(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248056
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】回転方向反転装置
(51)【国際特許分類】
F16H 3/60 20060101AFI20171204BHJP
F16H 35/00 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
F16H3/60
F16H35/00 B
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-32033(P2015-32033)
(22)【出願日】2015年2月20日
(65)【公開番号】特開2016-153678(P2016-153678A)
(43)【公開日】2016年8月25日
【審査請求日】2016年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】オリジン電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100102417
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100194629
【弁理士】
【氏名又は名称】小嶋 俊之
(72)【発明者】
【氏名】飯山 俊男
(72)【発明者】
【氏名】橋本 光雄
(72)【発明者】
【氏名】吉田 拓峰
【審査官】
高橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭59−151650(JP,A)
【文献】
特開昭53−140463(JP,A)
【文献】
特開2001−234990(JP,A)
【文献】
特開2012−031986(JP,A)
【文献】
実開昭48−048082(JP,U)
【文献】
実開昭61−085755(JP,U)
【文献】
特開昭54−052268(JP,A)
【文献】
特開2004−239326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/60
F16H 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と、これと同軸に配置された出力軸とを備え、入力軸の回転を間欠的に反転させて出力する回転方向反転装置であって、
前記出力軸と前記入力軸との間には遊星歯車及びそのキャリアを備えた遊星歯車機構が介在され、
前記入力軸は前記遊星歯車機構のリングギアに結合され、前記出力軸は前記遊星歯車機構の太陽歯車と結合されると共に、前記入力軸と前記キャリアとは、前記キャリアに所定値以上の拘束トルクが作用したときに滑りを生じるトルク制限装置を介して連結されており、且つ、
前記入力軸及び出力軸とは別の軸上には制限体が設置され、前記制限体と前記入力軸とは伝達装置によって連結され、前記制限体及び前記キャリアには互いに係合する係合部が形成されており、
前記係合部は、前記キャリアの外周面に形成された少なくとも1個の係合突起と、前記制限体の外周面に形成された少なくとも1個の被係合突起とから構成され、前記係合突起と前記被係合突起とが係合状態にないときは、前記出力軸が前記キャリア及び前記入力軸と一体となって回転し、前記係合突起と前記被係合突起とが係合状態にあるときは、前記キャリアに所定値以上の拘束トルクが作用して前記キャリアの回転数が前記入力軸よりも低下し、前記出力軸が前記入力軸に対して反対方向に回転する、
ことを特徴とする回転方向反転装置。
【請求項2】
前記入力軸は中間歯車を備え、
前記伝達装置は、前記中間歯車と噛み合う伝達歯車とこの伝達歯車の回転を前記制限体に伝達する伝達軸を備える、請求項1に記載の回転方向反転装置。
【請求項3】
