(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ヨー方向センサの正常時に前記ヨー方向センサで検出した前記ヨー方向値と、前記ヨー方向センサの正常時に前記ヨー方向推定部で算出した前記ヨー方向の推定値との比較結果に基づき、前記ヨー方向推定部における前記推定値算出ロジックを修正するように構成されたロジック修正部をさらに備える請求項1又は2に記載の風力発電装置のヨー制御システム。
前記ヨー方向推定部は、前記所定期間の開始時点における前記ヨー方向値および前記所定期間における前記ヨー旋回移動量と、前記所定期間の終了時点におけるヨー方向値との関係式から、前記ヨー方向の前記推定値を算出するように構成され、
前記ロジック修正部は、前記比較結果に基づき前記関係式を修正するように構成されたことを特徴とする請求項3に記載の風力発電装置のヨー制御システム。
前記ヨー方向推定部は、前記所定期間の開始時点における前記ヨー方向値および前記所定期間における前記ヨー旋回移動量と、前記所定期間の終了時点におけるヨー方向値との関係式から、前記ヨー方向の前記推定値を算出するように構成され、
前記関係式は、前記ナセルの旋回方向に応じて設定されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の風力発電装置のヨー制御システム。
前記推定値補正部は、前記ヨー方向推定部によって算出された前記ヨー方向の前記推定値の設定期間における変化量と、前記設定期間における前記基準ヨー方向値の変化量との差分が閾値を超えたとき、前記基準ヨー方向値に基づいて前記推定値を補正するように構成されたことを特徴とする請求項6に記載の風力発電装置のヨー制御システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載されるように、ポテンショメータを備える風力発電装置において、ポテンショメータに故障又は誤作動等が発生した場合、正確なヨー方向値が検知不能となることがある。ヨー方向値が検知不能な状態でナセルのヨー旋回を継続して行うと、タワーとナセルとの間に延在する各種ケーブルが限界を超えて捻じれてしまうおそれがある。その結果、これらのケーブルの損傷あるいは切断という風力発電装置の安全性に関わる重大な不適合が発生する可能性がある。
一方、ポテンショメータが異常となった時点で風力発電装置の運転を停止してしまうと、例えば深夜時間帯等の保守作業員が現場から離れている場合や洋上風力発電装置等のように風力発電装置に容易にアクセスできない場合など、迅速な保守作業が困難な場合においては風力発電装置の稼働率が著しく悪化することが考えられる。
【0007】
本発明の少なくとも幾つかの実施形態は、上述の事情に鑑み、ヨー方向センサの異常時においても正確なヨー方向値を取得し得る風力発電装置のヨー制御システム及びヨー制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の幾つかの実施形態に係る風力発電装置のヨー制御システムは、
ヨー駆動機構によりヨー旋回可能に構成されたナセルを有する風力発電装置のヨー制御システムであって、
前記ナセルの現在のヨー方向値を検出するためのヨー方向センサと、
前記ナセルのヨー旋回速度及びヨー旋回時間に基づいて、所定期間における前記ナセルのヨー旋回移動量を算出するための移動量算出部と、
前記移動量算出部によって算出された前記所定期間における前記ヨー旋回移動量と、前記所定期間の開始時点における前記ヨー方向値とに基づき、推定値算出ロジックにより、前記所定期間の終了時点における前記ナセルのヨー方向の推定値を算出するように構成されたヨー方向推定部と、
前記ヨー駆動機構を制御するためのヨー駆動制御部と、を備え、
前記ヨー駆動制御部は、前記ヨー方向センサの正常時、前記ヨー方向センサによる前記ヨー方向値の検出結果に基づき前記ナセルの旋回方向を決定するとともに、前記ヨー方向センサの異常発生時、前記ヨー方向推定部によって算出された前記推定値に基づき前記ナセルの旋回方向を決定するように構成されたことを特徴とする。
【0009】
上記風力発電装置のヨー制御システムにおいて、ヨー方向センサの正常時はヨー方向センサを用いてナセルの旋回方向を決定する。一方、ヨー方向センサの異常発生時にはヨー方向推定部によって算出されたヨー方向の推定値を用いてナセルの旋回方向を決定するようになっている。そのため、例えば故障や誤作動等のヨー方向センサの異常によって、ナセルの現在のヨー方向値を正確に検出できない場合であっても、ヨー方向の推定値を用いることで適正なナセルの旋回方向を決定することができる。これにより、ナセルがヨーリミットを超えて旋回してしまうことを防ぎ、ナセルとタワーとの間に延在する各種ケーブルが限界を超えて捻じれることを防止でき、風力発電装置の継続的な安定運転が可能となる。
また、ヨー方向推定部では、ナセルのヨー旋回速度及びヨー旋回時間に基づいて算出される所定期間におけるヨー旋回移動量と、所定期間の開始時点におけるヨー方向値とに基づいて所定期間の終了時点におけるナセルのヨー方向の推定値を算出するようになっている。そのため、ヨー方向センサが多重化されていない風力発電装置であっても、ヨー方向センサの故障・異常発生時、ヨー方向センサに代えてヨー方向推定部をヨー方向値の取得のために利用でき、あたかもヨー方向センサを多重化したかのような冗長性のあるシステムを実現できる。よって、多重化を目的としたヨー方向センサの追加設置のための費用やスペースを必要とせずに、風力発電装置の運転の安全性、信頼性、稼働率等を向上させることができる。
【0010】
