(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248006
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】風力発電システム
(51)【国際特許分類】
F03D 7/04 20060101AFI20171204BHJP
F03D 1/06 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
F03D7/04 H
F03D1/06 A
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-139401(P2014-139401)
(22)【出願日】2014年7月7日
(65)【公開番号】特開2016-17424(P2016-17424A)
(43)【公開日】2016年2月1日
【審査請求日】2016年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】飛永 育男
(72)【発明者】
【氏名】清木 荘一郎
【審査官】
所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−159647(JP,A)
【文献】
特開2011−176956(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 7/04
F03D 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピッチ角を制御可能なブレードを有し、発電した電力を系統に供給する風力発電システムであって、風車制御盤と、前記風車制御盤からの指令に基づき風車の発電を制御する電力制御装置と、前記風車制御盤からの指令に基づき前記系統との接続を遮断する主遮断器と、前記風車制御盤からの指令に基づき前記ピッチ角の制御を行うピッチ制御装置を有し、
前記風車制御盤は、風車の停止要因が少なくとも回転数の上限異常の場合には、前記主遮断器に解列指令を与えることなく前記電力制御装置に発電継続の指令を出すとともに、前記ピッチ制御装置に前記ブレードのピッチ角を停止状態に移行させる指令を与えるようにしたことを特徴とする風力発電システム。
【請求項2】
請求項1に記載の風力発電システムにおいて、
前記風車制御盤は、前記ピッチ制御装置に前記ブレードのピッチ角を停止状態に移行させる指令を与えてから、前記風車の停止動作時に前記ブレードに作用する荷重が暴風時に前記ブレードに作用する荷重を超えない条件で、前記電力制御装置に発電停止指令を与えることを特徴とする風力発電システム。
【請求項3】
ピッチ角を制御可能なブレードを有し、発電した電力を系統に供給する風力発電システムであって、風車制御盤と、前記風車制御盤からの指令に基づき風車の発電を制御する電力制御装置と、前記風車制御盤からの指令に基づき前記系統との接続を遮断する主遮断器と、前記風車制御盤からの指令に基づき前記ピッチ角の制御を行うピッチ制御装置を有し、
前記風車制御盤は、風車の停止要因が少なくとも回転数の上限異常の場合には、前記電力制御装置に発電継続の指令を出すとともに、前記ピッチ制御装置に前記ブレードのピッチ角を停止状態に移行させる指令を与えるようにした風力発電システムにおいて、
前記風車制御盤は、前記ピッチ制御装置に前記ブレードのピッチ角を停止状態に移行させる指令を与えてから、所定の時限が経過したときに前記電力制御装置に発電停止指令を与えるようにしたことを特徴とする風力発電システム。
【請求項4】
ピッチ角を制御可能なブレードを有し、発電した電力を系統に供給する風力発電システムであって、風車制御盤と、前記風車制御盤からの指令に基づき風車の発電を制御する電力制御装置と、前記風車制御盤からの指令に基づき前記系統との接続を遮断する主遮断器と、前記風車制御盤からの指令に基づき前記ピッチ角の制御を行うピッチ制御装置を有し、
前記風車制御盤は、風車の停止要因が少なくとも回転数の上限異常の場合には、前記電力制御装置に発電継続の指令を出すとともに、前記ピッチ制御装置に前記ブレードのピッチ角を停止状態に移行させる指令を与えるようにした風力発電システムにおいて、
前記風車制御盤は、前記ピッチ制御装置に前記ブレードのピッチ角を停止状態に移行させる指令を与えてから、前記風車の停止動作時に前記ブレードに作用する荷重が暴風時に前記ブレードに作用する荷重を超えない条件で、前記電力制御装置に発電停止指令を与え、
前記風車制御盤は、前記ピッチ制御装置に前記ブレードのピッチ角を停止状態に移行させる指令を与えてから、所定の時限が経過したとき、または、所定の条件が成立したときに電力制御装置に発電停止指令を与えるようにしたことを特徴とする風力発電システム。