前記トルク制限装置には、前記入力軸に配設された押圧部と前記押圧部を前記キャリアに押圧するばねとを設け、前記入力軸と前記キャリアとは前記押圧部と前記キャリアの間の摩擦力によって連結される、請求項1又は2に記載の回転方向反転装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力軸の回転を間欠的に正逆反転して出力軸に伝達する回転方向反転装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モーターなどの駆動源から機械装置あるいは作業機器等を駆動する動力伝達系では、駆動する機器の特性に対応するよう各種の伝達装置が使用される。このような伝達装置の中には、入力軸(駆動側)から出力軸(従動側)への動力伝達に際して、所定の条件の下で回転方向を反転させる回転方向反転装置がある。回転方向反転装置は、例えば、外部から所定の入力がない場合には出力軸は入力軸と同一方向に回転し、所定の入力があった場合に、出力軸の回転を反転して入力軸と逆方向に回転させる機能を備えている。
【0003】
回転方向反転装置は、一例として、パチンコのような遊戯機器において、モーターなどの駆動源により遊戯盤上で回転、揺動、又は上下動の如き反復動作をする役物を作動させるために適用することができる。これでは、回転方向反転装置に所定の入力を与えることにより、役物の動作方向が反転するよう構成してあり、こうした間欠的な反転動作によって、遊戯機器の遊戯者の目を楽しませることを企図したものとなっている。
回転方向を反転するには、一般的には、センサーとステッピングモーターとを組み合わせ、所定の入力信号をセンサーが検知すると、この信号に基づきステッピングモーターの回転方向を反転させることにより行われている。しかしながら、この方法にあっては、モーターの回転方向の反転は、モーターの回転を減速して一旦停止した後に反対方向に回転させて行うことから、役物の反転動作に適用したときは、反転動作が緩慢となって遊戯者の目を惹く面白さが減殺される。
【0004】
遊星歯車機構を用いて、一方方向に連続して回転する入力軸の回転を間欠的に反転させて出力軸に伝達することのできる回転方向反転装置が特許文献1に示されており、これについて
図5を用いて説明する。
図5(a)は、回転方向反転装置の全体的な構造を示す断面図であり、
図5(b)は、その分解斜視図であり、
図5(c)は、回転方向反転装置におけるクラッチ手段の断面図である。
図5(a)及び
図5(b)に示すとおり、
図5の回転方向反転装置は同軸に配置された入力軸ISと出力軸OSと遊星歯車機構PSを備えている。入力軸ISは太陽歯車SGが形成された軸部材JBに接続され、出力軸OSにはリングギアRGが形成されている。遊星歯車機構PSは遊星歯車PGとキャリアCAを含んでおり、遊星歯車PGは出力軸OSの内側で太陽歯車SGとリングギアRGと噛み合うと共にキャリアCAによって回転可能に軸支されている。
図5の回転方向反転装置には、遊星歯車機構PSのキャリアCAの回転を停止させるためのクラッチ手段CLが配設されている。クラッチ手段CLは、軸部材JBと一体となって回転する補助部材HBと、補助部材HBの外側においてキャリアCAと一体となって回転する支持枠SWと、補助部材HBと支持枠SWとの間の楔形空間K1及びK2(
図5(c)参照)に配設される複数個のローラピンRPとを有する。キャリアCAは、制御歯車CGと一体的に回転するよう接続され、制御歯車CGの近傍には、制御ピンCPにより制御歯車CGの動きを拘束する制御装置CMが配設される。制御歯車CGには突起Tが形成されており、この突起TがローラピンRPの間に挿入されている。
【0005】
入力軸ISが回転すると、入力軸ISと一体に接続された軸部材JBと共に太陽歯車SG及び補助部材HBも入力軸ISと同一方向に回転する。
制限装置CMに入力信号が入力されていない状態にあっては、制御ピンCPは突出しておらず制御歯車CGは自由に回転することができる。そのため、入力軸ISの回転に基づく補助部材HBの回転により、楔形空間K1又はK2のいずれかにおいて、ローラピンRPが楔形空間の噛み込み方向に移動して、支持枠SWと補助部材HBと一体となって回転させる(クラッチ係合状態)。これにより、支持枠SWと一体のキャリアCA及び制御歯車CGは、太陽歯車SGと一体となって回転し、遊星歯車PGと噛み合う出力軸OSも入力軸ISと一体となって同一方向に回転する。