幾つかの実施形態に係る風力発電装置のヨー制御システムは、前記風力発電装置に作用する風の風向を検出するための風向センサをさらに備え、
前記ヨー駆動制御部は、前記風向センサの検出結果に基づいて、前記風向センサによって検出された前記風向に前記ナセルが追従するように、前記旋回方向に前記ナセルを旋回させるように構成される。
このように、風向に追従するようにナセルの旋回制御を行う場合、風向の変化の仕方によってはナセルの旋回方向が右旋回又は左旋回に偏ってしまい、ナセルがヨーリミットを超えて旋回してしまう可能性がある。特に、ヨー方向センサの異常発生時には、ヨー方向値の検出結果が得られないため、ナセルの風向追従制御の結果、ナセルがヨーリミットを超えてしまうおそれがある。
この点、上記ヨー制御システムは、上述のように、ヨー旋回制御部によって、ヨー方向センサの異常発生時にはヨー方向の推定値に基づき旋回方向を決定するようになっているから、ナセルの風向追従制御を行う場合であっても、ヨーリミットを超えるようなナセルの旋回を回避できる。
【0011】
幾つかの実施形態に係る風力発電装置のヨー制御システムは、前記ヨー方向センサの正常時に前記ヨー方向センサで検出した前記ヨー方向値と、前記ヨー方向センサの正常時に前記ヨー方向推定部で算出した前記ヨー方向の推定値との比較結果に基づき、前記ヨー方向推定部における前記推定値算出ロジックを修正するように構成されたロジック修正部をさらに備える。
ヨー方向推定部におけるヨー方向の推定値には、ヨー駆動機構の個体差や経年変化等に起因した積分誤差が含まれることがある。そこで、上述のように、ヨー方向センサの正常時に取得したヨー方向センサの検出結果を利用してヨー方向推定部における推定値算出ロジックを修正することで、ヨー方向推定部におけるヨー方向の推定精度を向上させることができる。よって、ヨー方向センサの異常発生時において、ヨー方向推定部によって算出されたヨー方向の正確な推定値に基づき、ナセルの旋回方向を決定することができる。
【0012】
一実施形態において、前記ヨー方向推定部は、前記所定期間の開始時点における前記ヨー方向値および前記所定期間における前記ヨー旋回移動量と、前記所定期間の終了時点におけるヨー方向値との関係式から、前記ヨー方向の前記推定値を算出するように構成され、
前記ロジック修正部は、前記比較結果に基づき前記関係式を修正するように構成される。
これにより、関係式の修正を通じて適正な推定値算出ロジックを実現することができ、ヨー方向推定部におけるヨー方向の推定精度を向上させることができる。
【0013】
幾つかの実施形態において、前記ヨー方向推定部は、前記所定期間の開始時点における前記ヨー方向値および前記所定期間における前記ヨー旋回移動量と、前記所定期間の終了時点におけるヨー方向値との関係式から、前記ヨー方向の前記推定値を算出するように構成され、
前記関係式は、前記ナセルの旋回方向に応じて設定されている。
このように、上記関係式が、右旋回又は左旋回に対応してそれぞれ設定されているので、例えばヨー駆動機構の特性が右旋回と左旋回とで異なる場合であっても、旋回方向に応じた適切なヨー方向の推定値を算出できる。
【0014】
幾つかの実施形態に係る風力発電装置のヨー制御システムは、前記ヨー方向センサの異常発生時に前記ヨー方向推定部によって算出された前記推定値を補正するための推定値補正部をさらに備え、
前記推定値補正部は、前記風力発電装置と風況の類似性を有し、且つ、健全なヨー方向センサを有する他の風力発電装置の前記健全なヨー方向センサによって検出される基準ヨー方向値に基づいて、前記推定値を補正するように構成される。
通常、ヨー駆動制御部は、例えば風向センサによって検出された風向等の風況に応じてナセルのヨー旋回を制御する。そのため、互いに類似する風況に置かれた複数の風力発電装置は、概ね同量のヨー旋回を行ったと考えることができる。そこで、風況の類似性を有する他の風力発電装置の健全なヨー方向センサによって検出される基準ヨー方向値に基づいて、前記風力発電装置のヨー方向の推定値を補正することによって、ヨー方向の正確な推定値を算出できる。
【0015】
一実施形態において、前記推定値補正部は、前記ヨー方向推定部によって算出された前記ヨー方向の前記推定値の設定期間における変化量と、前記設定期間における前記基準ヨー方向値の変化量との差分が閾値を超えたとき、前記基準ヨー方向値に基づいて前記推定値を補正するように構成される。
上記実施形態では、前記風力発電装置のヨー方向推定値の変化量と、他の風力発電装置の基準ヨー方向値の変化量との差分が閾値を超えたとき、前記風力発電装置のヨー方向推定値の誤差が過大である可能性があるため、基準ヨー方向値に基づいて推定値を補正する。これにより、ヨー方向推定値が実際のヨー方向値から大幅に乖離することを防止し、推定精度の向上が図れる。
【0016】
本発明の幾つかの実施形態に係る風力発電装置のヨー制御方法は、
ヨー駆動機構によりヨー旋回可能に構成されたナセルを有する風力発電装置のヨー制御方法であって、
前記ナセルの現在のヨー方向値をヨー方向センサで検出するヨー方向検出ステップと、
前記ナセルのヨー旋回速度及びヨー旋回時間に基づいて、所定期間における前記ナセルのヨー旋回移動量を算出する移動量算出ステップと、
前記移動量算出ステップにおいて算出された前記所定期間における前記ヨー旋回移動量と、前記所定期間の開始時点における前記ヨー方向値とに基づき、推定値算出ロジックにより、前記所定期間の終了時点における前記ナセルのヨー方向の推定値を算出するように構成されたヨー方向推定ステップと、
前記ヨー駆動機構を制御するヨー駆動制御ステップと、を備え、
