特許第6247977号(P6247977)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6247977
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】アルミナバリア層を有する鋳造製品
(51)【国際特許分類】
   C23C 8/14 20060101AFI20171204BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20171204BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20171204BHJP
   C22C 19/05 20060101ALI20171204BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20171204BHJP
   C21D 6/00 20060101ALN20171204BHJP
   C22F 1/10 20060101ALN20171204BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20171204BHJP
【FI】
   C23C8/14
   C22C38/00 302Z
   C22C38/58
   C22C19/05 G
   C22C30/00
   !C21D6/00 101H
   !C22F1/10 H
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 626
   !C22F1/00 640Z
   !C22F1/00 641A
   !C22F1/00 650A
   !C22F1/00 651A
   !C22F1/00 681
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-67836(P2014-67836)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-190005(P2015-190005A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年12月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 国秀
(72)【発明者】
【氏名】浦丸 慎一
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−199672(JP,A)
【文献】 特開昭53−031517(JP,A)
【文献】 特表2014−501620(JP,A)
【文献】 特開昭54−125118(JP,A)
【文献】 特開平05−195138(JP,A)
【文献】 特開2013−227655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 8/14
C22C 19/05
C22C 30/00
C22C 38/00
C22C 38/58
C21D 6/00
C22F 1/00
C22F 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地表面にアルミニウム酸化物を含むアルミナバリア層を有する鋳造製品であって、
前記アルミニウム酸化物は、(Al(1−x)(x)、但し、M:Cr、Ni、Si、Feの少なくとも1種、且つ、0<x<0.5、80体積%以上の結晶構造がコランダム構造であり、前記基地側が、表面側に比して、Al/(Cr+Ni+Si+Fe)が大きいAl濃化層を具備する、
ことを特徴とする鋳造製品。
【請求項2】
基地表面にアルミニウム酸化物を含むアルミナバリア層を有する鋳造製品であって、
前記アルミニウム酸化物は、Cr、Ni、Si、Feの少なくとも1種が固溶しており、Alと固溶した少なくとも1種のCr、Ni、Si、Feは、原子%比でAl/(Cr+Ni+Si+Fe)≧2.0、80体積%以上の結晶構造がコランダム構造であり、前記基地側が、表面側に比して、前記Al/(Cr+Ni+Si+Fe)が大きいAl濃化層を具備する、
ことを特徴とする鋳造製品。
【請求項3】
前記Al濃化層は、前記アルミナバリア層の厚さの1/5以上である、
請求項1又は請求項2に記載の鋳造製品。
【請求項4】
前記Al濃化層の厚さは、0.01μm〜2.0μmであり、前記アルミナバリア層の前記Al濃化層以外の層厚は、0.04μm〜8.0μmである、