制限装置CMに入力信号が入力された場合は、制御ピンCPが突出して制御歯車CGの回転が固定され、制御歯車CGと一体に接続されたキャリアCAの回転も固定される。このとき、一体で回転する支持枠SW及び補助部材HBが、固定された制御歯車CGの突起Tに対して相対的にわずかに回転すると、突起Tに押されてローラピンRPの噛み込みが外れ、補助部材HBが支持枠SWと分離して回転可能となる(クラッチ非係合状態)。この結果、太陽歯車SGとリングギアRGとは、固定軸の周りを回転する遊星歯車PGにより互いに反対方向に回転し、出力軸OSが入力軸ISと反対方向に回転することとなる。
なお、こうした回転方向反転装置は、パチンコのような遊戯機器に限らず、両面印刷ができる複写機の用紙送り装置に利用することも可能であって、特許文献1には、
図5の回転方向反転装置を複写機用給紙装置に適用する旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−275150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図5に示す回転方向反転装置は、センサーとステッピングモーターとを組み合わせる回転方向反転装置と比較すると、ステッピングモーターなどの高価な部品を必要とせず、確実に出力軸OSの回転方向を反転することができる安価でコンパクトな機械部品であるけれども、用途によってはいまだ改良すべき余地が残されている。本発明は、
図5のような機械的な回転方向反転装置の、以下に述べる課題を解決するものである。
まず、
図5の回転方向反転装置では、キャリアCAの固定又は回転を切り換えるための制御ピンCPの進退は、制御装置CMに電気信号である入力信号を入力することにより行われる。そのため、制御装置CMが電気的デバイスとなり、この制御装置CMに電源を供給する必要があり、配線等の煩雑な設備を設けなければならない。そして、キャリアCAの回転又は停止を可能とするために設置されたクラッチ手段CLは、楔形空間に複数個のローラピンRPとばねを配置した複雑なもので、装置全体の組み立てが煩雑となると共に部品点数の増加により製造コストが増加する虞がある。
【0008】
また、
図5の回転方向反転装置においては、反転させたときの変速比(出力軸OSの回転数/入力軸ISの回転数)は、キャリアCAが固定されるので、太陽歯車SGとリングギアRGの歯数比によって一義的に定まり、自由な設定が困難である。太陽歯車SGの歯数は、リングギアRGよりも相当小さくせざるを得ないから、反転する出力軸OSの回転数(絶対値)は、入力軸ISの回転数よりも実質上大幅に低下する。そのため、パチンコの役物を駆動するときには、反対方向への作動速度が緩慢となってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題に鑑み、本発明は、遊星歯車機構を利用する回転方向反転装置において、キャリアの回転を入力軸の回転と連動させながら簡易な機構によって制御し、入力軸と同期した間欠的な正転・反転の反復作動が可能で、しかも、出力軸が反転する際の回転数の自由な設定が容易な、低コストの装置を提供することを目的とするものである。すなわち、本発明は、
「入力軸と、これと同軸に配置された出力軸とを備え、入力軸の回転を間欠的に反転させて出力する回転方向反転装置であって、
前記出力軸と前記入力軸との間には遊星歯車及びそのキャリアを備えた遊星歯車機構が介在され、
前記入力軸は前記遊星歯車機構のリングギアに結合され、前記出力軸は前記遊星歯車機構の太陽歯車と結合されると共に、前記入力軸と前記キャリアとは
、前記キャリアに所定値以上の拘束トルクが作用したときに滑りを生じるトルク制限装置を介して連結されており、且つ、