前記ヨー駆動制御ステップでは、前記ヨー方向センサの正常時、前記ヨー方向検出ステップにおける前記ヨー方向値の検出結果に基づき前記ナセルの旋回方向を決定するとともに、前記ヨー方向センサの異常発生時、前記ヨー方向推定ステップで算出された前記推定値に基づき前記ナセルの旋回方向を決定することを特徴とする。
【0017】
上記風力発電装置のヨー制御方法によれば、ヨー駆動制御ステップにて、ヨー方向センサの正常時はヨー方向センサを用いてナセルの旋回方向を決定する。一方、ヨー方向センサの異常発生時にはヨー方向推定ステップによって算出されたヨー方向の推定値を用いてナセルの旋回方向を決定するようになっている。そのため、ナセルの現在のヨー方向値を正確に検出できない場合であっても、ヨー方向の推定値を用いることで適正なナセルの旋回方向を決定することができる。これにより、ナセルがヨーリミットを超えて旋回してしまうことを防ぎ、ナセルとタワーとの間に延在する各種ケーブルが限界を超えて捻じれることを防止でき、風力発電装置の継続的な安定運転が可能となる。
また、ヨー方向推定ステップでは、ナセルのヨー旋回速度及びヨー旋回時間に基づいて算出される所定期間におけるヨー旋回移動量と、所定期間の開始時点におけるヨー方向値とに基づいて所定期間の終了時点におけるナセルのヨー方向の推定値を算出するようになっている。そのため、ヨー方向センサが多重化されていない風力発電装置であっても、ヨー方向センサの故障・異常発生時、ヨー方向センサに代えてヨー方向推定部をヨー方向値の取得のために利用でき、あたかもヨー方向センサを多重化したかのような冗長性のあるシステムを実現できる。よって、多重化を目的としたヨー方向センサの追加設置のための費用やスペースを必要とせずに、風力発電装置の運転の安全性、信頼性、稼働率等を向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、ナセルの現在のヨー方向値を正確に検出できない場合であっても、ヨー方向の推定値を用いることで適正なナセルの旋回方向を決定することができる。よって、ナセルがヨーリミットを超えて旋回してしまうことを防ぎ、ナセルとタワーとの間に延在する各種ケーブルが限界を超えて捻じれることを防止でき、風力発電装置の継続的な安定運転が可能となる。
また、ヨー方向センサが多重化されていない風力発電装置であっても、ヨー方向センサの故障・異常発生時、ヨー方向センサに代えてヨー方向推定部をヨー方向値の取得のために利用でき、あたかもヨー方向センサを多重化したかのような冗長性のあるシステムを実現できる。よって、多重化を目的としたヨー方向センサの追加設置のための費用やスペースを必要とせずに、風力発電装置の運転の安全性、信頼性、稼働率等を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について説明する。ただし、実施形態として以下に記載され、あるいは、実施形態として図面で示された構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0021】
最初に、
図1を参照して、本発明の実施形態に係る風力発電装置1及びヨー制御システム30の構成例について説明する。なお、
図1は、一実施形態に係る風力発電装置1の概略的な全体構成を示す側面図である。
【0022】
幾つかの実施形態において、
図1に示す風力発電装置1は、少なくとも2本のブレード2及びハブ3を含むロータ4は、風力エネルギーによって回転するように構成されている。ハブ3は、鋳物で一体的に構成されていてもよく、ブレード2の取り付け部を有している。例えば、風力発電装置1は、3本のブレード2が放射状にハブ3に取り付けられた構成であってもよい。ハブ3は、ハブカバー(不図示)に覆われていてもよい。また、風力発電装置1は、ロータ4の回転エネルギーを用いて発電を行うように構成された発電機6を備えている。発電機6は、ドライブトレイン10を介してロータ4の回転エネルギーが伝達されるように構成されていてもよい。この場合、ドライブトレイン10として、油圧ポンプ及び油圧モータを含む油圧トランスミッションを用いた構成であってもよいし、ギヤ式の増速機を用いた構成であってもよい。また、ドライブトレイン10を設けずに、ハブ3と発電機6とを直結させた構成であってもよい。
【0023】
図1に示すように、タワー9は洋上又は陸上に立設される。ナセル8は、タワー9の上端部に取り付けられるナセル台板8bと、ナセル台板8bによって支持され、ナセル8の内部空間に配置される機器を覆うように構成されたナセルカバー8aとを含む。ナセル台板8bは、ヨー旋回座軸受12を介してタワー9の上部に旋回自在に支持されている。具体的に、ヨー旋回座軸受12は、内輪12A及び外輪12Bを含んでいる。内輪12Aはナセル台板8bに取り付けられ、外輪12Bはタワー9に取り付けられている。このヨー旋回座軸受12によって、ナセル台板8bを含むナセル8は、タワー9に対してヨー方向に旋回自在な構成となっている。
【0024】
一実施形態において、
図1に示す風力発電装置1は、ナセル8をヨー旋回させるためのナセル旋回機構14及びヨー駆動機構15と、ナセル8のヨー旋回を停止するためのヨーブレーキ16とを備えている。
ナセル旋回機構14は、例えば、ナセル台板8bに設置されたヨー駆動機構15によって回転するように構成されたギヤ14Aと、タワー9の上部の内周面に設けられ、ギヤ14Aと噛合する内歯車14Bとを含んでいる。なお、他の構成例として、タワー9の外周側に外歯車を設け、該外歯車と噛合するように構成されたギヤとを含んでいてもよい。
