(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態で説明する積層パネル2,2の接合方法の工程を理解しやすくするために、一部切断及び分解して示した斜視図である。
【0015】
積層パネル2は、コンクリート構造物や鋼製構造物などの構造物1の表面に貼り付けられる。例えば、劣化したり耐震補強が必要になったりした橋脚やトンネルに対して、橋脚の表面やトンネルの内周面を複数枚の積層パネル2,・・・によって覆うことで補修、補強等の改修を行なう。
【0016】
積層パネル2は、2枚の板状材と、その間に介在させる複数の繊維シートと、これらを一体化させる接着剤とによって主に構成される。以下、構造物1側を「下」と表現するが、構造物1の上面にのみ適用することを意味するものではなく、当然ながら構造物1の側面や下面に対しても同様に適用できる。
【0017】
2枚の板状材のうち、下層の板状材を下層ボード3とし、上層の板状材を上層ボード4とする。下層ボード3と上層ボード4は、材質が同じであっても異なっていてもよい。
【0018】
下層ボード3や上層ボード4として、例えばフレキシブルボード、ポリオレフィン系繊維補強板、繊維補強コンクリート板、超高強度コンクリート板などが使用できる。
【0019】
ここで、フレキシブルボードは、セメントと有機繊維(パルプ等)を主成分とし、それらを混練した後にロール状に成形し、脱水プレスすることによって製造される。
【0020】
フレキシブルボードは、厚さが3 mm〜6 mm程度であり、曲げ強度が30 N/mm
2以上ある。また、比重が1.6〜1.8と軽いため、積層パネル2を軽量にすることができる。
【0021】
また、ポリオレフィン系繊維補強板は、ポリオレフィン系繊維とセメントと有機繊維(パルプ等)とを混合して成形した板状材である。ポリオレフィン系繊維補強板は、厚さが3 mm〜15 mm程度で薄くて軽いため、積層パネル2を軽量にすることができる。
【0022】
ポリオレフィン系繊維は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン等のポリオレフィン系材料からなる繊維材料である。ポリオレフィン系繊維は、例えば6 mm〜30 mm程度の短繊維として使用する。また、ポリオレフィン系繊維の表面にエンボス加工や親水処理を施すことによって、ポリオレフィン系繊維補強板の曲げタフネスや強度を増加させることができる。
【0023】
一方、繊維シートの繊維には、炭素繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ガラス繊維、ビニロン繊維等が使用できる。また、織り方による分類では、単一配向シート、単一配向シートの向きを交互に変えて積層させたシート、クロス状に織ったシート等が使用できる。
【0024】
例えば炭素繊維シートは、繊維目付量が200〜300 g/m
2と軽量であり、錆びない特性を有する。また、繊維方向では鉄筋の3〜8倍の2000〜3500 N/mm
2という大きな引張強度を有している。
【0025】
そして、下層ボード3と上層ボード4との間に複数の繊維シートを介在させる。
図1では、下層ボード3の上面に最下層の繊維シートとなる第1シート51が固着され、その第1シート51の上に別の繊維シートが第2シート52として固着される。第1シート51と第2シート52は、同じ材質、織り方のシートであってもよいし、材質や織り方が異なっていてもよい。
【0026】
接着剤8には、エポキシ樹脂系、酢酸ビニル樹脂系、EVA系(エチレン酢酸ビニル共重合樹脂系)、アクリル樹脂系等の樹脂系接着剤や、クロロプレンゴム系、スチレン・ブタジエンゴム系等のゴム系接着剤や、セメント系、石膏系等の水・気硬性接着剤などを用いることができる。
【0027】
以上に挙げたようにいずれの接着剤でも使用できるが、接着強度や作業性の点からエポキシ樹脂系の接着剤8を使用するのが好ましい。接着剤8は、第1シート51や第2シート52に含浸させて使用する。
【0028】
そして、下層ボード3と第1シート51と第2シート52と上層ボード4とは、接着剤8によって一体化される。この一体化される範囲は、下層ボード3と上層ボード4とに挟まれた範囲である。
【0029】
ここで、
図1に示すように、隣接する積層パネル本体としての積層パネル2,2の下層ボード3,3の接合側端面どうしが突き合わされた箇所を継目20とする。第1シート51は、継目20に至る全面において下層ボード3に接着剤8で固着される。
