(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248022
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】バーハンドル車両用液圧マスタシリンダ
(51)【国際特許分類】
B60T 11/228 20060101AFI20171204BHJP
B60T 11/236 20060101ALI20171204BHJP
B60T 11/18 20060101ALI20171204BHJP
B62L 3/00 20060101ALI20171204BHJP
B62L 3/02 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
B60T11/228
B60T11/236
B60T11/18
B62L3/00 A
B62L3/02 D
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-200934(P2014-200934)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-68801(P2016-68801A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2016年8月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226677
【氏名又は名称】日信工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 直樹
【審査官】
谷口 耕之助
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−197050(JP,A)
【文献】
特開平10−273087(JP,A)
【文献】
特開2012−166586(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0071325(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0067891(US,A1)
【文献】
欧州特許出願公開第02077214(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 11/228
B60T 11/18
B60T 11/236
B62L 3/00
B62L 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪ブレーキ用の操作レバーにより作動する前輪ブレーキ用の液圧マスタシリンダのシリンダボディに形成された有底のシリンダ孔に、一対のカップシールを嵌着し、該一対のカップシールを介して、前記シリンダ孔にプランジャを移動可能に内挿し、前記一対のカップシール間の前記シリンダ孔外周側に、前記シリンダボディの上部に一体に備えたリザーバの貯液室に液通孔を介して連通する液室を形成したバーハンドル車両用液圧マスタシリンダにおいて、
前記プランジャは、シリンダ孔底部側に開口する凹部を有する有底円筒状に形成され、前記凹部と前記シリンダ孔の底部との間に液圧室が画成され、前記凹部の周壁に、該周壁の内外に貫通し、非作動時の初期位置で前記液圧室と前記液室とを連通する複数の連通ポートが形成されると共に、前記バーハンドル車両用液圧マスタシリンダと前輪ブレーキとを繋ぐ液通路に、ABS制御装置が接続されていることを特徴とするバーハンドル車両用液圧マスタシリンダ。
【請求項2】
前記プランジャのシリンダ孔開口部側の外端部に、前記操作レバーの作用腕が当接する当接部が形成されていることを特徴とする請求項1記載のバーハンドル車両用液圧マスタシリンダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バーハンドル車両用液圧マスタシリンダに関し、詳しくは、液圧制御装置を備えたバーハンドル車両の前輪ブレーキに用いて好適な液圧マスタシリンダに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バーハンドル車両の前輪ブレーキに用いられる液圧マスタシリンダでは、サイドポート式のものとして、液圧マスタシリンダのシリンダ孔に、一対のカップシールを嵌着したピストンを移動可能に内挿し、ピストンとシリンダ孔底部との間に液圧室を画成すると共に、シリンダボディに、液圧室とリザーバとに連通するリリーフポートとサプライポートとを形成し、ブレーキ操作時に、シリンダ孔底部側に配置されたカップシールが、リリーフポートを閉塞した後に液圧室に液圧を発生させるものがあった(例えば、特許文献1参照。)。また、センタポート式の液圧マスタシリンダとしては、カップシールを嵌着したピストンをシリンダ孔に移動可能に内挿し、ピストンとシリンダ孔底部との間に液圧室を画成すると共に、ピストンの先端から液圧室へ突出するバルブとバルブステムとを設け、シリンダボディに、シリンダ孔とリザーバとに連通する液通路を形成し、ピストンに液通路と液圧室とを連通する通孔を形成し、ブレーキ操作時に、ピストンが前進するのに伴ってバルブが通孔を閉塞することにより液圧室に液圧を発生させるものがあった(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3542220号公報