ヨー駆動機構15は、例えば、ナセル台板8bに取り付けられており、ギヤ14Aの軸に直接連結されるか、またはギヤ14Aにピニオンを介して連結される減速機と、クラッチと、ヨーモータと、電磁ブレーキと、これらを収納するハウジングとで構成されていてもよい。上記構成を有する場合、クラッチが結合状態で電磁ブレーキがONにされたら、ヨーモータの駆動力が減速機を介してギヤ14Aに伝達され、ギヤ14Aが内歯車14Bと噛み合いながら回転する。これにより、ナセル8がタワー9に対してヨー旋回するようになっている。なお、ヨー駆動機構15は、タワー9の軸線を中心とした円周上に複数設けられていてもよい。他の構成例では、ヨー駆動機構15は、タワー9の上部に取り付けられていてもよい。
【0025】
一実施形態において、風力発電装置1は、ナセル8のヨー旋回を制御するためのヨー制御システム30をさらに備えている。ヨー制御システム30は、風向センサ17、風速センサ18、及びポテンショメータ20を含むセンサ群と、センサ群からの検出信号に基づいてヨー制御を行うための中央監視制御装置(SCADA)31と、を含んでいる。なお、中央監視制御装置31の構成については後述する。
【0026】
風向センサ17は、
図2に示すような風車ロータ4の向きに対する主風向の向きを検出する。風向センサ17は、ナセル8と風向との偏差を検出する構成であってもよい。なお、
図2は、一実施形態におけるナセルのヨー旋回を説明するための図である。一般的には、風力発電装置1は、風向センサ17の検出結果に基づいて、風向センサ20によって検出された風向(主風向)にナセル8が追従するように、ナセル8を旋回させる制御が行われる。
図1に戻り、風速センサ18は、風車ロータ又はナセルにおける風速を検出する構成となっている。
ポテンショメータ20は、ヨー方向センサ19とヨーリミットセンサ21とを含んでいてもよい。ヨー方向センサ19は、ナセル8の現在のヨー方向値を検出するように構成されている。例えば、タワー9とナセル8との相対的な旋回移動量を検出する構成であってもよい。なお、ヨー方向センサ19で検出されるヨー方向値は、基準方位に対する回転角度で示されるものであり、基準方位に対する相対的な角度であってもよい。その場合、ナセル8が同一の方位を向いていても、ヨー方向値は360n°(但し、nは整数)異なる場合もある。
【0027】
図3に示すように、一実施形態では、複数の風力発電装置1(1A〜1D)が立設されたウィンドファーム100においてヨー制御システム30が適用されてもよい。ウィンドファーム100は、洋上又は陸上に設けられており、複数の風力発電装置1(1A〜1D)が、通信コンバータ104及びハブ106、LAN等の通信回線を介して中央監視制御装置31に通信可能に接続されている。また、ウィンドファーム100には、風況監視装置(MET)102が設けられていてもよい。MET102は、ウィンドファーム100内に一又は複数設けられ、ウィンドファーム100内の風向や風速等の風況を観測するようになっている。このMET102も風力発電装置1と同様に、通信コンバータ104及びハブ106、LAN等の通信回線を介して、中央監視制御装置31に通信可能に接続される。さらに、複数の風力発電装置1(1A〜1D)、MET102又は中央監視制御装置31は、インターネット等の通信回線を介してSCADAクライアント端末108に接続可能であってもよい。中央監視制御装置31は、通信回線を介して、各風力発電装置1(1A〜1D)の運転状況や風力発電装置1の各種センサの検出信号を取得したり、MET102からウィンドファーム100内の風況状況を取得したり、各風力発電装置1(1A〜1D)から各種の制御信号を取得したりする。また、SCADAクライアント端末108は、ウィンドファーム100の外部に設置され、インターネット等の通信回線を介してウィンドファーム100内の各種装置(例えば中央監視制御装置31やMET102や各風力発電装置1A〜1D)と通信可能に構成されている。このSCADAクライアント端末108は、例えば、クライアントからの指令の入力や各風力発電装置1(1A〜1D)の状態監視等に用いられる。
【0028】
図4に示すように、幾つかの実施形態に係るヨー制御システム30において、中央監視制御装置31は、風向センサ17、風速センサ18、ポテンショメータ20からのセンサ検出信号が入力され、各種の演算を行うことによって算出された制御信号をヨーブレーキ16又はヨー駆動機構15に出力するようになっている。例えば、中央監視制御装置31は、図示しないCPU(中央演算装置)、RAM(Random Access Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体等から構成されている。後述の各種機能を実現するための一連の処理の過程は、プログラムの形式で記録媒体等に記録されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、後述の各種機能が実現される。
【0029】
具体的に中央監視制御装置31は、主として、ヨー駆動機構を制御するためのヨー駆動制御部32と、ヨー方向推定値に関する演算を行うための演算部33とを備えている。演算部33は、記憶部34と、移動量算出部35と、ヨー方向推定部36と、ロジック修正部37と、推定値補正部38とを含んでいてもよい。
【0030】
ヨー駆動制御部32は、ヨー駆動機構15を制御するように構成されている。すなわち、ヨー駆動制御部32は、風向センサ17及び風速センサ18の検出結果に基づいて、ナセル8を旋回させるための制御信号を演算する構成となっている。例えば、風向センサ17によって検出された風向にナセル8が追従するように、ナセル8を旋回させるように構成されている。すなわち、風向センサ17及び風速センサ18によって、ナセル8のヨー方向の目標値が決定される。そして、ヨー駆動制御部32は、適宜、ヨーブレーキ16へ旋回停止指令を出力したり、ヨー駆動機構15へ右旋回指令や左旋回指令を出力したりする。