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の鋳造製品。
【請求項5】
前記アルミニウム酸化物は、少なくともCrが固溶しており、Alと固溶したCrは、原子%比でAl/Cr≧10である、
請求項1乃至請求項の何れかに記載の鋳造製品。
【請求項6】
前記アルミニウム酸化物は、Ni、Si、Feの少なくとも1種が固溶しており、Alと固溶した少なくとも1種のNi、Si、Feの合計原子%は、10原子%以下である、
請求項1乃至請求項の何れかに記載の鋳造製品。
【請求項7】
前記アルミナバリア層の表面粗さ(Ra)は、15μm以下である、
請求項1乃至請求項の何れかに記載の鋳造製品。
【請求項8】
前記基地は、質量%にて、C:0.05%〜0.7%、Si:0%を越えて2.5%以下、Mn:0%を越えて3.0%以下、Cr:15.0%〜50.0%、Ni:18.0%〜70.0%、Al:1.0%〜5.0%、希土類元素:0.005%〜0.4%、並びに、W:0.5%〜10.0%及び/又はMo:0.1%〜5.0%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる、
請求項1乃至請求項の何れかに記載の鋳造製品。
【請求項9】
前記基地は、さらに、質量%にて、Ti:0.01%〜0.6%、Zr:0.01%〜0.6%及びNb:0.1%〜1.8%からなる群から選択される少なくとも一種を含有する、
請求項に記載の鋳造製品。
【請求項10】
前記基地は、さらに、質量%にて、B:0%を越えて0.1%以下を含有する
請求項又は請求項に記載の鋳造製品。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10の何れかに記載の鋳造製品からなる反応管であって、
炭化水素原料ガスの流通する管内面に前記アルミナバリア層が形成されている、
反応管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナバリア層を有する鋳造製品に関するものであり、より具体的には、安定な構造のアルミナバリア層を有する鋳造製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エチレン製造用反応管や分解管、浸炭熱処理炉のハースロール、ラジアントチューブ、耐メタルダスティング材などの耐熱鋳鋼品では、高温雰囲気に曝されるため、高温強度にすぐれるオーステナイト系の耐熱合金が用いられている。
【0003】
この種オーステナイト系耐熱合金では、高温雰囲気での使用中に表面に金属酸化物層が形成され、この酸化物層がバリアとなって、高温雰囲気下で母材を保護する。
【0004】
一方、これら金属酸化物としてCr酸化物(主にCrからなる)が形成されてしまうと、緻密性が低いため、酸素や炭素の侵入防止機能が十分ではなく、高温雰囲気下で内部酸化を起こし、酸化物皮膜が肥大化する。また、これらCr酸化物は、加熱と冷却の繰り返しサイクルにおいて剥離し易く、剥離に到らない場合であっても、外部雰囲気からの酸素や炭素の侵入防止機能が十分でないから、皮膜を通過して母材に内部酸化や浸炭を生じる不都合がある。
【0005】
これに対し、一般的なオーステナイト系耐熱合金よりもAlの含有量を増やすことで、緻密性が高く、酸素や炭素を透過し難いアルミナ(Al)を主体とする酸化物層を母材の表面に形成することが提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、Alはフェライト生成元素であるため、含有量が多くなると材料の延性が劣化して高温強度が低下してしまう。この延性の低下傾向は、特にAlの含有量が5%を越えると観察される。
このため、上記特許文献のオーステナイト系耐熱合金は、Alによるバリア機能の向上を期待することはできても、母材の延性低下を招来する不都合がある。
【0007】
そこで、Alの高温安定性を確保することができ、さらに、材料の延性を低下させることなく、高温雰囲気下ですぐれたバリア機能を発揮することのできる鋳造製品を提供するために、特許文献3では、鋳造体の表面粗さ(Ra)が0.05〜2.5μmとなるように内面加工を行なった後、酸化性雰囲気下で熱処理を施すことにより、鋳造体の内面にAlを含むアルミナバリア層が形成され、アルミナバリア層と鋳造体との界面に母材基地よりもCr濃度の高いCr基粒子が分散した鋳造製品を提案している(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
