化体2の端面から突出させておけば、他の部位と接合筋として使用することができる。
【0074】
また、
図6の(b)に示すように、複数のプレキャストコンクリート部材1,1,1同士を連結して長大スパン梁を形成してもよい。プレキャストコンクリート部材1同士の接合方法は限定されないが、例えば、圧着接合目地により接合すればよい。
【0075】
前記各実施形態では、緊張材にネジ鉄筋を使用して、緊張後、プレキャストコンクリート部材の主筋に転用する場合について説明したが、主筋8は、シース管7から緊張材を撤去した後に、新たに配筋してもよい。
【0076】
高温養生時に、断面中心部に形成された貫通孔に送気する場合について説明したが、主筋用に配管したシース管7に送気してもよい。