【0031】
ここで、ナセル8をヨー方向の目標値まで旋回させる際には、右旋回及び左旋回の2通りの旋回方向が選択可能である。本実施形態では、以下のようにして、ヨー駆動制御部32がナセル8の旋回方法を決定するようになっている。なお、本実施形態では、風力発電装置1の上方からナセル8を視た時、右旋回とは時計回りの旋回方向であり、左旋回とは半時計回りの旋回方向である。
【0032】
具体的には、ヨー方向センサ19の正常時、ヨー駆動制御部32は、ヨー方向センサ19によって検出されたヨー方向値が規定範囲(ヨーリミット)内に収まるようにナセル8の旋回方向を決定する。例えば、ヨー方向センサ19の正常時において、ヨーリミットの範囲内であれば、効率化の観点からナセル8の旋回方向は、現在の角度から目標の角度まで旋回させる際の旋回移動量(旋回角度)が小さい方向が選択される。一方、ヨー方向センサ19の正常時において、目標の角度がヨーリミットを越える場合、現在の角度から目標の角度まで旋回させる際の旋回移動量が大きい方向、すなわちナセル8のヨー方向値が小さくなるような旋回方向が選択される。なお、ヨーリミットとは、ナセル8の旋回が許容される規定範囲の境界を示す閾値であり、ヨーリミットの範囲内でヨー旋回していれば、ナセル8とタワー9との間に延在する各種ケーブル等の過剰な捻じれによる不具合の発生を回避できる。また、後述するように、ヨー旋回に対するリミット監視として、ソフトウェアリミット監視部40と、ハードウェアリミット監視部41とを備える場合、ヨーリミットはソフトウェアリミット監視部40で用いられるソフトウェアリミットと、ハードウェアリミット監視部41で用いられるハードウェアリミットとを含む。その場合、上述したヨー駆動制御部32では、ヨーリミットとしてソフトウェアリミットが用いられる。
【0033】
また、ヨー方向センサ19の異常発生時、ヨー駆動制御部32は、ヨー方向推定部36によって算出された推定値が規定範囲内に収まるようにナセル8の旋回方向を決定するように構成されている。一方、ヨー方向センサ19の異常発生時、目標の角度が規定範囲(ヨーリミット)を越える場合には、ヨー駆動制御部32は、ナセル8のヨー方向値が小さくなるような旋回方向を選択する。なお、ヨー方向推定部36の推定方法については後述する。
【0034】
記憶部34は、例えば不揮発性メモリで構成され、ヨー方向センサ19で検出されたヨー方向値や、ヨー方向推定部36で算出されたヨー方向推定値等が格納される。
移動量算出部35は、ナセル8のヨー旋回速度及びヨー旋回時間に基づいて、所定期間におけるナセル8のヨー旋回移動量を算出するように構成されている。例えば、ヨー旋回移動量は、ヨー旋回速度とヨー旋回時間との積で算出される。ここで、ヨー旋回速度は、ヨー駆動機構の仕様(例えばヨーモータの仕様)から取得してもよいし、ヨー旋回速度を検出するためのセンサから取得してもよい。
【0035】
ヨー方向推定部36は、移動量算出部35によって算出された所定期間におけるヨー旋回移動量と、所定期間の開始時点におけるヨー方向値とに基づき、推定値算出ロジックにより、所定期間の終了時点におけるナセル8のヨー方向の推定値を算出するように構成されている。なお、推定値算出ロジックとは、予め変数が設定された関係式を含んでいる。具体的に、関係式とは、所定期間の開始時点におけるヨー方向値および所定期間におけるヨー旋回移動量と、所定期間の終了時点におけるヨー方向値との相関関係を示す式である。そして、この関係式は、ナセル8の旋回方向に応じて設定されている。このように、上記関係式が、右旋回又は左旋回に対応してそれぞれ設定されているので、例えばヨー駆動機構15の特性が右旋回と左旋回とで異なる場合であっても、旋回方向に応じた適切なヨー方向の推定値を算出できる。このようにして算出されたヨー方向推定値は、ヨー方向センサ19の異常時、ヨー方向センサ19で検出されたヨー方向値に代わって記憶部34に記憶されたり、ヨー旋回制御部32に入力されたりする。なお、ヨー方向センサ19で検出されたヨー方向値と、ヨー方向推定部36で算出されたヨー方向推定値とは、切替スイッチ39によって切り替えられるようになっていてもよい。ヨー方向センサ19の異常時の判断に際して、ヨー方向センサ19からセンサ異常信号を受け取ったとき、ヨー方向センサ19の異常時と判断するようにしてもよい。また、例えばヨー方向センサ19の機械部品(ハード)が壊れた場合、ヨー方向センサ19の出力信号に変化がみられなくなるため、ヨー方向センサ19の出力信号が一定時間、変化しない場合に、ヨー方向センサ19の異常時と判断するようにしてもよい。
【0036】
上記構成を有するヨー制御システム30では、ヨー方向センサ19の正常時、ヨー駆動制御部32は、ヨー方向センサ19によるヨー方向値の検出結果に基づきナセル8の旋回方向を決定する。一方、ヨー方向センサ19の異常発生時、ヨー駆動制御部32は、ヨー方向推定部36によって算出された推定値に基づきナセルの旋回方向を決定するようになっている。そのため、例えば故障や誤作動等のヨー方向センサ19の異常によって、ナセルの現在のヨー方向値を正確に検出できない場合であっても、ヨー方向の推定値を用いることで適正なナセルの旋回方向を決定することができる。これにより、ナセル8がヨーリミットを超えて旋回してしまうことを防ぎ、ナセル8とタワー9との間に延在する各種ケーブルが限界を超えて捻じれることを防止でき、風力発電装置1の継続的な安定運転が可能となる。