【0030】
これに対して第2シート52は、上層ボード4から継目20側に張り出された部分は、第1シート51と接着されない自由部521となる。この自由部521では、
図1に示すように、持ち上げたり折り曲げたりすることができる。
【0031】
また、自由部521の張り出し量は、
図2に示すように第1シート51よりも他方の積層パネル2側に突出する長さとなっている。さらに、自由部521は、継目20を越えて後述する接合シート6の縁部よりも手前の位置まで張り出される。要するに、第2シート52の自由部521の縁部と接合シート6の縁部との位置をずらして、重ならないようにする。
【0032】
一方、継目20の上方には、繊維シートとしての接合シート6が配置される。接合シート6は、持ち上げられた両側の自由部521,521の下に入れることができる範囲の幅に成形される。
【0033】
この接合シート6の材質や織り方は、繊維シートとして上述したものが使用できる。また、接合シート6と第1,2シート51,52は、同じ材質、織り方のシートを使用することができる。
【0034】
これに対して、上層ボード4,4間を覆うように第2シート52の自由部521の上に重ねられる低強度繊維シートとしての上シート9は、上述した第1シート51、第2シート52及び接合シート6よりも引張強度の弱い材質のものが使用される。
【0035】
例えば、第1シート51、第2シート52及び接合シート6には、繊維目付量が300 g/m
2の炭素繊維シートを使用し、低強度繊維シートとしての上シート9には、繊維目付量が200 g/m
2の2方向に織られた炭素繊維シートを使用する。
【0036】
さらに、継目20の上方の最上層には、接合ボード7が配置される。接合ボード7には、板状材(下層ボード3、上層ボード4)と同様の材質のものが使用できる。この接合ボード7は、
図1に示すように上層ボード4,4間に嵌る形状に成形される。
【0037】
次に、本実施の形態の積層パネル2,2の接合方法及びそれによって構築される積層パネル2,2の接合構造、並びにそれらの作用について説明する。
【0038】
まず、構造物1の表面に接着剤8を塗布し、2枚の積層パネル2,2を下層ボード3,3及び第1シート51,51の接合側端面どうしが突き合わされるようにして貼り付ける。
【0039】
そして、隣接する第1シート51,51間の継目20が覆われるように接合シート6を接着剤8によって固着させる。これによって、第1シート51,51間に接合シート6が跨り、第1シート51,51どうしが接合されたことになる。
【0040】
続いて、接合シート6の上に、
図2に示すように両側の第2シート52,52の自由部521,521をそれぞれ重ね、接着剤8によって固着する。すなわち、積層パネル本体としての一方の積層パネル2の内部から延びる自由部521と、他方の積層パネル2の内部から延びる自由部521とを交互に重ねていく。
【0041】
ここで、自由部521,521の縁部は、接合シート6の内側(継目20側)にずれて配置される。すなわち、繊維シート(51,521,521)が一度に2枚減る又は増えるような急激に剛性が変化する断面が発生しないようにする。
【0042】
そして、その上から上層ボード4,4間の隙間が覆い塞がれるように上シート9を配置して、接着剤8によって固着させる。さらに、その上から接合ボード7を、上層ボード4,4間の隙間に嵌める。
【0043】
このように構成された本実施の形態の積層パネル2,2の接合方法及びそれによって構築される積層パネル2,2の接合構造は、積層パネル2,2どうしの接合部において、第1シート51と接合シート6、接合シート6と左側の積層パネル2の自由部521、左側の積層パネル2の自由部521と右側の積層パネル2の自由部521、及び右側の積層パネル2の自由部521と上シート9の4面が接着面となる。
【0044】
このように積層パネル2の繊維シート(51,52)の枚数以上の接着面が確保できれば、引張力に対する抵抗力を増加させることができるので、繊維シートを増やした分に見合った強度の接合部にすることができる。
【0045】
そして、接合部に他の繊維シート(51,52,6)よりも引張強度の弱い低強度繊維シートである上シート9を配置することで、接合部における剛性の変化を緩やかにすることができる。
【0046】
