【文献】
渡部 洋ほか,鉄筋コンクリート柱の損傷に及ぼす横方向プレストレスの影響,コンクリート工学年次論文集,2003年,V0l.25, No.2,PP.193-198
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の主筋と、これら主筋と交差する環状の剪断補強筋と、コンクリートを含む鉄筋コンクリート体の周方向にプレストレスを導入する周方向プレストレス導入方法であって、
前記主筋と同方向に延びる反力受け部材を前記鉄筋コンクリート体の内側部に当たる位置に配置し、
前記反力受け部材と交差する内外方向に伸長可能に延びる押し部材の内端部を前記反力受け部材に当て、かつ前記押し部材の外端部を前記剪断補強筋に当て、さらに前記押し部材を伸長させることによって前記剪断補強筋を外方向に押して前記剪断補強筋を緊張させ、
この緊張状態で、前記コンクリートを打設し、
その後、前記反力受け部材を前記同方向に引き抜いて撤去することを特徴とする鉄筋コンクリート体の周方向プレストレス導入方法。
複数の主筋と、これら主筋と交差する環状の剪断補強筋と、コンクリートを含む鉄筋コンクリート体の周方向にプレストレスを導入する周方向プレストレス導入装置であって、
前記コンクリートの内側部に前記主筋と同方向に延びるように配置されるとともに、前記同方向に引き抜き可能な直線状の剛性材からなる反力受け部材と、
前記反力受け部材から放射状に延びる複数の押し部材と、
を備え、各押し部材は、内端部が前記反力受け部材に当たり、かつ外端部が前記剪断補強筋に当たり、かつ伸長可能であることを特徴とする周方向プレストレス導入装置。
前記押し部材が、外周に雄ネジ部を有して前記反力受け部材と交差する内外方向に延びる押し軸と、前記押し軸の外端部又は内端部に前記内外方向へ移動可能に設けられるとともに前記剪断補強筋又は前記反力受け部材に当たる当接部と、前記雄ネジ部に螺合されて前記当接部を前記内外方向に押し動かすナットとを備えたことを特徴とする請求項3に記載の周方向プレストレス導入装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の工法は、鉄筋コンクリート体が円断面形状に限定され、剪断補強筋が螺旋形状に限定される。
非特許文献1の工法は、鋼製型枠が重いため、大掛かりな重機が必要である。また、鋼製型枠の加工が容易でなく、突発的な計画変更に柔軟に対応するのが困難である。さらに、コンクリートの打設面に引っ張り装置のボルト用のボルト孔が残ってしまう。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、コンクリート打設型枠が大掛かりにならず、コンクリート打設面に影響を与えることがなく、更に好ましくは種々の鉄筋コンクリート体に柔軟に適用できる周方向プレストレス導入工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、本発明方法は、複数の主筋と、これら主筋と交差する環状の剪断補強筋と、コンクリートを含む鉄筋コンクリート体の周方向にプレストレスを導入する周方向プレストレス導入方法であって、
前記主筋と同方向に延びる反力受け部材を前記鉄筋コンクリート体の内側部に当たる位置に配置し、
前記反力受け部材と交差する内外方向に伸長可能に延びる押し部材の内端部を前記反力受け部材に当て、かつ前記押し部材の外端部を前記剪断補強筋に当て、さらに前記押し部材を伸長させることによって前記剪断補強筋を外方向に押して前記剪断補強筋を緊張させ、
この緊張状態で、前記コンクリートを打設し、
その後、前記反力受け部材を前記同方向に引き抜いて撤去することを特徴とする。
撤去によって押し部材の内端部が解放される。これによって、コンクリートの周方向にプレストレスを導入することができる。
【0008】
本発明に係る鉄筋コンクリート体は、複数の主筋と、これら主筋と交差する環状の剪断補強筋と、コンクリートを含み、
前記コンクリートの内側部には、前記主筋と同方向に延びる空洞又は充填剤からなる反力受け跡が形成され、
かつ前記コンクリートには、前記反力受け跡と交差する内外方向に延びるとともに前記コンクリートが無ければ前記内外方向に伸縮可能な押し部材が埋設され、前記押し部材の内端部が前記反力受け跡に臨み、かつ前記押し部材の外端部が前記剪断補強筋に当てられ、