特許文献3の鋳造製品は、安定したアルミナバリア層の存在により、高温雰囲気下での使用において、すぐれた耐酸化性、耐浸炭性、耐窒化性、耐食性等を長期に亘って維持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭52−78612号公報
【特許文献2】特開昭57−39159号公報
【特許文献3】国際公開第WO2010/113830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、アルミナバリア層の安定性をさらに高め、高温雰囲気下での使用において、さらにすぐれた耐浸炭性を発揮できる鋳造製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る鋳造製品は、
基地表面にアルミニウム酸化物を含むアルミナバリア層を有する鋳造製品であって、
前記アルミニウム酸化物は、(Al(1−x)(x)、但し、M:Cr、Ni、Si、Feの少なくとも1種、且つ、0<x<0.5である。
【0012】
また、本発明に係る鋳造製品は、
基地表面にアルミニウム酸化物を含むアルミナバリア層を有する鋳造製品であって、
前記アルミニウム酸化物は、Cr、Ni、Si、Feの少なくとも1種が固溶しており、Alと固溶した少なくとも1種のCr、Ni、Si、Feは、原子%比でAl/(Cr+Ni+Si+Fe)≧2.0である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の鋳造製品によれば、基地表面に形成されるアルミナバリア層は、Cr、Ni、Si、Feの少なくとも1種が固溶することで、アルミニウム酸化物の相を安定な構造とすることができる。このアルミニウム酸化物は、基地と酸素との結合を抑制し、基地表面にCr、Ni、Si、Fe等を主体とする酸化物が形成されることを抑制することができる。
【0014】
これにより、本発明の鋳造製品は、高温雰囲気下での使用において、さらにすぐれた耐浸炭性を発揮できる。
【0015】
従って、本発明の鋳造製品をたとえばエチレン製造用反応管に採用した場合、コーキングの発生を抑えることができ、コーキングの発生による熱交換率や熱伝導率の低下による収率の低下を防ぐことができ、連続操業時間を長くすることができる。また、コーキングが発生し難いから、コーキング除去作業の回数や時間を短縮でき、操業効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、加熱処理前の鋳造製品の断面図である。
図2図2は、低温加熱処理にてAl薄化層の形成されている状態を模式的に示す断面図である。
図3図3は、温加熱処理にてAl薄化層と基地との間にAl濃化層が形成されている状態を模式的に示す断面図である。
図4図4は、実施例2の被膜TEM写真とEDX分析結果のグラフを示している。
図5図5は、実施例7の被膜TEM写真とEDX分析結果のグラフを示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の鋳造製品は、基地表面にアルミニウム酸化物を含むアルミナバリア層を有する。
【0018】
アルミナバリア層のアルミニウム酸化物は、(Al(1−x)(x)、但し、M:Cr、Ni、Si、Feの少なくとも1種、且つ、0<x<0.5に調整される。
【0019】
また、アルミナバリア層のアルミニウム酸化物は、Cr、Ni、Si、Feの少なくとも1種が固溶しており、Alと固溶した少なくとも1種のCr、Ni、Si、Feは、原子%比でAl/(Cr+Ni+Si+Fe)≧2.0に調整される。
【0020】
<成分限定理由の説明>
本発明の鋳造製品は、質量%にて、Cr15%以上Ni18%以上、Alを1〜5%含有する耐熱合金であれば、本発明の効果を得ることができ、たとえば以下の成分により作製される。なお、以下の説明で、「%」は、特に表示がないときは、全て質量%である。
【0021】
C:0.05%〜0.7%
Cは、鋳造性を良好にし、高温クリープ破断強度を高める作用がある。このため、少なくとも0.05%を含有させる。しかし、含有量があまり多くなると、Crの一次炭化物が幅広く形成され易くなり、アルミナバリア層を形成するAlの移動が抑制されるため、鋳造体の表面部へのAlの供給不足が生じて、アルミナバリア層の局部的な寸断が起こり、アルミナバリア層の連続性が損なわれる。また、二次炭化物が過剰に析出するため、延性、靱性の低下を招く。このため、上限は0.7%とする。なお、Cの含有量は0.3%〜0.5%がより望ましい。
【0022】
Si:0%を超えて2.5%以下
Siは、溶湯合金の脱酸剤として、また溶湯合金の流動性を高めるために含有させるが、含有量があまり多くなると高温クリープ破断強度の低下を招くので上限は2.5%とする。なお、Siの含有量は2.0%以下がより望ましい。