図3は、本実施の形態の積層パネルの接合構造を示した断面図である。この図からわかるように、引張強度の高い繊維シート(51,52,6)の縁部は少しずつずれており、繊維シートの数は1枚ずつ変化するようになっている。
【0047】
ここで、上シート9を除いた繊維シート(51,52,6)の積層される数について詳細に説明すると、まず継目20の両側では、4枚の繊維シート(51,6,521,521)が積層されている。
【0048】
この繊維シート(51,6,521,521)の4層構造の両隣に位置する、自由部521の縁部から接合シート6の縁部までの範囲には、3枚の繊維シート(51,6,521)が積層されている。
【0049】
さらにその繊維シート(51,6,521)の3層構造の両隣には、2枚の繊維シート(51,521)が積層されている。この繊維シート(51,521)の2層構造は、積層パネル2本体内部の繊維シート(51,52)の2層構造に連続することになる。
【0050】
そして、この4層構造から3層構造を経て2層構造に移行する接合部の範囲全体が、引張強度の弱い上シート9によって覆われる。このため、接合部の両端部周辺においては、まず3枚の繊維シート(51,6,521)と上シート9を有する断面から、2枚の繊維シート(51,521)と上シート9を有する断面に移行する。
【0051】
そして、2枚の繊維シート(51,521)と上シート9を有する断面から本体内部の2枚の繊維シート(51,52)のみの断面に移行することになって、急激に断面剛性が変化する箇所がなくなる。この結果、応力集中が起きにくくなって、全体の引張力に対する抵抗力を増加させることができる。
【実施例】
【0052】
次に、前記実施の形態で説明した積層パネルの接合方法及び接合構造の効果を確認するために行った実験結果について、
図4,5を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語や同一符号を付して説明する。
【0053】
図4には、継手強度を確認する実験に使用した試験体の断面構成及び寸法の説明を示した。
図4(a)は前記実施の形態で説明した積層パネル2A,2Aの接合構造を示しており、
図4(b)は比較のために実験を行った積層パネルa2,a2の接合構造を示している。
【0054】
ここで、
図4(a)に示した積層パネル2A,2Aの接合構造の符号は、前記実施の形態で説明した積層パネル2,2の接合構造の対応する構成の符号の後に「A」を加えたものである。
【0055】
これに対して比較のために実験した
図4(b)に示した積層パネルa2,a2の接合構造の符号は、前記実施の形態で説明した積層パネル2,2の接合構造の対応する構成の符号の前に「a」を加えたものである。
【0056】
そして、接合シート6A,a6、第1シート51A,a51及び第2シート52A,a52には、厚さ0.333 mm、繊維目付量が300 g/m
2の繊維シートを使用した。他方、積層パネル2A,2Aの接合構造に配置する上シート9Aには、繊維目付量が200 g/m
2の2方向シートを使用した。
【0057】
続いて繊維シートの重なりについて説明すると、第1シート51A(a51)の端部N1(n1)は接合構造の中央に配置される。また、その上を覆う接合シート6A(a6)の両端部N2,N2(n2,n2)間の距離は220 mmに設定される。
【0058】
そして、接合シート6A(a6)の端部N2(n2)と第2シート52A(a52)の端部N3(n3)との距離を、27.5 mmとした。さらに、積層パネル2A,2Aの接合構造の上シート9Aの端部N4と接合シート6Aの端部N2との距離を、25 mmとした。
【0059】
要するに、比較用の試験体では、第2シートa52の端部n3から接合シートa6の端部n2までの範囲が、繊維目付量300 g/m
2の繊維シート(a51,a6,a52)の3層構造となっている。そして、接合シートa6の端部n2より上層ボードa4側は、繊維目付量300 g/m
2の繊維シート(a51,a52)の2層構造になって急激に剛性が減少する。
【0060】
これに対して積層パネル2A,2Aの接合構造であれば、繊維目付量300 g/m
2の繊維シート(51A,6A,52A)の3層構造から繊維目付量300 g/m
2の繊維シート(51A,52A)の2層構造に変化する遷移区間(端部N2から端部N4の区間)として、繊維目付量300 g/m
2の繊維シート(51A,52A)の2層構造に繊維目付量200 g/m