前記剪断補強筋が、前記押し部材との当たりによって引張応力を付与されていることを特徴とする。
これによって、コンクリートの周方向にプレストレスを導入することができる。
【0009】
本発明に係る周方向プレストレス導入装置は、複数の主筋と、これら主筋と交差する環状の剪断補強筋と、コンクリートを含む鉄筋コンクリート体の周方向にプレストレスを導入するものであって、
前記コンクリートの内側部に前記主筋と同方向に延びるように配置されるとともに、前記同方向に引き抜き可能な直線状の剛性材からなる反力受け部材と、
前記反力受け部材から放射状に延びる複数の押し部材と、
を備え、各押し部材は、内端部が前記反力受け部材に当たり、かつ外端部が前記剪断補強筋に当たり、かつ伸長可能であることを特徴とする。
各押し部材を伸長させることによって、剪断補強筋に引張応力(緊張力)を付与できる。そして、コンクリートを打設、硬化後、反力受け部材を引き抜いて撤去することで、コンクリートの周方向にプレストレスを導入することができる。当該周方向プレストレス導入装置は、鉄筋コンクリート体の内側部から剪断補強筋を緊張させるものであるから、コンクリート打設用型枠には上記緊張用の装置を設ける必要が無く、コンクリート打設用型枠を簡易に構成できる。また、コンクリートの打設面に緊張用のボルト孔等が出来ることもない。
【0010】
前記押し部材が、外周に雄ネジ部を有して前記反力受け部材と交差する内外方向に延びる押し軸と、前記押し軸の外端部又は内端部に前記内外方向へ移動可能に設けられるとともに前記剪断補強筋又は前記反力受け部材に当たる当接部と、前記雄ネジ部に螺合されて前記当接部を前記内外方向に押し動かすナットとを備えていることが好ましい。
これによって、周方向プレストレス導入装置を簡易に構成できる。例えば、押し軸として、ねじ鉄筋を用いることができる。ねじ鉄筋を適宜な大きさに切断することによって、所要長さの押し軸を得ることができる。
【0011】
前記反力受け部材を通す中心孔を有して前記同方向に重ねられるとともに互いに周方向に角度調節可能に嵌め合わされた一対の環状の保持部材を、更に備え、
各保持部材における前記中心孔を挟んで180°対向する位置には一対の筒部が設けられ、かつ各筒部の筒軸が、これら筒部の対向方向に向けられており、各筒部に、対応する1の押し部材の内端部がスライド可能に保持されていることが好ましい。
これによって、一組の押し部材を一直線に配置するとともに、他の一組の押し部材を一直線に配置し、かつこれら二組の押し部材どうしの角度を調節することができる。これによって、鉄筋コンクリート体の種々の縦横寸法比に柔軟に対応することができる。
【0012】
一方の保持部材における一対の筒部には、それぞれ係止凸部が設けられ、他方の保持部材における一対の筒部を挟んで両側の外縁には、それぞれL字状の断面を有して前記外縁に沿って延びる案内リムが形成され、前記係止凸部が、対応する案内リムに着脱可能かつ保持部材の周方向へスライド可能に引っ掛けられることが好ましい。
これによって、一対の保持部材を分離可能かつ角度調節可能に嵌合させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コンクリート打設型枠が大掛かりにならず、コンクリート打設面に影響を与えることがない周方向プレストレス導入工法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
図1〜
図8は、本発明の第1実施形態を示したものである。
図1及び
図2に示すように、鉄筋コンクリート体1は、例えばビル等の鉄筋コンクリート構造物の柱を構成している。鉄筋コンクリート体1は、コンクリート10と、このコンクリート10に埋設された複数の主筋11,11…及び複数の剪断補強筋12,12…を含み、鉛直方向(
図1の紙面と直交する方向)に延びている。主筋11,11…は、それぞれ鉛直に延びるとともに、互いに鉄筋コンクリート体1の周方向に間隔を置いて平行に並べられている。剪断補強筋12,12…は、それぞれ四角形の環状に形成されて複数の主筋11,11…と交差するとともに、互いに鉛直方向に間隔を置いて並べられている。各剪断補強筋12は、4つの直線部12aと、4つの折曲部12cとを含む。
なお、鉄筋コンクリート体1は、プレキャストであってもよく、場所打ちにて構成されていてもよい。
【0016】