また、ヨー方向推定部36では、ナセルのヨー旋回速度及びヨー旋回時間に基づいて算出される所定期間におけるヨー旋回移動量と、所定期間の開始時点におけるヨー方向値とに基づいて所定期間の終了時点におけるナセルのヨー方向の推定値を算出するようになっている。そのため、ヨー方向センサ19が多重化されていない風力発電装置1であっても、ヨー方向センサ19の故障・異常発生時、ヨー方向センサ19に代えてヨー方向推定部36をヨー方向値の取得のために利用でき、あたかもヨー方向センサ19を多重化したかのような冗長性のあるシステムを実現できる。よって、多重化を目的としたヨー方向センサ19の追加設置のための費用やスペースを必要とせずに、風力発電装置1の運転の安全性、信頼性、稼働率等を向上させることができる。
さらに、上記構成を有するヨー制御システム30は、上述のように、ヨー駆動制御部32によって、ヨー方向センサ19の異常発生時にはヨー方向の推定値に基づき旋回方向を決定するようになっているから、ナセル8の風向追従制御を行う場合であっても、ヨーリミットを超えるようなナセル8の旋回を回避できる。
【0037】
一実施形態において、ヨー制御システム30は、ロジック修正部37をさらに備えていてもよい。ロジック修正部37は、演算部33に含まれており、ヨー方向センサ19の正常時にヨー方向センサ19で検出したヨー方向値と、ヨー方向センサ19の正常時にヨー方向推定部36で算出したヨー方向の推定値との比較結果に基づき、ヨー方向推定部36における推定値算出ロジックを修正するように構成される。ヨー方向推定部36におけるヨー方向の推定値には、ヨー駆動機構15の個体差や経年変化等に起因した積分誤差が含まれることがある。そこで、上述のように、ヨー方向センサ19の正常時に取得したヨー方向センサ19の検出結果を利用してヨー方向推定部36における推定値算出ロジックを修正することで、ヨー方向推定部36におけるヨー方向の推定精度を向上させることができる。よって、ヨー方向センサ19の異常発生時において、ヨー方向推定部36によって算出されたヨー方向の正確な推定値に基づき、ナセル8の旋回方向を決定することができる。
【0038】
一実施形態において、ヨー方向推定部36は、所定期間の開始時点におけるヨー方向値および所定期間におけるヨー旋回移動量と、所定期間の終了時点におけるヨー方向値との関係式から、ヨー方向の推定値を算出するように構成されている。この場合、ロジック修正部は、比較結果に基づき関係式を修正するように構成されていてもよい。この構成において、推定値算出ロジックは、所定期間の開始時点におけるヨー方向値および所定期間におけるヨー旋回移動量と、所定期間の終了時点におけるヨー方向値との関係式を含んでおり、ロジック修正部37はこの関係式を修正するようになっている。これにより、関係式の修正を通じて適正な推定値算出ロジックを実現することができ、ヨー方向推定部36におけるヨー方向の推定精度を向上させることができる。
【0039】
一実施形態では、ヨー制御システム30は、ヨー方向センサの異常発生時にヨー方向推定部によって算出された推定値を補正するための推定値補正部38をさらに備える。推定値補正部38は、風力発電装置1と風況の類似性を有し、且つ、健全なヨー方向センサ19を有する他の風力発電装置の健全なヨー方向センサによって検出される基準ヨー方向値に基づいて、ヨー方向推定値を補正するように構成される。通常、ヨー駆動制御部32は、例えば風向センサ17によって検出された風向等の風況に応じてナセル8のヨー旋回を制御する。そのため、互いに類似する風況に置かれた複数の風力発電装置1は、概ね同量のヨー旋回を行ったと考えることができる。そこで、風況の類似性を有する他の風力発電装置の健全なヨー方向センサ19によって検出される基準ヨー方向値に基づいて、風力発電装置1のヨー方向の推定値を補正することによって、ヨー方向の正確な推定値を算出できる。例えば、上述した
図3のようなウィンドファーム100において、風力発電装置1Aでヨー方向センサ19の異常が発生した場合、風力発電装置1と風況の類似性を有するものとして、例えば距離の近い風力発電装置1B,1C等が選択可能である。これらの他の風力発電装置1B,1Cのヨー方向センサ19が健全であれば、これらの風力発電装置1B,1Cによって検出される基準ヨー方向値に基づいて、ヨー方向推定値を補正してもよい。
【0040】
上記実施形態において、推定値補正部38は、ヨー方向推定部36によって算出されたヨー方向の推定値の設定期間における変化量と、設定期間における基準ヨー方向値の変化量との差分が閾値を超えたとき、基準ヨー方向値に基づいて推定値を補正するように構成されてもよい。これは、風力発電装置1のヨー方向推定値の変化量と、他の風力発電装置の基準ヨー方向値の変化量との差分が閾値を超えたとき、前記風力発電装置のヨー方向推定値の誤差が過大である可能性があるため、基準ヨー方向値に基づいて推定値を補正する。これにより、ヨー方向推定値が実際のヨー方向値から大幅に乖離することを防止し、推定精度の向上が図れる。
【0041】
また、一実施形態において、ヨー制御システム30は、中央監視制御装置31に含まれるソフトウェアリミット監視部40と、中央監視制御装置31とは別に設けられたハードウェアリミット監視部41とを備えていてもよい。
ソフトウェアリミット監視部40は、ヨー方向センサ19の正常時には、ヨー方向センサ19で検出されたヨー方向値がソフトウェアリミットを超えないように監視する。すなわち、ヨー方向値がソフトウェアリミットを超えた場合に、ソフトウェアリミット監視部40は、ヨー方向値がソフトウェアリミットを超えない旋回方向となるようにヨー駆動制御部32に対して指令を送る。ヨー方向センサ19の異常時には、ヨー方向推定部36で算出されたヨー方向推定値がソフトウェアリミットを超えないように監視する。すなわち、ヨー方向推定値がソフトウェアリミットを超えた場合に、ソフトウェアリミット監視部40は、ヨー方向値がソフトウェアリミットを超えない旋回方向となるようにヨー駆動制御部32に対して指令を送る。
