特許第6247989号(P6247989)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6247989-摺動部材およびすべり軸受 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6247989
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】摺動部材およびすべり軸受
(51)【国際特許分類】
   B22F 7/04 20060101AFI20171204BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20171204BHJP
   F16C 33/12 20060101ALI20171204BHJP
   C22C 9/00 20060101ALN20171204BHJP
   C22C 9/02 20060101ALN20171204BHJP
【FI】
   B22F7/04 H
   B22F3/24 102Z
   F16C33/12 A
   !C22C9/00
   !C22C9/02
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-83509(P2014-83509)
(22)【出願日】2014年4月15日
(65)【公開番号】特開2015-203143(P2015-203143A)
(43)【公開日】2015年11月16日
【審査請求日】2016年10月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207791
【氏名又は名称】大豊工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000660
【氏名又は名称】Knowledge Partners 特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100167254
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 貴亨
(72)【発明者】
【氏名】和田 仁志
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−203504(JP,A)
【文献】 特開2006−153193(JP,A)
【文献】 特開2001−020955(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/00−7/08,
F16C 33/04−33/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリクス中に、前記マトリクスよりも軟らかい軟質材料の粒子である軟質粒子が析出した基層と、
前記基層上に積層された前記軟質材料の軟質層と、
を備える摺動部材であって、
前記基層と前記軟質層との境界のうち、同一の前記軟質材料同士が接合する前記軟質粒子と前記軟質層の境界は、前記マトリクスと前記軟質層との境界よりも、前記軟質層側に突出している、
摺動部材。
【請求項2】
前記軟質層と接合している前記軟質粒子の形状は、焼結において前記マトリクス中に析出した際の前記軟質粒子の形状である、
請求項1に記載の摺動部材。
【請求項3】
前記基層と前記軟質層との境界のうち、前記軟質粒子と前記軟質層との境界では、前記軟質材料がエピタキシャル成長している、
請求項1または請求項2のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項4】
前記マトリクスは銅合金であり、前記軟質材料はBiまたはPbである、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の摺動部材。
【請求項5】
マトリクス中に、前記マトリクスよりも軟らかい軟質材料の粒子である軟質粒子が析出した基層と、
前記基層上に積層された前記軟質材料の軟質層と、
を備えるすべり軸受であって、
前記基層と前記軟質層との境界のうち、同一の前記軟質材料同士が接合する前記軟質粒子と前記軟質層の境界は、前記マトリクスと前記軟質層との境界よりも、前記軟質層側に突出している、
すべり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーバーレイを備える摺動部材およびすべり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