図1に示すように、鉄筋コンクリート体1の内側部(好ましくは水平断面内の中央部)には、反力受け跡13が形成されている。反力受け跡13は、例えば円形断面の空洞にて構成され、鉄筋コンクリート体1の略全長に亘って鉛直(主筋11と同方向)に延びている。
【0017】
図1及び
図2に示すように、鉄筋コンクリート体1には、周方向プレストレス導入装置2が埋め込まれている。周方向プレストレス導入装置2は、反力受け部材3と、複数の周方向プレストレス導入部材4,4…とを含む。反力受け部材3は、直線状の剛性材にて構成されている。ここでは、反力受け部材3は、アンボンドPC鋼棒にて構成されている。
図2に示すように、この反力受け部材3が、施工段階の鉄筋コンクリート体1の内側部(好ましくは水平断面内の中央部)に当たる位置に鉛直(主筋11と同方向)に向けられて設置される。
図1に示すように、鉄筋コンクリート体1の完成体においては、反力受け部材3が撤去されている。つまり、反力受け部材3は、硬化したコンクリート10から引き抜き可能である。反力受け部材3の外周面は滑面化処理されていてもよい。反力受け部材3の撤去によって、鉄筋コンクリート体1に上記反力受け跡13が形成されている。
【0018】
図2に示すように、複数の周方向プレストレス導入部材4,4…は、互いに鉛直方向に間隔を置いて配置されている。周方向プレストレス導入部材4は、剪断補強筋12と一対一に対応しており、かつ対応する剪断補強筋12と同じ高さに位置されている。
なお、周方向プレストレス導入部材4は、鉄筋コンクリート体1における必ずしもすべての剪断補強筋12ごとに設けられている必要はなく、一部の剪断補強筋12とだけ対応するように設けられていてもよい。
【0019】
図1に示すように、各周方向プレストレス導入部材4は、内端保持手段5と、4つ(複数)の押し部材20とを含む。内端保持手段5は、環状になっており、鉄筋コンクリート体1の完成体における内側部(好ましくは水平断面内の中央部)に埋設されて、反力受け跡13を囲んでいる。4つの押し部材20は、鉄筋コンクリート体1の水平断面の対角線に沿って内端保持手段5ひいては反力受け跡13から放射状に内外方向に延びている。ここで、内外方向とは、鉄筋コンクリート体1の内側部と外周部とを結ぶ方向であり、具体的には反力受け跡13(ないしは反力受け部材3)と直交(交差)する方向を言う。各押し部材20は、コンクリート10が無ければ内外方向にそれぞれ伸縮可能(伸長可能)な構造になっている。押し部材20の内端部は、内端保持手段5に保持されるとともに反力受け跡13に臨んで解放されている。押し部材20の外端部は、剪断補強筋12に当たっている。この押し部材20によって、剪断補強筋12に引張応力が付与されている。ひいては、コンクリート10に、鉄筋コンクリート体1の周方向へのプレストレス(以下、適宜「周方向プレストレス」と称す)が導入されている。
【0020】
周方向プレストレス導入部材4の構造を更に詳述する。なお、以下の説明においては、特に断らない限り、
図2に示すように、コンクリート10は未打設であるものとし、鉄筋コンクリート体1の中央部(内側部)に当たる位置に反力受け部材3が鉛直に設置されているものとする。
【0021】
図3に示すように、周方向プレストレス導入部材4の各押し部材20は、押し軸21と、当接部22と、ナット23と、当接軸24を有している。押し軸21は、直線状の剛性材にて構成されている。押し軸21の外周には雄ネジ部21aが形成されている。なお、雄ネジ部21aは、押し軸21における少なくとも外端側の部分に形成されていればよく、必ずしも押し軸21の全長に亘って形成されている必要はない。ここでは、押し軸21として、ねじ鉄筋が用いられている。ねじ鉄筋のフシがネジ状になることで雄ネジ部21aを構成している。ねじ鉄筋の周方向に180°離れた2箇所は、平坦になっている。ねじ鉄筋を所定の長さに切断することで、押し軸21を簡易に作ることができる。
【0022】
この押し軸21が、延び方向を内外方向に向けて配置されている。周方向プレストレス導入部材4における複数(4つ)の押し軸21は、反力受け部材3から互いに異なる向きに放射状に延びている。ここでは、4つの押し軸21が、鉄筋コンクリート体1の対角線に沿って、反力受け部材3から四隅の主筋11ひいては剪断補強筋12の折曲部12cに向かって4方向に延びている。
図5に示すように、これら4つの押し軸21の高さ(水平レベル)は、互いに揃えられている。