【特許文献2】特開2010−64686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の特許文献1のものでは、ブレーキ操作時に、シリンダ孔底部側に配置されたカップシールがリリーフポートを通過するとすぐに液圧が発生することから、操作フィーリングが良好ではなかった。また、液圧マスタシリンダの液圧室と前輪ブレーキとを繋ぐ液通路にABS装置等の液圧制御装置が接続されたものでは、リリーフポートが小径であることから液圧制御装置への作動液の補給性が良くなかった。
【0005】
また、特許文献2のものでは、ブレーキ操作時に、ピストンが前進してピストンに形成した液通路をバルブが閉塞した状態から液圧が上昇することから、操作フィーリングが良好であり、また、液圧制御装置への作動液の補給性も良好ではあるものの、部品点数が多くコストが嵩むとともに、シリンダボディが長尺になり車体への搭載性が良くなかった。
【0006】
そこで本発明は、部品点数の減少と小型化とを図りながら、液圧マスタシリンダの液圧室と前輪ブレーキとを繋ぐ液通路に配置された液圧制御装置への作動液の補給性を向上させることができるバーハンドル車両用液圧マスタシリンダを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のバーハンドル車両用液圧マスタシリンダは、前輪ブレーキ用の操作レバーにより作動する前輪ブレーキ用の液圧マスタシリンダの
シリンダボディに形成された有底のシリンダ孔に、一対のカップシールを嵌着し、該一対のカップシールを介して、前記シリンダ孔にプランジャを移動可能に内挿し、前記一対のカップシール間の前記シリンダ孔外周側に、
前記シリンダボディの上部に一体に備えたリザーバの貯液室に
液通孔を介して連通する液室を形成したバーハンドル車両用液圧マスタシリンダにおいて、前記プランジャは、シリンダ孔底部側に開口する凹部を有する有底円筒状に形成され、前記凹部と前記シリンダ孔の底部との間に液圧室が画成され、前記凹部の周壁に、該周壁の内外に貫通し、非作動時の初期位置で前記液圧室と前記液室とを連通する複数の連通ポートが形成されると共に、前記バーハンドル車両用液圧マスタシリンダと前輪ブレーキとを繋ぐ液通路に、
ABS制御装置が接続されていることを特徴とし、前記プランジャのシリンダ孔開口部側の外端部に、前記操作レバーの作用腕が当接する当接部が形成されていると好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明のバーハンドル車両用液圧マスタシリンダによれば、プランジャに形成した連通ポートが、シリンダ孔底部側のカップシールを通過した状態から、液圧が発生することから、操作レバーを操作した後、急激に液圧が上昇することがなく、操作フィーリングを良好に保つことができる。さらに、液圧室と前輪ブレーキとを繋ぐ液通路に設けられた
ABS制御装置に、液通孔と液室と複数の連通ポートと液圧室とを介して、リザーバから作動液を良好に補給することができる。また、シリンダ孔底部とプランジャに設けた凹部との間に液圧室が画成されることから、シリンダボディの軸線方向の長さを短くすることができ、液圧マスタシリンダの車体への搭載性を向上させることができる。
【0009】
また、プランジャのシリンダ孔開口部側の外端部に、操作レバーの作用腕が当接する当接部が形成されていることにより、操作レバーによってプランジャを良好に作動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】本発明の一形態例を示す液圧マスタシリンダ装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1及び
図2は、本発明の液圧マスタシリンダ1を用いた液圧マスタシリンダ装置2の一形態例を示すものである。液圧マスタシリンダ装置2は、前記液圧マスタシリンダ1と操作レバー3とを組み合わせたフロントブレーキ用の液圧マスタシリンダ装置で、バーハンドル車両の車体前部で前輪を操向するハンドルバー4に取り付けられている。
【0012】
液圧マスタシリンダ1は、シリンダボディ11の上部にリザーバ12を一体に備えたリザーバ一体型で、シリンダボディ11には、車体取付ブラケット11aが一体に設けられ、該車体取付ブラケット11aと別途のホルダ13とで、アクセルグリップ5よりも車体内側のハンドルバー4を包持し、これら車体取付ブラケット11aとホルダ13とをボルトで締結して車体前部側に支持されている。シリンダボディ11の車体前部側には、板状のレバーブラケット11bが一体に突設され、該レバーブラケット11bには、操作レバー3がピボット14にて回動可能に取り付けられている。
【0013】
シリンダボディ11には、操作レバー3側へ開口した有底のシリンダ孔11cが形成され、シリンダ孔11cの開口側には、大径孔11dが連続して形成されている。シリンダ孔11cには、シリンダ孔底部側に第1シール溝11eが、シリンダ孔開口部側に第2シール溝11fが形成され、第1シール溝11eには第1カップシール15aが、第2シール溝11fには第2カップシール15bがそれぞれ嵌着されている。また、シリンダ孔11cの第1シール溝11eと第2シール溝11fとの間には、液室11gが形成され、該液室11gに、リザーバ12の貯液室12aの作動液を流通させる液通孔12bが連通している。シリンダ孔11cには、プランジャ16が移動可能に内挿されている。