【請求項5】
請求項3または4に記載の風力発電システムにおいて、
前記所定の時限は、風車停止動作時にブレードに作用する荷重が暴風時にブレードに作用する荷重を超えないように設定されていることを特徴とする風力発電システム。
【請求項6】
請求項5に記載の風力発電システムにおいて、
風車停止動作時の風車回転数の最大値が定格回転数+25%の範囲内になるように前記時限が設定されていることを特徴とする風力発電システム。
【請求項7】
請求項4に記載の風力発電システムにおいて、
前記所定の条件は、風車発電システムが発電を維持できなくなる風車回転数の下限に達したときであることを特徴とする風力発電システム。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の風力発電システムにおいて、
前記風車制御盤は、風車停止後に発電を継続しても風車及び系統に悪影響を及ぼさない異常要因で風車が停止する場合に、前記電力制御装置に発電継続の指令を出すとともに、前記ピッチ制御装置に前記ブレードのピッチ角を停止状態に移行させる指令を与えるようにしたことを特徴とする風力発電システム。
【請求項9】
請求項1〜8の何れかに記載の風力発電システムにおいて、
前記風車制御盤は、風車停止動作を開始した時点のトルクを維持する指令を前記電力制御装置に与えることを特徴とする風力発電システム。
【請求項10】
請求項1〜8の何れかに記載の風力発電システムにおいて、
前記風車制御盤は、トルク指令または電力指令を前記電力制御装置に出力することを特徴とする風力発電システム。
【請求項11】
請求項1〜10の何れかに記載の風力発電システムにおいて、
前記風車制御盤は、少なくとも電流、電圧または電力のいずれかの周波数が風力発電システムまたは系統において予め決められた周波数範囲から逸脱した場合、前記電力制御装置に発電継続の停止指令を与えるとともに、前記主遮断器に解列指令を与え、前記ピッチ制御装置に前記ブレードのピッチ角を停止状態に移行させる指令を与えるようにしたことを特徴とする風力発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電した電力を系統に供給する風力発電システムに係り、特に、ブレードのピッチ角をフェザーにして風車を停止するようにした風力発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電システム(風力発電機)は、環境に優しくリスクの少ない発電方法として近年注目を集めているが、一方で発電コストが高く、安全性を確保しながらより一層のコスト削減が求められている。
風力発電システムのコスト削減のためには、風車構造部材の軽量化による材料費削減が効果的であり、特にブレードの質量削減は、それを支持するナセル、ナセルを支持するタワーの軽量化にも寄与するため、重要度が高い。ブレードの構造条件は主に空力特性と設計条件より決まるが、設計荷重を低下させることで、ブレード構造の軽量化が図れる。
従来、例えば、特許文献1〜3に記載のように、ピッチ角やヨー角を制御して暴風時の待機形態を工夫することにより暴風時設計荷重を軽減することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-336505号公報
【特許文献2】特開2007-64062号公報
【特許文献3】特開2007-16628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
風力発電システムの発電コストを下げるためには、上述したように、風車の構造部品の軽量化が必要になる。風車の構造強度を決めている設計荷重は大きく分けて3つ有り、風車が停止状態で台風などの高い風速の風を受ける際の荷重(暴風時荷重)と、発電中の荷重(発電時荷重)、および停止動作時の荷重(停止動作時荷重)に大別される。風車の構造部品を軽量化するには、上記のような様々な状態で発生する荷重で、他より特別に大きな支配的荷重を生成させないことが重要になる。
【0005】
暴風時には、上述の特許文献1〜3に記載の方法を採用することにより、暴風時設計荷重を低減することは可能であるが、基本的には、暴風時には風車は停止しているため、制御により更なる荷重低減の余地は少ない。このため、暴風時荷重よりも大きな荷重を、他の状態で発生させないことが重要になる。
【0006】