図3に示すように、各押し軸21の長さは、四隅の主筋11と反力受け部材3との間の距離よりも短い。
【0023】
押し軸21の内端部は、当接軸24を介して反力受け部材3に当てられている。当接軸24は、押し軸21よりも十分に短く、かつ押し軸21よりも小径の円柱形状になっている。
【0024】
押し軸21の外端部は、対応する主筋11に対して鉄筋コンクリート体1の内側に離れて、該主筋11の近くに配置されている。この押し軸21の外端部に当接部22が設けられている。当接部22は、スライド連結部22aと、押し当て部22bとを一体に有している。スライド連結部22aは、環状になっており、押し軸21にスライド可能に嵌められている。スライド連結部22aの周方向の一箇所から押し当て部22bが外方へ延び出ている。押し当て部22bは、円弧状になっている。この押し当て部22bが、押し軸21よりも外方向に突出して、主筋11を半周程度囲んでいる。押し部材20は、好ましくは主筋11と接触していない。押し当て部22bの先端部は、剪断補強筋12のほぼ直角な折曲部12cと主筋11との間に差し入れられている。この押し当て部22bの先端部の外周面が剪断補強筋12に当てられている。スライド連結部22aを押し軸21に沿ってスライドさせることによって、押し軸21及び当接部22を含む押し部材20の全長が伸縮可能になっている。
【0025】
押し軸21の外端部における雄ネジ部aにナット23が螺合されている。このナット23が、スライド連結部22aに当たるとともに、スライド連結部22aを外方向へ強く押している。これによって、押し当て部22bが剪断補強筋12の折曲部12cを外方向へ押している。4つの押し軸21の押し当て部22bが剪断補強筋12の4つの折曲部12cをそれぞれ対角線に沿って外方向へ押すことによって、剪断補強筋12が押し広げられるようにして緊張されている。これによって、剪断補強筋21に引張応力が付与されている。
【0026】
図2に示すように、内端保持手段5は、上下一対の保持部材30,40を含む。
図4の実線及び
図5に示すように、上側(一方)の保持部材30によって、1つの対角線上に一直線に配置された2つ(一組)の押し軸21,21の内端部が保持されている。下側(他方)の保持部材40によって、もう1つの対角線上に一直線に配置された2つ(他の一組)の押し軸21,21の内端部が保持されている。これら保持部材30,40が上下に重ねられて嵌め合わされている。上記押し部材20の外端部(押し当て部22b)がフリーな状態、又は押し部材20が保持部材30,40から分離された状態においては、
図4の仮想線にて示すように、上側保持部材30と下側保持部材40とが互いに角度調節可能になっている。
【0027】
詳しくは、
図7に示すように、上側保持部材30は、ベース板31と、一対の筒部32とを一体に有している。ベース板31は、中心孔31cを有する円環状になっている。
図5に示すように、中心孔31cに反力受け部材3が挿通されている。
【0028】
図7に示すように、筒部32は、角筒状になっており、その上面がベース板31の上面と面一になっている。なお、筒部32の形状は、上記に限られず、円筒状になっていてもよい。一対の筒部32は、中心孔31cを挟んで180°離れて対向している。各筒部32の筒軸が、筒部32,32どうしの対向方向(ベース板31の1つの直径方向)に向けられている。筒部32の外端部は、ベース板31から外方へ突出している。筒部32の内端部の上側部分が、ベース板31と一体に連なっている。
図7(b)に示すように、各筒部32の内端側の両側面は、中心孔31cに向かうにしたがって互いに接近するように斜めにカットされている。これによって、筒部32の内端側の部分は、中心孔31cに向かうにしたがって幅細になり、幅細部32eを構成している。
【0029】
各筒部32の内部には、保持穴32aと、連通穴32bとが、当該筒部32の筒軸に沿って形成されている。保持穴32aは、筒部32の外端面に開口するとともに筒部32の内端側(中心孔31cの側)へ向かって延びている。この保持穴32aに、対応する押し軸21の内端部が挿入されている。これによって、押し軸21が筒部32に保持され、かつ、この保持状態において保持穴32aの軸線に沿って内外方向にスライド可能になっている。保持穴32aの断面形状は、ねじ鉄筋からなる押し軸21の断面形状に合わせて、周方向の180°対向する2箇所が直線状になっている。これによって、押し軸21が、当該押し軸21の軸線まわりに回転するのを阻止されている。