【0042】
ハードウェアリミット監視部41は、ヨー方向センサ19の正常時には、ヨー方向センサ19で検出されたヨー方向値がハードウェアリミットを超えないように監視する。すなわち、ヨー方向値がハードウェアリミットを超えた場合に、ハードウェアリミット監視部41は、風力発電装置1の停止制御を行う。その際、風力発電装置1の補機類の電源も遮断してもよい。ハードウェアリミット監視部41は、ヨー方向センサ19の異常時には、ヨー方向推定部36で算出されたヨー方向推定値がハードウェアリミットを超えないように監視する。すなわち、ヨー方向推定値がハードウェアリミットを超えた場合に、ハードウェアリミット監視部41は、風力発電装置1の停止制御を行う。その際、風力発電装置1の補機類の電源も遮断してもよい。
通常、ハードウェアリミットはソフトウェアリミットより厳しい条件に設定され、例えばソフトウェアリミットはヨー旋回の許容範囲である±270°であり、ハードウェアリミットは捻回角度限界である±720°である。ここで、+は右旋回、−は左旋回を意味する。
【0043】
以下、本発明の実施形態に係る風力発電装置1のヨー制御方法について、その手順を詳細に説明する。
なお、ここでは、風力発電装置の一例としてアップウィンド型の風力発電装置1について述べるが、本発明の実施形態に係るヨー制御方法は、ダウンウィンド型等の他の風力発電装置にも適用できる。
【0044】
まず、ヨー方向検出ステップにおいて、ナセル8の現在のヨー方向値をヨー方向センサ19で検出する。ヨー方向センサ19によるヨー方向の検出は、所定間隔で断続的に行ってもよいし、継続的に行ってもよい。
次いで、移動量算出ステップにおいて、ナセル8のヨー旋回速度及びヨー旋回時間に基づいて、所定期間におけるナセル8のヨー旋回移動量を算出する。
さらに、ヨー方向推定ステップにおいて、移動量算出ステップで算出された所定期間におけるヨー旋回移動量と、所定期間の開始時点におけるヨー方向値とに基づき、推定値算出ロジックにより、所定期間の終了時点におけるナセルのヨー方向の推定値を算出する。なお、推定値算出ロジックとは、予め変数が設定された関係式を含んでいる。具体的に、関係式とは、所定期間の開始時点におけるヨー方向値および所定期間におけるヨー旋回移動量と、所定期間の終了時点におけるヨー方向値との相関関係を示す式である。そして、この関係式は、ナセル8の旋回方向に応じて設定されている。このように、上記関係式が、右旋回又は左旋回に対応してそれぞれ設定されることで、旋回方向に応じた適切なヨー方向の推定値を算出できる。
【0045】
ヨー駆動制御ステップでは、基本的な動作として、風向センサ17の検出結果に基づいて、風向センサによって検出された風向にナセル8が追従するように、旋回方向にナセル8を旋回させる。これに加えて、ヨー駆動制御ステップでは、ヨー方向センサ19の正常時にヨー方向検出ステップで検出されたヨー方向値が規定範囲内に収まるようにナセルの旋回方向を決定するとともに、ヨー方向センサ19の異常発生時にヨー方向推定ステップで算出された推定値が規定範囲内に収まるようにナセルの旋回方向を決定するようになっている。
【0046】
次いで、
図5乃至
図7を参照して、具体的なヨー制御方法について説明する。なお、
図5は、一実施形態に係る風力発電装置のヨー制御システムにおけるヨー方向推定値算出手順を示すフローチャートである。
図6は、一実施形態に係る風力発電装置の各指令信号及びセンサ検出信号を示すタイムチャートである。
図7は、他の実施形態に係る風力発電装置のヨー制御システムにおけるヨー方向推定値算出手順を示すフローチャートである。
【0047】
図5において、まず、風力発電装置1のナセル8が旋回停止中か否かを判断する。ナセル8が旋回停止中であれば、記憶部34に既に格納されているヨー方向値を、直前にヨー方向センサ19又はヨー方向推定部36で取得したヨー方向値(又はヨー方向推定値)で更新する。一方、ナセル8が旋回中であれば、記憶部34に格納されているヨー方向値を読み出す。このとき、ナセル8が右旋回中か否かを判断し、右旋回中である場合には、右旋回用ヨー旋回速度を記憶部34から読み出し、さらに右旋回用補正ゲインを記憶部34から読み出す。そして、移動量算出ステップにおいて、ヨー旋回移動量を算出する。例えば、ヨー旋回移動量は、右旋回用ヨー旋回速度と右旋回用補正ゲインの積により算出される。そして、ヨー方向推定ステップにおいて、ヨー方向の推定値を算出する。例えば、記憶部34から読み出しておいたヨー方向値にヨー旋回移動量を加えて、この和に右旋回用補正ゲインを乗じてヨー方向推定値を算出する。なお、ナセル8が右旋回中ではない場合、すなわちナセル8が左旋回中である場合においても、上記と同様の手順にて、左旋回用ヨー旋回速度及び左旋回用補正ゲインを用いて、ヨー方向推定値を算出する。
【0048】
ここで、ヨー方向センサ19の異常が発生したか否かを判断する。ヨー方向センサ19の異常が発生していなければこの周期の演算を終了する。一方、ヨー方向センサ19に異常が発生している場合、ロジック修正ステップにおいて補正ゲインを算出する。補正ゲインは、上述したように、ヨー方向センサ19の正常時にヨー方向センサ19で検出したヨー方向値と、ヨー方向センサ19の正常時にヨー方向推定部36で算出したヨー方向の推定値との比較結果に基づき、新たな補正ゲインを算出する。そして、ナセル8が右旋回中である場合には、記憶部34に格納されている右旋回用補正ゲインを新たな右旋回用補正ゲインで更新し、ナセル8が左旋回中である場合には、記憶部34に格納されている左旋回用補正ゲインを新たな左旋回用補正ゲインで更新する。こうして、一つの演算周期を終了する。この演算を繰り返し行うことによって、ヨー方向推定値の推定精度の向上を図りながら、確実にヨー方向値を取得できる。
