【実施例1】
【0011】
図1に実施例1の真空管の平面図、
図2に正面図、
図3に側面図、
図4に
図1のA−A線での断面図を示す。真空管100は、所定以上の温度で熱電子を放出する直線状に張られたフィラメント110と、フィラメント110と平行に配置されたアノード120−1,120−2と、フィラメント110とアノード120−1の間にアノードと対向するように配置されたグリッド130−1と、フィラメント110とアノード120−2の間にアノードと対向するように配置されたグリッド130−2とを備える。そして、フィラメント110とグリッド130−1,130−2の間隔が0.2mm以上0.6mm以下であることを(第1の)特徴とする。さらに、アノード120−1,120−2とグリッド130−1,130−2の間隔が0.15mm以上0.35mm以下であることを第2の特徴としてもよい。フィラメント110は、固有振動の基本周波数が3kHz以上であることを第3の特徴としてもよい。また、アノード120−1,120−2の両方は、平面基板上(ガラス基板125)の同一の面に形成され、アノード120−1とグリッド130−1との間隔は、アノード120−2とグリッド130−2との間隔と同じである。なお、
図1ではアノード120−1,120−2の位置が分かるようにグリッド130−1,130−2の一部を記載していない。実際の真空管100では、アノード120−1,120−2の上にメッシュ状のグリッド130−1,130−2(
図9参照)が存在するので、アノード120−1,120−2は見えにくい状態である。
【0012】
次に、上記の特徴を実現するための構造の具体例を説明する。
図5にアノード120−1,120−2と絶縁層をガラス基板上に形成した様子を示す。
図6はアノード120−1,120−2がガラス基板上に形成された様子を示す図、
図7は絶縁層の形状を示す図である。ガラス基板125は排気穴151を有しており、アノード120−1,120−2はガラス基板125の一方の面上に形成される。アノード120−1,120−2には、アノード端子121−1,121−2が接続されている。アノード120−1,120−2は、例えばアルミニウムの薄膜で形成すればよい。絶縁層126は、例えば低融点ガラスを用いればよく、アノード用開口部127−1,127−2と端子用開口部128−1,128−2を有している。真空管100は、ケース180とガラス基板125とを封着し、排気穴151から空気を抜くことで内部を真空にする。そして、排気穴151には、排気孔栓150がはめられる。
図5には示していないが、ガラス基板125のケース180と接触する部分に、封着用の低融点ガラスをさらに配置してもよい。また、外部との電気的な接触は端子190により行う。
【0013】
フィラメント110は直接型のカソードである。例えば、フィラメント110は、直流電流を流すことで650度程度に加熱すると熱電子を放出するように、酸化バリウムのコーティングを施せばよい。この例では、上記の「所定以上の温度」が650度であるが、650度に限定するものではない。
図8にフィラメント110に張力を与えるためのアンカー115の三面図(平面図、正面図、側面図)を示す。アンカー本体116の一部には板バネ117の一端が配置されており、板バネ117の他端がフィラメント固定部118である。アンカー115にはSUS(ステンレス鋼材)などを用いればよい。アンカー115はフィラメント支持部材111に取り付けられ、フィラメント110がアンカー115のフィラメント固定部118に溶接などによって固定される。
図4中の112は、溶接点を示している。フィラメント110とアノード120−1,120−2との間隔はフィラメント支持部材111の長さで決定され、フィラメント110の張力はアンカー115の板バネ117によって調整できる。
【0014】
図9にグリッドの形状の例を示す。グリッド130はメッシュ状であり、SUSなどで形成すればよい。上述のとおり、
図1ではアノード120−1,120−2を分かりやすく示すためにグリッド130の一部の記載を省略している。実際のグリッド130−1,130−2は、
図9に示したグリッド130である。また、グリッド130−1,130−2はグリッド支持部材132−1,132−2に固定されている。グリッド支持部材132−1,132−2の板厚によって、アノード120−1,120−2とグリッド130−1,130−2との間隔、フィラメント110とグリッド130−1,130−2との間隔が決められている。