なお、保持穴32aの断面形状が全周に亘る円形状であってもよい。
【0030】
保持穴32aの内端側(中心孔31cの側)に連通穴32bが連なっている。連通穴32bは、保持穴32aと同軸をなして、筒部32における幅細部32eの内部を通って筒部32の内端面に達して開口している。連通穴32bは、保持穴32aよりも小径であり、保持穴32aと連通穴32bとの間に段差が形成されている。
【0031】
連通穴32bには、対応する当接軸24が収容されている。当接軸24は、連通穴32bの軸線に沿ってスライド可能になっている。連通穴32bの軸長は、当接軸24の軸長よりも小さい。当接軸24の内端部は、反力受け部材3に突き当たっている。当接軸24の外端部は、連通穴32bから保持穴32aに突出して押し軸21に突き当たっている。
【0032】
各筒部32には、係止凸部33が一体に設けられている。係止凸部33は、概略L字状の断面を有して、筒部32の下面から突出している。2つの筒部32の係止凸部33どうしが、中心孔31cを挟んで180°離れて回転対称状に配置されている。
【0033】
図8に示すように、下側保持部材40は、ベース板41と、一対の筒部42とを一体に有している。ベース板41は、中心孔41cを有する円環状になっている。
図5に示すように、中心孔41cに反力受け部材3が挿通されている。
【0034】
図8に示すように、筒部42は、角筒状になっており、その下面がベース板41の下面と面一になっている。なお、筒部42の形状は、上記に限られず、円筒状になっていてもよい。一対の筒部42は、中心孔41cを挟んで180°離れて対向している。各筒部42の筒軸が、筒部42,42どうしの対向方向(ベース板41の1つの直径方向)に向けられている。筒部42の外端部は、ベース板41から外方へ突出している。筒部42の内端部の底部が、ベース板41と一体に連なっている。
図8(a)に示すように、各筒部42の内端側の両側面は、中心孔41cに向かうにしたがって互いに接近するように斜めにカットされている。これによって、筒部42の内端側の部分は、中心孔41cに向かうにしたがって幅細になり、幅細部42eを構成している。
【0035】
各筒部42の内部には、保持穴42aと、連通穴42bとが、当該筒部42の筒軸に沿って形成されている。保持穴42aは、筒部42の外端面に達して開口するとともに筒部42の内端側(中心孔31cの側)へ向かって延びている。この保持穴42aに、対応する押し軸21の内端部が挿入されている。これによって、押し軸21が筒部42に保持され、かつ、この保持状態において保持穴42aの軸線に沿って内外方向にスライド可能になっている。保持穴42aの断面形状は、ねじ鉄筋からなる押し軸21の断面形状に合わせて、周方向の180°対向する2箇所が直線状になっている。これによって、押し軸21が回り止めされている。
なお、保持穴42aの断面形状が全周に亘る円形状であってもよい。
【0036】
保持穴42aの内端側(中心孔41cの側)に連通穴42bが連なっている。連通穴42bは、保持穴42aと同軸をなして、筒部42における幅細部42eの内部を通って筒部42の内端面に達して開口している。連通穴42bは、保持穴42aよりも小径であり、保持穴42aと連通穴42bとの間に段差が形成されている。
【0037】
連通穴42bには、対応する当接軸24が収容されている。当接軸24は、連通穴42bの軸線に沿ってスライド可能になっている。連通穴42bの軸長は、当接軸24の軸長よりも小さい。当接軸24の内端部は、反力受け部材3に突き当たっている。当接軸24の外端部は、連通穴42bから保持穴42aに突出して押し軸21に突き当たっている。
【0038】
ベース板41における一対の筒部42を挟んで片側の半円部の外縁と、他側の半円部の外縁とには、それぞれ案内リム43(案内凸部)が形成されている。
図6及び
図8に示すように、案内リム43は、ベース板41から上方へ突出する垂直部43vと、この垂直部43vの上端部から径方向内側へ突出する水平部43hとを有して、逆さL字状の断面を構成するとともに、ベース板41の外縁に沿って半円弧状に延びている。ベース板41の外周部と水平部43hとの間に、半円弧状の案内溝43aが形成されている。案内溝43aの外周部は垂直部43vにて塞がれ、かつ案内溝43aの内周部は開口されている。