銅合金層上にオーバーレイ層をめっきする前に、銅合金層の表面に表出している第2相成分の除去処理を行う技術が知られている(特許文献1、参照)。第2相成分を除去することにより銅合金層の表面に凹部を形成し、当該凹部にオーバーレイ層を充填することができ、アンカー効果によってオーバーレイ層の接合力を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−203504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、銅合金層の凹部の内部にめっきされた第2相成分と銅合金との密着性が弱く、アンカー効果が不十分であった。そのため、オーバーレイ層が銅合金層から剥離し、なじみ性を持続できないという問題があった。
本発明は、前記課題にかんがみてなされたもので、オーバーレイのアンカー効果を高めることにより、なじみ性を持続できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の目的を達成するため、本発明の摺動部材およびすべり軸受は、マトリクス中に、マトリクスよりも軟らかい軟質材料の粒子である軟質粒子が析出した基層と、基層上に積層された軟質材料の軟質層と、を備える摺動部材である。さらに、基層と軟質層との境界のうち、軟質粒子と軟質層との境界は、マトリクスと軟質層との境界よりも、軟質層側に突出している。これにより、軟質層と基層との境界が一直線状ではなく、入り組んだ形状となるため、軟質層と基層との剥離が直線状に進行することを阻害し、密着性を向上させることができる。ここで、軟質粒子と軟質層とは、同一の軟質材料で形成されるため、軟質粒子と軟質層とを強固に接合できる。さらに、軟質粒子は、もともと基層にて析出した粒子であるため、軟質粒子は基層に強固に保持される。従って、軟質粒子が強いアンカー効果を発揮することにより、当該軟質粒子と結合している軟質層の基層に対する密着性を向上させることができる。従って、軟質層が基層から剥離することを防止し、なじみ性を持続できる。
【0006】
また、基層は、マトリクスを構成する材料の粉末と、軟質材料の粉末とを焼結することにより形成されてもよい。これにより、軟質粒子を、マトリクスを構成する材料の粉末同士の隙間に入り込んだ形状とすることができ、軟質粒子のアンカー効果をより強固にすることができる。
【0007】
また、基層と軟質層との境界のうち、軟質粒子と軟質層との境界では、軟質材料がエピタキシャル成長してもよい。これにより、軟質粒子と軟質層との間で状態の異なる結晶粒の界面が形成されることを防止し、当該界面にて剥離が生じることを防止できる。従って、軟質粒子と軟質層とを強固に接合することができ、軟質層の基層に対する密着性を向上させることができる。
【0008】
さらに、マトリクスはCu合金であり、軟質粒子はBi粒子またはPb粒子であってもよい。BiとPbはCu合金よりも軟らかいため、相手軸のなじみ性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】摺動部材の斜視図である。
図2】(2A),(2B)は摺動部材の断面模式図である。
図3】(3A),(3B)は摺動面におけるアコースティックエミッションのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)第1実施形態:
(1−1)摺動部材の構成:
(1−2)計測方法:
(1−3)摺動部材の製造方法:
(2)他の実施形態:
【0011】
(1)第1実施形態:
(1−1)摺動部材の構成:
図1は、本発明の一実施形態にかかる摺動部材1の斜視図である。摺動部材1は、裏金10とライニング11とオーバーレイ12とを含む。摺動部材1は、中空状の円筒を直径方向に2等分した半割形状の金属部材であり、断面が半円弧状となっている。2個の摺動部材1が円筒状になるように組み合わせることにより、すべり軸受Aが形成される。すべり軸受Aは内部に形成される中空部分にて円柱状の相手軸2(エンジンのクランクシャフト)を軸受けする。相手軸2の外径はすべり軸受Aの内径よりもわずかに小さく形成されている。相手軸2の外周面と、すべり軸受Aの内周面との間に形成される隙間に潤滑油(エンジンオイル)が供給される。その際に、すべり軸受Aの内周面上を相手軸2の外周面が摺動する。
【0012】
摺動部材1は、曲率中心から遠い順に、裏金10とライニング11とオーバーレイ12とが順に積層された構造を有する。従って、裏金10が摺動部材1の最外層を構成し、オーバーレイ12が摺動部材1の最内層を構成する。裏金10とライニング11とオーバーレイ12とは、それぞれ円周方向において一定の厚みを有している。裏金10の厚みは1.3mmであり、ライニング11の厚みは0.2mmであり、オーバーレイ12の厚みは10μmである。オーバーレイ12の曲率中心側の表面の半径(摺動部材1の内径)40mmである。以下、内側とは摺動部材1の曲率中心側を意味し、外側とは摺動部材1の曲率中心と反対側を意味することとする。オーバーレイ12の内側の表面は、相手軸2の摺動面を構成する。
【0013】
裏金10は、Cを0.15wt%含有し、Mnを0.06wt%含有し、残部がFeからなる鋼で形成されている。なお、裏金10は、ライニング11とオーバーレイ12とを介して相手軸2からの荷重を支持できる材料で形成されればよく、必ずしも鋼で形成されなくてもよい。