【0023】
Mn:0%を超えて3.0%以下
Mnは、溶湯合金の脱酸剤として、また溶湯中のSを固定するために含有させるが、含有量があまり多くなると高温クリープ破断強度の低下を招くので上限は3.0%とする。なお、Mnの含有量は1.6%以下がより望ましい。
【0024】
Cr:15.0%〜50.0%
Crは、高温強度及び繰返し耐酸化性の向上への寄与の目的のため、15.0%以上含有させる。しかし、含有量があまり多くなると高温クリープ破断強度の低下を招くので上限は50.0%とする。なお、Crの含有量は23.0〜35.0%がより望ましい。
【0025】
Ni:18.0%〜70.0%
Niは、繰返し耐酸化性及び金属組織の安定性の確保に必要な元素である。また、Niの含有量が少ないと、Feの含有量が相対的に多くなる結果、鋳造体の表面にCr−Fe−Mn酸化物が生成され易くなるため、アルミナバリア層の生成が阻害される。このため、少なくとも18.0%以上含有させるものとする。70.0%を超えて含有しても増量に対応する効果が得られないので、上限は70.0%とする。なお、Niの含有量は28.0〜45.0%がより望ましい。
【0026】
Al:1.0%〜5.0%
Alは耐浸炭性及び耐コーキング性の向上に有効な元素である。また、本発明では、鋳造体の表面にアルミナバリア層を生じさせるために必要不可欠の元素である。このため、少なくとも1.0%以上含有させる。しかし、含有量が5%を超えると延性が劣化するため、本発明では上限を5.0%に規定する。なお、Alの含有量は2.5%〜3.8%がより望ましい。
【0027】
希土類元素:0.005%〜0.4%
希土類元素とは、周期律表のLaからLuに至る15種類のランタン系列に、YとScを加えた17種類の元素を意味するが、本発明の耐熱合金に含有させる希土類元素は、Ce、La及びNdからなる群のうち少なくとも一種以上が含まれることが好ましい。この希土類元素は、アルミナバリア層の生成と安定化の促進に寄与する。
アルミナバリア層の生成を高温の酸化性雰囲気下での加熱処理によって行なう場合は、希土類元素を0.005%以上含有させることでアルミナバリア層生成に有効に寄与する。
一方、あまりに多く含有すると、延性、靱性が悪化するので、上限は0.4%とする。
【0028】
W:0.5%〜10.0%及び/又はMo:0.1%〜5.0%
W、Moは、基地中に固溶し、基地のオーステナイト相を強化することにより、クリープ破断強度を向上させる。この効果を発揮させるために、W及びMoの少なくとも一種を含有させるものとし、Wの場合は0.5%以上、Moの場合は0.1%以上含有させる。
しかし、W及びMoは、含有量があまり多くなると、延性の低下や、耐浸炭性の劣化を招く。また、Cが多い場合と同じように、(Cr,W,Mo)の一次炭化物が幅広く形成され易くなり、アルミナバリア層を形成するAlの移動が抑制されるため、鋳造体の表面部分へのAlの供給不足が生じ、アルミナバリア層の局部的な寸断が起こり、アルミナバリア層の連続性が損なわれ易くなる。また、WやMoは原子半径が大きいため、基地中に固溶することにより、AlやCrの移動を抑制してアルミナバリア層の生成を妨げる作用がある。
このため、Wは10.0%以下、Moは5.0%以下とする。なお、両元素を含有する場合でも、合計含有量は10.0%以下とすることが好ましい。
【0029】
また、以下の成分をさらに含むことができる。
【0030】
Ti:0.01%〜0.6%、Zr:0.01%〜0.6%及びNb:0.1%〜1.8%からなる群から選択される少なくとも一種
Ti、Zr及びNbは、炭化物を形成し易い元素であり、WやMoほど基地中には固溶しないため、アルミナバリア層の形成には特段の作用は認められないが、クリープ破断強度を向上させる作用がある。必要に応じて、Ti、Zr及びNbの少なくとも一種を含有させることができる。含有量は、Ti及びZrが0.01%以上、Nbが0.1%以上である。
しかし、過剰に添加すると、延性の低下を招く。Nbは、さらに、アルミナバリア層の耐剥離性を低下させる。このため、上限は、Ti及びZrは0.6%、Nbは1.8%とする。
【0031】
B:0%を越えて0.1%以下
Bは、鋳造体の粒界を強化する作用があるので、必要に応じて含有させることができる。なお、含有量が多くなるとクリープ破断強度の低下を招くため、添加する場合でも0.1%以下とする。
【0032】
本発明の鋳造体を構成する耐熱合金は、上記成分を含み、残部Feであるが、合金の溶製時に不可避的に混入するP、Sその他の不純物は、この種の合金材に通常許容される範囲であれば存在しても構わない。