その中で、本発明者らの検討によれば、風車の停止動作を行う際にブレードに作用する荷重についてさらに低減する余地があることを見出した。風車は様々な停止要因(異常)により運転が停止される。従来、風車を停止する際には、風車の停止要因(停止条件)にかかわらず、ブレードをフェザーにすると共に発電を停止するようにしている。この場合、本発明者らの検討によれば、風車が停止動作を行う際には、特に過回転によって大きな荷重を発生してしまうことがある。すなわち、風車が発電を停止することで、風車ロータの回転系は無負荷となり、ロータ回転数は上昇傾向となる。ロータ回転数の上昇により、ブレードに流入する風の相対速度は上昇し、ブレード・ロータに巨大な荷重を発生させる場合がある。この荷重が設計上支配的となると、風車構造が最適化されず、発電コストの上昇につながる課題がある。
【0007】
本発明の目的は、風車の停止時に過回転により大きな荷重がブレードに作用することを抑制することが可能な風力発電システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、風車の停止要因を場合分けし、停止要因が少なくとも回転数の上限異常(過回転)の場合には、風車制御盤は電力制御装置に発電継続の指令を出すとともに、ピッチ制御装置にブレードのピッチ角を停止状態に移行させる指令を与えるようにしたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、風車制御盤は、ピッチ制御装置にブレードのピッチ角を停止状態に移行させる指令を与えてから、所定の時限が経過または所定の条件が成立したときに電力制御装置に発電停止指令を与えるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、風車の停止時に過回転により大きな荷重がブレードに作用することを抑制することが可能になり、風車停止時に風車に作用する荷重を低減することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明が適用される一般的な風車の機器構成と制御対象を示す図である。
【
図2】本発明における基本的な制御ブロック図の一例を示す図である。
【
図3】本発明の実施例1における制御ブロック図を示す。
【
図4】本発明の実施例2における制御ブロック図を示す。
【
図5】本発明の実施例3における制御ブロック図を示す。
【
図6】本発明の実施例4における制御ブロック図を示す。
【
図7】本発明の実施例5における制御ブロック図を示す。
【
図8】発電の継続の有無と風車回転数との関係を時系列で示す図である。
【
図9】ブレードピッチ角により変化する風車ロータによる空力トルク(空力ブレーキ)が風車回転数に与える影響を説明する図である。
【
図10】風車停止時の風車回転数の上限を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。
【0013】
先ず、
図1を用いて、本発明が適用される風車の機器構成と制御対象の一例を説明する。本発明が適用される大型の風力発電機(定格出力100kW以上)は、基本的に無人での自動運転を行い、発電した電力は系統に接続する。
風車は、複数のブレード1、ブレード1が取り付けられたハブ2と、ハブ2に接続された主軸3と、主軸3の回転を増速する増速機4と、増速機4に接続され発電を行う発電機5と、主軸3を回転可能に支持し増速機4や発電機5を収容するナセル6と、ナセル6を回転自在に支持するタワー7を備える。
また、風車は、風向風速計12、発電機5の回転数を計測する回転数センサ13、ナセル6のヨー角を計測するヨー角センサ14などを備え、これらのセンサの出力は、タワー7内に設置された風車制御盤15に送られる。
風車制御盤15は、外部からの制御指令や各センサからの出力に基づいて、風車内の制御対象を制御し、風車の無人での自動運転を行う。制御対象としては、ピッチ制御装置9(ピッチ駆動機構8)、ヨー駆動機構10、電力制御装置16、主遮断器17、及び、補機群19(補機としては例えばロータブレーキ11や、図示を省略するが油圧ユニットや冷却ユニットなどを含む)などである。ピッチ制御装置9(ピッチ駆動機構8)はブレード1の角度を変更する。ヨー駆動機構10はナセル6全体の向きを変更する。電力制御装置16は風車の電力(または回転トルク)を調整する。主遮断器17は系統との電気的な接続を担う。
また、風車は各センサにより各部の状態を監視しており、風車制御盤15により異常を検知した場合、又は風車操作員による手動操作(非常停止ボタン18を押して風車制御盤15に停止指令)で発電を中止し、停止動作を行う。本発明は、この停止動作における風車制御盤15によるピッチ制御装置、電力制御装置16、主遮断器17への指令に関するものである。
【0014】
次に、本発明に至った経緯について
図8〜
図10を用いて説明する。
従来、風車を停止する際には、風車の停止要因(停止条件)にかかわらず、ブレードをフェザーにすると共に発電を停止するようにしている。この場合、