【0014】
ライニング11は、裏金10の内側に積層された層であり、本発明の基層を構成する。
ライニング11は、Snを10wt%含有し、Biを8wt%含有し、残部がCuと不可避不純物とからなる。ライニング11の不可避不純物はMg,Ti,B,Pb,Cr等であり、精錬もしくはスクラップにおいて混入する不純物である。不可避不純物の含有量は、全体で1.0wt%以下である。
【0015】
図2Aは、摺動部材1の断面模式図である。なお、図2Aにおいて、摺動部材1の曲率は無視することとする。ライニング11において、Cu−Sn合金で構成されるマトリクス11a中にBi粒子11bが析出している。Bi粒子11bは、Cu−Sn合金よりも軟らかく、本発明の軟質粒子を構成する。また、Biは本発明の軟質材料を構成する。硬質のCu−Sn合金をライニング11のマトリクス11aとして採用することにより、摺動部材1の強度および耐摩耗性を向上させることができる。
【0016】
ライニング11の断面におけるBi粒子11bの平均円相当径は100μmであった。すなわち、ライニング11の断面におけるBi粒子11bの平均面積は2500×πμm2であった。また、ライニング11の断面におけるBi粒子11bの面積割合は10%であった。ライニング11におけるBi粒子11bの分布は、均一、かつ、方向依存性を有さないため、ライニング11とオーバーレイ12との境界XにおけるBi粒子11bの平均円相当径と平均面積と面積割合とは、任意の断面におけるBi粒子11bの平均円相当径と平均面積と面積割合と同じと見なすことができる。
【0017】
ライニング11とオーバーレイ12との境界Xは、マトリクス11aとオーバーレイ12との境界X1と、Bi粒子11bとオーバーレイ12との境界X2とを含む。そして、Bi粒子11bとオーバーレイ12との境界X2は、マトリクス11aとオーバーレイ12との境界X1よりも、オーバーレイ12側に突出している。
【0018】
オーバーレイ12は、ライニング11上に積層された層であり、本発明の軟質層を構成する。オーバーレイ12は、Biと不可避不純物とからなる。オーバーレイ12の不可避不純物はSn,Fe,Pb等であり、オーバーレイ12のめっき液等から混入する不純物である。不可避不純物の含有量は、全体で1.0wt%以下であり、Biの含有量は99%以上である。オーバーレイ12は、Bi粒子11bと同一の軟質材料としてのBiで形成されており、Bi粒子11bとオーバーレイ12との境界X2ではBiがエピタキシャル成長している。なお、説明のためBi粒子11bとオーバーレイ12との境界X2を図示しているが、境界X2においてはBiがエピタキシャル成長しているため、境界X2は明瞭に観察できない。例えば、境界X2は、Biにおける不純物元素の差(後述する焼結由来とめっき由来との差等)によって特定されてもよい。
【0019】
図3A,3Bは、摺動部材1の摺動面に摩擦力を作用させた場合のアコースティックエミッションの程度を示すグラフである。図3A,3Bの横軸はオーバーレイ12に作用させた垂直荷重を示し、第1縦軸(右側の軸)は摩擦力を示す。図3A,3Bに示すように、摩擦力(破線)は垂直荷重に対して概ね比例する。図3A,3Bの第2縦軸(左側の軸)はアコースティックエミッションの程度を示し、値が大きいほどアコースティックエミッションの程度が大きいことを示す。アコースティックエミッションの程度は、オーバーレイ12に摩擦力を作用させた際に生じた音の音圧に対応する。
【0020】
図3Aは本発明にかかる摺動部材1(実施形態)の摺動面に摩擦力を作用させた場合のアコースティックエミッションの程度を示し、図3Bは比較例にかかる摺動部材1の摺動面に摩擦力を作用させた場合のアコースティックエミッションの程度を示す。なお、Bi粒子11bとオーバーレイ12との境界X2が、マトリクス11aとオーバーレイ12との境界X1と同一直線上にある摺動部材1を比較例とした。すなわち、比較例において、Bi粒子11bとオーバーレイ12との境界X2がオーバーレイ12側に突出していない。また、Bi粒子11bとオーバーレイ12との境界X2においてBiがエピタキシャル成長していない摺動部材1を比較例とした。そのため、比較例においては、境界Xにおけるライニング11とオーバーレイ12ととの剥離が直線状に進行しやすい。
【0021】
アコースティックエミッションとは、摺動面に作用させた摩擦力によって生じた摺動部材1の内部の破壊が原因となって発せられた音波である。アコースティックエミッションの主要因となる摺動部材1の内部の破壊は、おもに、ライニング11とオーバーレイ12とが境界Xにて剥離する破壊であると考えられる。オーバーレイ12を構成するBiは、ライニング11のマトリクスを構成するCuに固溶せず、かつ、Cuと化合物を形成しないため、オーバーレイ12とライニング11とが境界Xにおいて剥離しやすいからである。
【0022】