前記入力軸及び出力軸とは別の軸上には制限体が設置され、前記制限体と前記入力軸とは伝達装置によって連結され、前記制限体及び前記キャリアには互いに係合する係合部が形成さ
れており、
前記係合部は、前記キャリアの外周面に形成された少なくとも1個の係合突起と、前記制限体の外周面に形成された少なくとも1個の被係合突起とから構成され、前記係合突起と前記被係合突起とが係合状態にないときは、前記出力軸が前記キャリア及び前記入力軸と一体となって回転し、
前記係合突起と前記被係合突起とが係合状態にあるときは、
前記キャリアに所定値以上の拘束トルクが作用して前記キャリアの回転数が前記入力軸よりも低下し、前記出力軸が前記入力軸に対して反対方向に回転する」
ことを特徴とする回転方向反転装置となっている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の回転方向反転装置は、同軸に配置された入力軸と出力軸を備えており、入力軸と出力軸との間には、遊星歯車とそのキャリアを備えた遊星歯車機構が介在されている。入力軸は遊星歯車機構のリングギアと結合し、出力軸は遊星歯車機構の太陽歯車と結合すると共に、入力軸とキャリアとはトルク制限装置を介して連結される。入力軸及び出力軸とは別の軸上に制限体を設置し、制限体と入力軸とを伝達装置で連結する。この制限体には、キャリアと互いに係合する係合部が形成してある。
キャリアと制限体の係合部が係合状態にないときは、キャリアに拘束力が作用しないため、入力軸とキャリアとは、トルク制限装置による摩擦力で連結された状態で一体となって回転する。この場合にあっては、遊星歯車も自転することなくキャリア及び入力軸と一体となって回転し、遊星歯車と噛み合う太陽歯車を備える出力軸も、キャリア及び入力軸と一体となって同一方向に回転する。
【0011】
一方、キャリアと制限体の係合部が係合したときは、制限体が、伝達装置を介して入力軸とは反対方向に入力軸よりも低速(絶対値)で回転駆動されているため、キャリアに拘束力が作用してトルク制限装置に滑りが生じ、キャリアの回転数は、制限体の回転数に規制されるようになり、入力軸の回転数よりも低下する。その結果、入力軸の回転によって遊星歯車が公転すると同時に自転することとなり、遊星歯車の自転により、太陽歯車の固定された出力軸が入力軸の回転に対して反対方向に回転する。
ちなみに、遊星歯車機構においては、太陽歯車の回転数nSG、リングギアの回転数nRG及びキャリアの回転数nCAの間に次の関係がある。
nRG+γ・nSG=(1+γ)nCA (式1)
γ=ZSG/ZRG ZSG:太陽歯車の歯数、ZRG:リングギアの歯数
本発明の回転方向反転装置では、リングギアが入力軸と一体に回転すると共に太陽歯車が出力軸と一体に回転する。したがって、出力軸を反対方向に回転させる(nSGが負)には、キャリアの回転数nCAは、リングギアの回転数nRG(入力軸の回転数)よりも少なくとも小さな値、つまり低速でなければならない。
【0012】
このように、本発明の回転方向反転装置においては、回転方向を反転するためのキャリアの減速は、伝達装置を介して入力軸と連動する制限体との係合により、機械的な手段を用いて行われる。そのため、出力軸の正転・反転の制御に何ら電気的デバイスを用いる必要がなく、製造コストを低減することができると共に配線等の煩雑な準備をする必要がない。
図5の回転方向反転装置のような複雑なクラッチ手段を設ける必要もなくなる。
また、回転方向を反転したときの出力軸の回転数は、式1に示すとおり、キャリアの回転数に応じて変化する。キャリアの回転数は、キャリアと係合する制限体の回転数などに応じて変化するので、逆転時の出力軸の回転数は、制限体と入力軸との間の伝達装置における変速比によっても変化する。そのため、出力軸が反転するときの回転数の自由な設定が容易であり、入力軸よりも高速(絶対値)で回転させることもできる。係合部を設けた制限体が入力軸と連動していることから、正転・逆転の反復作動を入力軸と同期させることが容易であると共に、制限体の係合部を断続して複数設けることにより、複雑な正転・逆転の反復作動を容易に行わせることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の回転方向反転装置の実施例を示す構造図である。