【0015】
つまり、真空管100では、アノード120−1,120−2とグリッド130−1,130−2の間隔が0.15mm以上0.35mm以下であることは、グリッド支持部材132−1,132−2で実現している。そして、フィラメント110とグリッド130−1,130−2の間隔が0.2mm以上0.6mm以下であることは、フィラメント支持部材111とグリッド支持部材132−1,132−2で実現している。また、フィラメント110の固有振動の基本周波数が3kHz以上であることは、フィラメント110の材質、太さ、溶接点112間の長さ、アンカー115によって与えられる張力を調整し実現すればよい。なお、基本周波数は高い方が望ましく、10kHz以上に調整できればフィラメントの振動による雑音を人には聞こえなくできる。
【0016】
図10にゲッターリング140を示す。ゲッターリング140は、高周波誘導加熱によりフラッシュし、ケース180内の一部に金属バリウム膜を蒸着させることで、真空度を高めるもしくは真空度を保つ役割を果たす。ゲッターシールド142は、ゲッターリング140を、フィラメント110、グリッド130−1,130−2、アノード120−1,120−2に対して遮蔽するため部材である。蛍光表示管の場合には、ゲッターリングはケース内のどこに配置しても表示器の特性への影響は無視できるので、ゲッターリングの位置を特性の面から考慮する必要はなかった。しかし、2組のアノード120−1,120−2とグリッド130−1,130−2を、ステレオ信号用のアンプとして使用する場合、2組のアンプの特性を揃えるためにはゲッターリング140の影響を無視できないことが分かった。したがって、2組のアンプの特性をそろえるために、ゲッターリング140は、グリッド130−1,130−2のそれぞれから等距離に配置することが望ましい。
【0017】
図11に真空管100を用いた増幅回路の例を示す。フィラメント110は直流電圧源310(例えば0.7V)が接続され、熱電子を放出する所定の温度(例えば650度)まで加熱される。アノード120−1,120−2にはアノード電圧源320が抵抗330−1,330−2を介して印加される。そして、例えば、所定のバイアスが付加されたステレオの左チャンネルの信号v
Lがグリッド130−1に入力され、同じバイアスが付加されたステレオの右チャンネルの信号v
Rがグリッド130−2に入力される。この場合、アノード端子121−1の電圧V
Lが左チャンネルの出力、アノード端子121−2の電圧V
Rが右チャンネルの出力である。
【0018】
次に、本発明の特徴の必要性について説明する。一般的な蛍光表示管も、所定以上の温度で熱電子を放出する直線状に張られたフィラメントと、フィラメントと平行に配置されたアノードと、フィラメントとアノードの間にアノードと対向するように配置されたグリッドとを備える。ただし、一般的な蛍光表示管であれば、アノードとグリッドの間隔は0.5mm程度以上であり、フィラメントとグリッドの間隔は1.0mm程度以上である。また、フィラメントの固有振動の基本周波数は考慮しない。蛍光表示管の場合、ON,OFFの制御を行うので、グリッドの電圧を変化させたときに中途半端に電流が流れることを避けなければならない。そこで、上記のような寸法となっている。
図12に、蛍光表示管でのアノード電圧V
aと電流I
pとの関係をグリッドの電圧ごとに示す。
図12の線の横に示された数値がグリッドの電圧(ボルト)である。この実験に用いた蛍光表示管は、アノードとグリッドの間隔は0.5mm程度、フィラメントとグリッドの間隔は1.0mm程度である。アノード電圧V
aが10Vの場合、グリッドの電圧が4V付近では中途半端な電流が流れるが、グリッドの電圧が3V以下ならばOFF、5V以上ならばONである。また、グリッドの電圧を4V付近で変化させるとしても、線形性を得られる範囲が狭いと考えられ、アナログ増幅用には利用しにくいことが分かる。なお、アノード電圧V
aを30Vよりも高い領域に線形性が得られる領域が存在する可能性はある。しかし、アナログ増幅器として利用するためにはアノード電圧を常時印加しておく必要があるので、熱膨張の影響を考慮するとアノード電圧V