図3A,3Bを比較すると、Bi粒子11bとオーバーレイ12との境界X2がオーバーレイ12側に突出している図3Aの摺動部材1においてはアコースティックエミッション(実線)がほぼ発生していないのに対して、Bi粒子11bとオーバーレイ12との境界X2がオーバーレイ12側に突出していない図3Bの摺動部材1においてはアコースティックエミッションが発生していた。従って、Bi粒子11bとオーバーレイ12との境界X2がオーバーレイ12側に突出している場合に、ライニング11とオーバーレイ12との剥離を防止し、オーバーレイ12とライニング11との密着性を良好とすることができる。すなわち、オーバーレイ12とライニング11との境界Xが一直線状ではなく、入り組んだ形状となるため、オーバーレイ12とライニング11との密着性を向上させることができる。
【0023】
ここで、Bi粒子11bとオーバーレイ12とは、同一の軟質材料であるBiで形成されるため、Bi粒子11bとオーバーレイ12とを強固に接合できる。さらに、Bi粒子11bは、もともとライニング11にて析出した粒子であるため、Bi粒子11bはライニング11に強固に保持される。従って、Bi粒子11bが強いアンカー効果を発揮することにより、当該Bi粒子11bと結合しているオーバーレイ12のライニング11に対する密着性を向上させることができる。従って、オーバーレイ12がライニング11から剥離することを防止し、なじみ性を持続できる。さらに、ライニング11とオーバーレイ12との境界Xのうち、Bi粒子11bとオーバーレイ12との境界X2では、Biがエピタキシャル成長している。これにより、Bi粒子11bとオーバーレイ12とを強固に接合することができ、オーバーレイ12のライニング11に対する密着性を向上させることができる。
【0024】
(1−2)計測方法:
上述した実施形態において示した各数値を以下の手法によって計測した。 摺動部材1の各層を構成する元素の質量は、ICP発光分光分析装置(島津社製ICPS−8100)によって計測した。
【0025】
ライニング11におけるBi粒子11bの平均円相当径を以下の手順によって計測した。まず、ライニング11の任意の断面(相手軸2の回転軸方向に垂直な方向に限らない)を粒子径2μmのアルミナ粒子で研磨した。ライニング11の断面のうち面積が0.02mm2となる任意の観察視野範囲(縦0.1mm×横0.2mmの矩形範囲)を電子顕微鏡(日本電子製 JSM−6610A)によって500倍で撮影することにより、観察画像(反射電子像)の画像データを得た。そして、観察画像を画像解析装置(ニレコ社製 LUZEX_AP)に入力し、観察画像に存在するBi粒子11bの像を抽出した。Bi粒子11bの像の外縁にはエッジ(明度や彩度や色相角が所定値以上異なる境界)が存在する。そこで、画像解析装置によって、エッジによって閉じられた領域をBi粒子11bの像として観察画像から抽出した。
【0026】
そして、Bi粒子11bの像を観察画像から抽出し、画像解析装置によって、観察視野範囲に存在するすべてのBi粒子11bの像について投影面積円相当径(計測パラメータ:HEYWOOD)を計測した。投影面積円相当径とは、Bi粒子11bの断面積と等しい面積を有する円の直径であり、Bi粒子11bの像の面積と等しい面積を有する円の直径を光学倍率に基づいて現実の長さに換算した直径である。さらに、すべてのBi粒子11bの投影面積円相当径の算術平均値(合計値/粒子数)を平均円相当径として計測した。さらに、Bi粒子11bの平均円相当径と等しい直径を有する円の面積に、観察視野範囲に存在するBi粒子11bの個数を乗算することにより、ライニング11の断面上に存在するBi粒子11bの総面積を算出した。そして、Bi粒子11bの総面積を観察視野範囲の面積で除算することにより、Bi粒子11bの面積割合を計測した。なお、投影面積円相当径が1.0μm未満の場合、投影面積円相当径の信頼度や物質の特定の信頼度が低くなるため、Bi粒子11bの平均円相当径等を算出する際に考慮しないこととした。
【0027】
ライニング11の内側の表面におけるBi粒子11bの濃度は以下の手順で計測した。ライニング11の表面のうち面積が1mm2となる任意の観察視野範囲(縦1.25 mm×横0.8mmの矩形範囲)に対して、電子顕微鏡(日本電子製 JSM−6610A)によってエネルギー分散型X線分光法(EDX)を実施し、Biが検出された領域の割合を濃度として計測した。
【0028】
(1−3)摺動部材の製造方法:
まず、裏金10と同じ厚みを有する低炭素鋼の平面板を用意した。
次に、低炭素鋼で形成された平面板上に、ライニング11を構成する材料の粉末を散布した。具体的に、上述したライニング11における各成分の質量比となるように、Cuの粉末とBiの粉末とSnの粉末とを低炭素鋼の平面板上に散布した。ライニング11における各成分の質量比が満足できればよく、Cu−Bi,Cu−Sn等の合金粉末を低炭素鋼の平面板上に散布してもよい。粉末の粒径は、試験用ふるい(JIS Z8801)によって150μm以下に調整した。
【0029】