【0033】
<鋳造製品>
本発明の鋳造製品は、上記成分組成の溶湯を溶製し、遠心力鋳造、静置鋳造等により上記組成に鋳造される。
【0034】
得られる鋳造製品は、目的とする用途に応じた形状とすることができる。
たとえば、鋳造製品として、管、特に高温環境下で使用される反応管を例示することができる。
【0035】
本発明の鋳造製品は、遠心力鋳造での作製が特に好適である。遠心力鋳造を適用することで、金型による冷却の進行によって径方向に微細な金属組織が配向性をもって成長し、Alが移動し易い合金組織を得ることができるためである。
【0036】
そして、鋳造製品には、後述する加熱処理が施される。この加熱処理により、安定した相構造を有するアルミナバリア層が形成される。
【0037】
<加熱処理>
本発明の鋳造製品は、酸化性雰囲気下で加熱処理を行なう。加熱処理は、低温加熱処理と高温加熱処理に分けることができる。なお、低温加熱処理と高温加熱処理は、別工程で行なうこともできるし、低温加熱処理の後、続けて高温加熱処理を行なってもよい。
【0038】
<低温加熱処理>
低温加熱処理は、酸化性雰囲気下で基地の表面にアルミニウム酸化物の層を形成する処理である。低温とは、1050℃未満を例示できる。望ましくは、600℃〜900℃である。低温加熱処理は、5時間〜15時間実施することが望ましい。
【0039】
低温加熱処理を施すことにより、図1に示すように、基地10は酸素と接触し、基地10から基地表面に拡散したAl、Cr、Ni、Si、Feを酸化させて、図2に示すように酸化物層22を形成する。この加熱処理では、低温で行なわれるから、Cr、Ni、Si、Feよりも優先してAlが酸化物を形成する。従って、酸化物の層は、Alを主体とし、同じく基地から拡散したCr、Ni、Si、Feの少なくとも1種が固溶するアルミニウム酸化物の層22となる。
【0040】
低温加熱処理により形成されるアルミニウム酸化物は、Alと固溶した少なくとも1種のCr、Ni、Si、Feは、原子%比でAl/(Cr+Ni+Si+Fe)≧2.0となっている。また、その組成は、(Al(1−x)(x)、但し、M:Cr、Ni、Si、Feの少なくとも1種、且つ、0<x<0.5であることが望ましい。また、アルミニウム酸化物は、少なくともCrが固溶しており、Alと固溶したCrは、原子%比でAl/Cr≧10であることがより好適であり、Al/Cr≧15であることがより好ましい。さらに、Ni、Si、Feの少なくとも1種が固溶しており、Alと固溶した少なくとも1種のNi、Si、Feの合計原子%は、10原子%以下であることがより望ましい。
【0041】
上記した低温加熱処理で形成されるアルミニウム酸化物は、準安定なγ又はθアルミナ構造であり、ポーラスな構造である。従って、強度が十分ではない。
【0042】
<高温加熱処理>
高温加熱処理は、低温加熱処理の後に実施される熱処理であって、後述するとおり、低温加熱処理にて形成されたアルミニウム酸化物をαアルミナ構造(コランダム構造)に相変態させると共に、このアルミニウム酸化物の層と基地との間にAlの濃度の高いアルミニウム酸化物層を形成するものである。
【0043】
高温加熱処理は、低温加熱処理が施され、γ又はθアルミナ構造を有するアルミナバリア層の形成された鋳造製品を、酸化性雰囲気下において高温で加熱することにより行なうことができる。高温とは、1050℃以上を例示できる。高温加熱処理は、3時間〜15時間実施することが望ましい。
【0044】
高温加熱処理を行なうことで、最初に形成されたγ又はθアルミナ構造を有するアルミニウム酸化物は、安定したαアルミナ構造(コランダム構造)に相変態する。本発明では、γ又はθアルミナ構造を有するアルミニウム酸化物の層にCr、Ni、Si、Feの少なくとも1種が固溶している。これにより、アルミニウム酸化物の層がAlの純度の高い場合に比して、γ又はθアルミナ構造からαアルミナ構造(コランダム構造)への相変態を早めることができる。
【0045】
そして、αアルミナ構造(コランダム構造)に相変態したアルミニウム酸化物の層を有する鋳造製品に対して、高温加熱処理をさらに続けることにより、図3に示すように、酸素がアルミニウム酸化物の層22を通過する。
【0046】
上記アルミニウム酸化物22の層を通過した酸素は、基地から拡散されるAlを酸化し、Alの濃度の高いアルミニウム酸化物の層24を形成する。
【0047】
ここで、図3に示すように、低温加熱処理により形成されたCr、Ni、Si、Feの少なくとも1種が固溶するアルミニウム酸化物の層を「Al薄化層」、Al薄化層と基地表面との間に形成されたAlの濃度の高いアルミニウム酸化物の層を「Al濃化層」と称する。すなわち、Al濃化層24は、Al薄化層22に比してAl/(Cr+Ni+Si+Fe)が大きい層である。