aを高くできない。補足すると、蛍光表示管として使用する場合は、人間の残像も利用するのでアノード電圧を常時印加しておく必要がない。つまり、アノード電圧を高くできないことも、蛍光表示管としての利用と対比してアナログ増幅器としての利用が難しい原因である。
【0019】
図13に、アノードとグリッドの間隔を0.3mm程度、フィラメントとグリッドの間隔は0.4mm程度にした場合のアノード電圧V
aと電流I
pとの関係をグリッドの電圧ごとに示す。この図から、バイアス電圧を3V、入力信号の振幅の最大値を1Vとすれば、アノード電圧V
aが4V程度以上の範囲でほぼ線形な増幅特性が得られることが分かる。したがって、アナログ増幅用の真空管として利用しやすい。本願で示す実験例は
図13だけであるが、フィラメント110とグリッド130−1,130−2の間隔が0.2mm以上0.6mm以下であれば、
図12を用いて説明した一般的な蛍光表示管に比べ、アナログ増幅用として利用しやすい真空管にできる。つまり、本発明の真空管の(第1の)特徴によれば、フィラメントからアノードへの電子の流れを、グリッドの電位によってアナログ的に変化させることができるのでアナログ増幅器として使用しやすい。
【0020】
また、アノード120−1,120−2とグリッド130−1,130−2の間隔が0.35mmを超える場合は、グリッド支持部材132−1,132−2を折り曲げ成形する必要がある。一方、アノードとグリッドの間隔が0.15mm以上0.35mm以下であれば、グリッド支持部材132−1,132−2は平板を抜き加工しただけで構成可能である。この場合はアノードとグリッドの間隔が、グリッド支持部材の板厚だけで決定されるため、高精度の間隔を維持できる。またグリッド支持部材132−1,132−2を折り曲げ成形した場合は、グリッドも振動やすくなりノイズの原因となる。グリッド支持部材132−1,132−2を平板打ち抜き加工とした場合は、グリッドの振動を抑えることができ、アナログ増幅用として利用しやすい真空管にできる。
【0021】
上述のとおり、本発明の真空管の第3の特徴によれば、フィラメントの振動の影響が人に聞こえやすい周波数よりも高いので、音響信号を増幅させるためのアナログ増幅器として使用しやすい。なお、フィラメント110の振動の影響を除去する機能を真空管の外部に持たせれば、第1の特徴のみでも音響信号にも使えるアナログ増幅器を構成することは可能である。
【0022】
[変形例]
図14に変形例の真空管の平面図、
図15に
図14のB−B線での断面図を示す。真空管200は、アノード120とグリッド130の組が1組だけである点、ゲッターリング140の位置、フィラメント110の固定方法が真空管100と異なる。
図14でも、アノード120の位置を分かりやすくするためにグリッド130の一部を記載していないが、グリッド130は
図9と同じである。真空管200では、アノード120とグリッド130の組が1組だけなので、特性を調整するためにゲッターリング140の位置を制限する必要がない。そこで、ゲッターリング140は、真空管200の端の方にゲッターリング支持部材242に保持された状態で設置されている。
【0023】
真空管200ではアンカー115は一方のフィラメント支持部材111のみに取り付けられている。アンカー115が取り付けられていないフィラメント支持部材111の場合は、フィラメント支持部材111のフィラメント固定部114にフィラメント110を溶接などによって固定すればよい。なお、真空管100でもこのように片方のみにアンカー115を取り付けてもよいし、真空管200でも両方にアンカー115を取り付けてもよい。
【0024】
真空管100と共通する記載になるが、真空管200も、所定以上の温度で熱電子を放出する直線状に張られたフィラメント110と、フィラメント110と平行に配置されたアノード120と、フィラメント110とアノード120の間にアノードと対向するように配置されたグリッド130を備える。そして、フィラメント110とグリッド130の間隔が0.2mm以上0.6mm以下であることを第1の特徴とする。そして、アノード120とグリッド130の間隔が0.15mm以上0.35mm以下であることを第2の特徴とする。さらに、フィラメント110は、固有振動の基本周波数が3kHz以上であることを第3の特徴とする。得られる効果は、実施例1と同じである。