図8に示すように、T1において、風車の停止動作、すなわち、ブレードピッチ角をフェザー状態に回転開始する同時に、発電を停止すると、風車ロータの回転系は無負荷となり、ロータ回転数は上昇傾向となる。そして、過回転となり、ブレードに流入する風の相対速度は上昇し、ブレード・ロータに巨大な荷重を発生させる場合がある。
【0015】
そこで、本発明者らは、風車が停止する際に、発電を短期間継続しても風車及び系統に悪影響を及ぼさない場合があることを着目し、このような場合には、風車を停止動作させる際に、発電を継続させて過回転が生じないようにすれば良いとことを見出した。すなわち、
図8に示すように、風車停止動作から時間遅れのT2の時点で発電を停止するようにすれば、風車回転数の上昇が許容範囲(ブレードに作用する荷重が許容範囲になる風車回転数)に収まる。発電を停止しない場合には、風車の回転数は漸次減少するが、風車は何らかの異常により停止するものであるので、速やかに発電を停止することが望ましい。
【0016】
そこで、本発明者らは、風車の停止時にブレードに作用する荷重が許容範囲内で収まるような条件が成立したときに発電を停止させるようにするものである。
上述したように、風車の構造強度を決めている設計荷重は大きく分けて3つ有り、風車が停止状態で台風などの高い風速の風を受ける際の荷重(暴風時荷重)と、発電中の荷重(発電時荷重)、および停止動作時の荷重(停止動作時荷重)に大別され、暴風時荷重よりも大きな荷重を、他の状態で発生させないことが重要になる。本発明者らはこの点に着目し、風車停止動作の際にブレードに作用する荷重が暴風時にブレードに作用する荷重よりも大きくならないようにする。
【0017】
図10に風車回転数とブレードに作用する荷重の関係の概算結果を示す。
図10に示すように、暴風時の設定風速を約70m/sとすると、ブレードの根元に作用する荷重Mは次式で表される。ここで、Kは定数である。
【数1】
【0018】
また、運転時の上限速度(ブレード先端の速度)を約75m/sとすると、ブレードの根元に作用する荷重Mは次式で表される。運転時の荷重Mは暴風時の荷重Mよりも小さくなっていることがわかる。
【数2】
【0019】
風車停止動作時の荷重Mについては、暴風時の荷重Mを超えないようにする必要がある。この概算結果では、風車停止時にブレード先端の速度の上昇が、運転時の上限速度から+25%の範囲であれば、暴風時の荷重Mを超えない。すなわち、風車停止動作時の運転時速度に対する過速度+25%としたときのブレードの根元に作用する荷重は次式で表される。過速度+25%としたときのブレードの根元に作用する荷重は暴風時の荷重Mよりも小さくなっていることがわかる。
【数3】
【0020】
このように、風車停止動作時の過速度を運転時の上限速度の+25%程度に収めれば、風車停止時の荷重が暴風時の荷重以下に空力荷重が収まる。但し、この計算方法は概略計算であり、想定する暴風時の風速や、ブレードの形状、質量の影響によって結果はずれが生じる。したがって、実際の条件に応じて風車停止動作時の上限速度を適宜設定する。
【0021】
そして、この風車停止動作時の回転数増加を25%以下に抑えるには、シミュレーションで発電停止のタイミングを調査する。すなわち、発電停止タイミングを変えて回転数の上昇を確認する。
図9はこのシミュレーションにより得られたもので、ブレードピッチ角により変化する風車ロータによる空力トルク(空力ブレーキ)が風車回転数に与える影響を説明する図である。この
図9に示すとおり、発電を継続する限り、回転数は低下方向に推移する。また、発電を停止した後は、回転系の負荷が無くなるために回転数が上昇を始める。但し、回転数が25%増に達する十分手前でピッチ角がフェザー方向にある程度推移していれば、空力トルクは回転と反対方向のブレーキ方向に作用し始め、回転数の上昇は減速し始め、回転数の上昇を抑えることができる。
図8及び
図9の例では、空力トルクがおよそゼロになるピッチ角の前に発電を停止しても運転時の上限速度(上限回転数)の+25%以下に風車停止動作時の回転数上昇を収めることができている。言い換えれば、このようにして発電停止までの時限を設定することにより、発電を継続した際に、風車停止動作時の回転数の上限値が、正常運転時の運転範囲の上限+25%以下にすることが可能な、発電電力、又はトルクを確保することができる。また、このように発電停止までの時限を設定することにより発電停止までの時間を短くすることができる。言い換えれば、短時間の発電継続で、風車停止動作時の過回転を抑制することができる。
【0022】
このように、発電を短期間継続しても風車及び系統に悪影響を及ぼさない異常要因で風車を停止する場合、風車を停止動作させる際に、発電を継続させて過回転が生じないようにすることができ、これにより風車停止動作時の荷重が設計上支配的とならないので、風車構造の最適化を行うことができ、発電コストの上昇も抑制できる。