図6はシミュレーションによって得られたタイムチャートであって、同図に示すように、ヨー方向値とヨー方向推定値とは略同一の経時的変化を示すようになる。
【0049】
図7に示すフローチャートは、
図3に示したウィンドファーム100に設置される風力発電装置1において好適に用いられる。
図7において、まず、ヨー方向センサ19の異常発生中の風力発電装置(風車)Aが検出されたら、風力発電装置Aの風向センサ17及び風速センサ18(風向風速計)が正常か否かを判断する。風力発電装置Aの風向センサ17及び風速センサ18が正常である場合、風向センサ17及び風速センサ18で計測された風力発電装置Aの風向及び風速を読み出す。風力発電装置Aの風向センサ17及び風速センサ18が正常ではない場合、他の風力発電装置Bの風向センサ17及び風速センサ18が正常であるか否かを判断し、正常である場合は風力発電装置Bの風向及び風速を読み出す。他の風力発電装置Bの風向センサ17及び風速センサ18が正常ではない場合には、MET102(
図3参照)の風向センサ及び風速センサが正常であるか否かを判断し、正常である場合はMET102の風向及び風速を読み出す。
【0050】
そして、風力発電装置Aと風況が類似する他の風力発電装置を抽出する。その際、少なくとも風向センサ17が正常であり、且つヨー制御が通常モード(例えば初期旋回モード等の特殊なモードを除く)であり、且つ風向及び風速が正確である風力発電装置のうち、風力発電装置Aに最も近い値が計測された風力発電装置を設定台数だけ選ぶ。例えば、設定台数は2台とする。
【0051】
ここで、風力発電装置Dと風力発電装置Eが抽出された場合、風力発電装置Dと風力発電装置Eのヨーリミット状態をFに格納する。続いて、風力発電装置Dと風力発電装置Eのヨー方向値の平均値Gを算出する。そして、風力発電装置Aのヨー方向推定値と平均値Gが同等であるか否かを判断する。風力発電装置Aのヨー方向推定値と平均値Gが同等ではない場合、風力発電装置Aの記憶部34に格納されているヨー方向値を平均値Gで更新する。風力発電装置Aのヨー方向推定値と平均値Gが同等である場合、風力発電装置Aの記憶部34に格納されているヨー方向値はそのままの状態とする。
【0052】
一方、風力発電装置Aと風況が類似する他の風力発電装置として、一台の風力発電装置Dが抽出された場合、風力発電装置Dのヨーリミット状態をFに格納する。続いて、風力発電装置Dのヨー方向値をGに格納する。そして、上記と同様に、風力発電装置Aのヨー方向推定値とGが同等であるか否かを判断する。風力発電装置Aのヨー方向推定値とGが同等ではない場合、風力発電装置Aの記憶部34に格納されているヨー方向値をGで更新する。風力発電装置Aのヨー方向推定値とGが同等である場合、風力発電装置Aの記憶部34に格納されているヨー方向値はそのままの状態とする。
【0053】
また、風力発電装置Aと風況が類似する他の風力発電装置が一台も抽出されなかった場合、0をFに格納する。続いて、風力発電装置Aのヨー方向の推定値をGに格納する。そして、上記と同様に、風力発電装置Aのヨー方向推定値とGが同等であるか否かを判断する。風力発電装置Aのヨー方向推定値とGが同等ではない場合、風力発電装置Aの記憶部34に格納されているヨー方向値をGで更新する。風力発電装置Aのヨー方向推定値とGが同等である場合、風力発電装置Aの記憶部34に格納されているヨー方向値はそのままの状態とする。
このように、他の風力発電装置やMET102等のデータを利用することによって、風力発電装置1におけるナセル8のヨー方向推定値をより高精度で取得できる。
【0054】
以上説明したように、上述の実施形態によれば、ナセルの現在のヨー方向値を正確に検出できない場合であっても、ヨー方向の推定値を用いることで適正なナセルの旋回方向を決定することができる。よって、ナセル8がヨーリミットを超えて旋回してしまうことを防ぎ、ナセル8とタワー9との間に延在する各種ケーブルが限界を超えて捻じれることを防止でき、風力発電装置1の継続的な安定運転が可能となる。
また、ヨー方向センサ19が多重化されていない風力発電装置1であっても、ヨー方向センサ19の故障・異常発生時、ヨー方向センサ19に代えてヨー方向推定部36をヨー方向値の取得のために利用でき、あたかもヨー方向センサ19を多重化したかのような冗長性のあるシステムを実現できる。よって、多重化を目的としたヨー方向センサ19の追加設置のための費用やスペースを必要とせずに、風力発電装置1の運転の安全性、信頼性、稼働率等を向上させることができる。
【0055】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれに限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはいうまでもない。
【0056】
例えば、上述の実施形態では、ヨー駆動機構を制御するためのヨー駆動制御部32が中央監視制御装置31に設けられている場合について説明したが、ヨー駆動制御部32は各風力発電装置1(
図3における風力発電装置1A〜1D)にそれぞれ設けられていてもよい。すなわち、
図4に示すヨー制御システム30が、各風力発電装置1ごとに設けられていてもよい。