次に、低炭素鋼の平面板と、当該平面板上に散布した粉末とを焼結した。焼結温度を700〜1000℃に制御し、不活性雰囲気中で焼結した。焼結後、冷却した。これにより、ライニング12において、Bi粒子11bを、マトリクス11aを構成するCuの粉末同士の隙間に入り込んだ形状とすることができ、Bi粒子11bのアンカー効果をより強固にすることができる。なお、焼結温度はCuの融点よりも低く、Biの融点よりも高いため、Biの液相がCuの粉末同士の隙間に入り込んだ状態でBi粒子11bが凝固することとなる。
【0030】
冷却が完了すると、低炭素鋼の平面板上にCu合金層が形成される。このCu合金層には、冷却中に析出した軟質のBi粒子11bが含まれることとなる。
次に、中空状の円筒を直径方向に2等分した形状となるように、Cu合金層が形成された低炭素鋼をプレス加工した。このとき、低炭素鋼の外径が摺動部材1の外径と一致するようにプレス加工した。
【0031】
次に、裏金10上に形成されたCu合金層の表面をエッチングした。すなわち、Cu合金層のうちマトリクスを選択的にエッチングすることにより、エッチングされなかったBi粒子11bを突出させる。エッチングの条件は以下の通りとした。35%の過酸化水素水を50ml/L含み、濃硫酸を80ml/L含むエッチング液にてエッチングを行った。エッチング液の液温は25℃とし、攪拌を行うことなく、1〜10分だけCu合金層の表面を5μmだけエッチングした。
【0032】
図2Bはエッチング後のライニング12を示す。図2Bに示すように、ライニング12のエッチングを行うことにより、ライニング11の表面を摺動部材1の外側(紙面下側)へ後退(Z→X)させることにより、ライニング11の表面から突出するBi粒子11bの突起Pを形成した。
【0033】
次に、ライニング11の表面上に軟質材料としてのBiを電気めっきによって10μmの厚みだけ積層することにより、オーバーレイ12を形成した。電気めっきの手順は以下のとおりとした。まず、電解液中にてライニング11の表面に直流電流を流すことにより、ライニング11の表面を脱脂した。次に、ライニング11の表面を水洗した。さらに、ライニング11の表面を酸洗することにより、不要な酸化物を除去した。その後、ライニング11の表面を、再度、水洗した。以上の前処理が完了すると、めっき浴に浸漬させたライニング11に電流を供給することにより電気めっきを行った。Bi濃度:10〜50g/L、有機スルホン酸:25〜100g/L、添加剤:0.5〜50g/Lを含むめっき浴の浴組成とした。めっき浴の浴温度は、25℃とした。さらに、ライニング11に供給する電流は直流電流とし、その電流密度は0.5〜5.0A/dm2とした。
【0034】
以上のように電気めっきを行うことにより、ライニング11とオーバーレイ12との境界Xに存在するBi粒子11bからBiがエピタキシャル成長した。Bi粒子11bの突起Pが形成された状態、すなわちBi粒子11bの表面積を増大させた状態でオーバーレイ12のめっきを行ったため、Bi粒子11b上に析出核を多数形成することができ、Biのエピタキシャル成長を促進できた。以上のようにして、オーバーレイ12の積層が完了した後に、水洗と乾燥を行うことにより、摺動部材1を完成させた。さらに2個の摺動部材1を円筒状に組み合わせることにより、すべり軸受Aを形成した。
【0035】
(2)他の実施形態:
前記実施形態においては、エンジンのクランクシャフトを軸受けするすべり軸受Aを構成する摺動部材1を例示したが、本発明の摺動部材1によって他の用途のすべり軸受Aを形成してもよい。例えば、本発明の摺動部材1によってトランスミッション用のギヤブシュやピストンピンブシュ・ボスブシュ等を形成してもよい。また、ライニング11のマトリクスはCu合金に限られず、相手軸2の硬さに応じてマトリクスの材料が選択されればよい。また、軟質材料はマトリクスよりも軟らかく、かつ、マトリクス中に析出可能な材料であればよく、例えばPb,Sn,Inであってもよい。
【0036】
また、オーバーレイ12は、必ずしもBi粒子11bからBiをエピタキシャル成長させることにより形成されなくてもよい。例えば、ライニング12のエッチング後にBi粒子11bの表面に陽極酸化膜を形成した上でオーバーレイ12のめっきを行うことにより、Bi粒子11b上においてオーバーレイ12を不連続に成長させてもよい。この場合でも、Bi粒子11bとオーバーレイ12との境界X2を、オーバーレイ12側に突出させることができ、オーバーレイ12がライニング12から剥離することを防止できる。また、ライニング12は、必ずしも焼結により形成されなくてもよく、連続鋳造や押出等によって形成されてもよい。連続鋳造や押出等によってライニング12にてBi粒子11bを析出させた場合でも、ライニング12表面の凹部にオーバーレイ12をめっきすることによってアンカーを形成する場合よりも、高いアンカー効果を発揮できる。
【符号の説明】
【0037】
1…摺動部材、2…相手軸、10…裏金、11…ライニング、11a…マトリクス、11b…Bi粒子、P…突起。
図1
図2
図3