【
図2】
図1に示す回転方向反転装置においてキャリアと制限体の係合部が係合状態にない状態の作動を説明する図である。
【
図3】
図1に示す回転方向反転装置においてキャリアと制限体の係合部が係合状態にある状態の作動を説明する図である。
【
図4】本発明の回転方向反転装置の別実施形態を示す図である。
【
図5】従来の回転方向反転装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて、本発明の回転方向反転装置について説明する。
図1には、本発明の回転方向反転装置の実施例の全体構造を示し、その作動の説明図を
図2及び
図3に示す。
図4は、複数の係合部を設けた制限体とキャリアとを示す図である。
【0015】
図1の縦断面図に示すように、本実施例の回転方向反転装置は、共通の回転軸oを有する入力軸1と出力軸2を備え、この入力軸1と出力軸2との間には遊星歯車3とキャリア4を備えた遊星歯車機構が介在している。
入力軸1は、回転軸oを中心とすると共に回転軸oと直交する2側面を備えた円板11を有し、この円板11の片側面にはインボリュート歯型のリングギアRG(X2−X2断面参照)が結合されている。円板11の他側面の中央には、後述する伝達装置7と協働するインボリュート歯型の外歯歯車からなる中間歯車MG(X1−X1断面参照)が形成されている。中間歯車MGの中心には、回転軸oと平行に延び駆動源に接続される軸部材12が連結される。
出力軸2には、入力軸1のリングギアRGの内側において回転軸oを中心として回転するインボリュート歯型の太陽歯車SGが結合されている。この太陽歯車SGの入力軸1とは反対側面には、回転軸oと平行に延びる軸部材21が連結される。
【0016】
遊星歯車機構の遊星歯車3は、入力軸1と出力軸2との間において、リングギアRG及び太陽歯車SGと噛み合うように回転可能に配置された外歯歯車である。図示の実施形態では、遊星歯車3は回転軸oを中心として周方向に等角度間隔で3個配設される。夫々の遊星歯車3の中心には貫通孔31が形成されている(X2−X2断面参照)。
キャリア4は、回転軸oを中心に回転可能に配置されていて、回転軸oと直交する2側面を備えた円板41を有し、この円板41に形成された中央孔には、出力軸2の軸部材21が挿通される。円板41の入力軸1側の側面には、回転軸oと平行に延びるキャリア軸42が形成されており、このキャリア軸42は、遊星歯車3の貫通孔31に挿通され、遊星歯車3がキャリア4により回転可能に支持される。円板41の外周面には、後述する係合部を構成する、径方向外方に突出する係合突起43が形成されている(X3−X3断面参照)。
【0017】
本発明の回転方向反転装置においては、入力軸1とキャリア4とはトルク制限装置5を介して連結されると共に、入力軸1及び出力軸2の回転軸oと別の軸上には、伝達装置7により入力軸1と連結する制限体6が設置されている。
【0018】
トルク制限装置5は、図示の実施形態においては、入力軸1のリングギアRGの外周面に、周方向に等角度間隔をおいて4個配設される。
図1のトルク制限装置拡大図に示すとおり、トルク制限装置5は、押圧部51とばね52、更にこの押圧部51及びばね52を収容する外筒53を備えており、外筒53は、リングギアRGの外周に配設される。先端が半球状の押圧部51は、ばね52により付勢されてキャリア4の円板41に圧接され、キャリア4に対して摩擦力を及ぼす。このようにすることで、トルク制限装置5を、簡易な構造で入力軸1とキャリア4との対向する面の間に設置することが可能となる。さらに、この押圧部51の材料やばね52のばね定数を変更することにより、押圧部51とキャリア4との間の摩擦力を変えることが可能であり、出力軸2に作用する負荷トルクに応じて摩擦力を最適化することができる。