【0014】
プランジャ16は、シリンダ孔11cに内挿される大径部16aと、大径孔11d側に突出する小径部16bとを備え、大径部16aと小径部16bとの間に形成された段部16cが、大径孔11dに装着されたストップリング18に当接することにより、プランジャ16の後退限が規制されている。大径部16aには、シリンダ孔底部側に開口する凹部16dが形成され、該凹部16dとシリンダ孔11cの底部との間に前記液圧室17が画成されると共に、シリンダ孔11cの底部には、液圧室17に連通するユニオン孔11hが形成されている。また、凹部16dの底面とシリンダ孔底部との間にはリターンスプリング19が設けられ、該リターンスプリング19によって、プランジャ16はシリンダ孔開口部側に付勢されている。さらに、前記凹部16dの開口側の周壁には、プランジャ16の非作動状態の初期位置で、前記周壁の内外を貫通し、液圧室17と液室11gとを連通する小径の連通ポート16eが周方向に複数形成されている。また、小径部16bは、外端部に操作レバー3の作用腕が当接する当接部16fが設けられると共に、当接部16fの近傍にシール装着溝16gが周設され、該シール装着溝16gと前記ストップリング18との間にダストシール20が装着されている。
【0015】
操作レバー3はアクセルグリップ5の車体前方に配設されるレバー本体3aと、該レバー本体3aの内側とプランジャ16との間に配設されるノッカー3bとから構成され、ノッカー3bに、プランジャ16を押動する作用腕3cが形成されている。また、レバー本体3aとノッカー3bとの間には、レバー本体3aとアクセルグリップ5との間に設定される握り代を拡縮調整できる握り代調整機構3dが設けられている。
【0016】
このように形成された液圧マスタシリンダ1は、
図1に示されるように、非作動時には、リターンスプリング19の弾発力によって、プランジャ16の連通ポート16eが第1カップシール15aよりもシリンダ孔開口部側に位置する初期位置に保持され、連通ポート16eを介して液圧室17と液室11gとが連通し、リザーバ12の貯液室12aと液圧室17との間を作動液が流通可能な状態となっている。
【0017】
作動時に、操作レバー3のノッカー3bの作用腕3cがプランジャ16をシリンダ孔底部側に押動すると、プランジャ16がリターンスプリング19を圧縮しながらシリンダ孔11c内をシリンダ孔底部方向へ前進し、連通ポート16eが第1カップシール15aを通過し、液圧室17と液室11gとの連通状態が遮断された時点から液圧室17に液圧が発生し始め、昇圧された作動液は、ユニオン孔11hからABS制
御装置を備えた液通路を介して、前輪ブレーキに供給される。
【0018】
制動を解除すると、リターンスプリング19の弾発力により、プランジャ16が初期位置まで復帰する。この時、リザーバ12の貯液室12aから、作動液が第1カップシール15aを撓ませながら第1シール溝11eを介して液圧室17に流入することにより、プランジャ16を良好に後退させることができる。
【0019】
本形態例の液圧マスタシリンダ1は、上述のように形成されていることにより、従来、前輪ブレーキ用のセンタポート式液圧マスタシリンダに用いられていた、ピストンの先端に設けられるバルブやバルブステムを省略することができることから、部品点数を減少させ、コストの削減化を図ることができる。また、バルブやバルブステムを省略できると共に、シリンダ孔底部とプランジャ16に設けた凹部16dとの間に液圧室17が画成されることから、シリンダボディ11の軸線方向の長さを短くすることができ、液圧マスタシリンダ1の車体への搭載性やレイアウト性の向上を図ることができる。さらに、操作レバー3を操作した後、急激に液圧が上昇することがないことから、操作フィーリングを良好に保つことができる。また、液圧室17と前輪ブレーキとを繋ぐ液通路に設けられた液圧制御装置に、液通孔12bと液室11gと複数の連通ポート16eと液圧室17とを介して、リザーバ12の貯液室12aから作動液を良好に補給することができる。さらに、プランジャ16のシリンダ孔開口部側の外端部に、操作レバー3のノッカー3bに設けた作用腕3cが当接する当接部16fが形成されていることにより、操作レバー3によってプランジャ16を良好に作動させることができる。
【0020】
尚、本発明の液圧マスタシリンダは、上述の形態例のように、操作レバーをレバー本体とノッカーとに分割し、握り代調整機構を備えたものに限らず、操作レバーを、プランジャを押動させる作用腕を備えた1本のレバー部材で形成したものでも良
い。
【符号の説明】
【0021】
1…液圧マスタシリンダ、2…液圧マスタシリンダ装置、3…操作レバー、3a…レバー本体、3b…ノッカー、3c…作用腕、3d…握り代調整機構、4…ハンドルバー、5…アクセルグリップ、11…シリンダボディ、11a…車体取付ブラケット、11b…レバーブラケット、11c…シリンダ孔、11d…大径孔、11e…第1シール溝、11f…第2シール溝、11g…液室、11h…ユニオン孔、12…リザーバ、12a…貯液室、12b…液通孔、13…ホルダ、14…ピボット、15a…第1カップシール、15b…第2カップシール、16…プランジャ、16a…大径部、16b…小径部、16c…段部、16d…凹部、16e…連通ポート、16f…当接部、16g…シール装着溝、17…液圧室、18…ストップリング、19…リターンスプリング、20…ダストシール