2の上シート9Aが加わった区間が介在される。このため、剛性の変化が緩やかになる。
【0061】
本実施例の遷移区間の長さは、繊維目付量300 g/m
2の繊維シートの厚さである0.333 mmの2層分(0.666 mm)の約37.5倍ということで設定した。なお、この倍数に限定されるものではなく、例えば移行する繊維シートの枚数分の厚さの30〜50倍に設定することができる。
【0062】
そして、
図5には、継手強度の実験結果を示した。
図5(a)は前記実施の形態で説明した積層パネル2A,2Aの接合構造の実験結果を示しており、
図5(b)は比較のために実験を行った積層パネルa2,a2の接合構造の実験結果を示している。いずれのケースでも、5体の試験体に対して継手強度試験(引張強度試験)を行った。
【0063】
まず、比較用の積層パネルa2,a2の接合構造の破断状況から説明すると、いずれの試験体においても、接合シートa6の両端部n2,n2で破断が起きた。この破断箇所は、繊維シートが3層構造から2層構造に変化する断面である。
【0064】
そして、
図5(b)に示した継手強度(引張強度)の分布をみると、最低の3585 N/mm
2から最高の4660 N/mm
2まで、標準偏差が355 N/mm
2となるようなばらつきのある結果となった。
【0065】
これに対して、本実施の形態の積層パネル2A,2Aの接合構造の破断状況では、いずれの試験体においても、接合シート6Aの両端部N2,N2から両側に移行した上シート9Aの両端部N4,N4で破断が起きた。この破断箇所は、繊維目付量300 g/m
2の繊維シートの2層構造+繊維目付量200 g/m
2の繊維シートから、繊維目付量300 g/m
2の繊維シートの2層構造に変化する断面である。
【0066】
そして、
図5(a)に示した継手強度(引張強度)の分布をみると、最低の4431 N/mm
2から最高の4956 N/mm
2まで、標準偏差が205 N/mm
2となるようなばらつきの少ない結果が得られた。
【0067】
両試験結果を比較すると、いずれも繊維シートの断面が変化する箇所(繊維目付量300 g/m
2の繊維シートの2層構造となる箇所)で破断が起きる点には違いがない。
【0068】
これに対して、本実施の形態の積層パネル2A,2Aの接合構造は、比較用の積層パネルa2,a2の接合構造と比べて、継手強度(引張強度)のばらつきが改善された上に、全体の継手強度が10%以上増加している。
【0069】
このような結果となったのは、積層パネル2A,2Aの接合構造が単純に上シート9Aの分だけ繊維シートの数が多いためではない。そのことはいずれのケースも、繊維目付量300 g/m
2の繊維シートの2層構造となる箇所で破断が起きていることからも明らかである。
【0070】
すなわち、この両ケースの差は、3枚の繊維シート(51A,6A,52A)と上シート9を有する断面から本体内部の2枚の繊維シート(51A,52A)のみの断面に移行する間に、2枚の繊維シート(51A,52A)と上シート9を有する断面が介在されたことによって急激に断面剛性が変化する箇所がなくなったことに起因する。
【0071】
そして、継手周辺の剛性変化を緩やかにした本実施の形態の積層パネル2A,2Aの接合構造では、応力集中が起きにくくなって、全体の引張力に対する抵抗力が増加されたといえる。
【0072】
なお、この他の構成及び作用効果については、前記実施の形態と略同様であるため説明を省略する。
【0073】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態又は実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0074】
例えば、前記実施の形態及び実施例では、2枚の繊維シートが介在された積層パネル2について説明したが、これに限定されるものではなく、3枚以上の繊維シートが下層ボード3と上層ボード4との間に介在された積層パネルどうしであっても、上述した方法に基づく接合方法を適用することができる。
【0075】
また、前記実施の形態では、上シート9を接着する工程の後で接合ボード7を接着する工程を実施する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、接合ボード7の下面に全面にわたって低強度繊維シートとしての上シート9を予め接着剤8によって固着しておくことで、同時に配置することもできる。