図8(a)に示すように、各案内リム43の周方向の一端は、1つの筒部42の近くに配置されており、これら案内リム43と筒部42との間に切欠き部44(リム43が無い部分)が形成されている。この切欠き部44に案内溝43aの周方向の一端が連なっている。この切欠き部44から上側保持部材30の上記係止凸部33を案内溝32aに差し入れることで、係止凸部33と案内リム43とを着脱可能に嵌め合わせることができる。各案内リム43の周方向の他端は、他方の筒部42に連なっている。該他方の筒部42の側面によって案内溝43aの周方向の他端が塞がれている。一対の案内リム43は、ベース板41の中心に関して、180°回転対称になっている。
【0039】
図5に示すように、上側保持部材30と下側保持部材40とは、上下に重ねられた状態で反力受け部材3に取り付けられている。この取り付け状態において、筒部32がベース板41の上面に当たるとともに筒部42がベース板31の下面に当たっている。さらに、L字状の係止凸部33と逆さL字状の案内リム43とが保持部材30,40の周方向へスライド可能に引っ掛かっている。これによって、上側保持部材30と下側保持部材40とが互いに軸方向に抜け止めされるとともに相対回転可能に嵌め合わされている。よって、押し部材20の外端部がフリーな場合、一直線をなす一組の押し部材20,20と、他の一組の押し部材20,20とは角度調節可能になっている。上側保持部材30の穴32a,32bの軸線と、下側保持部材40の穴42a,42bの軸線とは、互いに同一高さ(水平レベル)に位置している。ひいては、4つの押し部材20どうしが互いに同一高さ(水平レベル)に位置されている。
【0040】
鉄筋コンクリート体1の施工方法を、剪断補強筋12への周方向プレストレスの導入方法を中心に説明する。
<反力受け部材建て込み工程>
鉄筋コンクリート体1の内側部(好ましくは水平断面内の中央部)に当たる位置に反力受け部材3を鉛直に設置する。
【0041】
<保持部材取付工程>
また、一対の保持部材30,40どうしを嵌め合わせる。すなわち、上側保持部材30の係止凸部33を下側保持部材40の切り欠き部44に差し入れた後、保持部材30,40どうしを相対回転させて、係止凸部33を案内溝43aに挿入する。これによって、係止凸部33と案内リム43とが引っ掛かることで、保持部材30,40どうしの分離が阻止される。この保持部材30,40の中心孔31c,41cに反力受け部材3を挿通することで、保持部材30,40を反力受け部材3の外周に取り付ける。この保持部材取付作業は、反力受け部材3の建て込み前に予め行なってもよく、反力受け部材3の建て込み後に行なってもよい。
【0042】
<押し部材取付工程>
さらに、各筒部32,42の連通穴32b,42cに当接軸24を挿入するとともに、各筒部32,42の保持穴32a,42aに押し軸21の内端部を嵌め込む。押し軸21は、ねじ鉄筋を所定の長さに切断することで簡易に作製できる。保持部材30,40への当接軸24及び押し軸21の取り付けは、施工性を考慮して、保持部材30,40を反力受け部材3に設置した後に行なうことが好ましいが、保持部材30,40を反力受け部材3に設置する前に行ってもよい。
【0043】
各押し軸21の外端部には、ナット23及び当接部22を取り付ける。ナット23及び当接部22を予め押し軸21に取り付けたうえで、押し軸21を保持部材30,40に取り付けてよく、押し軸21を保持部材30,40に取り付けた後、ナット23及び当接部22を押し軸21に取り付けてもよい。
【0044】
次に、一組の一直線をなす押し部材20,20と、他の一組の一直線をなす押し部材20,20との角度を調節することで、これら押し部材20を鉄筋コンクリート体1の対角線に沿わせる。このとき、係止凸部33が案内溝43aに案内されて周方向に移動し、上下の保持部材30,40どうしが相対回転することによって、上記押し部材20の角度調節を許容する。これによって、鉄筋コンクリート体1の縦寸法と横寸法との比(アスペクト比)に拘わらず、各押し部材20を鉄筋コンクリート体1の対角線に確実に沿わせることができる。アスペクト比に関して突発的な設計変更があっても柔軟に対応することができる。さらに、当接軸24を押し軸21よりも細くするとともに、筒部32,42の内端側の部分を幅細部32e,42eにすることによって、