【0048】
アルミナバリア層は、表面のAl薄化層に比べて、基地とAl薄化層との間に形成されるAl濃化層のAlの濃度が高くなる理由として、以下の理由が考えられる。
【0049】
形成されたAl薄化層22は、酸化性雰囲気にて、少量の酸素の通過を許容する。
そして、基地10側からは、図3に示すように、Al、Cr、Ni、Si、Feが基地表面側に拡散する。しかしながら、Alは、Cr、Ni、Si、Feに比べて、酸素との結合に必要なエネルギーが小さいから、Alが優先して酸素と結合し、濃度の高いアルミニウム酸化物の層(Al濃化層24)が、基地10とAl薄化層22との間に形成されるためである。
【0050】
Al濃化層24は、高温での加熱処理により生成されるから、安定なαアルミナ構造(コランダム構造)を有する。望ましくは、Al薄化層22とAl濃化層24のアルミニウム酸化物は、80体積%以上の結晶構造が、αアルミナ構造(コランダム構造)である。
【0051】
Al薄化層22と、基地10とAl薄化層22との間に形成されたAl濃化層24からなるアルミナバリア層20は、何れも安定なαアルミナ構造(コランダム構造)であるから、緻密性が高く、これらを具備する鋳造製品は、高温雰囲気下での使用において、外部から酸素、炭素、窒素の母材への侵入を防ぐバリアとして作用し、すぐれた耐浸炭性を長期に亘って維持することができる。
【0052】
なお、Al濃化層24は、Al薄化層22よりも層厚に形成されることが望ましく、Al濃化層24は、アルミナバリア層20の厚さの1/5以上となるように形成することが好適である。
【0053】
より望ましくは、Al薄化層22は、0.04μmから8.0μm、Al濃化層24は、0.01μm〜2.0μmである。
【0054】
上記した低温加熱処理及び高温加熱処理において、アルミニウム酸化物の層を好適に形成するために、鋳造製品を回転させながら加熱することが望ましい。これにより、鋳造製品にムラ無く加熱が施されると共に、酸素と良好な状態で接触することができる。そしてその結果、生成されるアルミナバリア層20の表面粗さ(Ra)を小さくすることができる。
【0055】
<表面処理>
必要に応じて、鋳造製品には、アルミナバリア層に表面処理を行なうことができる。たとえば表面処理として研磨を例示できる。たとえば、鋳造製品を反応管に使用したときに、原料の炭化水素と鋳造製品のFeやNi等が触れて、FeやNiの触媒作用によりコーク(炭素)が管内面に付着し易いが、表面処理を施して、アルミナバリア層の表面粗さ(Ra)を小さくすることで、コークの付着を抑えることができる。
【0056】
アルミナバリア層の表面粗さ(Ra)は、15μm以下となるように実施することが望ましい。より望ましくは、表面粗さ(Ra)は0.05μm〜10μmとする。
【実施例1】
【0057】
高周波誘導溶解炉の大気溶解により溶湯を溶製し、金型遠心力鋳造により、下記表1に掲げる合金化学組成の管体を鋳造した。管体は、内径80mm、外径100mm、長さ250mmとした。
【0058】
【表1】
【0059】
得られた発明である実施例1乃至実施例8と、比較例1乃至比較例6について、夫々酸化性雰囲気下で、加熱温度の異なる2段階の加熱処理を施した。加熱処理は、先に低温、続けて高温で実施した。低温加熱処理は、5時間、高温加熱処理は、5時間である。
【0060】
【表2】
【0061】
加熱処理の施された実施例1乃至実施例8、比較例1乃至比較例6の供試管について、表面に形成されたアルミナバリア層に含まれる元素(Al、Cr、Fe、Ni、Si、O)の原子パーセントをEDX分析(エネルギー分散型X線分光分析)により測定した。結果を表3に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
発明例である実施例1乃至実施例8を参照すると、何れも原子%比でAl/(Cr+Ni+Si+Fe)≧2.0を満足している。また、Al/Cr≧10である。一方、比較例は、比較例1が基地にAlを含有していないため、アルミニウム酸化物は生成されず、Al/(Cr+Ni+Si+Fe)、Al/Crは何れもゼロとなっている。
【0064】
また、比較例2乃至比較例6については、何れもAl/(Cr+Ni+Si+Fe)<2.0、Al/Cr<10である。
【0065】
さらに、Fe+Ni+Siの原子%は、実施例1乃至実施例4、実施例6、実施例7と、比較例3は10原子%以下であり、その他の実施例及び比較例は、10原子%を越えている。
【0066】