【0023】
本発明では、風車の停止要因を場合分けして、風車停止動作時の制御内容を変えている。風車停止要因の場合分けについて以下に詳述する。
【0024】
本発明では、停止要因が少なくとも回転数の上限異常(過回転)の場合には、風車制御盤は電力制御装置に発電継続の指令を出すとともに、ピッチ制御装置にブレードのピッチ角を停止状態に直ちに移行させる指令を与えるものである。これは、短期間の発電の継続が風車及び/または系統に悪影響を与えないためである。風車停止動作時の過回転は、回転数の上限異常について最も対応すべきものであるが、風車停止動作時の過回転は、他の異常要因による風車停止動作時にも起こり得る。そこで、本発明の好ましい態様としては、他の短期間の発電の継続が風車及び/または系統に悪影響を与えない異常要因においても同様に、風車制御盤は電力制御装置に発電継続の指令を出すとともに、ピッチ制御装置にブレードのピッチ角を停止状態に移行させる指令を与える。
【0025】
短期間発電を継続しても風車及び/または系統に悪影響を及ぼさない停止要因(停止条件)として、以下のいずれかを含むものとする。但し、上述したように、回転速度の上限異常(過回転)は、本発明の制御内容を行う対象として必ず含む。
(1)機械的な異常(これらの異常はセンサなどで検出される)
ア)振動(ナセルフレームやロータを支持するベアリングの振動など)
イ)騒音(ナセル内の騒音など)
エ)回転速度の異常(特に過回転が生じ得る異常)
ウ)ロータのねじれ・変形
オ)電線のねじれ(ヨー旋回がある方向に一定以上回転した場合には電線のねじれが発生していると推測。ヨー旋回ギアに設けられたエンコーダなどで検出する。)
カ)温度の異常(補機の油圧系や冷却系、軸受、制御盤、発電機、変圧器などの異常温度)
キ)圧力の異常(補機の油圧系や冷却系の異常圧力)
ク)液面の異常(補機の油圧系や冷却系の液面異常)
(2)外部の風に関する異常
コ)風速、風向の急激な変化(例えば、所定時間(5秒)平均の風速が急激に所定風速以上変化する場合や、所定時間(10秒)間に90度変化する場合など。これらは回転速度の異常についで過回転が生じやすい。したがって、回転速度の異常と同様の扱いとすることが望ましい。)
(3)発電機〜系統に直接かかわらない補機の電気的異常(これらは風速によらずに起こり得る異常であり、過回転が生じない場合が多い。)
サ)電圧の異常
シ)電流の異常
ス)周波数の異常
セ)電力の異常
【0026】
一方、短期間発電を継続することで風車及び/または系統に悪影響を及ぼすとき、上述の制御に代えて、a)ピッチ制御装置には、直ちにブレードのピッチ角を停止状態に移行する指令を与え、b)電力制御装置には、直ちに発電を中止する指令を与え、c)主遮断器には、直ちに
解列する指令を与える。
この制御を行う条件は、以下の条件を含むものとする。
ソ)発電機〜系統間の電圧異常
タ)発電機〜系統間の電流異常
チ)発電機〜系統間の周波数異常
ツ)発電機〜系統間の電力異常
テ)通信異常(断線などにより信号送受信ができない場合など)
ト)制御装置の異常(ウォッチドックタイマーなどの異常)
【0027】
図2に本発明における基本的な制御ブロック図の一例を示す。
図2に示すように、機械系の異常の一つである過回転(回転速度の異常)の場合と、他の短期間発電を継続しても風車及び/または系統に悪影響を及ぼさない停止要因で風車を停止する場合には、風車制御盤15は、ピッチ制御装置9に直ちにフェザー動作を行うように指令を与える。その際、電力制御装置16には発電継続指令を与える。また、上述した時限を設定し、短期間経過後に電力制御装置16に発電停止指令を与える。なお、「条件」については後述する。また、短期間発電を継続することで風車及び/または系統に悪影響を及ぼす停止要因で風車を停止する際には、ピッチ制御装置9に直ちにフェザー動作を行う指令を与えるとともに、電力制御装置16にも直ちに発電停止指令を与える。例えば、少なくとも電流、電圧または電力のいずれかの周波数が風力発電システムまたは系統において予め決められた周波数範囲から逸脱した場合、ピッチ制御装置9に直ちにフェザー動作を行う指令を与えるとともに、電力制御装置16にも直ちに発電停止指令を与える。
【0028】
なお、短期間発電を継続しても風車及び/または系統に悪影響を及ぼさない停止要因で風車を停止する場合に、短期間経過後に電力制御装置16に発電停止指令を与える「条件」とは次の通りである。すなわち、発電を継続した場合に、特に風が弱い場合などは風車や風車の電力システムが発電を維持できなくなる回転数の下限に達する場合がある(例えば、発電機の周波数を系統周波数に変換する変換機(インバータ/コンバータ)の性能限界等)。このような条件になった場合は、上述の発電継続の時限を待たずに発電停止指令を与え、主遮断器の