図4の仮想線に示すように、筒部32,42どうしをより接近させることができる。したがって、保持部材30,40どうしの角度調節可能範囲を広くでき、ひいては上記二組の押し部材20どうしの角度調節可能範囲を広くすることができる。
【0045】
<当接工程>
次いで、各押し部材20の押し当て部22bの先端部を、対応する主筋11と剪断補強筋12の折曲部12cとの間に挿し入れ、押し当て部22bを剪断補強筋12に当接する。
【0046】
<緊張工程>
続いて、4つの押し部材20について、それぞれナット23を締め付けて、当接部22を押し軸21の外端方向へ押し動かす。これによって、各押し部材20の全長が伸長し、剪断補強筋12の折曲部12cが外方向へ強く押されることによって、剪断補強筋12が緊張され、剪断補強筋12に引張応力が付与される。このとき、押し軸21の内端部が当接軸24を介して反力受け部材3に突き当たることによって、剪断補強筋12の外方向への押し力に対する反力を得ることができる。ナット23の締め付けによって、主筋11に影響を与えることなく、剪断補強筋12のみを押し拡げることができるから、トルク管理を容易に行なうことができる。
以上の作業を複数の剪断補強筋12の各々に対して行なう。
【0047】
<打設工程>
上記のように各剪断補強筋12を周方向プレストレス導入装置2にて緊張させた状態で、コンクリート10を打設する。コンクリート打設用の型枠としては、通常程度の剛性があればよく、一般的な堰板にて構成することができる。したがって、型枠の施工が煩雑化することはない。
【0048】
<反力受け撤去工程>
コンクリート10が硬化した後、反力受け部材3を鉛直上方に引き抜いて撤去する。これによって、反力受け跡13が形成されるとともに、当接軸24が反力受け跡13に臨む。ひいては、押し軸21の内端部が解放されて、上記剪断補強筋12の緊張力に対する反力が解除される。これによって、コンクリート10に周方向プレストレスを導入できる。この結果、鉄筋コンクリート体1の曲げ耐力及び剪断耐力を向上できる。さらに、周方向プレストレス導入装置2は鉄筋コンクリート体1の内側部から剪断補強筋12を緊張させるものであるから、コンクリート10の打設面は通常のRC構造の打設面と変わらず、打設面に緊張用のボルト孔等の余計な孔が出来ることもない。
【0049】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において既述の形態と重複する構成に関しては、図面に同一符号を付して説明を省略する。
<充填工程>
図9に示すように、反力受け部材3の撤去工程の後、撤去によって形成された空洞13を充填剤で埋めてもよい。充填剤としては、モルタルを用いることができる。したがって、この場合、充填剤によって反力受け跡14が構成される。押し軸21の内端部は、当接軸24を介して充填剤からなる反力受け跡14に臨む。
【0050】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨の範囲内で種々の改変をなすことができる。
例えば、当接部が、押し軸の内端部に内外方向へ移動可能に設けられ、反力受け部材に当たっていてもよい。この当接部をナットによって押し軸の内端側へ押し動かすことで、押し部材を伸長させることにしてもよい。
周方向プレストレス導入装置2の押し部材20の数は、4つに限られず、2つ又は3つでもよく、5つ以上でもよい。
押し部材20の外端部が、剪断補強筋12の折曲部12cにではなく直線部12aに当接していてもよい。
押し部材20の当接部とナットが一体になっていてもよい。
押し部材20が伸縮ロッドを含んでいてもよい。
押し軸21の内端部が直接的に反力受け部材3に当たるようにしてもよい。したがって、押し軸21の内端部が直接的に反力受け跡13,14に臨むようにしてもよく、当接軸24を省略してもよい。
複数の押し部材20の内端部が互いに1つの保持部材にて保持されていてもよい。保持部材30,40が一体になっていてもよい。
鉄筋コンクリート体1は、鉄筋コンクリート構造物の柱に限られず、梁であってもよい。鉄筋コンクリート体1の断面形状ひいては剪断補強筋12の断面形状は、四角形に限られず、円形、その他の形状であってもよい。本発明の周方向プレストレス導入装置によれば、鉄筋コンクリート体の種々の断面形状に柔軟に対応することができる。