また、得られた実施例1乃至実施例8、比較例1乃至比較例6について、生成されたアルミナバリア層の厚みに対するAl濃化層の厚みを測定した。結果を上記表3に示している。
【0067】
表3を参照すると、実施例は何れも、アルミナバリア層の厚みに対するAl濃化層の厚みが、0.3以上、即ち1/5以上であるが、比較例は最大で0.15となっていることがわかる。なお、比較例1は、基地にAlを含有していないため、アルミナバリア層は形成されていない。
【0068】
これは、発明例である実施例は、低温加熱処理温度が1050℃未満、高温加熱処理温度が1050℃以上で実施されたため、低温加熱処理により、基地の表面にAl薄化層が形成された後、高温加熱処理によって、Al薄化層と基地との間にAl濃化層が形成できたことを示している。
【0069】
一方、アルミナバリア層の形成された比較例2乃至比較例6については、以下の理由により、Al濃化層が最大で0.15に留まったと考えられる。
比較例2は、鋳造体に含まれるAlが0.9%と低く、鋳造体表面に皮膜を形成するためのAlが不足しているためである。比較例3は、低温加熱処理温度が1200℃と高いため、γ又はθアルミナ構造を有するアルミナバリア層が形成される前にCr、Ni、Si、Fe等を主体とする酸化物が形成されたためである。比較例4は、低温加熱処理温度が500℃と低いために、γ又はθアルミナ構造を有するアルミナバリア層が形成されなかったためである。比較例5及び比較例6は、高温加熱処理の温度が1000℃と低いからである。この結果、低温加熱処理にてAl薄化層が形成された後、高温加熱処理においてAl薄化層を通過する酸素が少なく、また、温度が低いから取り込まれた酸素とAlが結合するに十分なエネルギーを得られなかったためである。
【0070】
次に、得られた供試管にコーキング試験を実施した。
コーキング試験は、供試管を電気炉内に設置し、供試管に炭化水素(エタン)を供給して、所定の時間(12〜24時間)、高温加熱(955℃)することにより行なった。そして、試験終了後、供試管の内面の浸炭度合いを比較すると共に、供試管の内面に付着したコーク(炭素)の重量比を測定した。結果を表4に示す。
【0071】
【表4】
【0072】
表4を参照すると、発明例である実施例1乃至実施例8は、何れも良好な耐浸炭性を有していることがわかる。一方、比較例は、何れも供試管の内部まで浸炭されていた。
【0073】
実施例1乃至実施例8が耐浸炭性にすぐれるのは、基地の表面にAl濃化層とAl薄化層からなる安定なαアルミナ構造(コランダム構造)のアルミナバリア層が好適に形成されているからである。特に、実施例1、実施例3、実施例4、実施例6乃至実施例8は、他の実施例に比べて極めてすぐれる耐浸炭性を具備している。これは、実施例2、実施例5が、他の実施例に比してAl濃化層の形成が少なかったためであると考えられる。
【0074】
また、これら供試管の表面粗さ(Ra)を測定した。結果を合わせて表4に示している。表4を参照すると、生成されたコークの重量比と表面粗さ(Ra)に略比例関係が存在していることがわかる。これより、表面粗さ(Ra)は、15μm以下が好ましく、より好ましくは10μm以下である。
【0075】
表面粗さ(Ra)は、鋳造製品を回転させながら加熱処理をして表面粗さを調整することができ、比較例3と比較例6の表面粗さ(Ra)が15μmを越えていのは、皮膜生成の加熱処理が適正ではなく、皮膜の剥離と再生などにより、表面粗さが粗くなったためであると考えられる。
【実施例2】
【0076】
発明例2と発明例7について、透過型顕微鏡(TEM)を用いてアルミナバリア層の被膜TEM観察を行なった。また、Al薄化層とAl濃化層について、夫々EDX分析を行なった。発明例2の結果を図4、発明例7の結果を図5に示している。
【0077】
図4を参照すると、発明例2は、表面側に形成されたAl薄化層22は、主としてAlの酸化物であるが、少量のCr、Fe、Niが観察されていることがわかる。一方、Al濃化層24は、Al以外にCr、Fe、Ni等は観察されない。従って、Al濃化層24は、非常に純度の高いアルミニウム酸化物から形成されていることがわかる。
【0078】
図5を参照すると、発明例7は、表面に形成されたAl薄化層22は、主としてAlの酸化物であるが、少量のCrが観察されていることがわかる。一方、Al濃化層24は、Al以外は観察されない。従って、Al濃化層24は、非常に純度の高いアルミニウム酸化物から形成されていることがわかる。
【符号の説明】
【0079】
10 基地
20 アルミナバリア層
22 Al薄化層
24 Al濃化層
図1
図2
図3
図4
図5