キャリア4に作用するトルク(回転を拘束するトルク)が所定値以下である場合には、押圧部51とキャリア4との間には滑りが生じず、キャリア4は、トルク制限装置5の摩擦力によって入力軸1と一体に回転する。このときは、キャリア4に軸支された遊星歯車3が自転することはなく、出力軸2も入力軸1と一体に同一方向に回転するけれども、キャリア4を拘束するトルクが摩擦力によるトルクを超えると、キャリア4は入力軸1と独立して回転することとなる。この摩擦力は、ばね52のばね力や押圧部51とキャリア4との接触面積によって増減し、これらを変更すると、滑りが生じるトルクを自由に設定できる。
本実施形態では、トルク制限装置5は、入力軸1とキャリア4との間に摩擦力を作用させるものとしているが、永久磁石の磁力等を作用させるものに代えてもよい。
【0019】
回転軸oと別の軸上に設置された制限体6は、キャリア4の回転を機械的に規制する目的で設けられたものである。X3−X3断面に示すとおり、制限体6は、キャリア4の円板41と同一の軸方向位置において回転する、円板41と同一径の円板であり、この制限体6の外周面には、キャリア4の円板41に形成された係合突起43と共に係合部を構成する被係合突起61が形成されている。制限体6は、伝達装置7によって入力軸1と連結される。伝達装置7は、入力軸1に設けた中間歯車MGと噛み合う伝達歯車DGと、この伝達歯車DGの回転を制限体6に伝達する伝達軸71を備えている。伝達装置7をこのようにすることで、入力軸1と制限体6との間で滑りが生じないため、制限体6の動きを入力軸1の回転と同期させながら、入力軸1の回転を確実に制限体6に伝達することができる。また、伝達歯車DGは、中間歯車MGよりも歯数の多い外歯歯車であり、そのため、入力軸1の回転数に対して制限体6の回転数(絶対値)が小さくなって減速される。
【0020】
制限体6の被係合突起61がキャリア4の係合突起43と係合していないときは、キャリア4には拘束するトルクが作用しないが、キャリア4の回転数と制限体6の回転数とに差があると、被係合突起61が係合突起43に周期的に係合するようになる。制限体6の回転数がキャリア4の回転数より小さいと、係合状態では、キャリア4の回転数が制限体6に規制されて低下する結果、入力軸1の回転によって遊星歯車3が公転すると同時に自転する。この遊星歯車3の自転により、太陽歯車3の固定された出力軸2が入力軸1の回転に対して反対方向に回転する。このように、出力軸2を反転する際にキャリア4と制限体6とを係合状態にする係合部を、キャリア4の外周面に形成された少なくとも1個の係合突起43と、制限体の外周面に形成された少なくとも1個の被係合突起61とから構成するようにしたことで、キャリア4に支持される遊星歯車3の構成などにほとんど影響を及ぼすことなく、係合部を形成することが可能であり、また、複雑な正転・逆転の反復作動を行わせるために、複数の係合部を形成することが容易にできる。
【0021】
ここで、
図1の実施形態の回転方向反転装置の作動について、
図2及び
図3を参照して説明する。
図2の断面X1−X1等における各矢印に示すように、入力軸1が、例えば駆動源のモーターにより時計方向(入力軸方向から見て)に回転すると、リングギアRGも時計方向に回転すると共に、入力軸1に形成された中間歯車MGと噛み合う伝達歯車DGは反時計方向に回転する。伝達軸71によって伝達歯車DGと接続された制限体6も、伝達歯車DGと一体となって反時計方向に回転する。この実施形態においては、中間歯車MGの歯数が15、伝達歯車DGの歯数が60であるので、伝達歯車DGの回転数、つまり制限体6の回転数(絶対値)は入力軸1の1/4となる。
【0022】
キャリア4と制限体6の係合部が係合状態にないとき、即ち、キャリア4の係合突起43と制限体6の被係合突起61とが当接していないとき(
図2)は、キャリア4は、トルク制限装置5の摩擦力により入力軸1と一体となって回転する。キャリア4と入力軸1とが一体となって回転する場合、キャリア軸42によって軸支されると共にリングギアRGと噛み合う遊星歯車3は、自転することなく入力軸1及びキャリア4と一体となって公転する。遊星歯車3と噛み合う太陽歯車SGが形成された出力軸2も、入力軸1及びキャリア4と一体となって入力軸1の回転方向と同一方向に回転する。