解列を行うものとする。
【0029】
また、発電を継続した場合に、風車の回転系に過大な荷重を発生させないように、トルクを停止動作時の値から一定以下に保つ制御を行うことが望ましい。発電機の制御がトルク制御であれば、トルク一定の指令値、又はトルクを時間に伴い減少させるランプ制御を行う。回転系に機械的影響が少ないのはトルク低減のランプ制御となるが、回転数が上昇するリスクもある。トルク一定制御は、制御が単純で信頼性が高く、回転数上昇が起こり難いた、より望ましい。
【0030】
また、回転数の低下の判定を不要にするために、現在の回転数を参照して回転数が発電可能回転数の下限値付近になるように目標値を与えるフィードバック制御によってトルク制御指令を決定しても良い。また、電力制御装置にトルクの指令ではなく、電力指令を行う場合は、トルク指令値に現在の回転数を乗じて、電力指令として制御信号を与える。この場合のトルク指令値は、上述の通り、一定にするか、ランプ制御として行う。
【0031】
本発明により、風車停止動作時に発電機が発電を続けることで、ロータ回転体にはトルクが負荷され続け、回転数上昇を抑えることができ、風車に作用する風車停止動作時の荷重を低減することができる。
【0032】
以下、
図3〜
図7を用いて、本発明の具体的な制御ブロックの実施例を説明する。
【実施例1】
【0033】
図3に実施例1を示す。本実施例では、回転速度の異常を含めて、短期間発電を継続しても風車及び/または系統に悪影響を及ぼさない停止要因(停止条件)で風車を停止する際には、風車制御盤15は、ピッチ制御装置9に直ちにフェザー動作を行うように指令を与える。その際、電力制御装置16には発電継続指令を与える。また、上述した時限及び発電継続のための最小回転数を設定し、これらの何れか経過または条件が成立したときに電力制御装置16に発電停止指令を与える(OR条件で発電停止指令を出す)。短期間発電を継続しても風車及び/または系統に悪影響を及ぼさない停止要因(停止条件)としては、上述したア)〜セ)の要因(条件)を含む。また、本実施例では、発電継続する場合には、風車停止動作を開始時点のトルクを維持する指令(トルク一定指令)を電力制御装置16に出す。短期間発電を継続することで風車及び/または系統に悪影響を及ぼす停止要因(上述のソ)〜ト)の要因)で風車を停止する際には、ピッチ制御装置9に直ちにフェザー動作を行う指令を与えるとともに、電力制御装置16にも直ちに発電停止指令を与え、また、主遮断器17にも直ちに
解列指令を与える。
【実施例2】
【0034】
図4に実施例2を示す。本実施例では、発電継続の場合、実施例1のトルク一定制御に代えて、ランプ制御にしたものである。この場合、ランプ率は発電機の回転数が、運転範囲上限+25%を超過しないように定める。
【実施例3】
【0035】
図5に実施例3を示す。本実施例は、発電継続の場合、実施例1のトルク一定制御に代えて、フィードバック制御にしたものである。本実施例では、現在の風車回転数の値を取り込み、回転数が発電可能回転数の下限近傍に近づくようにトルク指令値を設定する。このことにより、停止指令条件がタイマのみとなり、停止指令に関する制御が簡素化される。
【実施例4】
【0036】
図6に実施例4を示す。本実施例は、実施例1のトルク指令を電力制御装置16に与えるのに代えて、トルク指令に回転数値を乗じることで電力指令として電力制御装置16に与えるようにしている。本実施例は、実施例1の変形例であるが、実施例2,3に関しても実施例1と同様の変更は可能である。
【実施例5】
【0037】
図7に実施例5を示す。本実施例は、発電継続の条件を機械系の異常である過回転(回転速度の異常)のみに絞ったものである。発電継続の条件は、過回転が必須項目である。これは過回転を確実に抑制して風車停止動作の際にブレードに作用する荷重を暴風時の荷重よりも小さくするためである。他の要因については、過回転になり得る可能性が必ずしも高くないからである。一方で、即時発電を停止、および、
解列する条件に関しては、
図3〜
図6に示した実施例と同様である。
【0038】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加,削除,置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0039】
1:ブレード
2:ハブ
3:主軸
4:増速機
5:発電機
6:ナセル
7:タワー
8:ピッチ駆動機構
9:ピッチ制御装置
10:ヨー駆動機構
11:ロータブレーキ
12:風向風速計
13:回転数センサ
14:ヨー角センサ
15:風車制御盤
16:電力制御装置
17:主遮断器
18:非常停止ボタン
19:補機群