【0023】
上記のとおり、キャリア4の係合突起43と制限体6の被係合突起61とが当接していないときは、キャリア4が入力軸1と一体に回転するが、制限体6の回転数は入力軸1の1/4であるので、キャリア4の係合突起43が制限体6の被係合突起61に追いつく結果、
図3の断面X3−X3に示すとおり、両方の突起が当接する。このように、両方の突起が当接して係合状態となると、キャリア4には制限体6からの拘束トルクが作用してトルク制限装置5の押圧部51とキャリア4との間に滑りが生じ、キャリア4は、制限体6の回転数と同一の回転数、つまり入力軸1の1/4の回転数で回転することとなる(制限体6はキャリア4の円板41と同一径)。
【0024】
入力軸1は、
図3の断面X2−X2に示す遊星歯車機構のリングギアRGに結合され、リングギアRGは、キャリア4に軸支される遊星歯車3を介して、出力軸2に固定された太陽歯車SGと噛み合う。キャリア4が入力軸1の1/4の回転数で回転するときは、この回転数差に起因して、遊星歯車3はキャリア軸42の周りを矢印に示すとおり時計方向に自転する。遊星歯車3の自転により、太陽歯車SGに固定された出力軸2が入力軸1の回転に対して反対方向に回転する結果となる。
この実施形態では、リングギアRGの歯数が48、太陽歯車SGの歯数が24であり、上述の式1におけるγの値は1/2である。したがって、出力軸2(太陽歯車SG)の回転数は、式1により算出されるとおり、入力軸1の回転数の−5/4倍となる。つまり、
図3のX3−X3断面に示すように、キャリア4と制限体6の回転数差に起因して両方の突起が当接すると、出力軸2は、入力軸1の回転方向とは反対方向に5/4倍に増速されて回転する。出力軸2の反転状態は、連続的に回転するキャリア4と制限体6の運動により、両方の突起が分離するまで継続する。
【0025】
このように、本発明の回転方向反転装置では、反転作動が、入力軸と連動する制限体とキャリアとの係合により行われるため、電気的デバイスを用いる必要がないと共に、駆動源であるモーター等を逆転する必要もなく、迅速な反復作動が可能である。また、回転方向を反転したときの出力軸の回転数は、遊星歯車機構のリングギアと太陽歯車との歯数比のみならず、制限体と入力軸との間の伝達装置の変速比によっても変化するので、出力軸が反転するときの回転数の自由な設定が容易である。
【0026】
図4には、キャリア4と制限体6との外周に、夫々複数の係合突起43及び被係合突起61とを形成した別実施形態を示す。こうすると、制限体6が1回転する間に、係合突起43と被係合突起61とが当接・分離を繰り返し、出力軸2が複雑な正転・逆転の反復作動を行う。この反復作動は、一見ランダムな意外性のある動作であって、本発明の回転方向反転装置をパチンコなどの遊戯機器に適用したときには、遊戯者の目を楽しませることとなる。
【0027】
以上詳述したように、本発明の回転方向反転装置は、入力軸と出力軸との間に遊星歯車機構を介在させ、遊星歯車機構のキャリアと入力軸とをトルク制限装置により連結すると共に、キャリアの回転を減速する制限体を設け、制限体とキャリアが係合状態にあるときは、出力軸を入力軸に対して反対方向に回転させるものである。上記の実施態様においては、入力軸に遊星歯車機構のリングギアを設け出力軸に太陽歯車を設け、駆動モーター等により入力軸側から駆動しているが、逆に、出力軸側から駆動して入力軸に動力伝達するようにしてもよい。また、入力軸と制限体とを連結する伝達装置にチェーン或いはベルトを用いるなど、上記実施例に対し各種の変形が可能であるのは明らかである。
【符号の説明】
【0028】
1:入力軸
2:出力軸
3:遊星歯車
4:キャリア
43:係合突起
5:トルク制限装置
51:押圧部
52:ばね
6:制限体
61:被係合突起
7:伝達装置
RG:リングギア
MG:中間歯車
SG:太陽歯車
DG:伝達歯車